力抜ける内容になってるよね……大丈夫かな……?
結局あれから鯉住君は、午前中いっぱいこってりと絞られてしまった。時間にして1時間。研修の打ち合わせにかかった時間と同じくらいだった。
幸い大和は切り替えが早いほうらしく、聞きたいこと聞いて言いたいこと言ったら、機嫌が良くなったようだ。店を出てきた現在、これからお楽しみの街歩きとあって、彼女は笑顔に戻っている。
対照的に、鯉住君はそんなに切り替えがうまくないので、遠い目でげっそりしている。結構な割合で自業自得なので、仕方ない気もするが。
「さ! それじゃやるべきこともやっちゃいましたし、これからはフリーですね! どこに行きましょうか? ウフフ!」
「そ、そうですね……
大和さんは行きたいところってあります?」
「うーん……なかなかひとりで遊ぶことはないですし、街に出ることもすごく少ないんですよ。
だから行きたいところって言われても、すぐに思いつかないですね」
「そうですか。……それじゃ、俺が気になってるところ行ってもいいです?」
「ええ。構いませんよ!
ちなみにどこに行こうと思ってるんです?」
「大和さんの嗜好に合うか、少し不安ですが……
ちょうど今、映画館でネイチャー系のドキュメンタリー作品を放送してるみたいなんですよ。
深海棲艦が現れる前に撮られた海の生き物の映像が、たくさん流れるやつです」
「へぇ。そんな映画があるんですねぇ」
「昔からそういうネイチャー系の映像を見て育ったので、動物とか魚が好きになっちゃいまして。
今は昔と違って、一般人が海に出ることができないので、そういった映像は本当に貴重なんですよね。だから10年も前の映像なのに、今も映画館で放映されてるんだとか」
「私たちは毎日海に出てますけど、そういった自然の素晴らしさを感じられることは少ないですからね」
「まぁ、目的が目的ですもんね。いつもありがとうございます。
……そういうことで、大迫力の映像と音響で見てみたいなぁ、なんて思ってたんですよ。
クジラがジャンプする姿とか、海の中をペンギンが飛ぶように泳ぐ映像とか、深海の変わった姿の生き物も見れますよ」
「すごい! 面白そうですね!
それじゃ今日は一緒に映画を見ましょうか!」
「よかった。付き合っていただいて、ありがとうございます。
せっかく都会の横須賀に行くんだし、どこかで行きたいな、とは思ってたんですよ」
自然な流れで、男女ふたりで映画を見に行くことにした、鯉住君と大和。誰がどう見てもデートにしか見えないが、本人たちはあんまりそのつもりがないようだ。やっぱりこのふたり、結構なぽんこつ気質である。
ニコニコ笑顔で楽しそうなふたりは、やっぱりカップルにしか見えなかったようで……映画館へ徒歩で向かっている最中に、結構な頻度で周りからチラチラ見られていた。
長身ですっごい美人な女子と、そこまでイケメンというわけではないけど、そこそこ高身長、引き締まったカラダの、笑顔でいい表情してるサワヤカ系男子である。なかなかしっくりくる組み合わせ。男性からも女性からも、うらやましいものを見る目で見られていたとか。
しかし、やっぱりというか、そのことにもふたりは気づいていなかった模様。
あくまで上司と部下という前提があるから、そういう関係という認識で固まっちゃってるのだ。ふたりしてクソ真面目でアタマかっちかちなのである。
・・・
映画鑑賞後
・・・
「うーん、よかった!
やっぱり映画館で観ると、迫力が違うなー!」
「そうですね! すごく楽しかったです!
特にあのペンギンのヒナがよちよち歩いてるの! かわいくってかわいくって!!」
「ホントですよね! あ、ショップでペンギンのぬいぐるみ売ってますよ! 買ってきましょう!」
「あ、カワイイ! 買いましょう買いましょう!」
鯉住君と大和は、ふたりしてテンションアゲアゲになっちゃっている。
映像と音響が美しかったのもそうだが、映画館という特別な空間にワクワクして舞い上がっちゃっている模様。普段遊び慣れてないせいで、こういった些細なことでも楽しめるようだ。
「いやー、すごく楽しかったですけど、まだ時間ありますね。
映画館の隣にカフェがあったので、そこでゆっくりしていきます? それとも他に行ってみたいところできました?」
「いえ、それで大丈夫です! それじゃカフェで映画の感想の言い合いっこしましょう!
あ、そうだ! パンフレットも買っていかないと!」
「そうですね! それ大事です! いやー、楽しいなぁ!」
自然ドキュメンタリー映画を観たという割には、なんかテンションが高すぎる気がしないでもない。よっぽど娯楽に飢えているのか、それとも、お互い相性が良すぎて、些細なことでも楽しんじゃえるのか。
事の真相はわからないが、とにかくふたりはカフェに入り、パンフレットを開きながら楽しそうに話し始めた。ニッコニコである。
そんな感じでふたりで時間を過ごしていると、そこに声をかける者が。
「……あのー……」
「……ん? ええと、どうかしま……あれ!?」
「あ、やっぱりそうだ。久しぶりねー、龍ちゃん」
「おー……まさかこんなところでバッタリ会うなんて……
久しぶりだね、かじちゃん」
鯉住君と大和の隣の席に座っていたのは、これまたふたり連れの大学生といった雰囲気の女性たちだった。
女学生がふたりで来ているだけなら、オシャレなカフェなので珍しくないのだが……なんと偶然にも、鯉住君がよく知る相手だったのだ。
彼女の名前は『寺戸果実菜(てらとかじな)』。
鯉住君が小さい時によく面倒見ていた妹分。その姉のほうである。
そしてもうひとりは……
「お久しぶりです。龍さん」
「ええと……南ちゃん、で、合ってるかな?」
「はい。最後にお会いしたのは、高校生の時でしたでしょうか」
「あー、そうそう。懐かしいねぇ」
彼女は果実菜の昔からの友達である、『岸畑南(きしはたみなみ)』。今は同じ大学に通っており、学年も一緒である。
鯉住君としても、妹分の果実菜と一緒によく遊んでいたので覚えている。果実菜のいわゆる幼馴染というやつだ。
とはいえそれもずいぶん昔の話なので、パッと見ただけではそうだとわからなかったのだが。
「龍太さん、こちらのおふたりはどちら様ですか? 知合いですか?」
「あぁ、実はかくかくしかじかで……」
「まるまるうまうま、と。そうだったんですか。……すごい偶然ですね」
「まったくその通りで……」
まさかほとんどない外出のタイミングで、昔からの知り合いに遭遇するとは……なんて驚く鯉住君である。
確かに彼女たちが通う大学は横浜にあるうえ、横須賀は横浜と並ぶ神奈川県の2大都市であり、物理的に距離も近い。近辺の住人は休日になれば、そのどちらかまで遊びに出かけることは多い。
こうして偶然顔合わせしたのも、おかしくはないと言えばおかしくはないのかもしれない。
「あ、もしかして龍ちゃん、デート中だった? ゴメンね」
「ちち、違いますよ!? デートだなんてそんな!!」
「こら、大人をからかっちゃダメでしょ。
こちらは大和さん。俺の上司で、日本海軍内でもすごく重要な位置にいる方だよ。
今日はお仕事で一緒に来て、それが終わったから少し休憩してるだけなの」
「……ふーん。そうなの?
ねぇ、南はどう思う? なんとか言ってやってよ」
あきれながら鯉住君にジト目を向ける果実菜。彼が昔っから女性への接し方がなっていないのは知っているので、今更ツッコミを入れたりはしないようだ。
大和は顔を真っ赤にして両手をぶんぶん振りながら否定しているが、どう見てもそれは照れ隠しである。
「大和……」
「南? どしたの?」
「……もしかしてですけど、大和というのは苗字ではなく……
貴女は戦艦『大和』の艦娘では?」
「え? え、えぇ。そうですけど……」
「ああ、やっぱり。一度写真でお見かけしたので、そうじゃないかなと思ったんです。
……いつもおじいさまがお世話になっております」
「そうだったんですね。……ん? おじいさま?」
「はい。おじいさまの秘書艦をされていると、お聞きしていますので」
「え? え?」
いきなり予想外の接し方をされて、大和はとっても困惑している。そしてそれは鯉住君にしても同じことで……
「ちょ、ちょっと南ちゃん!? それどういうこと!?
それってもしかして……!!」
「はい。龍さんには言ってなかったですよね。私の祖父は伊郷鮟鱇といいます。
私が小さいころは禅宗の住職をしていたのですが、現在は日本海軍の元帥をしています」
「あらまぁ。提督のお孫さんだったんですね……
こちらこそ提督には本当にお世話になっています。部下の私から見てですが、素晴らしい御方ですよ!」
「そう言ってもらえると、孫として鼻が高いです」
「 」
大和は彼女が自身の提督の身内だとわかり、彼女に対してフレンドリーな姿勢になったのだが……鯉住君にしては色々と想定外。それどころではない。あまりの衝撃的カミングアウトに、言葉が出てこないでいる。
原因は当然、元帥が彼に対して残していった爆弾である、見合い結婚の話のせい。
まさか元帥の言う見合い相手が、昔からよく知る、妹分のお友達とかいうポジションだったとは……
……鯉住君はなんとか意識を回復させ、状況確認をすることにした。
「ちょ、ちょっと待って! 南ちゃんの苗字って『岸畑』だったよね!?
伊郷元帥のお孫さんってそれ、おかしくない!?」
「おかしくありませんよ。私、外孫ですから。
おじいさまと血の繋がりがあるのは、お父様でなくお母様のほうです」
「い、いやいや!
いくらなんでも外孫に見合いの話持ってくなんて、おかしいでしょ!?」
「普通はそうでしょうけど、ウチは外とか中とかあまり気にしない家系なので」
「マジかい……」
南ちゃん、まさかの外孫。あの元帥の一族はみんな我が道を行くタイプらしい。
まだ大学生の外孫に、勝手に7,8歳離れた見合い相手を紹介するとかいう所業。普通だったら地雷行為ド真ん中なのだが、彼女たちの中では別に問題にはならないようだ。
「ていうか南ちゃん、その話知ってたのね……
てっきり俺は、まだ元帥がひとりで考えている段階かと……」
「はい。知ってました。ちなみに私だけじゃなくて、みんな知ってますよ?
お父様もお母様も、かなり乗り気になっていました」
「ウソやん……」
「あ、当然ですが、龍さんのお父様お母様もご存知ですので」
「なんで!? それこそおかしいでしょ!!?」
話の中にまさかの人物が出てきて、ついつい強めにツッコミを入れてしまう鯉住君。
「母親ネットワークを舐めてはいけません」
「あー、そういう……!
なんでそういうこと知ってて、ひとつも連絡よこさないの!? あの人たち!!」
「私のお母様が聞いたところでは『息子はフリー素材だから、好きにしてやってね』ということらしいです」
「なんで俺をパブリックドメイン扱いしてんだ! あの人たちはぁ!!」
彼の両親はふたりともかなりの自由人なのである。
父(写真家)はコンビニ行く感覚で海外旅行に勝手に行くし、母(大学教授)はまだ幼かった彼を授業の教材にしたりしていた。
それでも愛情は注がれて育ったので、だからこそ鯉住君はこんなにしっかりした性格になったのだが。
……そんな感じで、予期せぬ人物の登場ラッシュにより、大いに精神を乱されている鯉住君。しかし、精神が乱されているのは当然彼だけではない。
「ちょ、ちょっと龍ちゃん!? 見合いってどういうこと!?
南と龍ちゃんが見合いするってこと!? ウソでしょ!?」
「へぇー、龍太さん、結局お見合いすることにしたんですねぇ。
しかも提督のお孫さんと……こんなに年が離れているのに……へぇー……
指輪を渡した部下の皆さんがいっぱいいるのに……へぇー……」
「お、落ち着いて!! ここカフェだから!! 周りから白い目で見られちゃうから!!」
「むぐっ……!! 龍ちゃんの言うとおり、ボリュームは抑えるけど……
しっかり説明してよね! なんでそんな大事なこと、私と寧音に黙ってたの!?」
「そうですね。ええ。
そんな大事なことをお友達の私にもずっと黙っていたんですもんね、これはどういうつもりか聞いておかないとですよね?」
「ふたりとも、目が据わってる……!!」
「龍さんも大変ですね」
「キミ当事者でしょ!? 落ち着きすぎじゃない!?
言われてみると確かに元帥そっくりだね!? 物事に動じないところとか!!」
「「 いいから説明!! 」」
「ハイ!」
・・・
なんか昨日の夜と今日の午前中も似たようなことしたなぁ……なんて思いつつ、言葉に気を付けつつも、元帥とした話を説明していく鯉住君。
自分が少将まで昇進しないと参加できない作戦があること(最重要機密なので詳細は伏せた)。そのためには権威による裏付けが必要なこと。だから一番手っ取り早い方法が、実力者と繋がれる見合いだったこと。そして何故か元帥は自分の孫をプッシュしてきたこと。
大和も見合いの話が出たのは知っているが、彼女が知っているのは『鯉住君がケッコン艦との付き合いに悩んでいるので、元帥が見合いを薦めた』というところまで。一応木曾から政略結婚めいた話があったことは聞いていたが、すでにここまで具体的に話が進んでいるとは思っていなかった。
妹分の果実菜については、完全に寝耳に水。なにせ自分が兄のように慕っている人物が、いきなり親友と見合いすることになったという一大事である。普段落ち着いた性格の彼女でも、かなり動揺してしまっている。
「あーもう……! 提督はホントにそういうところあるんだから!」
「そんなよくわかんない話になってるんだったら、少しくらい教えてくれたってよかったのに……」
「いやだって、まさか南ちゃんだとは思わなかったし……
それにまだこの話は全然進んでないはずだったし、見合いする可能性があるだけで、そもそも本当にそういうことになるのか決まってないからさ……」
「そういうの女の子は知りたいものなの!
たまにだけどメッセのやりとりするんだから、そのくらい教えてよ!」
「いやいや……かじちゃんはそう言うけど、自分の中で消化できてない話をするのはちょっと……」
「相談してくれてもよかったじゃないですか……お友達なんですし」
「いやいやそんなことは……」
この話したら絶対大和さん機嫌悪くなりますよね? という言葉を喉元で呑み込んだ鯉住君。少しは成長しているようだ。
「でもあれだよ……これはこれで逆によかったのかも……
見合い(予定)相手が南ちゃんだってわかったんだし、見方を変えれば、少し安心できるかなって。
だっていくらなんでも妹分の友達で、しかもかなり年が離れてる子と見合いなんて、普通はありえないからね。
元帥だってそのこと知らずに話に出したんだと思うし、その辺しっかり伝えれば、この話もなかったことになるだろうし」
「でも龍ちゃん、昇進しなきゃいけないんでしょ?
その辺解決してないのに、お見合い立ち消えになるもんなの?」
本当は彼女以外にも、隣に座る大和と先輩である一ノ瀬中佐との話も出ているので、彼女との見合い話が立ち消えたところで、政略結婚の話自体が立ち消えるわけではない。
しかしここでそんな話だしたら、120%ややこしいことになるので、それについては伏せておくことにした。
「まぁ、なんていうか、昇進できるかってところが問題だからさ。逆に考えれば、昇進さえしてしまえば見合いしなくて済むってことだからね。
俺の部下はみんな頼りになるし、できないことじゃないと思ってるよ。あとは俺の腕次第かな」
「あぁ、部下って、龍ちゃんが片っ端からオとしたっていう……」
「だから違うんだって……メッセでも言ったけど、艦娘に対してのケッコン指輪ってのは、人間同士の結婚指輪とは違うんだって……」
「艦娘だって、すっごく強いだけで、中身は普通の女の子なんでしょ?
だったら龍ちゃんが言うようには思ってないと思うし、そういう相手からじゃなきゃ、指輪なんて受け取らないよ、普通。
そのあたりどうなんですか? 大和さん」
「果実菜さんの言うとおりですね。
龍太さんはもっと私たちの心を考えるべきです」
「ですよね! 大和さんもそう思いますよね!」
「はい。昨日もそのせいで、ひと悶着ありましたからねぇ……」
「うぐっ……!」
どうやらこの場に鯉住君の味方はいないようだ。初対面なはずのふたりは、何故か息ピッタリである。ふたりして彼に向ける目には「ホントにこの男は……」というニュアンスが含まれている。
「ハァ……また龍ちゃん、女性問題で何かやらかしたんですね?
そんなだからご両親に男子校に進学させられたっていうのに、まだ治ってなかったなんて……」
「ちょっと待ってそれ初耳なんだけど!?」
「そうなんですよ……龍太さんってば、昔っからそうだったんですね……
……あ、そうだ、果実菜さんって言いましたよね? 突然ですけど、よかったら私と連絡先を交換していただけませんか?」
「え!? むしろこちらこそいいんですか!?」
「はい! ふだんから缶詰め状態で生活しているので、こうやって普通に話せるお友達ができないんです。だから私とお友達になってくれたら嬉しいなって!」
「すごい! 艦娘さんとお友達になれるなんて!
ほら、南も一緒に連絡先交換しようよ!」
「私はいいけど……大和さんは大丈夫でしょうか?」
「もちろんです! ふたりとも、よろしくお願いしますね!」
「よろしくお願いします!」
なんだか彼を鎹(かすがい)にして、すっかり意気投合した3人は、端末を取り出して連絡先交換を始めた。完全に鯉住君のプライベートが流出することが、今この瞬間に決定してしまった。
「あぁ……もう……好きにしてください……」
「あ、そうだ、龍さん。ひとつお伝えしておくことが」
「ハァ……どしたの? 南ちゃん」
「別に私、龍さんと結婚しても構いませんので」
「……」
「おじいさまから、龍さんが部下の皆さんに指輪を贈ったことは聞いていますが、別に気にしませんので」
「いや、あの……南ちゃん……?? ……ンンン???」
「別に私としては、一夫多妻制でも問題ありませんので。昔の大名などは側室を持つのが当然だったのですし」
「ダイミョウ……? いや、いや……んん???」
なんかさらっとすごい発言されたせいで、状況が呑み込めない鯉住君。当然ながらそんな話題、ふたりが黙っているはずもない。
「ちょ、ちょっと南!? あなた正気なの!?
龍ちゃんは女性とみれば誰彼構わず口説いていく、それでいて本人は全然そういうことしてるって気づいてないような、天然プレイボーイなのよ!?
大体私のお父さんのせいなんだけど!!」
「かじちゃんヒドくない?」
「知ってるから大丈夫よ。でもそれは別に下心からじゃないでしょ?
果実菜のお父様の『大事なことは、相手が喜ぶことならしっかり伝えなさい』って教えを大事にしてるだけよね?」
「そ、それはそうだけど」
「だったら龍さんが部下の皆さんから好かれてるのは、関係が良いって証拠でしょ? 別に批判的に見ることはないじゃない」
「私が言いたいのは、そういうことじゃなくてねぇ!」
「ねぇ、龍太さん……なんだか南さん、提督と同じ空気が出てますよね……」
「そっすね……」
果実菜があたふたしているせいで、怒るタイミングを逃してしまった大和は、鯉住君と一緒にげんなりしている。
自身もよく知る伊郷元帥とそっくりなメンタルの強さ。彼女には何があっても勝てないんだろうなぁ……なんてことを考えている。
そんな感じで呆けていると、南の口から新たな爆弾が。
「それに別に私との結婚の話がなくなったところで、まだ候補はいるんだから、同じだと思うけど」
「こ、候補……?」
「ええ。そちらの大和さんと、龍さんの先輩で横須賀第3鎮守府提督の一ノ瀬さん」
「「「 !!? 」」」
南の口から落とされた爆弾は、この場のメンツにはメガトン級の代物だった。
あえて黙っていた事実が暴露されたせいで、これから起こるであろうどったんばったん大騒ぎを想像して、頭を抱える鯉住君。
まさか自分も見合い候補に入っていたという、青天の霹靂もびっくりな事実に考えがまとまらない大和。
その美貌と将棋の腕から、横浜や横須賀では知らない者など居ないレベルの有名人である一ノ瀬中佐が、兄貴分の先輩であり、なおかつ嫁候補だという事実に衝撃を受ける果実菜。
三者三様とはいえ、事実を受け止め切れていないのは共通である。
「だから龍さんは、私と結婚しなくても、誰かとは結婚するんだと思うの。
実際に日本海軍の実情なんて知らないから、どうなるかはわからないけどね。
……まぁ、龍さんが私を選んでくれるなら、喜んで応えようとは思って……あら、どうしたんですか、皆さん。そんなに固まってしまって」
「「「 あ、あはは…… 」」」
結局そのあと3人とも考えがまとまらず、何かあったら個々で連絡とりましょうということで、解散となった。
鯉住君としては、夕張に対してケジメつけようとしていたところに、この展開だったので、その日の夜は何とも言えない気分で過ごさざるを得なかった。
妖精さんたちから散々煽られたりからかわれたりしながら、無理やり眠りについたのだとか。
モテモテでうらやましいなあ!!(自分もなりたいとは言ってない)
なんだかんだ自分で大量にまいた種が実をつけているだけなので、仕方ない気もしますけどね。
こんなことがあった翌日に、夕張とどう接するんでしょうね?
登場人物(再)紹介
・寺戸 果実菜(てらと かじな)
鯉住君の親戚であり、妹分。寧音の姉。
現在大学2年生。実家の影響もあり、神学を専攻している。
実家は神道の神社であり、儀礼や行事の際には巫女服を着てお手伝いしている。
それを見るためだけに近隣の大学生が集まるくらいには美人。
艦娘で例えると朝潮がそれくらいの年齢になった感じ。
・岸畑 南(きしはた みなみ)
伊郷元帥の外孫であり、鯉住君の見合い候補。
果実菜と同じ、総合宗教文化大学に通っている。果実菜は神学専攻だが、南は佛教専攻。
おじいちゃんっ子なこともあり、元帥の影響を色濃く受けている。嗜好も精神性も。
艦娘で例えると岸波がそれくらいの年齢になった感じ。