艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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リアイベと連動させていくスタイル。

今回の夕張ちゃんの服装は、瑞パラパネルの例の私服です。
前書きでこんなこと書くのは、ファッションの知識不足が深刻で、服装の細かいところをうまく描写できなかったからです。切ない。





第118話

 ウロウロ……

 

 

 大本営別館である、客人のための宿泊棟。その廊下で朝一番からウロウロしている影がひとつ。

 

 

「うぅ……緊張するよぉ……」

 

 

 自身の提督の部屋の前で動物園の熊のようになっている彼女は、本日デートを控えている夕張である。

 

 一昨日に提督から口に出すのも恥ずかしいガチ書置きを受け取り、昨日は研修受け入れ予定の瑞鶴と葛城のアドバイスを受けながら、勝負服を準備した。当然彼女が今身に着けているのは、その勝負服である。

 

 普段から天龍や龍田を見て「目の毒だから、あまり首から下を見ないようにしてる」なんて言ってる提督である。あまり派手な服装にすると、気を遣わせてしまってデートどころではなくなるかもしれない。

 

 そういうことで、随分と落ち着いた服装にすることとした。とはいえ、彼女としても、好きな人との初めてのデートである。落ち着いてはいるが、うまくまとまった服装で揃えてきた。

 

 

 

 いつもの活動的なポニーテールから一転、おしとやかな感じを出すために髪を下ろし、シックな雰囲気漂うマリンキャップを頭に。

 それでいてフレッシュ感を損なわないために、白のワイシャツと長袖ベストという、学生風味なトップスをチョイス。いつも胸元に着けているリボンと同じオレンジ色のストールも身に着け、暗くなりすぎないようにひと工夫。

 そしてゆったりとしたガウチョパンツにブラウンのショートブーツ。パンツはいつも頭に身に着けているリボンと同じライトグリーン。ガウチョパンツは足首が見えるので、下半身をスタイル良く見せることができる。

 カラーリングはいつもと同じで、ストールのオレンジとパンツのライトグリーンが映える。制服艤装は選り好みできないが、この緑と橙の配色は彼女のお気に入りなのだ。

 

 

 

 一言で説明するなら、女の子同士で大きな街に出かけるときの気合が入ったコーデ、とでも言えばよいだろうか。男ウケはいまいちだけど、友達や周りから「すごいオシャレ」と言われるような感じである。

 

 ちなみにこの衣装選びでは、葛城が大活躍した。彼女はそういうことに結構な興味があるようで、まったく街歩きに慣れていない夕張は、かなり助けてもらったとか。

 「瑞鶴先輩の分も一緒に選びましょうか!? いや、選ばせてください!!」なんて言ってハイテンションになっていたのが印象的。瑞鶴からはやんわりと断られていたが。

 

 

 

 ……そういうことで、準備ばっちりな夕張なのだが、はじめの一歩を踏み出す勇気を出せずにいる。

 

 

「な、なんて言って入ればいいかな……

無難に『おはようございます! 今日はよろしくお願いします!』って感じでいいかな……

それともちょっと挑戦的に『失礼します! 今日は師匠のデートプラン、楽しみにしてるんですからね!』なんて楽し気にすればいいかな……

いやいや、でも……うーん……」

 

 

 いつもだったら何の躊躇もなくノックして入っていくのだが、緊張が高まっている彼女には、そんな余裕は微塵も残されていない。

 

 そんな感じで、答えの出ないセルフ押し問答をしながら右往左往していると、扉の奥から何か聞こえてきた。

 

 

 

(……どゆこと!? なんで!?)

 

 

 

「!!?」

 

 

 朝イチだというのに、結構な声量。付き合いの長い夕張には、彼が周囲の迷惑を顧みずにそう言う声を出すのはどういう時なのか、そのことはよくわかっている。

 

 つまり、周りの状況を考える余裕すらないほどの異常事態に見舞われたということ。普通の提督だったらそんな出来事には早々遭遇しないが、自身の提督については色々と例外である。

 

 

 コンコンコンッ!

 

 

「ど、どうしたんですか師匠!?」

 

(あ、ああ、夕張か)

 

「何かあったんですか!?」

 

(だ、大丈夫だ。とりあえず入っておいで)

 

「ハ、ハイ」

 

 

 ガチャっとドアを開け、入室する夕張。少しでも緊急性を感じたら、私情を置いといて行動できるのはよいことである。

 

 ちなみに鯉住君は寝間着ということはなく、すでに出かけるための服装をしていた。

 彼の服装は割とラフなもので、白黒ツートンのワイシャツにブラウンのチノパン、革のサンダルと、かなりのシンプルスタイル。以前に大本営に来た際に古鷹と買い物したのだが、その時と似たような服装である。

 

 

「それで……いったい何ががあったんですか?

朝から師匠がそんなに大きな声を出すなんて。しかも他のお客さんもいる宿泊棟で」

 

「いやその、俺としてもそんな迷惑なことしたくなかったんだけど、ついつい……

……ほら、これ見て。見ればなんでかわかるから」

 

 

 そう言って鯉住君が差し出したのは、自身の端末だった。

 端末は起動しており、その画面にはチャットアプリのものと思われるログが映し出されている。

 

 

「ええと……えっ!?」

 

 

 

 

 

 ログの中身

 

 

叢雲:ちょっとアンタ、起きてる?

 

鯉住:起きてるよ。どうしたの? 何か問題でも起こった?

 

叢雲:問題ではないわ。報告があるの

 

鯉住:緊急性はないみたいだね。なにかな?

 

叢雲:全海域の解放が完了したわ

 

 

 

 

 

「……!?」

 

「……ビックリするよね、これ……」

 

「……え、ちょ……!?

私たちが川内さんたちと佐世保に出発してから、1週間くらいしか経ってないですよね!?

その時点では未解放海域が、まだ8エリアくらい残ってませんでした!?」

 

「そう……ホントそれなんだよ……

なんで経過日数より解放エリアのほうが多いとかいう、面白いことになってるんだ……?」

 

 

 

 本来の海域解放なんていうものは、1エリアにつき1週間以上、難易度が高い場合は1か月以上も準備に時間を要するものである。

 

 準備が必要というのは、バグってる実力をもつ部下が多い鯉住君の鎮守府でもそう変わらないことで……書類整備があったり、近海哨戒や護衛任務も平行して進めなくちゃいけなかったり、天候が絡んだりで、最短でも1エリア解放には2、3日は必要であるはずだ。

 

 だというのに、デイリーでエリア解放とかいう謎の現象がホームで起こったらしい。いったいぜんたい、何がどうして、そんなことになったのだろうか?

 

 

「と、とにかく叢雲さんに事実確認しないと……

メッセじゃ大変ですし、電話かけちゃいましょう」

 

「そ、そうだな」

 

 

 慌ててスマホをとる鯉住君だったが、そのタイミングでメッセが届いた。

 

 

 

……ピロリンッ

 

 

 

 

 

叢雲:なにアンタ黙ってんの? もう電話かけるから

 

 

 

 

 

「あっ」

 

「なんかこっちの会話が聞かれてるみたいなタイミングですね……」

 

 

 タイミングばっちりな叢雲からの連絡に面食らっていると、彼女の宣言通り、すぐにプルプルと電話がかかってきた。それに出る鯉住君。

 

 

「……もしもし」

 

(ちょっとアンタ、何呆けてんの?

おおかた予想外の報告でビックリしてたとか、そんなところでしょうけど)

 

「あ、ああ。そりゃビックリするって、そんな予想外な連絡来たら……」

 

(予想外とか、アンタが言っていいセリフじゃないわ)

 

「な、なんか叢雲、怒ってない?」

 

(知らない)

 

 

 これ絶対怒ってる……

 夕張同様、彼女との付き合いも相応に長い鯉住君には、声のトーンや話し方からそのことが伝わってきたのだが……何故そんな状態になっているか、見当もつかない。

 

 

「ええと……いったいなんで、そんなことになっちゃってるのかな……?

いや、みんなが頑張って仕事してくれたこと自体は、嬉しいには違いないんだけど……」

 

 

 

 

 

(アンタ、今のまま昇進しなかった場合……見合いすることになってるんですってね)

 

 

 

「ん゛ん゛っ゛!?」

 

 

 

 

 

 死角からの強烈なストレートパンチが鯉住君にクリティカルヒット。

 昨日大和や妹分たちに話したことだが、見合い話については未確定も未確定だ。大和たちだけではなく、鎮守府の他のメンバーにも、この話はしていなかった。

 

 

「ちょっと師匠!! 見合いってどういうこと!?」

 

 

 当然夕張も見合いのことは知らない。

 

 

「ちょ、ちょっとまってふたりとも!!」

 

(夕張……?

……なんでアンタこんな朝っぱらから、夕張と一緒にいるの?)

 

「い、いやそれは、その……」

 

「私というものがありながら、なんで黙ってお見合いなんてしようとしてるの!?」

 

「ちょ、そういうワケじゃ……!!」

 

(『私というものがありながら』?

……ふーん。アンタついに、夕張に手を出したんだ……)

 

「ち、違うんだよ! 誤解だって!」

 

「何が誤解よ! あの時師匠が抱いてくれた感触、よく覚えてるんだからね!?」

 

「ちょ!! 夕張、何言って……!! 抱っこしただけでしょ!?

今から洗いざらい説明するから、少し黙ってて!」

 

( …… )

 

「叢雲は怖いから黙らないで!!」

 

 

 

・・・

 

 

 

 ……そこから鯉住君は、ふたりが放つ壮絶なプレッシャーの中、事情を説明した。

 

 出世するように元帥から言われており、その手段のひとつとしてお見合いが挙げられていたこと。そしてお見合いすることは、別にまだ確定してはいないこと。

 

 そして夕張が暴走したときのこと。それを受けて、部下のケッコン艦との向き合い方を変えようと考えていること。その第一歩として、好意を明確に向けてくれた夕張とデートすることにしたこと。

 

 なんか昨日から何度も同じ事話してるな……なんて思う鯉住君。不本意ながら説明に慣れちゃったのもあり、なんとかうまく説明を終えることに成功。

 提督の必死な様子と、自分たちに向き合うことにしてくれたという嬉しさから、叢雲と夕張は、なんとか平静を取り戻すことができたようだ。

 

 

(ハァ……アンタは本当に……)

 

「黙ってたのはさ、まだ見合いするって決まったわけじゃないからであって……」

 

「それは分かりましたよ。でも……それでもやっぱり教えてほしかったです」

 

「う……それは、その、ゴメン」

 

(私もそこに怒ってるのよ。そういう大事な話があるんなら、なんで筆頭秘書艦の私に相談しないワケ?

アンタひとりで突っ走るつもりでも、実際に海域に出向くのは私達なのよ?

アンタの「さっさと出世しないと」なんていう勝手な都合で、ワケもわからず出撃頻度上げられたんじゃ、たまったもんじゃないわ)

 

「いやホント、返す言葉もないです……」

 

 

 叢雲が語るガチな正論に、しょんぼりする鯉住君。

 確かに彼女が言う通り、自分が見合いしたくないから出撃の頻度を高くするなんて、すごく身勝手なことだった。やるなら事情をすべて説明してから、そういう動きをするべきだったのだ。

 

 とはいえ、その辺に配慮して、艦隊メンバーに無理がない範囲で海域解放を進めていたのも事実。

 雨の日では濡れて大変だから、とかいう理由で、晴れの日にしか出撃しないという超絶ホワイト環境であるので、そこについては叢雲の言うような懸念点はない。

 ついでに言うと鯉住君自身が「お見合いを断りたいので、皆さんのチカラを貸してください」なんていう、爆弾を投げ入れたくなかったというのもある。

 

 

 

 ……叢雲はなんだかんだ言ってるが、この問題は結局「私たちにそういう大事なこと話さないのは許せない」というところに落ち着くのだ。

 

 

 

 艦娘は嫉妬や執心、憎悪などのよくない感情を、ほとんど抱かない特性を持つ。

 だから彼女たちだって、提督がお見合いすることを自分で決めたというのなら、文句を言うくらいはするだろうが、受け入れることはできるのだ。

 

 しかし、だからと言って「好きな人が自分を無視して勝手に色々決めるのは許せない」という……そういった気持ちは少なからずある。

 そういう感情を持ちづらい艦娘からそこまで想われる時点で大したものなのだが、彼としてはそんなこと考えてる余裕などない。

 

 

「と、とにかく、そういうことなんだ。

これからはキミたちひとりひとりに、しっかりと向き合ってくようにするから……面談とかも考えているし」

 

「なんていうか……ホントなんていうかですよね……」

 

(なんでアンタはそうなのよ……)

 

 

 ふたりとも嬉しさと不満がまじりあった複雑な心境である。うまく言葉にできない感情のようだ。

 

 

「ええと、ちなみに……他のみんなも、お見合いについて知ってたりするの?」

 

(知ってるわよ。全員。

みんなそれで、アンタに勝手させたくないって一致団結したおかげで、ここまで早く海域解放できたのよ)

 

「うわぁ……帰りたくない……」

 

(諦めなさい。夕張とデートしてくるのは許可してあげるから、それが終わったらさっさと帰ってくるのよ)

 

「わかりました……」

 

 

 なんだかすでに尻に敷かれているようだが……帰ってから告白大会とも言えるムーブをしなくてはいけないことが確定し、げんなりする鯉住君。

 

 ……しかしまだこの話題は終わっていなかった。

 

 

「あ、そういえば叢雲さん。師匠のお見合い話って、どこから聞いたんですか?」

 

「そ、そうだ。俺が知ってる限りだと、元帥と木曾さん、それに同席してた足柄さんしか、この話を知らなかったはずだ。

叢雲はどこからその情報、仕入れたんだい?」

 

 

(白蓮大将よ)

 

 

「あのオッサン! 何してくれてんの!?」

 

(アンタたちが佐世保に拉致されたって報告するために、ひとまずラバウル第1鎮守府まで電話したのよ。緊急の案件だったから。

そしたら高雄さんが出撃中とかで、大将が受け答えしてくれてね。その時に教えてくれたわ……大爆笑しながらね……)

 

「ホントにあの人は……!

ていうか、なんで大将がそのこと知ってたの!?」

 

(昇進が絡むから、元帥直々に聞かされてたみたいね。

ちなみにその時に『功績は十分溜まってるから、海域解放が全部済んだら大佐に昇進だからな』って言ってたわ。言質とってあるから。アンタ実質もう大佐だから)

 

「マジすか!?」

 

(マジよ。昇進に必要な書類はもう揃えたし、大本営にも電文打っといたから。

今アンタがどこにいるか知らないけど、アンタからも元帥に一報入れときなさい)

 

「アッハイ」

 

(それじゃ。さっさと帰ってくるのよ)

 

 

 

 ピッ

 

 

 

「 …… 」

 

「あの、師匠……昇進、おめでとう、ございます……?」

 

「ええと……ありがとう、ございます……?」

 

 

 なんか気づいたら大佐になってたらしい。

 

 なんとしても昇進させてやるという部下のみんなのやる気と、そのやる気の源である見合い話の件、それについてたぶん全員から問い質されるというイベントの決定に、頭を抱える鯉住君である。

 

 

 

・・・

 

 

 

「ハァ……朝一でなんちゅうハードパンチ……」

 

「なんかあれですよね。師匠といると毎日がお祭り騒ぎですよね」

 

「そんなことない……ないよね?」

 

「自信もって否定できない時点で、相当自覚あると思うんですよね」

 

「まぁ、それは……そう……まぁ、そうねぇ……」

 

 

 机に肘をついた右手で頭を支え、「あちゃー……」と言いたげな姿勢をとる鯉住君。今更感がある話題だが、本人からしたら、それに慣れるなんてたまったもんじゃないのである。

 

 

「ふぅ……とにかく。気持ちを切り替えていこう。

せっかく夕張が俺のことを許してくれたみたいだし」

 

「ん? 許す?」

 

「ずっとおざなりにしてきたっていうのに、こっちのお誘いに応えてくれたから」

 

「……あっ!!」

 

 

 予想外のハプニングのせいで、すっかり頭から抜けていた。そういえば今日は提督とデートするために部屋までやってきたんだった。

 

 

「そそそそうでした……! あぁ、もぅ~っ!!」

 

「はは。そんなに恥ずかしがらなくても。

……ありがとな、本当に。俺が本当の意味でキミたちと向き合うためのキッカケになってくれて」

 

「そ、そんなこと! あれは、その、酔っぱらっちゃってて、気が大きくなっちゃってて……!」

 

「それでも本心だったでしょ? そのくらいはわかるよ。

それに、そんなに気合を入れておめかししてきてくれたんだ。キミの気持ちがこもってるのが伝わってくるし、男としては最高に嬉しいってもんだよ」

 

「そ、そうです? よかった、嫌われてなくて……!!

あの、ちなみに、今日の服……似合ってますか? 雰囲気変えてみたんですけど……」

 

「うん。似合ってるっていうかもう、眩しいレベル。

もともと夕張はカワイイ系だと思ってたからちょっと意外だったけど、落ち着いたファッションもよく似合ってるよ。すごく美人だ。

そんなにファッションに詳しいわけじゃないから、偉そうに言える立場じゃないけどね」

 

「わぁ……! すごく嬉しいです! ありがとうございますっ!!」

 

「ホント俺みたいなアラサーお兄さんが、キミみたいな美少女とお付き合いさせてもらうのなんて、申し訳ないくらいで……っと、そんな話してたらキリがないね。

それじゃ出発しよう。夕張は行きたいところあるかな?

ないなら俺のほうで行先決めちゃうけど」

 

「えへへ……美少女……」

 

「ゆ、夕張?」

 

「……ハッ!! だ、大丈夫です! 師匠にお任せします!」

 

 

 ナチュラルな口説き文句の応酬に、意識が飛びかける夕張。

 彼が本気を出す(お付き合いしてると意識する)と、普段の数倍の誉め言葉が飛んでくる模様。しかも全部本心だから、会話の中にしれっと紛れ込ませてくる。破壊力抜群である。

 

 

「そ、そうかい? それじゃ……遊園地に行かないか?

ここからすぐ近くに『瑞雲パラダイス』っていう日本海軍とコラボしてる複合レジャーランドがあるらしくて。

何故か遊園地が日本海軍と提携してるだけあって、艦娘の慰安旅行先にも結構選ばれてるみたいでね。ここなら艦娘に理解ある対応してくれるはずだから」

 

「初めてのデートで、遊園地……!

ステキです! そこでいいです! そこがいいです!」

 

「あはは、気に入ってくれたようで一安心だよ。デートなんて俺も初めてだから、少し不安だったんだ。

……それと夕張、ひとつお願いしたいことがあるんだけど」

 

「え? なんですか? 師匠」

 

「今日は……というか、ずっとかな。俺とキミは恋人同士だから。

ふたりでいるときは、もっと気を楽にしてくれないか?」

 

「こ、恋人……ずっと恋人……うぇへへ……」

 

「だからさ、いつもの礼儀正しい口調じゃなくて、もっと砕けた話し方をしてほしいんだよ。

それに恋人なのに『師匠』じゃおかしいからね。名前で呼んでくれないか?」

 

 

 真顔でとんでもないこと言いだした提督に、再度意識が飛びかける夕張。

 さっきから彼の言葉が全部クリティカルヒットしていて、轟沈一歩手前だが、なんとか踏みとどまっている。

 

 

「な、名前で……!?

そ、それじゃ……あの……龍太、さん……」

 

「うん。ありがとうね。

あと敬語も使わなくていいよ。普段は上司と部下だからそうはいかないけど、ふたりきりの時は、ね」

 

「は、はひ、わかりました……じゃなくて、わかったわ……」

 

「ん。オッケー。それじゃ今日は目いっぱい楽しもうか。

今まで後回しにしちゃってた分までね」

 

 

 そう言ってニコッと笑顔を作る提督を見て「今日は私、幸せすぎて死ぬんじゃないかな?」なんて考えが頭によぎる、夕張なのであった。

 

 




デート開始まで到達しない不具合……


ちなみにお留守番メンバーの心のうちはこんな感じ

叢雲・アイツが私抜きで勝手にそんな重要な決定するなんて……冗談じゃないわ!

古鷹・秘書艦に相談もなくあの人は……!

北上・みんな張り切ってるね~! 乗るしかねぇ! このビッグウェーブに!

大井・なんだか無性に深海棲艦を殲滅したい気分です……!

秋津洲・なんで秋津洲にそういうこと教えてくれないの!? もう怒ったかも!

足柄・鳥海は失敗しちゃったみたいだし、みんなにもバレちゃったし、どうしようかしら?

初春・鯉住殿と釣り合いがとれるのはわらわだけじゃ! 見合いなんぞでふさわしい相手が見つかるはずもないのじゃ! 阻止するしかないのう!

子曰・みんなもっと鯉住さんの応援してあげてもいいのに……

明石・盛り上がって参りました!!

アーク・Admiralのミアイ……その辺の人間ごときに、私達の高尚な思考(魚)が分かるはずもない。どう破談させてくれようか……

天城・提督に膝枕してもらえる回数が減りそうですねぇ……それはよくないです……


鯉住君、火消しできるのかな?


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