艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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『横浜八景島・瑞雲パラダイス』のマスコットキャラは、カワウソの『ズイパラ ズイ太』君です。
とても愛らしく、小さい子供から大きな大人まで幅広く愛されているキャラクターです。
ぬいぐるみもあり、結構な売れ行きがあります。人気キャラです。

決して焦点が合っていない目をして狂気を感じるオーラを放っているわけではありません。大人気キャラですからね。





第119話

 本日の取り決めをつけた提督と夕張。デートプランも決まったし、さぁ今から出発! ……とはならなかった。

 なんと鯉住君。秘書艦に対して、空母ふたりの研修受け入れを決めたと報告するのを、すっかり忘れていたのだ。

 まぁ実際はそれも仕方ないことで、そのことが決定してから起こったのは以下の出来事。

 

 

 伊良湖猛アピール事件、夕張愛を叫ぶ事件、大和の真相究明イベント、お見合い予定バレ事件、妹分の友人からの実質求婚事件

 

 

 たったの1日半で、色々起こりすぎでは? なんて考えるも、いつものことっちゃあいつものことなので、受け入れるしかないことを理解している鯉住君。諦めて叢雲にすぐに電話をしたのだった。

 

 

 叢雲からは呆れたように愚痴をいくつか言われたが、全くの正論だったので、反論などできなかったとか。

「アンタはなんでいつもそうなの!?」とか「こっちにも受け入れ準備とかあるんだからね!?」とか「あの自由人ふたりを説得できるの!?」とか。

 

 実のところ元帥直々の指示だったうえ、彼女たちの熱意は本物だったので、断ることは限りなくできなかった。だから鯉住君が叢雲にひとこと言う権利くらいはあったはずなのだが、さっきの今で頭が上がらなかったのだとか。

 

 それを見る夕張にとっても、その光景はいつも通りっちゃあいつも通りだったので、「締まらないなぁ……」と思われるくらいで済んだ。デート前から幻滅されなくてよかったといったところか。

 

 

 

・・・

 

 

 

 そんな感じでデート前からわちゃわちゃしてしまったが、それからは無事に何事もなくデート先『瑞雲パラダイス』まで移動することができた。

 

 本日は世間では平日。客足はまばらで、とてもゆったりと行動することができそうだ。この様子だと、乗り物の待ち時間もほとんど気にしなくていいだろう。

 これが不定休の強みのひとつ。日本海軍所属者のことを、不定休と称していいのかは微妙なところだが。

 

 

 

「わぁ……! すごいですね……じゃなくて、すごいね!龍太さん!

島の中が全部テーマパークになってる!」

 

「ふふ、そうだね。昔は島自体がテーマパークってところは多かったんだけど、深海棲艦が現れてからは、海に近づくこと自体が危険行為になっちゃったから……ここみたいな遊園地は珍しくなっちゃったんだよね」

 

「そうなんですね! ……ええと、そうなんだ! 龍太さんは色々知ってるのね!」

 

「ありがとね。……話しづらかったら、いつもの話し方でもいいよ?

さっきはああ言ったけど、夕張に無理させたいわけじゃないから」

 

「ううん! まだちょっと慣れないけど、今までよりも距離が縮まった感じがするから、こっちの方がいいわ!」

 

「そっか。気にしすぎたかな?」

 

「うふふ! 大丈夫よ!」

 

 

 年の差(見た目)がかなり離れているふたりだが、その様子はどう見てもカップルだったとか。昨日大和と出歩いていた時と同じように、周りの人たちの視線を結構集めていた。

 

 

 

 

 

 ……モノレールの駅から徒歩十分ほど。入島し、瑞雲パラダイスの敷地内に到着。フリーパス券を買って準備も万端。

 ふたりはチケット販売所でもらったパンフレットを見ながら、これからの動きについて相談することにした。

 

 

「おぉ、結構色々あるね。夕張はどこか行ってみたいところあるかい?」

 

「そうね……私はこの『ブルーフォール』っていうのに乗ってみたい!

あそこに見える高い塔みたいなやつよね!?」 

 

「お、おぉ……意外と攻めるねぇ……

夕張ってそういう絶叫系に興味あったんだ」

 

「ふふ! せっかくこういうところに来れたんだから、少しくらいハメを外そうと思って!」

 

「おー、いいねぇ。それじゃ俺もお付き合いしましょ。

一発目からハードな気もするけど、まずはそこに行ってみようか」

 

「うん!」

 

 

 

・・・

 

 

フリーフォール体験中

 

 

・・・

 

 

 

「あー、楽しかった! すごい迫力だったね!!」

 

「そ、そうだね……」

 

 

 夕張はフリーフォールを随分気に入ったようで、イキイキとしている。彼女は非戦闘要員に近いといっても、普段の戦闘から急激な動きには慣れている。だからこそこういった絶叫系アトラクションも楽しめるのだろう。さすが艦娘といったところ。

 対してそういうアトラクションが実は初めての鯉住君。こんなに内臓がヒュッてなるとは思っていなかった。かなりグロッキーである。

 

 

「ねぇねぇ! 次はジェットコースター乗りましょ! 『サーフコースター リヴァイアサン』ってやつ!

私こういうの好きかも! 癖になっちゃいそう!」

 

「そ、そうかい? ちょっと相談なんだけど、少し休憩したりは……」

 

「ささ! 早く行きましょ!」

 

「……はい」

 

 

 ハイテンションになっている夕張には、鯉住君のSOSは届かなかった模様。

 彼女の満面の笑顔を見て、それ以上は何も言えなくなった鯉住君。次の修練に繰り出す覚悟を決めた。

 

 

「ふー……よし! 行こうか、夕張!」

 

「うーん! すっごく楽しい!」

 

 

 

・・・

 

 

ジェットコースター体験中

 

 

・・・

 

 

 

「……うっぷ」

 

「すごかったね! 龍太さん! ビューッて! ゴーッて!

みんな叫んでたから私も叫んでみたけど、すっごく気分よかったわ!」

 

「そ、そうだね……夕張すっごく楽しそうだったね……」

 

「ねぇ! 次は何に乗る!?

私はこの『ドランケン・バレル(コーヒーカップみたいなやつ)』っていうのが気になって……!!」

 

「ちょ、ちょっとタイム!

そ、そろそろお昼だし、ちょっと早いけど食事にしない?」

 

「えー……ま、いいか! そうしましょ!」

 

「ホッ……」

 

 

 鯉住君の提案に夕張は納得してくれて、無事に休憩タイムに入ることができそうだ。内臓と三半規管がグロッキーになっている鯉住君には、九死に一生である。

 

 

「そ、それじゃ、フードコートまで行こう……

そこなら気に入ったもの食べられるからね……」

 

「私、外食って初めて! 楽しみだな~!」

 

「足柄さんや秋津洲の料理には敵わないだろうけど、こういうところのご飯には特別な良さがあるからね……

あまり満腹になりすぎないようにだけ気を付けて、好きなもの色々食べてみようか……」

 

「どんな料理があるかな~? うふふ! 私ね、今ね、これまでで一番楽しい!

デートしてくれてありがとう! 龍太さん!」

 

「夕張が楽しんでくれて、俺も嬉しいよ……うっぷ……」

 

「えへへ!!」

 

 

 正直もう、ベンチでもどこでもいいから横になって寝たい鯉住君だったが、夕張のあんなに眩しい笑顔を前にしては、そんなこと言いだせるはずもない。

 ここからしばらく、平静を装いつつ体力と精神を回復させるという荒行をこなしていく覚悟を決めるのだった。

 

 

 

・・・

 

 

 

 そこからふたりはフードコートへ移動。外食自体が初めてな夕張は、めちゃんこ楽しみながら昼食を選んでいた。

 夕張が食べることにしたのはハンバーガーにポテト、そしてチュロスというアメリカンスタイル。普段の献立ではほとんどお目にかからないメニューなので、物珍しかったのだろう。

 ちなみに鯉住君が選んだのは、讃岐うどん。パーキングエリアで食べる昼食みたいなチョイスだが、色々ダメージを受けている彼にとっては精一杯のチョイスである。

 

 店頭のホットデリカコーナーから取り出すだけのメニューと、材料を焼いて挟むだけのハンバーガーを注文した夕張のほうが、早く料理を受け取ることになった。

 

 というわけで、彼女は先に屋外の席へと戻ったのだが、そこに近づいて来る者たちが……

 

 

「ねーキミさ、ひとりなの?」

 

「……え? 私ですか?」

 

「そうそう! すっごいカワイイね~」

 

「は、はぁ……ありがとうございます」

 

「俺たち3人で今日は遊んでるんだけどさ、よかったら一緒に遊ばない?」

 

 

 なんとナンパである。なかなか今の時代には珍しい光景だが、美人な艦娘を前にしたら、男ならチャレンジしてみたくなるものなのかもしれない。

 ……なんてことを、そういったものに慣れている女性なら考えそうなものだが……

 

 夕張はこういう文化があると知らないし、そもそも他の人間と会話した経験すらほとんどない。さらっとあしらうことをせず、いつも通り丁寧に相手してしまった。

 

 

「い、いえ。私、今、人を待っていますので」

 

「えー? そうなの? それじゃ待ってる間、一緒に話さない?」

 

「キミみたいな美人さん、全然見ないからさー。仲良くなりたいな、と思ってね」

 

「は、はぁ……」

 

 

 夕張は言外で「相手できない」と言ったつもりだったが……

 もちろんその意図が伝わってないわけではないのだが、押せ押せな相手方にとってはあまり関係ないようだ。

 

 どうにも落ち着かない……というか、あまり良い気分がしない。

 ほめてくれること自体はありがたいが、自身の提督のそれとは違って、全く嬉しくない。なんだか心がこもっていない気がするし、こっちの気持ちがほとんど届いていない気もする。

 相手に悪いとは思うが、ここはハッキリと断ろうと考え、それを口に出すことにした。

 

 

「申し訳ありませんが、皆さんのお相手はできそうにないです。ごめんなさい」

 

「えー。そんなこと言わないでさ!」

 

「そうそう! 絶対俺たちと居たほうが楽しいって!」

 

「え、えーと、困ります。もうすぐ相手が来ちゃいますので……」

 

「まあまあ、そう言わず! ほら、アッチの方なら一緒に座れるから、席の移動しようぜ!」

 

 

 がしっ

 

 

「ちょ、ちょっと! 困ります!」

 

「いーからいーから!」

 

(うぅ……なにこれ……どうしたらいいの……!?)

 

 

 ナンパ集団はついに強硬策に出るようだ。夕張の腕を掴み、一緒に移動しようとしている。彼女にしてみれば、こんな体験初めてなので、なにがなんだかわからず困っていると……

 

 

「あー……ちょっといいですか?」

 

(あ、師匠……! お願い、助けて!!)

 

「ん? なにアンタ?」

 

「えーですね、その子の連れです」

 

「あ、もしかしてお兄さんっスか? ちょっと彼女と一緒に話してただけなんで」

 

「いえ、お兄さんじゃなくて恋人ですね」

 

(こ、恋人……!!)

 

「……は? アンタみたいなオッサンが?」

 

「えぇ、まあ」

 

「オジサンみたいな人と一緒にいるよりも、俺たちと一緒のほうがこの子も楽しいと思うんで、ちょっと借りてきますね~」

 

「いえ、それはちょっと無理ですね。

……と言いますか、そろそろやめておいた方がいいですよ」

 

 

 とっても冷静な鯉住君と対照的に、彼の言葉を受けて敵対的になるナンパ勢。一気に剣呑な雰囲気になるのを感じ、不安が募る夕張。

 

 

「……は?」

 

「なにオッサン、俺たちにケンカ売ってんの?」

 

「やめといたほうがいいぜ。3人に勝てるわけないだろ?」

 

(し、師匠、お願い! 負けないで!)

 

 

 このまま彼女をめぐってのケンカが始まるのか? という場面だったが、鯉住君はちょっと変わった対処をとり始めた。

 

 

「いや、そういうワケではなく。

私がどうこうじゃなくて、そのままだと皆さん、危ないですよ?」

 

「は? 何バカなこと言ってんの?」

 

「俺たちが怖くてイキってんじゃね?」

 

「ハハ! ダッセー!!」

 

「えーですね。知らなかったと思いますけど、彼女は艦娘ですよ?

艦娘はすごいチカラが強いので、本気出したら人間なんてペシャンコです。

だから彼女を怒らせる前に、放した方がいいですよ?」

 

(師匠……! 助けてくれてるのはわかるけど、なんかモヤモヤする……!!)

 

 

 ドラマか何かだったら、もっとカッコよく助けて愛が深まる的な展開になるのだろうが……あくまで鯉住君は穏健にいこうとしているようだ。

 しかしその反応がどうにも腑に落ちない夕張。まさか自分が怪力女かつ危険物扱いされるとは思ってもみない。そりゃそうもなる。

 

 これで相手が引いてくれればよかったのだが、そうもいかないようで……

 

 

「は? 艦娘? マジ?」

 

「それってラッキーじゃね?」

 

「おいオッサン、アンタはそれで俺たちを脅してるつもりかもしれねぇけどさ、知ってんだぜ? 艦娘は人間に手ぇ出せないってこと」

 

「一回艦娘と色々してみたかったんだんだよな~!

イイこと教えてくれて、アザーっす!」

 

「彼女を守ろうとして逆に取られるとか、超ウケるんだけど!」

 

「艦娘は手を出せないんじゃなくて、出さないだけで……

……あー、まぁいいや、それじゃ別の言い方をするよ? よく聞きなよ?」

 

「まだなんかあんの? オッサン」

 

「さっさと尻尾巻いて帰れよ」

 

「艦娘は法律上、国家所有の公共物という扱いです。あまり本人の前でそういうこと言いたくないけど」

 

「ハ? 法律とか」

 

「だから何?」

 

「だからね、彼女たちに手を出そうとすると……

国家に対してよくない人間とみなされます」

 

「ハハッ! なにそれ!? ウケるんだけど!!」

 

「こいつの親知ってる? 現役の国会議員だぜ!?

オッサンみたいな一般人よりも、よっぽど権力持ってんの!!」

 

「その程度の脅し、俺たちには効果ねぇから! はいザンネ~ン!」

 

「……え、それ本当? ちょっとそれはマズい……!!」

 

(あ、あれ? 師匠、どうしたんだろ……?)

 

 

 どうやらナンパ組の中には、国会議員を親にもつ者がいるらしい。それを聞いた鯉住君、さっきまでの冷静な態度が若干崩れ、やにわに焦りだした。

 

 それを見た夕張は、怖がることもすっかり忘れて不思議そうにしている。

 提督は佐世保第4鎮守府とかいう魔境での研修経験者。たかが国会議員程度の権力におびえる道理がない。

 

 

 

「ハハ! 今更焦ってんの! クソダセェ!!」

 

「違う! そういうことじゃない! 早く夕張に謝って!」

 

「なんで俺たちがそんなことしなくちゃいけないんですかー」

 

「ウケるんだけど!」

 

「早くしないと……! バレる前に!!」

 

 

「「「 バレる? 」」」

 

 

 

 

 

 シュルルルッ!!

 

 

 ギュッ!!

 

 

 

 

 

「もう遅い」

 

 

「「「 ガッ……!? 」」」

 

 

 ナンパ組の背後から影のように現れた男によって、彼らの首に一瞬にしてロープが巻き付く。

 その締まり具合は絶妙なようで、ギリギリ呼吸できるが言葉を発することができない強度で締め付けているようだ。カヒュー、カヒューと喉を空気が通る音を残して、3人は静かになってしまった。

 

 

「遅かった……!!」

 

「え!? し、師匠!? これどういうこと!?」

 

「お食事前に申し訳ございません。

ここでは人目に付くので、裏のほうまでご同行願えますか?

もちろんお食事代は上乗せしてお返しさせていただきますので」

 

 

「「 は、はい…… 」」

 

 

 謎の男の、まるでこれが通常運転とでも言わんばかりの態度に、逆らうことができない鯉住君と夕張。

 よくわからない集団となってしまった6名は、店舗のバックヤードへと移動することになった。

 

 

 

・・・

 

 

 

「災難でしたね。園内でご迷惑おかけしました」

 

「い、いえ、こちらこそ、余計な手間をかけさせてしまって申し訳ございません……」

 

「とんでもない。暴言に対しても紳士的な対応を崩さなかったのは、本当にお見事でございました。

お客様は相当な修羅場を踏んでいるとお見受けしました。素晴らしいの一言です」

 

「いやいや……そんな大したものでは」

 

「ご謙遜を」

 

 

 首に縄がまかれて白目をむいている3人を気にも留めず、普通にやり取りするふたり。それを見てなにがなにやらわからない夕張は、疑問を口にすることに。

 

 

「師匠……いったいぜんたい、どうなってるんですか……?

この人たちもすごく感じ悪くて変な人たちだったし……」

 

「あぁ、夕張はナンパってわかってなかったのか。

男がキレイな女の人にアピールするやり方の一種だよ。まぁ、この子たちは強引すぎる感じだったけど……

そういう手合いは相手しちゃうとしつこいから、これからは適当にあしらうようにしようね」

 

「そ、そうなんですね……わかりました……

ち、ちなみにこのすっごく強そうな方は……? 師匠のお知り合いかなにかですか……?」

 

「ええとね……そうだな……

この『瑞雲パラダイス』だけど、日本海軍と提携してるって言ったよね?」

 

「は、はい……それは聞いてますけど……」

 

「つまり、ここには艦娘が遊びに来ることも多いから……

警官じゃなくて憲兵の皆さんが警備にあたってるんだよ」

 

「あっ(察し」

 

 

 艦娘が遊びに来ることも多いということは、彼女たちに何らかの悪影響があった場合、日本海軍としてそれに対応する必要があるということ。

 つまり、日本海軍内での風紀と、護国の要である艦娘、その2点をあらゆる者から護る、憲兵隊の出番というわけだ。

 

 警官は法律準拠で理性的に行動するのに対して、憲兵は、日本海軍が関わる案件限定であるが『法律で裁くのが面倒、かつ、明らかに国家に害のある者』を裁く権限を持つ。

 憲兵隊の介入があった場所は、プチ治外法権となるのだ。

 

 

「しかも加二倉さんの話だと、鎮守府みたいな閉ざされた場所で働く憲兵さんより、エリアが広い場所で働く憲兵さんのほうが優秀ってことだから……」

 

「あぁ、なんとなく言いたいことが分かりました……」

 

 

 提督があれだけ、無礼な彼らを紳士的に止めようとした理由が何となく理解できた夕張である。

 

 

「加二倉さん……?

それに我々の内情に詳しいことに加え、艦娘と一緒にいるということは……

もしや貴方は、噂に名高い鯉住中佐では?」

 

「ええ……?

確かに私は鯉住ですけど、いったいどんな噂が出回ってるんですか……?」

 

「おお! やはり! 一度お目にかかりたいと思っておりました!!

憲兵隊の中では、貴方は加二倉殿を超える提督ということになっております!」

 

「ヒエッ……なんすか、その謎の高評価……」

 

「加二倉殿本人がそう言っていたのですから、間違いありません!

それならば、あの優しくも毅然とした態度も納得というもの! このようなところでお目にかかれるとは、光栄です!」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 

 まるでアイドルと会話できた一般人のように、目をキラキラさせて喜んでいる憲兵さん。

 このような取り締まるのが難しい広範囲エリアを任されているのだから、相当な実力者とみて間違いないのだが……鯉住君に対しての評価は、見習いの皆さんと同様にすごく高いようである。

 

 

「え、ええと……恥ずかしいな……

そ、それはともかくとしてですね、彼らについての処遇なのですが……」

 

「ああ。二等親以内を、二度と表に出られないようにしようかと。

これからも艦娘に手をかけるような発言もしておりましたし」

 

「ちょ、ちょっとやりすぎですよ! ナンパしたくらいで!

もう少し控えめにしてあげてください!」

 

「しかしですね。金持ちのボンボンほど、世の中の怖さを知らずに、怖い場所に首を突っ込むのがうまい人種はいません。

ここでひとつお灸を据えておかねば」

 

「お灸がマグマ並みに熱すぎるんですよ!

若気の至りってやつでしょうから、厳重注意くらいにしてあげてください!!」

 

「ふむ……流石は鯉住殿。敵対していた者にそこまでの情けをかけようとは……実にお優しいですな。

わかりました。ここは鯉住殿の顔に免じて、厳重注意ということで見逃しましょう」

 

「よ、よかった……」

 

「ただし、彼の親が国会議員というところは見過ごせませんね。

国家の骨子となる人材が、このような子を持っているなど、言語道断。子は親の鏡とも言いますので。

3日以内に辞職してもらい、これからは国益をひたすらに生み出す人柱となってもらうことにします」

 

「あ、やっぱりそんな感じになるんですね……」

 

「我ら憲兵隊は、より良い国家の存続のためにある組織。そこについては理解していただきたく」

 

「なんとなくわかってたんで……」

 

「恐縮です」

 

 

 非常に物騒な話が繰り広げられているのを見て、何とも言えない気分になっている夕張。あの時提督が焦りだした理由が完全に理解できてしまった。

 

 自分がしっかり断っておけば、彼らも幸せなままでいられたんだろうなぁ……なんて、他人事のように考えるくらいには、さっきの出来事に現実味がなくなっちゃっている。 

 

 

 

・・・

 

 

 

 結局あの後、憲兵さんにナンパ3人組を任せ、ふたりはデートを再開することにした。

 

 なんだかすごい展開に、ハイテンションで騒ぐという気分ではなくなってしまったので……鯉住君の「刺激が強いのはやめて、落ち着いた感じで行こう!」という必死の提案もあり、遊覧船や釣り体験でゆったりと楽しむことにした。

 

 

「夕張……なんかゴメンな? こんなことになっちゃって」

 

「そんなに気にしないで。

さっきのは、その……確かに色々衝撃的だったけど、いい経験になったから……」

 

「しなくてもいい経験だった気もするけどね……

ま……そんなに気にしてても仕方ないか。今から取り返すつもりでたくさん楽しもう」

 

「うん!」

 

「ふふ。俺の初めてのデートの相手がキミでよかった。ありがとうな、夕張」

 

「えへへ……私も幸せよ? 残りの時間いっぱい、存分に楽しみましょ!」

 

 

 それからふたりは夜になっても、園内散策やアトラクションを楽しみつくした。

 併設された水族館を楽しんだり、イルカやアシカのショーを見てテンションがあがったり、遊覧船から花火を見てロマンチックな気分になったり、一緒に観覧車に乗っていい雰囲気になったり。

 

 

 

 

 

 ……その中でも観覧車の中では起こった出来事は、特に衝撃的だった。

 

 

 

「うわぁ……すごい高い……! 見て見て! 大本営があんなに小さく見えるわ!

結構待ち時間あったけど、観覧車に乗ることにして正解だったわ!」

 

「そうだねぇ。横浜と横須賀は都会なだけあって、すごくキレイな夜景だ。

夕張は高いところ好きかい?」

 

「うん! いつもとは違う景色が見られて、とっても新鮮!

ジェットコースターやフリーフォールの時も、高いところまでいったけど、こんなにゆっくり見れなかったから」

 

「そりゃよかった。景色を楽しむってことだと、やっぱり観覧車だよね」

 

 

 夕張が高いところから見る夜の街並みを堪能していると……最上部に来た辺りで、提督から言葉が投げかけられた。

 

 

「……なぁ、夕張、ひとつ聞いてもいいかい?」

 

「え? どうしたの?」

 

「あのさ、いつも夕張、ケッコン指輪をしてくれてるじゃない?

他の、その……俺に好意を向けてくれてる子は、左手薬指に指輪してくれてるよね。初春さんとか、明石とか」

 

「あ……ま、まぁ、そうですね」

 

「夕張も、そういう気持ちを持ってくれてるのに、どうして右手なのかな、って。

もちろん、あまり気にしてないってことなら、それでいいんだけど」

 

「えーと、そのですね……」

 

 

 実は夕張はガチ勢の中で唯一指輪を右手にはめている(ガチ勢:初春、明石、秋津洲、アークロイヤル)。

 彼女が左手に指輪をはめていない理由。実はそれは彼女の乙女心からくるもの。

 

 

「あの……それはちょっと恥ずかしいから、言いづらいかなって……」

 

「……」

 

 

 夕張が指輪を右手にしている理由は……あんな無理やり渡されたものではなく、本当に彼の気持ちがこもった指輪を贈られる日を待っているから。

 

 つまり左手薬指にはめるのは、艤装としてのケッコン指輪ではなく、本当の意味での結婚指輪がいい。そういうことなのだ。

 

 

「そっか……それじゃ、今から俺がしようとすることに少しでも抵抗があるようなら、そうだと言ってほしい」

 

「ええと……いったい何を……?」

 

 

 

 スッ

 

 

 

「え……?」

 

 

 

 なんと彼は、夕張の右手薬指にはめられた指輪を外した。そして……

 

 

 

 

 そっ

 

 

 

 キュッ

 

 

 

「……!! うそ……!!」

 

 

 

 そして、彼女の左手をやさしく取り、その薬指に指輪をはめなおした。

 

 それは夕張が心の中でひっそりと望んでいたこと。まさにそれそのものだった。

 

 

「キミが嫌じゃないなら、そちらに指輪をしてほしいんだ。もし嫌なら、無かったことにしてもらって構わないけど……」

 

「そ、そんなはずない!

ど、どうして師匠は私が思ってることが分かったの……?」

 

「いや、ハッキリわかったわけじゃないけど……夕張ならそういう考えなんだろうな、って。キミは普段は活発だけど、本当は慎ましいから。

それに……なにより、俺がそうしたいと思ったから」

 

「そ、それって……!!」

 

「うん。人間同士の結婚とはどうしても形は違っちゃうけど……込めた気持ちは同じだ。

今までキミを気にかけてやれなかった俺のことを……愛し続けてくれて、ありがとう」

 

「し、ししょお……ううっ……!!」

 

「お、おわっ!?」

 

 

 喜びが上限突破し、涙を流しながらガバッと彼に抱き着く夕張。

 間違いなく彼女の生きてきた中で、一番嬉しい瞬間だった。感情を隠すなんてもったいないことはできなかった。

 

 

「ありがとう……ありがとう、師匠……!!

私もあなたのことが、大好きっ……!!」

 

「そう、だな。……知ってた。知ってたよ。ずっと前から」

 

「うぅ~……!!」

 

 

 

 このサプライズに完全に轟沈してしまった夕張は、思考回路がショートしてしまい、しばらく彼に抱き着いたまま離れることができなくなってしまった。

 

 それは観覧車を降りてからも同様だったので……彼女の左手薬指を見た、観覧車に列を作っているお客さんからは、誰からともなく祝福の拍手が贈られることとなった。

 

 

 

 夕張は指輪の一件が嬉しすぎたこともあり、そのあと帰るまで、いや、帰ってからも、何をしていても幸せで、表情が緩みっぱなしだったとか。

 

 水族館で撮ってもらった写真や、提督に買ってもらったイルカのネックレス、そして、彼のほうから贈りなおしてくれた結婚指輪は、何があってもずっと大切にしていこう。そう心に決める夕張なのであった。

 




これにて夕張のサービス回終了となります。
末永く爆発しろ……末永く爆発しろ……!! という思いを目いっぱい込めて書きました。

その結果、私のメンタルがゴリゴリ削れました。
もう……ゴールしてもいいよね……?







 雰囲気ぶち壊しの余談。翌日の朝、大本営にて



「あ、師匠……おはようございます。
昨日は、その……ありがとうございましたっ!!」

「おはよう、夕張。それはこちらのセリフだよ」

「これからは私たち、夫婦ですよね……えへへ……」

「そうだね。これからよろしくね。
……ただ、ひとつ、いや、ふたつかな。すぐに伝えなきゃいけないことがあってね……」

「え、な、なんですか?」



「まずひとつめは……
夕張とは夫婦の間柄になったけど、俺はこれから他のみんなとも真摯に向き合おうと思ってる。
だから多分、重婚のような形になっちゃうから、それを夕張に謝っておかないとと思って……」

「なんだ、そんなことですか」

「そ、そんなこと?」

「はい。それくらい私はもうわかってますから、大丈夫です。
というより、師匠が他の皆さんをないがしろにして、私とだけ仲良くしようと思ってるような人だったら、私は惚れてませんよ。
ひとりを選ばないといけない理由なんて、私達にはありませんし」

「そ、そうか……そう言ってくれるのは本当に助かる。
かなり、いや、一番俺が気にしていた部分だったからね……」

「そういうこと真剣に考えてくれるから、好きになったんです」

「……ありがとうな。本当にいい相手に恵まれたよ」

「ふふ。それは私も一緒ですよ。
……それで、もうひとつの伝えたいことって、いったい何なんですか?」

「……」

「……師匠?」



「あの、その……こういうことってあまり言いたくないんだけど……言っとかなきゃいけないし……
セクハラっぽくなっちゃうけど、ほら、大事なことだから……」

「ほ、ホントになんなんですか!?」

「あのですね……」





「夫婦と言っても俺たちは上司と部下です。
過度な肉体的接触はするつもりがありませんので、ご理解いただきたく存じます」





「……」

「……ということなんだけど……」

「……なんで敬語?」

「いや、なんとなく……」

「その……つまりそれって……そういう行為はしません、ってことでいいのよね?」

「うん。そう。
今言ったように、上司と部下でそういうのってご法度だと思うし、なにより駆逐艦のみんなと結婚したときに、そういうことするのは抵抗感しかないし……見た目年齢的に……」

「……ふーん?」

「ほ、ホラ、相手によってそういう関係かどうか違うっていうのは、やっぱりよくないことでしょ?
そんな変なところで差別したくないし……」

「……はぁ。まぁ、いいですけど……
そういう行為もあるだろうなって、私、覚悟してたんですからね?
それに、その、ちょっと期待してたところもありますし……」

「す、すまん夕張……ただ、そこはあれだよ。
他のみんなとも結婚することがありそうな以上、その一線は譲れないところでだね……」

「師匠が漢を見せて、結婚した全員とそういうことしながら、上司と部下の関係を続けるっていう選択肢は?」

「ゴメン。流石にそれは無理。俺、そんな漢の中の漢じゃないから……」

「……はぁ。わかりましたよ、もう……
別に私たち艦娘は性欲が強いわけじゃないですので、それでも構いません。
人間と比べたら艦娘って、随分と淡白なようですから。そういうことでも、夫婦として良好な関係は築けるはずですし」

「それは助かる……いや、ホントに……」

「朝からなんて話をしてくれてるんですか……もう……」

「なんか後々にまでこの話持ち越してると、とんでもないことが起きそうな予感がひどくてね……」

「それはまあそうでしょうけど……
……あぁ、もう! 気持ち切り替えていきますよ! その件はわかりましたから、普段通りにしましょう!
今日は大本営で過ごす最後の日ですから、皆さんに泊めていただいたお礼して周ったり、研修引き受けの最後の挨拶しなきゃなんですから!」

「そ、そうだな! こんなところで時間食ってる場合じゃないよな!
それじゃまずは元帥に挨拶しに行こう! 昇進のお礼も兼ねて!」

「もう……それじゃ行きますよ!」

「お、おう!」
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