艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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実は120話とまとめるつもりだったのですが、長くなっちゃったので分割しました。というわけで時間を置かずに投稿。




第121話

 

 波止場には鯉住君と夕張、研修生となる瑞鶴と葛城、そして彼らを見送りに来てくれた皆さんが揃っている。

 

 鯉住君は今現在、以前お世話になった大本営第1艦隊の木曾と話をしているところだ。

 

 

「皆さん、わざわざ見送りに来てくださって、ありがとうございます」

 

「気にするなよ、中佐……じゃなくて大佐か。俺たちとしても、仲間を預かってもらうわけだしな」

 

「おふたりは責任もって面倒見させていただきますね」

 

「ああ。信用してるぜ。

しかし瑞鶴と葛城の教導艦……天城とアークロイヤルだったか。俺は直接戦ったわけじゃないから、ハッキリとした実力はつかめてないが、とんでもなく強いんだろ?

元帥が教えてくれたが、転化体っていうそうだな。元深海棲艦。にわかには信じられない話だが……」

 

「ええ。そうです。実は元深海棲艦、しかもレジェンドクラスなんですよ。強さもそれはもう凄くて。わかりやすく言うと、先日演習を行った川内さんが本気になったとしても、いい勝負ができるくらいと見ています」

 

「あのレベルかよ。それは凄まじいな……ん? 『本気になったとしても』……?」

 

「はい。あの時の川内さん、本気じゃなかったので」

 

「は? いや……は? ウソだろ?」

 

「ウソじゃないですよ。あの時確かに本気で動いてはいましたが、一番得意な近接戦を縛ってたみたいなので」

 

「確かに砲雷撃戦しかしてなかったが……」

 

「あの人が本気で近接戦したら、轟沈艦がでちゃいますので。一応配慮してくれてたんだと思います」

 

「……轟沈? 演習でか? 大佐が言うことは、相変わらず意味わかんねぇわ……」

 

「その評価、心外ですからね?」

 

 

 ふたりが川内の異次元っぷりを再確認していると、研修空母コンビが話に入ってきた。

 

 

「木曾さん! 私、必ず強くなって帰ってくるから! それこそあの川内さんに勝てるくらいに! 期待しててね!」

 

「ん? ああ、当然だ。たっぷりしごいてもらえよ、瑞鶴。葛城も期待してるからな」

 

「はい! 木曽さんみたいなスゴイ人にそう言ってもらえて、私、嬉しいです!」

 

「おう。本当に期待してるんだ。しっかり頑張って来いよ。ふたりとも」

 

「「 ハイ!! 」」

 

 

 艦隊のまとめ役である木曾にここまで言ってもらえて、思わず笑顔になるふたり。尊敬する人物に期待されるというのは、やはり嬉しいものだ。

 

 そんなふたりだったが、瑞鶴が何かに気づいたようだ。見送りメンバーをきょろきょろ見渡している。

 

 

「……あれ? そう言えば翔鶴姉は? 朝は一緒に居たのに……」

 

 

 瑞鶴と姉妹仲が良い、第2艦隊メンバーである翔鶴の姿が見えない。かわいい妹の門出なのだから、見送りに来ないというのもおかしな話だ。

 少し不安そうにしながら姉妹を探す瑞鶴に、同艦隊メンバーの加賀が話しかける。

 

 

「五航戦の控えめな方なら、先ほど横須賀第3鎮守府に向かいました」

 

「えぇっ!? なんで!? 私そんなの聞いてない!! どういうことなの、加賀さん!?」

 

「元帥と横須賀第3の鳥海に頼んで、研修を受けさせてもらうように打診していたわ」

 

「そんな、翔鶴姉……そんな大事なことなのに、なんで……」

 

 

 なぜそんな大事なことを、妹の私に相談してくれなかったのか。そんな思いが胸中にあふれ、瑞鶴はショボンとしてしまった。その様子を見る加賀は言葉を続ける。

 

 

「『自分が許せなかった』。あの子はそう言っていたわ。

……あの演習を見た後、妹が迷いなく『強くなりたい』と言い出した。それを見たあの子は『妹のことを誇りに思ってしまった』そうよ。あろうことか」

 

「そ、そう思ってくれたなんて嬉しい……って、そうじゃなくて! それの何が翔鶴姉にとって問題だったの?」

 

「ハァ……これだから五航戦の控えめな方は……」

 

「ハァ!? ちょっと加賀さん!! それ翔鶴姉に対しての『控えめ』と、絶対意味が違うよね!?」

 

「そんなことはどうでもいいわ。……現役である艦娘が、他の艦娘の必死な姿を見て『あぁ、誇らしいなぁ』なんて思ったのよ? 弱い自分のことを棚に上げて。それが恥でなくて、何が恥だというのかしら?」

 

「そ、それは……!!」

 

「とにかく、あちらの控えめな方は、柄にもなく強くなろうと決意したということ。仲の良い妹に連絡もせず発ったということは、そういうことよ」

 

「そう、だったの……」

 

 

 どうやら瑞鶴と仲良しな翔鶴は、自分の精神が緩んでいたことを恥じ、こっそりと研修に旅立ったらしい。

 いつも妹と一緒に行動するほど仲が良かったことを考えると、相当な覚悟だと言える。

 

 

「ねぇ提督。いつもより加賀さん厳しくないでちか? ちょっと言い方にトゲがあるっていうか」

 

「ゴーヤならわかるだろう。あの態度は自分に対してのものでもある、ということだ」

 

「……そっか。ゴーヤにも加賀さんの気持ち、わかるでち」

 

「あぁ。俺にもわかるぜ。加賀さんが気合入ってる理由。

瑞鶴、葛城のふたりはもちろん、翔鶴の奴も確実に強くなる。俺たちも負けてられない」

 

「木曾の言う通りでち。いつまでも第1艦隊とか言って、胡坐かいていられないでち」

 

「はい……今までの訓練内容を改めないといけませんね……」

 

「扶桑さんもあの演習で、いい刺激受けたんだな」

 

「ええ。私もまだまだだとわかりましたので……」

 

「もちろん俺もこのままじゃ終わらねぇ。義兄さんも楽しみにしててくれよな」

 

「義兄さん呼びよりも階級で呼んでいただいた方が……まぁ、いいか。皆さん、無理せず頑張ってくださいね。陰ながら応援してます」

 

「任せとけ。ただし無理はする」

 

「当然でちね。ぬるい訓練なんて、訓練とは言えないでち」

 

「ええ。自分を追い込むことになると思いますが、必要なことですので……」

 

「鎧袖一触よ。心配いらないわ。大佐」

 

「だ、大丈夫かな……? とにかく、やりすぎないようにだけは注意して下さい」

 

「安心しろ、大佐。ここにいる者は皆、己の限界を見極めることくらいできる」

 

「……それもそうですね。余計な心配でした」

 

 

 どうやら例の演習を見たことで、大本営の実力者たちに火が付いたようだ。

 

 普段は実戦よりも新兵への教導を優先しているせいか、闘争本能を刺激される機会が少なかったのだろう。もちろん自分たちよりも実力がある者が身の回りに少なかったのも一因だ。

 自分たちに伸びしろが十分にあることを自覚し、やる気をみなぎらせている。

 

 

「大本営の皆さんに負けずに、ウチも頑張ります。本当によくしてくださって、ありがとうございました」

 

「うむ。それはこちらのセリフだ。大佐のおかげで皆に気合が入った。また何かあれば、こちらからも頼むことがあるかもしれない。その時はよろしくな」

 

「はい。もしもそのようなことがあれば、ウチの方でも誠心誠意対応させていただきます」

 

「頼りにしている」

 

 

 

・・・

 

 

 

 そんな感じで最後の挨拶をしていると、鯉住君のところに大和がやってきた。

 

 

「大佐、ここ数日間、お世話になりました」

 

「あ、大和さん。とんでもない。こちらこそお世話になりっぱなしで」

 

「ふふ。大佐が来て下さると、必ず何かが起こるので、みんなにもいい刺激になるんですよ」

 

「何かを起こしたくて起こしてるわけでは……ま、まぁ、あれです。そう言ってもらえるのは素直に嬉しいです。いつも厄介な話ばかりで申し訳なく思っているので」

 

「厄介だなんて、そんな。……あの、話は変わるんですが、確認しておきたいことがありまして。ひとつだけ聞いてもいいでしょうか?」

 

「? もちろんです。ひとつと言わず、いくつでも聞いてください」

 

 

 鯉住君の言葉を受けて、少し不安げに大和は話を続ける。

 

 

「あの……昨日の話なんですけども……

大佐は昨日、これから部下の皆さんと向き合っていくとお話してくださいました。それなのに私が、今まで通り大佐と接してもいいものなのかな、って。もっと距離を置いた方がいいんじゃないか、って思ったんです」

 

「……あぁ、なんだ、そんなことですか」

 

「そ、そんなこと……? ケッコン艦でもない私がそこまで親しくしていたら、部下の皆さんに迷惑なのでは……?」

 

「違います。それは違います、大和さん。

私の部下は、全員、そんな些細な理由で大事を見失ったりはしません。一番大事なことは、よりよい未来を全員で目指すことですから。

大和さんと仲良くさせていただいているのは、その一環でもあります。それはみんなわかってくれています」

 

「そ、それは……そうかもしれませんが……」

 

「大和さん。望む未来を創ることは、私ひとりでも、部下たちを含めたとしても、不可能なんです。私達だけでは、大きな方針を決めるには視野が狭すぎますし、できることも限られていますから。

私たちが抱える意味不明な案件を、いつもうまくまとめてくれる大和さんが、どれだけありがたい存在か。それが分からない部下はウチにはいませんよ」

 

「……そうですか。ありがとうございます」

 

「それはこちらのセリフですよ。ありがとうございます。いつもいつも助けてくれて。

だからこそ……私は今までよりも強く、大和さんを助けたいと思っています」

 

「大佐には十分助けられていますよ」

 

「それでもです。私はもっと大和さんのチカラになりたい。人類と艦娘の未来を一番考えているのは、大和さんだと思っています。だから貴女にチカラを貸さないなんてこと、ありえないんです」

 

「そう、でしょうか」

 

「はい。人類が大事と考えている人は、いっぱいいるでしょう。でも、人類と艦娘はどちらも対等な存在、並び立つ相手……そう考えられていて、実際にそれを踏まえて動けている人を、私は大和さん以外に知りません。

……だから俺は、貴女の創る未来が見たい。人類と艦娘が笑いあって過ごせる未来を、尊敬する貴女と一緒に創りたい。そのために協力を惜しまないのは当然です」

 

「……ふふ。責任重大ですね」

 

「そんなに気負わないでください。俺にも一緒に背負わせてください。ひとりで抱え込むことなんてないんです」

 

「龍太さん……」

 

「……なんて偉そうに言ってますけど、ひとりで抱え込むな、ってのは、部下から教わったことなんですよね」

 

「そうでしたか。素晴らしい方々ですね。本当に」

 

「はい。私の自慢です」

 

「ふふ。それでは、これからもよろしくお願いしますね」

 

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 

 

 どちらからともなく手を差し出し、固く握手を結ぶふたり。向かい合うお互いの顔には、柔らかな笑みが浮かんでいた。

 

 

 

・・・

 

 

 

 話に花が咲いているところだが、そろそろ時間である。それぞれ最後の挨拶をすまし、鯉住君達は定期連絡船へと乗り込んだ。

 

 連絡船に乗客全員が乗り込み、タラップが外される。ついに出航の時間だ。ボゥーッという汽笛と共に、定期連絡船が動き出す。

 

 

 ラバウルは日本から遠いこともあり、定期連絡船でそこまで到着するには、乗り継ぎ含めて数日かかる。だから乗客には部屋が用意されている。

 

 今回は2人部屋を2つ借りることに。

 部屋割りは空母組とラバウル第10組。鯉住君と夕張で男女相部屋となるが、鯉住君は「夫婦だし問題ないよね?」と言って、さらりと予約してきた。

 これには3人とも赤面。空母組には「夫婦だけどそういった行為はしない」云々は伝わってないので、「そういうことなんですか!? 私たちの隣の部屋で!?」なんて思うのは当然だ。

 夕張は夕張で、そういうことはないのは分かっているが、いつものへっぴり腰でない提督にドキドキしてしまった。

 

 そんなこんなで若干わちゃわちゃしてしまったが、現在はみんな荷物を部屋に置き、支度を終え、船内で自由に過ごしている。

 

 鯉住君はと言えば、定期連絡船の外側通路でゆっくりしている。

 特にやることもなく、一息ついたのもあって、船に寄り添って飛ぶ海鳥を眺めながらボーっとしていると、夕張が話しかけてきた。

 

 

「ねぇ師匠」

 

「……ん? どうした夕張?」

 

「出航前に、大和さんとどんな話してたんですか?」

 

「あー……俺、帰ったらさ、キミたちひとりひとりと、しっかり話し合うつもりじゃない?」

 

「はい」

 

「だから大和さんは、今まで通りの距離感で大丈夫か、って心配してくれたの。部下でもないのに、そんなに親しくしちゃっていいのか、って」

 

「そうなんだ。優しい方ですよね」

 

「うん。だからね。疎遠になる必要なんてない、むしろもっとチカラになりたい、って伝えといた。大和さんが見ている目標は、素晴らしいものだからね」

 

「むー……私たちのことも、ちゃんと見てくださいね?」

 

「当たり前だよ。大和さんに今まで以上に協力するって言ったのも、キミたちだったらそう答えるだろうと思ったのもあるからね。

……俺たちは俺たちにできることをやろう。決して妥協せず、みんなが笑っていられる未来に進もう。頼れる人たちもいる。キミたちとなら、それができる」

 

「はい。ついていきます。どこまでも」

 

「ありがとうな」

 

 

 隣り合ったふたりはしばらく、遠ざかる本土を眺めていた。

 

 

 

・・・

 

 

 

「大和君」

 

「? どうしたんですか? 提督」

 

「今更だが、本当によかったのか?」

 

「なんのことでしょう」

 

「大佐とのことだ」

 

「……よかったんですよ。これで」

 

「ふむ」

 

「大佐は私の心の中にあった目標を理解してくれて、応援したい、協力したいとまで言ってくれました。それ以上に何を望みましょうか」

 

「彼は本当に人をよく見ている。心根も強く暖かい。信頼に足る人物だ」

 

「はい。本当に。だからこれでよかったんです。

応援してくれる人がいる以上、頑張らないといけませんからね。新しいやりがいができて、私は嬉しいです」

 

「そうだな。認めてくれる相手がいるというのは、素晴らしいことだ」

 

「ええ。だから私が今まで通り大本営で仕事することには、何の不満もありません。これが私にできることで、私がしたいことですから」

 

「そうか」

 

「はい。……ただ……」

 

「ただ?」

 

「ただ……ちょっとだけ、もったいなかったかな、って」

 

「……そうか」

 

 

 出航した船を見送る大和。その視線の先では、仲睦まじそうな二羽の海鳥が、寄り添って飛んでいた。

 

 





この章は少し長かったですが、ここまでとなります。
次回からは鯉住君大佐編ですかね。




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