このお話も終盤に入ります。うまいことまとめていかないとですね。
あ、一応補足ですが、大本営第2艦隊の翔鶴が研修に出向いた関係で、欧州救援の増援は五航戦コンビから横須賀第3の二航戦コンビに変更となりました。
実力的には全く問題ないふたりですので、さらっと決まったようです。
プチ情報
本作品における、艦娘の所属鎮守府に対する心象アンケート(提督に抜き打ちで調査)
「つらい」0.2割
「ガマンできる」3割
「不満はない」4割
「満足している」2割
「異動したくない」0.8割
鼎大将組は大体の所属艦娘が一番下の項目です。うまく運営できているようですね。
他所ではうまくやっていけないメンバー(将棋ジャンキー、阿修羅、謎のデメリット持ち)が多いとも言います。
参考までに、真面目にやってる中で平均的な鎮守府である、鈴木大佐(ラバウル第9基地)のところでは、大体の艦娘が「不満はない」「満足している」になります。
第122話
「ようやく帰ってきたなぁ」
「そうですね、師匠。と言っても、2週間も経ってないんですけどね」
「川内さんに拉致られたのが、なんだかすごく昔のように感じるよ……」
「私もです……」
ここはパプアニューギニアのラバウル基地エリア。そのエリアの中でも南端と言ってもよいポポンデッタ港。
本土から数日掛けて到着した定期連絡船からは、観光客や仕事で来た人間がぞろぞろと出てきている。
その中に見える一団である4人の人影。
少し高めの背で浅黒く日焼けした男性と彼に寄り添う小柄でかわいらしい女性、そして実にスレンダーである、大学生の先輩後輩めいたふたりの女性。
その4名は順に、ここから車で30分ほど離れたところにある『日本海軍・ラバウル第10基地』の主である「鯉住龍太大佐」と、その部下であり弟子であり艦娘でもあり伴侶でもある「軽巡洋艦・夕張改」。
そして研修生として大本営からやってきた艦娘「装甲空母・瑞鶴改二甲」「正規空母・葛城改」である。
長い船旅でカラダが凝り固まってしまっているのだろう。
船着き場で立ち止まり、全員で軽いストレッチをしているところだ。
「うー……んっ! ようやく陸の上に足をつけられたわねー」
「そうですね先輩! さすがに何日も船の上だと、カラダが鈍っちゃいますね……っふぅ」
「キミたち元々は艦なのに、そういう感覚あるんだねぇ」
「そうね。いくら艦娘は人間と違うとは言っても、その辺は変わんないわ」
「それもそうか。夕張は平気かい?」
「ハイ! 本調子とは言えませんが、久しぶりにみんなと会えると思うと疲れも吹き飛びます!」
「そっか、それならよかった。個人的には戦々恐々なんだけどね……」
ようやく目的地に到着して、ニコニコしている艦娘3名に比べて、鯉住君はそこまで手放しで喜んでいるわけではないようだ。
というのも、今回の旅先で彼はついに『好意を寄せてくれている部下全員と真摯に向き合う』という一大決心をしたのだ。
それはつまり、現代社会ではタブーのひとつとされている重婚に繋がることであり、今までのらりくらりと躱してきた好意を真正面から受け止めるということでもある。
これからそんな一大イベントが待ち受けているというのが、彼が自然体でいられない理由であり、苦笑いを浮かべている理由だったりする。
「まぁ、今更そんなこと言っても仕方ないか。腹をくくるしかない」
「そうですよ。私だけイイ思いしてたら申し訳ないですからね。他の皆さんともしっかり話し合ってくださいね?」
「わかってるさ。……それじゃ、タクシー拾って鎮守府まで向かおうと思うけど、その前に街で買っておきたいものとかあるかな?」
「いいえ、私は大丈夫。葛城も大丈夫?」
「はい先輩! あ、そうだ。大佐、生活に必要なものとかって鎮守府にあるんですよね?」
「うん。その辺は心配しないでくれ。叢雲と古鷹が用意してくれてるはずだ」
「それならオッケーです!」
「よし、それじゃ行こうか。久しぶりのホームだから楽しみだ」
「「「 わかりました! 」」」
・・・
移動中……
・・・
「「「 …… 」」」
タクシーに乗って約30分。
ついに本拠地である鎮守府に到着したのだが……
「……ねぇ大佐?」
「はい」
「私たちが前来た時から、鎮守府増築したの?」
「してません。俺もこんなの知りません」
「だよね。大佐のリアクション、そういうリアクションだもんね……」
「はい……」
久しぶりにホームに戻れて喜び溢れる……はずだったのだが、そういうわけにはいかなかった。
なぜかと言えば、予想外な出来事が起こっていたからだ。
「なぁ夕張、多分あれって工廠だよな……?」
「そうなんじゃないでしょうか。他に思い当たる設備もないし。
……しかしすごく立派ですね、アレ……」
ここラバウル第10鎮守府の工廠というのは、和風建築である豪農屋敷(鎮守府棟)の隣にある、蔵みたいな建物だったはずだ。
もちろんそこにはまだ見慣れた工廠(蔵)があるのだが、問題はその奥。
鎮守府建築の際に出てきたであろう端材が放置されていた場所だったのだが、なんとそこに立派な建物が建っていた。
赤レンガで造られた2階建てのモダンな建物。工場制手工業でも行われてそうなデザインである。
「なんで俺が鎮守府から移動すると、毎度毎度、部下が増えたり建物が増えたりするんだろうな……」
「ねぇ大佐。さっそく私、ここでうまくやっていけるか心配になってるんだけど」
「一緒に覚悟決めましょう、瑞鶴さん……」
「なんで大佐は自分の本拠地に戻ったのに、覚悟決めないといけないのかな……?」
なんでこんなことになってるのに秘書艦は教えてくれなかったのか、とか、工廠のキャパが限界に近かったのでアレが工廠なら助かっちゃう、とか、ツッコミを入れたいのに事態が好転していてツッコミきれずなんか無性に悔しい、とか……
色々言いたいことはあったけども、何が何やらわからないため何も言えず、トボトボと鎮守府棟へと向かう鯉住君達なのであった。
ちなみに葛城は増築された謎の建物云々以前に、一面に広がる緑豊かな畑とか、そこでせっせと働く妖精さん達とか、段々になった山葵田や生簀とか、鎮守府にあるはずのない旅館とかプールとか水族館とかを目の前にして、すっかり放心していたそうな。
・・・
鎮守府棟(豪農屋敷)のほうまで歩いてくると、入口のところでは秘書艦のふたりが待機していた。
鯉住君がタクシーに乗るときに連絡していたので、それで待っていてくれたようだ。
……なんだかふたりとも機嫌悪そうにしているのは、気のせいだろうか?
気のせいに違いない。気のせいだといいなぁ……
「た、ただいま。ふたりとも、久しぶりだね」
「おかえりなさい」
「お久しぶりですね、提督。夕張先輩も」
「ただいま、古鷹。なんだか私たちがいない間に、色々あったみたいじゃない」
「そうですね、色々と。……先輩たちの方も色々あったみたいじゃないですか」
古鷹の目線が、夕張の左手薬指に向かう。
例のデートで何が起こったのか、詳細までは話していないのだが、手持ちの情報をもとに何が起こったのか予想していたようだ。
当然乙女のカンもビンビンに働いていたからこそ、気づいたのだろうが。
「そ、そうね。こっちも色々あったわ。天龍さんと龍田さんが欧州に向かったり、こちらのおふたりが研修ってことでウチに来ることになったり」
「それもそうですが、私たちの関心は……
……まぁ、それはそれとして置いておきますね。あとで色々お聞きする場も設けてありますし」
「「 えっ 」」
なんか不穏な発言があったので、反射的に聞き返してしまう鯉住君と夕張。
しかしそんなふたりに構わず、古鷹は空母ふたりに挨拶を始めた。
「瑞鶴さん、お久しぶりです。葛城さん、初めまして。これからよろしくお願いします!
瑞鶴さんは二度目だから今更かもしれませんが、ここはかなり特殊な場所で、日本海軍っぽくないとよく言われます。ですがとっても居心地がいいところなので、存分に羽を伸ばしながら鍛えていってくださいね!」
「う、うん。これからよろしくね。頑張るから」
「ヨロシクオネガイシマス……」
色々聞きたかったけど勢いに流されてしまう瑞鶴に、いまだ心ここにあらずな葛城である。
そんなふたりの様子に構わず、叢雲が話を進める。
「それじゃふたりの案内は古鷹に任せるわ。ここでの部屋割りとか、暮らし方のルールとか、施設案内なんかをしてもらうから。聞きたいことがあったら何でも聞いてちょうだい」
「「 は、はい 」」
「ではおふたりは私についてきてくださいね。まずはお荷物を置いてきてもらいたいので、おふたりのお部屋まで案内いたします」
「「 は、はい 」」
流れるような誘導に、流されるままになってしまっている空母ふたり。
古鷹に連れられて艦娘寮(旅館)の方までトボトボ歩いて行ってしまった。
この場に残されたのは、筆頭秘書艦である叢雲と、鯉住君に夕張。
いったい何が始まるんです!? なんて戦々恐々してるところ、叢雲が口を開く。
「さて、アンタには色々と聞きたいことがあるんだけど……とりあえずはお疲れ様。夕張もコイツの御守りご苦労様だったわね」
「あ、ああ」
「は、はい」
「ひとまず言っておかないといけないことは、そうね。
今日の夕食は会食形式にしてあるから、楽しんで頂戴。足柄と秋津洲が随分と気合入れて仕込みしてるから」
「お、おう。そうなのか。それはすごく楽しみだ。
……ちなみにそれはあれかい? 研修生の受け入れ記念パーティみたいなことかな?」
「それもあるし、アンタと夕張のお帰り会でもあるわ」
「へぇ、それは嬉しいなぁ。わざわざそこまでしてくれるなんて。ありがとう」
「そして、アンタと夕張のガチ婚祝賀会でもあるわ」
「「 ファッ!? 」」
まさかの発言に、変な声を上げてしまうふたり。
「アンタ自分で言ってたじゃない。『夕張の気持ちを大事にして、デートしてくる』って。
夕張の気持ち大事にして話がこじれてないんだったら、それもうガチ婚しかないから。それくらいみんなわかってるから」
「そ、そうすか」
「私たちとしても夕張の気持ちはよくわかってたから、お祝いしてあげたいって気持ちは素直にあるのよ。この唐変木にそこまで決心させたのを労う目的もあるわ」
「あ、ありがとうございます」
「で、その会食の後は、アンタと夕張が夫婦になった話とか、今後の私たち他の部下とのあれこれについて会見を開く予定になってるから。しっかり心の準備しておきなさいよ」
「なんすかそれ……落ち着いて食事できない……」
「安心なさい。別にアンタを糾弾しようなんて誰も思ってないから。楽しむときはしっかり楽しんで、やる時はしっかりやればいいのよ」
「まぁ、そうなんだけどなぁ」
「ま、アンタが見合いの話黙ってたことについては、ひとこと言わせてもらうけど。全員から」
「やっぱりそういうのじゃないか……ハァ……」
なんだかんだで針の筵となるであろう会見の様子を想像して、ため息をつく鯉住君。
とはいえお見合いの件を黙っていたことに部下が色々思うところがあるのは、それはやっぱり自分のことを大事に想っていてくれているから。
普通の提督と部下との関係であれば『ご結婚おめでとうございます』の一言で済まされてしまうことを考えると、随分と愛されている証拠だろう。
そこまで分かっていてゴネるような真似はしたくない。
これも甲斐性のひとつだと受け入れることにする。
「……わかった。そこは俺もキミたちの気持ちを無視して悪かったと思ってるから、疑問にはひとつひとつ丁寧に答えることにするよ」
「……へぇ。アンタ本当に変わったわね」
「そうかな? そうでもないと思うけど」
「いえ、師匠は変わりましたよ。変わってくれました」
「そうよ。夕張の言うとおりね。
前までのアンタだったら『しょうがないから対応する』って態度で一貫してたはずよ」
「それは、そうかも」
「これから楽しみにしてるわね。色々と」
「お手柔らかに」
・・・
「そうだ。こっちも聞きたいことは色々あるんだけど、とりあえずひとつだけ。……あの建物、なんなの?」
なんだか空気が柔らかくなったと感じ、話題を変える鯉住君。
さっきから視界の端にチラチラ映る、あのレンガ造りのモダンな建物。アレが何かについては、すぐに確認しておくべきだろう。
「あぁ、アレはね。よくわからないわ」
「……ん?」
「よくわかんないのよ」
「いやいや、いくらなんでもそんなことないでしょ?」
「アレが出来たのって、今朝のことだから」
「……今朝?」
「今朝」
なんか秘書艦がよくわかんないこと言いだした。
「あの建物、昨日までは影も形もなかったのよ。少なくとも昨日の夜勤のタイミングでは、ただの廃材置き場だったわ」
「ウソぉ……」
「一応は一通り中を確認したんだけどね、どう見ても工廠だったわ。必要な機材や設備まで完備されてて、今すぐに使えそうな状態だったわね。あとはそうね、今までウチで使ってた場所(蔵)の、少なくとも5倍ほどは広いわ」
「ヤバいなそれ。俺が前にいた呉第1鎮守府の工廠クラスじゃないか」
「しかも艦娘寮(旅館)に使われている『まったく結露しない塩ビ配管』で水冷されてて、かなり涼しい状態になってるわね。肌寒いくらい。あ、ちなみにあのレンガも結露しない素材みたいね」
「あー、いつものオーパーツかぁ……十中八九、英国妖精シスターズだろうなぁ……」
「まぁアレよね。前に艦娘寮(旅館)建ててくれた時と同じで、人数増えるから施設の強化してくれたんでしょうね。自発的に」
「だろうねぇ」
(ざっつらいとでーす!)
(がんばりました! ひええー!)
(わたしたちもしんかしてるのです! だいじょうぶです!)
(そうぞういじょうをていきょういたします! けいさんいじょうです!)
「あ、やっぱりそうなんだ。キミたちが建てたんだね、アレ」
「いきなり現れたわね。それはそうと、やっぱりこの子たちの仕業だったの」
「相変わらずこの子たち自由ですよねぇ」
いつの間にか登場していた英国妖精シスターズによれば、予想通り彼女たちの仕事らしい。
なんだかんだ言いつつも、まるで動揺していない3名。慣れとは恐ろしいものである。
(むらくもとでんわしてたとき、いってたねー! にゅーふぇいすがとうじょうするって!)
(だからしせつをきょうかしました! はい!)
(ていとくのごきかんにあわせた、さぷらいずです!)
(ここはですね! わたしたちのあたまをなでていただくのが、じょうさくかと!)
「あー……まぁ、実際に工廠が狭く感じてたところだからなぁ。
結果的に助かったよ。ありがとな、お前たち」
なでなで
((( あ゛ぁ^~ ……!! )))
鯉住君に頭をグシグシ撫でられてつつ、だらしない顔で彼に抱き着く英国妖精シスターズである。
「それじゃ謎の建物についても解決したところで、他の情報共有といきましょう。天龍たちのことも聞きたいし」
「あぁ。俺も海域解放の流れとか知りたい。頼んだよ」
「それじゃ私はどうしてましょうか?」
「夕張は大丈夫かな。疲れも溜まってるだろうから、夕食まで休んでていいよ」
「ありがとうございます」
これから先の情報共有は、あくまで提督と秘書艦の間でしておけばよいものだ。
だから夕張には席を外してもらおうとしたのだが……
「ちょっと待って」
「? どうしたんですか、叢雲さん? まだ何かあるんですか?」
「あるのよそれが」
「……ッ!?」
なんか不穏な予感がしてきて、ブルッと身震いする鯉住君。
「これを見ればわかるわ」
そう言っておもむろに端末を取り出す叢雲。その画面に映っていたのは……
「 お゛う゛っ゛!!? 」
佐世保第4鎮守府での一幕。
満面の笑みで幸せそうに寝ている清霜と夕立から、鯉住君がガッチリと抱き着かれている写真だった!
「あー……師匠コレ……」
「ななななんでこの写真があるの!? ていうかなんで叢雲がソレ持ってんの!?」
「足柄から受け取ったわ。清霜所属の礼号組ネットワークで拡散しているそうよ」
「ファッ!?」
「もっと言うと、夕雲型ネットワークと白露型ネットワークでも拡散しているそうね。バズってるらしいわ」
「無慈悲すぎる!!」
「さぁ……私にちゃんと説明できるんでしょうね?
ウチのメンツならまだしも、他所の艦娘に手を出した理由……説明してもらうわよ?」
「ご、誤解なんだって!!」
「それを判断するのはアンタじゃないわ。私よ。
夕張は知ってることを話してちょうだい。コイツが思ってることと実際にこの子たち(清霜と夕立)が思ってることが違うくらい、私にはわかるんだから」
「それはそうですね。師匠、頑張ってください」
「夕張!?」
「さ、詳しい話は執務室で聞かせてもらうわ。夕張も着いてきて」
「分かりました」
「うおぉ! ヘルプ! ヘールプ!!」
両腕を両側からガッチリと掴まれ、泣きそうな顔をしてドナドナされていく鯉住君なのであった。
(ていとくはもてもてでーす!)
(さすがはしれいですね! ひええー!)
(わたしにも、もっとかまってほしいです!)
(けいさんいじょうのおかたですね!)
礼号組ネットワーク一部抜粋
清霜(佐4:見て見てー! 川内さんにもらった!
[ 画像添付(鯉住君に清霜夕立が抱き着いて寝てる写真) ]
大淀(横3:!!?
清霜(佐4:いいでしょー!
足柄(ラ10:あら、提督じゃない。なんでこんなことに?
清霜(佐4:龍ちゃんが遊んでくれたんだよー!
足柄(ラ10:遊んでるというよりは、寛いでるみたいだけど
大淀(横3:他の写真はありますか!?
清霜(佐4:んーん。こんだけ
大淀(横3:そうですか……
足柄(ラ10:拉致されていった時は心配したけど、提督大丈夫みたいね
清霜(佐4:楽しかったよ!
大淀(横3:もし他の写真もあるようでしたら、教えてくださいね
清霜(佐4:わかったー
補足:横須賀第3の大淀さんはムッツリ眼鏡です。