艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

124 / 185
 なんかもうメチャクチャです。
 お酒が入ったらこうなるっていうのを表現したかったのです。ごめんなさい。
 なんかいつも謝ってる気がするけど、これはもうしょうがないです。

 あ、一応注意事項です。

 あなたの嫁艦がおかしくなっているおそれがありますので、そのことに留意して読み進めていただくように、よろしくお願いいたします。



第124話

 夜も更けてきた午後の8時。

 ラバウル第10基地・艦娘寮(旅館)の食堂には、この鎮守府に所属するすべてのメンバーと、研修生として本日やってきた、瑞鶴と葛城の空母コンビが勢揃いしている。

 

 そこそこ広い空間には、穏やかなムードだった先ほどまでと比べて、明らかに剣呑な空気が漂う。

 普段の食堂の活気ある喧騒とはかなり違う様子。卓の上に置かれた調味料一式や塗り箸と、誰もが真剣になっている張りつめた空気の対比は、何ともミスマッチである。

 

 多くのメンバーが普段呑まない、いや、禁止されていて呑めないお酒を煽り、何を発言しようか思案している状態だ。

 

 そんなおかしな雰囲気漂う空間に、筆頭秘書艦である叢雲の声が響く。

 

 

「それじゃみんな、聞きなさい。これから歓迎会後半の部を始めるわ。

事前に決めておいた通り、一通り聞くべきことを聞いていくから、コイツに対する質問は、その都度していってちょうだい」

 

 

 鯉住君は叢雲のセリフに気がかりなところでもあるのか、叢雲とは反対側に座る古鷹にコソコソと質問している。

 

 

「えっと……事前に決めてたって、どういうこと……?」

 

「どういうこと、って、それくらいしておくのは当然ですよ。

何も決めずにこんな場を用意したら、みんなからの質問が止むことなく出てきて、話題がこんがらがっちゃうじゃないですか」

 

「いや古鷹そんな……俺の見合いの件なんて、別にこれからの鎮守府運営の方針にそんなに関わってこない案件なんだし、それは考えすぎでは……?」

 

「提督が考えなさすぎなんですよ。提督は組織のトップなんですから、ご自身の振る舞いにはもっと頓着してください」

 

「いやいや、そんなこと言ってもねぇ……

もしお見合いを受けることになって、昇進が絡んでくるとは言っても、キミたち部下のみんなには、そこまで影響出さないつもりだったんだけどなぁ」

 

「上司と部下として、だけなら、それでいいですけどね。

……とにかく、悪いようにはしませんから、皆さんの質問に答えていってください。それで解決するでしょうから」

 

「それしかないかぁ……」

 

 

 ふたりがコソコソ話している間にも、叢雲の取り仕切りは続いている。ちょうど場のザワザワも落ち着いてきて、最初の話題に移るところのようだ。

 

 

「それじゃまずは、焦らすこともないし本命からね。

……コイツが今まで見合い話があるってことを黙っていた件について。本人の弁明から始めるわ」

 

「弁明ってキミ」

 

「いいから。それじゃ一連の流れを説明なさい」

 

「……はい」

 

 

 有無を言わさない叢雲の謎のプレッシャーに抵抗できずに、言われた通りに事の経緯を説明していく鯉住君。

 

 

 以前元帥が訪問してきたときに、政略結婚としての見合い話が持ち上がったこと。

 そして相手の候補は元帥のお孫さん、大本営筆頭秘書艦の大和、先輩であり5年前の英雄でもある一ノ瀬中佐の3人だったこと。

 あまりにも突然だったのでお断りしたうえ、天龍龍田のおかげで見合いなしでの将官への昇進の目途が立ったことで、政略結婚としての見合いの必要性はなくなったこと。

 なんだけど、なんかよくわからないうちに元帥に気に入られたせいで、大和以外の見合いの話自体はまだ生きているということ。

 

 

 鯉住君的には別に何もやましいことはないので、最重要機密であるハワイ遠征については伏せて、淡々と説明していった。

 最近この話ばかりしているが、気にしてはいけない。

 

 しかし彼にとっては特に問題ないことでも、その他のメンバーにとってはそういうワケでもないようで……

 

 

「……っていうことなんだよ。

だから別にキミたちの負担を増やすつもりなんてなかったし、その時が来たらその時が来たで、なんとかなるだろうということで……」

 

 

 鯉住君の現状説明が終わったあたりで、なにやら我慢できなくなったらしい秋津洲が勢いよく右手を挙げる。

 ちなみにもう片方の手には純米大吟醸の入った杯が握られている。

 

 

「はい議長! ちょっと聞きたいことがあるかも!」

 

「発言を許可するわ」

 

「叢雲キミ議長て」

 

「ありがとうかも!

提督はもし誰かとお見合いで結婚したら、私たちを置いてどこかへ行っちゃうの!? それは絶対イヤかも!」

 

 

 秋津洲は半泣きで騒ぎ立てている。どうやら泣き上戸のようだ。それにしても呑み始めたのがさっきの今なので、まわりが早すぎる気もするが。

 

 

「ちょっと落ち着いて!? キミたちを置いていくなんてするわけないだろ!?」

 

「だってそんな重要な人たちと結婚したら、こんな日本から遠い鎮守府で提督なんて続けられるわけがないかも!」

 

「それは……そう思うのは分かるけど、大丈夫! 元帥と大和さんから、ここでそのまま働いてほしいって意味のことを言われてるから!」

 

「信用できないかもー! 提督と離れるのヤダー! う゛え゛ぇーん!!」

 

「ちょ、ちょっと、泣かないで! すいませんけど、足柄さんお願いします!」

 

「もう、しょうがないわねぇ……

……ホラ落ち着きなさい、秋津洲。提督が私たちを見捨ててどこかにおいていくなんて、するはずがないでしょう?」

 

「う゛ぅー……! や゛だぁ!!」

 

 

 不安が募って隣に座る足柄に抱き着いている秋津洲は、現在その足柄に頭をなでられながら、よしよしとあやされている。ギャン泣きである。

 

 その様子はまさに母と娘。娘については精神年齢に対して肉体年齢がだいぶ上という気がしないでもないが、雰囲気はまさにそれそのものである。

 ちなみに荒ぶる秋津洲が手に負えず足柄に丸投げする鯉住君は、誰がどう見ても、娘との距離感がつかみきれない父親それそのものである。

 

 

「いきなりこれとか、前途多難だぁ……」

 

「アンタがどれだけみんなを不安にしたか、よくわかったかしら?」

 

「秋津洲は特別でしょ? 他のみんなはそんなことないはず……」

 

「さてね、どうかしら。

……あ、大井が挙手してるわね。発言どうぞ」

 

「大井!? ホントに挙手してる!? ウソでしょ!?」

 

 

 まさかの大井参戦にたじろぐ鯉住君。彼女はこういう時はいつも、冷たい視線を投げつけながら黙っているのが常だからだ。

 もうこんなの嫌な予感しかしない。それでもまな板の上の鯉状態なので、なすが儘にしかならない。

 

 

「……それでは発言させていただきます。

提督は……指輪を渡した相手がいるというのに、それに満足できず、私たち以外の相手をドンドンと増やして……!! 恥ずかしいとは思わないんですか……!?」

 

「うぐぅっ!!」

 

「北上さんまでその毒牙にかけておいて……!! 提督の辞書には、貞操観念という言葉は載っていないんですか!?」

 

「ぐはぁっ!!」

 

 

 大井の切れ味鋭すぎる指摘に、対地装備ガン積みでクリティカルヒット出された集積地棲姫みたいになってる鯉住君。

 

 実際彼はその辺をとっても気にしており、お見合いの話を断りまくっている大きな理由のひとつでもある。

 とはいえ結局見合いを断っていることからも、彼が貞操観念をとっても大事にしていることは明白なのだが……これから重婚的なムーブをする予定であるということで、やっぱり改めて口に出して言われるとクるものがある様子。

 

 

「う、うぐぐ……!! た、確かに大井の言うとおり、そう捉えられても仕方ないと思ってる……!!

でも、だからこそ、お見合いの話は断ってるんだって!!」

 

「ウソおっしゃい! どうせそんな調子のいいことばかり言って、他の子をドンドン篭絡してるに違いないんです!」

 

「そ、そんなことないから!」

 

「シラを切らないでください! 佐世保では駆逐艦に手を出して! 横須賀では自分の先輩である一ノ瀬中佐に手を出したんでしょう!?」

 

「ファッ!? な、なんでそんな……アレか! 叢雲が持ってた写真か!

いやしかし、一ノ瀬さんについては何もなかったって! なんでそんな勘違いしてんの!?」

 

「『一ノ瀬さんについては』ってことは……!!

やっぱり佐世保の駆逐艦とは爛れた関係になってるんですね!? このロリコン! 鬼畜! 変態!」

 

「なってないからぁ!!」

 

「一ノ瀬中佐についてもちゃんと聞いてるんですから!

『大本営で婚姻届けにサインしようとしたところを、佐世保の川内さんに阻止された』って!! お付き合いもしてないのにいきなり婚姻とか、頭おかしいんじゃないですか!?」

 

「うごふっ!!」

 

 

 

 ざわざわ……

 

 

 婚姻届……? 鯉住くん、生き急ぎすぎじゃない……?

 

 な、なぜじゃ……!? なぜ妾よりも先に、他の者とそのような!!

 

 あー、あの時の……なんかニュアンス違う気がするんだけど……

 

 ですよね先輩……なんか話が捻じれてません……?

 

 

 

「ちょっとおかしい! いや、だいぶおかしいそれ!

その言い方だとまるで、俺が無理やり婚約を迫ったみたいに聞こえるでしょ!?」

 

「実際そうなんでしょう!?」

 

「そんなことありません! どっからそんなこと聞いたの!?」

 

「私が研修に赴いた、横須賀第3鎮守府の青葉さんです!!」

 

「アオバワレェ!! 何してくれとんじゃあ、あの変態!!

わざと誤解を招くような伝え方しやがってぇーっ!!」

 

「その騒動のついでに、青葉さんと秋雲さん、そして漣さんまで口説いたんでしょ!? 甘い言葉でノックアウトされて、メロメロになったとか言ってましたよ!? ホント最低!!」

 

「ナニソレ!? そっちは完全に嘘だから!!

捻じ曲げた真実に嘘をてんこ盛りにするとか、悪魔の所業かよぉ!!」

 

「あ、師匠、多分その『口説き落とされてメロメロになっちゃった』のって、私のことじゃないかな? えへへ」

 

「ちょっと夕張ィ!! 空気読んで黙ってて!!

しかもそれ俺から言ったわけじゃなくて、キミの方から来たやつだからね!?」

 

「夕張さんにも……そのようなことをしたんですね……!?

数々の女性を口説き落としておきながら、その口で夕張さんを篭絡して、手籠めにしたんですね!? この外道!!」

 

「ご、誤解なんだって!! 言いたいこといっぱいあるけど、とにかく誤解!!」

 

 

 いつもならあり得ない大井の暴走に、防戦一方となっている鯉住君。

 

 大井の右手には焼酎のボトルが握られており、すでにその4分の3は空になっている。どう見ても呑みすぎである。

 どうやら大井は、酒には強いが酔っぱらうとタガが外れるタイプのようだ。

 

 そしてこの熱狂は、ふたりの間だけで収まるものではない。

 これまた、にごり酒を片手にした初春がガタっと席から立ち上がる。

 

 

「ぬおー!! お前様ぁー!! なぜ妾にはあれ以来、愛の言葉を投げかけてくれぬのに、そのような者たちにうつつを抜かしておるのじゃー!!」

 

「初春さん!? 参戦してこないで!! 今誤解を解いてるところだから!!」

 

「妾にも愛を注ぐのじゃー!! もっともっと大事にするのじゃー!!」

 

「姉さんダメだよぉ。鯉住さん困っちゃってるよ?」

 

「落ち着いてぇ!! こんど個人面談するから、その時にゆっくり話し合うつもりだから!! それと子日さんいつもすいません!」

 

 

 そろそろ対応できなくなってきた鯉住君。

 しかし当然ながらこの場に漂っているのは、ここで終息するようなエネルギー量ではない。

 

 今度はレディキラーカクテルと名高いカクテル『カルーア』を片手にした明石が立ち上がる。ちなみにもう片方の手に握られたグラスに入っているのは、牛乳で割ったカルーアミルク。すでに6杯目である。

 

 

「そんなに無差別に口説いてるんなら、私のことも口説いてくれてもいいよねっ!!

ねーねー鯉住くーん、私にも愛の言葉を囁いてー。それだけで1ヶ月はフルスロットルで頑張れるから!!」

 

「明石お前ウルセェ!! お前まで参戦してくんな! 誰がそんなこと言われて、愛の言葉なんて囁くか!!」

 

「えー? 頑張っちゃうよ? 人間と艦娘の間に子供を作る研究!!」

 

「寝言は寝て言えこの淫乱ピンクがぁーーーっ!!」

 

「フム! 明石よ、貴女なかなかやるわね! その研究、私にも一枚噛ませてもらおうか!!

admiralと私の間に、魚類以外の尊い命が芽生えるなど、極上の喜びと言う他ないわ!!」

 

「ヴェアアァッ!? アークロイヤルは何ノリ気になってるんですかねぇ!?

そんな人体実験まがいな研究はやっちゃダメ!! 人権問題とかいろいろややこしいことになっちゃうでしょ!? もっと倫理大事に!!

禁止! 禁止です! ダメ絶対!!」

 

「やっぱり鯉住くんは優しいねっ! 私が自分のカラダで実験しようとしてたのを止めてくれたってことは……私のカラダが大事で、興味があるってことかな?」

 

「何お前自分のカラダで人体実験しようと思ってたの!? ホントやめてそういうこと! 心臓に悪い!!

それとドサクサに紛れて、俺がお前のカラダを狙ってるみたいな言い方するんじゃない!!」

 

「えー、つまんなーい。好きなくせにー」

 

「うっせぇわ!」

 

 

 なんか生命の神秘に触れるようなとんでもない話が持ち上がったが、これ以上その話題に触れるのは藪蛇もいいところだ。

 

 とはいえ、例の『過度な肉体的接触はしない』という話をここで出さないと、後々大変になることが確定してしまった。

 あまりこの流れで出していい話ではないが、背に腹は代えられない。意を決して勢いのままに話を切りだす。

 

 

「ゴホン!! 今言っとかないと大変なことになるだろうから言っとくけど、みんなと子供作るとか、そういう行為をするつもりはありません!

これは言っとかなきゃいけない事だから、しっかり言っとくけども!! セクハラとかじゃなくて大事なことだから!!」

 

「この後に及んで、ホントに往生際が悪い……!!

夕張さんに手を出しておいて、何をいけしゃあしゃあと宣ってるんですか!!」

 

「いやホントに手を出してないからね!? 大井は俺のこともうちょっと信じてよ!」

 

「えー? でもさ提督、定期連絡船の中で相部屋だったんでしょ?

つまりそれってそういうことなんじゃないの?」

 

「北上の思ってるようなことは無かったんだって! 第一キミたちとは上司と部下なんだから、そんなことしないってば! いや、まぁ、他にも理由はあるけど……

と、とにかく! この場にいるみんなには、絶対に手を出しません!! だよな夕張! そういう話だったよな!」

 

「えぇ、そういう話でしたよね……納得いってませんけど……」

 

「ねーバリっち。マジで何もなかったの?」

 

「えぇ。プロポーズしていただいたところまでは、先ほど(前半戦)話した通りで、これ以上ないくらい幸せだったんですが……

それ以降はいつも通りすぎるほどいつも通りで……キスすらしてなくって……」

 

「うわ……提督さぁ、何してんの?

もっと漢みせなよ。バリっちかわいそうじゃん。ねぇ、大井っち?」

 

「ハイ北上さん!! 提督はなんでまだ手を出してないんですか!? それでも日本男児ですか!!」

 

「大井キミ手のひらくるっくるじゃないか!! 北上が大事なのはわかるけど、もっと自分の意思も大事にして!!

そもそもそういう雰囲気に流されて手を出しちゃうのは、俺の思うところじゃないから!」

 

 

 なんだか先ほどよりヒートアップしてきた空間。

 鯉住君が必死になっているのをしり目に、先ほど不穏な話をしていた変態たちが、気が狂ったとしか思えない談合を始めた。

 

 

「成程ね……! 完全にadmiralの考えが読めたっ!! 聞け天城!!」

 

「zzz……ふわぁ……なんですか……?」

 

「admiralが我々と性交渉に及ばない理由はただひとつ!!

そう! 人間と艦娘では繁殖ができないことから、性交渉の必然性を感じていないということよ!!

確かにいくら行為を重ねても、結果が必ず伴わないのならば、そのような行為などする必要がない……!!

つまり! admiralが我々と性交渉に及ぶのは、我々との間に子供を作ることができるようになってから!! そういうことなのだ!!

フフッ……!! 自然の摂理にのっとった、実に理性的で天道に沿った思考回路……!! 水魚の交わりという格言はあるけれど、水と魚では子供はできないっ! 流石はadmiralと言う他ないわっ!!」

 

「あー……そうなんですねぇ……ムニャ……」

 

「つまり明石!! 貴女の働き如何で、我々とadmiralの関係性が変わってくるということっ!! 責任重大よっ!!」

 

「フフフッ!! 腕が鳴りますねぇ!!」

 

「私は別にそこまでいかなくても……ムニャ……提督を丸1日ほど抱き枕にしていられれば……

……いえ、それでは足らないわ……丸1週間ほど抱き合っていられれば、それで十分です……ふわぁ……」

 

「フフ……それもadmiralとの仲が進展すれば可能になる……!!

よいか明石!! プライベートの時間を研究に充てるっ!! いつから始める!?」

 

「そうですね、早ければ明後日にも……いや、明日です!! 明日から始めましょう!!」

 

「うおおぃっ!? そこのヤバい奴ら!! 少し頭冷やしてぇ!!

その話題はもう禁止だって言ったでしょうがっ!! 舌の根も乾かないうちに、なんつー計画たて始めてるんだ!!」

 

 

(これはこれは、さすがのおふたりですね……!! はっそうが、いじげんきゅう!!)

 

(われわれにとっても、いちだいぷろじぇくとになりそうなよかん……!!)

 

(みえるみえる……こいずみのあにきのはーれむが、ねずみざんしきにふえていくみらいが……!!)

 

 

「テメェらまで首つっこむんじゃねぇよ!! 収集つかなくなっちゃうだろうが!! 絶対やらせないからな!!」

 

 

 鯉住君が効くかわからないブレーキを全力で踏んでいると、さっきからギャン泣きし続けている秋津洲が、いつの間にやら縋り付いていた。

 傍らには「やれやれ」といった表情の足柄が付き添っている。

 

 

「でーとぐがぁ! でーどぐが、お嫁にいっぢゃうがも~!! びええ~ん!! やだぁ! やだぁ~~~っ!!」

 

「うおおぁ!? あ、秋津洲、いつの間に!?」

 

「まったくもう。貴方のところに行くって言って聞かないから、連れてきちゃったわ。

……ほらほら、提督がどこか行っちゃうなんてそんなことないから、泣き止みなさい。よしよし」

 

「ぞん゛な゛のウソがも~~~!! う゛え゛~ん!!」

 

「足柄さんホントありがとうございます……

あと秋津洲、俺はお嫁には行かないからね? 万が一行くとしても、お婿としてだからね……?」

 

「でーどぐー! いっぢゃやだぁ~!!」

 

「行かないから! 安心してぇ!!」

 

「もう。アナタが余計なこと言うから、不安にさせちゃったじゃない。

大丈夫よ~。いい子だからねー」

 

「うっ、す、すまない、足柄さん……」

 

 

 

・・・

 

 

 

 最初の統率が取れた場づくりは何だったのか。思い思いのタイミングでそれぞれが勝手に参戦したせいで、場がしっちゃかめっちゃかになってしまった。

 

 

「先輩……やっぱりマトモに見えた鯉住大佐も、あの鼎大将のお弟子さんなんですね……」

 

「そうね……大和さんがいっつも、鼎大将がらみの案件で頭を抱えてる理由、頭じゃなくて心で理解できたわ……」

 

「私すでに不安なんですけど……あの天城姉も大分おかしいし……」

 

「もう研修が始まっているのかもしれないわね……どんな状況でも動じない、鋼の精神を鍛えるという研修が……」

 

 

 研修の初日からこんなカオス極まりない現場にぶち込まれた空母2名は、遠い目をしてこれからの苦難に思いを馳せている。

 自分たちがどんな場所に来てしまったのか再確認しているようだ。

 

 そんなかわいそうなふたりに、比較的いつも通りな秘書艦ズが話しかける。

 

 

「ふたりともお疲れ様。初日からいきなりこんな有様で、疲れたでしょう?」

 

「えぇ、まぁ、ハイ……叢雲さん……」

 

「普段はこんなに賑やかじゃありませんので、安心してくださいね!」

 

「普段からこれだって言われたら、どうしようかと思ったわ……」

 

「ま、大目に見てちょうだい。アイツにはいい薬なのよ。

アイツったら、どれだけ自分が周りに影響与えてるか、まるでわかってないのよ?」

 

「そうなんですよ。提督は私たちにこんなに愛されてるのに、『自分は脇役』程度にしか思ってないんですから。困っちゃいますよね!!」

 

「そうそう。自覚もないくせに私たちの心を掴んどいて、それでいて放っておいてください、ってなものなのよ? ありえないでしょ。ありえないわよね?」

 

「ありえませんね!! まったくありえません!! 今さら提督以外の人の所でなんて、絶対に働けませんよ!

なんなんですか! あの私たちを気遣って無理のないように組んであるシフト! そんなホワイトな環境にもかかわらず、誰にも平等に、いつも声をかけてくれる優しさ! プライベートでも遊んでほしい子にいつでも構ってあげる面倒見の良さ!」

 

「ホントよね!! アイツのせいで、私達ここから離れられなくなっちゃったんだから、責任はしっかりとってもらわないといけないわ!

それだというのに、アイツったら……見合い話なんていう、とんでもない爆弾隠し持ってて……!!」

 

「私達艦娘にあそこまでよくしておいて、本人は黙って私の知らない女性と結婚だなんて……!!」

 

「ギルティよね……!!」

 

「許されませんね……!!」

 

 

「「 さいですか…… 」」

 

 

 秘書艦のふたり。全然いつも通りじゃなかった。

 まさか突発的に惚気話を聞かされるとは思わず、さらにうんざりする研修組なのであった。

 

 




 ここの鎮守府ではお酒は永久封印されています。
 今回のやり取りでその理由もわかっていただけたかと。


・各メンバーの飲酒による状態変化


・叢雲
キレた様子で本音をぶちまけ始める。愚痴り酒。酒乱。

・古鷹
叢雲と似たタイプだが、大分おとなしめ。話題に便乗する酒。プチ酒乱。

・夕張
本音がダダ洩れになる。古鷹と叢雲の中間くらい。酒乱。

・北上
実は一番お酒に強い。だから酔わない。ザル。

・大井
一定のラインを越えると感情的になる。でも本音は見せない。隠れ酒乱。

・天龍
弱いうえにハイになる。気分が良くなる酔い方。酒乱。

・龍田
極度の笑い上戸。呼吸困難になるほど笑うようになる。酒乱。

・初春
ちょっと悲観的になる。元々賑やかな性格なのでうるさい。酒乱。

・子日
甘えたがりになる。けど大体は初春のストッパーしているので酔わない。

・明石
超絶ボディタッチが増える(鯉住君限定)。酒乱(鯉住君限定)。

・秋津洲
強いが泣き上戸。精神年齢が低いのもあって、手が付けられなくなる。酒乱。

・足柄
強くも弱くもないし、酔ったら気持ちよくなるが、自分を見失う呑み方はしない。

・アークロイヤル
ハイテンションになる。天龍と同じ。酒乱ではないがそもそも性格が厄介。

・天城
酔うと寝ちゃう。でも睡眠が浅いため、短スパンで呑む寝るを繰り返す。

・瑞鶴
普通。ちょっと気分が良くなるくらい。

・葛城
普通。ちょっと気分が良くなるくらい。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。