艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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 瑞鶴が頑張る回、中編です。あまりにもややこしい話……!
 ふだんのギャグ路線から大分外れてますので、「こまけぇこたぁいいんだよ!」的なメンタルをお持ちの方は、瑞鶴頑張る編が終わるまで読み飛ばしていただいた方がいいかもしれません。今さらですが。



第127話

 初春、子日から話を聞いた瑞鶴は、その足で食堂まで向かった。

 少し遅くはなってしまったが昼食の時間であり、本日はまだ何も食べていないのだが、彼女の目的は食事ではない。

 

 

「失礼しまーす」

 

「……あら、いらっしゃい、昨日ぶり。昼にしては少し遅かったわね」

 

 

 瑞鶴の目的は、まだ話を聞いていない足柄に話を聞くこと。

 ここ以外の施設はあらかた回ったので、足柄と明石以外の艦娘には話を聞き終わっている。

 

 

「あ、こんにちは、瑞鶴さん! パクパク」

 

「ああ、明石さんね。ちょうどよかった。

食事中で申し訳ないけど、時間あったら話に付き合ってくれない?」

 

「ふぁい? なんでしょ? モグモグ」

 

 

 都合のいいことに、この後探してみようと思っていた明石が食事を摂っていた。

 まだ彼女に対しても意見を聞いていないので、一石二鳥である。

 

 

「ああ、もしかして私に色々と聞きに来たの? 他のみんなに聞きまわってるみたいだし」

 

「ご明察。あとは貴女とそこでご飯食べてる明石さんだけだから、都合よかったってわけ」

 

「モグモグ……ゴクン。

ふぅ……そういうことですか。いいですよ、何でも聞いてください!」

 

「そうね。いつも過保護なくらいの提督が、そこまで厳しく接しているんだもの。

私達も協力くらいしないといけないわ」

 

「ありがと。他の子とも話したからわかるけど、大佐の人気ってホントにすごいよね」

 

「彼が嫌われる理由がないもの」

 

「そうかなぁ……? 昨日の様子を思い出すと……」

 

「ふふっ! 皆さん照れ屋ですからね!

あんな反応になってしまうのはご愛嬌ということで、勘弁してあげてください」

 

「いや、あの、言いづらいけど、昨日は明石さんも大概おかしかっ……」

 

「まあまあ、ひとまずは落ち着くことね。そこに腰かけて。

アナタまだご飯食べてないんでしょ? 簡単なものならすぐに出せるから、食べながら話しましょうか」

 

「あ、私もじっくりお付き合いしますよ! この後の予定は大分余裕ありますし!」

 

「ええと……ありがと」

 

 

 この鎮守府では大人メンタル筆頭のふたりになんだか逆らえず、流されるまま着席する瑞鶴。

 ともあれこのまま目的はすんなり達成できそうだ。流れに身を任せていくことにする。

 

 

「ではどうぞ! 足柄さんは昼食準備中なので、この私がどんなお悩みか先に聞いちゃいますね!」

 

「うん。かくかくしかじかで……」

 

 

 

・・・

 

 

 説明中……

 

 

・・・

 

 

 

「ふむふむ。そういうことですか」

 

「そういうことなの。

みんな戦闘に興味なさそうなのを、どう受け止めていいかわかんなくてね。それに急に戦闘以外で何をしたいかなんて聞かれても、全然ピンと来なくて……」

 

「戦闘については、私は工作艦なのでどう言っていいかわかりませんが……

それ以外で何をしたいかについては一家言ありますね!」

 

「へぇ。何か趣味でもあるの?」

 

「趣味というかお仕事ですね!

私は元々呉第1鎮守府に居たんですが、そこで展開している酒保の運営を任されています!」

 

「酒保の運営……?」

 

「分かりやすく言うと、スーパーの代表ですね!

今ではこちらに来てしまったので、実務としては海軍籍の事務員さんにお願いしているんですが……仕入れの内容や季節のイベント、運営方針決定会議なんかでは口を出させてもらってます」

 

「えと、それって、オーナーさんってこと?」

 

「実質的には筆頭株主みたいな立ち位置です。あ、だから私、艦娘にしてはかなーり高収入ですよ?」

 

「うわぁ、すごい」

 

「そのお金で色々艤装の改修について研究してるので、手元にはそんなに残んないんですけどね。あはは!」

 

「明石さんはこの鎮守府でも、随分特殊な感じなのね」

 

 

 艦娘兼スーパーのオーナー、趣味は艤装の研究とかいう、特殊に過ぎる立ち位置だった。話をしてくれたことはありがたいが、正直言ってさっぱり参考にならない。

 

 

「うーん……私が参考にするには、ちょっと違うかなぁ……」

 

「そうですか? 変わったことやってる自覚はありますが、他の皆さんとそう変わらないと思いますけど」

 

「? いやいや、全然違うでしょ。

普通は酒保の筆頭株主なんてなれないし、艤装の研究なんてしないから」

 

「そういうことじゃないんですよ。提督が言いたいのは」

 

「?」

 

 

 別におかしなことを言ったつもりはないのだが……どうやら自分の考えていることは的外れな様子。

 頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる瑞鶴を見ながら、明石は話を続ける。

 

 

「そうですね……もし瑞鶴さんの趣味が、一輪車に乗ることだったとします」

 

「い、一輪車?」

 

「まあこれは物の例えなので、深くは考えないでください。

それで、私の趣味……艤装いじりの方が上等な趣味かどうかって聞かれたら、そういうことじゃないって答えますよね?」

 

「まぁ、関係ないもんね」

 

「そういうことですよ。

提督が言いたいのは、『自分がやりたいと思うことをやるように』ということですからね。瑞鶴さんがやりたいかどうかが重要なんです。中身は重要じゃありません。

もしこれから瑞鶴さんが『戦いなんてしたくない』と提督に伝えたとしても、受け入れてもらえることでしょう」

 

「いやいや。研修をお願いした身でそんなこと言ったら、いくら大佐でも流石に怒るでしょ」

 

「絶対に怒りませんね。賭けてもいいです。

無いことでしょうが、もし瑞鶴さんがそう決めたのであれば、戦闘以外の内容で研修すると思いますよ?」

 

 

 どうやら明石は、鯉住君は瑞鶴がどのような答えを出しても面倒見るだろうと、確信しているらしい。

 

 いくら何でも自分から頼み込んだ研修を、始まる前から『やっぱやめたい』なんて言って許されるはずがない。瑞鶴はそのように考えている。

 普通に考えれば、どんなシチュエーションだったとしても、それは当然のことのように思える。

 

 

「うーん、そんな我が儘、軍属じゃなくても許されないと思うんだけど……」

 

「普通はそうでしょうけどね。

あいにくここは普通じゃない鎮守府ですし、提督の感性も普通の軍属とは違います」

 

「それはまぁ、そうよね」

 

「そして何より、瑞鶴さんがこれから相手取ろうとしている面々は、全くもって普通ではありません。

そして私達はそのことをよーく知ってますし、提督に関しては求愛されているレベルでよく知っています」

 

「ええと……つまり?」

 

「乱暴に言ってしまうと、瑞鶴さんの『普通』という感覚は、全然アテにならないということです。最上位の深海棲艦を相手取る、というシチュエーション限定ですが」

 

「そ、そうなのかな?」

 

「それじゃ聞きますが……なんでもない漁礁が壊されたからといって、北ヨーロッパを壊滅させた深海棲艦の気持ちがわかりますか?

静かな環境でゆっくり寝たいからといって、スペイン南部とアルジェリア北部の人間を虐殺した深海棲艦の気持ちがわかりますか?」

 

「……え? ちょ、え、ウソでしょ……?」

 

「ウソのような本当の話です。

あ、ちなみに、別に汚くもない工業廃水が流されているのが気に入らなくて、人類を大掃除する人たちもいるみたいですね」

 

「ちょ、ま……そ、そんな理由で、人類は攻撃されているの……?」

 

「だからこそなんですよ。提督が『自分のやりたいことをやるように』って言ってるのは。

何考えてるのか理解できない、それでいて超々弩級の実力を持っている。加えてこちらへの殺意は高い。そんな相手ですからね。

本当の意味で得体が知れない、はるか格上の相手と戦うことになるんです。心に芯のない艦娘が相手できる存在ではありませんよ。

戦闘について門外漢な私でも、それくらいは分かります」

 

「あ、頭が痛くなってきたわ……」

 

 

 さらりと出てきたワケのわからない現実に、頭を物理的に抱える瑞鶴。頭痛が痛いレベルで理解できないことだ。

 

 そうやって瑞鶴がうんうん唸っていると、足柄が昼食を持ってやってきた。

 

 

「出来たわよー……あら? どうしたのかしら?」

 

「かくかくしかじかで」

 

「ああ、そういうこと。それじゃ今度は私がお相手しようかしら。バトンタッチね」

 

「私じゃ戦闘について深い話はできませんからね。お任せします」

 

「うーん……理解が追い付かない……」

 

 

 

・・・

 

 

 

「明石からどんな話したか聞いたけど、悩んでるみたいね」

 

「そんな実力も考えもメチャクチャな奴らに、勝てるビジョンが浮かばないのよ……」

 

「とりあえずこれ食べなさい。腹が減ってはなんとやらって言うしね。

アナタ朝から聞き込みしてるんでしょ? 無理しちゃダメよ」

 

「……ありがとう」

 

 

 足柄が差し出した特盛級のドンブリには、カツ丼がたっぷりと収まっていた。

 量は空母サイズ、味は極上。なんだかんだ頭を使って糖分不足になった瑞鶴に、我慢できるようなものではない。

 

 

「……ゴクリ。いただきます……!」

 

 

 生唾を飲み込みつつ、足柄特製カツ丼に手を付ける瑞鶴。

 

 口の中いっぱいに広がり鼻孔から抜ける、脂身とカツオ節の香り。サクサクと心地よい音を立てる衣に、それに絡み合う出汁のしみ込んだ卵。ギシュギシュと噛み応えのある豚肉と、噛むたびにジュワッと口いっぱいに広がる脂の旨味。それを引き立てる玉ねぎのアクセント。

 

 要素の全てが絶妙に絡み合い、食欲を加速させる。朝から何も口にしておらず、いつの間にかお腹がすいていた瑞鶴には、悩みを吹き飛ばして集中してしまうほど魅力的な一品だった。

 

 

「ガツガツガツ……!!」

 

「だいぶお疲れだったみたいですね」

 

「新しいことを受け入れようとするのには、エネルギー使うものね」

 

「お腹いっぱいにして、頭を再起動してもらいましょう!」

 

「ガツガツガツ……!! おかわり!!」

 

「はいはい」

 

 

・・・

 

 

 食事中……

 

 

・・・

 

 

「……うっぷ。ごちそうさまでした……」

 

「まさか特盛を3杯も食べるなんてねぇ」

 

「大型艦、恐るべしですね」

 

「ふ、普段はこんなに食べないのよ? ものすごく美味しかったから、ついつい……」

 

「ふふ、嬉しいこと言ってくれるわね」

 

「お腹いっぱいになって、少し眠くなってきちゃったわ……」

 

「でしょうね。あれだけ食べたんだし。……また明日にしましょうか?」

 

「う、ううん。そんなに甘えていられないわ。お願い、もう少し付き合って」

 

「少しくらいボンヤリしてる方が、話もスムーズにいくかしらね。

……いいわ。アナタが気にしてるところ、解決していきましょう」

 

 

 

・・・

 

 

 

「……というわけで、なんだか自信がなくなってきちゃって」

 

「なるほどねえ。ま、確かに普通の感覚してたら、あの人たちの相手はできないわよね。敵としても味方としても」

 

「正直言うと、もっと自分は強いと思ってたんだけど……ハァ……」

 

「そんな卑屈なこと自分で言うものじゃないわ。栄光ある大本営第1艦隊なんでしょ?」

 

「それはそうだけど……」

 

 

 大分精神的に参ってしまっている瑞鶴。そんな彼女の様子を見て、足柄は参考になりそうな話をすることにした。

 

 

「私もここに来るまではね、何においても勝利することが一番大事だって思っていたわ」

 

「私と同じ……って、『思ってた』ってことは、今は違うの?」

 

「そうね。今だってやるからには勝つべきって思ってるけど、そこに焦りとか義務感とかは無くなったわ」

 

「それはどうして……」

 

「彼と一緒に居るとね、いちいち勝つことにこだわるのが馬鹿らしく思えてくるのよ。

ホラ、提督って大分ヘタレじゃない?」

 

「ええと……言っていいのかわからないけど、大分ヘタレよね」

 

「加えて戦闘における指揮は及第点。問題はないけどあくまで普通レベル。

提督がするべき事務仕事についても不得意で、他所では秘書艦をひとりつけるだけ、もしくはつけないで鎮守府を回すことができるのに、叢雲と古鷹におんぶにだっこ。

日本海軍が求める提督能力としては、下の下もいいところなのよね」

 

「叢雲さんも同じこと言ってたけど……ズバッといくなぁ」

 

「でも、彼は物事を必ず良い方向にもっていってくれる。

提督養成学校に入れられたら卒業できるかも怪しい。同戦力以上の相手と演習をやったとしたら負けちゃうくらいに指揮能力は普通。事務処理能力なんて普通の提督の半分以下。

……それでもね、今の彼は全海域解放を史上最速で成し遂げた大佐で、第1鎮守府で第1艦隊に組み込まれるレベルの部下を多数要している強豪鎮守府の長で、ラバウル基地エリアの艤装パーツ生産を7割以上賄うやり手でもあるわ」

 

「改めてそう聞くと、ワケがわかんないよね」

 

「でしょ? 私も彼のやることなすことには、毎度驚かされっぱなしなのよ。

前にあったことだと、初めて見る姫級最上位個体を目の前にして『鎮守府案内してあげてください』とか言われたことがあってね……流石の私でも頭フリーズしたわ」

 

「え゛……?」

 

「とにかく。恐らくだけど、勝つ勝たないじゃないのよ。私たちがしていることは。

戦闘で勝利することが大事なら、提督がここまで重要な人物になることはなかったはずよ」

 

「ちょっと何言ってるのかわからない……」

 

「相手をどれだけ理解できるかが、今私たちがやっていることのカギになるんでしょうね。

彼が今までしてきたことと、その結果を考えると、そういうことなんじゃないかと思うの」

 

「ええと……」

 

「前にね、対局しながら彼が話してくれたことがあるの。

『最初に深海棲艦に襲われた時、動けなくなるほどとんでもない殺意を向けられた。

でも、なんでもない相手にそんな純粋な殺意を向けるなんて普通はできない。

だから、なんで深海棲艦が自分たちをここまで憎んでいるのか、その理由が知りたい』

なんて意味のことをね。

あの人は戦術的勝利には一切興味がない。というか、私たちを信じてくれているから、その部分については丸投げしてくれてる。

……あの人が求めているのは勝利ではないわ。妥協案よ。

この戦いが何なのか、その本質を見極めようとしている。そして、人類にとっても艦娘にとっても深海棲艦にとっても納得できる未来はどこにあるか、探しているの」

 

「私、そんなこと……全然考えたこともなかったわ」

 

「こんなこと考えてる方がどうかしてるのよ。だからあなたは正しいわ。でもね……

……そうだ、貴女、戦争の反対はなんなのか知ってるかしら?」

 

「ええ? なんなの? 藪から棒に……

戦争の反対なんて、『平和』なんじゃないの……?」

 

「違うわ。戦争の反対は『話し合い』よ」

 

「え……?」

 

「戦争というのは、あくまで政治のイチ手段よ。お互いの主張がぶつかり合って、もしくは一方的に奪いたいという裏があって、初めて起こる物理的侵略なの。

だから落としどころは必ずあるし、少なくとも意思疎通ができる相手じゃないと、戦争なんて成立しないわ」

 

「それは……それじゃ、私たちがやってることって、戦争じゃないって言いたいの……?」

 

「世間一般的に言えば、戦争ってことになってるわ。

でも実際やっていることは、意思疎通ができない相手を、武力をもって制していき、制海権を取り戻すということ。

どっちかと言えば、『戦争』というより『縄張り争い』じゃない?」

 

「……言われてみれば」

 

「本当は『縄張り争い』ですらないと思うけどね。

だから、ちょっと戦いに勝ったからって、何も解決しないのよ。終わりなんてないから」

 

「でも、深海棲艦が居なくなるまで殲滅し続ければ……」

 

「人類が野生動物を根絶やしにするとかならできるけど、軍艦級のチカラを持つ深海棲艦に対しては不可能じゃない? 相手の数は、おそらく人類よりも多いわよ?」

 

「……それは……」

 

「ま、ともあれ情報が足りなさすぎるのよね。それに答えが出ない話をしてもしょうがないわ。

貴女が信じていたもの、正しいと感じていたものは、そうでもなかったってわかったでしょ?」

 

「……うん」

 

「今はゆっくり考えなさい。答えなんて無理に出さなくてもいいから。

強くなるってことは、腕っぷしの強さだけじゃないわ。貴女に足りないものは、提督が言っていたとおりよ」

 

「『戦闘以外で、自分がやりたいことは何か』ってことかぁ……」

 

「それがどんなことでもいいし、それでも戦闘を選ぶって決めたなら、それでもいい。

大事なことは、『やりたいからやる』って気持ちなのよね。言い換えると『覚悟を決める』。それが無かったら、ギリギリの土壇場でも笑っていられないもの」

 

「うーん……腑に落ちてないけど、よくわかった……

……ちなみに足柄さんは、戦闘以外でやりたいこととかってあるの?」

 

「将棋よね」

 

「ああ、そういえば貴女も横須賀第3鎮守府出身だったね……」

 

「さぁ、もう眠くて限界でしょう? 仮眠をとってきなさい。寝ている間に、勝手に頭の中が整理されるから」

 

「……そうする」

 

 

 この鎮守府のメンバーの話からは、色々と考えてもみなかったことが湯水のように湧き出してくる。

 話の整理すらつかない頭を抱え、ふらふらとあてがわれた自室まで足を運ぶ瑞鶴なのであった。

 




 抽象的な話で本当にゴメンなさい……!
 瑞鶴頑張る編はあと一回で終わりの予定なので、それが終われば反動でロクでもない話を書く予定なので、お許しください!

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