艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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瑞鶴頑張る編の後編です。これで一区切り。





第128話

「……うっそ。外がもう暗いんだけど……」

 

 

 あてがわれた自室で目を覚まし、開口一番、驚きの声を上げる瑞鶴。

 

 昼下がりの食堂で足柄からカツ丼をふるまわれつつ、戦いについての意見を聞いた後、瑞鶴は自室で仮眠をとることにした。思いもよらなかった意見ばかりで、頭がパンクしてしまっていたからだ。

 その負担は思っていたよりもはるかに大きかったようで、1、2時間休もうと思っていたのとは裏腹に、ガッツリと睡眠をとってしまったようだ。

 

 

「ああ、もう……まぁ、でも頭はけっこうスッキリしたかな……」

 

 

 睡眠をとる前と比べて、明らかに頭がスッキリしていた。

 寝坊してしまったが、必要な寝坊だったということなのだろう。

 

 

「あと話を聞いてないのは……転化体のふたりを抜かすと、大佐だけか。……よし」

 

 

 けだるい体を引きずり、着替えを済ませ、部屋を出る。

 まずは鯉住君を探すところから。今日は仕事がほとんどないと言っていた気がするので、話をするくらいの時間なら取ってくれるだろう。

 

 

 

・・・

 

 

 大佐捜索中……

 

 

・・・

 

 

 

「……あのさ大佐。何してんの?」

 

「違うんです……これは報酬なんです……」

 

「何が違うの? ここ娯楽室でしょ? 公共の場でしょ? お茶の間にしか見えないとはいえ」

 

「ここしかなかったんです……

流石に部下とはいえ、女性の部屋に入って膝枕するのは倫理的にアウトじゃないかなって……

最初は執務室でってことにしたんですけど、叢雲にタイキックののち、叩き出されまして……」

 

「天城さんとは夫婦なんでしょ? それくらいいいじゃんか……

ていうかさ、ガッツリ組みつかれながら膝枕なんて、誰の目にも触れるところでするもんじゃないでしょ? それこそ倫理的にどうなの?」

 

「スイマセン、おっしゃるとおりです……」

 

「zzz……むにゃむにゃ……もう食べられませぇん……」

 

 

 割とすぐに鯉住君は見つかった。

 なんか娯楽室で天城に膝枕してた。ガッツリとホールドされながら。

 

 どうやら葛城の研修を見ることに対する報酬が、この目の前の光景なのだろう。

 幸せそうにヨダレを垂らしながら寝ている天城と、その隣でぶっ倒れている葛城が、そのことを何よりも雄弁に物語っていた

 

 葛城はそれはもうかわいそうなことになっていた。気を付けの姿勢のまま、うつ伏せで畳の上に転がされていた。白目を剥きながら、口を半開きにして気絶していた。このまま動き出したら完全にゾンビといった様子である。

 

 

「……それで葛城のこの姿は……」

 

「ああ、定期連絡船で過ごす間は運動できなかったですからね。カラダがまだ慣れていないんでしょう」

 

「いや、そんなに私たち、ヤワじゃないからね……? どんだけ無茶したの……?」

 

「そんなに無茶はしてないはずですよ? 天城も『最初は慣れてもらうために、簡単なことだけやってもらいました……』なんて言ってましたんで」

 

「いやいやいや……ウォーミングアップでその有様なことに、疑問を抱かないワケ?」

 

「普通だったらやりすぎでしょうけど、目標の高さからいくと妥当だと思いますよ」

 

「やっぱりココおかしいよ……」

 

 

 葛城の見事なやられっぷりと、鯉住君の平常運転な態度を交互に見比べて、瑞鶴はドン引きしている。

 

 決して葛城は打たれ弱いわけではなく、それなりにハードな訓練にも余裕をもって耐えることができる。伊達に艦載機搭載数が少ない雲龍型で、大本営第2艦隊の空母枠に収まっているわけではない。

 当然ながら、本土からラバウルまでの移動でカラダが鈍っていたということもない。つまりこの惨状は、どれだけ研修が過酷だったのかを物語っているということになる。

 

 確かにやり過ぎ感が否めない状態だが、それも仕方ないことだったりする。

 彼女たちが相手しようとしてるのは、転化体クラスの相手、もしくは、人外魔境の佐世保第4鎮守府メンバー相当。

 沈められないだけ優しいとか、そういう基準でないとやっていけないのである。

 

 

「まぁまぁ……俺が天城から解放されたら、葛城さんには掛布団かけときますので」

 

「大佐が解放されるのっていつの話よ? 掛布団なら私が持ってくるから、収納場所教えて」

 

「すいませんねぇ……」

 

「本当に大佐は……なんでこんなに頼りないのに、あんなに信頼されてるんだか……」

 

 

 ブツクサと文句を言いつつ、瑞鶴は掛布団を取りに行くのだった。

 

 

 

・・・

 

 

 風邪をひかないよう、掛布団オンザ葛城状態にしたあと……瑞鶴は相変わらず解放される気配のない鯉住君に対し、そもそも聞く予定だったことを聞くことにした。

 

 

「ホントにありがとうございました……」

 

「別に気にしないでいいから」

 

「恐縮です……」

 

「ホントにいいから。……私が大佐探してたのは、他のみんなに色々聞き終えたからなの」

 

「え!? もう!? 流石は瑞鶴さん、仕事早いですね!」

 

「そういうのホントにいいから。私は大佐の意見も聞きたいのよ。

……ここのみんなは、みんな私に見えないものが見えていた。心に大きな余裕があった。

普通の鎮守府だったら、そういうワケにはいかないのよ。もっと気が張り詰めている。

ここの元締めとなる大佐の考えを聞きたいの。理解できないなりに、知るだけでもいいから、私は知りたい」

 

 

 瑞鶴の真面目な態度に、鯉住君も気を引き締める。

 たったの1日でここまで瑞鶴が先へ進むとは思っていなかったので、彼としてはかなりの驚きである。

 そして驚くのと同時に、彼女が元帥や他の大本営の強者から信用されている理由も理解できた。

 

 ひたむきで、素直で、まっすぐで、受け入れられないことでも自分が正しいと妄信せず、受け入れようと努力することができる。多くの人を護りたいという、まっすぐで眩しい理想もある。

 彼女のような人こそが、大衆の希望となり、日本を背負っていくべきなのだ。そしてそういう人を支えることが、彼の大きな目標のひとつでもある。

 

 

「……コホン。失礼しました。もちろんお答えさせていただきます」

 

「お願い」

 

「私のやりたいことは、戦いでも戦争でもありません。鎮守府としては後方支援を方針としていますが、本当のところは戦いの支援をしたいということでもありません」

 

「うん。それはなんとなくわかる。他のみんなの感じだと、そうなんじゃないかと思ってた」

 

「軍属としては言語道断なことは理解していますが……

それをすぐに受け入れられるとは、たったの1日で随分変わられましたね」

 

「ありがと。今までの私が考え無し過ぎただけだと思うけどね」

 

「いやいや、ウチの方針は異端も異端でしょうから、そんなことは……

……ともかく、本当に私がやりたいことは、戦いを終わらせることではありません」

 

「……」

 

「戦いを続けながら、艦娘の皆さんに胸を張って生きてもらうことです」

 

「……なんで戦いを終わらせることを考えてないの? 戦いさえ終えれば、私たち艦娘も、もっと自由になると思うんだけど」

 

「部下と話をして、色々な考え方があると知った今の瑞鶴さんなら、そう答えられるかもしれませんが……昨日の瑞鶴さんでは、そうはいかなかったでしょう」

 

「……『戦い以外でやりたいことはあるか?』ってことね」

 

「はい。……もしある日唐突に戦いが終わったら、その多くが戦いしか知らない艦娘の皆さんは、一体どうするのでしょうか?

人間でさえも、多くの退役軍人は心に傷を負い、日常生活がうまく送れなくなります。戦時のことを忘れられず、望んでいなかった裏の仕事に就くしか選択肢がなくなる人も、たくさん出てきます。

そこは艦娘の皆さんも同じ……いや、もっと大きな問題になっていくはずです」

 

「そう言われると……」

 

 

 瑞鶴も、アークロイヤルと鯉住君にコテンパンに言われるまで、『戦争を終わらせる』ことしか意識がなかった。

 実際に戦いが終わった後のことを聞かれたら、何も答えることができなかった。

 

 もしそんな状態で、本当に戦いが終わったとしたら、自分はいったいどうしていただろうか?

 お金の稼ぎ方も知らず、生活基盤は日本海軍におんぶにだっこな艦娘たちは、どうやって平和な未来を生きるのだろうか?

 

 深海棲艦が居なくなった未来では、戦いの化身としての自分たちの居場所はない。

 

 そのことを改めて確認させられ、背筋がブルっとする瑞鶴。

 

 

「ですから、個人的にはですが、この戦いを終わらせることは考えていません。

そもそも終わるはずないとも思っていますし、他の人の『終戦』と、私の考える『終戦』は、形が大きく異なっているはずです」

 

「戦いが終わらないだろうってのは、足柄さんから聞いた。

……大佐の中での終わり、いえ、落としどころを教えてくれないかな?」

 

「私の描く『終戦』は、和睦です。私の中では、深海棲艦は人類の敵というわけではないんですよ」

 

「深海棲艦が人類の敵じゃない……? それに和睦って……

あれだけこちらのことを憎んでいるのに不可能だとは思わないの? 大佐だってアイツらの悪感情に晒されたことあるんでしょ?」

 

「思いません。……いいですか、瑞鶴さん。憎しみとは、愛情の裏返しです。

相手のことに関心がありすぎるから、人は人を愛したり、憎しみを抱いたりするんです。そもそもの話、形は違えどそれらは同じ感情……相手に自分を見て欲しい、という願いなんです」

 

「……」

 

「だから、あれほどの憎しみをぶつけてくる存在が、話が通じない相手なはずがないんです。

必ず、私たちが気づいていない何かがある。そしてそれは深海棲艦の正体に関わることであり、人類の未来を大きく左右するものです」

 

「大佐は、深海棲艦と話が付けられると思ってるんだ」

 

「そういう前提で動いているというだけです。

もしそうでなくても、現在人類は技術の衰退を防ぐことができている。深海棲艦という外圧のおかげで、リサイクルやリユース、新素材発明など、生産規模を縮小する方向での技術発展も盛んだ。

だからもし深海棲艦と話が付けられず、このまま拮抗状態でも、それはそれでアリだろうと思っています」

 

「人類は制海権を失ったままだよ? それでもいいの?」

 

「漁業は艦娘の護衛ありきですが続けられていますし、ヒト、モノの輸送も同様だ。問題は何一つありません」

 

「海辺の街なんて、鎮守府があるところにしかないよ?」

 

「艦娘の雇用先が増えて、いいことじゃないですか。別に海辺に住む必要性もありませんし」

 

「それはそうだけど……」

 

「そうだな……瑞鶴さん、海は誰のものだと思いますか?」

 

「?」

 

 

 鯉住君の唐突な質問に、頭にクエスチョンマークを浮かべる瑞鶴。

 昨日までの彼女なら、関係ない質問だとかなんとか言って噛みついたところだが、今の彼女は、その質問に重要な意図があるとわかっている。

 

 とはいえ、何を言いたいのかまでわかるわけではない。シンプルに思いついた答えを口にする。

 

 

「それは……人類のもの、ってことじゃないのよね?」

 

「はい。一般的にはそう捉えている人が大半です。ですが、私は違うと思っています」

 

「それじゃ、誰のものでもない、とか?」

 

「いえ。そんな曖昧なことだとも思ってません。

……私は、海は『海に住む生き物のもの』だと思っています」

 

「……へぇ」

 

「だからそもそも世間でいう、『制海権を取り戻す戦い』というお題目は、どうにもしっくりこないんですよね。

元々の意味の『人類同士の縄張り境界線』という意味での制海権ならわかりますが、相手は海に住む生き物ですから」

 

「なるほどねぇ」

 

「深海棲艦は海に住んでいます。彼ら、彼女らの生活圏を、正しいと言いながら蹂躙していく行為には、正当性があるのでしょうか?」

 

「……」

 

「ま、実際には人類は海の恵みなしには生きていけないので、世間でいうところもよくわかるんですけどね。生きるためですから、否定するつもりもありません。

でも、制海権拡大を正しいと信じることは間違っています。その考え方は、人間以外の生物を自分の食い物としか見ていない考え方です」

 

「……だから大佐は、深海棲艦を攻撃するっていうより、和睦したいと思ってるのね」

 

「そうですね。もちろん今の立場もありますから、海域解放はしますし、向かってくる相手は倒します。

一応部下のみんなには、知恵がありそうな相手なら、開戦前に話し合いを持ちかけてもらうように言ってますけどね。まぁ、それが実ったことはまだありませんが」

 

「大佐はそれでいいの? こっちから侵略してる形になるでしょ?」

 

「そこは仕方ないでしょう。こちらにも事情がありますし、こちらの勧告に応じず戦う意思を見せているわけですし。最低限の譲歩はしている、というワケで」

 

「意外とリアリストなのね。少し安心したわ」

 

「そもそも武力がなければ交渉もできないですので」

 

 

 世の中には鯉住君のように『深海棲艦との共生』を謳う集団はいる。そしてそういう集団は往々にして、デモやヘイトスピーチなどで、日本海軍のことを日常的に批判している。

 しかしその多くが、現実が見えていない頭お花畑な連中だったりする。自身の生活への不満を日本海軍にぶつけるために、『深海棲艦との共生』をお題目にしているだけなのだ。

 もし彼らが実際に深海棲艦に襲われれば、掌を返して日本海軍に助けを求めることだろう。その程度の連中だ。

 

 鯉住君が彼らと決定的に違うのは、現実が分かったうえで、深海棲艦に悪感情をぶつけられつつ殺されかけた経験があるうえで、同じことを言っていること。そしてそれを実行しようとしていること。

 

 それが分かった瑞鶴は、素直に感心した。

 さっきまであれほど頼りなく見えた鯉住君から、元帥と一緒に居るときのような心強さを感じる。

 誰にも負けるはずがないと思わせてくれる、そんな心強さだ。

 

 

「……そっか。大佐のこと、少し見直したよ」

 

「? よくわかりませんが、ありがとうございます。

それで……ええと、話が逸れましたが、私がやりたいことの話でしたよね」

 

「うん」

 

「現状は人類だけ見れば、我が世の春が終わって衰退したともとれる状況ですが、大勢を見るとそこまで悪い状況ではないと思うんです。

だから私がやりたいことは、深海棲艦側と協定を結ぶことですね。

知性ある深海棲艦と、本当の意味での『制海権』……縄張りの線引きみたいなのを話し合えたら、と思っています。

野生動物同士がやるような縄張り争いを、交渉でできたらいいなって」

 

「そんなこと、できるかな」

 

「アークロイヤルや天城を見て、できないなんて思いませんよ。

だいぶ私達とは感性が違いますが、彼女たちにだって大切にしているものがある。それこそ、人類への憎悪以上に大切にしているものが。私達と一緒じゃないですか。

……どれだけ大変かわからないし、糸口もつかめていませんが、和睦を諦める理由は見当たりません」

 

「……そうだよね。やる前から諦めちゃダメだよね」

 

「はい。……参考になりましたか?」

 

「うん」

 

 

 彼は全員にとっての不幸な未来を避けるために、その人生を使うつもりだ。そしてその全員の中には、深海棲艦も含まれている。

 話をしている中で、瑞鶴にはそれがよく理解できた。

 

 

「……ねぇ大佐」

 

「どうしました?」

 

「なんていうか、さ。私に見えていたものって、今じゃなかったんだなって」

 

「というと?」

 

「ええとね。私は今まで、この国を敵……深海棲艦から護るために強くなるのが、正しいことだって思ってた。それは今も変わらない」

 

「はい」

 

「でもね。その感覚っていうのは、艦だった時、日本が別の国と戦争していた時の……前の私の乗組員の人たちや、海軍の人たち、日本で暮らす国民たちの願い、それそのままだったんだな、って」

 

「……」

 

「昔とは敵も違うし、物資状況も違う。何もかもが昔とは違ったんだわ。

よく考えればそんなことわかったのに、想いに引きずられてた、って言えばいいのかな」

 

「難しいところですね。それも正しいことです」

 

「うん。昔の人たちの『護りたい』って気持ちが、これまでの私を支えてくれたの。間違ってるなんて言えるはずないわ。

……だからこそ、ここから先は、それだけじゃいけない。私が自分の足で、その先へ進まなきゃいけない。

私と一緒に戦った昔の人たちのためにも、私は前に進まなきゃいけない」

 

 

 どうやら瑞鶴は、自分の意志で先に進むことを決意したようだ。鯉住君を見据える瞳には強い意志が宿っている。

 

 まだ『自分が本当にやりたいことは何か』なんてわかっていないだろう。そもそもそれが見つかるかもわからないだろう。

 それでも彼女は、自分の足で進んでいくことを決めた。ならばもう余計なことを言う必要はない。

 

 

「……今日はもう遅いので、明日の朝一番に、もう一度アークロイヤルに話をつけに行きましょう」

 

「!!」

 

「今の瑞鶴さんなら、もう大丈夫です。

必ずアークロイヤルには教導艦を引き受けさせますので、明日のために、実戦の準備をしておいてくださいね」

 

「うん! わかった!」

 

「それと、元帥にも一報入れておいてください。

どのような話の展開になるかはわかりませんが、良い方向に進むことでしょう」

 

「そうね! ありがとう大佐!」

 

「お礼を言うのはこちらの方ですよ。

私が守りたいのは貴女のような素敵な人ですから。こちらも頑張らないと、って思えます」

 

「ふふっ! それじゃあね! 明日はよろしく!」

 

「はい。おやすみなさい」

 

 

 ダダダと元気よく退室する瑞鶴を、手を振りながら見送る鯉住君であった。

 

 

 

 

 

 

 

「しかしアレだな……俺の方が明日どうなるかわかんないんだよな」

 

 

 そうボヤく彼の膝の上には、アメフトのタックルのように腰をホールドして、膝枕で眠っている天城が。

 

 明日までに彼女をどけて、アークロイヤルと瑞鶴の仲を取り持たないといけない。

 天城の幸せそうな寝顔を見ると、深い眠りに入っているのは確定的に明らか。夜が明けるまでに起こすとか、そんなん多分無理である。

 

 

「どうしよっかなぁ、コレなぁ……もしかして徹夜なのかなぁ……」

 





余談・本編後の瑞鶴と伊郷元帥の電話



「……ってことなの! 私、これから頑張るから!」

(……)

「……提督さん?」

(……フフッ)

「!!?? て、提督さん!? もしかして笑ってる!?」

(いや、すまない、瑞鶴君。バカにしているワケではないんだ)

「それは分かってるけど! 提督さんって笑えたの!?」

(普段はあまり笑わないからな)

「あまりっていうか皆無じゃない!? 提督さんが笑うとか異常事態だよ!? 明日槍でも降るんじゃないの!?」

(いや、私は普通に笑うぞ。そこまで気にしないでほしい)

「気にするなって言ったって無理だよ! こんなの正規空母ネットワークで拡散するしかないよ!」

(まぁその辺は好きにしてくれてよい。
……瑞鶴君、しっかりと学んでくるように。大佐は戦闘における強さとは違った強さを持っている。話を聞く限り、彼の部下も皆、本当の意味での戦士と言える)

「……うん」

(その辺りを教えていなかったのは、まだ瑞鶴君がその段階ではないと思っていたからだが……大佐には頭が上がらんな)

「そんなことないよ! 提督さんがここまで私を育ててくれたんだから!
帰ったら絶対に提督さんを驚かせて見せるから!」

(楽しみにしているぞ。本当に。……フフッ)

「!! また笑ったぁ!?」

(では切るぞ。もう遅い時間だ)

「ちょ、ちょっと待って提督さん! ちょっとその笑った顔、写メで送っ……!!」



 ピッ!!



・・・


 大本営・執務室


・・・



「……フフッ。やはり大佐にハワイ遠征の話をしたのは、正解だった。
期待をはるかに越えて、大佐は素晴らしい人物だったな」


 ぬるくなったお茶を一口すすり、窓の外を見る。


「私の唯一にして、最大の仕事。
……待っていてほしい。鮫島さんに鰐淵さん、そして鼎君。未来は、明るい」


 窓越しに元帥が見上げる夜空には、満天の星空が広がっていた。

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