彼が学生だった頃、特に深海棲艦に襲われて以降は、艤装メンテについて知見と経験を深めていくために、こんな毎日を送っていました。
朝ごはんwith読書(艤装関連)→
夕方まで大学で講義受講+実習→
備え付けの工廠にて艤装をひたすらいじくる(自学自習)→
小型艤装持ち帰りつつ帰宅(艤装は艦娘にしか扱えないので危険はなく、許可制だけど持ち帰り可)→
ひたすら艤装をいじくりながら過ごす(時に読書しつつ)→
艤装と一緒に寝る
わかる人にわかりやすく言うと、ハンターハンターの具現化系の修行とほぼ同じです。
これを1年と数か月、しかも毎日続けていたせいで、割と狂人扱いされてました。本人は気にしてませんでしたが。
この下積みがあったうえで最前線の呉第1鎮守府でバリバリやったおかげで、他の人より頭ひとつふたつ抜けた職人になれたみたいです。
普通の人でも同じことをすれば(+奉仕の精神があれば)同じくらいハイレベルになれると思いますが、少なくともまだ同じようなことをした人はいないみたいですね。
三鷹少佐からの転化体ホームステイ依頼に続いて、白蓮大将からの緊急事態宣言発令時における総督府指定予約。
なんだか初日にして盛りだくさんで一気に老け込んでしまった鯉住君だったが、幸いにしてその日はもう胃が痛くなるような事態は起こらなかった。
しいて言うなら、ラバウル第1基地・第2艦隊の隼鷹が酒を求めてうろついたことで高雄に説教されたくらい。
それくらいのイベントなら日常茶飯事なので、軽く受け流す程度だった。
大人数のお客さんとの共同生活がつつがなく続きつつ、さらに2日後。
今現在、鯉住君、叢雲、古鷹の3名は玄関で待機している。
ついに本命である本土組……甘味工場建設計画のホストである間宮を抱える呉第1鎮守府(鼎大将のとこ)、研修中の瑞鶴が所属する大本営、鯉住君の先輩であり将棋ジャンキーな一ノ瀬中佐率いる横須賀第3鎮守府、そして新たに鯉住君の部下となることが(勝手に)決定した、非戦闘艦の皆さん。
これだけのメンバーを一気に出迎える日が来たのだ(同じ定期連絡船で来るため)。
メンツの階級がヤバかったり、秘書艦ズの教導をしていた艦が来るのでふたりともガチガチに緊張してたり、そもそも何十人のもてなしをするとかいう大きな旅館も真っ青な重労働があったりで、ストレスの役満もとい厄満といった様相を呈している。
ちなみに正確な訪問人数を教えてくれたのは、元帥だけだった(第1艦隊メンバー+自分と伊良湖)。
他は軒並み、やれ『バカンスしたい部下の数次第』だの『当日まで参加権争奪将棋大会するから未定』だの、全然教えてくれなかった。
訪問人数わからなきゃ準備ができないじゃないか……というか参加権争奪戦するのに参加人数不明なのか……なんていうツッコミを入れる余力さえも湧かなかった。
結局のところ分かったことは、どうせすごい人数になるということだけ。つらみを感じる鯉住君である。
「メンツは最低限しかわからないし、そもそも人数すら全然わかんないし……
結局何人になるんだろうなぁ……」
「どうせこないだ(三鷹さんと白蓮大将が来た時)みたいに、想像よりも多めになるんでしょ?
その想定で部屋の用意したし、なんとかなるでしょ。というか、なんとかするわ」
「準備は万全です。とはいえ部屋数が足りなくて、4人一部屋予定になっちゃいましたけどね。流石に他所の提督の皆様には個室を用意しましたが」
「まぁ艦娘と同室とかマズいからね。男女一緒ってことになるし」
「……夕張と連絡船で同室だったのは、どこのどいつだったかしらね……?」
「あー……いや、それは、その、叢雲……それはそれ、これはこれだから……」
「……(じっとりとした視線)」
「ま、まあまあ! 夕張先輩も提督とケッコンしてるわけですし!」
「……まぁ、そうね」
「そ、それにほら!
提督はそういった意見が出るからということで、それ以降全員と平等に接するよう気を付けてくださっていますし!」
「古鷹フォローありがとう……! 距離感保っててよかった!」
「……………………(じっとりとした視線)」
「古鷹の言うとおりだぞ、叢雲!
あれはその、ほら、夕張が真剣だったから応えなきゃいけないって思ったからで……
キミたちに対して、軽い気持ちで接するつもりはないから! しっかり向かい合うつもりだし、ちゃんとそれなりに距離を取るつもりだから!」
「……………………………………………………(じっとりとした視線)」
「提督は黙っててください!」
「なんで!?」
「私が黙っててって言った理由がわかってないからです!」
「なにそれ!? どういうこと!?」
・・・
いつも通りコントを繰り広げながら時間をつぶしていると、遠くの方からエンジン音が響いてきた。どうやらお客さんたちが到着したようだ。
ブロロロというエンジン音と共に大型のバスが1台、道路の先から姿を現す。
大型バス1台ということは、多くても40名程度ということだろう。十分大人数だが、想定はもっとひどいものだったため許容範囲内である。
「あ、ホラ、来ましたよ! 気を取り直してください!」
「お、おう。……思ったより少なそうだな」
「……ホントね。大型バス1台くらいなら大丈夫だわ」
ちょっとだけホッとした3人の目の前では、ぞろぞろとバスからお客さんたちが降りてきている。
どうやら先に降りてきたのは大本営の面々のようだ。
伊郷元帥に筆頭秘書艦の大和、第1艦隊のメンバーである木曾、加賀、扶桑、伊58……よく知る顔ぶれである。
「久しぶりだな、大佐。しばらく私達全員で世話になる」
「お久しぶりです、伊郷元帥。
大本営の方々については、ちゃんと事前に人数を連絡していただいてるので全然問題ないですよ」
「うむ。大佐たちをよく知る者が大本営にはほぼいないのでな。同行したいと立候補する者もおらず、すんなりと決まったのだ」
「そうだったんですか」
確かに大本営で鯉住君たちを知る人が他に居るかと言えば、答えはノーである。強いて言えば愛宕がそうだろうか。
ちなみに『夕張愛を叫ぶ事件』の時に結構な人数に衝撃を与えたのだが、あの時はどこの誰とは名乗っていなかったので、ラバウル第10基地の鯉住大佐だとは知れ渡っていない。よってノーカン。
そんな感じで元帥と軽く社交辞令の挨拶をしていると、見知った第1艦隊メンバーが声を掛けてきた。
「よう義兄さん。元気そうじゃねぇか」
「木曾さん。相変わらず義兄さん呼びなんすね……」
「細かいことはいいだろ。それはそうと姉さんたちも元気でやってるか?」
「ええ。よくやってくれていますよ」
いの一番に話しかけてきたのは、鯉住君のことを義兄さん扱いしている重雷装巡洋艦、木曾改二。
姉妹艦であり姉である北上、大井と彼がケッコンしているので、そんな扱いになっている。
「ちらっと第10基地の戦果報告を見てきたけど、護衛任務において、とっても優秀な成績を残しているでちね。あ、久しぶりだね大佐。お世話になるでち」
そこに加わってきたのは大本営潜水艦部隊の中でも一番の練度を誇る潜水空母、伊58改。
対潜艦がソナーを使っていたとしても、相当注意していなければ存在を感じられないほどの隠密力を誇る実力派だ。
「鎮守府設立してまだ2年も経っていないというのに、大したものね。
不甲斐ない五航戦の面倒を見ていただいて、感謝しています」
正規空母の加賀改も挨拶ついでに話しかけてきた。
彼女は以前横須賀第3鎮守府で木曾と一緒に将棋研修を受けていたこともあり、相当な実力者である。
一定以上の練度を誇る空母にしかできない「艦載機部隊分割」を使いこなせる、数少ない艦娘だ。
「ゴーヤさんに加賀さん。お褒め頂けて光栄です。
それと瑞鶴さんは本当に頑張っていますよ。毎日ギリギリではありますが、タフな精神力で食らいつき続けることができています」
「あらまぁ……瑞鶴さんはとっても向上心に溢れていますので、納得ですね。
先日はどうもお世話になりました。今回もご迷惑おかけしませんよう配慮いたしますので、よろしくお願いいたしますね……」
航空戦艦の扶桑改二も会話に加わってきた。
オドオドしていることも多いが、非常に丁寧な戦闘を構築できる強者でもある。
「扶桑さん、そんな丁寧にされなくても……
正直言って、大本営の皆さんはこちらとしてはなんの危険もない(主にイレギュラー対応的な意味で)部類ですので、ぜひとも自由に過ごされてください」
「ありがとうございます……」
「いえいえ。なんかもう手のかかる人たちが濃すぎるので、常識的な皆さんは逆にありがたい存在でして」
「そ、そうなんですか……? 常識的……?
ま、まぁ、歓迎していただけているのはありがたい限りです。そうよね? 大和さん」
そして当然、大和も参加メンバー。
彼女と顔合わせするのは瑞鶴を引き取った時以来なので、かなり久しぶりである。
「ええ。りゅ……大佐にはいつも苦労を掛けているのに、そう言ってもらえるだけでもありがたいことです」
「そんなそんな。毎度のイレギュラー対応でお世話になっているのはこちらですので。
……それはそうと、お久しぶりですね。大和さん」
「うふふ。普段から電話でやり取りをしているじゃありませんか」
「それでもやっぱり、直接顔合わせすると感覚が違いますので。
今回は休暇の意味もあると聞きました。日ごろの疲れをゆっくりとっていってくださいね。
ご存知とは思いますが、大浴場もプールもありますので」
「お気遣いありがとうございます。お言葉に甘えて羽根を伸ばさせていただきますね。
今回はプールでゆっくりさせてもらえると聞いたので、みんなで水着を持ってきたんです」
「……え? まさかの水着持参ですか?」
これは完全に予想外。バカンス楽しんでとは言ったものの、まさか本当に全力で楽しむための装備(水着)をもってきているとは……
せっかく事前に用意しておいた貸し出し用の水着が無駄になってしまった。
ちなみに各サイズをそこそこの量発注したため、水着の種類は安価で丈夫なスクール水着である。提督指定の水着である。
「ええと……ちなみに水着持ってきたのって、皆さん全員なんですか?」
「おう。北方迷彩柄のショートパンツ水着だぜ」
「ゴーヤはいつも通りの艤装でち」
「私はビキニタイプを用意しました。色は青よ」
「私はモノキニタイプ……? などという種類の水着を、加賀さんにまとめて発注していただきました……」
「私はパレオ付きのビキニを用意してあります。
大佐もお時間が許すようでしたら、その……よ、よろしければご一緒しませんか?」
「あー……いや、その……運営側で手一杯だと思いますので、申し出はありがたいのですが……」
「そ、そうですよね……すみません、変なこと言って」
「いやいや大和さん、一緒に楽しみたいと思ってるのは俺も同じだぜ。
しかしマジかよ大佐。こんな時くらい仕事を忘れて一緒に楽しめばいいだろうに」
「いえいえ木曾さん、皆さんが楽しむためにはこちらが働かないとですので……」
「あー、それもそうか。マジでそれはすまねぇな」
「そう思うんでしたら、コチラは気にせず楽しんでください。
おもてなしした時に相手が楽しんでくださるほど、嬉しいことはありませんから」
「相変わらず大佐はイイ奴だよな。姉さんたちも惚れるワケだぜ」
「あはは……」
まさかのプールのお誘いであったが、断りを入れることに。
男としてはこんな美女たちにお誘いされたら嬉しさ100%なのだが、ホスト側が一緒に楽しんでいては『それはどうなのさ』となってしまう。
大和からのお誘いでテンションが上がったのを察知したのか、後ろからの秘書艦ズの視線が鋭さを増したのも、断った原因のひとつだったりする。
危機感知能力(対女性)が向上しているようでなにより。
そんな感じで挨拶を終えると、秘書艦ズが話しかけてきた。
「……それじゃ、私が大本営の皆さんを案内してくるから。アンタは他のお客さんを出迎えなさい」
「お、おう。わかった叢雲」
「叢雲さん、お願いしますね。
私と提督で、これから降りてくる皆さんをお出迎えしますので」
「頼んだわ。古鷹」
ちょっと短いけどここまでで。
キャラクターがいっぱい登場するから頭の切り替えが大変なのです(いいわけ
ラバウル第1基地のお客さんをカットしたので、訪問メンバーを載せときますね。
・提督
白蓮大将
・第1艦隊
長門改二88、金剛改二(研修中)研修前92、赤城改85、雲龍改78、阿武隈改二90、秋月改79
・第2艦隊
榛名改二(研修中)研修前85、高雄改78、飛鷹改70、隼鷹改68、能代改65、照月改62
ラバウル基地は横須賀鎮守府、呉鎮守府、リンガ泊地と並ぶ大規模鎮守府ですので、そこの筆頭鎮守府の主力となれば、日本海軍でも指折りの実力者集団ということになります。
というわけで第1艦隊メンバーは本当に強いです。
どっかで前に練度出してたらすいません。こっちに記憶を更新してください。
それにしても、こんなに一か所に戦力集中しちゃていいんだろうか。