艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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今回も主役が登場しない脇道のお話です。
天龍龍田たち含め佐世保第4のメンバーが揃ったら会議開始(そして分で終了)予定なので、それまでは前回みたいな感じにしようかな、と。



第143話

 ここは現在お客さんが滞在している艦娘寮……ではなく、その隣にある豪農屋敷めいた鎮守府棟。

 その一室である娯楽室(お茶の間)。そこではふたりの艦娘が将棋盤を挟んで、真剣な顔で向かい合っていた。

 

 

 

パチッ

 

 

「誘っておいてなんですが、本当に良かったのですか?

貴女の仕事を放り出してきてしまっても」

 

 

パチッ

 

 

「いいのよ。別に放り出してきたわけじゃないもの。

呉第1の間宮さんが代わってくれるって言うから、任せてきただけ」

 

 

パチッ

 

 

「へぇ。可愛がっている弟子を預けてきてもいいのですか?

私が食堂を利用した際に感じた雰囲気だと、あの水上機母艦の能力では、今の食堂を捌くのには不十分だと感じましたが」

 

 

パチッ

 

 

「だからこそよ。あの子の料理の腕は、私だけについて学ぶ段階を過ぎているわ。

給糧艦として大規模鎮守府を支えている間宮と一緒に仕事することで、視野も広がるでしょう。

それに、なにかを上達させたいときには、ちょっと無理するくらいがちょうどいいわ。そのくらい知ってるでしょ?」

 

 

パチッ

 

 

「当然」

 

 

パチッ

 

 

 将棋盤を挟んでいるのは、横須賀第3鎮守府から来た重巡・鳥海改二と、彼女の元同僚であり現在はラバウル第10基地に所属している重巡・足柄改二である。

 足柄が間宮に仕事を任せて休暇をとると聞いて、鳥海が一局指そうと誘ってきたのだ。

 

 足柄としてもこれを断る理由などなく、特に用事があるわけでもなかったため、付き合うことにしたのだ。

 ……というか、足柄としても久々にガチの勝負をしたいと思っていたところだったのだ。

 

 この鎮守府に居ると将棋相手は鯉住君と北上大井姉妹しかおらず、さらにその3人では足柄の本気を引き出すまでは至らないのだ。

 ごくごくたまーに北上が、神がかった閃きを見せて勝利することはある(その閃きは確実に師匠である巻雲譲り)ものの、1000回やったら999回は足柄が勝つような戦力差なのだ。

 

 そういうわけで、最近は鳴りを潜めている足柄の闘争心が、ビシバシ刺激されたのだ。

 

 

「私がわざわざこんな南方にまで来た理由のひとつは、貴女の実力の変化を見極めるためです。

無様な姿を晒すことが無いよう、精々食らいついてくださいね」

 

「相変わらず毒舌ねぇ。

ま、期待外れにはならないでしょうから、楽しみにしておきなさい」

 

「……おや、私の知る貴女でしたら、このような安い挑発にも乗ってきたはずですが」

 

「あら? 貴女が人を褒めるなんて珍しいじゃない?

安心なさい。腑抜けたわけじゃないわ。むしろその逆」

 

「へぇ」

 

「飢えた狼はなによりも恐ろしいなんて、昔の私はそう信じてがむしゃらにやってきたわけだけど……それがそうでもなかったみたい。

それよりも強いもの見せてあげるわ。覚悟なさい」

 

「私を挑発し返してくるとは。

……いいでしょう。その言葉が虚仮脅しではないこと、証明してみなさい」

 

「言われなくてもね。

フフッ、久しぶりの真剣勝負で、血が滾ってきたわ……!!」

 

 

 

・・・

 

 

 

 元同僚とは思えない刺々しい会話を皮切りに、雑談を止め、真剣に指しあいを始めたふたり。娯楽室にはパチリパチリという、駒と将棋盤が触れ合う音だけが響く。

 

 とはいえ局面はまだまだ序盤。

 局所で小競り合いが繰り広げられることはあるものの、陣構築と攻勢への準備を整えるような状況。本格的な喰らい合い、潰し合いの前段階である。

 

 足柄はもっとも得意とする戦法、居飛車からの棒銀(※1)を選択。非常にオーソドックスだが実力者にも好まれる戦法だ。

 対する鳥海は、居飛車からの雀刺し(※2)を選択。超攻撃的だが、上手に受けられると一転直下で敗北してしまうというピーキーな戦法だ。

 

 

 

 

 

※1……飛車が居る側から銀将をガンガン前進させていき、相手の角の目の前で攻防を繰り広げる型。

棒銀で攻められた際に受けを誤ると、最強の駒・龍王をノーリスクで暴れまわれる状態で自陣に降臨させてしまう。

攻めに割くリソースが少ないうえに、相手はある程度守りを警戒しないといけないという、かなりコスパがいい戦法。

 

※2……龍王を相手の陣地に送り込むという狙いは同じだが、こちらは銀将ではなく、歩、桂馬、香車、飛車、角の5枚を使って一点突破する。

大駒(王将、角、飛車)を2枚も使ったド派手な攻めで、ものすごい攻撃力。しかしその分守りが手薄になってしまう。後戻りが厳しいので、上手く対処されると敗北必至。

特に盤の端を攻める時には無類の強さを発揮する。応用も効く。

 

 

 

 

 

「やはり貴女は棒銀ですか。そこは変わっていないようですね」

 

「戦法を変えれば強くなるわけじゃないわ。

それにしても……スズメ刺しとはね。どういうことかしら?

貴女が突き刺そうとしている場所には、獲物になる私の大駒はいないんだけど」

 

「さぁ、どうでしょうね? 終わってみればわかるでしょうね」

 

「まったく……気が抜けないわね。どこにいくつ罠を仕掛けているのやら。

無思慮に足を踏み入れたが最後、ドカンと局面が爆発する……『キラークイーン』とは、よく言ったものね」

 

「漣の命名センスは嫌いではないです。

……さて、いつものように、警戒しすぎた挙句、攻めきれずに息切れする姿を見せてくださいね?」

 

「ふふん。言うじゃない。

とはいえ、今の私を昔の私と一緒にしない事ね。……と、いうわけで……」

 

 

 

……スッ

 

 

スチャッ

 

 

 

「……? いったい何をしているんですか……?

懐から取り出したメガネをかけたところで、何かが変わるとは思えませんよ?」

 

「これはただのメガネじゃないわ。鯉住君からのプレゼントよ」

 

「……は? 何故プレゼントにメガネ? 鯉住さんは何を考えているのですか……?」

 

「あの人、夕張の猛アピールが功を奏したのか、私たちひとりひとりと改めて向かい合うなんて言ってね。個別面談をしてくれたのよ」

 

「夕張さんとのアレコレについては漣から聞いていますし、それ以降については貴女が報告してくれたから知っています。

……貴女があそこまで鯉住さんとの距離を縮めようとするとは……

昔の貴女は勝負事以外、特に色恋なんてものには、まるで興味が無かったと記憶していたのですが」

 

「こればっかりは仕方ないわね。惚れてしまったんだもの」

 

「ハァ……それは別に構いませんが、鯉住さんの心には聡美司令の居場所は確保しておいてくださいよ?

貴女の女子力と聡美司令の女子力では、月とスッポン……いや、太陽とミジンコくらい差があるのですから。私が目を離すと、すぐに夕雲に頼りだす体たらく……

……と、話が逸れました。で、そのメガネが何だというんですか?」

 

「この伊達メガネは、その個別面談の時に彼がくれたものよ。

彼の言い分としてはね。G7(横須賀第3鎮守府の実力者上位7名)はみんなメガネかけてるから、私もメガネかければその位置に食い込めるんじゃないか、って」

 

「……なんですか、その最高に頭の悪い意見は……」

 

「まぁ、正直私も同じこと思ったわ。でもね、そこは重要じゃなくて。

これは彼が選んでくれたプレゼントなのよ。人間じゃない、世間では兵器と呼ばれて避けられることが多い私達に、心を込めて渡してくれたプレゼント。

しかもまさかの手作り、そのうえ超高性能電探機能付きよ?

妖精さんとの合作で、フレームからレンズ、加えて極小精密レーダー機能まで搭載してくれたの。凄いでしょ?」

 

「凄いのか頭が悪いのか、なんだかよくわかりませんね……

そういえばあの人は、研修を受けていた頃から、そこそこの頻度でよくわからない言動をとっていましたね……」

 

「彼は私達艦娘とは少し感覚が違うもの。妖精さんと話ができるのも、そのせいかもしれないわね。

……ま、そういうわけで、彼と私の絆のチカラで、この勝負勝たせてもらうわ」

 

 

 どうやら鯉住君は、とんでもない伊達メガネ(電探機能搭載)をプレゼントしていたらしい。

 なんだかんだ足柄もそれは嬉しかったらしく、スチャッとメガネをかけなおす彼女の表情は、自信に満ち溢れている。

 

 それを見る鳥海の表情は苦々しい。足柄の言っていることが理解し難いのだろう。

 

 

「世迷言を……そんなあやふやなもので、将棋という残酷なまでの実力勝負に勝てるものですか」

 

「試してみる?」

 

「……上等」

 

 

 雑談により止まっていた盤上の時間が動き出す。

 お互いの戦支度は済んでいる。あとはぶつかり合うだけだ。

 

 

「感情の昂ぶりなど不純物。頭脳の輝きこそが全てなのです」

 

「かかってきなさいな。今の私はひとりじゃないわ」

 

 

 

・・・

 

 

一方その頃

 

 

・・・

 

 

 

 鳥海と足柄がプライドをかけた対局を行っている、ちょうどその頃。

 艦娘寮(旅館)の一室では、彼女たちの張りつめた緊張感とは無縁のダラダラ空間が展開されていた。

 

 この部屋の主……というか、割り当てられたメンバーは、横須賀第3鎮守府の4名。

 提督である一ノ瀬聡美中佐と、初期艦の駆逐艦・漣改、そして漣の同好の士というか悪友というかなふたり、駆逐艦・秋雲改と重巡洋艦・青葉改である。

 

 一ノ瀬中佐はともかく、他の3名は鯉住君から蛇蝎の如く嫌われており(自業自得)、この鎮守府における自由行動の一切合切を禁じられている。

 そういうことで、滞在期間通してのお目付け役は、提督の一ノ瀬中佐が担当することになったのだ。

 

 ちなみに秋雲と青葉に関しては、持ち込んだPC端末で色々と作業しているので、暇しているわけではなかったりする。

 もちろんその作業とは、鯉住君から余すところなく感じ取ったエロスや尊みをアウトプットする作業である。ロクでもない。

 

 

「あ゛ー……ヒマヒマの実の暇人間ですぉ、ご主人サマぁ……」

 

「諦めなさいよ。自分たちが暴走したせいで、こんなことになってるんでしょう?」

 

「だってぇ、しょーがないじゃないですかぁ。

旦那様がいやらしすぎるのが悪いんですー」

 

「別にそんなことないでしょうに……

第一なによその呼び方。鯉住君は別にアンタの旦那様じゃないでしょ?」

 

「ご主人様の旦那様になるんだから、旦那様なんですよぅ。なんの問題ですか?」

 

「今更鯉住君がその程度でギャーギャー言うことはないでしょうから、別に問題はない……っていうか、別に私は鯉住君と結婚するつもりないから!」

 

「ハハッ ナイスジョークですぞ」

 

「いやホントそういうんじゃないから……

鳥海も足柄も、初期艦のアンタも、挙句の果てには元帥まで……

なんでみんな彼と私をくっつけようとするのよ……」

 

「ご主人様の天才的頭脳なら、分かってるでしょー?

気づかない振りしちゃってぇ」

 

「そりゃあ、言いたいことはわかるのよ。

私の適齢期とか、アンタ達艦娘からの好感度の高さとか、彼の性格が私と相性良さそうとか……

私もまぁ、その、彼の事、別に嫌いじゃないし……」

 

「やっぱしわかってんじゃないですかー。

それに嫌いじゃないなら、さっさとくっつけばよかろうでしょうにー」

 

「いやいや……もう彼は部下とケッコンしてるんだから、倫理的にも私がどうこう言える立場じゃないのはわかるでしょ?」

 

「押し切れば全然よゆーのよっちゃんイカですってば!

旦那様だってご主人様のこと悪く思ってないし! そもそもあの人、押しにクッソ弱いですし!」

 

「そんな気楽なモンじゃないんだって……」

 

「なーに言ってるんですか! 相性のいい男女が一緒にならなくてどうするんですか!

何億年もこの星の生き物はそれでやってきてるんだから、細かいことは気にしない気にしない! 気軽に好きって言ってくっついちゃいましょ!

それに、こんなにか弱い乙女な私達をナマモノと戦わせておいて、今さら倫理なんて持ち出しても、ヘソで茶が沸きますぞ!」

 

「アンタは昔っから、そういうとこあるわよねぇ……はぁ……

アンタだけじゃなくて艦娘はみんなそうだけど、すごいドライというか、達観してるというか、常に第3者目線で物事を見てるというか……」

 

「そりゃしょうがないですよ。

漣たち艦娘は、一緒に沈んでった色んな人の想いを乗せてますからね。

色んな視点でモノを見ちゃうのもそうだし、自分が自分かどうかあやふやだから、キャラを強くしないとやっていられなかったりで、大変なのヨ」

 

「知ってる知ってる。

しかしアレよねぇ。そんないろんな視点を持つアンタたちが、こぞって鯉住君との結婚を勧めるんだから、大概よね」

 

「それもまた致し方無しってやつですよ。あの人ったらエロ過ぎるんですから」

 

「なに言ってるの……そんなにじゃないでしょ?

確かに良いカラダしてるし、顔は悪くない方だと思うけど」

 

「美貌を無駄遣いしてるご主人様からしたら、大半の人間はブサイクでしょ~?」

 

「美貌の無駄遣いとか、サラッと人が気にしてること言ってんじゃないわよ……」

 

「ま、アレです。鯉住さんはですね、艦娘である私達が、ついていきたくなるというか、放っておけなくなるというか、貴方と合体したいというか、そんな気分になっちゃう人なんですよ」

 

「サラッと物騒なこと言ったわね」

 

「ただでさえそんなフェロモン出してるのに、毎日一緒に過ごして、人間よりも大事にしてくれて、優しい言葉かけ続けてもらっちゃったら、どうなっちゃうと思います?」

 

「まー、その結果が重婚だものね……

部下に迫られてとかいう話だけど、それが着任半年以内で起こったって事実には戦慄するわ……」

 

「漣たちなんて、研修期間のたったの2か月でコロリですよ!」

 

「なに誇らしげにしてんのよ……アンタらがチョロ過ぎるだけでしょうが……

ハァ……」

 

「だからこそぉ!

ご主人様と旦那様が物理的にもくっついてくれれば、漣たち部下の艦娘も連動して旦那様の部下に!

司令官兼心の支え兼将棋で越えるべき壁としてのご主人様! 癒しの権化兼攻略対象兼下半身に響く紳士兼いつか還る場所としての旦那様! うーん、ベストマッチ!

ここが天国ですか!? ノン! ここはこの世の楽園です! そんな鎮守府が誕生するのですぞ!!」

 

「うわぁ……」

 

「なにドン引きしてるんですか! マジマジのマジですぞ!」

 

「いや……欲望ダダ洩れもいいところじゃない……

誰だってヒクでしょ、そんなの……うわぁ……」

 

「その蔑んだ目、やめてもらえませんかね?

みんな多かれ少なかれ思ってる事なんですからー」

 

「なんだかなぁ……

漣アンタ、最初に会った時はもっとお堅い感じだったじゃない。いつからそんな色ボケピンクに成り下がったんだっけ?」

 

「ヒドッ!? 言い方ってものがあるでしょ!?

漣だって言葉の刃でボロボロに傷ついちゃう、可憐な乙女なのヨ?」

 

「可憐な乙女は、下半身に響くとか言わないから。

アンタ達がこんなに自由にやるようになったのも、鯉住君の影響なのかしらねぇ」

 

「ご主人様の影響があったから自我が大きくなって、結果として鯉住さんに対するアレコレが目覚めちゃったって感じですねー。

聡美司令の前のご主人様たちは、どうしても人として好きになるとか、そういう感じじゃなかったんで。

みんな有能な指揮官様ではあったんだけど、ビジネスライクなお付き合いしかできませんでしたから」

 

「あー、確かに初対面の時は、ドラマとかの重役会議でよく見るような、無表情な塩対応だったわねー。

アイスブレイクに半年くらいかかったのって、前の提督のせいだったの?」

 

「そうといえばそうですねー。

仕事はキッチリする人だったし、指揮の腕は確かだったから、別に最悪ってわけではなかったんですけどー。

……どうしても殿方だったので、漣たちに対する視線と、軽いセクハラがねー」

 

「うわ……漣アンタ、セクハラされてたの?」

 

「巨乳派だったらしく、潮ちゃんが被害に遭ってましたね。

まぁ、かるーいボディタッチ程度でしたので、その程度でギャーギャー言うワケもありませんケド。

せいぜいボノたんが心の底から軽蔑した目で睨みつけるくらいです」

 

「平然としてるわねぇ……そういうところなのよ。私がアンタ達がドライだって思うの」

 

「なんと言いますかですね、そういう時って心の中の軍人部分が顔を出すわけですよ。深海棲艦と戦ってる時と同じですねー。マイナスな感情には敏感なんです。

セクハラされた潮ちゃん凄かったですよ~?

もう完全に無表情。アレは鉄の心を持つ軍人顔ですね!」

 

「そういうものなのね。やっぱ艦娘って、人間とはちょっと違うわ……」

 

「今さら何言ってるんですかー。いやですよぉ、ご主人様ったら。

とにかくですね、そういうワケで、ご主人様には鯉住さんと一緒になってもらわないと困るんですよ!!」

 

「だから嫌だって言ってるでしょうに……」

 

「むむむ……!」

 

「なにが『むむむ』よ。

アンタ達の気持ちも知ってるし、彼と一緒になるのが嫌なわけじゃないんだけど……一緒になっちゃいけない気がするのよ」

 

「うー、よくわかんねーです……その心は?」

 

「勘よ」

 

「えー」

 

「私は勘を大事にしてるの。知ってるでしょ?」

 

「あ、それもしかして、『勘』と『艦』をかけたダジャレ……」

 

「ここに居る間、部屋から出るの禁止するわよ?」

 

「ヒエッ……サーセンっしたぁ!!」

 

「漣もそこのふたりを見習いなさい。

秋雲はタブレットでお絵描きしてるし、青葉はPCでなんか編集してるし、静かなもんでしょ」

 

「いやあれは、ここに到着した時の鯉住さんのエロさとか尊さとかを必死にアウトプットしてるから静かなだけで……

漣は撮影担当なんで、やることもうやっちゃったんです。目的のない作業なんて拷問ですからね?」

 

「はいはい。鯉住君を困らせたんだから、軟禁くらい甘んじて受けなさいよ。

ホラ、ここに将棋盤があるでしょ? 死ぬほど鍛えてあげるから」

 

「普段なら別にそれでもいーんですけどぉ……

ハァ……漣もみんなと一緒にバカンス楽しみたかったー」

 

「ひと段落するまではおとなしくしてなさい。

会合が終わった後くらいは、遊びに出るくらいなら許してあげるから」

 

「言質取ったり! 約束ですぞ!? ご主人様!」

 

「はいはい。それじゃまずは一局指すわよ。飛車角落ちでいいかしら」

 

「悔しいけどハンデとしてはその辺が落としどころですね!」

 

 

 

・・・

 

 

 

「……負けました」

 

「……ふぅ」

 

 

 鳥海と足柄による勝負がついたのは、対局開始からなんと9時間後。

 始めは顔を出したばかりだった太陽が、今となっては逆の方角に隠れかけている。

 

 

「……あと……あと少し、だったんだけどね……」

 

「そう簡単に……越されてなるものですか……」

 

 

 勝者は横須賀第3鎮守府・第1席として君臨する鳥海。

 結果だけ見れば、(元)第8席の足柄の敗北は当然ともいえる。しかし、その試合内容はどちらが勝ってもおかしくないほど拮抗したものだった。

 

 鳥海の張り巡らせた地雷群を、時には紙一重でかわし、時には被弾しながら突っ込み、時には勝負所をずらすことで無効化する。

 このような指し筋のバリエーション、以前の足柄には無いものだった。少なくとも地雷を踏み抜けば終了という姿勢だった。地雷を踏んだ後に巻き返すことなどできなかった。

 

 地雷群の中、愚直に、それでいて勇猛に前進を続ける戦士。それが以前の足柄だった。

 だったのに、今の足柄は、地雷原を散歩するように優雅に進み、爆発が起こっても動じずケアする。そんな立ち回りに変わっていた。

 

 それだけではなく、攻めと守りのスイッチがほとんど見えなく、分かりづらくなっていた。

 以前の足柄の最大の弱点にして、最大の持ち味である、猪突猛進、勝ちへの執念。それゆえに苦手としていた攻守切り替え。

 それが別人であるかのようにスムーズになっていた。そう、鳥海ですら見極めるのに苦心するほどに。

 

 とにかく激戦だった。

 かかった時間と、ふたりの疲労が、そのことを何よりも物語っている。

 

 

「一体……一体何が、貴女をそこまで変えたのですか……?」

 

「だから……言ったじゃない……フゥー……今の私はひとりじゃないって……」

 

「絆のチカラ、ですか……バカバカしい……

……と、言いたいところですが、ここまで結果を出されてしまっては……悔しいですが……」

 

「ここに来てから、常識や自分の経験なんて、アテにならない事ばかり。

……彼がね。広い世界を見せてくれたのよ」

 

「まったく、どれだけ夢中なのですか……貴女のような戦闘狂が惚気るなど、怖気が走ります……ハァ……」

 

「別にいいじゃない別に。毒舌もほどほどにしないと、いいかげん私も怒るわよ?

……聡美ちゃんにも、同じような幸せを味わってもらいたいんだけどね」

 

「……当然です。私に勝った聡美司令には、誰よりも幸せになってもらわなければならないのです」

 

 

 激戦を終え、将棋盤を一緒に片付けるふたりは、対局に夢中で昼をとっていなかったのを思い出して食堂に向かった。そしてそこで間宮にビシバシ指導されている秋津洲を見つけることになった。

 調理のことになるとガチモードに入る間宮の熱血指導を受けた秋津洲は、半泣きで巨大寸胴鍋を7,8個同時に面倒見ていたとか。

 

 その様子を見たふたり、特に手伝おうなどとは思わず『ちゃんと仕事してるな』くらいにしか感じなかったとか。

 なんだかんだ仲が良く、なんだかんだ戦闘狂なふたり、実は似た者同士なのであった。




イベントは明日でついに終了ですね!
皆さんお疲れさまでした!


補足


・32号対水上電探改二 ☆+10 (足柄専用・眼鏡型)

命中+12 索敵+14 回避+6 補強増設部分に装備可能

(上昇数値は改修分未反映です)

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