そして夕張改二おめでとうございます!(激遅)
このお話では色々はっちゃけてる夕張なので、なんだか嬉しくなりますね!
性能は5スロか甲標的なら嬉しいなー、と思ってましたが、まさかの全部乗せ。軽巡界の次郎と化しましたね。ホント強い。
本日は強すぎない日差しに加えて、鎮守府裏の低山から吹く涼風(not艦娘)が心地よい外出日和。
軍事施設には似つかわしくない、ゆったりとした空気が流れるラバウル第10基地。そこに併設されている農場では、何人かの艦娘がせっせと農作業に勤しんでいる。
本日はいい塩梅で育ったタロイモの収穫。みんなで仲良くクワをふるいながら、背負った籠にポイポイと芋を放り込んでいる。
ちなみに全員ジャージ着用。提督が以前、艦娘の制服は自身の目のやり場に困るという理由で大量購入した芋ジャージである。
提督と顔合わせする日常遣いでは乙女のプライドから着用を避けられ、その機能性から提督の目の届かない部屋着や仕事着として重宝されている、あの芋ジャージである。
未だに提督はショックで引きこもっているので、現在この鎮守府で彼にこの姿を見られることはない。
乙女な皆さんも心置きなく芋ジャージを着用できるというものだ。
「由良~、籠のどのくらいまで収穫できた?」
「ま、まだあんまり……ヒッ! お、おっきな芋虫ぃ!」
「もー、いいかげん慣れてよ虫くらい。秋月ちゃんと照月ちゃん見てみなさいよ?」
夕張と由良の目の前では、立派に育ったタロイモを前に、目をキラキラさせた秋月と照月がたわむれていた。
「す、すごい……! こんなに立派なお芋がゴロゴロと!
ねえねえ照月! 煮っ転がしにしたらおいしそうよね!?」
「そうだね、秋月姉! 姉妹みんなで芋煮会出来たら幸せだろうなぁ……!」
「そうね、そんな贅沢……夢みたいだわ!
……あ、照月、背中におっきな芋虫がついてるわよ?」
「え、ウソ? 秋月姉、とって~」
「はいはい……それにしてもこの芋虫、丸々としてるわね」
「芋虫もおいしく食べられたらよかったのにね!」
「それはそうかもだけど、私達が食べちゃいけないわ。お魚の餌にするみたいだから」
「鎮守府でお魚飼ってるなんて、本当にここすごいよね!
あぁ、お芋の煮っころがしにお魚の塩焼き……じゅるり」
「南方で川魚が食べられるなんて、こんな贅沢夢みたいよね……じゅるり」
「由良もあのふたり見習ったら?」
「そ、そんなの無理よ! ヒィッ、こっちにも芋虫ぃ!」
「も~、由良ったら、しょうがないなぁ」
本日の農場担当は夕張と北上大井姉妹の3人……だったのだが、呉第1鎮守府(鼎大将のとこ)の由良改二と、ラバウル第1基地(白蓮大将のとこ)の秋月照月姉妹がお手伝いに立候補してくれたのだ。
どうやら至れり尽くせりで第10基地に世話になっているのが所在なくなったらしい。艦娘はみんな働き者なのだ(一部除く)。
その好意に甘えて北上大井姉妹は非番となったので、彼女たちは阿武隈と木曾との雷撃訓練を開催しに繰り出していった模様。
ちなみにこの由良は、何故だかウマが合う夕張(軽巡由良と軽巡夕張は艦娘ネットワーク上での絡みが多いらしい)と実際に会って話してみたくて鼎大将に着いて来た。
そんな経緯もあったので、一緒に仕事でもして話に花を咲かせたかったらしい。
……しかしながら、農場で畑仕事ということは、苦手な虫に八方囲まれるということ。
艦娘として深海棲艦との戦闘を本領とする彼女には、その辺の想像がつかなかったらしい。軽巡由良、痛恨のミスである。
「なんで秋月ちゃんも照月ちゃんも、あんなに平然としてるのぉ……?」
「由良が気にしすぎなだけだと思うけど」
「そんなことない! だって芋虫気持ち悪いじゃない!
夕張もそんな平気で芋虫手づかみして……! おかしいよ、こんなのぉ……」
「慣れよ、慣れ。ここで生活してたら、芋虫の一匹や二匹へっちゃらになるわ。
夜中とか普通におっきなカブトムシが窓にぶつかってくるし」
「うぅ……やっぱり南方は地獄よ……」
「その発言、ここで生活してる私たちに失礼とか思ったりしない?」
今にも泣きそうな顔をしながら芋の収穫をする由良。これには夕張も苦笑い。
夕張としても彼女とウマが合うのは同じなので、そこまでして一緒に仕事してくれるのは、結構嬉しかったりする。
「ほら、今晩は秋津洲が天ぷらそばを振舞ってくれるらしいから、それを励みに頑張ろ」
「うぅ……それは楽しみだけどぉ……虫ぃ……」
「もー」
夕張が呆れていると、背中の籠を芋でいっぱいにした秋月たちが話しかけてきた。
「夕張さん! お芋の収穫終わりました!
あっちの大型コンテナに入れに行けばいいですか?」
「あ、うん、それでお願い。
一緒に採った芋虫とか甲虫は、すぐそこの生け簀に直接放り込んじゃっていいから。
それと切り落とした茎と葉っぱはあとで私がコンポストに入れておくから、そのままで構わないわ」
「わかりましたっ! いこっ、秋月姉! 早くお魚に餌あげたい!」
「そうね照月。虫がたくさん採れたから、しばらく餌やりを楽しめそうね」
元気よくトトトッと早足で農機具小屋まで向かうふたり。
腰につけた虫かごに、見る人が見れば失神しそうなほど大量の虫が詰まっているのを見ると、しばらくは生け簀で餌やりを楽しんでくることだろう。
彼女たちの収量はとっくにノルマ達成なので、のんびりと遊んできてもらっても何ら問題はない。そもそも有志のお手伝いなので、もっと働けなんて言う理由もないのだが。
「ゆ、由良もそろそろいいかなって……」
「なに言ってるのよ。まだ3分の1くらいしか集まってないじゃない」
「だってー……!!」
「そんなに嫌なら北上さんと大井さんと一緒に雷撃訓練しに行けばよかったじゃない。由良だって甲標的積めるんでしょ?」
「それはそうだけど、せっかく夕張に会いに来たんだから、一緒に仕事したいじゃない……」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、ちゃんと仕事はしてよね。
師匠がストレスで寝込んじゃってるんだから、これ以上苦労かけちゃいけないでしょ?」
「夕張は本当に鯉住さん好きなのね」
「当然でしょ? 私と師匠は夫婦なんだから! 夫婦……フフフ……!!」
「もー、惚気ちゃって……
由良も昔から鯉住さんのことは知ってるけど……そんなに好きなの?」
「当り前じゃない」
「由良たちと同じ呉第1に居たときは、そこまで目立つ人じゃなかったんだけどなぁ。
明石さんが熱烈にアプローチしてたけど『なんであの優秀な明石さんがそこまで入れ込んでるのか』って首を傾げられていたくらいよ?」
「みんな見る目がないなー。師匠の良さがわからないなんて」
「良さがわからないというより、ほとんど接点がなかったのよね。
関わった時も挨拶して終わりとか、そのくらいだったし。
メンテ技師としての腕がとんでもないとは聞いていたけれど、あまりそっち方面に詳しい子もいなかったから、そのすごさも実感として湧かなかったし」
「もったいないなぁ。
……でも、そこでみんなが魅力に気付かなかったおかげで、師匠がここに赴任してこれて、そして私を呼び起こしてくれたのよね……フフフ……」
「ちょっと夕張、鯉住さんが好きなのはわかったから、その辺にしてよ。
恥ずかしくなってきちゃうじゃない……」
「アハハ、ごめんごめん。……それじゃ私たちも残りの仕事を済ませちゃお?」
「……ハァ、また芋虫と格闘しなきゃなのね……」
「もうちょっとだから。ファイトー」
・・・
同日昼・演習場にて
・・・
「金剛さーん、榛名さーん! 大丈夫ですかー?」
「も、もう無理ヨー、古鷹ァ……ゼェ、ゼェ……」
「榛名も、もう……限界です……ゲホッ……」
「受け答えできるなら問題ありませんね!
あと2セットで予定終了です! もうちょっと頑張りましょう!!」
「「 そんなー!! 」」
「動きはよくなってきたが、まだまだっ!!!
艤装と心を通わせろっ!! 愛を感じろっ!!
admiralが私に注ぐような!! 私が魚類に注ぐようなっ!! そんな溢れるほどの愛を注げぇぇっっっ!!!」
「相変わらず意味わかんなあぁぁぁァァッッッッ!!!」
ボボゥンッ!!
「そんな体たらくでは、私を小破させることすらできんぞっ!!
艤装と意志を通わせろっ! このようになぁっ!
さぁ、行くのだ、トビウオ達よっ!! 飛翔し爆ぜろっっ!!」
「ちょ、なに!? 水中から魚がジャンプして……ほげえぇッッッッ!!?」
ボボボウゥンッッ!!!
「葛城……よくここまで私の艦載機を落とせるようになりましたね……」
「あ゛、あ゛り゛がど……天城姉……ハァ、ハァ……」
「ええ、えらいですよ……ということで……」
「え……?」
「今から艦載機の量を3割増しにしますので」
「いやああああっっっ!!!」
「甲標的アリでそれなの!? もっと集中なさい! 情けない!!」
「大井さん正気!?
そんなこと言ったって、100m先のラジコンボート(30cmくらい)に雷撃当てるなんて……できるわけないんですけどぉ!!」
「阿武隈アナタ、ラバウル第1基地の第1艦隊メンバーでしょ!?
そんな情けないセリフを口にするなんてどういうつもり!? 恥を知りなさい!!」
「そんなこといわれてもー!!」
「大井姉さんこっわ……」
「あはは、大井っちきっびしー」
この鎮守府では日常となり果てた、息をするように無茶ぶりを吹っ掛ける教官と、阿鼻叫喚を繰り広げる研修生という図式が、そこかしこで展開されていた。
そしてそんないつもの光景をのんびりしながら眺める者たちと、満足げに眺める者たちと、なんとも言えない表情で眺める者たちが。
・・・
「うん! いい感じね! 古鷹はこっちでもうまくやれているようじゃない」
「上々ですわね。もともと古鷹さんは飲み込みも早く、礼儀正しい性格ですから。
わたくしはさほど心配していなかったですのよ?」
「五十鈴もそれには同感。ちゃんと私たちが教えたことが身になっているようで安心したわ!
熊野が教えてた主砲と魚雷のコンビネーションもサマになってるじゃない?」
「そのようですわね。
自分ひとりでできるだけでは二流。人に教えられてようやく一流。
金剛さんと榛名さんへの指導、及第点と言ってよくってよ」
「はー、理想がチョー高い五十鈴と熊野をマジに満足させれるなんてねー。
古鷹ちゃんすっごいわー」
古鷹による金剛・榛名姉妹への教導を見学しているのは、呉第1鎮守府所属の鈴谷・熊野姉妹と、五十鈴である。
以前行った研修で、熊野は古鷹、五十鈴は叢雲の主導教官を受け持っていたことがあり、彼女たちの成長具合を確かめに来たようだ。
ちなみに鈴谷は完全にバカンス気分なので、食堂からトロピカルドリンクとケーキを拝借してきた。
伊良湖が実力を認めてもらうためにせっせこ甘味製作をしているので、食堂には甘味のストックが常に用意されているのだ。
「何を言っていますの? 鈴谷。
わたくしは安定して戦闘ができるほどの実力しか求めていませんわ」
「熊野の言う通りよ。五十鈴だってそれほど多くを求めてるわけじゃないわ!
五十鈴の知ってる提督がもし指揮することがあるとしたら、満足してもらえるくらいの実力を求めているだけ」
「あのさぁ……ふたりともさぁ……
熊野は天才型だからわかんないかもしれないけど、鈴谷がどれだけ熊野とバディ組むために努力してるか……
それに五十鈴の知ってる提督ってさ、パールハーバーでさえ氷山の一角な功績お化けの山本五十六元帥とか、人殺し多門丸で有名な山口多聞中将とか、その他のお歴々がてんこ盛りでしょ?
ふたりともそれを人に求めてんだよ? 理想が高いって言うしかないじゃん?」
「「 そんなことないでしょう? 」」
「あーあー、これだから一逸艦娘は……
ま、別にいいんだけどさー。鈴谷には関係ないし、叢雲ちゃんと古鷹ちゃんもそれで本望みたいだったし」
「そうそう。本人たちがそうありたいって言ってるんだから、問題ないのよ。
出来れば叢雲がどうなったかも見ておきたかったんだけど」
「仕方ありませんわ。叢雲さんは鯉住さんが寝込んでいる間の提督代理なのですもの」
「大丈夫なんじゃないの?
古鷹ちゃんがこれなんだし、叢雲ちゃんだって鈍ってないっしょ」
「まぁ、そうですわね。
少なくともひとりで、この人数の来客を捌きながら鎮守府運営業務ができているということですものね。杞憂だったかしら?」
「そーそー。ウチの間宮さんに策謀関係を叩き込まれて、筆頭秘書艦の千歳ねーさんに事務全般を叩き込まれたんだよ?
ウチらが心配することなんてないない」
「それでも主導教官としては気になるものなのよ!」
「真面目だよねー。ふたりともさー。
……ま、鈴谷は日ごろのいざこざから離れてバカンスできるだけで大満足でーっす!
トロピカルドリンクおいしーっ! ケーキもサイコーッ!」
「もう、鈴谷ったら……はしたないですわ。
ほっぺたにクリームがついていましてよ?」
「ウソ、マジ? 教えてくれてサンキュー、熊野」
「鈴谷は本当にマイペースよね。まったく」
・・・
自分たちの教え子が気になる呉第1鎮守府の面々(ひとり除く)のすぐ傍では、大本営第1艦隊の加賀と伊58が、これまた同僚の瑞鶴の様子を眺めていた。
「ねぇ加賀さん? あの海外艦、とんでもない化け物に見えるんでちけど」
「……そうね」
「謎の技術で魚を操ってるのを差し置いても、身のこなしに隙がなさすぎるでち。
相手になったらどうしようもない未来しか見えない……ていうかアレ、魚じゃないでしょ絶対……爆発してるし……」
「……そうね」
「ちなみに加賀さんの見立てだと、瑞鶴はどのくらい強くなったでちか?」
「……」
「なんとなく理由はわかるけど、黙ってないで教えてよ」
「……私よりも……私と同じくらいには」
「プライド高いのはいいと思うけど、自分は騙せないよ? 提督も言ってたでしょ?」
「……私よりも……上です……うぅ……」
「やっぱりそうでちたか。ギャーギャー騒いでるけど、なんだかんだあの化け物の攻撃に対応できてるもんね」
「甘かった……甘かったわ……
一から鍛え直しよ……五航戦の後塵を拝すなど……許されないわ」
「いいかげんに瑞鶴の事認めてあげてもいいと思うんだけど」
「いけません。一航戦の誇りにかけて、日本海軍の顔として、私が正規空母の手本とならなければ」
「先輩の意地ってやつでちねぇ……
ちなみに、瑞鶴は多分無意識でやってるっぽいけど、艦載機の部隊数が10くらいになってるのって見間違い?
普通は正規空母って展開できる部隊数は多くて4だし、加賀さんも8くらいだよね?」
「あれは……悔しいですが、見間違いじゃありません……悔しいですが……」
「ワァオ」
「とにかく……このままではいけません。一刻も無駄にはできないわ」
「せっかくバカンス気分でやってきたのにな。
扶桑さんにも手伝ってもらって、演習場で練度上げさせてもらお」
「ハイ」
後輩が思った以上に実力をつけていて、焦りを感じるふたりなのであった。
・・・
当日夜・食堂にて
・・・
「うふふ……今日の夕餉は天ぷらつきのお蕎麦……素晴らしいです……
ズズッ……はぁ、おいし」
「本当……美味しいわ」
「本当に、本当に美味しい……限界を迎えたカラダに栄養が染み渡るぅ……」
今晩の食堂も大盛況。厨房から時々「勘弁して欲しいかもー!!」という叫びが聞こえるのを除けば、いたって平和、活気にあふれた食事処である。
今日の特別メニューは天ぷらそば。鎮守府の農場で採れたそば粉を使った7割そばである(さすがにそば粉の在庫の関係で10割そばにはできなかった)。
天ぷらは王道のエビに、野菜かき揚げ、キスに大葉やナスにサツマイモ、カシワにイカ。……とにかく考えられる天ぷらがより取り見取りでトッピングできるようになっている。
もちろんそれだけでは満足できない大食漢のために、いつも通りおにぎりお新香食べ放題サービス付き。
ちなみに普通のそばとざるそばを選べる仕様になっている。ざるそばにはタレと一緒に、これまた農場で採れたおろしたてワサビがついてくるので、注文数はざるそばの方が上回っている状況だ。
大人数への給仕のため普段はここまで豪華にはできないのだが、今日はちょっとだけ気合が入っているらしい。
そんな食堂の一角で食事を楽しんでいるのが、ラバウル第1基地の雲龍改、この鎮守府の転化体でもある天城、そして彼女にさっきまでしごかれまくっていた、大本営第2艦隊の葛城改である。
全員所属は違うが、同じ型の姉妹艦。雲龍型は絶対数が少ない艦なこともあって、3名とも揃うのはなかなか珍しい出来事だったりする。
「それにしても、姉妹全員で食事できるなんて……嬉しいわ」
「そうですね……雲龍姉様……ズズッ」
「天城姉は話してる時くらい食べるのやめようよ……」
「いいの。食べられる時に食べておくのはよいこと」
「雲龍姉……それはそうだけど、淑女としてはしたなくない?」
「別に提督に嫌われなければ問題ないです……ズルルッ」
「まあ、あの提督さんがそのくらいで天城姉を嫌いになるとは思えないけど……」
「ならいいじゃない。それよりも、葛城はとても実力をつけているのね。長女として誇らしい」
「あ、ありがと。でもさ、そういう雲龍姉だって、大本営とほとんど同格のラバウル第1基地で主力メンバーやってるじゃない。雲龍型でそれってやっぱりすごいと思うな」
「それは葛城も同じ。偉いわ」
「そ、そうかな? えへへ」
「そうですよ……モグモグ……正直ここまでついてこられるとは思ってませんでした……サクッ」
「そう言ってくれるのは嬉しいよ。でも天城姉は本当になんなんだろうね?
雲龍型なのに、あのよくわかんない艦載機搭載数……やっぱり転化体って違うんだなぁ……」
「私は私ですから……エビの天ぷら、おいしいわ……」
「……転化体?」
「……あ」
ずっと一緒にいるせいで当然のことと認識してしまっていたが、転化体という存在は一般的にはシークレットである。
そのことを疲れも相まってすっかり失念していた葛城は、ついついうっかり口を滑らしてしまった。
「ねぇ葛城。転化体って、何?」
「あー、えー……」
「いいじゃないですか、葛城……減るものじゃありませんし……ズズッ」
天城の言う通り、ここまで疑問を持たれてしまった以上、今さら「何でもないわ」で済ませるのは不可能というものだ。
それに口数が少なく物事に動じない雲龍のことである。転化体について話してしまっても、それを口外することはないだろうし、天城に対しての感情も変わらないだろう。
「うー……仕方ないか……私のバカ」
「それで何なの、その転化体って」
「えーとね、驚かないでね雲龍姉。実はね……」
説明中……
「ふーん」
「……え、それだけ!?
驚かないでとは言ったけど……いくら雲龍姉でもリアクション薄すぎない!?」
「だって雲龍型であの物量はあり得ない。何かあるとは思ってた」
「それにしても……元深海棲艦だよ?」
「天城は天城。そうでしょう?」
「そうですよ……私は私です……サクサク」
「……ハァ、気にしてた私がバカみたいじゃない……ま、いいけどさ……」
衝撃の事実があっさりと流されてしまって、なんとも言えない葛城である。
そのことでホッと一息しつつ、物騒な話題を変えることにした。
「あれ? 天城姉、せっかくのざるそばなのに、ワサビ入れないの?」
「ワサビ……?」
「食通っぽいのに知らないんだ。
そこの緑の、ちっちゃい山みたいになってる薬味のことだよ」
「へぇ……天ぷらとおそばに夢中で、気づいていませんでした……」
「まぁ、それだけでもすんごく美味しいもんね。
ワサビを一緒に食べると、スーッとした爽快感とツーンとした辛味が味わえて、お蕎麦が一層美味しくなるの。試してみたら?」
「そうなんですか……では」
パクッ
「あっ。丸ごといった」
「天城姉ー!? ワサビってもっと少しずつ食べるもので……!!
そんな一気にワサビだけで口の中に入れたりなんかしちゃったら……!!」
「……」
「あ、天城姉、大丈夫!?」
「……(プルプル)」
「プルプル震えているわね」
「目を見開いてプルプルしてる!? これ大丈夫じゃないよね!?」
「……あ」
「あ……?」
「あぁーーー~~~~~っっっ!!!!」
「天城姉ーーーっっっ!!!」
あまりの辛さで、普段絶対に出さない大声で叫びだした天城。さしもの転化体もワサビの刺激には勝てなかった模様。
「ど、どうしようどうしよう!?」
「まずはお水で流しましょう。葛城、お冷を」
「わ、わかった雲龍姉!」
「あぁぁぁ~~~!!!」
「すぐにお冷持ってくるからもうちょっと我慢して!!」
「あ……あぁ、あああ!!!」
「葛城、ストップ」
「なんで止めるの雲龍姉!?」
「見て」
「見て、って何を……あ、天城姉、光ってない!?」
なんと、悶絶しながら叫ぶ天城が発光し始めた。怒涛の展開に頭が追っつかない葛城。
ここまで騒いで注目を集めないはずもなく、今や食堂のメンバー全員が光を増していく天城に対して目を向けている。
「どういうこと!? どういうことなの雲龍姉!?」
「そんなのわからない」
「だよね!? どうなっちゃうの!?」
「ああああぁぁぁぁ!!!」
ピカーーーッッッ!!!
一際強く光があふれ、目を開けていられないほどになる。
そして一瞬ではあったが長い時間が経ち、みんなの目が開かれたその先に居たのは……
「あ、天城姉……それって!!」
「改……」
そう、そこには着物がキャストオフされ、鯉住君が見たら衝撃で気絶しそうになるほどの露出となった艤装に身を包む、改装された天城の姿が!
「ふぅ~~~~……」
「いや、ちょ……確かになんでそんな強いのに改じゃないのか気になってはいたけど……なんで今!? ワサビで!?」
「おめでとう、天城。すごく素敵」
「ありがとうございます、雲龍姉様……ふぅ」
「ワサビを食べてパワーアップって……米国の海兵さんじゃあるまいし……」
「ワサビとは素晴らしいものですね……チカラが溢れてきます……」
「そうなの!?」
「というわけで葛城、食事がすんだらもう一度特訓しましょう……」
「……え?」
「頑張って葛城」
「え? え???」
「今の私なら、もっとあなたを上手く追い込むことができそう……ズルルッ……
しっかりと鍛えてあげますからね、葛城……モグモグ……」
「い、いやーーーーっ!!!」
食堂に響き渡る葛城の悲痛な叫び。
一部始終を見ており、葛城の日々の地獄を知る面々は、彼女を助けることを早々にあきらめ、何も見なかったことにして食事を続けたという。
月一更新ペースになってしまってすいません!
転職決まったので、これからはもうちょっとペース上げられるといいな。