転職をキめたものの、モロにコロナの影響を受ける職場で、日々ヒィヒィ言っております。
なんて一か月以上ぶりとなる久しぶりの更新の言い訳をしつつ、始めていきますね。
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前書きのおまけ・みんなの改二事情
叢雲・研修中の演習で、初春に勝利するために限界を越えた
古鷹・熊野による実践演習の最中に、砲撃・魚雷・下駄ばき機によるひとりジェットストリームアタックを捌くために覚醒
天龍・地獄の研修中にいつの間にか改二になってた。それを見て神通が訓練(拷問)を強化したせいで、喜びよりも絶望の感情が強かったとか
龍田・天龍と一緒
北上・主導教官である巻雲との対局中に、彼女の肌感覚を掴み、覚醒。その一局のみ北上は巻雲に勝利できた
大井・ほぼ北上と同様。彼女の場合はその一局で、初めて主導教官である香取の鉄壁の守りを突破できた。それ以降は一勝もできず
足柄・一ノ瀬中佐の部下時代、本土大決戦の際に覚醒。彼女率いる分隊は、沖の鳥諸島で3倍の兵力を相手に見事戦い抜いた
アークロイヤル・未だに改ですらない
天城・ワサビ食べて改になった
日本海軍のVIPがこぞって集まる、しかもその全員が何かしら無茶ぶり案件を持ってくる、それに精神をやられて自室に提督がひきこもる……
ここ数日間でラバウル第10基地では色々とあったが、ついに本命である、欧州救援組が帰ってくる日となった。
正確に言うと後続組である横須賀鎮守府の面々は来ないので、欧州救援組と言ってもメインで大暴れしてきた佐世保第4鎮守府の面々だけを出迎えることとなる。
もっと言うとその中には、ここラバウル第10基地で主力として頑張ってくれている天龍と龍田も含まれており、鯉住君はふたりの帰還を心待ちにしていた。
欧州は世界でも稀に見る深海棲艦高密度地域。やはり自分の部下がそんな危険地帯に赴くことにはぬぐい切れない不安を感じるものだ。佐世保第4鎮守府の阿修羅たちがメイン戦力なので、十中八九安全は保証されているとしてもだ。
……まぁ、実際は救援作戦が成功した段階で『完全勝利』の電文を受け取っているので、心配する要素などもう残っていないのだが。
そういうことで、天龍から『もうすぐ到着する』という割と雑な電文を受けた鯉住君と叢雲は、鎮守府棟の正面玄関で待機している状態だ。
「ふたりに会うのも久しぶりよね。無事に作戦を完遂できたようだし、報告が楽しみね」
「そうだな」
「話に聞くトンデモな人たちと激しい戦場を経験してきたんだから、さぞかし実力も上がってるんでしょうね」
「そうだな」
「それにしてもよかったわね、無事に帰ってくるみたいで。アンタずいぶん心配してたでしょ? 隠してるつもりだったみたいだけど」
「そうだな」
「……? アンタがそういうの、素直に認めるなんて珍しいわね」
「そうだな」
「……今日の晩御飯は、天龍と龍田、ふたりの帰還祝いも兼ねて料理バトルイベントをやるそうよ。足柄がヒレカツ定食で間宮さんがサバ味噌定食だとか。アンタはどっちを選ぶつもり?」
「そうだな」
「……ちょっと」
「……あ。……ゴメン、ええと……ヒレカツ定食……」
完全に上の空の鯉住君。その様子に呆れる叢雲は、ため息ひとつ吐いてからジト目で小言を続ける。
「ハァ……いくら心待ちにしてたふたりの帰還だからって、呆けてんじゃないわよ」
「す、すまん」
「全員目立った被害もなく任務完了したって連絡来てたでしょ?
今さら心配する意味なんてないじゃない。仮にもウチのトップなんだから、もっとシャンとなさいな」
「それはそうなんだけど、気持ちが追い付かなくてね」
「ま、アンタのそれは心配というより……特別な艤装まで出してあげたふたりに会いたくてしょうがないんとか、そういうのなんでしょうけど」
「う……ま、まぁ、そうだな。心配してた分、顔を見て安心したいということかもしれないな。特別な艤装については欧州へ出発する前に出してあげられてよかったよ。少しはふたりの負担を軽くできただろうし」
「……私たち、他のメンバーの負担は楽にしてくれないのかしら?」
「まぁ、大きな作戦もないし、その必要は今のところないかなって。……アレ、死ぬほど恥ずかしいし……」
「部下の安全のためなら、そのくらいなんてことないんでしょ?」
「ちょ、ど、どこでそんな……誰にも話してないのに……!?」
「夕張からよ。アンタの考えてることくらい、見てる側からすれば筒抜けだったみたいね。よほど恥ずかしいこと呟いてたみたいじゃない」
「や、やめてくれ叢雲……! 思い出しただけで鳥肌がっ!!」
「『俺にできることはこれくらい、ならば、せめてありったけを……!』みたいな感じだったかしら?」
「うわあああああぁぁぁぁぁ!!!」
叢雲の無慈悲なトラウマほじくりにより、頭を抱えてうずくまってしまった鯉住君。
そもそもそんな一挙手一投足まで伝わるほど鎮守府内でその話が広まっているあたり、彼がいかに愛されているかという話である。
ちなみに叢雲は普段はもっと彼に対して優しい(口は悪め)のだが、今回の特別な艤装の一件については思うところがあるらしい。けっこう辛辣な態度になっている。
真面目で(根は)優しい彼女のことだ。着任半年記念でチョーカーを貰って以降、公平性を損ねるとかいう納得できそうでできない理由でなにも貰えていないのを根に持っているわけではないだろう。きっとそうなのだろう。多分。メイビー。
そんな感じでいつも通りの漫才を繰り広げていると、いつものエンジン音が聞こえてきた。
待ちに待った欧州遠征組の到着のようだ。
「あ、来たみたいよ。そろそろ立ち直りなさい。ほとんどない威厳をちょっとでも絞り出しなさい」
「叢雲なんか今日辛辣すぎない!? ……と、そんなこと言ってる場合じゃない!
トラウマでうずくまってるとか……そんな恥ずかしい姿、加二倉さんには見せられない!」
「はいはい。いいからシャンとしなさい」
・・・
ほどなくして鎮守府棟前には、エンジン音の主である大型バスが到着した。
当然の権利のように大型バス。ほかのメンバーと違って滞在期間は短いものの、人数の事前連絡なしで数十人で来るとかいう暴挙である。
そしてバスが完全に停車し、扉が開くと、すごい勢いで何人か降車してきた。しかもこっちにダッシュで向かってきた。
「龍ちゃーん!! 久しぶりーっ!!」
「ぽいぽいのぽーいっ!!」
「え……ちょ、やめっ!!」
「「 とっつげきーっ!! 」」
「ちょ、待って! タックルはやめ……ゴブウッ!!」
さながらミサイルの如く飛び出してきたのは、佐世保第4鎮守府でも最年少なふたり。清霜と夕立(元レ級)だった。
すごい勢いでダイビングタックルを決めたせいで、鯉住君は数メートル吹っ飛ばされてしまった。
鯉住君とて彼女たちの姿が見えた瞬間にこうなることは予想していたのだが、実力オバケで高速な駆逐艦のふたりが相手では分が悪い。対策をとる暇もなく、無抵抗でクリティカルヒットを食らってしまった。
ちなみに叢雲はドン引きしている。
清霜夕立コンビのスピードが速すぎて見切れなかった驚きやら、人間が数メートル吹っ飛んで大丈夫なのかという懸念とか、鬼ヶ島から来た常識外の艦娘たちの情報インストールとか、色々考えがまとまっていない様子である。
「うごふっ……だから、急にタックルするのはやめてって……言ってるでしょ……」
「だってー!! 楽しみにしてたんだもん!」
「ハンターの本能には勝てないっぽい!! がるるー!!」
「だってじゃありません……偉い人もたくさんいるんだから……それくらいは守って……痛たた……」
「むー! 久しぶりに会えたのに龍ちゃんが冷たい! 龍ちゃんのバカ!」
「ファッ〇ンコールドっぽい!! ソロモンは暑いのにおかしいわ!」
「ああもう……ふたりとも、汚い言葉は使っちゃダメじゃない……」
「「 ブーブー!! 」」
なんか保護者と子供みたいなやり取りをしつつ、カラダに清霜夕立ダブルバルジを装着したまま立ち上がる鯉住君。
するとそこには見慣れたメンバーがずらりと並んでいた。一連のやり取りをしている間にバスから降りてきたらしい。
「ああ、と……皆さんお久しぶりです。よくおいでくださいました」
駆逐艦2名をくっつけているという、なんとも締まりのない見た目をしているが、ここにそんな些細なことを気にするメンバーはいない(鯉住君と叢雲は普段なら絶対気にする)。
そんな鯉住君の歓待の言葉を受け、代表者である加二倉中佐が会話を引き継ぐ。
「うむ。こちらこそ場所の提供をしてもらったことに感謝する。
色々と公にできないことが重なったのでな。本土で会談するよりも、こちらで会議をする方が遥かに情報漏洩の危険が少ない」
「加二倉さん……それってつまり、欧州救援に成功したって報告以上の出来事があったってことですか……?」
「端的に言うとそうなる。公表した情報の他に2点……いや、3点、4点か? まぁ、色々とある」
「薄々そんな気はしてたけど、やっぱりそうなんですね……ハァ」
「当然ながら貴様に直接関係のある案件もある。それについては全面的に任せる」
「アッハイ……」
厄ネタ満載、さらにそのうちいくつかはこっちにブン投げる気マンマンらしい。
人類最強格と言ってもよい加二倉中佐から仕事を丸投げされる。それはつまりよっぽど実力を認められている証……なのだが、豪速球(多分)を投げられる本人からしたらたまったもんじゃない。
鯉住君はげんなりして見た目年齢が5歳はプラスされている。
「わかりました……ま、まぁ、それは後々に置いておくとして……今回は佐世保第4鎮守府の全員でいらっしゃったんですか?」
「そうだ。……ああ、いや、武蔵は置いてきた。奴は鎮守府から出してはいけないということになっているからな。
それとメンテ班も置いてきた。ここで議題に上がるのは、憲兵見習いには必要ない情報であるからな(加二倉中佐のところでは、憲兵見習いがメンテ班として実務研修をしています)」
「そういえば武蔵さんはそうでしたね」
「うむ。話題も出たことであるし貴様等、鯉住に挨拶しろ。気が知れた仲ではあるがな」
加二倉中佐の言葉を受け、ゾロゾロと前に出てくる艦娘たち。
その中から最初に声をかけてきたのは、賑やかなふたりと物静かなひとり。川内、神通、那珂の軽巡3姉妹だった。
「やっほー! 龍ちゃん元気してたー?」
「お久しぶりですね、龍太さん。お変わり無いようで何より」
「キャハッ! 那っ珂ちゃん登場~☆
今回の会議でもちゃんと那珂ちゃんのことプロデュースしてね~☆」
「皆さんも相変わらずで。
神通さんと那珂さんは欧州遠征組でしたよね。無事で何よりです」
「ふふ。久しぶりにカラダが火照ってしまう、いい戦闘ができました」
「那珂ちゃんも! ヨーロッパにいいライバルができちゃった!」
「神通さんが満足できる相手が、この世にまだ存在してたんですね……怖ぁ……
ていうか那珂さん、ライバルとはいったい……?」
「那珂ちゃんとのダンスバトルに最後までついてこれたんだよ!?
あれだけホットな勝負ができるのなんて初めてだったから、那珂ちゃんちょ~っと本気になっちゃった☆」
「えーと……ダンスバトル? ワケが分かりませんが、ワケがわかんないおかしい相手がいたってことは伝わってきました」
どうやら深海棲艦側に、那珂の流儀を理解できてそれに付き合える感性を持ち、なおかつこの三日三晩踊り続けられる体力お化けと張り合える相手がいたということらしい。
マトモな相手ではない。とんでもない変態である。そして相当な猛者である。
さらに神通が言っていた満足できたほどの相手……化け物クラスなのは間違いないが、その個体は那珂が言うライバルとは別物なのだろう。
とんでもないのが少なくとも二体は居たということになる。やっぱり欧州は魔境だ。
そんなことを考えつつ鯉住君が呆気に取られていると、それを補足するように欧州救援組である五月雨、龍驤が話に入ってきた。
「あのっ、那珂ちゃんさんが言うライバルなんですけど、本当にすごかったんですよ!」
「あ、知ってるんですか? 五月雨さん。
……って、それは当然か。一緒の艦隊に居たわけだし」
「ええと……那珂ちゃんさんがやる気を漲らせて『那珂ちゃんが相手するからみんなは先に行ってて! 五月雨ちゃんはオーディエンスよっろしく~☆』って……
だから私と那珂ちゃんさんしか、その相手とはマトモに対峙してません」
「えぇ……? どう考えてもその相手って二つ名個体ですよね……?
なんで一対一で対戦しようとか考えちゃうの……?」
「ハハッ。そりゃ~キミ、日頃の訓練の成果とか実力を出し切れない鬱憤とかをぶつけられる相手やで?
そこでタイマン張らんで、いつタイマン張ったらええっちゅうねん」
「あっ、龍驤さん……そもそも艦隊単位で行動して、安全第一を心がけてくださいよ。心臓に悪いじゃないですか」
「大袈裟やな~、キミ。出世しても心配性なところは変わっとらんね」
「何度も言ったと思いますけど、こちらの考え方が普通ですからね?
対戦ゲームじゃないんですから……」
「ウチらには要らん心配やな。気持ちだけ受け取っとくで! アッハハ!」
「本気で言ってるんですけどねぇ……ところで龍驤さん、なんだかゴキゲンですね。いいことがあったんですか?」
「ビンゴ! わかっちゃうんやな~! 実はウチ、久しぶりに必殺技出せたんよ!」
「え!? あ、あの残虐で極悪非道で文字通り必ず殺す必殺技を!?」
「……なんやねんキミ、無意識にウチにケンカ売ってへん……? ……ま、ええわ。
ふっつーのナマモノには使う気もおきひん必殺技やけど、ごっっっつい固い奴がおったからな。ちょうどええやん! ってことで、ウチが相手したったんや!」
「うわぁ……お相手さん、ご愁傷様です……」
「ちなみに今回使ったのは、龍驤流式神戦斗術・式神千枚遣『血飛沫鎌鼬(ちしぶきかまいたち)』やな!!!」
「相変わらずぶっ飛んだネーミングセンスっすね……」
「やっぱりキミ、ウチにケンカ売ってへん?」
「滅相もないです。滅相もないです」
「なんで二回言うね~ん! ガハハハ!!」
「なんかもう、嬉しそうで何よりです……」
どうやら龍驤も二つ名個体級の化け物とタイマン張ってきたらしい。
艦隊行動をとるとかいう概念がないあたり、やっぱりこの人たち頭おかしいと言わざるを得ない。
・・・
そんなこんなで会話のたびに呆れるやらツッコミを入れるやらしつつ、残りのメンバーからも挨拶を受けることになった。
そして佐世保第4鎮守府の艦娘全員と軽い会話を終えたあとは、死んだ魚のような眼をした叢雲に鎮守府案内を任せることにした。
現在この場に残っているのは、怖い人たちに囲まれていたせいで存在感を消していた天龍龍田の2名のみである。
鯉住君にくっついていた清霜と夕立もちゃんと他のメンバーについて行ってくれたので、彼はやっと解放された形になる。
ちなみに鯉住君としては天龍龍田のことはずっと気になっていたのだが、他のメンバーの相手を優先しないと色々不都合が発生しそうだったので、やむを得ず後回しにしてしまっていた。
なにより本人たちが空気でいるよう努めていたのに、そこに声をかけるほど彼は空気が読めない男ではない。
鬼たちの気配が消えたおかげで、辺りの空気が一気に緩む。それを感じた天龍と龍田は、ようやくホッとして自由に話し始めた。
「はー……ようやく気が抜けるぜ……帰ったぜ、提督」
「そうだね~。教官たちの話に割って入ったりなんかしたら、大変なことになっちゃうもんね~……提督、ただいまぁ」
「なんか色々とお疲れ様、ふたりとも。無事に帰ってきてくれて本当にうれしい。
……満足いく戦いはできたかい?」
「おう! 提督のくれた新艤装がすごすぎでよ!!
今まで被弾覚悟で突っ込んでた場面でも、余裕で回避しながら突撃できるようになったぜ!!」
「回避しながら突撃って……ま、まぁ、少しは役に立ったようでよかったよ」
「うふふ~。提督がこの艤装を出してくれたときのことを思い出すと、頬が緩んじゃうな~」
「そ、それは何というか……心の中だけににとどめておいてくれ……恥ずかしいからさ」
「何言ってんだよ。あんなに嬉しいこと言ってくれたのに、隠す必要なんてないだろ?」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、恥ずかしいものは恥ずかしくてね……
……まぁ、それは置いておくとして、俺が一番気にしてたのは選択肢を増やしてあげられたかってことなんだ。
戦うことしか選べない状況じゃ、戦闘には勝ててもそれだけになってしまう。実力があれば余裕ができて視野が広がる。貧すれば鈍するともいうし、その逆もまた然りってところだ。
今のアークロイヤルの時にそうしてくれたように、言葉が通じる相手なら別のやり方があるかもしれない。
あの艤装には、そういう余裕が作り出せるようにと想いを込めたんだよ」
「……? なんか難しいこと言ってるけど、要はあれか?
俺がやりたいようにできたかってことか?」
「あー……まぁ、そういうことだね。敵を倒す以外の何かでも見つけてくれればと思ってさ」
「そういうことなら提督の考えた通りにできたぜ! ちょうどいいから呼んじまうか!
おーい、出てきていいぞ!!」
「……え?」
「うふふ~」
「いや、あの……龍田さん、どういうことっすか……?」
「それは見てのお楽しみ~」
「ちょっとその笑顔怖いんですけど!?」
感動の再開になる予定が、なんか不穏な気配が漂い始めた。
身構える鯉住君に構わず、バスの中から誰かが降りてきた。まだバスが出発していなかったのは、誰かが残っていたかららしい。
その誰かとは……
「は、早霜さんと……誰!?」
「おひさしぶりです こいずみさん」
「……Enchantée Je m'appelle Commandant Teste(初めまして。コマンダン・テストです)」
「えっと……フランス語か何か? ちょっと何言ってるかわかんないっす……!!」
「おあいしたかったわ またいっしょに おなじべっどでねてくださいね」
「誤解を招くことを言わないで!? あとさっきのメンバーで早霜さんがいないこと気づかなくてスイマセン!!」
「C'est quoi(なんてこと)!!
こんな幼い子に手を出すなんて……Aucun en personne(この人でなし)!!」
「何言ってるかわかんないけど、多分俺誤解されてますよね!?」
「あー、テストよぉ、提督はそんなんじゃないから安心しろ。
どっちかって言うと真面目な奴だからな。これだけ女に囲まれても誰にも手を出してないし」
「何……? それはそれで怖いわ……!!Pédophile(ペドフィリア)でBisexuel(両刀使い)ってこと!?
それなのに自分からは手を出さないなんて……! とんだPervert(変質者)!! 怖い……怖すぎるぅぅ!!」
「話聞けよ。真面目な奴って言ってるだろうが」
「不穏な単語がちらほらと聞こえてきた!? それ全部誤解ですからね!? 初対面でそんな誤解されたら辛すぎます!!」
なんか一気にてんやわんやしてきた。
さっきまでの天龍との会話の流れを考えると、目の前にいるフランス艦娘っぽい女性と、欧州遠征の際になんやかんやあったんだろう。
さっそく爆弾級の誤解を受けて必死になる鯉住君ではあるが、龍田が助け舟を出してくれた。
「大丈夫だよ~提督。この子は人一倍怖がりなだけで、話さえできれば意外とマトモだから」
「そ、そうなのか、龍田……?
しかしこのフランスの艦娘さんも、そんなに怯えないでもいいと思うんだけど……」
「初顔合わせした時からこの調子だったから、個性だと思ってあきらめて~」
「……ちなみにその初顔合わせって……?
こういうクセの塊みたいな性格の艦娘って大概、その……」
「お察しの通り、転化体だよ~」
「やっぱりね!! 薄々気づいてたけど!!」
「神通教官が相手したのがこの子だよ~」
「ヒィッ!!? 神通!!? その名前は出さないでって言ったでしょ!?
ダメ……あの時のCauchemars(悪夢)が脳裏に蘇えって……!! ……あふん」
「き、気絶したー!!? 神通さんのこと思い出しただけで!?
あの人いったいどんな酷いことを!?」
「アレはひどかったっていうか……すごかったよなぁ……なぁ、龍田」
「テストちゃんじゃないけど、私も思い出したくないなぁ……」
「ふたりとも遠い目をしている!? 本当にあの阿修羅、何をしでかしたの!?」
「まあまあ やっぱりこいずみさんのまわりは にぎやかですてきですね」
目をキラキラさせて嬉しそうにする早霜と、トラウマを思い出して気絶したコマンダン・テストに、遠い目をして当時を思い出さないようにしている天龍龍田。
感動的な再開となるはずだったのに、本当になんでこんなことになってしまったのか。
どうせ彼女のことも押し付けられるんだろうなぁ、なんて考えつつ 頭を抱える鯉住君なのであった。
本編その後
「あ、そうだ。提督~、お帰りのハグ~」
「……え?」
「嫌なこと思い出しちゃったから、安心したいの。いつもみたいに抱っこして~」
「いつもみたいにって、そんなことしたことない……って、ニヤニヤしているじゃないか!! 提督のことからかわないでください!!」
「おっ! それいいな、龍田! 俺のことも抱いてくれ!!」
「天龍ちゃん言い方ァ!!!」
「ブフッ……!! い、一緒に抱っこしてもらお~……ブフウッ!!」
「龍田キミ笑ってんじゃないよ!!」
「まぁすてき わたしのことも だいてください」
「早霜さんは乗っかってこないで!!!」
結局押し切られて全員にハグしたみたいです。
死ぬほど恥ずかしかったからもう思い出したくないとは本人の談。
ちなみにその一部始終を、挨拶の時にあまりかまってやれなかった川内に盗撮されていたらしく、早霜経由でその写真は夕雲型ネットワークに拡散されたとか。
その後、夕雲型全員に波乱が巻き起こったのは言うまでもないことである。
おまけ・今回話に出たバトル一覧(一部グロ注意)
・那珂 VS 深海仏棲姫(二つ名個体・バレリーナ)
南仏のティレニア海を縄張りとしていた二つ名個体・バレリーナ。
いつもなにかしらダンスをしており、その邪魔になる行動をとる(視界に入るレベルでもNG)と、問答無用で攻撃してくるという厄介な姫級であり、今回の遠征における討伐対象の一体。
三日三晩に及ぶダンスバトルの果てに、僅差で那珂の勝利。深海仏棲姫は過労のため轟沈。五月雨は未届け人役として体育座りしながらその様子を眺めていた。
彼女は深海棲艦が沈んでも復活できることを知っていたらしく、『次ニ会ウトキハ、私ノ創作だんすデ度胆ヌイテヤルカラァ……!!』という捨て台詞を残していったらしい。
・神通 VS 水母水姫(二つ名個体・インビジブル)
エーゲ海周辺を根城にしていた二つ名個体であるインビジブル。現地で目撃者の全員を消していたために、『目に見えない恐怖の存在』として認知され、インビジブルの名前を付けられていた。
目撃証言が皆無なうえにその不気味さから、エーゲ海は東欧のバミューダトライアングル扱いされていた。当然危険度も未知数なので討伐対象ではなかった。
ちなみに彼女の部下というか取り巻きには港湾水姫(二つ名個体・レディ・ツェペシュ。シナイ半島周辺でその名の通りの『芸術作品』を生み出していた)がおり、その非道な行動と相応の危険性から、こちらは討伐対象となっていた。
こちらについては『実地訓練』の名目で、神通が天龍龍田に戦闘を丸投げし、辛くも勝利。討伐に成功している。
欧州遠征の帰路において、天龍が以前(レディ・ツェペシュ討伐時)から抱いていた違和感に従って周囲を探索すると、自然洞穴に隠れていた水母水姫を発見。
一目見てその実力の高さを見抜いた神通により、自分がタイマン張りたいと志願。瑞穂からも自分がやりたいと声が上がったが、じゃんけんに勝利したことで神通がタイマンを張ることに決定。
インビジブルは砲雷撃については普通の姫級としても頼りないレベルだったが、その他兵器のエグさが尋常ではなかった。
具体的には……足部艤装に張り付いて爆発し自由を奪う水上撒き菱、レ級と同じような尻尾艤装から発射されるバリスタ(攻城槍)と連弩、無数の球状艤装(たこやき)から放射される硫化水素ガス、催涙ガス、神経毒ガス、海中でも燃え盛る火炎(グリークファイア)、などなど。
神通は凶悪な笑みをしながら、その全てを受けつつ前進。
神経毒で動かなくなった自分の腕を斬り飛ばしながら、涙の止まらなくなった両目をえぐりながら、動かなくなった足部艤装を無理やり筋力でカバーしながら、カラダの至る所に連弩が突き刺さりながら、全身の皮膚がやけどで焼け爛れながらも、無理やり前進。久しく見る強敵への喜びに溢れた笑みを絶やさずに前進。
その姿を見て恐怖のあまりインビジブルが失神してしまったことで戦闘は終了。
一度沈めても実力ある深海棲艦は復活するという事実から、この個体を沈めるのは未来の人類にとってあまりに危険との加二倉中佐の判断により、簀巻きにして連れ帰ることに。
監視にはなんとなく天龍が抜擢され、帰ってからはなし崩し的に鯉住君に丸投げになることがこの辺で確定したとかなんとか。
・龍驤 VS 泊地水姫(二つ名個体・フォートレス)
紅海に陣取っていた泊地水姫であるフォートレス。彼女はとにかく空を飛ぶものを憎み、艦娘の艦載機はもちろん小鳥からジェット機まで、果ては味方であるはずの他の深海棲艦の艦載機までも、一切の例外なく撃ち落とし続けていた。
その特性から紅海の制空権は完全に深海棲艦側に奪われており、当然この個体は討伐対象となっていた。
遠征メンバーが欧州入りして初めて遭遇した個体が彼女であり、一番槍を誰が務めるかということで、公正なるじゃんけんにより、龍驤が相手をすることになった。
普通の艦載機では、その化け物じみた対空性能によりすべて墜とされてしまうことから、龍驤は式神を使うことに。本編でもあった必殺技により、彼女は血で赤く染まった竜巻に飲み込まれ、かわいそうな沈み方をしてしまった。