艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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 アトランタとかデ・ロイテルとか出したいけど、話の都合上うまくねじこめないですね。いつか機会があれば出してあげたいかも。

 今回はようやく会議が始まります。ちょっとした情報整理みたいな部分もあります。読みづらかったらスイマセン。




第147話 会議開始&主題終了

 なんだかんだあったが、最初の客人である三鷹少佐一行と白蓮大将一行が到着してから、2週間ほど経った。

 誰もかれもが鯉住君に無茶ぶりを持ってくることもあって本題が忘れ去られている感もあるが、そもそもの議題は『ラバウル第10基地に隣接する、艦娘用甘味の生産工場建設と運用について』なのである。

 

 そして、ようやく参加メンバーが全員そろったこともあり、ついに会議が開催される運びとなった。

 

 場所は艦娘寮(高級旅館)の中にある大宴会場。

 鎮守府棟(豪農屋敷)の会議室(客間)では狭すぎるので、50人以上入る大宴会場を活用することにした。

 そもそもそんなに大人数が会議に参加する必要があるのか、という話なのだが……本題の甘味工場うんぬんよりも副題のアレコレが厄ネタ過ぎるせいで、参加人数が絞り切れなかったのだ。

 

 

 

 議題についてはこんな感じ

 

 

 本題……呉第1鎮守府・間宮とラバウル第10基地・伊良湖による艦娘用甘味の生産工場建設と運用について

 

 副題1……加二倉中佐による欧州遠征の結果報告(非公開情報)

 副題2……一ノ瀬中佐、加二倉中佐、三鷹少佐のそれぞれが上げた功績に伴う昇進について

 副題3……白蓮大将による鉄底海峡の不可侵領域攻略作戦と大規模侵攻の兆候について

 副題4……鼎大将による沖縄沖からフィリピン海にかけての大規模侵攻の兆候について

 副題5……三鷹少佐による北方水姫の迎撃作戦の結果と彼女の転化について

 副題6……一ノ瀬中佐による各地大規模侵攻に対する人員再配置案について

 副題7……伊郷元帥と鼎大将による深海棲艦の正体予想について

 

 

 

 会議参加メンバーについては以下の通り

 

 

 横須賀第1鎮守府(大本営)より……伊郷元帥、大和秘書艦、加賀、瑞鶴

 

 横須賀第3鎮守府より……一ノ瀬中佐、鳥海秘書艦、霧島、香取、青葉、漣

 

 呉第1鎮守府より……鈴谷以外全員(6名)

 

 佐世保第4鎮守府より……加二倉中佐、赤城秘書艦、龍驤、コマンダン・テスト

 

 トラック第5泊地より……三鷹少佐、陸奥秘書艦、ガングート

 

 ラバウル第1基地より……白蓮大将、高雄秘書艦、長門、金剛、榛名

 

 ラバウル第10基地より……鯉住大佐、叢雲秘書艦、アークロイヤル、天城、伊良湖

 

 

 総勢33名……と、特別ゲストとしてリモート通信によるプラスアルファ。

 

 

 

 議題についてのツッコミは置いておくとして、参加メンバーを見てみるだけでもすごい質と数になっている。

 実は当初、鯉住君としては、各提督と筆頭秘書艦だけの参加を想定していた。色々あるとは聞いてたけど、言っても甘味工場の建設の話がメインなわけだし。

 ……まさかこんなに副題が充実しているとは思ってなかったのだ。

 

 そういうわけで大人数が入る宴会場での会議となったのだが、叢雲と古鷹がちゃんとした会場づくりをしてくれたおかげで、しっかりとした話し合いが行われる雰囲気となっている。酒飲みが居ても宴会したくてたまらなくなることはないだろう。

 プロジェクターとスクリーンなんかが倉庫から引っ張り出されてセッティングされている。

 なぜそんなものが倉庫にあるのかは妖精さんのみぞ知る。とはいえ、あるものはあるということで、秘書艦のふたりはうまく利用しているようだ。

 

 

 

 滅多に揃わない豪華メンバーが勢ぞろいなため、集まった面々はめいめいのリアクションをとっている。

 「議題目録を見たが、とんでもないな……!」と緊張している者や、「日本海軍オールスター、キタコレ!」と興奮している者や、「多少話せる人間が多いのはいいけど、早く済ませて熱帯魚の交配実験に戻りたいわ」とどこ吹く風の者……

 会議に臨む意気込みはそれぞれな様子である。

 

 

 ……そういうわけで、ただ今宴会場では、結構な人数が座布団に座ってザワザワとしている。このメンバーにしては珍しく定刻までに全員集合し、会議開始まで5分となった。今現在はそんな状況である。

 全員会場に集合し、古鷹がこさえてくれた簡単なレジュメも行き渡っている。ということで、全員の準備が整ったとみた間宮が壇上に登る。

 

 

「あー、マイクテストマイクテスト。皆さん聴こえてますね?

……それでは定刻よりも早いですが、準備が整いましたので、これより会議を始めさせていただきます。皆さんよろしくお願いします」

 

 

 間宮の挨拶を受け、会場全体からパチパチパチと拍手が起こる。

 簡易的な挨拶ではあったが、こういったタイミングでは全員で拍手して気持ちを切り替えるのが大事だ。

 

 

「盛大な拍手をありがとうございます。

それではさっそく今回の主題である『ラバウル第10基地の甘味工場建設』について、話し合っていきましょう。この議題の間はわたくし発案者の間宮が議事進行役を務めさせていただきます。改めてよろしくお願いしますね」

 

 

 再度会場から拍手が起こる。挨拶には拍手で返すと色々スムーズにいく。

 

 

「ありがとうございます。それではお手元の資料を……」

 

「す、すいません、ちょっといいでしょうか」

 

「あら、どうしたのですか? 鯉住さん」

 

 

 間宮が本題に入ろうとしたところ、鯉住君の挙手が。普段ならこういった場で進行を妨げる彼ではないのだが、どうしても言いたいことがあるらしい。

 

 

「話の腰を折ってしまって申し訳ないのですが、いくつかハッキリさせておきたいことがあってですね……」

 

「なんでしょう?」

 

「まずひとつとして……そもそもですが、本当にウチに工場なんて作るんですか?

細かい話を私自身が全く聞いてないので、いまだに実感がないんですけど……」

 

「大丈夫ですよ。鯉住さんでしたら、なんとかなります♪」

 

「そういう問題じゃ……」

 

「ですよね? 提督」

 

 

 間宮のいう提督とは、鯉住君の古巣でもある呉第1鎮守府の鼎大将。彼女からのフリを受けて、面白そうに話を聞いていた鼎大将は口を開く。

 

 

「そうじゃの。むしろ鯉住君にしか頼めんまであるのう」

 

「いやいやいや、そんなワケないでしょ……

別に俺、甘味に詳しいわけでもなければ、補給艦と給糧艦の皆さんについて詳しいわけでもないし、そもそも工場運営なんて全然ピンとこないですし……」

 

「ははっ、ナイスジョークじゃな」

 

「本気なんですけど……」

 

「私たち給糧艦のことを一番大切にしてくださる方は、鯉住さんしかいないと思ってますよ。

工場運営については三鷹グループのノウハウと流通を流用させてもらえるとのことで、そちらも心配ありません」

 

「そうだよー。僕たちが全面的にバックアップするから、龍太君がそんなに心配することないって!」

 

「いやいやそんな……荷が重いですって、間宮さん、三鷹さん……」

 

「お任せください提督! 私、伊良湖が内助の功として支えていきます!」

 

「伊良湖さん!? その言葉選びはおかしくないですか?」

 

「ウフフ、伊良湖のこと、末永く可愛がってあげてくださいね♪

私にとっては妹のようなものですから」

 

「間宮さんまで!?

……そ、そういえば、伊良湖さんも、他の補給艦の皆さんも、まだ正式にはウチに異動してきてないんですけど……辞令っていつ出るんです?」

 

 

 なんだかよくわからないけど外堀を埋められ始めた気配を感じ、話題をそらす鯉住君。

 彼の疑問に答えられるのは事務統括としても責任を持つ元帥。いつも通り冷静にしていた元帥は鯉住君の質問に答える。

 

 

「今のところ、甘味工場が完成すると同時に異動辞令を出すつもりでいる。

施設運営のための増員という名目なので、先に人員を異動させるでは理由が立たないのでな」

 

「そ、それは確かに元帥のおっしゃる通りですね……

でも実際もう彼女たちは来ちゃってるわけですし……いいんですか?」

 

「まぁ、構わんだろう。伊良湖くんはそうでもないが、彼女たちが元々居た鎮守府では、その能力を十全に発揮させることができていなかったようだしな。

鯉住大佐の下で働いていた方が、なにかとよい方向へ転がるであろう」

 

「なんかプレッシャーが……うう……」

 

「本当であれば、異動辞令もすぐに出してしまいたいのだが、先ほど言った通りタイミングがおかしいのでな。

大佐の言う通り異動辞令が出る前に本人たちが出向するというのは普通ではないし、工場自体が出来上がればすぐにでも辞令を出したいのだが」

 

「それはまぁ、大規模な建物の建設でしょうから、だいぶ時間がかかるでしょうし……

……間宮さん、建設完了ってどのくらい先を考えてるんです?」

 

「そうですね……先ほど端末に連絡があったので、そろそろだと思うんですけど」

 

「……ん? それってどういう……!?」

 

 

 議長の間宮に話を振ったところ、なんか変な回答が返ってきた。

 鯉住君が嫌な予感をビンビンに感じていると、いきなり彼の後ろのふすまが勢いよく開いた!

 

 

 

 ガラガラガラッ!!

 

 

 

「おっまたせしましたぁ!!!」

 

「うおおっ!? ビックリしたぁっ!?

……って、明石じゃないか! お前何してんのぉ!?」

 

 

 絶賛会議開催中だというのに、ノックもせずに突入してきたのは、鯉住君の天敵である明石だった。

 すごいいい笑顔をしている。そして彼女の周りには、英国妖精シスターズがふよふよと浮いている。

 

 いつも変な出来事ばかりでそういうのに慣れている鯉住君。一瞬でどういうことか察する。

 

 

「明石お前ノックくらいしろ!!

っていうか英国妖精シスターズまで一緒に……ってことは……!?」

 

「艦娘用甘味工場、完成しましたよっ!!」

 

「やっぱりかよぉ!?」

 

 

 げんなりしながらツッコミを入れる鯉住君とは対照的に、すごいドヤ顔でビシッと窓の方を指さす明石。

 その先では、英国妖精シスターズたちが窓の障子戸を開け、外が見えるようにしていた。

 

 ……今まで建築資材やガレキが転がる更地だった場所に、小さくはあるが立派な工場が建っていた。

 会場からは「おお~」とか「話が早いな」とか「意味が分からん……」とか「どういうことなの……」とか、いろんな反応が飛び交っている。感心半分、驚き半分といったところだろうか。

 常識や物理法則をガン無視した出来事なのにもかかわらず、それに驚きもしないメンツが半分もいるあたり、ここに集まったメンバーがどれだけ特異な顔ぶれであるか推して知るべしである

 

 

「お疲れ様だったわね、明石」

 

「こっちも楽しんでたから気にしないでいいよ~。

間宮とは呉第1鎮守府からの長い付き合いだしね、このくらいならいつでも協力するよっ!」

 

「ウフフ、ありがと。

皆さん、そういうことで甘味工場自体はもう完成しましたので、あとは伊良湖たちがスタッフとなって稼働させるだけになります。

……元帥閣下、この際異動も一緒にしてしまってはどうでしょうか?」

 

「そうだな、問題となっていた部分が解消されたのでそれがいいだろう。

大和君、会議が終了したら書類を出すように愛宕君に連絡してくれ」

 

「……えっ、あの……いきなり工場ができて……どういうことなの……?」

 

「まぁ鯉住大佐であるしな。今までにそういった報告も受けているし」

 

「確かにそういう話は聞いてますが……実際に見ると手品か何かみたいですね……」

 

「そうだな。しかし現実に出来上がっているのだから問題あるまい。事務手続きを頼んだぞ」

 

「あの、えっと、はい……いつも思いますけど、元帥のメンタルは本当に強いですね……」

 

 

 鯉住君との付き合いは長いが、いまだにこういったと突拍子もない出来事には慣れない大和。口をポカンと開けて呆然と外を眺めている。

 その隣では加賀と瑞鶴も同じ反応をしている。そりゃそうだ。

 

 そんな感じで半分くらいのメンバーが外に視線をくぎ付けにされているのだが、画策していた側の間宮は堂々としたもので、ニコニコしながら話を進め始めた。

 

 

「皆さん、驚かせてしまってすみませんね。

この素早い対応には、この鎮守府の妖精さんと明石の協力が不可欠でした。皆さん、彼女たちに拍手をお願いします」

 

 

 パチパチパチ……

 

 

「いや~、照れちゃいますね!!」

 

 

(いいしごとしたでーす!)

 

(きあい、いれましたっ!! はいっ!!)

 

(すごいひとたちからほめてもらえて、わたし、かんげきですっ!)

 

(けいさんどおりですっ!! ごほうびもきたいしちゃいます!)

 

 

 間宮に促されるままに、考えがまとまらないまま流されて拍手する面々である。

 まぁ、これほどの異常事態でも驚いていない人たちはそうでもないが。

 

 

「というわけで、残りの問題はいつ稼働を始めるかだけですね。

三鷹少佐、三鷹グループからの食材供給はどれくらい先になるでしょうか?」

 

「そうだねぇ。今から三鷹青果(株)の各所に食材調達の連絡入れるから、次の連絡船で送るようにするよ。諸々合わせてコンテナ3個分くらいでいい?」

 

「ちょ、ちょっと待ってください、間宮さんに三鷹さん!」

 

「あら、どうかされました? 鯉住さん?」

 

「ん? どうしたの、龍太君?」

 

「おふたりともさらっと話進めてますけど、あの工場、インフラがどうなってるか確認できてないです!

いきなり生鮮食品を運び込んでも、すぐには動かせないですよ!」

 

「あ、それは大丈夫だよ。

ちゃーんと私が監修したから、電気もガスも水道もしっかり引いてあるから!」

 

「いや待ってくれよ明石!

水は妖精さん印の浄水器から出てくるからいいとして、電気とガスは賄えないだろう!?

いくら超性能のバイオ発電機があるからって、工場ひとつ分の電気が生み出せるほどではないし、そもそもガスはどうにもならない!」

 

 

 インフラ設備は万全とのことだが、そもそも原料となる、水以外の資源が足りないのだ。

 電気もガスも使えないでは、工場を稼働させることなどできない。鯉住君が焦るのも当然である。

 

 ちなみにここラバウル第10基地では、以前三鷹少佐からバイオエタノール発電装置の設計図を譲り受けたことがある。そしてその設計図を基に妖精さんたちが魔改造して作成した、妖精さん印の発電機(燃料効率は驚きの100%)がある。

 すごい勢いで収穫できるサトウキビをガンガン投入してバイオエタノール発電をしているのだが、さすがに一基で工場をどうこうできる発電量は賄えない。

 

 そしてガスについては、普通にポポンデッタの港町からプロパンガスをボンベで届けてもらっている。そんな大量に使用することは想定していない。工場で使う量を考えると、非常にコストがかかるだろう。

 

 

 そういう事情があるのだが、それを明石が知らないはずもなく、ドヤ顔で鯉住君に説明を始める。

 

 

「ふふん。そのくらいは織り込み済みだよっ!

工場のついでに、妖精さんたちのチカラを借りて、妖精さん印のバイオエタノール発電機を3基増設しちゃいました!」

 

「あのオーパーツをそんなに量産しちゃったの!?」

 

「しちゃったの。てへ♪」

 

「かわいこぶってんじゃない! 自分が何したかわかってんの!?」

 

「ふふ~ん。かわいいと思ったでしょ~?」

 

「喧しいわ! 思ったけども!」

 

「キャッ! かわいいって言われちゃった~!」

 

「顔もスタイルもいいし、性格も基本的にはいいんだから、俺の話聞かないで色々勝手にやっちゃうところだけ直してくれよ!」

 

「やだ~、褒め殺し? 鯉住くんったら情熱的!!」

 

「うっさい!」

 

 

 なんか突然いちゃいちゃしだした。これには会場の皆さんも困惑。

 

 ただしふたりを『おもしろバカップル』として認識している呉第1鎮守府組にとっては、よく見た光景だったりする。

 「若いっていいのう」とおじいちゃん気分だったり、「あのやり取りを見るのも久しぶりだな」と冷静だったり、「ちょっとちょっと! いつものラブコメだよ!」とハイテンションだったり。おおむね見て楽しんでいる様子。

 

 

「まあそれはともかく! ともかくっ!!

……電気についてはなんとかなりそうっていうのはわかったけども、ガスについてはどうにもなんないだろ?

普通に街からガスボンベを届けてもらう一般家庭仕様だから、工場で使う量を賄うとなれば、すごいコストがかかるだろうし」

 

「そこはしょうがないでしょ?

どうせ甘味工場が稼働し始めたらかなりの利益が見込めるんだし、必要経費ってことで。

経営者の感覚としては、利益が支出を上回ってれば問題なし! バランスシート的にも問題ないじゃん?」

 

「いや、それはそうなんだけど、なんだかなぁ……

もっと効率的なやり方がありそうで……」

 

「工場って言ったらどこでもウチ以上の燃料をバンバン使ってるよ?

ウチがやらなきゃ他所がやるだけなんだから、気にしちゃダメだって」

 

「まぁ、それはそうか……それにしても、一気に話が進んじゃったなぁ……ん?」

 

 

 なんだかんだ工場稼働はできそうだと結論付けようとした鯉住君だったのだが……うしろから制服の裾をクイクイと引っ張られた。

 

 

「いったい誰……って、コマンダン・テストさん?」

 

「Oui(そうよ)」

 

 

 そう。加二倉中佐たちに連れて来られた鹵獲された転化体、コマンダン・テストだった。

 

 なぜ彼女が鯉住君の後ろにいるのかと言えば、彼女が座席割り振りで加二倉中佐の隣に指定されていると聞いて……

『ワタシをあのDémon(悪鬼)と一緒にするなんて、正気なの!? 怖すぎて瞬く間にsyncope(失神)するわよ!?

一番怖くない人間の近くにして!! それが無理なら、部屋の隅で空気のように丸くなるわ!! こんな会議なんて出たくない! 部屋に引きこもりたい!!』

なんてワガママを必死になって訴えたからである。

 

 欧州救援についての話し合いの時に彼女の情報共有は必須なので、会議には出席してもらわないといけない。引き籠らせるわけにはいかない。

 ということで、誰がどう考えても一番怖くないのは鯉住君という結論になったのもあり、鯉住君は不承不承彼女が隣に座ることを承知した。

 

 エーゲ海周辺から命という命を奪った相手が後ろに座るとかいう無茶ぶりに、相当げんなりしてはいたが……彼としても加二倉中佐と愉快な仲間たちの怖さは骨身に染みて分かっているので、断るに断れなかった模様。そういうところがこういう無茶ぶりを放り投げられる土台となっているのだが。

 

 

「どうしたんですか? もしかして体調でも悪くなりました?

つらいようでしたら部屋まで戻ります?」

 

「Non(違うわよ)。Gaz naturel(天然ガス)なら用意できるわ」

 

「……え? 天然ガスを、用意できる……?」

 

「私の艤装(たこやき)から放出できるの。すごいでしょう?」

 

「えっと、はい、すごいです……ちなみに、どの程度……?」

 

「En permanence(永久に)」

 

「あー、スイマセン、フランス語はさっぱりで……」

 

「仕方ない人ね、もっと教養を身につけなさい……いつまでも、よ。上限は多分ないわ」

 

「いや、スイマセン。簡単な会話くらいならできるようになりま……いつまでもぉ!?」

 

「ヒッ!! 急に大きな声出さないで! 怖いじゃない!」

 

「す、スイマセン……! しかし永久にガスを出せるって……!!」

 

 

 まさかの伏兵現る。コマンダン・テストの艤装は、ガスであれば延々と放出できるようだ。

 確かに昨日の報告では、神通さんが各種毒ガスで苦しめられたって聞いたなぁ……なんて、遠い目をする鯉住君である。

 

 

 

 ちなみに極度の怖がりのコマンダン・テストと鯉住君との心の距離が急激に近くなっているのは、『まったく生物として怖さを感じない、唯一の相手だから』と思っているからだとか。

 草むらから飛び出てくるバッタにさえ驚いて、その拍子に島ひとつ分の生命を根絶やしにしてしてしまう彼女なのだが、鯉住君に対しては一切危険を感じないらしい。

 

 それを聞いた鯉住君は、自分がその辺のバッタよりも脅威度が低いという評価に少し落ち込んでいた。確かに『お前バッタより怖くないな』なんて言われたら普通はショックを受けるだろう。彼は要所要所でメンタルを殴られる運命らしい。

 

 さらに言うと、鯉住君に対する誤解……彼が小児性愛者であるのに自分からは手を出さない変態で、女だけではなく男にも興味がある特殊性癖を持っている。それでいて紳士的な対応と心のケアを欠かさない面倒見の良さを兼ね備えているところから、ほとんどの部下から好かれ、片っ端から手を出しまくっている性豪。

 ……なんて話を、コマンダン・テストはいまだに信じている。

 

 自分は恋とか愛とかに興味があるわけではないし、そういった関係になることはないだろうという考えがあるため、人類全体でもトップクラスの変態のクセに怖さを感じない原因はそれではないか?

 

 そんなあまりにもアレな誤解と考察を包み隠さず暴露された鯉住君は、あまりの酷さに頭を抱えて座り込んでいた。絶対言いふらされる流れだと感じたらしい。すごくかわいそうである。

 

 

 

 それは置いておいて……コマンダン・テストの地球における燃料問題が一瞬で解決するような爆弾発言を受けて、色々と思い出したのか加二倉中佐一行が雑談を始めた。

 

 

「提督、コマンダン・テストの言うことは本当なのですか?」

 

「うむ、そうだ。そういえば赤城は一度も奴の艤装を見たことはなかったな。

確かに奴の球状艤装からは、様々な毒ガスが噴出していた」

 

「せやな。あの神通が少し吸い込んだだけで膝をつくような、ごっつい毒ガスやったな」

 

「少なくとも自分が感知できる範囲と、神通の症状を鑑みると……

皮膚を爛れさせるマスタードガスに、硫化水素を多く含む火山ガス、全身の痙攣を引き起こすVXガス……ノビチョクかもしれんが、そしてサルファアタックで発生する硫酸ガスが確認できたな」

 

「ほっほ~ん。さっすがウチの提督やな! 知識量と実学量が半端ないで!」

 

「人類の悪意が凝縮されたようなラインナップですね。神通さんもよくひとりで戦い抜けましたね」

 

「普段から実力に見合った訓練を行っているのは、このような時のためでもある」

 

「毒物耐性のために散々血反吐吐いて慣れてきたのも、無駄じゃなかったんやね~」

 

「全くです」

 

 

 加二倉中佐の鎮守府では、ガチの命の奪い合い(演習)だけではなく、毒物耐性獲得のために食事に毒を混ぜ、自己免疫をパワーアップさせるという試みもしている。

 本来化学兵器系の毒というのは、そんな自己免疫程度で太刀打ちできるものではないのだが、そこは艦娘。半分人体、半分軍艦という特徴から、そういった非人道兵器への耐性も獲得できることが分かったとか。

 ちなみにそんな人体実験まがいの訓練をしているのは加二倉中佐のところだけである。当然である。

 

 

「ヒイィィィ!!! また怖い話してる! あの人たち怖すぎるわっ!!

Aidez-moi(助けて)!! 提督ぅ!!!」

 

「いや、あの、貴女の話してるだけですよね……?

俺は毒ガス業界に詳しくはないですけど、とんでもなくヤバいもの出せるってことは伝わってきましたよ……? 正直、ドン引きしてるんですが……」

 

「Pourquoi(なんでそうなるのよ)!?」

 

「そんな意外そうな顔されても……とにかく、そういったヤバいのは、今後出さないでくださいね……?」

 

「Non(イヤよ)!! 先に殺さないとケガさせられちゃうのよ!?」

 

「えーと、日本ではそういうのは過剰防衛って言って……って、そんなこと言っても無駄だよなぁ……」

 

「なに愛想尽きたみたいな顔しているの!? 生物なら当たり前でしょ!?」

 

「そんなことないっす……全然そんなことないっす……」

 

 

 自分がやったことの話だというのに、怖がってビクビクしながら鯉住君の背中にくっついているコマンダン・テスト。

 このピンが抜けた手榴弾のような危険人物とこれから付き合っていかなければならないことを思うと、胃がキュッと痛くなってしまう鯉住君である。

 

 

 

・・・

 

 

 

 なんか色々とてんやわんやしたが、結局のところ、今回の議題である甘味工場については今すぐにでも稼働開始できるという結論に落ち着くことになった。

 もともと工場建設の話し合いから始まる予定だったのに、モノがもうできちゃったとかいう意味不明な事態である。

 というわけで、甘味の原料運送についての話を残すのみとなった。

 

 これについては物流を一手に担ってくれる三鷹少佐から説明が入る。

 

 

「さっきも言ったけど、別にやろうと思えば1週間以内に原料をそろえられるよ?

間宮さん、何がどれくらいほしいです?」

 

「ウフフ。そんなこともあろうかと、全鎮守府への供給量と工場の生産量予想から計算した数字は作ってきてあります。

すいません、この資料を三鷹少佐まで渡してくださいますか?」

 

 

 バケツリレー方式で後方に座る三鷹少佐まで資料が届けられる。

 

 

「どーもどーも。……ふーん」

 

 

 パラパラと資料をめくる三鷹少佐。必要なところだけ拾っているのだろう。かなり早めなスピードで一枚一枚確認している。

 そして全部に目を通した後に『なるほどねー』なんていいつつ、裏表紙にボールペンでサラサラとメモを書いていく。

 

 

「……はいできた! それじゃむっちゃん、会議が終わったらこれ、各所に通達しといて」

 

「わかったわ。……なんかこれ、スゴイ量じゃない?」

 

「間宮さんの予測量の1.5倍は生産できるように組んどいたから」

 

「あらあら……それって大丈夫なの? 工場の生産ペースが追い付かないんじゃない?」

 

「冷凍庫があれば原料は長期保存が効くわけだしねー。どうせ龍太君のところだし、こっちの予想くらい軽く裏切ってくれるって。

だよね、明石さん。大型冷蔵庫ってもう工場に入ってるよね?」

 

「モチのロンです!!」

 

「アハハ! だってさ! やっぱり龍太君のところはすごいなぁ!!

ガンちゃんもしっかり学んでおくんだよ? しばらくしたら龍太君に預かってもらえるんだからね」

 

「当然だ! 人間の掌握に必要なもの……すべて吸収させてもらおう!!」

 

「その意気その意気」

 

 

 こっちはこっちで物騒な会話になりかけている。爆弾発言しか飛び出さない会議に、慣れていない面々は現実逃避をしている。さもありなん。

 

 

 こうして怒涛の展開のままに、今回の会議の主題であった『艦娘用甘味生産工場の建設』については、予想以上のところまで決定することになった。

 来週には各種穀物やフルーツ、香料などが届くと聞いて張り切る伊良湖とは対照的に、もうどうにでもなーれ、と言いたげに乾いた笑いをあげる鯉住君なのであった。

 




 ちなみにこの本題にかかった時間は10分くらいでした。
 でもそのたった10分で、こういった常識ブレイクに免疫のない面々のメンタルはスクラップ&スクラップされたとか。かわいそうですね(ひとごと)

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