済・本題……呉第1鎮守府・間宮とラバウル第10基地・伊良湖による艦娘用甘味の生産工場建設と運用について
済・副題1……加二倉中佐による欧州遠征の結果報告(非公開情報)
副題2……一ノ瀬中佐、加二倉中佐、三鷹少佐のそれぞれが上げた功績に伴う昇進について
副題3……白蓮大将による鉄底海峡の不可侵領域攻略作戦と大規模侵攻の兆候について
副題4……鼎大将による沖縄沖からフィリピン海にかけての大規模侵攻の兆候について
副題5……三鷹少佐による北方水姫の迎撃作戦の結果と彼女の転化について
副題6……一ノ瀬中佐による各地大規模侵攻に対する人員再配置案について
副題7……伊郷元帥と鼎大将による深海棲艦の正体予想について
今回は副題2です
※前回の補足
イタリアの二つ名個体・『オイルドリンカー(重巡棲姫)』は、同国のオリーヴィア・シラス提督(一ノ瀬中佐のマブダチにしてローマの出向元)により打倒されています。欧州で初めて二つ名個体に人類側が打ち勝った快挙となります(非公式含まず)。
加二倉中佐による、大変物騒なカミングアウト(と鯉住君に対するいつもの丸投げ)が終わって、会場は一息ついている状態である。
欧州の救援は佐世保第4鎮守府組による蹂躙で大成功だったという朗報と、欧州では艦娘たちの人体実験(かなり非道)が行われていたという凶報のダブルパンチ。
ベクトルは違えども、どちらもなかなかにショッキングな内容だったので、会場は全体的に浮足立っている。無理もないことだ。
とはいえ今回の会議はまだまだ始まったばかり。主題であった甘味工場についてはとっくに終わっているのだが、始まったばかりなのは確かである。
ざわざわする会場を静めるため、司会進行役の間宮が壇上に上がる。
ちなみに彼女は加二倉中佐の報告には特に驚いていない。諜報のスペシャリストでもある彼女は、今開示された情報をすでに手に入れていたのだ。流石である。
「はい。加二倉中佐、貴重な情報をありがとうございました。
それでは皆さん、衝撃的だったのはわかりますが、時間が限られていることもありますので次の議題に移りますね。
次の議題は、提督……鼎大将のお弟子さん3名の昇進について、ですね。
実力も実績もある3名の昇進、大変喜ばしいことです。詳しい話は元帥閣下からということですので、マイクを譲りますね。……元帥閣下、お願いいたします」
「うむ」
司会しながら伊郷元帥へとマイクを手渡す間宮。昇進についてのトピックということで、元帥直々に発表となるらしい。
「ここからは私が話す。
……まず前提としてだが、一ノ瀬中佐、加二倉中佐、三鷹少佐は、これまでに日本海軍に対して多大な貢献をしてくれている。艦隊運営の実力も日本海軍指折りだ。ここにいる者で3人の昇進に異を唱える者はいないだろう」
元帥の言葉を受けて、会場の面々は一様に首を縦に振る。
日本が国家として壊滅するほどの国難であった本土大襲撃、それを防いだ立役者である一ノ瀬提督。
部下の艦娘はひとり残らず一騎当千(誇張ではない)の実力者で、今回の欧州救援ではその実力を余すところなく示した加二倉提督。
提督としてでなく経営者として世界でトップクラスであり、艦隊の実力としても二つ名個体クラスを討伐できるほどハイレベルな三鷹提督。
こんなトップクラスの実力者たちの昇進だ。政治的なしがらみや権力闘争的な企みがあるわけでなければ、異議など出ようはずもない。
というかこのレベルの人材が佐官だったこと自体が、おかしなことだったと言ってもよい。
一応その理由はあり、本人たちに出世欲が皆無なこととか、政敵を増やさないため他の提督から妨害工作を受けていたからとか、元帥としても出世させる必要がなかったからとか、だったりする。
組織として全く問題なく運営できており、本人たちも立ち位置に満足しているということであれば、事を荒立てる必要はない、という認識だったのだ。
「今まで本人たちの意向もあり、功績とは見合わない立場で活動してもらっていたのだが……
欧州の情勢が落ち着いたのはいい機会であるので、これを機に適切な立場に昇進してもらうことにした。3名とも、異論はあるか」
元帥の問いかけに対して、3名は鎮守府メンバーと一緒にそれぞれ反応している。
一ノ瀬中佐のところはこんな感じ。
「あー、私としては、昇進とかあんまり興味ないんですよね。鳥海はどう思う?」
「聡美指令より上の立場として認められる者など、片手で数えられるだけしかいません。順当な評価です。おとなしく受けてください」
「あんまり実感ないのよねぇ……できることしてるだけだし」
「ご主人様はホントにマイペースですよね~。もっとガツガツ行けばいいのに。青葉さんもそう思うっしょ?」
「当然ですね! お金と立場はあって困ることはありませんよ!」
「いや、別にそんな、ほどほどでいいから」
普通なら泣いて喜ぶ昇進であるが、彼女としては、別にそこまで……といった具合らしい。
一方加二倉中佐のところは……
「自分も異論はない。元帥閣下の決定なら従うのみ」
「キミはそうやろな。軍人の鑑やで、ホンマ」
「秘書艦としても喜ばしいことですね。細かい仕事が減りそうです」
「いつも書類仕事をこなしてくれる赤城には感謝している」
「提督がもっと事務をしてくれれば……ハァ」
「ま、ええやん。出世するだけ雑用は減るもんや。細かい仕事は格下にブン投げりゃええもんな」
「重要なことだけ抑えれば、他は些事だ」
「またそんなことを言って……
……勘ですが、鯉住さんにしわ寄せがいくような気がしますね」
加二倉中佐としては、上からの命令だから自分の意思はどうでもいいと思っているらしい。相変わらず職務に忠実である。
実際の細かい事務は秘書艦の赤城に丸投げだし、そもそも秘密兵器扱いなので面々が明るみに出ないというのもあり、本人的にはやることが変わるわけではなかったりもする。
そして残った三鷹少佐のところは……
「あらあら、おめでとう提督。完全に計画通りとは流石ね」
「あはは、ありがとむっちゃん。本音としては僕個人はどっちでもいいんだけどね。
でもどうせなら、みんなで一斉に昇進したかったからさ」
「……何? 同志はこの昇進を以前から知っていたのか?」
「ああ、ガンちゃんには話してなかったっけ?
色々と根回ししておいたから、この昇進は既定路線だよ」
「ムム! 何をどうしていたか教えてくれないか!?
私の人類支配の夢の一助となりそうだ!!」
「あー、大したことはしてないよ?
危険な欧州から優秀なブロックチェーン技術者を大量に囲い込んで……ああ、これは三親等まで安全な土地への移住を保証することで実現させたよね。
それで三鷹グループと提携企業で使える暗号通貨である『電ちゃんコイン(INZ)』を開発して、日本海軍の将官クラスに賄賂として与えたんだよ。
あとは暗号通貨と国家通貨の取引所を開設しておしまい。楽な仕事だよね」
「な、なるほど……?」
「提督、人間の先端技術に疎いガングートに専門的な話してもわかんないわよ」
「それもそっか。えーとね、分かりやすく言うと、だいたい3000万円くらいのはした金を、発言力だけはある連中に別個にばら撒いたんだよ。
信念よりも欲望が強い人間はこれで十分。札束を餌付けすれば喜んで動く犬みたいなものだからね」
「おお、そういうことか!!」
「ま、こんな3流しか動かせない方法じゃ、この場のメンバーには全く響かないけどね。
ガンちゃんが裏で動くときは、ちゃんと相手を見て権謀術数を張り巡らせるようにね」
「流石は同志提督! 勉強になるな!!」
三鷹少佐は独自で昇進のための暗躍をしていたらしい。さらりと言っているが普通に軍紀違反である。
とはいえそれを咎めることができる者はいないし、咎めたとして良いことなど何もない。そこまでわかって自由に動いているのは流石としか言いようがない。
こんな感じでざわざわとしている中、元帥は話を続ける。
「うむ、さほど驚いているわけでもなく、浮足立っているわけでもない。
全員、部下まで含めて、将官の器だと言えるだろう。
……ということで、全員の階級を『少将』とする。これは事前に全将官の同意をとってあるので、決定事項である」
まさかの全員『少将』への昇進。驚きの声が上がる。具体的にはラバウル第1基地(白蓮大将のとこ)から上がる。
「お、おい、提督、このようなことあり得るのか!?
中佐から少将への昇進だけでも『2階級特進』! それでも早々ない話だというのに……三鷹少佐に至っては、少佐から少将だと!?
私の頭がおかしくなったとしか思えん! 何がどうしてこうなったのだ!?」
「落ち着けよ長門。お前の頭がおかしいんじゃなくて、ここにいる奴らがバグってるだけだ。結果も出してるしな」
「提督は落ち着き過ぎだろう! 日本海軍には日本海軍の常識というものがあってだな!?」
「しょーがねーだろ。その常識で縛れねー奴らが結果出してんだから。
俺も大概やりたいようにやってる自覚はあるが、その程度のぶっ壊れじゃ足りんらしいからな」
「提督……ご自身が適当な存在だって自覚があったんですね……」
「高雄オメェ、それちょっとニュアンスが違くねぇ?」
「普段の仕事ぶりを鑑みてください。順当な評価ですわ」
「なんか鯉住の世話を任せるようになってから、図々しくなったな……」
「色々とワケの分からない案件を処理してきて、精神が鍛えられましたもの」
「て、提督! 阿武隈は提督の戦闘指揮は信頼してまぁす!」
「あら阿武隈、別にフォローしなくてもいいのよ?」
「ホントにまぁ、図々しくなっちまって……」
一般常識がしっかり根付いているラバウル第1基地では、やはり異例の特進はショッキングだったらしい。
同様に一般常識が浸透している大本営組ではどうだろうか。
「提督……本当に良かったんですか?
やはりもっと段階を踏んでいくべきだったのでは?」
「なに、大和君も知っての通り、事前に各将官からの同意も得ているだろう」
「それはそうですが……真面目な方々は『功績通りの昇進だから』と納得してくれたので、それはよいのです。
ですが、自分に正直というか、欲に正直というか……そういった方々までふたつ返事で納得したのが気にかかります」
「それも裏取りができているだろう? 三鷹少佐が根回しをした、と」
「堂々と軍紀違反していたとはいえ三鷹少佐ですし、今さら問題にするつもりはありません。それよりも、賄賂を受け取った面々に付け入る隙を与えてしまいそうで」
「そうなったとしても問題あるまい。三鷹少佐は一角の傑物であるのは確か。その程度のスネの傷など気にならない程度のものだろう」
「部下が自分の手に収まらないのは落ち着かないんですよ……ハァ……
鼎大将率いる皆さんについてそんなこと、ホントに今さらなんですけど……」
「大和君は毎回丸く収めてくれているからな。本当に助かっている。
……何か特別な褒賞を用意するべきだろうか」
「い、いえいえ、先日は内政艦を数人、追加配属させてくださったばかりですし、十分助けていただいています」
こちらは実際に昇進の事務処理をしていた当事者たちなので、ラバウル第1基地の面々と違って驚きはない。
とはいえ、三鷹少佐が色々と暗躍したから話がスムーズに進んだことについては多少思うところがあるようだ。元帥はともかく、大和、加賀、瑞鶴の3名は煮え切らない表情をしている。ちゃんとした真面目な感性を持っているので、仕方ないことではある。
「ということで、3名はこれ以降少将として活動するように。以上」
元帥の仕切りと共に、会場も静かになる。そんな『はい次』で流していいような話題でもないのだが、この場でそんなこと今さらである。
なんとも言えない不完全燃焼な空気感と共に、会議は進むのだった。
次回は白蓮大将による『鉄底海峡攻略作戦について』です。
ここで誰もが思う疑問について、先取りでお答えしておきます。
Q.鯉住君のところのバグ艦娘たち(転化体)がハッスルすれば、鉄底海峡攻略も余裕なのでは?
A.こんな感じになります
鯉住君
「ウチの全戦力を以て鉄底海峡を攻略しよう!」
アークロイヤル
「なんだ? admiralらしくない……
誰に言わされているのかしら? 事と次第によってはそいつを始末しなければ」
天城
「提督らしくないですね……なんだか気分が乗りませんし、ゆっくりしていたいのでパスで……」
コマンダン・テスト
「私に戦場に出ろなんて、どうしてそんなヒドイことが言えるの!? 見損なったわ!!
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ信頼していたのに!! traitre(この裏切り者)!!」
鯉住君
「すいませんでした!!」
日頃の行いというかなんというかですね。
らしくない行動をとろうとしても、多分言うこと聞いてくれません。そもそも鯉住君は、それぞれの気持ちを無視した指令は下さないです。
あ、他のみんなはちゃんと言うこと聞いてくれます。一応軍属だしね。上司命令だからね。