艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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 提督になると決める(前回)
→佐世保第4鎮守府(加二倉中佐のとこ)で研修
→横須賀第3鎮守府(一ノ瀬中佐のとこ)で研修
→トラック第5泊地(三鷹少佐のとこ)で研修
→大将と赴任先相談
→着任先であるラバウル第10基地に出発(今ここ)

鯉住くんにとって新たな一歩です。よかったら応援してあげてください。


第2章 駆け出し編
第15話


本日は晴天なり。

 

日本~パラオ泊地経由~ラバウル基地を航行する定期連絡船は、洋々と海を進む。

定員は最大80名。フェリーとクルーザーの中間といった規模のその船は、必要物資輸送のために出港する。

 

「……船出にはいい日和だな」

 

甲板で独り言つ男性が一人。

平均より高めの身長に、程よく引き締まったカラダ。浅黒く日焼けした肌に、短めに整えられた総髪(オールバック)。その切れ長の目は、船に寄りそって飛ぶ海鳥を、優しく捉えている。

 

彼の名前は鯉住龍太(こいずみりゅうた)。

本日付でラバウル第10基地に着任する、新任少佐である。

元々は呉第1鎮守府で技術工として働いていたのだが、同鎮守府の鼎大将からの推薦により、半年間の研修を経て、この遥か南の地へやってきたのだ。

 

「ラバウル、か。一体どんなところなのやら」

 

彼は未だ見ぬ着任地へと思いを馳せる。

 

ラバウル基地はパプアニューギニアに建設されている基地であり、太平洋からの守りを担う重要拠点でもある。

パプアニューギニアという国には艦娘が殆ど在籍していないため、深海棲艦に対抗することができない。そのため大戦中の繋がりもあって、日本が海軍基地を設置している。国防の対価として、資源貿易を日本に有利にする取り決めもなされている。

 

大戦中のラバウル基地は、オーストラリアに睨みを利かせる役目もあった。しかし現代ではオーストラリアとは国交は回復しており、ラバウル基地として最も重要な役目は資源輸送船の護衛だ。

 

ラバウル基地とはそんな海軍基地である。

その中における彼の赴任する第10基地は、実をいうと必要に迫られて設置された基地ではない。

 

現在のパプアニューギニアの首都であり、大戦中に激戦が繰り広げられたポートモレスビー。

その都市から島を挟んで反対側にある、ポポンデッタという地に第10基地はある。

 

そこは島に囲まれた内海であるソロモン海に面した立地であり、大戦の影響からか深海棲艦の数はそこそこに多い。

しかしこちらの戦力も相応に整えられており、第10基地発足以前から対応できるレベルではあった。つまりは第10基地は余剰戦力ということになる。

 

そんな無駄ともいえる配置が行われた最も大きな理由。

それは度々起こる大規模侵攻にある。

 

ラバウル基地一帯、特にソロモン海では、過去何度か大きな侵攻があった。

その規模はかなり大きなものであることが多く、他地域の鎮守府に応援を要請することもあった。

通常時は余剰戦力となろうとも、有事の際に手が足りないでは困る。

そういった意見は前々からあり、そこに新しく配属先を探している提督が現れたとあって、第10基地が配置される流れとなったのだ。

無くてもよいが、あれば助かるかもしれない。そんなスタンスである。

 

「……あ、イルカだ」

 

そんな立場の鎮守府に着任するからか、どうにもこの男、緊張感に欠けるようである。

本日が初仕事だというのに、リラックスしながら南国の景色をのんびり眺めている。

 

「お前らも久しぶりに見るだろ? かわいいよなー」

 

(((そうですねー)))

 

彼の隣では数体の小人が手すりに座っている。

この小人たちは妖精さんと呼ばれる存在で、艦娘と人間の懸け橋ともいえる者たちだ。

彼女たちは艤装に宿り、艦娘と共に戦うこともあれば、艤装の開発や艦娘の建造も行うこともある。カラダは小さくとも大変大きな役割を持っているのだ。

 

普通は彼女たちと会話することなどできず、身振り手振りでコミュニケーションを図るしかない。

しかしウマがあうのか、気に入られているのか、なぜか彼だけが妖精さんと会話することができる。

その能力をうまく使えば人類の繁栄に大きく貢献できそうなものだが、彼はそのような事に興味はないようだ。だからこそ妖精さんから好かれているのかもしれないが。

今も彼らは揃ってイルカを眺めながら、口を半開きにしてボーっとしている。

 

 

「こら!アンタ達何してんの!危ないから船内に戻りなさい!!」

 

定期連絡船のすぐ近く、海面を並走する少女から声が上がる。

 

「あ、すいません。今戻りますので」

 

「アンタはもう今迄みたいな立場じゃないんだから、しっかりしなさいよ!」

 

「いやいや、面目ない……戻るぞ、お前ら」

 

(((はーい)))

 

少女の呼びかけを受け、彼らは船内に戻っていく。

 

「全く……先が思いやられるわね……」

 

額に手を当て、やれやれと言ったふうに首を振る彼女は、彼の初期艦として選ばれた艦娘だ。

 

ワンピースタイプのセーラー服に、落ち着いた黒のタイツ。ロングの銀髪に、首には真っ赤なロングタイ。

頭の両側には独特な2つの電探ユニットが浮き、手には身長を超える丈の長槍が握られている。

 

少々好戦的で気の強い彼女は、吹雪型5番艦駆逐艦『叢雲』。

呉第1鎮守府の提督である鼎大将から要請を受け、鯉住君の初期艦として一緒に仕事をすることとなった。

 

ちなみに本当は初春型1番艦駆逐艦の『初春』が初期艦として同行する予定だったのだが、

 

「初期艦は共にイチから歩める艦の方がいいよね。それにキミ初春君と一緒だとツッコミに疲れるでしょ?」

 

という鼎大将の鶴の一声により、現在では珍しい新造艦の叢雲に声がかかった、という経緯がある。

 

その際初春がものっっっっっすごくゴネたが、ある程度提督が板についたら異動を認めるという言質を取って、しぶしぶ納得した。もはやその騒動は、呉第1鎮守府ではひとつの語り草になっている。

 

 

 

その初期艦である叢雲は、今現在、定期連絡船の護衛任務を請け負っている。

 

太平洋は大戦中の主戦場だったため、深海棲艦の生息数は他の海の比ではない。

だからそこを人間が乗った船が通過するともなれば、狙われてしかるべきなのだ。

どんな船にも艦娘が護衛としてつくことが義務付けられており、この定期連絡船にも叢雲含め6隻の艦娘が護衛として並走している。

 

ちなみに鎮守府側から見れば、こういった護衛活動は遠征任務とみなされ、報酬として資材を獲得できる。

 

 

「……!! 来たわね……!!」

 

叢雲の電探が反応する。やはり彼を退避させておいて正解だった。

 

「総員!10時の方向から深海棲艦反応あり! 数は4隻!」

 

「了解!」

 

「あら~。ホントね。気付かなかったわ~」

 

「生まれたてなのにやるじゃねぇか!叢雲!」

 

「いいからさっさと対応する! 単縦陣で仕留めるわよ!」

 

「了解や!任しとき! 艦載機の皆さん、お仕事お仕事ぉ!」

 

少女たちは慣れた様子で隊列を整える。

敵に気づかれる前に、奇襲により勝負をつけるつもりだろう。

綺麗に一列に並んで、敵の方向へと向かっていく……

 

 

 

外の緊迫感はどこへやら。船内の客席でのんびりする鯉住君。

 

「南国って言えば、やっぱり熱帯魚だよな。基地の近くに採集できるような川があればいいんだけど」

 

(あいかわらずですね)

 

(そのぶれなさはさすが)

 

(じぶんのしんぱいよりしゅみのしんぱい)

 

「正直言ってそんなに心配してないからなあ。一応施設は整ってるっていうし、優秀な秘書官もついてるし」

 

(うわきもの……)

 

(こんやくしゃがいながらそのせりふ……)

 

(ぎるてぃ……)

 

「何度も言うけど初春さんとは婚約してないからな!?

俺はロリコンじゃないから、小学生には手は出しません!保護者として面倒見るって決めてるけど、それ以上の関係じゃないから!!」

 

(へ―……)

 

(そういうこといっちゃう……)

 

(ふーん……)

 

一斉にジト目になる妖精さんたち。

事の顛末を知っているだけに、鯉住君に対する態度がそのようになることも仕方ないのだ。

しかし残念なことに、保護者フィルターが掛かった彼の目には、彼女たちの気持ちは映らない。まっこと残念な男である。

 

そしてもう一つ残念なことに、妖精さんの声は彼にしか聞こえず、彼の声は他の乗客に届いている。ここは定期連絡船の船内。当然乗客もそれなりに座っている。

 

つまり何が言いたいかというと、先ほどの情けないセリフは彼の独り言として認識され、周りの乗客から白い目が向けられているということだ。

 

普段なら人前では心の声で妖精さんと会話するのだが、今日は無意識に声に出してしまったようだ。

なんだかんだ言って、新天地に期待を膨らませているのだろう。

 

 

……そんな知りたくもない事実には気づかず、彼は書籍を手に取る。

 

「さて、これでも読んで時間を潰そうか……」

 

その手にもつ書籍の表紙には、こんなタイトルが記されている。

 

『しょうがくせいでもわかる! かんむす・しんかいせいかん とらのまき』

 

これは彼が呉第1鎮守府にいた時に、鼎大将からもらったものだ。

何故か小学生向けと銘打たれているが、中身はとんでもない情報量。

少なくともこれ一冊で提督養成学校で学ぶ内容程度ならカバーできるほどである(鼎大将談)。

 

彼は半年間の研修中も暇を見てはこの冊子を読み、ちまちまと勉強していた。

今となっては常に携帯する、なくてはならないものとなっている。

 

「第10基地到着まであと4時間くらいだな……」

 

ぺらぺらと見慣れたページをめくりながら独り言を呟く。

新任地まであと少し。

そこでは一体何が彼らを待ち受けているのだろうか……

 

 

・・・

 

 

4時間後 ポポンデッタ港到着

 

陸路30分 ラバウル第10基地到着

 

 

・・・

 

 

「うわぁ……」

 

「え、ウソでしょ……?」

 

これは鎮守府に到着した2人の第一声である。

 

「いやぁ……これは何というか……」

 

「え、何、これ、ホントに鎮守府なの……?」

 

2人の目の前には、建物が2棟ある。

 

「ホントにここで合ってるんだよね? 叢雲さん」

 

「ええ……地図を見ても間違いないわ……それにしても……」

 

 

 

「「建物がしょぼいな(わね)……」」

 

 

 

そう。目の前の建物は呉第1鎮守府のような立派なものではなかった。

 

ちょっと大きめの民家と、その横にくっついているちょっと大きめの倉庫。

ぶっちゃけて言うと、田舎のでっかい農家である。

 

「え?これあれだよね? 村長さん家とかじゃないよね?」

 

「言いたいことはわかるわ……でもここが鎮守府よ……」

 

「俺の親戚の実家がこんな感じなんだけど……」

 

「ちょっと待って私眩暈がしてきた……」

 

どう見ても倉庫のついた農家。

いくら余剰戦力で重要度も低い基地だからって、適当すぎやしないだろうか?

 

「そ、そういえば叢雲さん、鼎大将から鎮守府概要みたいな書類預かってたでしょ?

それもう一回見てみよう。何かの間違いかもしれない……」

 

「そ、そうね。ちょっと待ちなさいよ……」

 

ガサゴソ……

 

「どれどれ……」

 

・・・

 

ラバウル第10基地新設に当たり、鎮守府と工廠を施工。以下詳細。

 

鎮守府…最大許容艦娘数12体(拡張可)

 

執務室 1部屋

会議室 1部屋

提督自室 1部屋

艦娘寮 3部屋(1部屋最大4体)

食堂 1部屋

娯楽室 1部屋

入渠ドック 2か所(大浴場方式採用)

御手洗 2か所

 

 

工廠…鎮守府とは別棟

 

建造炉 1基

 

・・・

 

これだけ見れば、確かに小規模といえど鎮守府の体は成している。

 

「資料だけ見れば、何の問題もないのよね……」

 

「だよねぇ……まあなんだ、とにかく入ってみようか」

 

「ええ……そうしましょ」

 

門前でボーっとしてても仕方ない。

意を決して二人は鎮守府(?)を探索することにした。

 

 

・・・

 

探索中

 

・・・

 

 

「大体わかってきたな……」

 

「そうね……」

 

鎮守府を一通りぐるっと見て回り、実態が判明した。

資料だけみると、しっかりした軍事施設というイメージだったが、実際はこうだった。

 

・・・

 

民家 鎮守府…最大許容艦娘数12体(拡張可)

 

居間 執務室 1部屋

客間 会議室 1部屋

小部屋 提督自室 1部屋

中部屋 艦娘寮 3部屋(1部屋最大4体)

お勝手 食堂 1部屋

茶の間 娯楽室 1部屋

大浴場 入渠ドック 1か所

男女共用便座 御手洗 2か所

 

 

倉庫 工廠…鎮守府とは別棟

 

建造炉 1基

 

・・・

 

「あ゛ー!もう!何なのよ、これぇ!?

これじゃ只のおっきい民家じゃないのよぉ!!

鎮守府なんだからもっとそれっぽく作りなさいよぉーーー!!」

 

「うん……そうだね……叢雲さんは正しいと思います……」

 

あんまりにもあんまりな実情に、

地団駄踏んで激おこな秘書官と、死んだ魚のような目で遠くを見つめる新米提督。

 

何はともあれ、2人の新たな一歩は踏み出されたのだった。

 

「ハァ……ハァ……怒鳴り疲れたわ……

まぁ、思うところはあるけど……一応あれ、やっとくわね」

 

「はは……お願いするよ」

 

「それじゃいくわよ」

 

 

 

「提督が鎮守府に着任しました!これより艦隊の指揮に入ります!」

 

 

 

 

 

 




叢雲ちゃんがツッコミ役をやってくれるおかげで、ある意味鯉住君の負担は減っているようです。2人ともツッコミ気質なので、似た者同士で相性はいい模様。

すいません初春ちゃん。

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