艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

151 / 185
今回の会議の議題一覧


 済・本題……呉第1鎮守府・間宮とラバウル第10基地・伊良湖による艦娘用甘味の生産工場建設と運用について

 

 済・副題1……加二倉中佐による欧州遠征の結果報告(非公開情報)

 済・副題2……一ノ瀬中佐、加二倉中佐、三鷹少佐のそれぞれが上げた功績に伴う昇進について

 済・副題3……白蓮大将による鉄底海峡の不可侵領域攻略作戦と大規模侵攻の兆候について

 副題4……鼎大将による沖縄沖からフィリピン海にかけての大規模侵攻の兆候について

 副題5……三鷹少佐による北方水姫の迎撃作戦の結果と彼女の転化について

 副題6……一ノ瀬中佐による各地大規模侵攻に対する人員再配置案について

 副題7……伊郷元帥と鼎大将による深海棲艦の正体予想について


 今回は副題4です




第151話 副題4

 今までの議題とは毛色が変わり、白蓮大将による大規模作戦概要が周知された。

 その流れはそのままに、次の議題は鼎大将による深海棲艦の情報共有である。

 

 マイクを間宮経由で白蓮大将から受け取った鼎大将は、のんびりとしたペースで立ち上がり、話し始めた。

 

 

「そいじゃワシからの連絡を始めるぞい。

とはいえあれじゃ、皆いい加減疲れてきたじゃろ? ということであっさりと話すのでな」

 

 

 どうやらそこまで切羽詰まった話ではないらしく、込み入った部分まで説明するつもりは無いようだ。

 

 なんだかんだで日本海軍内でも古株な鼎大将である。

 そんな権力者の議題ということもあり、一同それなりに身構えていたのだが……今の一言で気持ちが軽くなったらしく、場の空気が多少ゆるくなった。

 

 

「ほっほ、結構結構。頭を働かせるにはそれくらい気が抜けてた方がいいんじゃよ。

さて、そいじゃワシの持ち込み議題を話していくからの。

……現在西日本からフィリピン海、さらにもうちょっと行ってシンガポール沖辺りまで、深海棲艦の動きに変化がみられる状態じゃ。

ま、これは今回の議題以前に日本海軍データベースに色々載っけといたから皆知ってるじゃろ」

 

 

 うんうんとうなづく面々。

 鼎大将の話通り、日本海軍データベースには戦闘詳報とそれに伴う考察が随時投稿されている。

 

 呉鎮守府以南の海域で、白蓮大将が先ほど話題にした鉄底海峡と同様の、深海棲艦側での戦力変遷が起こっていること。

 原因は不明であるが、現在の戦力で対抗できる範囲からは逸脱していないため、油断なく現状維持と戦力増強に努めること。

 

 ざっくりというとこのような内容である。

 

 

「まぁワシの方で伝えたいのも、白蓮君の議題とほぼ同じじゃな。

なんとも不穏な動きがあやつらに見られるから、なにかしら対策しとこうというわけじゃ。

で、その内容が……ここじゃな。31ページに書かれておる。みんな読んどいてくれたかの? まだということならパパッと目を通してみてくれい」

 

 

 ほとんど、というかほぼ全ての参加者はすでに目を通していた内容らしく、新たに資料に目を向ける者はいない。揃って鼎大将に真剣なまなざしを向けている。

 彼ら、彼女らがそこまで真剣な理由。それはそのページに書かれている内容にある。

 

 

「大丈夫なようじゃの。

……まぁ、書かれていることをまとめるとじゃな、日本海軍の領海内で欧州の二つ名個体と同格になりうる存在が出現する可能性がある、ということになるの。それもそこそこの数」

 

 

 そう、なんと、レジュメには二つ名個体クラスの出現予測が書かれていたのである。

 これは日本海軍データベースでは公開されていない、完全新規の情報。なぜそんなことが予測できるのか? その疑問について鼎大将が答えていく。

 

 

「そもそも日本海軍の領海で、そのような強力な深海棲艦が幅を利かせていなかったということ自体がおかしいんじゃよ。

……皆も知っての通り深海棲艦という存在は、人類史で過去に大きな海戦が起こった地域に多く出現しておる。その筆頭が欧州じゃな。

欧州に二つ名個体が多く存在していたのは、古代の海の民やバイキングの影響もあろうが、それ以上にWW1とWW2が原因じゃろう。そうじゃな? 加二倉君」

 

「その通りです、先生。実際にこの目で奴らの言動を見聞きした結果、その可能性は高いと考えます」

 

「うむ。つまりあやつらは海で亡くなった人間の無念を抱えているということじゃな。

まぁその辺は皆、感覚的にすとんと収まるじゃろ。

……それでの、問題は、日本海軍領海の深海棲艦がおとなしすぎるということじゃ」

 

 

 欧州で深海棲艦が強力なのは当然だ。人類の歴史を見て、あそこほど多くの血が流れた地域は他にない。それは共通認識である。

 

 では日本は……?

 

 確かな証拠はないが、長く戦い続けてきた者たちにとってそれは共通の疑問のようだ。皆うんうんとうなづいている。

 

 

「知っての通り、日本の歴史は内戦の歴史。島国の日本では多くの海賊やら倭寇やらが幅を利かせていた歴史がある。

呉鎮守府管轄では壇之浦、佐世保鎮守府管轄では元寇と、国内を見るだけでも大きな海戦を経験しておる。鉄底海峡を抱えるラバウル基地や、帝国主義の犠牲となったリンガ泊地周辺諸国と、東南アジアを見ても血は多く流れておる。

……というわけで、そもそもウチの領海に深海棲艦が欧州よりも少ない理由がないんじゃよ」

 

 

 これについてもオーディエンスは真剣に反応している。

 日本海軍という組織を運営する上では考える必要がなかった話ではあるが、よくよく見なおしてみるとおかしな話だ。

 

 なぜ欧州や米国よりも(米国については通信網が完全に機能停止しているので被害については憶測もある)、日本や東南アジアの方が深海棲艦の勢力が弱かったのか。

 

 確かに欧州では古代から争いが絶えなかったし、海戦も多かった。深海棲艦が多く出現することも分かる。

 しかし日本においても同じように海で血は流され続けてきた。

 

 それに深海棲艦や艦娘は明らかに軍艦モチーフである。

 相当数の軍艦が犠牲になった戦いは、東南アジアや大西洋でも起こっている。

 

 

 つまり、その推測が正しければ、日本海軍の管轄する海(アジア圏)で深海棲艦が弱いはずがないのだ。

 今まで欧州で地獄のような惨劇が繰り広げられていたが、日本や東南アジアでそうなっていないのが、そもそもおかしかったのだ。

 

 

 鼎大将の言いたいことはそういうことであり、他の参加者としても感覚的に理解できる話である。

 意識共有ができたと踏んだ鼎大将は、話を続ける。

 

 

「うむ、皆これについては異論ないようじゃの。

それでその理由……深海棲艦の実力が予想と噛み合っていない現状についてじゃが……」

 

 

 

 ゴクリ……

 

 

 

「さっぱりわからん」

 

 

 

 ズコー

 

 

 

「いやいや、そんな顔されても。そりゃしょうがないじゃろ。

そもそもあやつらの生態についてなーんも分かっとらんのだし。鯉住くん経由で転化体の嫁さんたちに話聞いても『興味ない』の一点張りじゃし」

 

 

 名前の出た鯉住くんに視線が集まる。

 当の本人である鯉住くんはバツが悪そうに頬をかきながら苦笑いしており、転化体の面々はどこ吹く風といった様子である。

 

 

「キミたちはもう少し同族に興味持ってもいいと思うんだよなぁ……」

 

「何言ってるのadmiral。私の興味が向いているのは天城と魚類と貴方だけ。ああ、この基地のメンバーも一応ね。知ってるでしょう?」

 

「私は……美味しいもの食べて、ゆっくり寝ていられれば……十分……zzz……」

 

「あんな怖い奴らに興味なんて持ちたくないわ!!

なんか知らない奴が勝手に配下にしてくれってやってくるし、言葉も話せないナマモノが私の近くで縄張り作るし……!!

関わりたくない!! Le plus bas!!(最低よ!!)」

 

「知ってたけどね……ていうかテストさんは同族のことも怖いんですね……」

 

「あんなのと一緒にしないで!! Hors de coeur!!(心外よ!!)」

 

「そっすか……あの、仲間になりたいって人には、もうちょっと優しくしてあげてもよかったんじゃ……」

 

「やめときなさい。わかってるでしょ? 言うだけ無駄よ」

 

「叢雲そんな殺生な……まぁ、そうだけどさ……」

 

 

 こんな調子で深海棲艦事情を探ろうとして失敗したらしい。転化体には天上天下唯我独尊な節があるので、それも仕方ないことである。

 

 

「ま、そういうことでじゃな。

よーわからんが、なんか起きようとしてるっちゅうのと、現状のあちらさんが弱すぎるっちゅうのはわかり切ったことなんじゃし、なんかはほぼ確実に起こるじゃろ?

んで、こういう時っちゅうのは大概悪いことが起きるじゃろ?

そしたらそんなの欧州並みにあちらさんが強くなるくらいしか考えられんじゃろ」

 

 

 なんとも論理的という言葉を放り投げたような話だが、なぜか納得してしまう説得力がある。

 根拠はないけど自信はあるといった様子の鼎大将の姿がそう思わせているのだろう。

 

 しかしそれだけで話を通すというのは違う気がしたのか、元帥から質問が入る。

 

 

「いいか鼎君、私としても腑に落ちる話ではあるが……それだけではどうにも。

根拠がないのは仕方ない。ではこれからの動きはどうする?

本当に欧州と同じ勢力図に塗り替わるとなると、対抗できる鎮守府は相当限られることになるが」

 

「おお、流石は伊郷さん、話そうとしてたことを先取りされてしまいましたの。

それについては、つい昨日纏まったんで報告してしまいます」

 

「昨日? 随分とタイムリーだな」

 

「実際に欧州で交戦してきた加二倉君と擦り合わせを行いましての。

結論から言いますと、欧州の二つ名個体クラスとまともに交戦できる鎮守府となると……今ここに集まっている者たちのところに加えて、リンガの船越君、佐世保の鮎飛君、大湊の伊東君、横須賀の及川君、あとはギリギリじゃがパラオの平(たいら)君、といったところでしょうなぁ」

 

「ふむ……やはり厳しいな。

とはいえ幸運にも、各地に二つ名個体級に対抗できる鎮守府は点在している。

欧州のような最悪の事態は避けられるだろう」

 

「ですな。……とはいえそれは相手が単独、もしくは二つ名個体級と同じかそれ以下の実力の場合。

今挙げた鎮守府でも、加二倉君のところの神通君や、鯉住君のところの嫁さんたちクラスが出現すれば、防戦一方になるじゃろうて」

 

「ふむ……欧州の敵戦力を上限に見るべきではない、と」

 

「楽観視はできませんからの。

……というわけでワシから提案ですが、実力ある艦娘の派遣制度を整えておきましょう」

 

「派遣制度……ふむ。成程」

 

 

 今現在、日本海軍内における派遣制度というものは存在しない。

 基本的には戦力が足りなくなっても各統括エリア内で友軍を派遣することになっているし、そもそも戦力が足りないような事態は稀だからである。

 

 

「幸いここに居る者たちは、多くても連合艦隊で二つ名個体級と相対することができる実力を備えております。

もしそれなりの実力を有する姫級が現れ、討伐が厳しそうとあらば、時間を稼いでもらっている間に対抗できるメンバーを派遣してやればよいというわけですじゃ」

 

「そうだな。そのための仕組みというか制度を作っておけば、組織としてもスムーズに動ける」

 

「伊郷さんは話が早くて助かるのう」

 

 

 敵を倒すまではいかなくとも、足止め、時間稼ぎ程度なら、近隣の鎮守府総員で掛かればなんとかなる。

 もし二つ名個体級かそれ以上の化け物が現れようとも、最悪の事態は避けられるという算段だ。

 

 もちろんこの計画は鼎大将の『日本海軍領海で超強力な姫級が多数発生する』という半ば勘に頼った推測をベースにしているのだが、敵の実情がわからない以上は最悪を想定して動くべきであり、妥当な判断だともいえる。

 

 

「うむ。ありがとう鼎君。その方策を採用しよう。大和君、連絡を頼む」

 

「はい。今から愛宕に電文を送ります」

 

「優先順位は高めと伝えておいてくれ」

 

「承知しています」

 

「ほっほ。流石は大和君。ワシらの無茶ぶりをいつも捌いてくれているだけあって、優秀じゃのう。いやー、頼りになる頼りになる」

 

「無茶ぶりって自覚があったんですね……ハァ」

 

 

 肩を落としながら端末で愛宕に対して電文を打ち始めた大和を見つつ、満足そうにしながら鼎大将は話の締めに入る。

 

 

「うむうむ。そういうわけじゃ。皆の衆。

あちらさんに厄介なのが現れたときは、ちょいと旅行に出かけてもらうことになるかもしれんからヨロシク。

そいじゃ、小難しい話も済んだところで次の話題行こうかの。

お、次の話題は明るそうじゃな。三鷹君の武勇伝じゃぞ!」

 

「アハハ、武勇伝だなんてそんな、持ち上げないでくださいよ、先生」

 

「ほっほ、若いもんが謙遜するでない。

ほれ、間宮君、すまんが三鷹君にマイク持って行ってやってくれい」

 

「畏まりましたわ、提督」

 




皆さんイベントお疲れさまでした!!
私の鎮守府では新艦を隈なく迎えられて満足いく結果となりました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。