済・本題……呉第1鎮守府・間宮とラバウル第10基地・伊良湖による艦娘用甘味の生産工場建設と運用について
済・副題1……加二倉中佐による欧州遠征の結果報告(非公開情報)
済・副題2……一ノ瀬中佐、加二倉中佐、三鷹少佐のそれぞれが上げた功績に伴う昇進について
済・副題3……白蓮大将による鉄底海峡の不可侵領域攻略作戦と大規模侵攻の兆候について
済・副題4……鼎大将による沖縄沖からフィリピン海にかけての大規模侵攻の兆候について
副題5……三鷹少佐による北方水姫の迎撃作戦の結果と彼女の転化について
副題6……一ノ瀬中佐による各地大規模侵攻に対する人員再配置案について
副題7……伊郷元帥と鼎大将による深海棲艦の正体予想について
今回は副題5、6です。一気に2つです
鼎大将からの、大規模作戦の備えとしての艦娘派遣制度の提案が終わり、今度は次の議題『三鷹少佐の姫級討伐について』に続くこととなった。
マイクを手渡された三鷹少佐は、スクッと立ち上がり話し始める。
「次の話題は僕からですね。と言っても、皆さん知ってますよね?
ここにいるガンちゃん……戦艦ガングートが元北方水姫です」
「そうだぞ」
あっさりととんでもないことを言っているが、ここのメンバーは大体事情は知っているので、驚いているのはごく少数である。
戦闘詳報は日本海軍データベースにすでに公開されているし、転化体の存在はここの大体のメンバーには知れ渡っているからだ。
……なぜトラック泊地(太平洋の真ん中あたり)所属の三鷹少佐が、大湊警備府管轄の北方海域ボスを相手にしたのか。それには色々な事情が噛んでいた。
・・・
大湊第1警備府所属の伊東中将は、若干20歳にして中将の肩書と北方領域のすべてを預けられる、若き天才である。幼さの残る顔つきとは裏腹に、その眼には鋭い光が宿っている。
彼のその有能さは、天性のものだけではない。彼は幼い頃に故郷の島を深海棲艦に滅ぼされ、天涯孤独となってしまった過去を持つ。
それから彼はすべてを投げうってでも深海棲艦を滅ぼすという意思を胸に、血を吐きながら、軍人として最前線に立つための努力を続けてきたのだ。
そこに元々持っていた指揮の才能が噛み合い、今の立ち位置まで上り詰めることに成功した。
怒りと憎しみを燃料として進み続ける彼に、部下の艦娘は頼もしさと、それ以上の不安を感じていた。何か昔の艦時代の自分たちが知っていたものと、重なるところがあったのかもしれない。
そんな彼女たちからは秘密裏に『提督を助けてやってほしい』と嘆願書が届いていた。それは実務的な意味でも、精神的な意味でもあった。
それを受け取った元帥は、比較的深海棲艦密度が薄かったシベリア辺りまでを領海と定め、大湊警備府全体の負担を軽くするようにした。激しい戦闘が無ければ無理をすることもない、という理屈である。
しかし、そんな安定した日々の中、シベリアの遥か北に潜むベーリング海峡の悪魔が南下してきた。
これは日本海軍には知られていないことだが、米国海軍では『ベリンジア』と呼ばれ恐れられている、二つ名個体に匹敵する脅威である。
その破格の実力は、彼女と接敵した部隊の激しい損傷から明らかになった。本体の実力は言わずもがな。そして指揮下の深海棲艦の数が尋常ではなかったのだ。
伊東中将治める第1警備府の精鋭でそれだったのである。大湊警備府全体の戦力でも対応できないほどだった。
そこで大本営に願い出て、大規模作戦発令としてもらえばよかったのだが……
なんと、伊東中将はそうすることをせず、その持ち前の才覚と執念で大湊警備府全体を指揮し、とんでもない数の深海棲艦を殲滅することに成功したのだ。
しかし、それでも、そびえ立つ巨塔を崩すことはできなかった。
何度も何度も北方水姫(ベリンジア)に挑んでも、中破させることはできても、それ以上の戦果を挙げることはできなかった。どういう理屈なのか、出撃するたびに損傷が完治しているのだ。賽の河原で石を積む気分だった。
一回の出撃で決めきる破壊力が求められた。
しかし水雷戦隊である第1艦隊ではそれは厳しく、それ以外のメンバーでは実力不足でボスにたどり着くことができなかった。手持ちの戦力では、どうしようもなかったのだ。
そんなジリ貧の状況で、なんと伊東中将は現場指揮として戦場に同行することを決意した。
確かに彼の天才的な現場指揮であれば、決定的な一撃をボスに与え、轟沈せしめることができるかもしれない。
……しかし、十中八九、彼が乗る小舟は鎮守府に帰還できないだろう。
ただでさえ実力が足りない戦闘で、大きく無防備な的となる小型艇が無事でいられるはずがない。そんなことは誰でもわかる。彼は死に花を咲かせるつもりだったかもしれない。
その作戦が決まってから、彼の部下である艦娘たちは再度大本営に電文を送ってきた。『提督が死んでしまう。助けてほしい』『提督を護るチカラが無くて悔しい』。そんな悲痛な内容だった。
それを読んだ伊郷元帥は、伊東中将は止めても止まらないだろうことを見据え、内緒で援軍を送ることを決定。
ただしここで大本営から勝手に援軍を送るとなると、方々でそこそこの問題が起こるので、遊軍的に動かせる鎮守府に多くコネを持つ鼎大将にこれを打診。
その結果、鼎大将の弟子でもある三鷹少佐に白羽の矢が立ったというわけだ。
とはいえ二つ名個体級と交戦経験のない三鷹少佐の艦隊だけでは少し不安、ということで、横須賀第3鎮守府から6隻援軍を出し、2鎮守府合同での二つ名個体級討伐作戦となった。
……作戦はなかなか、なんと言っていいのかヒドイもので……大湊第1警備府が決戦のつもりで出撃し、他の部隊の眼をひいている中で、こっそりとボスを討伐しちゃおうというものだった。
そうすればボスに損傷軽微で辿り着けるし、討ち漏らしたとしても大湊のメンバーが止めを刺してくれるだろうという作戦である。
この作戦が功を奏し、三鷹少佐率いる連合艦隊により、北方水姫の打倒に成功。何故か三鷹少佐の精神性に多大な感銘を受けた彼女が、転化体として帰順することになった。
ちなみに三鷹少佐は普通に同行してた。どうせこのメンバーなら負けないでしょ、とか言ってたらしい。
秘書艦の陸奥や山城、そして同行を命じられた横須賀第3鎮守府の大淀やローマは、終始ヒヤヒヤしっぱなしだったらしい。そりゃそうだ。
さらに言うとこの戦いで三鷹少佐のところの陸奥が改二に覚醒。毎日1回関わる何かが爆発するという謎の特性をコントロールできるようになった。
これにより敵北方水姫の砲塔内部を爆発させたのが決め手になったらしい。いきなり敵が爆発するのを見た艦隊メンバーは、何が何だかわからなかったとか。
決着がついたタイミングで大湊第1警備府のメンバーが辿り着いたのだが、三鷹少佐の「もう終わったよ。疲れたから帰ろっか」の言葉には、伊東中将も部下の艦娘たちも開いた口がふさがらなかったとかなんとか。
・・・
そんなこんなで三鷹少佐は『二つ名個体級を国内で初めて討伐した提督』として認識されることになった。
本人としてはそんなの気にするところでなかったので、伊東中将に「功績譲りましょうか?」と聞こうとしたらしい。流石に無礼すぎるということで、秘書艦の陸奥に止められらしいが。
もちろん加二倉中佐のところの神通とか、鯉住くんのところの嫁とか、二つ名個体級をなんとかした例はあるにはある。ただしそれは全部非公式なので、知る人ぞ知る事実なのだ。
「ま、そういうことで、北方の危険はずいぶんと減ったんじゃないかなと思います。ガンちゃんが指揮してたからあれだけの数の深海棲艦が集まってたらしいので」
「うむ。私がいなくなったからには、まぁ、ベーリング海の戦力は半分くらいにはなったろうな。まだ多くの深海棲艦が居るには居るから警戒は解かない方がいいだろうが」
「うむ。急な要請にもかかわらず、迅速な対応をとってくれて助かった、三鷹少佐。それに援軍として向かってくれた一ノ瀬中佐。
報酬としての資材、賞金、勲章はすでに送ったが、改めて礼を言わせてもらう」
「いえいえ、そんな、勝つってわかってたんだから、気にしないでくださいよ」
「私も色々といいもの貰っちゃったので、お礼を言いたいのはこちらって感じです」
「うむ。おかげで若い命を散らせずに済んだ。
伊東中将の精神的なところは私がフォローしているが、それも彼に余裕が持てたからこそできたことだ」
「いやあ、仁くん(伊東中将の本名は伊藤仁(いとうじん)です)の生き方は僕も嫌いじゃないですけど、死ななくてもいいところで死ぬのはもったいないですからね」
「その通りだ。彼には未来がある。そして人望も。決して自身の命を軽んじてもよい存在ではない。
運命に翻弄されて死に向かうのを止めてやるのは、私たち大人の役目だ」
大きな戦闘を半ば肩透かしのような形で終わらされてしまった伊東中将は、一時期抜け殻のようになっていたが、現在は伊郷元帥との面談を重ねて良い意味で前向きになれてきている。
彼の部下の艦娘も、彼から憑き物が落ちてきているのを見てホッとしているとか。そして『自分たちの実力さえ足りていれば、提督に死を決意させることもなかった』と、猛特訓に励んでいるんだとか。
なんにせよ良い方向に進んでいるようである。
「ところで三鷹少佐。ガングート君が人類に及ぼす影響だが……」
「ああ、それは心配しないでください。
ガンちゃんの夢はでっかく世界征服ですけど、僕が一番穏便なやり方を教えてますから」
「うむ。その言葉、信じるぞ」
「まあ僕だけだったら不安なところもありますけど、龍太くんに研修を頼んであるんで、心配いりませんよ!」
「そうか、それなら安心だな。鯉住大佐なら大丈夫だろう」
この場で確認しておくべき、転化体の安全性というトピックについて、『鯉住大佐がなんとかしてくれるから大丈夫』なんてガバガバな結論で終わらせていいんだろうか……?
そんな疑問を抱いたのは、鯉住君本人と、まだ常識が残っているラバウル第1基地の面々だけだったとか。それでいいのか日本海軍。
叢雲にため息とともに胃薬と水を差しだされながら、眉をハの字にしてお腹を押さえる鯉住君であった。
・・・
三鷹少佐の功績確認が終わり、次は一ノ瀬中佐の人員再配置案についての議題だったのだが……
これもすぐに終わる内容のようで、一ノ瀬中佐はマイクを受け取ることはせず、座ったまま話し始めた。
「あー、皆さん、私の話はすぐに終わるから、座ったまま失礼するわ。
……というか、話すことないのよね」
「あ、もしかしてワシの話と被ったかのう?」
「そうですそうです。先生さっき艦娘派遣制度の話しましたよね?
私が言いたかったのはそれです。現状だと戦力の偏りがすごくて、前みたいな広い範囲での大攻勢があった時に対応が難しいのよね」
「うむ。そしたら会議が終わったら詰めちゃうかの。それでよいか?」
「オッケーです。ついでに一局指しません?」
「ええよ。飛車角落ちでヨロシク」
「わかりました」
なんか雑談が始まりそうだったので、そこまでとなった。
一ノ瀬中佐は日本海軍全体の防備策立案を元帥から頼まれていて、それについての議題だったようだ。
しかし鼎大将の大規模作戦準備の話と被ってしまった、ということらしい。
ということでこの話は終了。最後の議題に突入することになった。
……最後の議題である『元帥と鼎大将による深海棲艦の正体予想』。
この場に居るほぼ全てのメンバーにとって、最も興味ある議題が開始されようとしていた。
今回は他の鎮守府の提督がメインのお話になっちゃいました。そして短め。
舞鶴の岩波中将とか、パラオの平(たいら)中将とか、まったく出してない提督にもキャラ設定はそこそこしてありますが、本編に出てくるかは不明です。