艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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久しぶりにあの人が登場です。(第86話以来)

ちなみに会議に参加した面々は、まだ鯉住くんの鎮守府に半分くらい残っています。
完全にバカンスを楽しんでいます。自由人の集まりです。



第156話 突撃!隣の鎮守府 1

 太陽は海を明るく照らし、野鳥のさえずりが戦時だということを忘れさせる。

 そんな地上の楽園と見まごうばかりのこの地には、ひとつの鎮守府が建っている。

 

 南国にあれども治めるのは日本海軍。ラバウル第9基地である。

 実直で部下のみならず各方面からの信頼篤い、鈴木誠吾大佐が率いる艦隊が控えている。

 

 本日は大きな任務もないのか、鎮守府棟には穏やかな空気が流れている。

 執務室では提督である鈴木大佐と、その秘書艦である駆逐艦『吹雪改』が書類仕事に精を出していた。

 

 ペンが書類を走る音だけが響く静かな空間。

 そんな中、ピロリという電子音と共に一通の電文が届いた。

 

 

「……ん? 電文か、どれ。……これは」

 

「? 司令官、どうしたんですか?」

 

「吹雪、ちょっとこれを見てくれないか」

 

「はい。隣失礼しますね……って、『見学依頼』?

差出人は……ええっ!? だ、第10基地の鯉住大佐ぁっ!?」

 

「……っ、気持ちはわかるが、落ち着いてくれ。声が大きい」

 

「すっ、すいません司令官!!」

 

「だからうるさいと言ってるじゃないか。……まあいい。

『あの』鯉住大佐から直々の電文とは……どうしたものか」

 

「や、やめた方がいいですよぅ。いい噂を聞かないお人ですし……」

 

「ううむ……」

 

 

 

・・・

 

 

 

 知り合いの中での鯉住君の評価は、本人も疑問に思っているくらい謎に高いのだが、直接かかわったことのない面々からすると全くそんなことはない。

 

 なにせ、よくない噂だらけなのである。

 

 

 艤装メンテ技師から提督に転向という、前例のない経歴。

 破天荒で名高い鼎大将のお気に入りで、提督養成学校をすっ飛ばしているという異例さ。

 辺境の鎮守府に飛ばされたかと思えば、出所不明の艤装部品を大量に提供し始めたことから、立場を利用した違法製造と密売をしている疑惑。

 部下の全員に手を出したあげく、うまい言葉で奴隷のように操る、艦娘を都合よい女扱いしている外道。性欲魔人。

 上層部にうまく取り入って、大した手柄も上げていないのに昇進を重ねた卑怯者。

 

 etc.etc.……

 

 

 とにかく、公にできない功績が多すぎて、大佐と言う立場と書類上の実績がまるで見合っていないのだ。

 

 

 官民の護衛任務での評価が非常に高いこと、鎮守府の運営がすこぶる順調で大幅に黒字を出していること、異例の早さで割り当て海域全解放を成し遂げたこと、危険な欧州任務に部下を派遣して活躍させたこと……

 

 

 健全で安定した鎮守府運営ができていることはわかっている。部下の実力が高いこともデータは示している。

 

 だが、肝心の大規模作戦に未参加で、合同作戦をとったことがないところが、そういったよくない噂の出所になっているのだ。

 実際に自分たちの眼で実力を見たことが無いのが、好き勝手言われる原因となっている。

 そもそも大きな戦で他提督との共同戦線を経験したことのない若造が大佐なのである。仕方ない面も多々ある。

 

 

 まぁ、要は『俺たちよりも年も経歴も浅い人間がもてはやされるのは気にくわない』というやっかみが大半であるのだが……そういった妬み嫉みは大きな組織につきものなので、仕方ないことではある。

 

 

 ということで、鈴木大佐も秘書艦の吹雪も、鯉住君に対しては良い印象を抱いていない。

 お隣の鎮守府なのに一度も顔見せしてこなかったのも、そう思われる原因となっている。

 

 挨拶してこなかったことについては、全面的に鯉住君が悪い。挨拶はジッサイ大事。

 胃が痛くなる出来事がわんこそばみたいに降ってわいてきて、ご近所付き合いする余裕がなかったとしても、相手に悪く思われちゃったら言い訳してもしょうがないのである。

 

 

 

・・・

 

 

 

「そうは言うが吹雪、同じ大佐としては断るわけにもいかないだろう。隣接した鎮守府でもあるしな」

 

「うええ……」

 

「露骨に嫌そうな顔をするんじゃない。感情がすぐに表に出るのはキミの悪いところだぞ」

 

「だって司令かぁん……」

 

「まったく……艦娘というものは戦闘のこととなると頼もしいのに、こういったことには免疫がないのだな」

 

「そこは大目に見てくださいよう。

産まれたときからなぜか一般常識があるとは言っても、戦闘以外のアレコレなんて経験したことないんですからぁ……」

 

「それはそうなのだが……まぁいい。

いいか吹雪。もし鯉住大佐が本当に噂のような外道であったら、彼の部下の艦娘を救ってあげねばならん。

電文には秘書艦の叢雲と古鷹が同行すると書いてある。彼女たちが騙されていいように扱われているのがわかったら、目を覚まさせてやるのは同じ艦娘であるキミの役目だぞ」

 

「ハッ……!! そ、そうですよね!!

叢雲ちゃんたちがひどい目に遭ってるのなら、私が助けてあげなくちゃ!!」

 

「ウム! その意気だ吹雪!! これもひとつの乗り越えるべき試練として心構えしていたまえ!!」

 

「分かりました司令官!!」

 

「……とはいえまずは下調べからだな。

吹雪、キミに指令を言い渡す。我が鎮守府の各員が知る鯉住大佐の情報を集めてきたまえ。私達の知らん話が出てくるやもしれん。

今日の執務の残りは私だけで片付けるので、今すぐにいってきなさい」

 

「了解です! 吹雪、行ってまいります!!」

 

 

 

・・・

 

 

 

「……で、事情は分かったけど、なんで私たちが一緒に居なきゃならないの」

 

「もしかしたら、姉妹艦の叢雲ちゃんがひどい目に遭ってるかもしれないんだよ!?

これは吹雪型にとっての一大事! いまこそ姉妹の結束を見せる時だよ!!」

 

「いや、そのお隣さんって階級大佐なんでしょ? うちの司令官とおんなじで……

そんなに階級高いならさ、別に大丈夫な人だと思うんだけど……」

 

「甘い! 甘すぎるよ初雪ちゃん!!

私たちが艦だった時代だって、軍の上層部はロクデナシばかりだったじゃない!

悪い噂ばっかりの鯉住大佐だってそうにちがいないよ! ね! 白雪ちゃん!!」

 

「あ、あはは……何気にすごい毒舌だね吹雪ちゃん……」

 

「あー……私今日は非番なのにー……だるー……」

 

 

 フンスフンスと鼻息荒くしている吹雪の隣には、彼女と同じ制服を着ている少女がふたり。

 おかっぱの黒髪ロングの眠そうな目をした少女であり、吹雪と姉妹艦でもある『初雪改』。

 そしてこれまた姉妹艦である、髪をおさげにした押しが弱そうな艦娘『白雪改』である。

 

 

 提督から事前調査任務を言い渡された吹雪は、その勢いのままに姉妹艦である初雪、白雪を駆り出して聞き込みに繰り出すことにしたのだ。

 

 長女のやる気と比べてふたりはあまり気が乗っていない様子。

 白雪は長女の暴走っぷりに若干ひいており、初雪はせっかくの非番で積みゲー消化をしようとしてたのを邪魔されたせいである。

 

 

「だいたいさぁ、よその鎮守府の提督情報なんてどうやって聞き込むのさ。早く終わらせて部屋に戻りたいんだけど……」

 

「またそうやって初雪ちゃんは不健康な生活しようとする!

鯉住大佐のところの艦娘の姉妹艦だったら、なにかしら情報を掴んでるかもしれないでしょ? そこを攻めます!」

 

「ええと、ラバウル第10基地の所属艦の姉妹艦ってことだよね? 誰がそうなのか、もう調べたの?」

 

「当然だよ! そこには足柄さんが所属してるみたいだから、お姉さんの那智さんに聞き込みします! 今日が主力艦隊の非番の日でよかった!」

 

「えー……? ウチのエースの那智さんにぃ……?

私正直あの人苦手なんだけど……すごくできる女って感じで……」

 

「なんでそんなに消極的なの! 叢雲ちゃんの将来がかかってるんだからちゃんとしなきゃ!! というわけで行くよふたりとも!!」

 

 

 鎮守府の廊下は走ってはいけないので早歩きだが、気分としては猛ダッシュで先行する吹雪である。

 これには姉妹のふたりも苦笑い。

 

 

「白雪ちゃん白雪ちゃん……そもそもその叢雲ちゃんから吹雪型ネットワークにSOSがないんだから、ほっといてもいいと思わない……?」

 

「吹雪ちゃんは思い立ったら猪突猛進なところがあるから……」

 

「よくあれで秘書艦続けて来れたよねー……司令官が超優秀じゃなきゃ失敗続きだったと思うよ、私」

 

「初雪ちゃん……そういうのは思ってても言っちゃだめだから……」

 

 

 ため息をつきつつも吹雪の後をとぼとぼと追うふたりであった。

 

 

 

・・・

 

 

 

「で、この那智に情報を求めてきたというわけか」

 

「はい! 知ってることがあったらなんでも教えてください!

これは日本海軍の未来のためなんです!!」

 

「えー?……いやそんな大袈裟な……」

 

「すいません那智さん、せっかくの非番に押しかけちゃって……」

 

 

 申し訳なさそうな白雪とめんどくさそうな初雪を脇に、すごい熱量で那智に質問する吹雪。

 ここの那智はどっちかというと吹雪よりの性格なので気にしてないが、ただでさえ忙しい鎮守府のエースにアポなし突撃とか、普通はやっちゃ駄目である。

 

 

「なに、その程度構わん。非番とはいえすることもなく、コーヒー片手に読書していたくらいだからな。

それで鯉住大佐の情報ということだが……まぁ、色々と知っていると言えば知っている」

 

「!! 流石は那智さんです! ぜひ教えてください!!」

 

「いや、その、なんだ。知っているのだが、情報の中身がな……」

 

「ええと……疑わしい情報なのですか?」

 

「白雪、そうではない。出所ははっきりしているが評価を下しづらいのだ。まあ聞いてみろ。

……鯉住大佐のところの足柄なのだが、元々は横須賀第3で活躍していた猛者でな。そこの艦娘には共通のことらしいが、なぜか将棋に異様な執着を持っているらしい」

 

「しょ、将棋ぃ……? 私もたまにオンゲでやるけど、そんなに好きなの……?」

 

「うむ。能力は疑うべくもないのだが、感性がだいぶ特殊というか……ついていけないところがある。

我が妹ながら、なかなかとっつきづらくてな……」

 

「でも情報があるってことは、その足柄さんが何かしら発信してたってことですよね!? どんなに特殊な話でも教えてほしいです!!」

 

「うむ、そうだな……なんというか……」

 

「「「 なんというか? 」」」

 

 

 

「その……惚気マウントを無意識にとって、他の足柄を煽り散らかしている」

 

 

「「「 ……????? 」」」

 

 

 

「いや、その、な? 言葉が出てこないのはよく分かるが、これを見てみろ。

言いたいことが少しは理解できるだろう」

 

 

「「「 ……はい 」」」

 

 

 ちょっとよく分からない情報が出てきたせいで、なんて言ったらいいのかわからなくなっちゃった3人。那智に促されるまま、彼女がとりだした端末をのぞき込む。

 するとそこには……

 

 

 

・・・

 

 

 

~妙高型ネットワーク~

 

〇月×日

 

 

 

足柄(ラ10

「今日提督から『足柄さんの作る料理は世界一美味しいんじゃないか』って言われたわ」

 

足柄(呉3

「なにそれちょっとなにそれ」

 

足柄(大湊5

「私とそこ変わって」

 

妙高(ト2

「あらあら……」

 

羽黒(パ1

「わぁ……! 素敵ですね!」

 

足柄(パ3

「料理が上手くなれば私も提督と……!?」

 

那智(佐4

「早く手籠めにされろ」

 

羽黒(ト4

「!?」

 

妙高(横2

「那智、言葉は選びなさい」

 

那智(ラ9

「妙高姉さん、そこの私は別物だと思ってくれ」

 

足柄(ラ10

「私は一緒に寝ても構わないって言ってるのに『もっと情勢が良くなってちゃんと向き合えるようになったら』って言って聞かないのよ。お堅いわよねぇ」

 

足柄(呉3

「機関部が爆発する呪いをかけたわ」

 

足柄(大湊5

「私とそこ変わって」

 

足柄(パ3

「砂糖吐いた」

 

 

 

・・・

 

 

 

「「「 ヒュッ…… 」」」

 

「まぁ、あれだ……将棋にしか興味ない女がこんな投稿を繰り返すようになったのでな……私としては幸せそうで何よりと言う他ないというか……」

 

「うわぁ……大人だ……! 大人の会話だ……!!」

 

「ちょっと私たちには刺激が強すぎというか……!」

 

 

 恋愛ごとに耐性がなくとも興味はある3人には、この履歴は刺激的過ぎたようだ。

 3人して顔を真っ赤にしてしまっている。

 

 

「は、ハレンチです……!! こ、こんなエッチなこと言わせるだなんて……!!

私たち護国の象徴である艦娘を、こんなに、その、デレデレになるまで誑し込むなんて……!!」

 

「いや、足柄の方から迫っているようだから、その表現は違うと思うが……」

 

「わかりました那智さん!! おかげで鯉住大佐が噂通りの女たらしだってことがわかりました!! 情報感謝します!!」

 

「いや、あのだな……まぁ、女たらしというのは間違いではないか」

 

「行くよ、白雪ちゃん! 初雪ちゃん! もっと証拠をつかまないと!!」

 

 

 顔を真っ赤にしたまま勢いよく退室する吹雪。ワンテンポ遅れて白雪と初雪のふたりもそれに続く。

 

 

「ちょっと吹雪ちゃん!? 待って待って!」

 

「那智さん、なんかすいませんでした……それじゃ……」

 

「構わんよ。吹雪は昔からああだからな」

 

 

 

・・・

 

 

 

 かしまし3人娘が退室していって静かになった部屋で、那智はふぅとため息をつく。

 

 艦隊のエースとして初期から吹雪と活動してきた那智であるので、勢いに任せてロクに挨拶もせず退室していったくらいでとやかく言うつもりはない。

 だが、非番でゆっくりしていたところにあのテンションで押しかけられるのは、精神的に疲れるものだ。

 

 

「まったく、嵐のようだったな。

……しかし、佐世保の私がやけに鯉住大佐を高く評価しているというのを伝えそびれたな」

 

 

 佐世保第4の那智(加二倉さんのところの修羅)と言えば、『戦闘の天才にして唯我独尊』なことで名を馳せた艦娘である。

 その認識は同型艦の那智の間でも同じで、誰彼構わず噛みつき、気に入らない指示には従わず、勝手に進撃して勝手に圧勝してくる姿から、那智の中でもイレギュラーな『狂犬』扱いされている。

 

 そんな狂犬が、鯉住大佐のよくない噂が話題に上ると必ず彼の肩を持つのだ。

 しかも「戦闘指揮はてんでダメだが敵う気がしない」とかいう、戦闘狂にあるまじき評価を下している。

 

 将棋にしか興味がなかった足柄がベタ惚れしているとか、戦闘狂の那智が戦闘が苦手なのに認めているとか、鯉住大佐の評価はよく分からないのである。

 

 

「……ま、考えても分からんものは分からん。

世間の悪評が真実かどうかはさておき、そんなに大事には至らないことだろう」

 

 

 そんなことをひとり呟きつつ、少し冷めたコーヒーを啜りながら苦笑いを浮かべる那智であった。

 




おまけ

足柄さんの無意識惚気煽り投稿 別のやつ



足柄「今日は提督からメガネ型電探艤装を貰ったわ。『日頃からの感謝を込めました』ですって。妖精さんと一緒に作ってくれた一品ものらしいわ」

他の足柄「「「 グギギ……!! 」」」

佐世保の那智「鯉住のやつが製作した一品もの艤装……!? 装備したい!!!!」

足柄「私専用らしいから姉さん……といか他の人じゃ装備できないみたい。『足柄さんのための艤装ですから』だそうよ」

他の足柄「「「 グギギギギ……(血涙) 」」」

佐世保の那智「クソぉ!! 鯉住のやつ、もっと私に良くしてくれたっていいだろうが!! 研修の時にあれだけ面倒見てやったのに、艤装のひとつもよこさない!」

足柄「まあそれは大目に見てほしいわ。今回のプレゼントをくれるきっかけって『ちゃんとした結婚指輪は情勢が安定してから改めて渡したいので、今はそれを代わりとして』ってことらしいから」

他の足柄「「「 怨……!!!! 」」」

佐世保の那智「クソぉっ!!!! アレか! この那智も鯉住のやつに嫁入りすればいいのか!?」

足柄「そういうことじゃないと思うわ。姉さんじゃ無理かも」

他全員「「「 あああああっ!!!!!(声にならない叫び) 」」」
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