待ってろよ伊豆ゥ!!!!
「叢雲ちゃん、私が鎮守府を案内してあげるからね! お姉ちゃんの私が!」
「はい、ありがとうございます」
「いま私たちがいるのが軽巡・駆逐棟でね! あっちに行くと倉庫も一緒になってる大型艦寮があるんだよ!」
「そうですか」
「それでね、こっちに行くと食堂で、あっちに行くと工廠で……!」
「丁寧にありがとうございます」
鯉住くんと大井が鈴木大佐と色々話している間、残りのメンバーはラバウル第9基地の秘書艦である吹雪の先導のもと、鎮守府案内を受けていた。
初めて姉妹艦の叢雲に会えて、しかも駆逐艦みんなのあこがれである改二になっている叢雲に会えて、吹雪はニッコニコである。
対して叢雲と言えば、露骨に無表情でそれに受け答えしている。スーパー他人行儀である。
彼女にとっては他所の鎮守府の間取りなど特に興味もない。彼女は元々はラバウル第1基地で艦娘として建造されたのだ。立派な鎮守府で生活していたこともあり、普通の鎮守府を案内されたところで今さらというものである。
というか彼女の頭の中は、自身の提督が上手くやれているか、とか、秘書艦初心者の大井に代わりを頼んだのが気がかり、とか、そんな事でいっぱいである。
半ば無理やり吹雪によって引きはがされたこともあり、だいぶゴキゲン斜めなのだ。
そんな様子を見て、鯉住くんのところの古鷹とこちら所属の衣笠は……
「ちょっと古鷹、叢雲ちゃんなんであんな塩対応なの?」
「ア、アハハ……ゴメンね衣笠、普段はもっと話しやすいんだけど……」
「やっぱりウチの吹雪が無理やり連れ出しちゃったからだよね。こっちこそゴメンね?」
「いいよそんな。叢雲さんが提督のこと好きすぎるだけだから……」
「あ、やっぱりそうなの? ……ていうか古鷹もさ、そうなんでしょ~?
その右手薬指、衣笠さんは見逃さないんだからね~?」
「ちょ、ちょっと、からかわないでよ!
これはその……実力向上のための艤装ってだけで……提督とはそういうのじゃないから!!」
「ホントにぃ? もしそうだったら、重巡のよしみで応援しちゃうんだけどな~!!」
「違うってば!! 提督とは、一緒に趣味の熱帯魚を眺めながら話したり、一緒に部屋で映画観たり雑誌読んだりしてるだけだから!」
「……それさぁ、もう恋人……いや、うん、まぁいいか……」
なんてやりとりをしている。他にも……
「天龍さん、ウチの吹雪ちゃんが叢雲ちゃんに失礼してしまって、本当にすみません……代わりに私から謝らせてください……」
「別に気にしねーからいいって白雪。申し訳なさそうな顔すんなよ、お前が大変なのはわかるからよ」
「いえ、そんな……大変なんてことは……
それに吹雪ちゃんはいつだって真面目に頑張ってるだけですので……」
「なんつーか空回りしてるけどな」
「返す言葉もございません……」
「お前も大変だな。ウチの提督も同じような感じだから苦労してるのはわかるぜ?」
「え、鯉住大佐も似たような立場なんですか?」
「おうよ。ウチは自由人ばっかだからなぁ。っていうかウチじゃなくて知り合いが、か」
「知り合い……ですか?」
「おう。横須賀第3だろ? 佐世保第4だろ? トラック第5だろ?
なんかアレなんだよ。どうつもこいつもなんかおかしいんだよ」
「横須賀第3というと……あの本土大襲撃での英雄、一ノ瀬提督の!?」
「本人と話してみると、とっつきやすい面白いねーちゃんだけどな。
本人はそんなだし、部下の艦娘も大概自由人ばっかだぜ」
「そ、そうなんですか……それと、佐世保第4といえば、あのウソかホントかわからない噂ばかりで、実在するかすら疑問視されている『鬼ヶ島』ですか!?」
「なんだそりゃ。実在するに決まってる……っていうか、俺と龍田はそこで研修受けてたからな」
「ホ、ホントですか!? スゴイ! どうだったんですか!?」
「いや、あの、な? あんまり思い出したくねえんだよ……厳しすぎてな……精神的にな……」
「目からハイライトが失われていく!?」
「本当はそんな弱気なこと言ってたら『そんな軟弱に鍛えた覚えはない』とか言われて、また拷問じみた訓練に駆り出され……うっぷ……」
「あー!! いいですいいです! もうその話は終わりにしましょう!!」
「白雪お前……やっぱいい奴だな……オェ……そういうところ提督にそっくりだぜ」
「恐縮です……」
「まぁ、とにかくだ……周りにはそういう違う世界に生きてる奴ばっかだからな。艦娘も人間もな。だから提督はいっつも苦労してんだよ」
「そうなんですね……シンパシー感じちゃうなぁ」
「おう。提督もお前となら気が合うと思うぜ。また時間あったら話してみろよ」
「はい。そうさせていただきます」
こんなやりとりをしてたり、他には……
「なあ足柄、その、本当のところは貴様の鎮守府というのはどうなのだ?」
「なによ那智姉さん、藪から棒に」
「いやなに、ウチの提督も心配していたのだが、世間での貴様達の鎮守府の評価はまるで安定していないのでな。本人の口から聞くのが早いと思ってな」
「う~ん……私はそういう評判とか一切気にしないから、分からないのよねぇ……
那智姉さんが色々と聞いてくれたら、実際どうなのか答えることはできるわ。それでいいかしら?」
「そこまで風評に無頓着だとそれはそれで心配だが、まぁそれは置いておこう。
ではそうだな……鯉住大佐なのだが、どうも艦娘をたらし込んでやりたい放題してるという噂がある。さきほどの本人の様子を見る限りデマだとは思うが……どうだ?」
「そうねぇ。間違ってないわね」
「ま、間違ってないのか!?」
「彼は女たらしみたいなところがあるのは本当だし、好き勝手してるっていうのも畑とか生け簀とか作ってるから本当よね」
「は、畑……?」
「それで姉さん、他には?」
「あ、ああ、よく分からんがそれは棚上げしておこう……
ではそうだな。貴様達の鎮守府の実力について疑いがあるという噂もあるが……それはこれから演習をするのだ。そこで確かめればいいか」
「実力はまぁ、大概おかしいわよ」
「……どういうことだ、その表現の仕方は?」
「そうねぇ……色々機密も盛りだくさんだから、全部は話せないけど……私の実力がだいたい真ん中くらいっていえば伝わるかしら?」
「なに? 足柄はあの横須賀第3で準エースだったはずだろう? それが真ん中の実力など……冗談だろう?」
「そういう反応になるでしょ? それが本当なのよねぇ。
私も昔よりだいぶ強くなってると思うし、艦隊戦単位での動きなら多分一番上手いとは思うけど」
「艦隊戦単位でない動きが実力の基準になってる時点でよく分からん……
まぁいい。いや、よくはないが理解できんので演習で確かめる。これも棚上げだ。
それでは次に、あまり聞きたくはないことだが……鯉住大佐が色々と資材の横流しやら裏取引やらに手を染めてるという噂もあるのだが」
「ああ、それはそう思われてるでしょうけど、全部デマね」
「んん? デマでそんなことを言われているのに怒らないのか?
というか、そう思われてるでしょうとは……自覚があるのか?」
「だってウチ、艤装パーツ自給自足してるもの」
「は? パーツの自給自足???」
「ね? そういう反応になるでしょ?
だからしょうがないのよね。信じられない、ってなるのは。そういった悪い噂が立つのもね」
「ダメだ……よく分からん……」
「アハハ。そうでしょ? 彼といるとそんなことばっかり。退屈しないで済むわよ?」
「……まぁ、足柄が幸せそうなのだから、間違いはないのだろう。
本当に理解不能なのだが……本来こちらが口出しするようなことでもないしな」
「心配してくれるのは嬉しいけど、大丈夫よ。何があってもなんとかなるし、なんとかするわ」
「そこまで言うのなら、この那智が言えることは何もないな」
こんな感じで逆に鎮守府情報を提供していたり、他には……
「ねぇねぇ、速吸さん」
「? なんでしょうか? えーと……」
「私、初雪」
「あ、失礼しました、初雪さん……他の艦娘さんとの交流が少なくて、あまり誰がどの艦なのか分からなくって……」
「いいよいいよ。私も引き籠ラーだから気持ち分かる……」
「ひ、引き籠ラー??? ちょっとそれは分かりませんが……何か御用ですか?」
「んとね。鯉住大佐って、どう?」
「どう、と言いますと……?」
「好き?」
「すっ!? 好きっ!!?」
「うん。初雪辞典では鯉住大佐は『艦娘たらし』ってことになってる。ほんと?」
「いや、その、あのー……私自身は他の皆さんほどではないかと。いや、信頼してはいますよ?」
「ふむふむ、速吸さんより他のみんなの方がすごい。心のメモにチェック完了っと。……それじゃ速吸さん自身はどうなの? 好きなの?」
「ええとですね、さっきも言ったように信頼していますよ。
洋上補給の必要性が薄い艦娘のカラダになったせいで、私たち補給艦は艦隊のお荷物扱いされていました。
でも提督と秘書艦の皆さんは、そんな私達でも活躍できると言って、身柄を引き受けてくれました。そればかりか実際に色々と運用方法を模索してくださっています。
これで感謝しないなんて出来ないですよ」
「へー。すごくいい人だね」
「すごくいい人ですよ。だから好きというよりは、尊敬しているといったところですね。正直愛とか恋とか……私にはまだよく分かりません」
「艦娘ってそうだよね。そういうのより使命感とかの方が強いよね」
「そうそう、そうなんですよ。だから冷遇されていて、しかも原因が自分の力不足だった時分は本当にもう辛くて辛くて……」
「うんうん。それじゃ補助艦艇のみんなからしたら鯉住大佐はヒーローだね」
「そうですね。その通りです」
「それじゃさ、速吸さんはなんで今日ウチに来ることにしたの? 補助艦艇が活躍するための勉強? えらいね」
「ええと……そうだといえばそうなんですが……その、演習に参加するためで」
「??? 補助艦艇は戦闘できないんじゃないの?」
「いやその、一応ですね……私、速吸は、艦だった時代の名残で艦上攻撃機や水上爆撃機を10機ほど搭載することができます」
「うん」
「だから戦えるだろうと……」
「……え。たった10機で?」
「はい……」
「砲撃は? 雷撃は?」
「砲撃は最低限、雷撃はそもそもできませんね……正直言ってその辺の駆逐イ級の方が上です……」
「回避は? 船速は? 耐久は?」
「正直言って、大型艦の皆さんほどのゆったりしたフットワークしか……耐久力は、駆逐の皆さんと同じくらいでしょうか……」
「えーと……どんな艤装積めるの?」
「さっき言った戦闘機と、補給艦なので洋上補給物資、あとは……ソナーとか機銃とかですかね……」
「戦闘できなくない?」
「私もそう思ってたんですけどね……」
「違ったの?」
「教官として大井さんが着いてくれたんですが『攻撃を全部先読みすれば、いくら低速低回避低耐久でも、回避に専念するという条件下で被弾は最小限に抑えられる』とのことで……」
「いや無理でしょ」
「私もそう思ってたんですけどね……」
「違ったの?」
「死ぬほど鍛えられてまして……そうならないとダメだという認識に……」
「うわぁ……」
「いや、あの、間違いないように言いますと、感謝はしてるんですよ?
ただ、補給艦の可能性を探るうえでは、無理を通して道理をねじ伏せないといけない、ってことらしくって……」
「うわぁ……」
「ヒかないでくださいよ……客観的に見ておかしなこと言ってるのは分かってますから……」
「吹雪ちゃんが鯉住大佐は鬼畜だって言ってたけど、そういうことかぁ」
「いやホント、厳しいだけですので……信じられないくらい厳しいだけですので……
鬼畜というわけでは全然なく、本人も他の皆さんもすごく優しいですので……」
「なんかあれだね。DV夫から離れられない女の人みたいだね」
「誤解を招くような表現はやめてくださいね!?」
こんな感じで和気あいあい(?)と話している。
鎮守府の交換交流はとっても順調といったところだ。
しかしそんな友好的な雰囲気の中、吹雪の叫びが木霊する。
「ちょっと! 叢雲ちゃん! ちょっと他人行儀すぎるよ!? お姉ちゃん寂しいでしょ!!」
「そんなこと言われましても、実際に初対面の他人ですし」
「姉妹艦だから他人じゃないでしょ!? それに敬語やめて! 辛くなるからぁ!」
「……ハァ。仕方ないわね……これでいい?」
「それでいいよ! なんで叢雲ちゃん、そんなにツンツンしてるの!?」
「それはアンタが無理矢理連れ出したからでしょ?
私はアイツの筆頭秘書艦として、提督同士の会話に参加しなきゃいけなかったっていうのに……台無しにしてくれちゃって」
「そんなの私の司令官に任せておけば大丈夫!! 司令官なら鯉住大佐がどんな相手かちゃんと見極めて対処してくれるから!!」
「アイツのこと見極めるって……大袈裟じゃないの?」
「大袈裟じゃないよ! 叢雲ちゃんも辛かったら言ってね! 今なら鯉住大佐の目もないから大丈夫だよ!!」
「はぁ? 別に辛い事なんかないけど」
「本当のこと言っていいんだよ!
鯉住大佐は鬼畜でスケベで女たらしだって、もっぱらの噂なんだから!!」
「……あのねぇ、確かにアイツはスケベだけど、他はそんなことないから」
「そ、そんなワケないよ! 叢雲ちゃんもしかして、そう言えって言われてるってこと……!?」
「そんなワケないはこっちのセリフよ。アンタこそアイツのこと直接見たでしょ?
だったら、そんな好き勝手出来るような太い神経してないってわかるでしょうに」
「そんな少し見ただけで分かるワケないでしょ!
今日は叢雲ちゃんたちを鯉住大佐の魔の手から救い出すために、張り切ってるんだから!!」
「余計なお世話よ。ほっといて頂戴」
「ほっとけないよ!! 叢雲ちゃん、鯉住大佐に騙されてるんだって!!
そんな左手の薬指に指輪なんてはめさせられて、俺のモノアピールまでされちゃって!!」
「……は?」
「分かるよ叢雲ちゃん……!! 無理矢理そこに指輪をはめるよう命令されてるんだよね……!!」
「……」
「本当は好きじゃないのに、上官命令だから従わざるを得ないなんて……辛すぎるよ!!」
「……」
「絶対に鯉住大佐の悪事を司令官が暴いてくれるから、それまでの辛抱だよ!!」
「……吹雪」
「どうしたの、叢雲ちゃん!? 本音を話してくれるの!?」
「屋上」
「……へ?」
「アンタは触れちゃいけないところに触れたわ……久しぶりにキレちゃったわ……だから屋上」
「屋上は立ち入り禁止なんだけど……」
「じゃあ演習でぶちのめすから覚悟しなさい」
「こ、コワイよ叢雲ちゃん!? どうしちゃったの!?」
「まずは準備……工廠はアッチだったわね……ほら行くわよ」
「ちょ!? 叢雲ちゃん!! 引っ張らないでぇ!?」
どうやら叢雲の触れてほしくないところに触れてしまった吹雪は、そのまま禍々しいオーラを漂わせた叢雲に連れていかれてしまった。
その一連を眺めていた他のみんなはこう思っていたとか。
「「「 (めんどくさいなぁ……) 」」」
叢雲が激おこしちゃった理由は、吹雪が言ってたことは絶対に鯉住くん本人がしてくれないことだし、むしろ逆に心底して欲しかったことだからですね。
叢雲は現在自主的に左手薬指に指輪をはめているのです。本当は夕張から聞いた話みたいに、本人の手で直接はめてほしいのです。
そんな気持ちを隠している(周りには当然バレてる)のに、初対面で猪状態な姉妹艦なんかに当てられて穏やかではいられなくなったのです。
的を見ないくせにドンピシャでクリティカルヒットを欲望の中心にブチ当てられてしまって、もう我慢できなぁい!!ってなったのです。