部屋が暑すぎたり冷房が無かったりしてたせいで執筆意欲が湧かなかったのですが、いい加減更新しないと人権がはく奪されそうだったので奮起しました。
「うっ……ぐっ……!! も、もう少しだけでも……!!」
「ふぅん。なかなかやるじゃねぇか速吸のやつ。大井の特訓のたまものだな」
「私が仕込んだんだから、これくらいやってもらわないと困ります」
「大井さんってば、速吸さんの訓練は戦闘担当の秘書艦になってからの初仕事だって、随分張り切ってましたもんね」
「私だけ遅れて秘書艦になったんですもの。自分の能力は結果で示すしかないわ」
「そんなの無くても、私も叢雲さんも大井さんの実力はよく知っていますよ」
「古鷹の言う通りよ。大井が戦闘関係を担当してくれてから実際に秘書艦業務はラクになったんだから、肩肘張ってアピールなんてしなくていいわよ」
「それでは私の気が済みませんので」
「……意外と大井って頑固よね」
ラバウル第10(鯉住くんの方)とラバウル第9(鈴木大佐の方)の部隊の演習が始まって30分ほど。
お互いに見えない程度に離れた距離からスタートし、相手艦隊を索敵、接近し目視確認、そこから航空戦に突入。そうして艦載機での制空権の取り合いが激化している、そんな状況である。
こちらは補給艦の速吸に気持ち程度の水戦が載っているだけなのに対し、相手艦隊は正規空母の蒼龍改に艦戦が2スロット、軽空母の祥鳳改に同様と、それこそ鎧袖一触で蹴散らされてしまいそうな物量差。
……それでも速吸は粘っていた。別に制空権をどうこうできるとは思ってはいなかったが、なにひとつ自身の役割を果たせないような真似だけはできなかった。せめて一矢は報いなければいけないという思いが彼女にはある。
確かに相手の航空部隊は精強であるし、そもそもこちらの提督の頭おかし……じゃなくて、神業がかったメンテが施された機体たちを操っている。歴の短い自分では歯が立たないかもしれない。というかそうなる可能性は高い。
しかし……大井による対空砲火訓練、秋津洲による小規模航空部隊訓練、頭おかし……じゃなくて、とんでもない実力を持つ、提督の知り合い艦娘(バカンス中)による指導(賑やかし)が無駄ではなかったと示さないといけない。
航空部隊を動かしながら砲撃と雷撃を小一時間かわし続けるとかいう、頭おかし……じゃなくて、苛烈な訓練をこなしてきたという自負もある。
それよりなにより、プレッシャーが違う。
アークロイヤルの頭おかし……頭おかしい魚類の群れ(水中空中問わず)や、天城の頭おかし……どうかしてるとしか思えない、ひとり絨毯爆撃をくらってきた身である。
相手を滅殺してやろうという威圧感が、あの人外さん達とは断然違うと言い切れるのだ。
こちとら異動してきたことを後悔したくなるほど訓練してきたのだ。
同期の大鯨なんていつの間にか軽空母になってたのだ。短期間で頭おかしいくらい練度が上がってるのだ。
食堂のお手伝いで魚をさばくときに目が合って、訓練の様子がフラッシュバックするくらい頑張ってるのだ。
全然ダメだったなんて秘書艦の大井さんに言われたら、たぶん泣いちゃうのだ。
……そんな思いで必死に頑張っている速吸の後ろでは、他のメンバーがゆるい感じで雑談している。
「うんうん、なかなか安定してるじゃない。普段から食堂で働きながら戦闘訓練してるんだから大したものよね」
「それはまぁその通りですが……同じ食堂勤務のよしみだからといって甘やかさないようお願いしますね、足柄さん。ただでさえ補助艦艇で戦闘能力は低いんですから、一線で活躍できるようになるには相当かかるでしょうから」
「大井もなかなかにスパルタよねぇ。秋津洲みたいに回避訓練特化でもいいと思うんだけど」
「足柄さんの古巣の横須賀第3では、私と北上さんに2か月不眠訓練なんていう地獄の拷問を強いてきたじゃないですか……そんなに優しい意見、どんな心境の変化ですか?」
「それはまぁ、相手を見て節度を踏まえてるだけよ」
「納得いかないんですけど……」
「ほらアンタたち、気を抜き過ぎないの。太陽を背にして艦爆部隊が1部隊迫ってるわよ」
「わかってますよ。手が空いてるのは……古鷹さんですね。いくわよ、対空射撃よーい」
「はい! 少しでも速吸さんの負担を減らしてあげなきゃですね。対空砲構え!」
雑談をしつつも対空射撃や魚雷回避をしているあたり、普段はのんびりしていても、なんだかんだ言っても実力は高いのである。
……そんな調子で、速吸が粘っている間に対空措置を取り続けていただけあり、航空戦が終わった時には、相手の艦攻艦爆部隊はその戦力を3分の1まで減らしていた。
制空権は奪取されてしまったものの、航空部隊の戦力を十二分に削ぐことが出来たこと。そしてこちらの損害は速吸が中破、叢雲と古鷹が小破で収まったことから、緒戦は優勢といってもいい結果であった。
・・・
一方そのころラバウル第9基地隊の方では……
「ごめんみんな! 航空部隊の戦力だいぶ削られちゃった!!」
「すみません、私の残存部隊は約4分の1しか……!!」
「私の方は半分くらい! 補給艦1隻に対してこれって、ホント情けないよ……!!」
『いや、気にするな、蒼龍に祥鳳よ。相手方の実力は二つ名個体クラスということだった。予定通り制空権を確保できたのだからそれでよい』
「そうですよおふたりとも! 制空権さえ確保できていれば弾着観測射撃をドドンと決められます! ここからは戦艦と重巡の出番ですよ!! 気合、入れてっ、いきますっ1!」
「そうだな。この那智も久しぶりの強敵で血が騒いでいる! いい勝負しようなどと甘えたことを言わず、勝ちにいくぞっ!!」
「いいねぇ。衣笠さんとしても古鷹に舐められちゃいけないからねっ! 頑張るよ!」
「ちょっと、軽巡である五十鈴も忘れないでもらいたいわ。この魚雷なら50m先の的でも狙えそうな気がするのよ。あちらに一泡吹かせてあげるから!」
『意気軒高で何より。これより比叡の長距離射撃を重点として、那智衣笠の射程ギリギリの範囲を保ち砲雷撃戦を行うように。五十鈴は魚雷による牽制、蒼龍と祥鳳は残った航空隊で装甲の薄い、もしくは被害の大きい艦から撃破するように。異論ないか』
「「「 はいっ! 」」」
『よし。では健闘を祈る。行動開始』
「「「 了解!! 」」」
想定以上に艦載機を削られてしまったものの、制空権を確保できたのは想定の範囲内、そして最も重要な事項であった。
そこがクリアできた今、相手艦隊よりも射程が長いという優位をフルで活かした戦闘をすれば、まず間違いなく勝てる。
艦隊運用としての基本を押さえた手堅い戦術を基に、ラバウル第10部隊へ接近し始める第9部隊。各々の顔は勝利をその手に収めたような自信に満ち溢れていた。
……だが、彼女たちには実感がなかったのだ。
『通常の艦隊戦』とは大きくかけ離れたところに、規格外の怪物の戦闘はあるのだという実感が。
そして、知らなかったのだ。
怪物が怪物たる理由を知る者たちが、どのような慮外の戦闘でそれらに相対するのかということを。
・・・
砲雷撃戦が始まって約5分
「な、何かの間違いでしょう!? ありえませんよこんなの!!」
「狙いはついている、タイミングも悪くない……しかし、当たらない!」
「吹雪ちゃんと叢雲ちゃんの戦闘見てたけど、実際戦ってみると違うね……!!」
当初の想定とはまるで違う現状に、ラバウル第9の面々は慄いていた。なにせ……
「ウッソでしょ!? なんで『艦載機があんなに正確に撃墜される』のよ!?」
「ありえませんよこんな……いくら機銃と高角砲を装備しているといえ、正確無比に飛び回る艦載機をこんな早さで撃ち落としてくるなんて……
艦載機の軌道を読んで機銃掃射を『置く』のが普通なのに、それを直接、しかも猫の額ほどの燃料タンクを狙って……!?」
「ありえないのは五十鈴も同じよ! なんで『命中する軌道の魚雷が到達前に爆発する』のよ!?
迫ってくる魚雷の信管を撃ち抜いているとでもいうの!? ありえないそんなの!!」
「雷跡を見てからの回避を安定させるにも熟練が必要だというのに、そんな曲芸じみた動きができるというのか!」
「こっちがいくら攻撃しても全部対処されちゃうんじゃね、参っちゃうよ本当に!
みてよ那智、あの天龍、砲雷撃戦が始まってから一歩も動いてない!」
「ああ、解っているとも。解りたくなどないがな……!!
先ほどこの那智の渾身の主砲連撃が『艤装の剣で角度をつけられ、全弾逸らされた』……!!」
「なんなんですかあの人たち、私もう怖いですよ!!
なんで『弾着観測射撃で命中を確信してた砲撃が、あちらの主砲で撃墜される』なんてことが起こるんですかっ!?」
通常であれば確実に命中していた攻撃がなにひとつ届かない。
安全マージンを取った動きをしている艦載機が悉く撃ち落とされる。
決して弱くはない、むしろ実力者の側にある自負はあった。
しかし、であればこの現状はどうしたことか。決定打どころか直撃すらとれず、与えられる被害はかすり傷のみ。あとは全てかわすかいなされる。
これで狼狽えるなというのは無理がある。そしてその困惑の瞬間を実力あるものが逃すはずがない。
「祥鳳! 私たちは攻撃に参加できないから、とにかく囮に……ッッッ!?」
「蒼龍ッ! そんな、魚雷の雷跡なんて見え……ああッ!!」
艦載機を全滅させられて行動が止まっていた空母2隻に、大井の放った魚雷が直撃した。
当然ふたりは雷跡への注意を怠ってはいなかったのだが……意識に隙間ができたことに加え、大井の巧妙な雷撃手法により決定打を貰ってしまったのだ。
「蒼龍、祥鳳ッ!」
「この被弾率じゃ……すいません! 大破判定、離脱します!!」
「私も同様です! 祥鳳離脱します、後は頼みますっ!!」
「ダメか……ふたりともご苦労だった!! あとは我らに任せろっ!!」
「なんで、どこから……? 五十鈴も注意してたけど、雷跡なんて見えなかったわ!」
「……! 衣笠さん解ったかも。さっき風が出てきた、だから波が!」
「!! ま、まさか……風波に沿って魚雷を発射することで、白波の泡に雷跡を紛れさせたとでもいうのか!?」
「いやいやいや! そんなの無理でしょう!?
いつ起こるかわからない強風と、それに伴う白波に合わせて、予知するように魚雷を放ったってことですよね!? 人間技じゃありませんよ!! 艦娘だから人間技って言っていいのか解んないですけど!!
そもそもですよ、たとえ未来予知で波が出るか分かったとしても、それに合わせた軌跡で魚雷撃つとか、そんなのどうやっても無理……うえええッ!!」
「ひ、比叡ーーーッ!!」
「比叡さんに魚雷着弾!? やっぱり雷跡は見えなかったような……!」
「ううん、五十鈴は注意して見てたからわかるわ。比叡に着弾する直前に、波の中から魚雷が出てきてた!!
信じられないけど今推測した通りよ、総員、白波に注意してっ!!」
「冗談のような話だが、信じるしかな……ッ敵重巡より砲撃確認、各艦回避行動ッ!!」
大井の雷撃を皮切りに、あちらの攻撃が始まったようだ。
不可視の雷撃から間を置かず、足柄、古鷹による中距離砲撃が迫る。
「ケホッ……比叡中破!! って、砲撃が来てるじゃないですかぁっ!」
「でもこれなら回避できそう……いや、ちょっと待っ、キャアッ!!」
「衣笠!?」
「うっぐぅ……衣笠中破! 古鷹ったら、どんだけなのよ!!」
「何が起こった衣笠! 砲撃を回避しなかったのは何故だ!?」
「回避しようと思ったんだけど、ドンピシャのタイミングで左右から雷跡が迫ってた! 砲撃をかわしたら魚雷がクリティカルしてた!」
「ええい、どれだけのコンビネーションだまったく!!」
・・・
……その後も超絶技巧のような砲雷撃を受け続けたラバウル第9部隊は、それ以上相手に近づくことができずに戦闘敗北という結果に終わった。
二つ名個体級の姫級がいかに強大なチカラを持っているか、それを身をもって噛み締めることになったラバウル第9の面々は、現状を受け入れつつも苦い顔をしていた。
戦闘終了時の天龍と叢雲の会話
「なぁ、俺なんもしてねぇんだけど」
「しょうがないでしょ。近接戦までいかなかったんだから。それにアンタ対空射撃でバンバン艦載機墜としてたじゃない」
「そりゃそうだけどよ。不完全燃焼なんだよ」
「アンタが満足できるのって、それこそアークロイヤルとか天城レベルでしょ? そんなの求めちゃダメよ」
「わかっちゃいるがなぁ……ていうか流石にアイツらクラスは無理だ。俺だけじゃどうもできねぇ」
「そ。ま、いいじゃない。こっちでやるべきことはこれで終わりだし、あとは許される範囲で好きにしたらいいじゃないの」
「つってもな……やることなんてねぇよな」
「それじゃおとなしくしてなさい。アイツ貸してあげるから、暇つぶしでもしてもらえば?」
「お前が貸し出す側なのかよ」
「フン、当然でしょ? 私が筆頭秘書艦なんだもの」
「……大井にMVP獲られたの、そんなに気にしなくてもいいと思うぜ?」
「気にしてないわ」
「随分食い気味だなオイ」
ちなみに大井にはMVP報酬として、北上と一緒に提督お手製の艤装を贈られることが決まりました。
実は天龍龍田姉妹や足柄だけ特別扱いしないでほしいという古鷹の要望があり、専用艤装を全員分用意することになってたという背景があります。
今回のMVP報酬はその順番を先にする権利みたいなものですね。