鈴木大佐「補給艦とは思えん働きだな……」
ラバウル第9の面々「非戦闘艦の補給艦にあそこまでしてやられるとかプライド壊れる」
鯉住くん「いい感じに強くなってるねぇ」
大井(教導艦)「早々に大破してしまったのはマイナスですね」
がんばれ速吸ちゃん
今回の視察の中でもメインイベントであった演習も終わり、これにて鎮守府見学の予定も全て終了ということになった。
とはいえ、演習が終わって日が沈みかけている状況で『やること済んだんで帰ってください』なんてホスト側が言い出すはずもない。
そういうわけで、ラバウル第9基地の大食堂で懇親会が行われることとなった。
始まりの挨拶を鈴木大佐がした後に、鯉住くんによる友好宣言的なトークがあり、いい感じにお互いの鎮守府メンバーで交流が交わされている。
ワイワイとにぎやかな雰囲気で場は進行しているが、一部ではそういった雰囲気でもなく……
「む、叢雲ちゃん……」
「……」
「あのね、お姉ちゃんが悪かったから機嫌直して……」
「……」
「お願いだからそんな汚いものを見る目で見ないでよー!!」
こちらは吹雪型での交流が行われているが、ラバウル第9の筆頭秘書艦である吹雪が、鯉住くんのところの叢雲に謝り倒している。
非常に申し訳なさそうに両手を合わせて平謝りする長女であるが、一方の叢雲はとってもしょっぱい塩対応をしている。
これはもう完全に吹雪が悪く、鯉住くんのことを断片的な情報から悪の権化みたいな扱いした挙句、叢雲の逆鱗を撫で繰り回すような発言をして、実際にこっぴどくしばかれた経緯からそんなことになっている。
結局は完全なる(と言い切れない部分もあるが)吹雪の誤解だったため、吹雪が意識を取り戻した後に鈴木大佐立会いのもと、鯉住くんとしっかり話し合って和解したのだが……
それはそれとして叢雲の腹の虫は収まっていなかったため、関係修復のために現在平謝りしているということである。
「ハァ……いいわ、口をきいてあげる。なんでアンタそんなに間抜けな勘違いしたのよ?」
「辛辣すぎる!? だってだって、色々と聞き込み調査したら、鯉住大佐の悪い話しか出てこなかったんだもん!」
「仮にもアンタ筆頭秘書艦なんでしょ? そんなお粗末な情報のまとめ方して恥ずかしくないの? そんな態度とって、噂がデマだったら鎮守府間の仲が険悪になるっていう可能性は考慮しなかったの? 生きてて恥ずかしくないの?」
「ひぐぅっ……!!」
「今の見た目はこんなだけどアンタだって昔の記憶あるでしょ? それなのにそんな感情に任せて動くなんて、知能まで中高生レベルに下がったの? そんなんで秘書艦の仕事なんて本当にできてんの? 本当にその体たらくで長女名乗れると思ってるの?」
「あばばばっ……!! し、白雪ちゃぁん、助けて……! お姉ちゃんもうむり……」
「あはは……あの、全面的に吹雪ちゃんが悪かったから、叢雲ちゃんもそのあたりで許してあげてほしいなって……」
隣で付き添っている白雪と初雪の、なんとかしてくれる方の妹、白雪に助け船を求める吹雪。ほっときゃいいのに律儀にその通りにしちゃう辺り、白雪も大概苦労人気質である。
そんな白雪クッションを挟まれた叢雲はというと……
「……ハァ~~~~~~~~~~~~~~~……仕方ないわねぇ」
「ため息が深すぎる!?」
「いい? 私はアンタと違って秘書艦として生きることに全力かけてんの。だから自分の提督が悪く言われるのは見過ごしておけないのよ。いくら同型艦が相手だとしてもね。わかる?」
「ハイ……」
「私が悪く言われるのは『ハイハイ』って聞き流すけど、立場的に鎮守府やそこのトップの提督を悪く言われるのは看過できないわけ。あくまで立場的にね。そんなことも分かっていないようだったからアンタにお灸据えさせてもらったのよ。わかる?」
「はいぃ……」
「本当にそれが分かってるなら許してあげるわ。よかったわね寛大な妹をもって」
「すいませんでしたぁ……」
白雪のアシストもあり、なんとか許しを得られた模様。なお吹雪のメンタルはビル爆破後のように綺麗に粉砕されている。涙目である。
「……ねぇねぇ白雪ちゃん」
「どうしたの初雪ちゃん? そんなひそひそ声で」
「叢雲ちゃんが機嫌悪くなったのってさ、大好きな提督をバカにされたからだよね」
「……絶対にそれ叢雲ちゃんに聞かせないでね?」
「ツンデレ乙だよね」
「本当にやめてね? フリじゃないからね?」
その後はなんとか吹雪のメンタルも持ち直し、白雪クッションをフル活用しながらの姉妹艦コミュニケーションがはかどったとかなんとか。
・・・
秘書艦の叢雲がそんな感じで仲直りしてる時、上司である提督は苦難に襲われていた。
「まあまあ、鯉住大佐、グラスが空になっているじゃないですか。夕雲がおかわりをお持ちしますね。……え? そんなに気を遣わなくてもいい? うふふ、いいんですよ、夕雲に甘えてくれても。うふふふふふ」
「なーなー大佐よー、長波様の艤装もメンテしてくれよなー!!
演習見てたけど、普通の艤装と全然性能違うじゃねーかよー! ……え? 明日には帰らないといけないから無理? いいじゃねーかよー、もう2,3日ゆっくりしてけよー!! なーなー!!」
「あの……鯉住大佐、高波からお願いかもです!! 高波のことも部下の皆さんみたいに鍛えてもらえないでしょうか!! あのあの……高波の夢は姫級に単艦突撃して撃破することなんです!! ……え? 自分はそんな戦闘狂を育てられない? め、迷惑なのは承知してますけど、そんなわかりやすい噓つかないでほしいかもです!! 本気なんです!!」
すごい困った。いやホントに。
遠い目をする鯉住君である。
交流会が始まり、部下が交流し始めたのを見届け、鈴木大佐と軽く言葉を交わし、やっとひとりでのんびり食事を楽しめると思った矢先にこれ。
夕雲型による強襲が始まってしまったのである。
ひたすら世話を焼きたいオーラ全開なニコニコ長女に、つよい艤装が欲しくてたまらない勇猛果敢四女、そして鬼ヶ島適性(修羅適正)をプンプン匂わせている戦闘狂六女。
この厄介にしてクセの塊みたいな3名にそれはもう絡まれてしまったのだ。
他にも夕雲型は居るには居るが、他のテーブルで慎ましく食事を楽しんでいる。
ゲストに一気に距離を詰めるコミュ力お化けムーブをしでかせるのは、この3名だけだったらしい。
ちなみに物理的にも距離が詰まっている。具体的にはゼロ距離である。四女と六女は両手にぐいぐいカラダをひっつけて、言うこと聞いてとアピールしている。
悪気が無いので怒るに怒れない。たぶん怒っても無視されて構え構えとアピールされ続けるだろうが。
本当にやめてほしい。本能が喜んじゃうからこそやめてほしい。
「あの、みなさん。私は明日帰る身ですし、鈴木大佐の鎮守府で余計なことはできませんので、離していただいて……」
「なんだよー、固いこと言うなって! アタシ達の強化は誰にとってもいい事しかないんだから、大丈夫だってば! 提督だって『うん』って言うに決まってるからさー!!」
「そ、そうですよ、長波姉様の言う通りかもですっ!! 高波が姫級を単艦撃破出来るくらい強くなれば、ぜっっっったいラバウル基地全体のためになるかもです!!」
「いやあの、言うことは分からなくもないですが、一旦それは鈴木大佐を通していただいてですね……弱ったなぁ……」
「うふふふふ、そんなに困った顔をされるとゾクゾクして……いえ、使命感に駆られてお世話してあげなきゃって思っちゃいます。ええ、これはもう世界の真理みたいなものですよね。何か私にお手伝いできることはありますか? なんでも言ってくださいね」
「何か怖いこと言ってるのは聞かなかったことにしますね。それはそれとして、私が困ってるの分かってるなら、夕雲さんには妹さんたちを止めてほしいんですが……」
「かわいい妹たちの普段滅多にないワガママなんですから、夕雲としては聞いてあげたいんですよ。かといって他所様の鯉住大佐に妹の負担を丸投げするなんて、長女として失格オブ失格……
ですからね、名案があります。鯉住大佐と私との二人三脚で問題解決に取り組めばいいと思うんですが、どうですか?」
「なんかすごい事言ってるぅ……えー、それは鈴木大佐に相談してもらってですね。というか別の鎮守府所属なのに二人三脚とか不可能では……?」
「出向という制度が日本海軍にはあるんですよ?」
「ひえっ」
ダメである。こうなってしまった夕雲型駆逐艦は言うことを聞かない。
佐世保第4(加二倉さんのところ。鬼ヶ島)と横須賀第3(一ノ瀬さんのところ。将棋の国)でめっちゃ体験したから嫌でもわかる。
物腰が柔らかかったり無邪気だったり弱腰だったりしても、なんだかんだみんな頑固なのだ。自分の意見を曲げないのだ。そんなところだけ海軍魂を見せつけないでほしい。
こんな感じになった清霜は全力で遊んであげないと満足しなかったし、早霜は不機嫌になった時は晩酌に付き合ってあげないと数日は不機嫌だった。
横須賀第3の夕雲と風雲は変態の秋雲の世話で忙殺されてあまり絡みがなかったが、巻雲は機嫌がいい時それはもう容赦なかった。ニコニコしながら将棋で精神的に追い込んできた。手心は建造炉の中に置いてきてしまっていたのだろう。
体力の限界でぶっ倒れたときに、お姫様抱っこで風呂まで運ばれて脱がされて混浴させられた時は死にたくなった。小中学生に介護される青年とかいう地獄みたいな図だった。
それだけならまだいい。いや、よくはないけど。
特に清霜は体力の限界まで遊ぶので、遊び相手になるのはどんな訓練よりもハードな体力消費となっていた。命の危険という意味でよくなかった。
巻雲については『機嫌よさそうな小中学生にお互いタオル1枚で良からぬことをさせる青年』という図が良くなかった。犯罪的な光景という意味でよくなかった。
それはさておき、満足するまでなんかに付き合わないといけない以上にマズいのは、夕雲型の距離感の近さである。こんな感じになってる時の夕雲型は、例外なく物理的にべったりなのである(鯉住くん調べ)。
ただでさえこっちの話聞かないうえに、物理的にも接触してくるので非常に精神に悪い。
今回については、高波はまぁ大丈夫だが、残りふたりにべたべたくっつかれるのは非常にまずい。何がまずいって感触がまずい。胸である。
こちとら普段からそれはもう我慢しているのだ。佐世保第4で習慣づけられた筋トレで体力消費することで多少は押さえられるが、辛抱たまらんようになることも多いのである。
常に妖精さんがひっついているので、自室でもひとりではないのである。朝起きて中学生がやってしまうようなアレをやってしまったと気づき、まだ寝ている妖精さんに気づかれないように下着を手洗いしに行った時の惨めさは、筆舌に尽くしがたいものがあった。
そんなんなるくらいには溜まっているのである。提督として着任してからの自分は膨れた風船みたいなものなのだ。硬い針で一突きされるだけでパンと弾けてしまう。実際は逆に柔らかいものでムニッとされると弾けてしまうのだが。
そういうわけで、現在頭の中ではサケの産卵ムービーが大絶賛放映中である。自然の神秘と雄大さを感じていないと、生き物の本能が鎌首をもたげてくるのである。物理的にも下の方で鎌首をもたげてくるのである。
夕雲型はこわい。鯉住くんの中で評価が定まった瞬間だった。
「とにかくですね。おふたりは離れてください。夕雲さんも落ち着いてください」
「そんなこと言ってうやむやにする気だろー!?」
「食らいついたら離さないかもです!!」
「あらあらうふふ」
「ダメかなこれ、ダメだろな……って、鈴木大佐ぁ!!」
「あー、うむ」
救世主登場である。あまりにもあまりな状況を見て、彼女たちの上司が来てくれたようだ。
「お前たち、鯉住大佐が困っているだろう。言う通りに離れろ」
「「「 えー 」」」
「えーではない。まったく……すまんな鯉住大佐。普段ならば3人とも客人に迷惑をかける真似はしないのだが」
「いえいえそんな、本当にありがとうございます……」
本当に残念そうにしぶしぶ距離を取る夕雲型暴走艦3名。ホッとした鯉住くんの瞳にようやくハイライトが帰ってきた。息子も元気にならずに済んだ。
今の鯉住くんにとって鈴木大佐は救いの神そのものである。今日だけで彼に対する好感度が急上昇ストップ高である。ギャルゲーなら攻略余裕なレベルだ。
「こちらが悪いのだから感謝されては申し訳ない。それよりも、先ほどの彼女らの提案、鯉住大佐としてはどう思う?」
「どうもこうも、流石に俺にはもう余裕がありませんので、申し訳ありませんが……」
「だろうな。通常業務に加えて、大本営とラバウル第1の主力研修に、甘味工場の運営、大規模作戦の総督府としての下準備……とてもではないがこれ以上抱え込ませるのは気が引ける」
「いやもうホントにその通りで。すいません、本当は彼女たちの望みを叶えてあげたいんですが」
「その気持ちだけで十分だよ」
「オイオイ提督、長波様は十分じゃないぞ!! 気持ちだけじゃなくて行動もくれよ大佐ー!!」
「か、かもです!! すごい人たちの研修に高波も混ぜてもらうだけでいいので、負担にはならないかもですっ!!」
「うふふ、その負担を減らしてあげるために、夕雲もお供するべきでは?」
「お前ら……何を言っているんだお前ら」
「うわぁ……」
押しが強すぎる。提督に『この話は終わり! ハイおしまい!』と完璧に打ち切られたのに食い下がってきた。夕雲型こわい。
「いや本当にスマン、鯉住大佐。普段はこんな聞き分けがない部下ではないのだ。
……お前たちは少し冷静になるために、たった今から厨房の手伝いに入るように。その有り余った行動力を消費してこい。これは命令である」
「「「 そんなー…… 」」」
「どうにもならんと受け入れろ。ほら行け」
「「「 はーい…… 」」」
心底渋々といった様子でトボトボ厨房に向かう3人。何度もこっちを振り返っているあたり、後ろ髪ひかれまくりなのだろう。
ともかくこれで嵐は去った。鯉住くんの中での鈴木大佐の好感度がまた上がった。さっきストップ高になったはずなのにまだ上がるとは、インフレーションが激しい。
「鯉住大佐は本当にすごいな。初雪が言っていた艦娘バキュームというのはこういうことだったか」
「いやなんすか艦娘バキュームって。俺は別に特別な事なんてしてませんし、勘違いだと思いますが……」
「勘違いでは夕雲たちはああはなるまいよ。艦娘から見て頼れると感じる何かがあるということだろう。鯉住大佐は提督が天職だと思うよ」
「俺はそうは思えないんですよね。現場指揮の才能はからっきしですし。個人的には一介の技術屋のままでもよかったと思ってるんですが」
「……まぁ私から言えることはそこまで多くないが、それは部下の前では言わんほうがいいな」
「あー……上が自信なさげにしてたらマズいですもんね。忠告ありがとうございます」
「それは少し違……まぁいい。とにかくもっと自信を持っていいと思うぞ。……では、他を周るのでこれで」
「わざわざ困ってるところ助けていただいて、ありがとうございました!」
鈴木大佐としては、鯉住くんが『提督にならなくてもよかった』と部下に伝えるのは『お前たちと出会わなくてもよかった』と伝えるのだと同義だと言いたかった。
しかし、それを伝えるのは悪手である。
さっきの夕雲型3人の暴走を鑑みるに、色恋関係で鯉住くんになんか言うのは地雷原を駆け抜けるのと同じくらい危険と判断できる。
なにせ初対面の3人があの有様なのだ。初顔合わせでどんだけ懐いてるんだ。交流を続けたら親愛度が急上昇するのは想像に難くない。
それを思うと、ずっと一緒に居るあの規格外艦娘たちがどれだけ焦らされているのかわかったものではない。
釣った魚にエサどころか水も与えてない鯉住大佐のことだ。そこらへんに特大の恋愛爆弾が起爆寸前で放置されてるなんて想像もしてないだろう。どうせ『あくまで上司と部下の関係』なんて考えてることだろう。
恋愛の機微をちょっとは考えろと声を大にして言いたい。穴でも掘って叫んでやりたい。お前愛されまくってるんだから満足させてやれと言ってやりたい。
まぁ、ノータッチ以外の選択肢はないのだが。
自分で解除できない特大爆弾を一緒に解除しようとして大爆発するなど御免こうむるのだ。だから心の中でこう言うしかないのである。
頑張れよ、鯉住大佐。
これでお隣さんへの訪問は終了です。いやぁ、
なんとなく入れた話なのに長くなってしまいましたねぇ