夕雲型強襲艦3名は置いてきました。全員まるで諦めていないそぶりを見せていたので、鯉住くんは背中に寒いものを感じているそうです。
短いようでなんかやたらと長く感じた視察も終わり、ラバウル第10の一行はホームグラウンドに帰ってきた。
色々な交通機関を経由して1日ないくらいの距離なため、出発する時には顔を出していなかった太陽が、今現在は月に選手交代してしまっている。
少しばかり疲れを抱えたカラダで車から降りると、もうすぐ到着すると連絡を入れていたからか出迎えが待機してくれていた。
「皆さんおかえりなさい! ご近所付き合い、上手くいったみたいですねっ!」
「おう明石、出迎えありがとな」
「おかえりなさいのチューでもしよっか?」
「やめてくれ。それより、こっちでは変わったことはなかったか?」
「いやー……あるんだよね、それが。しかも現在進行形で」
「……マジ?」
頭をかきながら苦笑いする明石を見て、ああこれはアカンやつだなと察する鯉住くん。
明石とは長い付き合いのため、様子を見れば何考えてるかくらいわかる。今回の反応は『明石自身ではどうしようもないから手を貸してほしい』といった時に出るものである。呉でメンテ技師やってた時、大規模作戦中の繫忙期にそこそこ見た反応なのだ。
大規模作戦中に艦隊が全員中破以上で帰ってきたときなんかは、いくらなんでも明石ひとりでは抱えきれず明石の仕事の早さについていける者はほぼおらずということで、鯉住くんにヘルプを頼むのが常だった。
……なんだかんだ言って明石のことは背中を安心して預けられる相手だと思っている鯉住くん。そんな彼女がヘルプを出すほどの事態。ロクでもないことが起こっているに違いない。
考えられるところだと、会議を終えた後もバカンス気分で滞在し続けている連中が何かやらかしたとか、アークロイヤルか天城、もしくはコマンダン・テストの誰かがうっかりアッチの姿(深海棲艦・姫級)をお披露目してしまったとか、その辺だろう。
前者は明石じゃどうにもならないというか鯉住くんにもどうにもならないし、後者は明石じゃどうにもならないけど鯉住くんなら場を治められる案件である。
前者じゃないといいなぁ、でも多分前者なんだろうなぁなんてあきらめムードを漂わせつつ、鯉住くんは覚悟を決めて詳細を聞くことにした。
「あまり聞きたくないけど、何が起こってるか教えてくんない?」
「ふたつあるんだけど、どっちから聞きたい? 良い方と悪い方」
「明石お前それ、差し引きマイナスになるやつじゃないだろうな?」
「なんとも言い難いから聞いてから判断してよ」
「嫌な予感しかしねぇんだけど。明日でよかったりする?」
「私抱えてたくないから、さっさと話して楽にさせてよ。それに明日の報告は状況的に無理だから」
「緊急性があるとか輪をかけて嫌だなぁ……」
ホントに何が起こってるんだろうか?
明日まで引き延ばせない程度には緊急性があり、今ここでのんびり話していられるくらいには余裕がある。そんな案件。
考えても分からないので、覚悟を決めて確認することに。
「はぁ……よし、覚悟決まった。明石、報告してくれ。良い方からで」
「オッケー。良い方はね……」
「……良い方は?」
「ウチに残ってたお客さんたちが帰りました!!」
「よっしゃあ!!」
マジもんの朗報であった。
そろそろ帰るなんて言いながら、長いこと南国バカンスを楽しんでいたメンツ(横須賀第3、佐世保第4、トラック第5の皆さん)が、お隣さんに挨拶に行っている間に帰ったらしい。
帰る時くらい提督に一報入れてけよと思わないでもない鯉住くんだったが、これで変態パパラッチや変態盗撮魔や変態絵師の恐怖におびえることがなくなり、阿修羅達によるプレッシャーや忍者たちによるスニーキングに心ざわつかせられることもなくなるのだ。もうこの際、鎮守府の長である自分に無断でどうこうしようと些細な問題なのだ。
明石から詳しく事情を聴くと、それぞれの第1鎮守府から緊急招集がかかったとのことで、その関係で帰宅の途に就いたとかなんとか。
その話を鑑みるに、日本海軍全体で何か大きな話が動くのかもしれない。そうなると自分たちのところにラバウル第1から連絡が来てないのが謎だが、まぁ何か考えがあるのだろう。
ともかく、ようやく普段の鎮守府が戻ってきたのだ。喜びで笑顔になってしまうのも許してほしい。自分と部下を鍛えてくれた大恩ある先輩方だが、それはそれこれはこれなのである。
一応滞在費としてかなりな額を貰ってはいたが、リネンと食事を筆頭とした生活にかかる人的負担がだいぶ大きかったので、そこから解放されたのはかなり嬉しいところだ。
これでようやくゆっくりできるし、日常業務以外のやりたかったことも出来るしさせてやれる。
「いやぁめでたいな! 今夜は赤飯にするか!?」
「いやもう晩御飯食べちゃったから。明日の献立にする?」
「明日は栗ご飯だろ? それはそれでおいしいから変更はなしで!」
「テンション高いなぁ。……で、心の準備できた?」
「……なんの?」
「とぼけちゃってぇ」
明石はニヤニヤしている。久しぶりに提督をからかえてご満悦なのだろう。
対して鯉住君は目を逸らしている。ここで話をぶった切ることができれば胃に優しいのだ。本心としてはぜひそうしたい。
「さっき言ったけど、もうひとつ報告あるんだよね」
「……なかったことにして解散しない?」
「現実逃避はよくないよ~? それじゃ悪い方の話するね」
「あ゛ー!! 聞きたくない!!」
「諦めよっ! 何があったかというとね……」
「お客さんが来ました。団体様で」
「???」
何言ってんだろうかこのピンクは。
たった今お客さんが帰ったって言ったばかりだろうに。ここが名のある温泉宿とかリゾートホテルだったとしたら、次の団体客が来るのはわかる。商売繁盛というものである。
だがここは鎮守府。見た目が鎮守府じゃないとはいっても、誰がなんと言おうと鎮守府なのである。団体客の予約とかそんなサービスはしていない。
これには話の筋がまるっきり読めず、鯉住くんは頭をかしげながらクエスチョンマークをだしている。後ろで話を聞いてたお出かけ同行メンバーも似たような反応をしている。
いったい誰が、いや、どんな団体が来たというのだろうか……?
「全然わかんないって顔してるね。それじゃ実際に見にいこっか」
「いや、うん、まぁ……おう」
ニヤニヤ笑う明石に『コイツ楽しんでやがる……』と不満を抱きながらも、鯉住くんは秘書艦の古鷹と一緒についていくことにした。
ちなみに他のメンバーは解散。筆頭秘書艦の叢雲はちょっとゴネたが、吹雪とのやりとりで疲れていたので古鷹に役を譲った形となる。しぶしぶではあったが。
・・・
屋外プール
・・・
「なぁにこれぇ」
「ね? 私じゃどうしようもないでしょ?」
「だろうけどさぁ……古鷹、任せていい?」
「絶対無理ですし嫌です。提督じゃないとどうにもなりませんよこれ……」
「やっぱりぃ……?」
とぼとぼとやってきた3人の目の前では……
「暗イ水底ニィ、沈メェッッ!! 殴リ合イダ、オラアアッッッ!!!!」
「ハァ、野蛮人ハコレダカラ……艦隊ノちからハ護ルタメニアルノ、オ解リ? ……きゃっち」
「コッチに寄越セェ!! 私ガ決メルゥ!! どらむ缶抱エテ、沈メェェェッッ!!!」
「どらむ缶ナンテェ、持ッテイマセンコトヨ……? 帽子ダケジャナク頭ニモふじつぼガ湧イテルンジャアリマセンカァ……? ハイきゃっち。容易ク、コノヨウニ」
「イイゾー、ヤレヤレー!! どっぢぼーるハ楽シイワネェ!! イケッ! しゅーとっ!! ソコヨッ!!」
「ア、オ帰リ。オ邪魔シテルヨ」
見たことある2名が、見たことない4名による水中ドッヂボールを見学していた。
これには鯉住くんも困惑。もちろん古鷹も困惑。困惑する鯉住くんを見て明石はニッコリ。
「あー、えーですね、いったいいつこちらに……?」
「昨日ダヨ。太平洋全域カラ来レル奴集メテクルノニ時間カカッチャッテネー」
「来れる奴っていうと……?」
「艤装達ノ井戸端会議デ、めんてなんすシテモラウト最高ニ気持チヨクナルッテ知レ渡ッチャッタカラネ。オ仕事ガ暇デ艤装連レテ来レル奴ダケ連レテキタヨ」
「あっはい……」
どうやら以前に深海棲艦(クソ強姫級)の艤装をメンテナンスした後に、井戸端会議で噂が広がってしまったらしい。『あそこにいけば体調めっちゃ良くしてくれる上に美味しいお菓子までくれる』みたいな。というか『艤装の井戸端会議』のパワーワード感がすごい。
現にその時メンテしたアンドレくん(マッチョマン)とタッフィーくん(わんこ)も奥の方の港に居るのが見えるので間違いないだろう。
呆気に取られていたが、現状把握はしなければならない。とうわけで、改めて目の前を見渡す鯉住くん。
・・・
目の前にいるふたりの情報は、それぞれこんな感じ。
まずはドッヂボールを応援している黒髪ロング超絶グラマラス白肌黒ドレス美人。
彼女は以前もここに来たことがある。その際には間抜けにも、艤装(アンドレくん)に髪を盛大に巻き込まれたあげく、それを同行者に無理矢理引きちぎられて禿散らかしてしまった、なんてことがあった。ルー語体得者にしてドジっ子でもある。
彼女は日本海軍的には戦艦水鬼改とカテゴライズされる容姿だが、実力はその範囲に収まらない。鯉住くんには知る由もないが、米海軍により『CN:MeteorRain』の呼び名が与えられた特級危険物である。
そして現在鯉住くんと話しているツインテール短パンノースリーブ白肌グラマラス美人。
彼女も以前ここに来たことがあり、その際は艤装(タッフィーくん)のメンテをじっくり見ていた。ペット想いの飼い主なのかもしれない。しかしタッフィーくんにプレゼントしたはずの飴ちゃんを勝手に貪り食っていたので、ペット想いというよりは自身の好奇心が強いだけなのかもしれない。
彼女は日本海軍としては未邂逅のため名称がないが(名称がつけられるとしたら護衛棲水姫)、米海軍では『CN:ThunderBird』と呼ばれSSS級の危険度とされている。もちろんこちらも鯉住くんが知る由はない。
このふたりが以前鎮守府に突撃してきたメンバーである。
そしてここからが初見の人たち。初めて見る彼女たちへの鯉住くんの感想としては以下の通り。
・・・
なんかすごいガラが悪そうな喋り方してるのがひとり。テンション高いし怖い。
ギザギザな黒バンダナ(?)と黒マスクをしていて、頭にはヒトデ型の髪飾りがいくつものっている。服装はフリルワンピースのようだが胸元がヘソまで空いているという痴女仕様。それはもうバルンバルンなため、正直目の毒でしかない。絶対重巡か戦艦だろう。あとボン〇ーマンみたい。
そして彼女が目の敵にしてるっぽいちびっこ深海棲艦。こっちはかなりシンプルな見た目である。
ヒトの下顎っぽい首輪をしてるのは深海棲艦っぽいが、その他はそんなにインパクトが無……くはない。なにせ上は面積少ないビキニ、下はピッチリしたレザーパンツである。なんだこの組み合わせ。ちびっこなので興奮はしないで済むが、独特のセンスすぎて少し心配である。
たぶん駆逐艦だと思うが、痴女ボ〇バーマンからの剛速球を普通にキャッチしてたパワーを考えると、駆逐艦かどうか怪しいものだ。まぁ深海棲艦相手に常識は通じないのでよく分かんないのは仕方ない。
そしてちびっこからパスを受けた深海棲艦。うるさすぎる鳥海さんである。
頭の帽子オシャレですね。うるさすぎるけど。あと胸からおへそにかけて肌を出す服装は精神衛生上よくないのでやめてください。それとうるさすぎるのでボリューム落としてください。
クソうるさい鳥海さんからのこれまた剛速球をキャッチしたのが、妖精さんたちが夏を刺激しそうな衣装に身を包んだお姉さん系美人。たぶんその衣装を水着と言い張れるのは日本の某有名アーティストと貴女だけです。というかその服装で激しく動かないでほしい。胸がポロリしそう。見たくないというかむしろ見たいけど、世間体的に死ぬので落ち着いてほしい。
あと言葉はすごい丁寧語なのに煽り散らかしていてなんかこわい。こういうのを慇懃無礼といのだろうか。
総評:〇ンバーマン・ちびっこ・騒音・T〇R
あ、よく見ると向こうの海で艤装達がビーチバレーボールでトス回ししてる。
アンドレくん(マッチョ)とタッフィーくん(わんこ)が実に楽しそうだ。周りに居るロブスターくん、タラバガニくん、オウムガイくん、アンモナイトくんたちは、たぶん目の前の集団の艤装なんだろう。みんなしてキャッキャとトス回ししている。和むなぁ……
・・・
そんなことを考えながらボンヤリしていると、目の前のツインテール美人から話しかけられた。
「ドシタノ? 気ニ入ッタ奴デモイタ?」
「いやー……みんな個性的だなぁって」
「フゥン。マ、イイケド。ソレデサ、アイツラノ艤装モめんてシテ欲シインダケド」
「やっぱそうなります?」
「ソリャソウデショ。ソレニ前ニ言ッタジャン、『マタ来ルヨ』ッテ」
「……言ってたなぁ、そう言えば……」
当時の記憶がよみがえる鯉住くん。確かに言ってた。『またね』って。
しかしこんなに増量キャンペーンしてくるとは思っていなかった。そりゃ遠い目もしてしまう。
不幸中の幸いは、奇跡的に目の前の深海棲艦ご一行とこないだまで居たバカンス艦隊がブッキングしなかったことだろう。
ブッキングしてたら絶対地獄絵図になってた。自分がまとめられるのはどっちか片方だけである。ラバウル第10基地は1団体までの宿泊しか対応しておりませんご了承ください。
鯉住くんがそんなことを考えつつ、艤装達のボール遊びを見て癒されつつしていると、その奥の海が……
「んんん? 海が……盛り上がってる……? いやそんなワケ……明石に古鷹、俺の目おかしい?」
「いやぁ、盛り上がってるねこれ……」
「おかしいのは現状であって提督の目じゃないですね……」
「ア、来タ来タ。一組遅レテ来ルコトニナッテタノ」
「えっと……っ!?」
盛り上がった海の真ん中から、激しい勢いで汽笛のような轟音と共に10m近い水柱が上がる。その正体は……
「噓だろ!? シロナガスクジラ!?」
全長10mに届くかというクジラが姿を現す。そしてその背に立っていたのは……
「ヨウヤク辿リツイタッ!! 嬉シイゾッ!! 私ノ全テヲ、歓迎シテモラオウカッ!!」
少し小柄ではあるが、これまた二つ名個体クラスの迫力を持つ姫級だった。
「ひとり増えたよ……」
「全員揃ッタトハ言ッテナイデショ?」
「そりゃそうですけど……」
「アトサ、アイツダケド、アンタニ是非会イタイッテ言ッテタヨ。スゴイ気合イ入ッテルカラ」
「なんでぇっ!?」
そろそろ最終章かな~