艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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この世界では艦娘の異動・派遣は割と普通です。
建造でもドロップでも新規艦が獲得できない(ふつうは)以上、比較的余裕のある拠点からヘルプを呼ぶのはいたって自然な流れ。
ただしウマが合う合わないは当然ありますし、艦娘はそういったもので出せる実力が左右されますので、提督間の仲の良さや艦娘の個性を考慮して適正審査が行われます。
艦娘にはなかなか優しい制度ですね。


第17話

「改めまして、夕張型 1番艦 軽巡洋艦『夕張』!着任いたしました!

よろしくお願いしますね、提督!」

 

「お、おう……」

 

 

まさかホントに建造が成功するなんて。

しかも駆逐艦でなく、そこそこ貴重な軽巡洋艦が建造されるなんて……

 

目の前でニコニコしながら挨拶する夕張とは対照的に、鯉住君と叢雲の2人はひきつった笑みを浮かべている。

 

 

「ちょ、ちょっと、どうすんのよ?いきなりこんなイレギュラー引き当てて……

ああもう、報告書にどう書いたらいいの……!?」

 

「ま、まあ悪いことではないし、ビギナーズラックってことで片付けてくれるだろ……」

 

「アンタみたいな変わり者の秘書艦なんて引き受けるんじゃなかったわ……ううう……」

 

「落ち着け、落ち着けって。

俺の方からも鼎大将とラバウルの大将に電話しとくから……な?

フォローは俺がするから、そんなに思いつめるなよ……」

 

「上手いこと言っといてよね……ハァ……

それじゃ私は書類書いてくるから……あとは頼んだわよ……」

 

 

叢雲はフラフラしながら執務室へ戻っていった。

先に夕張に挨拶くらいはしといた方が、と思った鯉住君だが、そんな余裕はなさそうな叢雲に声をかけることはできなかった。

 

 

「ええと、おふたりは何の話してたんですか?

小声でお話されていたので、よく聞こえなかったのですが……」

 

「え? あ、ああ。気にしないでくれ。大したことじゃない」

 

「?? わかりました」

 

 

多少(?)予定とは違ったが、戦力強化ができたのはありがたいぞ。

叢雲さん1人ではほとんど何もできないが、夕張さんが加わって2人になれば、できることは大幅に広がる。

思いつくところだと、『はじめての編成』任務が達成できるし、出撃の安定感もずっと高まる。

流石に2人では遠征はできないが、鎮守府前面海域の防衛くらいは何とかなりそうだ。

 

 

ポジティブに考えることで動揺を抑えた鯉住君は、気を取り直して夕張に話しかける。

 

 

「そういえばこちらの自己紹介がまだだったね。

私はこのラバウル第10基地の提督、鯉住龍太という。よろしく頼むよ」

 

「あ、はい。よろしくお願いします!」

 

「それと今出てったのが、秘書官の叢雲だ。

キミの先輩になるから、顔を合わせたら挨拶してやってくれ」

 

「了解しました」

 

「ま、先輩といっても、私たち2人も今日赴任してきたばかりだからね。

実質キミ含めて3人で鎮守府立ち上げってことになる。頑張っていこう」

 

「はい!」

 

 

敬礼しながら笑顔を交わす2人。

予期しない出会いだったが、良い関係が築けそうだ。

 

 

「それじゃ鎮守府内を案内しよう。ついてきてくれ」

 

「はい」

 

 

・・・

 

 

「ここが娯楽室。まだ何もないから、色々と増やしていこう」

 

「……はい(お茶の間っぽいなあ)」

 

 

・・・

 

 

「それでここが食堂……というか厨房かな。食事は娯楽室で食べることになりそうだ」

 

「……はあ(なんだろう……おばあちゃんの家って感じが……)」

 

 

・・・

 

 

「あとここが入渠ドック。2か所あるから、暫くは入渠待ちしなくて済む」

 

「……(どう見ても大きめのお風呂よね……)」

 

 

・・・

 

 

一通り鎮守府内を案内し、残すは執務室だけとなった。

不安そうな顔をした夕張が口を開く。

 

 

「えと、提督、一つ聞いてもいいですか?」

 

「ん? 何かな?夕張さん」

 

「……ここって鎮守府ですよね」

 

「……そうだよ」

 

「民家とかじゃなくて?」

 

「……まぁ、そうなるよねえ……

俺たちもついさっき同じ反応したから、気持ちはよくわかるよ……」

 

「大丈夫なのかしら……」

 

「最低限の機能はあるし、大丈夫でしょ……多分」

 

「はい……」

 

 

・・・

 

 

すぅーっ……たんっ

 

 

「ここで最後だね。執務室だ。

俺と秘書官はここで仕事するから、何かあったらここに来てくれ」

 

「え……?あ、はい……(執務室……?どう見ても居間なんだけど……)」

 

「はー……なんて書けばいいのよ…… あら、案内中?」

 

 

ふすまを開けた鯉住君と、怪訝な顔をしている夕張に気づき、叢雲が声をかける。

 

 

「書類作成ご苦労様。案内はここで最後だから、終わるところだけどね。

今日はもう遅いし、その報告書を書いたら終わりにしよう」

 

「わかったわ。……夕張もこれからよろしくね」

 

「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします。叢雲さん」

 

「それと、ええと……その……」

 

「? どうしたんですか、叢雲さん?」

 

「さ、さっきは無視しちゃって悪かったわね」

 

 

顔を真っ赤にして夕張に謝罪する叢雲。

素直になるのが苦手な本人の性格もあり、ぷいっと顔を背けながら謝っている。

 

 

「あの、全然気にしてないんで大丈夫ですよ?」

 

「そ、そう? それならいいのよ!

私は書類仕事してるから、もうちょっとどこか見てきなさい!」

 

 

照れ隠ししてるのがバレバレだ。

普段落ち着いた雰囲気の叢雲だが、こういったところは見た目年齢相応である。

微笑ましい態度に思わず鯉住君もニッコリ。

 

 

「な、何笑ってんのよアンタ!さっさと出ていきなさい!!」

 

「わかったわかった。それじゃ行こうか、夕張さん」

 

「は、はい」

 

 

・・・

 

 

叢雲に追い出され、執務室を後にした2人。

とりあえず行くところもないので、娯楽室までやってきた。

 

 

「さて、これで鎮守府案内は済んだし……とりあえずそこに座って」

 

 

敷いてある座布団に腰かけるよう促す鯉住君。

 

ちなみにこの茶の間っぽい娯楽室も、長方形の長机に座布団常設という純和風スタイルである。そしてやっぱり机の上には飴ちゃんの入った籠が置いてある。

 

 

「あ、すみません。気を遣っていただいて……」

 

 

夕張が申し訳なさそうに座布団に正座したのを確認して、鯉住君も対面に移動し、あぐらをかく。

 

 

「よいしょっ……と。そのくらい気にしないでいいよ。もっと気楽にしてくれても構わない。

さっきは初顔合わせだったから真面目に対応したけど、普段はもっと楽にするつもりだから」

 

「あ、そうなんですね。私も堅苦しい雰囲気は苦手なので、助かります」

 

「それは何より。それで、なにか聞きたいことはあるかな?

俺も新任だから大したことは答えられないかもしれないけど」

 

「うーん……私も建造されたてなので、何を聞いていいのか……」

 

「……いきなりそんな雑な聞き方するものじゃなかったか。上司ってのも難しいな。

気が利かなくて申し訳ない……」

 

 

ばつが悪そうに頭をポリポリかく鯉住君。

それを受けて夕張は、慌ててフォローを入れる。

 

 

「あ、いえ、そんなことないです。気遣ってもらえて、私嬉しいですから。

ええと、そうですね……それでは1つ聞かせてください」

 

「何か思いついたみたいだね。何かな?」

 

 

 

 

 

「この鎮守府、というか、提督の運営方針を聞かせていただきたいです。

やっぱり私も鎮守府の一員として、何を大事にしたらいいか知っておきたいですから」

 

「あ―……それは当然知りたいよな。ゴメンよ。先に説明するべきだったな。

……この鎮守府の方針は、後方支援中心でいこうかと思ってる」

 

「後方支援、ですか」

 

「そそ。ラバウル基地は、うちの第10基地ができる以前から、戦力に関しては十分そろっててさ。戦線は元々維持できてるんだよね。

だからうちが無理して最前線まで出張る必要はないってわけ。

 

それに個人的な話だけど、戦闘指揮よりも兵站の維持とか艤装の調整とかの方が好きなんだよ。元々俺自身が技術屋だったし……」

 

 

 

「えっ!? 提督って元々技術畑出身なんですかっ!?」

 

 

ガタッ!

 

 

やけにキラキラした目をして話に食いつく夕張。前のめりになり、声のトーンも若干高くなっている。

その勢いに押され、心なしか後ずさる鯉住君。

 

 

「お、おう。前は呉第1鎮守府で、3年くらい艤装メンテ技師をやってたからさ。

ここでも暇を見ては、キミたちの艤装メンテしてこうかなと思ってる」

 

「ええっ!? 元艤装メンテ技師で、しかも呉の第1鎮守府所属だったの!?

すごいわっ!エリートじゃないっ!!」

 

「い、いやいや……そんなことないから……」

 

 

何か変なスイッチが入ったのか、先ほどと全然違うテンションの夕張。

あまりの豹変ぶりに、鯉住君はついていけない様子。

 

 

「ま、まあ、そういうことで、キミたちには戦闘よりも、そういった後方支援技術を優先して鍛えてもらいたいということだ。

艦としての誉は戦闘での勝利だ、なんて考えている子には、そっち方面で頑張ってもらおうと思ってるけど……」

 

「そういうことなら任せて!私、機械いじりなら大得意だから!」

 

「そ、そうか。期待してるよ……」

 

「提督もすごい経歴持ってるみたいだし、今度艤装メンテしてるところを見せてほしいわ!」

 

「それくらいならいいけど……」

 

「やったぁ!ありがとう!提督!!」

 

 

夕張は嬉しそうに鯉住君の右手を両手で掴み、ぶんぶんと振る。

 

機械いじりが得意……この女子高生のようなテンション……

元同僚のアイツの姿が頭をよぎるけど、比べるのは夕張さんに失礼だ。

深くは考えないようにしよう……

 

腕をぶんぶん振られながら鯉住君はそんなことを考えていた。

 

 

「やだもうホントどうしよう!!

プロのメカニックが私の提督だなんて!嬉しすぎるー!!」

 

 

ブンッブンッ!!

 

 

「ちょ、夕張さん、ストップ!腕がもげそう!

さっきまでと比べて態度が全く違うけど、キミ大丈夫なの!?」

 

 

なんだこれ!?俺変なこと言ったか!?なんだこのハイテンション!?

夕張さんは比較的普通の子に見えたけど、やっぱり艦娘だけあってクセが強いの!?

 

 

プチパニックに陥る鯉住君の傍らには、呆れたように彼を見上げる妖精さんたち。

 

 

(おいぃ……)

 

(ぼでぃたっちはゆるされない)

 

(すぐにせくはらする……)

 

 

お前らいつの間に……ていうか俺にはそんなつもりはない!!

やめろ!なんだその電話は!どっから出した!?

どこに掛けるつもりだ!まさか憲兵さんか!?やめろォ!俺は無実だぁ!

 

 

「あ、ご、ごめんなさい……!失礼しました!

私ったら、なんてことしちゃったのかしら……!」

 

 

我に返ったようで、慌てて手を放す夕張。

先ほどの行為は流石に失礼だと思ったのだろう、顔を赤くしてあたふたしている。

 

 

「い、いや、気にしないでいいよ。

俺としても同じ趣味を持った子が来てくれて嬉しいし……」

 

「うう……どうにも私、テンションが上がりすぎると、抑えが効かなくなっちゃうんです……」

 

「そ、そうか……まあ俺はそのくらいなら気にしないから大丈夫だ。

けど、叢雲さんは多分そういうの苦手だから、あの子に対しては気にしてくれると助かる」

 

「はいぃ……わかりました……」

 

 

・・・

 

 

「それはそうと夕張さん、他に何か聞きたいことあるかい?」

 

「あ、いえ、今思いつく質問はありません。大丈夫です」

 

「わかった。気になることがあればいつでも聞いていいからね。

俺はもちろん答えるし、叢雲さんもああ見えて面倒見いい子だから頼ってくれていい」

 

「はい、わかりました。ありがとうございます」

 

「それじゃ今日はここまでにしよう。

女性用の日用品なんかは、俺じゃよくわからないから、今から叢雲さんと相談してほしい。

そろそろ書類も完成した頃合いだろうし、執務室に戻ろうか」

 

「了解です」

 

 

・・・

 

 

鯉住君と夕張が執務室に戻ると、案の定叢雲は仕事を終えてのんびりしていた。

 

 

「はい。ようやく終わったわ。

あとはあんたのサインが入れば、大本営と第1基地にFAXできる状態だから」

 

 

そう言いながら鯉住君に書類を渡す叢雲。

それを受け取り、パラパラと中身を確認する鯉住君。

 

 

「うん。問題なさそうだな。初日からありがとう、叢雲さん」

 

「まったくよ……上にどうやって報告しようか悩みに悩んだんだから……

仕事ができる初期艦でよかったわね。感謝しなさい」

 

「助かるよ。これからもよろしくな。

……一仕事終えたところであれだけど、もう一つだけ頼んでもいいかな?」

 

「……なによ。また厄介な案件じゃないでしょうね……?」

 

 

疑いの目で鯉住君を見る叢雲。

 

鯉住君の人柄については好ましいものだと思っているが、

何か妙な出来事を引き寄せる彼の体質については、十分警戒しているのだろう。

 

 

現に彼女が今知っているだけでも、鯉住君には以下の前科(?)がある。

 

 

少なくとも日本で唯一妖精さんと会話できる。

工作艦の艦娘である明石よりも質の高い艤装メンテができる。

技術工だったころからすでに、駆逐艦と婚約している。

ある意味海軍で一番有名な、鼎大将一派の期待のホープである。

日本で1年ぶりとなる艦娘建造を、着任初日で成功させる。(←NEW!)

 

 

この中の大半は鯉住君からしたら、巻き込まれた、もしくは意図していないことであり、彼としては降って湧いたような出来事ばかりだ。

 

しかし周りから見たら、そんなの知ったことではない。

これだけの実績(?)を見れば、普通の提督とは、とてもじゃないが呼ぶことはできない。

 

 

「いやいや、そんな変なことじゃないよ……

夕張さんの生活用品や、部屋割りについて、相談しながら決めてほしくてね」

 

「はぁ、なんだ、緊張して損したわ……了解よ。それじゃ行きましょ、夕張」

 

「あ、はい! よろしくお願いします!」

 

 

艦娘寮の方に去っていく2人に、鯉住君が声をかける。

 

 

「それが終わったら今日の業務もおしまいだから、2人とも自由にしてくれていいぞ。

明日は8時に執務室集合でよろしく」

 

「わかったわ」

 

「了解です!」

 

 

色々とあった着任初日だったが、なんとか終えることが出来そうだ。

これからの運営に不安もあるが、あの2人とならやっていけそうな気がする。

 

そんなことを考えながら、仕事の〆に入る鯉住君なのであった。

 

 

 




叢雲ちゃんがあれだけ頭を抱えていた原因は、建造成功の場合の書式テンプレが存在しないからです。
年に1度あるかないかの事例に、テンプレを用意してあるはずもない、ということですね。
だから彼女はフリースタイルの書類に、それっぽい経緯をそれっぽく書いてました。

初期艦として初の書類仕事がコレだというのは、なかなかにツいてないですね。
そういうとこでも彼女は鯉住君と似た者同士なようです。

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