艦これは出撃するまでが長くて、ボスと対面するまでも長いんだよなぁ……(重い腰を上げられない)
ラバウル基地における大規模作戦は、第1基地の精鋭部隊によって敵の総大将が討ち取られたことで終結した。そして時をほぼほぼ同じくして、他の地域に出現していた海域ボスも討ち取られたとのことだった。
パラオ泊地における戦線は、大変厳しいものだった。
同泊地統括の平中将と隣接泊地であるタウイタウイ泊地の決死の働きにより、2泊地共同での討伐作戦を決行。多数の犠牲を払ったものの、レイテ海に出現した特記戦力である海峡夜棲姫(二つ名:【深鬼牢 シンキロウ】)を下すことに成功する。
艦娘の戦艦扶桑、そして戦艦山城の姿を模した姫級であったのだが、その正体が『戦艦扶桑のような形状をした艤装を操る戦艦山城のような姫級』だということを看破できたのが攻略の糸口となった。
『2体の姫級が協力している状況』と『1体の姫級が自由に人型艤装を出し入れできる状況』では、対処方法が全く違ったのだ。
この1体の二つ名個体級の討伐だけでも、パラオ泊地とタウイタウイ泊地の全戦力を投入しなければままならなかった。
しかし同泊地に出現した二つ名個体級はあと3体いる。そちらの対処なしに1体に全戦力を傾けることなどできはしない。そう、援軍があったのだ。
以前から横須賀第3鎮守府の一ノ瀬提督が推し進めていた艦娘派遣制度。そちらの初の運用により、二つ名個体級に対抗できる戦力が送り込まれた。
大本営からは正規空母の加賀、瑞鶴、翔鶴、葛城が。横須賀第2鎮守府の及川中将からは、二つ名個体級とも十分渡り合える加古、球磨、多摩が。発起人の一ノ瀬提督のところからは主力である霧島、ローマ、大淀が。それぞれパラオ泊地まで派遣された。
彼女たち援軍の力量はそれはもう凄まじいもので、2つ名個体を3体見事に相手取っていた。そして多くの者が『あの化け物共を足止めできるというだけでも信じられない』と考えていたところ、その予想をはるかに越えて討伐までしてしまったのだ。
パラオ泊地海域のバリ島に出現した姫級であり、何隻ものイージス艦から核を撃ち出すことで大戦の口火を切った深海海月姫(二つ名:【大虚 オオウツホ】)と空母水鬼(二つ名:【妖傅 アヤカシ】)。
彼女たちを相手にしたのは加賀、翔鶴、葛城の空母3隻と加古、球磨、多摩の遊撃隊を中心とした部隊。両軍共に空母が主戦力だっただけあり、空一面を埋め尽くすような
壮絶な航空戦が展開された結果、見事に犠牲を出さずに敵部隊をイージス艦群と共に沈黙させる事に成功した。
そしてレイテ湾に現れた片割れの2つ名個体、深海鶴棲姫(二つ名:【姑獲鳥 コカクチョウ】)を相手取ったのは残りの面々。瑞鶴を旗艦とした霧島、ローマ、大淀を含む部隊だ。
他のどの2つ名個体よりも戦闘力の高い姫級であったが、戦闘に参加した艦娘からの詳報に寄れば『旗艦の瑞鶴が単艦で姫級を抑えていたおかげで、想定以上の損傷の軽さで戦闘を終えることができた』ということだった。
実際に瑞鶴は、何処かから手に入れた陣羽織を身に着け、航空戦、砲撃戦、近接戦闘を高いレベルでこなす2つ名個体相手に大立ち回りを繰り広げた。正規空母1隻とは思えないほどの大規模な空戦を繰り広げ、圧倒して見せたのだ。相手の艦隊の姿が無くなった時、瑞鶴は大破すらしていなかった。
また、日本海軍の領海でも最も西にある泊地、リンガ泊地でも壮絶な消耗戦の末に勝利を収めていた。
敵のボスであるニつ名個体、港湾夏姫(二つ名:【古椿 フルツバキ】)は沈めても沈めても短スパンで復活してくる厄介な姫級であり、しかもその度にパワーアップするという危険極まりない特性まで兼ね備えていた。
さらに言うとその姫級は部下の深海棲艦を質より量といった具合で多数抱えており、こちらにも頭数が必須。そして本体は陸上型であり交戦経験があるものが少なかった。とにかく厄介な要素が複合していたのだ。
そんな中でもリンガ第1泊地の精鋭は鉄壁の護りを見せ、無数に居る深海棲艦から人類の安全を保証し続けた。その中で倒れる者もいたものの、最終的には『配下を一定以上撃沈させた上で本体を沈めれば復活を抑えられるはず』という仮説の元行動し、見事勝利を勝ち取る。戦闘員皆精鋭であるリンガ第1泊地の意地を見せた。
人的被害は出てしまったものの、欧州とは比べ物にならない軽傷で未曽有の危機を乗り越えることができた。
明確に日本海軍は深海棲艦に大勝利したと言ってもいいだろう。
それはそれとして。
「なんじゃぁワレェ!! 儂らぁに協力するっちゅうておいて、人間共に寝返ったんか!? 死ななきゃ救われん人間共のために、アイツら全員ブチ殺しちゃろうって話じゃったろうが! この恥知らずがぁ!!」
「うっ、うっ……そうですよ、ヒドイです……同じ故郷の仲間じゃないですか。一緒に人類に痛みを教えてあげようって約束したのに、裏切るなんて……グスッ」
「いや裏切るも何もそんなことまで約束してないから。『私達も人類のとこに攻めこむ』って言っただけだから。約束果たしたから」
大規模作戦が終了し、快適な暮らしに慣れ切って後ろ髪ひかれまくりな応援の皆さんを、1週間ほど前に見送ったラバウル第10基地……つまり鯉住くんのところは、なんか知らんけどなんか知ってるかもしれない新顔のお客さんにアポなし突撃されていた。
いや、うちひとりは顔なじみとなってしまったガンビア・ベイなので、全員が全員初見というワケでもないのだが。
この1週間は『大規模作戦で消耗した鎮守府の機能回復』という名目で、随分と穏やかな日々を過ごせていたというのに……どうやらゆっくりできるのは昨日までだったようだ。
「ちょっとアンタ、なにこれ……?」
「俺が知るわけないでしょ叢雲さんや……」
「聞いてみてくださいよ提督……ベイさん色々知ってそうですし。……なんとなく見当はついてますが」
「だよねぇ……古鷹の言う通り、頭抱えたくなる事情がチラついてるけどさ。一応確認取ってみようか……」
なんか神主さんみたいな服着てる小柄な転化体と、髪をポニーテールにしたスタイル抜群な転化体から極力目を逸らしつつ、このふたりを連れてきて無理矢理転化させたガンビア・ベイに話題を振ってみる。
「あの、ベイさん。このおふたりはどちら様で? というかなんでウチに……?」
「わかんないの? こないだアドミラルさん達……日本海軍に沈められた奴らだよ。今日は主導者のふたりが復活したから反省会」
「やっぱりそんな感じかぁ……」
「こっちのジャパニーズ・ミコスタイルのちんちくりんがこの辺で頑張ってたやつで、こっちの優しさこじらせてるのがイージス艦から核ぶっ放したやつ。他の奴はまだ沈められてから浮かんできてないよ。年単位でかかるかもね」
「うーんこの……そっすか……。反省会ウチでやらないでほしいなぁ……」
悲しいことに予想通りの答えだった。大本営からの写真付き海域ボス情報が送られてきてたので、ふたりが転化する瞬間を見ていた鯉住くんと秘書艦ふたりは完全に察していた。
そもそも転化できる時点で並の姫級の実力は軽く越えてるので、もし人違いだったとしてもそれはそれでこの実力者ふたりは誰なのよって話になる。
「なーに人間とイチャコラしとるんじゃ貴様ぁ!! 契約違反したんじゃぞ!? 責任取って落とし前つけろやコラ!! 儂の人間共に対する慈悲を無碍にさせおって!!」
「だから違反してないってば。話くらい聞きなよ。アンタ艤装と同じで頭まで猪になったの?」
「ムキー!!」
あぁ、こないだ言ってた『全力で戦闘をする』云々の話なんだろうなぁ……
というかすごい主張してるなこの人。死んだらみんな平等! 争いもない素晴らしい世界! だからみんな殺すね!! 私ってば優しい!! ……ってコト!?
……いや、そうはならんやろ……なっとる、やろがい……。おかげで金剛さんの艤装に仕込んだ女神妖精さんが発動したらしいし、笑えないんスよねマジで……
この一般人が見たらフィクションにしか思えない現場の裏事情を、一瞬で察してしまう鯉住くん。別に話が早くていいんだけど、自分が常識離れしてきてるんじゃないかと思って少し悲しくなる。
なお心配してる本人ではあるが、彼が思っているよりも数倍は常識離れしちゃっている。手遅れも良いところだ。現実は非情である。
「シクシク……人間は愚かなんですよ……? 私達がちゃんとカラダと心の痛みを教えてあげないと、いつまで経っても猿から進化できないんですよ……?」
「アンタは泣き虫のクセに無自覚に口が悪いよね。別に人間なんてどうでもいいんだから、ほっとけばいいじゃん。変に干渉すると拗れてめんどいだけでしょ」
「ベイさんはなんて冷たいんでしょうか……。大切な人がカラダの芯からこんがり焼かれる悲しみ……核の炎の熱さを知る私が教えずに、誰が教えられると言うんですか? ベイさんならこの優しさ、分かってくださると思っていたのに……悲しくなります、うぅ……この冷血漢……」
「深海棲艦だからカラダ冷たくて当然でしょ? それにアンタの優しさはおせっかいだからね?」
こっちはなんか……人間サイドからするとほっといてくれと大声で叫びたくなる主張してる……。
人は痛い目見ないと反省しないから、地域ひとつ丸ごと消滅させて人類という種単位で痛手を与えた。だからみんな痛みを知って優しくなれるね!! ……ってコト!?
……いや、そうはならんやろ……なっとる、やろがい……。グアム島がお陰様で天国みたいな楽園(比喩表現)から天国みたいな楽園(焦土)になってしもうたんやで……? 洒落にならんのですわ……
心の中でツッコミを入れまくってる鯉住くんであるが、流石に口には出せない。言葉が通じる相手に対して、必ずしも会話が通じるわけではないのだ。変にツッコミ入れても藪蛇になりかねない。彼もその辺将棋の国とか鬼ヶ島とかでよくよく学んできた。経験が活きた形である。
しかし本当に驚きの事実なのだが、このふたり的にはさっきまで喋ってた内容は皮肉とか方便とかじゃない模様。このふたりなりにではあるが、本当に人類のためを思って行動してくれてたのだ。本気も本気だったのだ。
やった事、もしくはやろうとした事はとんでもないことだけども。あまりにも思考のベクトルが明後日の方向だけども。
愛情の反対は無関心なんて言うけど、この場合は無関心で居てくれる方が人類的には嬉しい。相互不干渉だと特に嬉しい。その辺の石ころばりに興味を持たないで、どーでもいい存在とか思っててほしい。
「あ、人間はどーでもいいけどアドミラルさん達はどうでも良くないからね。艤装達の面倒見てくれるし、アイオワとか五月蠅い奴らのガス抜き完璧にしてくれるし、変に警戒しないで話してくれるからこっちも気を張らなくていいし」
「しれっと心読まないでくださいよ……」
「顔に出てるからすぐわかるんだよ。深海棲艦に心読まれるとか分かりやすすぎだよね」
「ダメだしされた……はぁ、つら……。まぁいいや、嘆いてても仕方ないですし……。とりあえず皆さんお客さんなんで、お茶とお茶菓子用意しますね。復活して間もないってことなんで、疲れてお腹すいてるでしょうから軽食も用意します。それに波止場で話しててもアレですから、客間まで案内しますよ」
「至れり尽くせりじゃん。特別扱いされるの、そーいうとこだよ。嫌われたいんなら、もっと塩対応すりゃいいのに」
「そしたら攻撃されて被害甚大じゃないですか……」
「それはそうだよ」
「詰んでるんだよなぁ……ハァ……」
・・・
客間(お茶の間)まで移動中……
・・・
こんな非常事態でも、ここではお客さんの無茶ぶりに対応するのはいつもの事である。悲しいことに耐性がついてしまった鯉住くんと秘書艦ズは、流れるようにお持て成しの準備を進めた。
慣れた手つきで用意したのは、鎮守府棟の隣で採れた茶葉で淹れた煎茶、お茶請けの和菓子色々。そしてアメリカ艦だろうなって方もいるのでグミとかフライドポテトとかコーラとかそれっぽいもの。
元海域ボスのふたりとしては、なんで人間が自分たちの事を全然ビビってないのかとか、なんで鎮守府でこんなバリエーション豊かな食べ物が出てくるのかとか、なんで自分たちがこんなに抵抗感なく転化して艦娘になってるのかとか……なんか理解できないことがいっぱいだったので、おとなしく出された食べ物でもてなされることにした様子。考えることを放棄したともいう。
これでもラバウルやパラオで精鋭艦娘部隊と死闘を繰り広げた大物なのだが……そうは思えない姿がそこにはあった。
神主っぽい格好の元海域ボスは煎餅をポリポリしながらお茶をすすっているし、ポニーテールでワンピースな元海域ボスはコーラ飲みながらホットドックをムシャムシャ
している。
「で、一息ついたわけなんですが、なんで皆さんウチで反省会しようと思ったんですか? 別にここでやる理由なさそうに思うんですけど……」
「フン! 儂も知らんわそんな事! コイツが着いて来いとか抜かすから渋々従ってやったんじゃ!!
……ズズッ。むぅ、この煎茶、なかなかいい茶葉を使っとるようじゃのぅ。客をもてなす最低限の姿勢ぐらいは心得とるようじゃな。人間にしてはマシだと認めてやろうかのぅ」
「私も同じ理由です……グスッ。なんのつもりでベイが約束を反故にしたのか聞き出そうとしたのですが、それなら着いて来いと言われまして。……酷いでしょう? カラダだけでなく心までも冷たくなってはお終いですのに……友人を辞めるべきでしょうか?
……モグッ。ホットドッグなんて食べたのはいつぶりでしょうか……? イージス艦から人間をお掃除した時に、冷蔵庫に入っていたものをいただいた時かしら……?」
どうやらガンビア・ベイは理由を明かさずここに連れてきたようだ。ふたりとも細かい事情はよく知らないと言っている。
というか、どうにもこのふたり話が通じるようである。場に馴染みまくっている。つい先日まで日本海軍の敵として君臨してたというのに、なんともフレンドリーな人たちである。
こっちに配慮してなのかガンビア・ベイに無理矢理やらされたのかはわからないが、何故か艦娘の姿にまでなってくれちゃってるし。
「そっすか……。まぁ、なんと言いますか……おふたりなりに私たちの事を考えて行動を起こしてくださったみたいですのに、こちら側が拒む形になってしまい申し訳ないです」
「む。なんじゃ貴様、儂等の崇高な考えが理解できるんか?」
「まぁ……! 人間だというのに分かっていただけるんですね……!!」
「あー、その……私としては、理解はできるけどちょっと賛同は出来かねないと言いますか……」
「はぁ!? なんじゃ貴様期待させおってからに!!」
「ひ、酷い……持ち上げてから落とすなんて、非道な人間らしい所業です……うぅ……」
自分たちを理解してくれる相手が現れたと思ったら、急に梯子を外されたふたり。これにはちょっとご立腹なご様子。
「傷つけるつもりはなかったんですが……」
「なんなのアドミラルさん、また女を口説こうっての? この節操なし」
「口説くつもりもないんですが……」
「もっと言ってあげてくださいベイさん。提督はすぐ女の子に思わせぶりな態度取るんです」
「私達より新しい娘に興味津々なんでしょ。この裏切り者」
「裏切るつもりもないんですが……」
そしてついでとばかりに鯉住くんに言葉のバックスタブを仕掛けてくるその他の面々。
彼がご立腹してもだいたい自業自得なので、結局被害が拡大してしまう。よって甘んじてバックスタブを受け入れる。まぁちょっとだけお気持ち表明はしたけど。
なんか予想外のダメージが入ったが、鯉住くん的には彼女たちに『やり方は受け入れられないけど、こっちのために行動してくれた心意気には感謝したい』ということを伝えたいのだが……。なかなかうまい言い回しが思いつかず、言葉に詰まってしまった。
そんな時、ガラララッとふすまが勢いよく開いた!
「話は聞かせてもらった!!!」
「うおビックリした! ……って、ガングートさん!?」
「たまたま通りかかったのだ。そして一部始終も気になったから聞かせてもらったぞ!!」
「盗聴じゃないっすか!?」
「いいか、考えの浅い貴様ら! 私が本当の人間のヤバさを教えてやるからそこに直れ!!」
「なんじゃワレェ!? いきなり入ってきてギャアギャア騒ぎおって!!」
「こ、声が大きいです……ビックリしましたぁ……グスッ……」
ダイナミックに登場してきたのはガングートだった。なんでも暇を持て余して散歩してたらよく知らない気配を感じたので、鯉住くん達を波止場からストーキングしてきたらしい。
いや最初から居たんかい、という鯉住くんのツッコミを受け流し、何やらスマホをいじりだすガングート。目的のものが見つかったのか、物騒なこと言ってるふたりにずいっと画面を突き出した。
「これを見ろ! 死んであの世に行けば平等? 考えがぬるすぎる! 人間が2人以上いればすぐに格付けしだすのに平等とかありえないだろう頭お花畑め!! あの世なんてものがあったとしても、支配する者とただただ奪われる者に別れるに決まっている!!」
「な、なにぃ!? 好き勝手言いおって……死こそ唯一の救済なんじゃ!! そこまで言うからにゃよっぽどの根拠があるんじゃろうなこの露助ェ!!」
「フン! 参考資料に撮っておいたこれを見てみろ、考え無しめ! ……私はもう見たくないからひとりで見ろ!!」
「なんじゃあ、このファイル名は……? 『実地研修記録(封印したい)』……?」
・・・
ガングートの見てきた人工の地獄(三鷹提督謹製)を閲覧中……
・・・
「うわ……(ドン引き)」
「見たか! 死んであの世に行ったところで、人間はこういうことするんだぞ! ウチの提督くらいしかここまでの悍ましい所業は出来んだろうが、方向性は同じなんだぞ!! ただ殺してそのあとは幸せになってねとか無責任が過ぎる!! あの世も恐怖で支配するくらいの根性を見せろ!!」
「いやちょっと……うわ……何この……うわぁ……」
「ほら、そっちの辛気臭いのも見てみろ! これが人間の獣の部分だ!! 命を弄ぶのなんて序の口だぞ!! この施設を作ったウチの提督はそれでも優しいからな! 理性と感情を使い分けられる真の化け物だぞ! お前らなんぞが提督を差し置いて人類に教育などできるとつけあがるな!!」
「ひ、ひどい狂信者です……深海棲艦の私達よりも人間をうまく害せられるなんてそんな……ヒュッ(画像集を見て息をのむ音)」
「思いあがった鼻っ柱はへし折れたか!? 提督がいる以上その世界に地獄はいくらでも造り上げられる!! いや、懲罰施設である地獄よりももっとひどい……魂までもヤスリで無為に惨たらしく削りつくされ存在をなかったことにされるような、ただの無感情な屠殺場をだ!!」
「ヒ、ヒック……うえぇ……」
ガングートは何を見せたんだろうか? なんとなく察しがついてる鯉住くんはさておき、秘書艦ふたりは冷や汗を流している。
今まで死こそ救済とか、痛みを知るために殺すとか、そんな物騒な思想を口にしてた深海棲艦たち。それが自分のキャラも忘れてドン引きしてたり、怖くて泣いちゃったりするような、そんな写真……
いや、ただの写真でここまでなる? でもなってるしなぁ……。なんてことを考えつつ、絶対にその特級呪物にはこれ以上踏み込まない決心を固めている。
「それがわかったらとっとと反省して、これからの生き方を見つめなおせ!! なんだったら私が提督に言伝してやるぞ? 『私と同じで人類の支配に興味がありそうだから、研修受けさせてやってほしい』とな!! このフォルダに入った画像以上のものが見られるしなんなら体験させられるぞ!! 私はカリキュラムの60%以上は生理的に受け付けつけられず、リタイアを土下座で懇願したがな!! ハッハッハ!!」
「「 遠慮しときます 」」
「なにぃ!? この軟弱者どもめ!!」
ビックリするほど無感情で息の合った拒否であった。よっぽど嫌だったんだろう。
ガングートの熱の入った演説に、鯉住くんは思わずパチパチと拍手してしまったのだが……このガングート、誰がどう見ても立派な三鷹提督の狂信者である。
なるほど三鷹さんの狂信者ってこんな感じで脳が破壊されて産まれてくるんだなぁ……なんてことを現実逃避がてら考える鯉住くんなのであった。
「ねぇアドミラルさん、ここってこんなヤバいのまで居るの? 正直深海棲艦の私達のホームよりもヤバい場所になってる気がするんだけど」
「まぁ、その……多様性ということでここはひとつ……」
「純粋な悪意とかなら全然分かるんだけど、なんかこう……変態の見本市というかさ。まぁあの魚狂いを嫁にしてるアナタに言ってもわかんないと思うけどさ」
「サラッと人を変態扱いしないでくださいよ……まだ常識人のつもりなんですから。アークロイヤルについてもしっかりした女性ですから、そんな風に思わないであげてください」
「変態はみんなそう言うんだよ。あとついでにノロケないで」
「いやまぁその……ハァ」
なおその後、深海棲艦のふたりは人類に対する(はた迷惑な)情熱の火を鎮火されたせいなのか、随分と落ち着いてしまった。そんで暫くカラダを休めてくとか言ってここに居座ることになった。鯉住くんも秘書艦ズも、どうせそんなことになるだろと思ってたらしく、さして驚かなかったとか。
余談だが……後日、大本営の大和に事の顛末を報告したところ、電話越しに机に倒れ込む音が聞こえたとかなんとか。
大和の側から大規模作戦の戦後処理が終わったと連絡をしたところ、ヘビー級すぎるカウンターパンチでそんな話を聞かされたので、一発でノックアウトされてしまったのだ。戦後処理の激務もあって疲れていたところに新情報(メガ盛り)のオラオララッシュである。そんなん耐えきれるわけがない。
その日の夜は、大本営の明石に頼んで強力な胃薬を作ってもらう大和の姿があったとか。すごくかわいそうである。
大和はけっこう鯉住くんと電話で連絡を取っています。お友達なので。
だけどたまにこういう爆弾が放り込まれるので、どんなに些細な話をしててもほんの少しの警戒心は抱き続けているんだとか。
でも最近は『爆弾がでかすぎて警戒とか無意味なんじゃないの?』とのことで、ノーガード戦法を採用しているみたいです。