そんなこと定期にするなよって? それは本当にそうっすね……(目を逸らす)
ガンビア・ベイに連れられてきた大規模作戦の主犯2名が居ついてから1週間。
ふたりともやたらリラックスしてるせいで最初から実家レベルの振舞いだったのだが、ここ数日でその度合いが一層加速して居間(娯楽室)で寝転がりながら煎餅片手にテレビを観るまでになってしまった。
初対面の時に大演説をかました縁なのかガングートにしょっ引かれて畑の仕事をさせられていることも多いが、基本的には夏休みに帰省して実家でだらける大学生みたいな生活を満喫している。こないだまで激しく敵対していたとは思えない寛ぎっぷりである。
これには鎮守府メンバーも困惑……することもなく、提督がらみの案件は大体いつもこんな感じで丸く収まるので『またいつものか』くらいの受け取り方をしている。慣れたものである。
大規模作戦の際に受け入れていた増援メンバーが居なくなって余裕もできているので、2名ぽっち娯楽室に居座った程度では別に何ともないのだ。娯楽室が布団と駄菓子で占拠されていると言ってもメンバーは全員(鯉住くん以外)艦娘寮(高級旅館)の方に居を移しているので、実質そこは空き部屋となっている。おかげで手間がかからないのだ。
そんなグータラ生活を送る2名に鯉住くんは呼び出されていた。今さらお礼参りとかそういう物騒な用事ではないだろうが、一応念のため叢雲と天龍にも同席してもらっている。
「失礼しまーす」
「ようやっと来たか、遅いんじゃこのクソボケ」
「お待ちしておりました……そ、そんなに部下を引き連れてくるなんて、ケンカを売りに来たのですか……? やはり人類は狂暴……」
「相変わらず口悪いっすね……あとケンカは売るつもりありませんから安心してください。俺自身は皆さんからしたら吹けば飛ぶような貧弱フィジカルなんで、一応の護衛みたいなものですから」
「そういうこった。ま、提督になんか用があるって話だから、俺たちの出番は無いだろうけどな。近接戦なら負けるつもりはねーから変な気は起こすなよ?」
「コイツは人間にしては鍛えてるけど、私達からしたらどっこいどっこいだから護ってあげなきゃいけないのよ。……ていうか、アンタたち養ってもらってるクセに随分生意気じゃない。コイツこんなでもウチのトップなのよ? もっと敬意とか感謝とかないワケ?」
「じゃかぁしいわ。儂らの善意を蔑ろにした人間じゃぞ。しかもその上部下と称してぎょうさん女誑しこんどる輩には当然の評価じゃろ」
「それもそうね」
「叢雲? なんで一瞬で掌返したの???」
いつものように筆頭秘書艦に裏切られつつ、話が進まないのもしんどいのでさっさと着席する提督。それに合わせて両脇の天龍と叢雲も座布団に腰かける。ちなみに鉄底海峡ボスだった現・日進とグアム島を焦土にした現・サラトガは、それぞれの布団の上でどんと構えている。
「ふぅ、それでなんの用事なんですか? わざわざ呼びだしてまでする話だなんて。食堂でご飯食べるときのついでとかじゃマズい話ですか?」
「まぁそれでも構わんが、それなりに長くなりそうじゃからな。話っちゅうのはこないだの作戦についてじゃ」
「先日の大規模作戦の、ですか? 何か気になることでも?」
「そう、ですね……ガンビア・ベイに連れられてやってきたのはいいですが、マトモに反省会をしていなかったことに気づいて……うっかり寛いでしまいましたが、本末転倒だったなと……」
「そう言われると確かに」
そう。ガンビア・ベイがこの2名をここまで連れてきた(丸投げしてきたともいう)のだが、その連れてきた理由というのは『作戦失敗の反省会をするため』ということだった。まぁガンビア・ベイ本人としてはただの厄介払いの口実だったため、その辺はどうでもいいというのが本音だったりするのだが。
ということでわざわざこんな辺境までやってきたのに、快適さにかまけてグータラしてしまい、肝心の反省会を今までやっていなかったのだ。もちろん個々人で振り返りを多少はしているが、岡目八目という言葉もある通り自分のことなんて自分じゃわからないものだ。
ということで1週間も経った今になって、ようやく本題を思い出したということらしい。
そもそも自分たちが滅ぼそうとしてた人類に自分たちの反省点相談するとかどういうことなの、って感じではあるが、その辺鯉住くんに対しては相当気持ちの壁が薄くなっているので気にしてはいけない。心の壁はそれはもう薄くなっている。格安賃貸の壁くらいには薄くなっている。
「いやしかしですね、反省と言われてもどういった作戦だったか知らないので何も言えないんですが。とはいえ人間の私に詳細を説明なんてしたくないですよね……」
「とりあえずこのサラトガともう一体の空母姫級でパラオを強襲。浮足立つ連中を山城型姫級と瑞鶴型姫級の鬼札で殲滅。それと同時に精鋭であるリンガ泊地とラバウル基地を、それぞれ指揮能力がずば抜けとる陸上型姫級と儂で足止めあわよくば殲滅。そうすることで本土の戦力を援軍という形で各地に散らす。あとは……業腹じゃが儂らよりも実力が数段上の連中、あんのクソ戯け者のガンビア・ベイと一緒につるんどる連中5,6体送り込んで本土を焦土に。こういった展開をする予定じゃった」
「あ、教えてくれるんすね。ていうかエッグいな……ウチに来たお客さんたちがそのまま作戦に参加してたら被害甚大だったんじゃないです?」
「当然じゃ分かり切ったこと言うなやこのクソボケェ!! あンのド阿呆共がブッチせんかったらこがいな醜態さらさんで済んだんじゃ!!」
「まぁまぁ抑えて抑えて……」
「ホントに酷いんですよベイさんたち……私と同じアメリカ仲間だっていうのに、私達の覚悟を踏みにじるような真似をして……グスッ……どう償ってもらえばいいんでしょうか……」
「サラトガさん消極的なのに発言は尊大ですよね。……過ぎてしまったことは仕方ないですし、これからのことを考えましょうよ、おふたりとも」
「間接的とはいえ、儂らの野望を砕いたクセに我ぇも相当面の皮が厚いのぅ。これだからクソボケは……」
「そのクソボケってのやめません? 地味に傷つきますので……」
・・・
そこから始まった反省会は、なかなかお互いに実りのあるものとなった。
そもそもの話、日本海軍では事前に深海棲艦の動きが怪しいことを踏まえて、戦闘準備を入念に行っていた。いくら深海勢が奇襲に長けているとはいえ、その可能性が濃厚と分かっていれば打てる手なんていくらでもある。
それに傭兵のような立場のガンビア・ベイ達に作戦の要を任せておくのも良くなかった。
契約を順守させるだけの強制力があったワケでもなく、そうしなければいけないと意気込むほど彼女はカッチリした性格でない。話が通じるほど理性がしっかりしているだけあって、契約があってもなくても暴力を解放して暴れたいというタイプでもない。
まぁ約束を守るという程度の倫理観はしっかり持っていたので(実際に運動会を開催したのは彼女が交わした約束を守るため)人選が間違っていたとは言い難いのだが、それよりも鯉住くんと縁を作っておくことを優先してしまった。これはもう完全に事故みたいなものだ。巡り合わせが良くなかった。
逆に良かったこともある。
一番は同時奇襲のタイミングにほとんどラグがなかったこと。現サラトガの開戦の狼煙から1日も経たないうちに奇襲が同時に行われた。これは普通に脅威だった。瞬間火力の高さはいつの時代でも脅威である。
それに作戦自体も非常に完成度が高かった。日本海軍の要を過不足なく抑え、比較的戦力に劣るパラオ泊地を落とし、戦線をかき乱したのちに切り札で本土を襲撃する。
一度の襲撃で壊滅的大打撃を与えるという目的において、かなり合理的な作戦だったように思える。落とすべきパラオと本土には主戦力を多く集中させていたのも好判断だろう。
まぁ実際には本土には鼎大将派閥が居るので、そのままうまく本土壊滅といったかは疑問が残るところ。特に加二倉提督率いる修羅の面々が最終防衛戦力として立ちふさがるので、いくらガンビア・ベイ達と言えども好き勝手出来ていたかは怪しいところ。
しかしながら加二倉提督のところの艦娘が各地に派遣されるという案もあった。もしその通りになっていて、なおかつ次点戦力の伊郷元帥、鼎大将、一ノ瀬提督辺りの部下もそれぞれ派遣されていて、本土の護りが薄くなっていたのならば……分からなかったのかもしれない。
・・・
そんな感じで、それぞれ意見を出し合いながら反省会は終了した。
いくらある程度打ち解けたからと言って、敵である深海棲艦に要らない情報与えるなよ、と普通であればツッコミが入るところだが……本人たちに侵攻の意志が見られないので別にいいか、というのが現場の判断である。
そもそも兵を起こしたのだって人類を救済するため(本人的には)だったのだが、今はもうそのこだわりは鳴りを潜めているからだ。ガングートの猛烈な演説が冷や水になった形である。
「あーだこーだ話しましたけど、正直言ってそちらの運が悪かったに尽きるって感じですね」
「あァん!? そんな一言で片づけるなやアホたれが! 儂らに運がなかったのと違うて、我ぇの運が良すぎるだけじゃ!」
「そ、そうですよ……。アメリカ大型艦、総数7隻、それも本国で文字通り一騎当千の活躍をなさった皆さんが、配下を引き連れて同時に日本本土に攻め込む予定だったんですよ……? それがなぜ『ジャパニーズOMATURIに参加して満足したからこのまま帰る』なんて話になるんですか……?」
「まぁまぁ、皆さん楽しそうだったしそれでいいじゃないですか……」
「儂らは楽しくもなんともなかったんじゃこのクソ戯けが!!」
「いいじゃないですか。人類を救済するっていう考えは嬉しいですが、やり方はよくなかったわけですし。そのまま必要ない犠牲があまり出なかったのは不幸中の幸いですよ」
「どうしたって戦闘が激しい地域はあったから、沈んじまった奴もいるって話だがな。それでも提督の言う通り最低限で済んだとは思うぜ」
「天龍の言うとおりね。人間皆殺しが一番幸せなんて勝手な考えで犠牲なんて出ていいはずがないのよ。はた迷惑な話だわ」
「まぁまぁ叢雲抑えて……俺も同じ意見ではあるけど、こちら側だって日進さんやサラトガさん含めて深海棲艦たくさん沈めちゃったしさ……」
「こいつらは復活するし良いのよ。命の価値が軽い奴らなんて存分に沈めてやれば」
「フン! ちんちくりんな駆逐如きに儂らの考えなんぞわかるワケないんじゃ!」
「なによ! そっちだってちんちくりんじゃないの! そんなんで人類を救済なんてお題目掲げて、ヘソで茶が沸くわね!」
「あ゛? なんじゃとこのクソガキがぁ!」
「は? なによこのチンピラ!」
「まぁまぁまぁまぁ! お互いに抑えましょう、ね!? ほら、美味しいお菓子ありますよ! 伊良湖さん特製の最中を食べましょう、たくさんあるのでいっぱい食べましょう!」
「「 モグモグモグ!!! 」」
「むしゃむしゃ……ジャパニーズ・ワガシですね……。最初はアンコって苦手だったんですが、食べ慣れると美味しいですね……」
「お、この新作最中うめぇなぁ! なぁ提督、これ工場で増産する予定なのか? 最近の試作品の中だと俺はこれ一番好きだぜ」
「率直な感想ありがとう天龍! 伊良湖さんもそれ聞いたら喜ぶと思うよ!」
最中のおかげで、同じタイプっぽい叢雲と日進の火花バチバチが徐々に収まってきたのを見て、ようやく鯉住くんは一息つく。彼女は最初に比べたら随分落ち着いては来たが、なんだかんだ強力な戦闘力を有している存在だ。余り怒らせたくはない。
鯉住くんによってわんこそばの如く繰り出される和菓子ラッシュによって気持ちを落ち着けた日進。何か思い出したのか、別の話題を振り出した。
「もぐもぐ……そういえばじゃ。儂らは今の人類に発展の可能性なしと判断して、絶頂である今で終わらせようと全部滅ぼそうとした。それが正しいと思っていて、やりたかったことじゃ。もう実現するつもりはないが、その考えはそう間違っとらんと今でも思っとる」
「はぁ」
「でじゃ。何が言いたいかっちゅうと、我ぇのやりたいこととかやろうとしてることって何じゃ? なんだかよく分からんがガンビア・ベイ達が一目置いておるし、部下たちもようけ懐いとる。よっぽど艦娘や儂ら深海棲艦をひきつける何かがあると見た」
「うーん、そんな大層な事は考えてないんですが」
「嘘つけクソボケ。本当にそうなら誰も着いてこやせんわ」
「そうですかねぇ……? まぁ、俺がやりたいことと言えばですね。艦娘の皆さんが幸せに生きていくために奉仕すること……でした」
「は? 随分とまぁ自己犠牲甚だしい話じゃが、過去形か?」
「そうなんですよ。今はちょっと違ってですね。……艦娘の皆さんは深海棲艦と戦うことで現代社会では居場所を得ています。だから昔は深海棲艦を倒して自分たちはケガしないように、無事に帰れるようにって、艤装メンテナンスを通して役に立てればって、それだけ考えてました」
「提督の艤装メンテ技術はマジで異次元らしいからな」
「ありがと天龍。自分じゃピンとこない評価だけどね。……だけど提督をやってくうちにそれだけじゃいけないかなって思い始めたんですよ。深海棲艦の中には日進さんやサラトガさん、ガンビア・ベイさんみたいにちゃんと自分をもって生きてる人たちもいるし、アークロイヤルや天城、コマンダン・テストみたいに人間が気に入らなくて敵対してた人たちもいる。まぁ、要するにですね。艦娘の戦闘を助けるのはいいけど、戦う相手にも考えがあるって実感しちゃったんですよねぇ」
「なんじゃ我ぇ、儂らが考え無しの畜生かなんかと思っとったんか?」
「思ってたっていうか、実際大多数の深海棲艦って憎悪とか怒りとか絶望とか妬み嫉みとか、そういう薄暗い感情だけで動いてるじゃないですか。しっかり自分の考え持ってるのって相当強い人たちだけでしょう?」
「それはまぁ、そうですね。日進もワタシも配下については……簡単な命令でしか意思疎通できないので、仲間というより駒という感覚ですし……」
「だから。今の俺は色々知って思ったんですよ。『アレ? これ殺し合いする必要ある?』って。まぁ自我がない鬼級以下辺りですと、自己防衛のために戦わざるを得ないといけないと思いますが、貴女達のように話ができるのならワンチャンないかなって」
「またアンタは……そんな甘いこと考えてたのね」
「いいじゃないか叢雲、別に領土の取り合いしてるわけじゃないんだし、無理に争う理由もないし。そりゃアークロイヤルみたいな過激派がいるなら話は違ってくるけど、戦いたいとかゆっくり暮らしたいとかなら命の取り合いしないでもどうにでもなるし。……要はお隣さんみたいな感覚でお付き合いできないかなってこと。お互い深入りせずに戦闘なしで敷居を跨がず暮らしたいよねって」
「はー、提督はそんなこと考えてたのか。流石だぜ。俺は戦って勝てればそれでいいだけだからなー」
「実際そうしてくれないと話が進まないから、天龍みたいな人が居てくれるのはマジで助かるよ。まぁそれはそれとして、例えばもしお相手の家の敷地から木の枝が伸びてきてたとして、それ邪魔だから勝手に枝払いしていい? って確認だけでも取っておけたらいいな、ってさ。無断でやったらトラブルのタネだけど、確認取っとけば別にいいよで済む話というか……今の人類と理性ある深海棲艦の関係ってそんな感じじゃないかと思ってるんだよね」
もしこの場に居る日進とサラトガと事前に話ができていたら、今回のような大規模攻勢は起こらなかったかもしれない。
お互いに相手を知らないから起こるいざこざってものはままあるものなのだ。もちろん相手が武装してる以上話し合いの場を作るための武力は必要になるが、それでも大々的な戦闘になる前に片を付けられるのなら、それに越したことは無いという話。
……今思い返すと、魚類>>>>>人類なアークロイヤルと友好的な関係になれたのって本当になんでなんだろうか?
余りにも運が良かったとしか思えない。天龍のさっぱりした性格と、自分の鍛え上げたメンテ技術が噛み合ってなければ、非常に想像したくない展開になってた気がする。
「ふぅん。……まぁ我ぇが変人だってことはよう分かったわ。ぎょうさん人間ぶち殺してる儂らに味方しようなんて、村八分にされても文句言えんぞ?」
「幸い俺の周りは理解ある人たちばかりなので、そうはならないと思います。本当に人に恵まれていますよ」
「ケッ、そりゃ結構なことじゃ。よかったのう、ロクでもない人間に囲まれとらんで」
「まぁまぁそう気を悪くしないで。……あ、そうだ。もし良かったら色々世話になった人に会ってみます? 呉に居るんですけど」
「あん? なんじゃい藪から棒に」
「オイオイ、それマジで言ってんのか提督……?」
「アンタもしかしなくてもそれ鼎大将でしょ……。こいつら会わせるとか正気?」
「いやふたりともなんなのその怪訝そうな顔。日進さん広島が故郷っぽい感じだし、サラトガさんには日本の良いところ知ってもらいたいし、一回くらい観光がてら行ってみてもよさそうじゃない? あとは、ほら……結構前に話してたやつ。状況もだいぶ落ち着いてきたから、皆で旅行しようって思って」
「「 あー…… 」」
恥ずかしそうにしてる鯉住くんを見て、これまた恥ずかしそうに顔を赤くする叢雲と天龍。つまりどういうことかというと、色々落ち着いてきたから鯉住くんがそれなりに長く暮らしてた呉まで新婚旅行(団体)に出向こうという話なのだ。
「なぁサラトガぁ、こいつら儂らをダシにイチャコラし始めたぞ。なんなんじゃマジで。ぶちギレる気力も沸いてこんわ」
「私達、こんな人たちに負けたんですか……? よく分からない敗北感でどうにかなりそうです……」
なんか知らんけど御大層な話からいきなりピンク色空間を展開し始めた連中に、日進もサラトガも気力がごっそり削がれてしまうのであった。