ようやく本作も最終章と相成りました。だからと言って深刻なシリアス展開とかありませんが(裏ではあるが作品内には出てこなかったり)。
最後まで書いていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
第185話 久しぶりの本土
呉は造船の町として長い歴史がある。瀬戸内海という天然の要害の奥に面するという立地から、戦時に軍艦の造船が盛んだったという事実もある。
深海棲艦と艦娘が世界に出現し、海戦の様式が様変わりした現代であってもその風土は変わらない。呉は昔と変わらず造船の町として栄えており、関西方面で最も大きな派閥である呉鎮守府を抱えている。
そんな呉の港に接岸する連絡船から、ゾロゾロととある一団が降りてきた。本土からはるか南方に位置するラバウル第10基地からやってきた、日本海軍所属、鯉住龍太大佐及び彼率いる艦娘たちである。
今や日本海軍内でも色んな意味で超重要な立ち位置となった彼ら彼女らが、これまた重要拠点である呉第1鎮守府にやってきた目的。
それは……新婚旅行だった。
別に何か重要な役目があってやってきたわけではない。ただのウキウキハネムーンである。
普通であったら『なんだよ新婚旅行って。お前真面目にやれよ』と叱られる案件だが、普段からよくわかんない功績をよくわかんない頻度で積み重ねている彼に何か言える人間は早々いないのだ。そしてその数少ないモノ申せる相手達は彼以上に自由人だったりするので、実質的に鯉住くんは軍属にあるまじき自己判断裁量を持ってたりする。
そんな彼は呉の港の空気を吸ってニコニコしている。
これはいっぱいいる嫁たちと新婚旅行だぜ夜はハッスルしちゃうぜグフフ的な笑みではなく、久しぶりに昔の職場に戻ってきて懐かしいなぁ先輩たちとまた会えるの楽しみだなぁウフフ的な笑みだったりする。
・・・
なんでいい歳の男性が、より取り見取りの相手達と一緒にハネムーンという状況でムラムラしてないのか。その理由は男としては非常に同情を禁じ得ないものだったりする。
彼がこんなより取り見取りな美女美少女相手に劣情を我慢できる理由。それは……『もう部下だとか立場があるとかそういうの良いから、さっさと全員抱いて子供作れや!!早よしろ!!』とせっつきまくってくる性欲(と妖精さん一同)を、日々の筋トレによって本来と違った用途で消費しているから。
いまさら新婚旅行で嫁と組んづほぐれつできるくらいでムラムラすることはない。というか彼は、今までに嫁と組んづほぐれつしたこともなければこの旅行でするつもりもない。
彼の中では彼女たちは嫁というより大事な部下という位置づけの方が強いのだ。まぁ、押し切られてではあるが、全員の面倒見ると啖呵きったことがあるので、今さら自分を好いている相手を『ただの部下』とか突き放すような真似はしないが。
美少女と美女に囲まれて、本人たちからすらもさっさと手を出せと匂わされている環境。傍から見ればどう見積もっても男のロマン、ハーレムキング。しかし上司と部下の関係なので手を出したくない。だからと言って自室で発散しようにも妖精さんがいつもひっついてるので発散できない。八方塞がりも良いところ。
そんな中で生み出した苦肉の策……それが筋トレでスッキリ作戦だった。
加二倉提督のところで教わった肉体改造メニューを律儀にこなし、メニューに慣れたら本人と連絡を取って負荷を更新することで、性欲が顔を出したらすぐ引っ込められるような環境を構築。無限の筋トレスパイラルに自身を叩き込むことで心身共に追い込み、性欲を生存本能へと転換する。子孫繁栄に傾いた肉体を自己防衛の方向に舵を切らせるのだ。
逆立ち指立て伏せ10回を5セット、それを片手それぞれで。とかいう常人には不可能な殺人的荒行も、今となってはギリギリではあるがこなせるようになってしまった。
部下に性欲のまま手を出してしまう不逞の危険と比べれば、なんてことは……ないことは全くないが、それでもギリギリ地獄の筋トレを選ぶくらいの覚悟は持っているのだ。
おかげで今の彼の身体能力は、提督着任前と比べてそれはもう比較にならないほど凄いことになっている。懸垂くらいなら無限にできるし、フルマラソンくらいならちょっと息を切らせるくらいでできるし、反復横跳びさせれば目にもとまらぬ瞬発力を発揮することができる。普通に人類最高峰の肉体を手にしかけている。怪我の功名というのかなんというかである。
なお、しなやかで頑丈なローマ彫刻みたいな肉体を日々更新している提督に対して、一部の艦娘たちも相応にムラムラしていたりする。こっちはこっちで提督に襲い掛かりそうになる自分を律するのに苦労しているのだ。さっさとくっつけばそれで済む話なのに、難儀な連中である。
ちなみに一番ヤバいのは夕張。いつぞやの遊園地デートで情緒をぶっ壊されているのに加え、技術指導と称して毎日のように提督と至近距離で過ごしているので、艦娘が持つ本来は非常に薄い性欲がギャンギャン刺激されている。
彼女も提督と同じで戦闘訓練や演習で性欲を別方向に発散している。似たもの師弟であり似たもの夫婦でもある。
・・・
とってもどうでもいい閑話は休題。
そんな童貞を拗らせて鋼の肉体を手にしてしまった鯉住くんは、部下であり嫁のひとりである初春とその妹である子日と共に、呉鎮守府を遠目に眺めながら楽し気に話をしている。3人にとってはここはかつて違った立場で働いていた思い出の場所であるのだ。
「いやぁ、ここに来るのも久しぶりだなぁ」
「そうじゃのう。妾はお前様の元に嫁いでからは一度も本土に戻っておらんかったからの」
「初春さんには苦労かけます。あと嫁いだんじゃなくて異動でしたよね?」
「そのような些細なことを気にするものではないぞ? お前様に指輪を貰ったのは事実なんじゃから」
「それはまぁそうですが……ま、いいか」
「そうじゃそうじゃ。妾に選ばれたのじゃから堂々としておくと良いぞ」
「鯉住さんなら姉さんを幸せにできるって子日思ってるよ!」
「子日さんにそう言われると見栄を張りたくなっちゃいますね。みんなで幸せに過ごすためにも、思い出をたくさん作りましょうか」
「そうだね!! みんなで楽しい思い出作ろうね!」
どうみても仲の良い兄妹にしか見えない図だが、実際は旦那と嫁とその妹とかいう関係である。世間的に見たらどう考えても犯罪だし、鯉住くんもその辺非常に気にしているのだが、押し切られてしまったからには仕方ない。
なんだかんだ皆楽しそうだし、当事者が良ければもうそれでいいか……ということで、鯉住くんとしては深く考えることはもう諦めている。
「楽しみなのは楽しみなんだけどね。本当は皆で来れたらよかったなぁ」
「それは仕方あるまいよ。いくらなんでも鎮守府を空にするわけにはいかんじゃろ」
「留守番するって言ってくれたみんなには感謝だねぇ」
「そうですね、子日さんの言う通りです。満足してもらえるようなお土産買ってかないと」
いくら鯉住くん達が自由に動けるとはいえ、1週間以上も鎮守府を空にするわけにはいかない。ということで、留守番を申し出てくれた数名は今回の旅行に不参加だったりする。
具体的には精神的に成熟している北上、大井、足柄、そしてそもそもケッコン指輪を貰ってない甘味工場組。あとは人目に触れるとよろしくないマエストラーレである。
意外なところだと、絶対着いてきそうな伊良湖は想定通り相当ゴネたが、先日に甘味工場の責任者に抜擢されていることからそちらを優先せねばならず、泣く泣く諦めることになった。
あと水族館の管理があるのに着いてきたアークロイヤルは『admiralとのハネムーンを逃す理由がない』とのこと。留守の間の魚の世話はマエストラーレに投げてきたらしい。欧州壊滅の原因から事細かな世話の指示を受けていた彼女は、トラウマをほんのり思い出していたせいで目からハイライトを失っていたとか。
そんなこんなで本当に全員で来たというワケではなかったりする。大体のメンバーはそろっているのだが。
「妾としてはじゃ、居残り組の一部は見返りにお前様に『でぇと』を取り付けておったから、残ったことに関して特別感謝しているワケではないのじゃ。お前様をひとり占めして楽しむつもりじゃからの。お前様もお前様じゃ、妾を差し置いて他の女と出かけるのは感心せん!」
「まぁまぁ……初春さんとはここ、呉で一緒に過ごせるんですから」
プンスコする初春を見ながら、こういうところは見た目通りの年齢っぽいのになぁ、なんて思う鯉住くんである。
いつまでも港でたむろしていても仕方ない。和気藹々とした雰囲気で一行は呉第1鎮守府へと向かうのであった。
・・・
「Oh……」
一行は港からしばらく歩き、一部の者にとっては懐かしの呉第1鎮守府までやってきた。……のだが、正門のところで出迎えてくれた面々がすごく個性的だった。
「おお! なんだか久しぶりじゃな子日や! 神風型総出で出迎えじゃぞ!」
「そうだね姉さん! ラバウルに異動してから会うの初めてだもんねぇ!」
「なぁ明石、神風型の皆さんが出迎えてくれたのはいいんだけどさ……」
「やー、気合入ってるねぇ。愛されてるじゃん鯉住くん」
神風型が総出で出迎えてくれたのは分かる。鯉住くんはここでいち技術者として働いていた時は、駆逐艦の艤装整備を担当していた。なので一番絡みが多かったのは初春型と神風型だからだ。
……しかしその出迎え方は普通ではなかった。ド真ん中で仁王立ちするネームシップ1番艦神風。その左右でニコニコ微笑んでいる3番艦春風と5番艦旗風。それはまだいい。
問題はそのさらに左右。ネームシップ以上のドヤ顔でドでかい大漁旗をバッサバッサ振り回している、2番艦朝風と4番艦松風である。
なんだその自分たちの身長よりもデカい大漁旗は。それが2枚もはためいているではないか。よくよく見ると旗には荒波に舞い踊るマダイやマグロだけでなく、とても豪勢な宝船、そして『大歓迎!!』のチカラ強いフォントで刺繍されたクソデカ文字。
どう見ても今回の訪問のために誂えられた一品ものである。どんだけの労力がこの2枚の旗にはかかっているんだろうか? 誰がここまでしてくれと言ったのだろうか? 作成者というか下手人というかは間違いなく旗風だろう。彼女の微笑はどこか誇らしげだ。
「鯉住大佐一行、よく来てくれたわね! この私、ネームシップ神風を筆頭に神風型全員で案内するわ!! ようこそいらっしゃいました、そして一部の人たちはおかえりなさい!」
「こうしてお会いするのは鯉住さんが技術者をしていた時以来でしたよね。そんなにご立派になられて……春風は提督に推薦させていただいたひとりとして誇らしく思います」
「お久しぶりです鯉住さん……いえ、鯉住大佐! あなたが背中を押してくれたおかげで旗風は幸せな生活を送れています! 積もる話もありますので、是非後程お話させてくださいね!」
「私のこと覚えてるかしら!? 朝風よ!! 初春の事幸せにできてるようで安心したわ!! それそれ、歓迎の旗振りよっ!!」
「やあやあ色男! こんな美人をたくさん落としちゃって隅に置けないよねキミは! ボクの妹である旗風もキミにゾッコンさ! こんなゴージャスな旗を2枚も仕立てちゃうくらいにはね! そいやっそいやっ!」
なんか久しぶりにこのノリにさらされた気がする……。と鯉住くんは苦笑いだ。
今まで色んな艦娘だったり深海棲艦だったり人間だったりに振り回されてきたのだが、なんかこの駆逐戦隊神風レンジャーとのやりとりはそれらとは違った疲労を感じる。テンション高い女子中学生集団を相手にしてる感じだ。
このノリに振り回されるのも自分がメンテ技師だった時以来なので、なんだか感慨深いものがある。思えば遠くへ来たものだなぁとちょっとメランコリックな気分になる鯉住くんである。
「や、神風さんたち、わざわざお出迎えありがとうございます。自分としてはすごく懐かしいんですが、部下たちは他所での生活の勝手がわからない者もチラホラいますので、迷惑かけないよう注意していきますね」
「いいのよそんなこと、私達に任せておきなさいな! 神風型全員でお持て成し係に任命されたんだもの、任務はキッチリこなして見せるから!」
「頼もしいですね。ありがとうございます」
「さ、立ち話もなんだから、さっさと中まで案内するわ! こっちよ皆、着いてきてね!」
元気いっぱいで姉妹を先導していく神風に、バスガイドのごとく大漁旗をフリフリ続いていく残りの神風型。
そんな神風レンジャーを見た深海勢は『漁師のことは気に入らんが、芸術性の高いフラッグを生み出した功績だけは認めてやらんでもない』とか『あの旗のお魚おいしそうですね……』とか『こんなおちゃらけたんと儂ァ鎬を削り合っとったんか……』とか『ジャパニーズカルチャー……悪くないですね、いいですね』とかなんとか、既に楽しそうにしている。
そんな様子を見て、良くない問題は心配しなくてもよさそうだなと安心する鯉住くんであった。
小ネタというか裏情報
この世界で一番かわいそうなのは多分鼎大将の元奥さん