艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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初めてスマホで書いてみました。
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第187話 初の女(?)

 いきなりやって来てアクロバティックな乗船を決めたあと、鯉住くんにニコニコで抱きついてきたのは、呉第2鎮守府所属の陽炎型駆逐艦『陽炎改二』だった。

 日本海軍でも数えるほどしかいない、改二に到達した駆逐艦、その1隻である。

 

「やー、ほんっとうに待ちわびたわよ! あなたに会いたいって何度打診出しても暖簾に腕押し糠に釘だったんだから!」

「いや、ちょ、わかったんで、取り敢えず手を離して……重……」

「司令は堅物だから、やれ『必要ない』だの『負担になる』だの言って取り合ってくれなかったのよねー。妹たちもこっちの味方してくれないし、もー困っちゃうわよ!」

「ホントに、重いのでっ……艤装も装備、してますのでっ……頼むから降りてっ……!!」

「あ、それもそうねっ! ごめんごめん!」

 

 本人は軽くても、艤装を背負ってるせいで相当な重量になっている陽炎は、舌をペロッと出してウインクしながら甲板に着地した。

 彼女の総重量が三桁キログラムに迫っているのは、着地音が『スタッ』ではなく『ドスッ』であったことと、解き放たれた鯉住くんの下半身が10分耐久スクワットをやったあとみたいな状態になってることからも明らかだ。

 

 美少女に満面の笑みで抱きつかれたというのに、喜ぶところか膝に手をついてゼーハーしてる鯉住くん。

 そんな大変そうな彼なのだが、休憩してはいられないらしい。ちょっと普段見られないレベルで無表情な叢雲が声をかけてきた。

 

「ねぇアンタ、あの子はどこで引っかけてきたのよ」

「ゼェ、ゼェ……ちょっとあとでいい……?」

「アンタ普段もっとハードな筋トレしてるでしょ。息整ったらちゃっちゃと吐く」

「ウチの秘書艦が容赦ない……」

「他所の駆逐艦をたらしこんだ節操なしに言われたくないわね。で、どういう関係?」

「もうちょい待って……」

 

 深呼吸して脳とカラダに酸素を送り込みつつも、鯉住くんは考える。多分だけどあの陽炎は、ある意味で自分がもっとも知っている相手だ。

 と言っても、陽炎本人とは初対面。面識があったわけではない。鯉住くんは『彼女の艤装』を誰よりもよく知っているのだ。

 

 

 ……彼は大学生だったころ、柳教授の元でメンテ技師になるための修行をしていた。そしてその際には、学校側で用意される艦娘艤装を使って実習をしていた。

 

 学生のために運び込まれる艤装は、あくまで練習用ということや、日本海軍の所有物ということで、わりとシンプルで型式が古いものが多かった。代表されるのは駆逐艦の単装砲である。

 しかし鯉住くんのメンテの腕はメキメキと上達し、すぐにそんなシンプルな艤装では経験が積めないほどになってしまった。本人の自覚は一切ないが、研究室に配属されてわずか3ヶ月ほどで、卒業に問題ない程度の腕になっていた。

 

 実習用の艤装がない、などという理由で、この前途有望な若者の成長を陰らせてはならない。

 そう考えた柳教授は、自身の提督としての伝手を総動員し、だいぶ無理をして最先端の艤装を持ってくることにした。

 日本海軍としては、無関係の人間に最先端の艤装を触らせるなどもっての他。しかしそこは提督のもつ大きな裁量、そして自身の成し遂げた様々な功績を盾に交渉で解決した。

 

 貴重かつ複雑な艤装の中でも、最も重要かつ最も謎に包まれ、未だその動力源すら不明である、艦娘の『基本艤装(イラストで艦娘が背負ってるやつ)』。当然それについても柳教授は用意しており、鯉住くんはこのオーパーツの塊といってもよい謎の艤装に対して、ありとあらゆる方法で理解を深めていった。

 

 実はこの基本艤装の持ち主こそが、柳教授が提督として勤める呉第2鎮守府の誇る水雷戦隊、その一員である駆逐艦・陽炎だったのだ。

 

 鯉住くんが彼女の艤装に強烈な既視感を抱いたのは、そんな理由からだった。

 当時の陽炎は今では改ニとなり、艤装も面影をのこす程度になったというのに、それでも同じものと気づけたのはさすがの鯉住くんであった。

 

 

「ってことがあってね。たぶん学生の時に艤装を貸してくれた娘だと思う」

「正解よ! そっちも覚えててくれたなんて、照れちゃうわね!」

「なんでそんな前にメンテした艤装を面影だけで判別できたかは聞かないわ。アンタならそのくらいできるでしょうから……で、問題はなんで艤装でしか繋がりのない陽炎と初対面でこんな仲がいいのかってところよ」

「それは俺もわかんない……ってことなんだけど、なんでなんです?」

「ふっふーん、それはね……」

 

 

 ……今の陽炎は駆逐艦では本当に珍しい改ニに至った艦娘であり、呉第2輸送部隊のエースでもある。しかし鯉住くんがまだ学生だったころの陽炎は、あくまで水雷戦隊のメンバーのひとりという立ち位置だった。

 それがどうしてそこまで練度を高められたのかというと、なぜかやたら高い基本艤装つきの妖精さんの意欲と、なぜかやたらスムーズに動く基本艤装のお陰という面が強い。

 

 陽炎本人としては基本艤装を貸し出すという話になったときは『海上演習キツいからやらなくてよくてラッキー』程度のものだった。

  しかし艤装が戻ってきたとき、彼女はそれはもうビックリした。艤装についてる妖精さんたちが、目に見えてテンション爆増していたからだ。

 普段であればなんかこう『仕事ですから』といったドライな態度が見え隠れしていた妖精さんたちが、『早く出撃させてくれよ! 待ちきれないぜ!』みたいなテンションになっていた。なんなら陽炎を急かすために鼻フックして引っ張ったりもした。陽炎はキレた。

 

 艤装を貸し出す度にそんな状態になる上(なんかやたらデレデレしてるときもあったりした)、毎度毎度艤装の操作精度が謎に向上することもあり、陽炎本人もその学生について興味を持つようになった。

 姉妹艦から『陽炎だけズルい』みたいなブーイングを受けていたこともあり、陽炎は謎の学生の素性を知るべく柳提督に面会の要望を出したのだが、にべもなく却下。『学生相手に軍事機密の塊である艦娘が面談など言語道断』という正論ストレートパンチを喰らって撃沈した。

 

 そんなこんなしているうちに月日は流れ、鯉住くんが卒業して呉第1でメンテ技師として頑張るようになり、陽炎の艤装が貸し出されることもなくなってから起こった初めての大規模作戦。

『渾作戦』と名付けられたそれは、東南アジア圏の鎮守府と呉鎮守府で行ったパラオ諸島における一大防衛作戦であり、陽炎たち呉第2鎮守府の艦娘もそちらに参加することとなった。

 

 激戦に次ぐ激戦のなか、多くの鎮守府は毎日毎日運び込まれる大破した艤装を捌ききれず、機能不全に陥っていった。決して万一の備えを甘く見ていたわけではないのだが、とにかく泥沼のような戦場だったのだ。輸送部隊も戦闘を余儀なくされるほどの総力戦が繰り広げられた。

 そんな中でも、呉第1鎮守府だけは通常運転だった。というよりむしろ、他所の鎮守府から艤装修繕の仕事を積極的に請け負っていた。自分達の鎮守府にもすごい数の艦娘がいて、作戦にも惜しげなく投入しているというのに。他から見ると完全に意味不明であった。

 

 海に出ては輸送と兵站確保、そして突発戦闘。消耗した艤装と心を抱えて戻ってくれば、出撃準備が整うまで内勤仕事。最前線では昨日挨拶した仲間が戻ってこられないことも起こり、平和な記憶が磨り減っていく日常。

 そんな生活を送っているうちに、参加する駆逐艦の間で『艤装の調子がすごくいいときがある』という話がポツポツ出るようになった。

 それは呉第1鎮守府にメンテを依頼したときにだけ、しかも駆逐艦娘によく起こる不思議な出来事だった。

 

 呉第1鎮守府には、あの日本一の練度を誇る工作艦『明石』や、大本営から工廠技術長就任の打診を受けたのにも関わらず、妻と子供のために呉に残った傑物『赤平整備長』をはじめ、頭ひとつふたつ抜けた職人が何故だか揃っている。

 だからこそ、駆逐艦のやたら調子のいい艤装についても、ここまで艤装を動きやすく直してくれるなんて、流石は天下の呉第1整備班だ、なんて噂されていた。

 

 しかし、陽炎をはじめとした呉第2鎮守府の駆逐艦たちには理由がはっきりわかっていた。新しく第1鎮守府に就任した彼の功績だと。

 鯉住くんにより(無意識に)チューニングされた艤装を使っている陽炎には特によくわかった。『照準が勝手に修正される』『旋回速度が1割ほど増している』『クリティカルが明らかによく出る』『被弾した時の被害が心なしか少ない』これらはすべて、陽炎自身が体感してきたことだったからだ。

 鯉住くん製と思われる艤装整備を受けた妹にそう話したら『姉さんいつもこんな高性能な艤装使っとったん? ほんで自分はすごいって天狗になってたとか……ほんまよー言わんわ』と呆れられたので、間違いないだろう。

 

 大局的に見れば些細なことかもしれない。でも、現場で切った張ったを繰り広げるものから見れば、すべてが少しずつ底上げされる艤装整備には大きな価値があった。

 実際にこの底上げのお陰で死地から戻ることができたと話す部隊もいくつか出てきたし、なんなら陽炎の妹の数名も、その中に含まれていた。

 

 だからこそ陽炎は、渾作戦が完遂したあとも、鯉住くんが呉第1鎮守府から離れたあとも、殻を破って改ニに至れてからも、任務の傍らではあるが、ずっとずっと鯉住くんの動向を追い続けた(情報の出所は大抵鼎大将。鯉住くんのことになると面白おかしく話してくれる)。

 そして彼がいかに日本海軍、いや、人類に必要な存在か納得を深めていった。

 

 ヤバすぎる鎮守府3ヵ所での研修を完遂する。 

 新たな艦娘を建造炉から呼び出す。

 欧州全滅の悪魔に愛を教える。

 一騎当千の艦娘たちから悉く慕われる。

 食べ物から艤装のネジまで自給自足する。

 一区画の鎮守府だけで収支プラス運用する。

 ラバウル基地の大半の官民輸送護衛を担う。

 太平洋から来た戦略兵器たちに、笑顔とお土産を持たせ帰らせる。

 

 どれをとってもどう考えても不可能な所業ばかりであり、つまり陽炎から見て鯉住くんは不可能を可能にする唯一無二の人間だった。

 あまりにも童貞くさかったりロマンスが溢れすぎていたりする逸話もあいまって、可愛らしい人という評価もうなぎ登り。

 陽炎は鯉住くんのことが気になってしょうがなかった。顔も結構タイプだった。いつの間にやら彼女は鯉住くんの強火ファンと化していた。

 

 生来行動派の陽炎、こうなってくると落ち着いてはいられない。柳提督に改めて面会の要望を出した。『もう提督になったなら守秘義務とかいいでしょ!』という理屈である。妹たちも彼に会ってみたいのかそうだそうだといっている。

 しかし柳提督の答えはNO。『彼はもう興味本位で会っていい存在ではありません。貴女に構うほど暇ではありませんよ』とのこと。

 

 拒否されたことと、まるでこちらが暇人かのように扱われたことで陽炎はキレた。

 ならば実力行使と鎮守府から無断外出しようとしたところ、妹の不知火に捕縛された。そして、干していたのに早い段階で下にずり落ちていた布団を見るような目で見られた。そこに提督からのガチ説教をくらって陽炎は泣いた。水雷戦隊エースの貫禄はどこにもなかった。

 

 そういった経緯があって、陽炎はそれはもう今日という日が来るのを楽しみにしていたのだ。

 呉第1鎮守府からの連絡船が視界に入った瞬間に、制止する妹たちを振り切って単艦突撃してしまうほどには。

 

 

「まだまだ語り足りないけど、こんなところねっ!」

「すごい早口だったわ……」

「やたら自分が褒められる回想って、どんな気持ちで聞いていいかわかんないよな……」

 

 陽炎のマシンガン思い出トークを浴びせられて、叢雲は色々感じていたモヤモヤを吹き飛ばされてしまった。そして鯉住くんはストレートまっしぐらな突如湧いてでた激重感情に困惑しきりだった。

 食傷気味なふたりを前にして尚も意気軒昂な陽炎。その姿は長年推していたアイドルグループのライブにようやく参加できたファンのごとし。

 

 まだまだ話し足りないと、またもや長文詠唱をはじめようとした陽炎だったが……

 

「そこまでです陽炎。ふんっ」

「ガッ……!? いっっっったい!!! 主砲で殴ることないでしょうが!!!」

「暴走はアカンて陽炎姉さん。いくらこっちが会いたかった言うても、お相手はV.I.P.もええとこなんやから」

 

 いつの間にやら乗船していた妹たちに制裁を食らわされ、詠唱中断させられてしまった。

 

「愚姉がご迷惑おかけしました。不知火と言います。この度はお越しいただき感謝します。ご指導ご鞭撻よろしくお願いいたします」

「ウチは黒潮や。陽炎姉さんほどじゃないけど、ウチもあんさんたちのファンやねん。ぜひともよろしゅうな~」

 

 丁寧すぎる次女とゆるふわ系三女に、グレイのように連行された長女は、ジタバタしながら船から降ろされていった。

 

「ちょ、あんたら離しなさいって!!」

「離したらまたあちらに迷惑がかかるでしょう。ダメです」

「停泊できるところまで案内するから、ウチらについてきてな~」

 

 なんか今回の教導任務、すごい疲れそうだな……と、いつものように腹をくくる鯉住くんと叢雲。足取りを重くしながらも、操舵室で運転してくれている古鷹の元に向かうのだった。




回想ばっかで話が進まなかったですねぇ……
もっとテンポを大事にしたい所さんです
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