最近暑すぎて溶けそうですけど、乗り切っていきましょう!!
『流石は私たちの子だ。これは優秀な跡継ぎになるぞ』
『そうですわね、あなた』
……またか。
『○○様は一流の跡取りとして名を馳せねばならないのです。遊んでいる暇はありません』
『友達? いずれ貴女は下々の者を従える存在になるのよ。そんなもの不要だわ』
……どうせ目覚めたら、忘れてしまうのに。
『アンタ、気に入らないのよ!! お高くとまっちゃってムカつくのよ!!』
『教科書をどこにやったのって? 知りませんわそんなの。とっても偉い○○家なんですから、買いなおしたらよいのではなくて?』
寝ている間だけ、こんなものを思い出して。
『そんな馬鹿な!! 懇意にしている××社の役員が不祥事だと!?』
『貴方、なんとかしてよ!! このままじゃ私たち破滅だわ!!』
アァ、うるさいうるさい。こちらは寝ているのよ。
『ハン、生意気な女だ。没落した元名家の小娘が』
『いくら優秀な頭でも、人間関係がわかっていなくてはなぁ? その美貌の上手な使い方を教えてやろうと言ってるんだよ』
耳障りな幻聴だこと。薄汚いサル共め。
『アンタみたいな恵まれた頭の女にはわからないでしょうね!? 研究成果を少しくらい譲ってくれたっていいでしょう!?』
『キミの研究は荒唐無稽が過ぎる。そんな研究は誰も認めないし金も引っ張ってこれないぞ』
何の努力もしないで、足を引っ張るだけのサル共め。
『コネだけで移動してきた穀潰しに、挟める口があると思うなよ』
『非現実的な研究は辞めろー!! 国民の血税を無駄遣いするなー!!』
なんの未来も創り出せない、怠惰で愚かな寄生虫どもめ!!
『大変申し上げづらいですが、他国の暗部が貴女の研究を狙っています。国防上の観点から見ても、あなたの身の安全を考えても、研究を凍結してもらうしかありません』
『……落ち着いて聞いてください。食事に毒が混ぜられていました。貴女は一命をとりとめられましたが、お腹のお子さんの方は……』
人の気持ちを塵芥ホドニモ考エテイナイ、無脳ノ寄生虫ドモメ……!!
『疫病神め、お前のせいで滅茶苦茶だ!! 家と一緒に燃え死んじまえ!!』
『どうして、どうして先輩だけがこんな目に……! こんな非道が許されていいはずがないでしょう!!』
……人類ナド、コノ美シイ世界ニ存在シテヨイ生キ物デハナイ。
滅ボサナイトイケナイ……一匹残ラズ、後悔ノ中デ引キ裂イテヤラナイトイケナイ……!!
キット私ハ、ソノタメニ生マレテ来タノ。
『世の中が君の夢を拒んでも、君自身が君の夢を支えきれなくなっても。僕だけは絶対に君の夢を諦めないよ』
……キット、私ハ……。
……。
・・・
「目ヲ覚マサレマシタカ、ゴ主人様」
「……ドノ程度寝テイタノカシラ?」
「オヨソ6時間ホド。……ゴ気分ガ優レナイヨウデスガ、何カ飲ミ物ヲオ持チシマショウカ?」
「結構ヨ。ドウヤラ、悪イ夢ヲ見テイタヨウネ……何ノ夢カハ、覚エテイナイノダケレドモ」
「ソウナノデスカ。ゴ主人様ガ魘サレナガラ寝テイル姿ヲ見ルノハ、従者トシテトテモ心配デス」
「気ニシナイデイイワ。……デモ、ソウネ。ソロソロ、カシラ」
「ソロソロ、ト言イマスト?」
「人間……ソウ、人間ヲ駆除シマショウカ」
「!! オオ……ヨウヤクデスカ!!」
「エエ。今マデ気ガ乗ラナカッタノダケレドモ……ソロソロ、ネ」
「ソレデハ各所ニ通達シテ参リマス。何カ特別ナ指示ハアリマスカ?」
「ソウ、ネ。はわいノ家畜共ハ後回シデ良イワ。北ノ姫ガ実験トシテ使ッテイタノダシ、連絡モ無シニ処分シテシマッテハ可哀ソウダモノ」
「ソレモソウデスネ。承リマシタ。……ソレデハ各所ニ『思イ思イ蹂躙セヨ』トノ通達ヲ下シマス。ドウカゴ期待下サイ」
「エエ、ソレデ良イワ。イッテラッシャイ」
「ハッ!!」
「……私ハイッタイ、何ヲ忘レテイルノカシラネ……」
・・・
『久しぶりだな鯉住大佐。早速だが大佐は今より少将である』
「お久しぶりです元帥。のっけから飛ばしすぎでは??」
ここは常夏の国であるパプアニューギニア。その中でも太平洋側の都市、ポポンデッタに建てられた日本海軍ラバウル第10基地。
そこの提督であり、日本海軍内でもトップクラスに多方面でやらかしてきた提督、鯉住龍太大佐は、組織のトップである伊郷元帥と電話越しに話していた。
いつも通りに執務室でせっせこ事務仕事をしていたところ、おもむろにかかってきた電話には『伊郷元帥』の文字。鯉住くんはそれはもう驚いた。
そういった突然の上司からの連絡は悲しいことによくあることなのだが、だからと言って慣れるものでもない。鯉住くんは覚悟を決めて電話を取ったのだが、そしたらいきなりの冒頭のセリフだった。
『呉第2鎮守府の後方支援能力を劇的に向上させたことで、昇進の最後の一押しになったのだ』
「えぇ……そんなに大したことできてないと思うんですが……」
『転化体関連の出来事と比べてしまえば、大したことのない仕事だったと言いたくなるのはわかる。だが、すでに十二分に成果を出している鎮守府の艦隊運用能力を2割近く向上させたとなれば、一般的には破格の仕事と見られるのだ』
「それはそう、なんですかね……?」
つい最近の鯉住くんの仕事で元帥の言う通りの結果を叩き出したのだが、悲しいかな彼にとっては『特別なことは何もしてない』程度の認識だったりする。
変な功績を頭のおかしい量積み上げ続けたせいで、彼の中での貢献度感覚はボロボロになっているのだ。いつまでも立場に慣れず、小市民感覚が抜けないのである。
『まあよい。大佐……少将らしい反応で安心するというものだ』
「なんか釈然としませんが、もう急な昇進くらいなら受け入れられるようになりましたよ。それで、わざわざ電話で連絡くださったのって、それを伝えるためだけじゃないですよね? それだけでいいなら電文で足りますし」
『うむ。その通りであり……ついに大規模作戦の開始が決まった』
「!! ついにですか……」
前々から聞いていた大規模作戦が、ついに始まるとのこと。
今回の大規模作戦は普段のものとは違う。敵の攻勢に抗うものでも、一気呵成に勢力圏を拡大するものでもない、日本国、ひいては人類全体の未来を左右する作戦なのだ。
わざわざ直属の上司である白蓮大将でなく、さらに上の伊郷元帥直々から情報が届けられたのも、今回の作戦の重要性を裏付けている。
さすがにこれには普段のんきしている鯉住くんも緊張する。
『鯉住少将にも今回の作戦では大いに働いてもらうことになるだろう。気を引き締めて……いや、少将に関しては通常どおりが良いのだろうな。己の心に従って行動してもらうことを期待する』
「ハイ、任せてください! 私も部下のみんなも、誠心誠意臨ませていただきます!」
『うむ、頼もしい限り。では、詳しくは前線基地を予定するトラック第1泊地でブリーフィングを行うので、その際に説明しようと思う。会議の日時は後に電文で伝えるので、必要と思うメンバーを連れてきてもらいたい』
「承知しました」
『では、そちらから質問はあるか?』
「いえ、今のところは。詳しくは電文で送ってくれるってことですし」
『ならばよい』
ついに始まる大規模作戦。
これが日本海軍としての、深海棲艦との争いにおけるラストミッションになれば。
やっと終わりが見えてきて、こみ上げるものがある鯉住くん。なんとしても相手の気持ちを理解して、なんやかんやいい方向にもってければなぁ、と、ざっくりした決意を固めるのだった。
『ちなみに作戦名は鼎君により『正月と言えばハワイ旅行大作戦』と決まったので、そう呼ぶように。長ければ『正月ハワイ作戦』でもよい。ではこれにて通話を終了する』
「……え……?」
受話器の向こうからはツーツーと電子音が聞こえる。
伝えるべきことを伝え終わった元帥は、鯉住くんの困惑など気に留めず電話を切ってしまった。
「「「 …… 」」」
鯉住くんに加えて、一緒の部屋にいて通話内容が聞こえてた秘書官の叢雲、古鷹もこれには絶句。
「いや、まぁ、昔は正月のハワイ旅行なんて文化があったって聞くし、ちょうど来月は12月だけどさぁ……」
人類の行く末を決める一大決戦に、そのネーミングはどうなのさ……
やっぱりなんとも締まらない鯉住くんたちなのであった。