艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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出撃についてですが、各拠点の担当海域内で難易度分けされています。
ゲーム本編では鎮守府近海や沖ノ島、北方海域など八面六臂の活躍をしますが、このお話ではラバウルの提督はラバウルの担当海域にしか出撃しません。
鯉住君からしたら、1-1も2-1も3-1も全部ラバウルの担当海域ですね。
ただし海軍が総力をかけて臨む大規模作戦は、その限りではありませんが。


第19話

 

艤装の開発に成功し、出撃の下準備が整った3人は、出港のために港まで来ていた。

 

天気もよく、海の調子は穏やかだ。初出撃には絶好の日より。

時刻はまだ昼前であり、今から出撃しても日が高いうちに帰ってくることができるだろう。

 

 

「私たちはどこまで行ってくればいい?海域の主力艦隊でも倒してくればいい?」

 

 

魚雷の開発に成功して、ニコニコしている叢雲。元々好戦的なこともあり、初出撃でテンションが上がっているようだ。

2人で海域攻略などという無謀な発言をしている。

 

 

「いやいや……流石に主力艦隊はまだ早いでしょ。戦うべきじゃないだろう」

 

「ですね。私も叢雲さんも初出撃ですし、肩慣らし程度にした方がいいと思います」

 

 

叢雲に対して夕張は冷静なようだ。

若干浮足立っている叢雲のお目付け役として、ストッパーになってくれるだろう。

色々あったが建造で彼女が来てくれたのは、とてもラッキーだったと言える。

 

 

「オーケー。それじゃ艤装の動きの確認を主目的に、1戦で切り上げて戻ってくるように。

その後のことはそれから考えよう」

 

「むう。ちょっと物足りないけど……わかったわ」

 

「あ、そういえば羅針盤はどうします?

初戦で切り上げるだけなら必要ないかもしれませんが……」

 

「いや、不慮の事故を防ぐためにも、持っていくようにしよう。

何かの間違いで強力な艦隊に鉢合わせる可能性もある。そうなるとかなり厳しいし」

 

「わかりました! さすがは提督、考えてくださってますね!」

 

 

夕張が言う『羅針盤』とは、妖精さんの謎技術と風水を組み合わせて作られた艤装の1つだ。

 

その日その時に『幸運な』方角を示してくれる機能を持ち、その方角に従って進んでいる限り、艦隊が誰1人欠けることなく帰還することができる。

その効果は、それなしでは出撃できないほど絶大であり、轟沈の回避には必須の装備となっている。

 

夕張は1戦だけで切り上げるなら不要と考えたようだが、鯉住君はこう考えた。

この海域に全く慣れていない現状を鑑みると、トラブルが起こったとしたら、低練度の2人だけでは対処しきれないだろう、と。

そうなってしまえば最悪轟沈もあるだろうし、そんな要らぬリスクを背負う必要は無い。

 

 

「そういうことで羅針盤にはしっかり従うように。あと仕留めそこなっても深追いは禁止ね」

 

「わかってるわよ。そんな心配しないでも平気よ」

 

「ま、信用はしてるさ。よろしく頼むよ」

 

 

早く出撃したいとうずうずしている叢雲にも釘を刺したことだし、もう言うことはない。

海軍式敬礼で2人を送り出す。

 

 

「それじゃ行ってくるわね。

……叢雲、出撃するわ!ついてらっしゃい!」

 

「はい!」

 

 

ザザーッ……

 

 

旗艦を叢雲に、港から出発する2人。まるでスケートで滑るかのように、海面を走っていく。

記念すべき初出撃に、不安と期待が半々といった気持ちである。

 

 

 

・・・

 

 

 

後姿が見えなくなるまで2人の姿を眺めたあと、執務室へと戻った鯉住君。

 

秘書艦が出撃している今、書類仕事は提督がやるべき仕事だ。

彼は書類仕事が得意ではないが、カラダを張って部下が戦っている以上、手を抜くわけにもいかない。

 

 

「さてと、今日の書類は……と」

 

 

pcを開き、デイリー任務を印刷する。

その中にある日報書類に、本日の建造炉稼働結果、出撃内容など、今記入できる部分にたどたどしくも経緯を記入していく。

 

秘書艦に大体の書類仕事を任せて、自分は工廠で仕事をしようと画策している鯉住君ではある。

しかしこういう場合にカバーできる程度には、事務もできるようになっておかねばなるまい。

 

不慣れな仕事に苦戦していると、少し気になる光景が目に入る。

 

 

「……あれ? お前ら、アイツどこ行ったの?」

 

 

いつも鯉住君の周りをうろちょろしている妖精さん。その内の1人の姿が見えない。

今までも数が減ったり増えたりしてきた自由奔放な彼女たちなので、姿が見えない程度ならよくあることだ。

しかし、書類仕事が停滞していたこともあり、なんとなく気になって聞いてみた。

 

 

(らしんばんにくっついていきましたー)

 

(なんだかやれそうなきがするって)

 

 

「え……? なにそれ?何をやるつもりなの?」

 

 

(わかんない)

 

(きっとすてきなこと)

 

 

「お前ら……叢雲さんが頭抱えるようなことはするなよ。見てて不憫だから……」

 

 

((だいじょーぶだいじょーぶ!!))

 

 

「そのドヤ顔見てると、逆に不安になってくるんだよなぁ……」

 

 

何とも言い知れぬ不安の中、慣れない書類仕事を進める鯉住君。

しかし当然というか、既定路線というか、すぐにこの不安は的中することになる……

 

 

 

・・・

 

 

 

「作戦完了ね……艦隊が帰投よ……」

 

「お、おう……」

 

 

数時間後、無事に深海棲艦との戦闘を終えた艦隊が帰ってきた。

今は執務室で報告中である。

 

 

「その、なんだ……ケガはないか?」

 

「あ、イ級1体だけだったので、先制攻撃で倒せました。

ですから損傷者はいません」

 

「それはよかったよ、夕張さん。……それで、叢雲さん?」

 

「……何よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この方はどちら様ですか?」

 

 

「やっほ~。よろしく」

 

 

「……」

 

 

 

あ……ありのまま今起こったことを話すぜ!

『俺は部下の2人を出迎えるはずだったんだが、気づいた時には3人を出迎えていた』

な……何を言っているのかわからないと思うが、俺にも何が起こったのかわからない……

頭がどうにかなりそうだ……

ドロップがここ数年確認されてないとか、艦娘の数は頭打ちになっているとか、

そんなチャチな常識じゃ断じて説明できねぇ……

もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……

 

 

 

「えーと、その……あなたのお名前はなんて言うんですか……?」

 

「んー? アタシは軽巡『北上』。まーよろしく」

 

「アッハイ。よろしくお願いします……」

 

 

現実が呑み込めない中、ギギギと叢雲の方に説明を求める視線を向ける鯉住君だったが、顔を逸らされてしまった。

その表情は確認できないが、『私に聞かないで。いっぱいいっぱいなの』という心の声が聞こえた気がしたので、追及は避けることにした。

さっき行方不明だった妖精さんが、叢雲の頭の上でドヤ顔をしているのが腹立たしい。

 

 

「なんだ、その……色々ご苦労だったな。叢雲さん……」

 

「……」

 

「書類仕事は俺がやっといたから、今日は自室で休んでいていいぞ……」

 

「……そう。……そうさせてもらうわ……」

 

 

鯉住君の一言を受け、フラフラと執務室を離れていく叢雲。

ああ、この光景昨日も見たなぁ……と現実逃避する鯉住君に、夕張が話しかける。

 

 

「あの……提督、よかったんですか? 旗艦の叢雲さんが戦闘報告しないでも」

 

「あぁ、うん……今の彼女に何かを頼めるほど、俺は薄情じゃないよ……」

 

「そ、そうですか……」

 

「申し訳ないけど、代わりに夕張さんに報告書作成をお願いしてもいいかな?

書類作成のテンプレも渡すから、困ることはないと思う」

 

「はい!わかりました!」

 

「ありがとう。助かるよ」

 

「へ~。なかなか優しい提督じゃん。アタシ的にもオッケーかな」

 

「……ええと、ありがとうございます」

 

 

いつまでも現実から目を背けているわけにもいかない。

どうして彼女がいるのか、事の顛末を説明してもらわねば……

 

 

「夕張さん、重ねて申し訳ないんだけど、もうひとついいかな?

彼女……北上さんって言ったか。どうやって遭遇したか教えてくれないか?」

 

「あ、はい! わかりました!」

 

 

仲間が増えて嬉しいのか、夕張は元気いっぱいに説明を始めた。

 

 

「あれは駆逐イ級を倒して帰還する途中でした。

 

いきなり羅針盤にくっついてきた妖精さんが、鎮守府とは違う方向を示したんです。

すると羅針盤の針も同じ方向を指し始めたんで、叢雲さんと2人で相談して、ついていくことにしました。

するとその先で、海の上に倒れている北上さんを発見したんです。

もしかしたら他鎮守府の艦娘がはぐれたのかと思い、意識を取り戻すまで2人で警戒待機していました。

しかし目を覚ました北上さんに話を聞いてみると、「どこの鎮守府にも所属していない、気がついたら今の状態だった」ということでしたので、ドロップと判断して連れ帰ってきた、というわけです」

 

 

「そ、そうか、それはご苦労だったな……

初出撃で疲れただろうから、夕張も休憩を取ってくれ。書類は本日の18時までに出してくれればいいから……」

 

「はい! お心遣いありがとうございます!」

 

 

そう言うと夕張は元気よく退出していった。

叢雲とはえらい違いである。

 

 

「えー……そうだな……北上さん」

 

「ん~? どったの?」

 

「さっきの夕張さんの話でおかしなところはあった?

もしくは何か提督である俺に伝えておきたいこととかある?」

 

「いや、別にないかなー」

 

「そうか。それならいいんだ。それじゃ今からキミの処遇を説明するね」

 

「はーい」

 

「一応キミはドロップ艦ということになるから、ひとまずはここ……ラバウル第10基地の所属艦娘ってことになる。

でもドロップが報告されたのなんて数年ぶりだし、正直新米の俺の判断じゃ、これからどうなるかについては断言することはできない」

 

「え? 提督って新人さんなの?」

 

「新人も新人。昨日ここに着任したばかりだよ」

 

「へー、ふーん。 アタシってば、なかなか面白いとこに来ちゃったみたいだね」

 

「はは……面白いかどうかは自分じゃよくわからないけどね……

それで話の続きだけど、結局キミのドロップは異例の事態というやつだから、一度大将に報告して指示を仰ぐことになる。ここまではいいかな?」

 

「おっけーだよ」

 

「よし。その報告っていうのは今日中にやってしまうから、今のままこの鎮守府所属でいくのか、よその鎮守府に異動になるかは、明日にでも報告する。

しかし結局、どちらにせよ、すぐに動くということにはならないはずだ。

だから少なくとも数日間は、ここで暮らしてもらうことになる。

とりあえずは叢雲……は余裕なさそうだから、夕張にここでの生活の仕方を教えてもらうようにしよう」

 

「りょーかい。夕張っちに色々聞けばいいんだねー?」

 

「そうそう。ただし今彼女は初出撃帰りで疲労がたまってるだろうし、書類仕事も任せちゃったから、ちょっとしてから聞きに行ってもらおうかな」

 

「アタシは別にそれでいいけどさー。それまでどこにいればいいの?」

 

「そうだな……それじゃ俺が鎮守府を案内しようか」

 

「提督自ら? いや~光栄だね~」

 

「零細鎮守府だからそんなもんだよ。それじゃ行こうか」

 

「おっけー」

 

 

・・・

 

案内中

 

・・・

 

 

案内は何事もなく終了したものの、何とも言えない表情の北上。

 

 

「……ねー提督。ひとつ聞きたいことがあるんだけど」

 

「ここは民家じゃなくて鎮守府で合ってるからな?」

 

「提督ってエスパーなの?」

 

「……毎回同じこと聞かれれば、そりゃねぇ……」

 

「あ―……そう……まぁ……そうねぇ……」

 

 

若干いたたまれない空気になってしまった。

話の流れを変えるためにも、鯉住君は北上にひとつ、気になっていたことを質問する。

 

 

「……北上さん、ひとつ聞きたいんだけどさ。キミって戦うのは好きかな?」

 

「え? どしたの急に?」

 

「いやさ。この鎮守府って後方支援メインで運営してくつもりなんだよ。

だからキミが戦うのが好きなら、ここでの生活は満足できないんじゃないかな。

白蓮大将……ここラバウル基地の統括をしてる大将なんだけど、その大将に報告するときに、キミの意見も知っときたいと思ってね」

 

「うーん、知ってたところでアタシの処遇が変わるもんじゃないでしょ?」

 

「いやいや、ちゃんとそういうことは聞いてくれる大将だからさ。

あまりこういうこと聞くのも野暮かもしれないけど、大事なことだしね」

 

「まー、そうねぇ……アタシはどっちでもいいかな」

 

「どっちでもいい?」

 

「そうだよー。やれって言われりゃやるし、やんなくていいならやんない」

 

「……そっか。それじゃ大将にもそういうふうに言っとくよ」

 

「ん、ありがと。

……ここの緩い雰囲気は好きだから、できたらここに居たいなぁ」

 

 

納得したような表情をしている北上をみて、少し安心した鯉住君。

 

 

「それじゃ、さっき別れたばかりだけど、夕張さんにキミのこと頼めるか聞いてみよう。

すぐに動けるってことなら、そのままお願いしちゃうから、一緒についてきてくれ」

 

 

「わかったー」

 

 

 

 

 

 

またもや起こる不測の事態に、そろそろ胃の痛みが心配になってきた鯉住君と叢雲。

まだ着任2日目だというのに、これから先大丈夫なのだろうか?

 

 




この世界ではドロップが確認されたのは数年前です。
建造で艦娘が出てくるよりもレアケースとなっております。
艦娘の数が頭打ちになっている、というのが通説ですが、ホントのところは誰にも分っておりません。

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