艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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鯉住くんは熱帯魚愛好家です


第2話

鯉住「……おはようございます。鼎大将」

 

鼎「やあおはよう。今日の仕事はどうかな?」

 

鯉住「順調ですね。午後も初春型の皆さんの艤装メンテして終わりですし」

 

鼎「そうかそうか。実に結構」

 

鯉住「……大将」

 

鼎「ん?何かな?」

 

 

鯉住「提督はやりませんよ」

 

 

鼎「……」

 

鯉住「……」

 

鼎「キミはエスパーなのかね?」

 

鯉住「いやいや、誰だって分かりますから!

アナタ毎日俺に勧誘しかけてくるじゃないですか!

顔合わせるたびに「提督やらない?」って!」

 

鼎「えー」

 

鯉住「えー、じゃないですよ……

とにかく俺は提督なんてできる器じゃありませんって!」

 

(いくじなしー)

 

(はやくもうしでをうけるのです)

 

(らくになれるよ)

 

鯉住「ええい!人の事煽るんじゃありません!」

 

(((ぶーぶー)))

 

鼎「こんなに妖精さんに懐かれてる人間なんて、わし見たことないよ」

 

鯉住「これは懐かれてるんですかねぇ……?」

 

(どこまでもおともいたします)

 

(たとえひのなかみずのなか)

 

(はらへった)

 

鯉住「わかったって……ほらからあげ」

 

(((ひゅーっ!!)))

 

 

まったく、俺のことからかって、いい気なもんだ。

こう言っては失礼だが、

こいつらはその場のノリでしか動いてない気がする。

うちの福ちゃん(ミドリフグ)の方がおりこうさんだ。

あっ痛い、ゴメンて、殴んないで。悪かったから。

ん?今俺なんもしゃべってないよな?エスパーかよ。

 

…まあともかく、俺についてきてくれてるのも、

ノリの一部じゃないかと踏んでいる。

だって別に俺こいつらに好かれるような特別なことはしてないし、

いつ俺から離れていっても不思議じゃない。

 

提督になってからそんなことが起こっても

責任取れませんよ。私は。

 

 

鼎「もしキミが提督になったら、

すぐにわしぐらいなら追い抜かれちゃうと思うんだけどなー」

 

鯉住「ありませんって」

 

鼎「美人ぞろいの艦娘とキャッキャウフフできるよ?」

 

鯉住「守ってくれてる相手をそんなふうに見ませんって」

 

鼎「お給料すごいよ?年収1000万円なんて目じゃないよ?」

 

鯉住「俺は今のお給料で満足ですって」

 

鼎「……」

 

鯉住「……」

 

鼎「……キミの意志の固さは姫級だね」

 

鯉住「そんなことありませんよ……」

 

 

いつものように、大将からの熱烈なアプローチをいなしていると、

大将の横に腰かける美人さんが口を開く。

 

 

??「鯉住さんは提督の何がそんなにお嫌いなのですか?」

 

鯉住「……嫌いってわけじゃないですよ、春風さん」

 

 

彼女は神風型3番艦駆逐艦「春風」。

俺が艤装メンテを担当している駆逐艦のひとりだ。

今日は彼女が鼎大将の秘書艦を務めているらしい。

 

神風型の皆さんは、みんな大正ロマンあふれる格好をしているが、

その中でも春風さんは断トツでおしとやかだ。

特徴はその髪型だろう。左右にドリルがついている。

男のロマンと女性の美しさを兼ね備えているなんて反則だと思う。

その髪ってどうやってセットしてるんだろ?毎朝大変じゃない?

 

 

春風「鯉住さん?何か失礼なことを考えていらっしゃらないかしら?」

 

鯉住「そそ、そんなことないですよ」

 

 

また考えが読まれた。エスパーかよ。

 

 

春風「まったく……わたくしも鯉住さんが提督に着任するのには賛成ですわ」

 

鯉住「な、なんででしょうか」

 

春風「わたくしたち艦娘でさえ、妖精さんと会話できないんですよ?

それができる鯉住さんが提督にならないで、誰が提督になるっていうんですか」

 

鼎「そうだそうだ!もっと言ってやれ!春風君!」

 

 

大将うるさい。

あと春風さんの押しがえらく強い。

キミそんなタイプじゃなかったよね?

3歩下がって付いてくる系の淑女だったよね?

 

 

鯉住「いやいや、買いかぶりすぎです。

こいつらも、いつ飽きて居なくなっちゃうかわからないし、

妖精さんと話せるってだけで提督になることなんてできませんよ」

 

春風「わたくしが鯉住さんを推薦する理由は、

妖精さんと話ができるから、だけじゃありませんわ」

 

鯉住「……と、言いますと?」

 

春風「毎日の艤装を見ればわかりますわ。

鯉住さんがどれだけ丁寧にメンテナンスをしてくれているか。

わたくしたちがどれだけ艤装を大破させてきても、

鯉住さんは新品みたいにピカピカにしてくれるじゃありませんか。

そこまでしていただけるのは、

鯉住さんがわたくしたちの無事を願ってくれているからなのでしょう?

違いますか?」

 

鯉住「いや、それは、そうなんですが……

技術屋としては、仕事をしっかりするのは当然であって……」

 

春風「え……わたくしたちの事、大切に思ってくれていないのでしょうか……?」

 

鯉住「うっ……」

 

 

ヴァーーーー!!ダメだ!可愛すぎる!!

なんだこの生き物!最高かよ!何考えてんだ俺!

やめて!そんな悲しそうな目でこっちをまっすぐ見るのは!!

罪悪感が!罪悪感が!助けて妖精さん!!

 

 

(おんなのこをかなしませるなんて……)

 

(みそこないました)

 

(このたらし)

 

 

助けろっつってんだろ!誰がトドメ刺せって言った!!

ええい、このままでは春風さんを泣かせてしまう!

それだけは避けねば……!

 

 

鯉住「そ、そんなはずありません。

艦娘の皆さんのおかげで俺達は生きていられるんです。

皆さんのことを蔑ろ(ないがしろ)にするなんてありえませんよ」

 

春風「あぁ……よかった。

わたくし、鯉住さんに嫌われていたらどうしようかと思いました。

大切に思ってくれているんですよね……?」

 

鯉住「は……はい……」

 

 

だ、だめだ、あと一歩で理性が飛ぶ。

年頃の男性に対してその態度はどうかと思うんですよ?春風さん。

破壊力がありすぎます。51cm連装砲か何かですか?

 

 

鼎「いやあ、アツいアツい。昼間から見せつけられちゃったのう」

 

 

ありがとよ、クソ提督。

アンタのおかげで正気に戻れたよ。

 

 

春風「提督に私達艦娘が求めるものは、そこなんです

どれだけわたくしたちを大切に思っていただけるか。

そして、どれだけ大きなものを守るために努力できるか」

 

春風「鯉住さんは、そのどちらも十分すぎるほど満たしていると思いますわ。

だからわたくしもこうして推薦させていただいているんです」

 

鯉住「いやあ、いくら何でも買いかぶりすぎでは……」

 

春風「いえ、買いかぶってなどいません」

 

鯉住「……はい」

 

 

なんだこれ?

すっごいもち上げられながら勧誘されてるぞこれ。

これが俗にいうハニートラップってやつ?

頭の中とろけさせて判断力を鈍らせるってやつ?

 

……落ち着け、冷静になれ。クールになれ。

このまま押し切られては俺が提督になる流れができてしまう。

それだけは避けねば。

 

確かに艦娘の皆さんの事は大事に思っているし、

深海棲艦とうまく折り合いつけるにはどうすればいいかな、なんて

妄想してたりもする。

自分に何ができるかってのも考えてもいる。

だから春風さんのいっていることは見当外れというわけではない。

 

でも提督になるってのはちょっと違う気がするんだよなぁ。

俺、戦いとか一番向いてない人種だと思うし。

 

うん、よし、冷静になれたぞ。

やっぱ提督とかできないわ。危ない危ない。

 

 

(((ちっ)))

 

 

オイ聞こえてたぞ今の舌打ち。お前らもあっち側かよ。四面楚歌かよ。

全方向から囲まれるほどやらかしてるつもりはないんですけど。

 

 

鯉住「春風さんのお気持ちは本当に嬉しいんですが、

提督業が俺に務まるとはどうしても思えないんですよ……」

 

春風「……むー」

 

 

かわいい。

 

 

鼎「こんな美人からの誘いを断るなんて……

鯉住君はまさか男色男爵なのか?」

 

鯉住「違いますから!綺麗な女性が好きですから!

なんすかその無駄に語呂がいい造語!!変なところにセンス使わないで下さい!!」

 

春風「まぁ……綺麗な女性だなんて……お上手なんだから……」

 

鯉住「春風さんのこと言ったわけじゃないですよ!?

頬を染めないで!こっちが恥ずかしくなるから!

確かに春風さんはお綺麗ですけど、そういうつもりじゃないですって!!」

 

鼎「ホッホッホ。まあいいじゃろ。

早く昼食を食べねば午後の業務に支障をきたしてしまう。

邪魔したの。また来るからの」

 

春風「ウフフ。そうですね。お邪魔になっても申し訳ありませんし。

名残惜しいですが、失礼いたしますわ」

 

鯉住「はー……はー……は、はい。それではまた……」

 

 

食堂に訪れた嵐は、満足げな笑い声と共に去っていった。

 

あぁ、疲れた……

毎日こんな感じだもんな。

ぶっちゃけ通常業務よりも勧誘お断りの方が疲れる……

 

でもなんとか今日も凌ぐことができたぞ。よくやった、俺。

 

 

鯉住「さてと、ようやく飯が食べれ……る……ぞ……」

 

 

おかしい。

 

俺の目の前には唐揚げ定食があるはずだ。

しかしどうみてもこれは「唐揚げ定食」ではない。「唐揚げ抜き唐揚げ定食」だ。

具体的には、ごはんとみそ汁と唐揚げ皿に盛られたキャベツ&ミニトマトだ。

 

鯉住「オイ」

 

(((……)))

 

鯉住「何をだんまり決め込んでるんですかねぇ……?」

 

(は、はやくたべよう)

 

(ご、ごごのしごとがはじまっちゃうよ)

 

(さ、さー、がんばるぞー)

 

動揺が隠し切れていない。

目が泳いでいる。すっごい不自然にわちゃわちゃしている。

どんだけ隠し事が下手なんだ、こいつらは。

 

鯉住「はぁ……まあいいか」

 

悪い奴らじゃないってのはわかるんだけど、

どうにも俺じゃ、こいつらに言う事聞かせられないよなー。

 

提督になったら色々と妖精さんに仕事を頼まなきゃいけないんだよな。

 

(さすがこいずみのあにき)

 

(そのうつわはでかかった)

 

(ごちそうさまでした)

 

そんなん絶対無理だろ、この感じだと。

高く買ってくれてるのは嬉しいけど、

やっぱり俺じゃ提督はできないだろう。

 

鯉住「ま、今でも十分充実してるし、それでいっか」

 

質素な食事となってしまった昼飯をかっこみ、

午後の業務にむかう鯉住君なのであった。




バランスの悪いお昼ご飯を食べた鯉住君の前に、
初春型四天王が立ちはだかる!

次回「子日は四天王の中でも最弱……」

お楽しみに!

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