艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

20 / 185
鯉住君はペットのフグたちも、しっかりラバウルまで連れてきています。
暖かい地域なので、ヒーター要らずで喜んでいるようです。
彼は以前ヒーターの事故に遭遇し、水槽ひとつ丸々ダメにした苦い経験があるのです。


第20話

すぅーっ……とんっ

 

 

「さて、これで一安心だな……」

 

 

夕張に北上を預け、部屋を退出する鯉住君。

2人は同じ軽巡だし、一緒にこの部屋に住むことになるのだろうか。

2人の楽しそうな様子を見てホッとする。部下同士の仲は良いに越したことはない。

 

 

北上に鎮守府案内をした後……つい今しがたである。夕張に彼女の事を頼めるか聞きに行った。

夕張は書類仕事中だったので断られるかと思ったが、快く引き受けてくれた。

ホントにいい子だ。大事にしないと。

 

北上も北上で、「色々教えてくれるんだし、書類仕事を手伝う」と言ってくれるし、それを聞いた夕張も喜んでいた。

 

本当に艦娘の皆さんは素晴らしい子ばかりだ。彼女たちの爪の垢でも煎じて飲んだほうがいいかもしれない。

 

艦娘の性格に感心する鯉住君。

 

 

(びしょうじょのからだのいちぶをのみたい……)

 

(ろりこんなだけじゃなく、さらなるとくしゅせいへきまで……)

 

(どんびきです……)

 

 

お前らなぁ……お前ら……ホントにお前らは……

今度ことわざ辞典を読ませてやるから、しっかりと言葉の意味を調べるように。

あと今日のおやつは抜き。

 

 

(((なんでー!!)))

 

 

ブーたれるんじゃありません。口は禍の元。これもことわざ辞典で調べるように。

 

 

 

口は禍の元とかいうブーメランを盛大に投げつつ、鯉住君は隣の部屋へと足を延ばす。

 

 

 

「さて、叢雲さんにフォローを入れておかないと……」

 

 

昨日今日と、鎮守府が民家だった衝撃から始まり、まさかの夕張建造、北上ドロップと、想定外と言うのも生温いような事態が続いている。

常識人であり、予定通りいかない事態にめっぽう弱い叢雲。

彼女のキャパシティは、とっくに限界を超えている。

 

このまま放っておいては、熱を出して寝込んでしまうかもしれない。

似たような性格である鯉住君(ただし致命的に一部察しが悪い)には、彼女の心労が理解できており、なんとかしてやらないと、と心配していた。

 

 

トントンッ

 

 

「おぉい、叢雲さん、起きてるかい?」

 

(何よ……)

 

「調子はどうだい?」

 

(わざわざ言わないでもわかってるでしょ……)

 

「まあねぇ……キミのせいじゃないんだし、気にしちゃダメだよ」

 

(わかってるわよ、ていうかむしろアンタのせいでしょ……)

 

「いやいや、それは違うんじゃないかな……

まぁ、それは置いといて、明日から秘書艦交代しようか?」

 

(……なんでそうなるのよ)

 

「秘書艦やってると、叢雲さん真面目だからプレッシャー感じちゃうでしょ?

元々1か月くらいはコツコツやるつもりだったんだし、のんびりするのもいいじゃない」

 

(……)

 

「ほら、ここって魚がいっぱいいるからさ、釣りして過ごすってのも……」

 

(……やる)

 

「……え? ちょっと小声だったから何言ったかわからな……」

 

 

 

ガラッ!!

 

 

 

「や゛る゛!」

 

 

「お、おう……」

 

 

勢いよく部屋から出てきた叢雲は、鼻声で鯉住君に訴える。

部屋で泣いていたのか、元々赤みがかっていた目は、さらに赤くなってしまっている。

まさかの勢いに圧される鯉住君。

 

 

「わだじがまがざれだんだから、わだじがや゛る゛!!」

 

「そ、そうか……とりあえず、はい、ハンカチ」

 

 

ズビーッ!!

 

 

「う゛ぅ……アンタを任されたのは私なんだから、私が責任もって秘書艦やるの!!」

 

「は、はい……でもホントに大丈夫……?」

 

「やるっていったらやるの!わかったらどっかいって!!」

 

「わ、わかった。わかったって」

 

 

半ギレになりながら鯉住君を執務室の方に押し出す叢雲。

あんな勢いでまくし立てられては、どうすることもできない。

素直におとなしく執務室に戻ることにした鯉住君。

 

 

「あ、そうだ。明日も今日と同じで8時集合な」

 

「わかってるわよっ! もうっ!」

 

 

ピシャリッ!

 

 

 

・・・

 

 

 

叢雲のガス抜きを終え、執務室に戻った鯉住君。

あの調子ならこれ以上ふさぎ込むことはないだろう。これでちょっと安心だ。

 

しかし今から始まるのは、今日一番の大仕事。

気を抜くのはまだ早い。

 

 

「さて……気は重いけど、早く連絡しないといけないな……」

 

 

そう。北上がドロップした件の報告である。

 

ラバウル第1基地の大将、名前は白蓮雄正(しらはすゆうせい)。

46歳にして重要拠点を任される、やり手の人物である。

性格は豪快で、細かいことは気にしない。そのため部下からの信頼も厚く、頼りになる人物だ。

 

呉第1鎮守府の鼎大将とは仲が良く、よく連絡を取り合っているようだ。

本土招集があった時なんかは一緒に酒を呑むほどらしい。

 

そんな大将だからこそ、夕張建造の時は笑って流してくれたのだが、

いくらなんでも異例の事態が2度目である。

今度はどのような反応をされるのか全く読めない。

 

 

「大将に目を付けられると、今後活動しづらくなっちゃうしなぁ……」

 

 

縁の下のチカラ持ちな鎮守府を目指す鯉住君としては、色々と目立ってしまうのは都合が悪いようだ。黒子的なポジションを狙っているらしい。

 

ちなみに彼自身は気づいていないが、とっくの昔に多方面から目をつけられている。

 

 

「ええい!うじうじしてても仕方ない! さっさと終わらせよう!」

 

 

意を決し、ラバウル第1基地に直通電話をかける。

 

 

プルルルル……

 

 

ガチャッ

 

 

『はい。こちらラバウル第1基地です』

 

「あ、もしもし。ラバウル第10基地の鯉住です。お世話になっております」

 

『あら、鯉住少佐ですか。何のご用ですか?』

 

「えーとですね、ちょっと緊急の報告がありまして……白蓮大将はお手すきですか?」

 

『え? もしかしてまた何かやらかされたんですか?』

 

「えーと、まぁ、その……はい」

 

『うふふ、話題に事欠かない方ですね。

わかりました。今から呼んできますので、少々お待ちください』

 

「あ、はい。 ありがとうございます」

 

 

~~~♪♪♪

 

プツッ

 

 

『おう!代わったぞ!俺だ!』

 

「あ、大将。昨日はありがとうございました」

 

『なに、構わん構わん!ろくでもないことしたわけでもないからな!

むしろ戦力強化したんだろ?だったら文句なんて言うわけねぇって!』

 

「そう言ってもらえると、こちらも助かります」

 

『それでお前、高雄の奴から聞いたぞ!?また何かやらかしたんだってなぁ!』

 

「あ、はい……非常に申し上げにくいのですが……」

 

『何言ってんだ!昨日よりもたまげる話なんて早々ねぇだろ!言ってみろ言ってみろ!』

 

 

 

 

 

「えーとですね……北上がドロップしました……」

 

 

 

 

 

『……は?』

 

 

 

 

 

「いや、あのですね。

今日初めて出撃したんですが、軽巡の北上がドロップしました」

 

『え? いやお前……マジで?』

 

「マジです……なんかスイマセン……」

 

『……』

 

 

大将は黙ってしまった……流石に想定外すぎたか……

 

 

 

「あの……大将?」

 

 

 

 

 

『……ブフッ! ヒャハハハハハッ!!』

 

 

 

シリアスな話になるかと思ったが、そういうことではなかったらしい。

 

 

『おいお前、ブフッ! どこをどうしたら着任2日でそんなことになるんだよ!

前代未聞も良いところだぜ!?一体どうやったらそんなことが起こるんだよ!!

ブフーーーッ!!』

 

「いやそんな、笑わないで下さいよ……

俺もうちの秘書艦も、そのことで心労がたたってるんですから……」

 

『いいじゃねぇかよ!面白いし!

それでどうすんだ?その北上。お前んとこで面倒見るのか?』

 

「あ、えーですね……本人に意向を確認したんですが、ウチのことは気に入ってくれたみたいです。だからウチで面倒見れればと思っているんですが……

大丈夫なんですか?貴重な新規艦の所属を、そんなあっさり決めてしまっても」

 

『いいっていいって。どうせお前んとこに何人か異動させなきゃなんない予定だったんだ。

いくら小規模鎮守府ったって、10人前後は所属艦娘がいないといけないからな。

それが自前で調達できたってんだから、何も言うことはねえ』

 

「お心遣いありがとうございます。では、北上にもそのように伝えておきますね。

……あ、そうだ。特別に何か書類を用意したりは……」

 

『あー、昨日送ってくれたのは、あれでいいって高雄が言ってたからなあ。

ドロップについても似たようなもんでいいだろ』

 

「了解しました」

 

『そしたらあれだ。お前んとこには既に3人艦娘がいるってことか?』

 

「あ、はい。そうですね」

 

『ふーむ、当初の予定よりも、鎮守府本格稼働を早めてもいいかもな。

お前はどうだ?それでいいか?』

 

「あー、と。俺はそれでも何とかなりますが、叢雲が……」

 

『叢雲……お前んとこの秘書艦か』

 

「はい。彼女はとても真面目ないい子なので、想定外が重なって、いっぱいいっぱいになってるんです。

だから状況がこれ以上変わるとどうなるかが心配で……」

 

『何だお前、保護者みてえだな』

 

「いや、だって彼女まだ小学生みたいなものじゃないですか。

大人がその辺気遣ってやらないといけないでしょう」

 

『ククッ、やっぱお前面白いわ。そんなこと本気で言う奴そうそう居ねえよ?

いやー、鼎のじっさまから引き取って正解だったぜ!』

 

「えぇ……? 自分は普通だと思うんですが……」

 

『本気でそう思ってるあたりが普通じゃねぇわな!

ま、いいさ。お前が叢雲の保護者だってんなら、アイツの心労もお前が何とかしろ!』

 

「うえ!?」

 

『ちゅーわけで、ウチから1人そっちに異動させる!誰かは楽しみにしとけ!

こっからは一足どころか何足も早ぇが、鎮守府本格稼働だ!任せたぜ!』

 

「え!?ちょ!?」

 

『じゃーな! またなんかやらかしたら、すぐに連絡入れろよ!切るぜー!』

 

 

プツッ……ツーツーツー

 

 

「……あれが一拠点任される人間のパワーか……電話しただけですごいエネルギー使ったな……」

 

 

今の数分のやり取りだけで疲労困憊になった鯉住君。

暫くはのんびりする予定だったのだが、状況が変わった今、これからの業務内容を考えなければならない。

 

 

「明日の朝礼では、色々と報告しないとなぁ……」

 

 

今から叢雲がショックを受ける光景が目に浮かぶ。

フォローの方法を考えておかないと……

 

 

 

 

昨日からの着任で1か月はのんびりするはずだったが、そうもいかない事態になってしまった第10基地。

上司経験が皆無な鯉住君はうまく運営することができるのだろうか?

そして秘書官の叢雲はどこまで耐えられるのだろうか?




このお話のヒロインは誰なんでしょうね……?

1.初春ちゃん ○
2.叢雲ちゃん ○
3.夕張さん  ▲
4.北上さん  △ 
5.赤城さん  ◎
6.アイツ   ○

こんな感じでしょうか?
正解は私にもよくわかりません(投げやり

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。