艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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この世界での日本とアメリカは、物理的に分断されています。
ただ、通信衛星やインターネットについては生きているので、連絡を取ることはできます。

ハワイ辺りは完全に深海棲艦の支配下となっているため、船舶はもちろん、航空機さえも通過できないようですね。海も空も、何か強力な深海棲艦によって掌握されているのです。
唯一太平洋を物理的に移動できるのは、ロシア・アラスカ間のベーリング海くらいでしょうか。それでも当然艦娘の護衛は必須ですが。



第22話

鎮守府に着任して1週間が経った。

ようやく仕事にも慣れ、落ち着いてきたところだ。

 

あれから艦娘3人体勢で鎮守府を回しているのだが、なかなかうまくいっていると感じる。

無事に1-1と呼ばれる海域を解放することもできたし、1-2の解放も目の前というところまで来た。小規模ではあるが、護衛任務での遠征もこなすことができた。

 

自分で言うのもなんだが、零細鎮守府としては、結構頑張っている方なのではないだろうか。

実際直属の上司である白蓮大将にも、よくやってると褒めてもらっている。

 

 

 

……ちなみに夕張さんが弟子入りした件については叢雲さんには話していない。

 

本当は弟子入りしてしまった翌日に話そうと思ったのだが、第1基地からひとり艦娘が派遣されることになったと先に話したら、涙目で怒られてしまった。

 

「私そんなの聞いてないわよ!」とか「どうしてアンタはイレギュラーばっかり引き寄せるの!?」とか「心の準備が全然できてないのよ!」とか、そんなことを言われた。

 

かなり理不尽にまくし立てられた気がするが、彼女の心の内を思うと大目に見ざるを得なかった。

 

 

そのタイミングで、夕張が弟子入りした、なんて話した日には、堪え切れずに泣いてしまったかもしれない。

そんな無慈悲な連撃で、子供を泣かせてしまうようなひどい大人にはなりたくはない。

隠せるところは隠しておくべきだ。

 

もちろん夕張には、他の人の前で師匠と呼ばないように釘を刺しておいた。

その際彼女から「ふたりだけのヒミツですね!」と、キラキラした瞳で言われた。

もう北上さんが知ってるからふたりだけじゃないでしょ?、とツッコミを入れようとしたのだが、彼女の嬉しそうな顔を見ていると、口に出すことはできなかった。

 

 

 

そんなこんなでなんとかやってきたのだが、今日は例の艦娘の異動がある日だ。

週一の定期連絡船と一緒にやってくるらしい。

 

ちなみに白蓮大将の計らいで、第1基地で使用しない艤装もある程度譲ってもらえることになっている。一緒に定期連絡船で送ってくれるとの事。

狙った艤装を出すのが不可能なので、これはかなりありがたい。

 

艤装の性能が良い悪い以前に、艤装の種類をそもそも揃えられないのが現状。

第一線では使用に耐えないような性能のものでも、この零細鎮守府では重宝することになる。

 

もちろん艦娘自体の増員もありがたい話だ。

鎮守府本格稼働を命ぜられている今、海域解放も積極的に行う必要がある。

その際にマンパワーが必須なのは、言わずもがなだろう。

 

しかし一体誰が異動してくるのだろうか……?

白蓮大将に聞いても、お楽しみだ、とか言って教えてくれなかったし……

 

 

 

ここ一週間を振り返りながら、これからの鎮守府に思いを馳せる鯉住君であった。

 

 

 

・・・

 

 

 

「さて……定期連絡船が到着するまで、あと1時間くらいか。

そろそろ迎えに行こうかね」

 

「そうね。今から港に向かえば丁度いいくらいかしら」

 

 

ここ第10基地からポポンデッタ港までは、大体車で30分といったところだ。

少し早いが出発する頃合いだろう。

空いた時間ができるかもしれないが、遅れるよりはずっといい。

 

 

ブロロロロ……

 

 

鎮守府の備品である大型のバンに乗り込み、港へと向かう。

助手席に秘書官の叢雲を乗せ、運転は提督である鯉住君自らがしている。

 

大規模な鎮守府では、色々とこなしてくれる事務スタッフがいるのが普通なので、車の運転等はそのスタッフが行う。

しかし第10基地のような零細鎮守府では、そのようなスタッフは配属されない。

基本的に艦娘と提督だけで仕事が回るからだ。

 

ちなみに何故秘書艦でなく提督が運転しているかというと、単純に叢雲が免許を取っていないからである。

人間ではないので法律が適用されるかはグレーなところだし、パプアニューギニアの田舎では細かいことを言う人はいないしで、別に艦娘が無免許運転してもお咎めがあるわけではない。

しかし鯉住君的には、小学生相当の子たちに運転をさせたくないということで、提督自ら運転をするようにしている。

 

 

「アンタ随分運転に慣れたわねぇ……最初はおっかなびっくりだったのに」

 

「まあね。時間あるときにフィールドワークに出てたからねー」

 

「そうね。最初にそれ言い出したときは、思わず蹴り入れちゃったけど、無駄じゃなかったみたいね」

 

「はは……」

 

 

呉で働いていたころ、鯉住君は自転車生活だった。

そのため運転など何年かぶり、しかも大型車の運転とあっては、ぎこちなくなるのも仕方ない。

 

しかしそれではいざという時心配、ということで、鯉住君は運転の練習をすることにしたのだ。

とはいえ普通にその辺を運転しても面白みに欠ける。

そこで彼が思いついたのが、趣味と実益を兼ねた方法である。

 

なんと鯉住君は、近所の小川まで熱帯魚採取に行くついでに、運転の練習をすることにしたのだ。

これなら飽きることはないし、悪路走行で運転技術は上がるしで、一石二鳥というのが本人の談。

欲望がダダ洩れである。とてもじゃないが鎮守府の提督がするような所業ではない。

叢雲から強烈な突っ込みを入れられたのも、仕方ないことだろう。

 

しかしやってみると、なかなかこれが効果的で、入り組んだ小道を進むことを強いられたおかげで、かなり運転技術は上達した。

まだ一週間しか経っていないので、3回ほどしか遊びに行ってはいないのだが、普通の道を運転するのに、何ら支障ない程度までは勘を取り戻すことができたようだ。

 

 

「ちゃんと仕事が終わった上で出かけてたからいいものの……

もしアンタが仕事ほっぽりだして遊びに行くようなら、大将に報告しようかと思ってたところよ……」

 

「いやいや……流石にそこまで自覚がないわけじゃないよ」

 

「どうだか。怪しいもんね」

 

「そんなに疑うことないじゃないか……」

 

「疑われたくなかったら、もっとちゃんとした行動しなさい」

 

 

遊びに行きたい受験生と、そのオカンのようなやり取りをしながら、港へと向かうふたりであった。

 

 

 

・・・

 

 

 

ふたりが港に到着すると、予想通りまだ定期連絡船は到着していなかった。

自由な時間が少しだけできたため、留守番している夕張と北上用のお土産を見繕うことにした。

この港は定期連絡船が寄港する関係で、そこそこ栄えているのだ。

土産物屋もある程度は軒を連ねている。

 

 

「これいいんじゃないかな? マンゴーの袋詰め。みんなでむいて食べよう」

 

「それなら行きつけの商店で売ってるじゃないの。他のにしましょ。

私はあっちのコーナーを見てくるわ」

 

「そうか、わかった。頼んだよ。……そうすると何がいいか……ん?」

 

 

二手に分かれてお土産選びを開始した直後、鯉住君は商品棚の後ろから何かの視線を感じた。

こんな狭いところに隠れているなんて、リスか何かが迷い込んだのかな?

そんなことを考えつつ屈んで、なんとなく棚の奥を覗き込む。

 

 

 

 

 

 

 

(はろー)

 

 

「……は、ハロー……」

 

 

がっつり目があったこの生き物、リスではなかった。

というよりこの姿……

 

 

(へーい。おにーさんわたしみえるね?)

 

 

「あ……ハイ」

 

 

(おー)

 

(はじめてみたです)

 

 

え? なにキミら、何か知ってんの?

 

 

(がいこくじんですよー)

 

(ぼいんのいぎりすむすめです)

 

 

いぎりす……イギリス!?

え、なに? 妖精って国籍とかあったの!?

確かに明るめなブラウンの髪で、これが地毛なら日本人っぽくはない。

胸についても……まぁ、ある、のか? これは……?

 

 

(むねばかりみて……)

 

(いやらしい……)

 

(せくはらおやじ……)

 

 

お前らが変なこと言ったからそんな視線になったんやぞ?

ていうか妖精さんの頭身じゃボインかどうかなんてわからないから!

 

 

(おー、しげきてきなしせんねー。おとこはおおかみよー)

 

 

ち、ちがいますからね!

いくら相手が妖精さんとはいえ、初対面の女性(?)の胸をガン見するなんて失礼な真似はしません!

 

 

(またまたー、てれてるですねー)

 

 

いや本当ですって! 照れてるっていうか、驚いてるんですよ!

……というかアナタも俺の考えてることわかるんですか!?

 

 

(いぐざくとりー。とうぜんねー)

 

 

まじかー……もしかして今考えてることもわかります?

 

 

(わたしがあなたについていくかもってことでしょ?

あたりまえでーす!あいふぉろうゆー!てーとくー!)

 

 

あ、やっぱりそうなるんだね……ちなみに断ったりなんかは……

 

 

(すーべにあしょっぷでこうちゃをかうのをわすれちゃ、のーなんだからねー!!)

 

 

ダメだこれ。もうすでに一緒に帰る前提の話をしている。

 

おいキミたち。

なんか国際色豊かな後輩が出来そうだけど、そこんとこどうなのさ?

 

 

(いいですよー)

 

(わたしたちがせんぱい)

 

(じょうげかんけいさえわかってればいいです)

 

 

(おふこーす!おせわになるよー!せんぱーい!)

 

 

そんなんでええんか……というか妖精さんたちにも上下関係とかあるのな……

 

 

 

 

 

 

「……アンタ何してんのよ。さっきから全然動いてないじゃない。

私ひとりに探させないで、自分でもお土産選びなさいよ」

 

 

先ほど解散した場所から全く動かない鯉住君を見かねて、叢雲が戻ってきた。

その手にはお土産候補の、この港限定チョコレートが握られている。

やるべきことをやってから戻ってくるあたり、しっかり者の彼女らしい。

 

 

「えーと、その……はい」

 

 

困惑した表情で右手を叢雲に差し出す鯉住君。

その手のひらには、たった今仲間に加わった英国妖精さんが仁王立ちしている。

 

 

「はい、って……え、なにその子は……?」

 

 

叢雲は一週間以上鯉住君と暮らしているので、彼のお供妖精さんの顔触れはしっかり覚えている。

つまり目の前の妖精さんが、その輪の中に居なかった新顔だということも、すぐに分かった。

 

 

「何ていうか……拾った……」

 

「ひろっ……ハアッ!?」

 

「いや、その、ゴメン……」

 

 

(えいこくうまれのようせいよー!よろしくでーす!)

 

 

ドヤ顔でフンスフンスと自己紹介する英国妖精さん。

当選叢雲の耳にその声は届かない。

 

 

「……」

 

「……叢雲さん?」

 

 

苦虫をかみつぶしたような顔をしている叢雲。

それに対し、彼女の気持ちもよくわかるので強く出られない鯉住君。

 

 

「……捨ててきなさい」

 

「ちょ」

 

「うちにはそんな子を養う余裕はありません。捨ててきなさい」

 

「いや、それはちょっとひどいのでは……」

 

 

まるで野良犬を拾ってきた我が子を諫めるオカンだ。

実際ほとんどその通りなので、その反応もあながち間違っていないのだが。

 

流石にこの対応は嫌だったらしく、英国妖精さんは口をとがらせブーイングしている。

 

 

「そこを何とか頼むよ……面倒は俺が見るからさ……」

 

「本当でしょうねぇ……?」

 

「だ、大丈夫だって。今までこいつらの面倒も見てきたんだし」

 

 

隣でドヤ顔しているいつもの3人と目が合う。

みんなしてサムズアップしやがって。実はお前らも後輩できて嬉しいのか。

 

 

「……はぁ。そういうことならいいわ……連れて帰りましょ、その子……」

 

「すまないね、叢雲さん……俺も狙ってこんなことしてるわけじゃないんだよ……」

 

「わかってるけど、納得はしてないわ」

 

「う……本当にすまない。

笑顔で、ついていきたいって言われたら、どうしても断れなくてさ……」

 

「ハァ……本当に甘い奴よね……呆れてものも言えないわ……」

 

「苦労かけるねぇ……」

 

 

呆れたなんて言いつつも、優しい彼が自分の提督で、実は結構嬉しい叢雲。

しかしそれを口に出すことは、この先もないだろう。素直になれないのが彼女の性格なのだ。

 

 

 

・・・

 

 

そうこうしている間に、港に定期連絡船が到着した。

下りてくる乗客に、運び出される貨物。

 

その中にある、鯉住君が所属する第10基地宛のコンテナへと向かうふたり。

待ち合わせはそこだと指定されているのだ。

 

 

「しかしなんで白蓮大将は、異動してくる艦娘を教えてくれなかったんだろうな?」

 

「そんなの私が聞きたいわよ」

 

「だよなぁ……誰が来るのやら……」

 

「どうせ今にわかるわよ。 あら?何かしらあの人たち……」

 

 

コンテナの前で数名の女性が談笑しているようだ。

何かウチに用があるのだろうか?

そう考えながらコンテナに近づくふたり。

 

 

「ちょっとアナタたち、ウチになにか……よ……う……?」

 

「……ん?どうしたの?叢雲さん」

 

 

何やら叢雲の様子がおかしい……

表情が完全に固まり、冷や汗を流している。

 

 

「な、なんでアナタたちが……?」

 

 

コンテナの前には4人の女性がいる。

叢雲はその中の2人へ話しかけたようだ。

 

 

「お!叢雲じゃねぇか! 久しぶりだなぁ!」

 

「あら~ホントだわ~ あの時の護衛任務以来ね~」

 

「あれ、天龍さんと龍田さんは叢雲さんと知り合いなんですか?」

 

「そうだぜ!叢雲には俺たちが色々教えてやったんだよ!先生ってとこだな!」

 

「うふふ~ 天龍ちゃんは先生の才能があるのよね~」

 

「そんなに褒めんなよ龍田! ま、本当のことだけどな!」

 

「すごいんですね、天龍さん!私達も頑張らないと!ね、大井さん?」

 

「そんなことより北上さんはどこなの!?もしかしてここには来てない……?

そ、そんなはずないわ!私を出迎えるのに北上さんが来ないなんてっ!!

古鷹さんも一緒に探してくれないかしら!?」

 

「お、大井さん、落ち着いてください!

新しい提督さんと秘書艦さんがいらっしゃってるんですからっ!お、落ち着いてっ!」

 

 

 

 

 

「なあ叢雲さんや」

 

「……」

 

「今日異動してくるのって、1人のはずだったよな……?」

 

「……ええ」

 

「俺の目がおかしくないんなら、目の前に4人ほど女の子が見えるんだが……」

 

「女の子じゃなくて艦娘ね……

でも私にもそう見えるのよね……しかも半分ほど知り合いだし……」

 

「なにかの間違いとかじゃないよねぇ……これ」

 

「夢じゃないかしら、これ……

そう、私は今から目を覚まして、港まで新入りを迎えに行くのよ……」

 

「叢雲さん、ほっぺたつねるのはお肌に良くないよ」

 

「だって早く目を覚まさないと……寝坊して遅刻しちゃ悪いじゃない……」

 

 

必死でほっぺたをつねって覚めない夢から覚めようとしている叢雲に、

鯉住君は気の利いた言葉をかけてやることができなかった。

彼もいっぱいいっぱいだったのだ。

 

 

(わー!)

 

(しんじんさんいっぱいです)

 

(まつりじゃまつりじゃー)

 

(おーう!にゅーふぇいすのとうじょうねー!)

 

 

 

 


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