艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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ラバウル第1基地は、一大拠点ということもあり、非常に充実した戦力を有しています。
所属艦娘数は、驚異の50名。他の中規模鎮守府の倍ほどはいます。
そのため通常業務で声がかからない艦娘も結構いるので、そういう子たちは暇を持て余すことも多々あります。
そういった実情があるため、第1基地からの異動希望は比較的通りやすいようです。


第23話

「えー……それでは現状の確認をしたいと思います」

 

 

目の前には初めましてな艦娘が4人。隣には心なしか生気を失った秘書艦がひとり。

今の状況を確かめるため、鯉住君は4人から聞いた話をまとめる。

 

 

「本当は、こちらへ連絡してもらったとおり、第10基地へは1名異動の予定だった」

 

「はい。私が異動するはずでした!」

 

 

いい笑顔で古鷹さんが口を開く。はいじゃないが……

何でそんなにこの状況を当たり前のように捉えているのだろうか……?

彼女の中では1と4は同じ数字なんだろうか……?

俺と叢雲さんの心は大破寸前だというのに……

 

 

「えー……本来その予定だったところ、

ウチで北上さんがドロップしたと聞きつけて、大井さんが名乗りを上げたと」

 

「はい。北上さんがひとりで寂しい思いをしていると聞いたら、居ても立っても居られません。当然のことではないですか?」

 

 

当然のことなのかなぁ……俺の常識にはその当然は入ってないなぁ……

そもそも北上さんはひとりではないし、寂しそうにしている様子もない。

まあそれを主張したところで、「何言ってんだこいつ?」みたいな反応をされそうな気がするので、そこには触れないでおく。

 

 

「あー、と……それでその異動の話をしている最中に、天龍さんと龍田さんが遠征から帰ってきた。

そして、小規模鎮守府なら戦闘で活躍できると思った天龍さんが、自分も異動したいと提案した」

 

「おう!第1基地は戦力が整ってるからな。俺たち姉妹は遠征任務ばかりなんだよ。

それじゃやっぱりつまらねえ!戦闘で華々しく活躍するのが艦ってもんよ!」

 

 

元気いいなあ……彼女……

その豪快な思考回路には「異動は1名限定」なんて、ささいな情報は流れていないに違いない。

しかしわざわざ戦闘のために、住み慣れた鎮守府から異動したいって……

遠征部隊で活躍していたんなら、それはそれでいいのでは、というのは、天職に恵まれている俺だから思うことなのか。

 

 

「……んで、天龍さんが行くと聞いた龍田さんも、一緒に行きたいと志願した、と」

 

「ふふ~ 天龍ちゃんひとりじゃ何かと心配だもの~」

 

 

姉妹仲がよろしいようで大変何よりです……

でもそれでホントに大丈夫なの?

人事異動って結構なイベントよ?そんな理由で決めちゃっていいの?

 

 

 

……いやなんというか、改めて確かめてみると、皆さんフリーダムすぎない?

軍紀的に大丈夫なの?今回の一件。

 

 

 

 

 

でもね。彼女たちの自由奔放さを超える真の問題があってね。

 

 

 

 

 

「それで、その提案を全部『面白そうだから』の一言で、白蓮大将は承認した、と……それであってるかい……?」

 

 

「「「「はい」」」」

 

 

はいじゃないが。はいじゃないが……

 

鼎大将がアレだったのは特別じゃなかった……白蓮大将も十分アレじゃないか……

薄っすらとそんな気はしてたけども……

もしかして海軍大将ってみんなアレな感じなのだろうか……

 

「面白そうだから」とかいう理由で、そんな一気に艦娘をこちらに寄こさないで下さい。

というか、そうならそうで、こっちに連絡寄こしてください……

こちらにもお出迎えの準備やらなにやらあるんですよ……

 

 

ホラ。隣で棒立ちしている秘書艦も遠い目をしている。

俺はちゃんと見てたぞ。キミが艦娘寮の準備なり、生活用品の準備なりしてたのを。

……もちろんひとり分の。

俺もいっぱいいっぱいだけど、彼女の方がいっぱいいっぱいなのは、火を見るより明らか。

一段落したらなんか言うこと聞いてあげるから、なんとか今は耐えてくれ……

 

 

「わ、わかった……状況はわかったよ……

それじゃ改めてよろしくな。キミたち。これから一緒に頑張っていこう……」

 

 

 

・・・

 

 

 

このまま呆然としていてもらちが明かないので、ひとまず挨拶もそこそこに、鎮守府に移動することにした鯉住君。

 

しかし元々艦娘1名といくつかの艤装を運ぶつもりで来ていたので、この人数+艤装を一往復で運ぶのは不可能だ。

そこで二往復することにしたのだが、メンバー分けに頭を使うことになった。

 

 

鯉住君が考える条件は以下の通り。

 

 

メンバー

 

鯉住君・叢雲・古鷹・大井・天龍・龍田

 

 

条件

 

一回に乗れる人数は、艤装を積む関係上、運転手の鯉住君除いて3人。

 

運転手は常に鯉住君。免許と自動車保険の関係で艦娘には任せられない。

古鷹はしっかり者っぽいので、お留守番の2人に状況説明できるだろう。

大井は一刻も早く北上に会いたいらしいので、第一陣で連れて行く。

龍田は天龍と一緒がよさそう。

叢雲は鯉住君と離れると、ストレスが限界突破して多分泣いちゃう。

大井・天龍は自由な精神を持っているので、艤装の運搬・管理は任せられない。

 

 

 

「えーと……なんだかややこしいけど、こうすれば解決かな?」

 

 

 

どこかの知能パズルで同じような問題を見た気がするが、現実に同じことに遭遇しようとは。

戸惑いながらも、なんとかうまく問題解決できる方法を見つけた鯉住君。

 

 

 

 

 

その方法は以下の通り。

 

 

 

まず第一陣は

鯉住君・叢雲・古鷹・大井

 

艤装は半分積んでいき、港に残していく艤装は龍田に管理してもらう。

鎮守府に着いたら、暴走するであろう大井の世話と、置いていく艤装の搬入と、お留守番の2人への現状報告を、全部古鷹にぶん投げる。

 

 

港への復路で、鯉住君が叢雲のメンタルケアをする。

 

 

そして第二陣で

鯉住君・叢雲・天龍・龍田を乗せ、残りの艤装を移動。

 

 

これで問題なく事を運べるはずだ。

 

 

古鷹さんの負担が尋常でなく多い気がするが、多分大丈夫だろう。

なんか真面目そうだし、色々任せられそうな安心感を醸し出している。

高校の生徒委員会の書記って感じ。

 

 

考えがひとまとまりしたので、鯉住君は今からの動きを説明することにした。

 

 

・・・

 

 

「これでいいはずだ……」

 

「どうです?提督。どうするか決まりました?」

 

 

にこやかに鯉住君に問いかける古鷹。

それを見て、これから彼女に無茶ぶりしようと思っていた鯉住君は、複雑な心境になる。

 

 

「えーと、すまないね、古鷹さん」

 

「え!? な、なんで何もしてないのに、私、謝られたんですか!?」

 

「まあなんだ……これからわかるよ。

今からの動きを説明します。みんな聞いてください」

 

 

・・・

 

説明中

 

・・・

 

 

「わかったぜ!」

 

「うふふ~ 私達のこと、わかってくださってるようで嬉しいわ~」

 

「決まったんですね?ではすぐに向かいましょう!

待っててください……北上さん!」

 

 

ふう。おおむね好評のようだ。

俺の見立ては間違っていなかったようで何より。

 

しかし今の説明を聞いていたひとりの艦娘が、不満そうな顔で右手を上げる。

 

 

「……提督」

 

「……はい。なんでしょう、古鷹さん」

 

「私だけ扱いが厳しくないですか?」

 

「まぁ、ねえ……」

 

「私もここでは新人なのに、この扱いの差はずるいと思いますっ!!」

 

 

むくれながら抗議してくる古鷹さん。

若干発光している彼女の左目は、チカチカと明滅を繰り返している。

どうやら怒るとそのようになるらしい。艦娘って不思議。

 

申し訳ないけど、彼女にはやってもらうしかない。

だから先に謝っといたんだよなぁ……だってこれしか思い浮かばないんだもん。

 

 

「命令ってことだしやりますけどぉ……

大井さんを抑えながら現状説明なんて、新任の私には荷が重いです……!」

 

 

頭を抱えてはいるが、なんだかんだ引き受けてくれるようだ。

やっぱりこの子はいい子であり、自分たちと同じタイプなのだろう。

詰まるところ苦労人気質だ。

 

 

 

ポンッ

 

 

 

必死でこちらに訴える古鷹の肩に、今まで存在感を消していた(存在感が消えるほど憔悴していた)叢雲の手が添えられる。

 

貧乏くじを引かされた彼女を見る叢雲は、とても穏やかな顔をしていた。

その目はまるで、今から出荷される子牛を送り出す牧場主のような目だ。

ドナドナがどこかから流れてきそうな悲壮感に溢れている。

 

やっぱり叢雲も、古鷹さんは同類だと理解したのだろう。

 

 

「な、なんですか? 叢雲さん」

 

「……大丈夫よ」

 

「何がですか!? なんでそんなに優しい目をしてるんですか!?」

 

「……仲間が増えて嬉しいんだよ」

 

「提督の言ってる仲間って、絶対同僚って意味じゃないでしょ!?」

 

「大丈夫。大丈夫よ……何があっても私達は仲間だから……」

 

「何ですかこの雰囲気!? お通夜みたいじゃないですか!

何があっても、ってどういうことなんですか!?」

 

「まあなんだ……一緒に頑張ろう。悩んだら相談してくれていいから……」

 

「なんですでに私が悩む前提なんですか!?」

 

「何をゴネているの、古鷹さん!

北上さんが待っているんですから、さっさと艤装を乗せて出発するわよ!」

 

「あぁーーーっ! もぅーーーっ!!」

 

 

いつも自分はこんなリアクションしてるんだなぁ、と、

なぜかこの混沌とした光景を見て和んでいる鯉住君と叢雲。

 

しかし流石に古鷹がかわいそうだと思ったのだろう。

これ以上は大井が我慢できなさそうということもあり、さっさと移動することにした。

 

 

 

 

 

ブロロロロ……

 

 

一往復目の車内、大井と古鷹(+叢雲)を乗せて、鎮守府への道を運転する。

落ち着いて話せるチャンスでもあるので、鯉住君は2人へ色々質問することにした。

 

 

「なんだかんだ面食らったけど、キミたちが来てくれて嬉しいよ。

戦力的にも助かるし、大勢で賑やかなほうが生活も楽しいし」

 

「そう言ってもらえると私も嬉しいです。

白蓮大将からは4人で赴任することは伝えてないって言われてたんで、正直不安だったんですよ」

 

 

古鷹が答えてくれた。

ちなみに大井は、窓の外を見ながら心ここにあらずといった様子である。

 

今の彼女に何か聞いても上の空だろう。

そう考えた鯉住君は、古鷹との会話に集中する。

 

 

「なんだ、こちらには伝わってないって、聞いてたのか……

こっちが動揺してるのを見ても普通にしてたのは、そのせいだったんだね」

 

「あはは……

申し訳ないとは思ってたんですが、上司の前で狼狽えるのもどうかと思いまして……」

 

「そうか。気を遣ってくれてたんだな。ありがとう」

 

「いえ。とんでもないです。むしろ白蓮大将が申し訳ありません……」

 

 

バックミラーを見るとばつが悪そうな顔をしている古鷹さんが見えた。

これはあれだな。あっちでも随分苦労してきたとかそういうのだな。

 

なんだか納得がいった鯉住君は、そのことについても聞いてみることにした。

 

 

「古鷹さん、もしかしてだけどキミ、かなり白蓮大将に振り回されてた?」

 

「あ、え!? なんでわかったんですか!?」

 

 

思ったとおりだったようだ。

それを聞いて、助手席の叢雲と目を見合わせる鯉住君。

そういう意味での仲間ができたのは、非常に大きな収穫だと言える。

 

 

「まあ、なんだ。

あっちにいた頃よりもそういう負担は減らせるよう、俺も努力するよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

・・・

 

 

当たり障りのない会話を続けているうちに、鎮守府に到着。

エンジン音を聞き付けたのか、お留守番の夕張と北上が出迎えにきた。

 

 

「提督、叢雲さん、お帰りなさい!」

 

「提督~、新しい子ってだれだったの~?」

 

 

 

ガララッ!

 

ダダダッ!

 

ガッシイィィッ!

 

 

 

「うごふっ!?」

 

「北上さぁぁぁんっ!会いたかったわぁぁぁっ!」

 

 

瞬間移動のようなスピードで、バンから下りて北上に抱き着いた大井。

北上は強烈なタックルを喰らい、変な声を出すことになった。

 

 

「な、何なのさ……って、大井っちじゃん。やっほ~」

 

「会いたかったわ!私、北上さんに会えるのをずっと待ってたのぉ!」

 

「も~、大げさだなぁ、大井っちは」

 

 

マイペースな北上に、感動で涙を流している大井。

あまりの光景に、当事者のふたり以外は、苦笑いを顔に浮かべている。

 

 

「あ、あの~、ししょ、じゃなかった。提督。大丈夫なんでしょうか……」

 

「ま、まあ仲がいい分にはいいんじゃないかな……夕張さんも仲良くしてあげてね……」

 

「そうですね……善処します……」

 

 

いつも元気な夕張さんも、彼女の奇行には面食らっているようである。

さもありなん。

 

 

「今は北上さんの事しか目に入ってないけど、港ではしっかりと受け答えしてくれたし、問題ない……はず。北上さんさえ絡まなければ……」

 

「そ、そうなんですか……それを聞いて少し安心です……

って……あ、あれ? そこにいるのは……もしかして、古鷹?

な、なんで古鷹までいるんですか!?異動はひとりだけじゃなかったんですか!?」

 

 

車から降りてきた古鷹に夕張が気づいたようだ。

 

 

「あ、うん。色々あってね……

本日付で異動してくる艦娘は4人になったんだ……」

 

「よ、よにんっ!?」

 

「そうなんだよ……まぁ、悪い子はいなさそうだし、大丈夫だと思う」

 

 

ビックリして目を丸くする夕張。

そうそう、こういうのが普通のリアクションだよ。

 

 

夕張と鯉住君が話していると、古鷹もこちらに気づいたようで話に入ってきた。

 

 

「あっ! 夕張先輩!よろしくお願いします!」

 

「あ、こっちこそよろしくね、古鷹」

 

 

ああ、いい……こういう普通の挨拶でいいんだよ……

さっきの大井北上コンビのアレはなかったことにしよう。うん。

 

……ん?夕張「先輩」? それに「さん」づけが普通の夕張さんが呼び捨て?

 

 

ふたりのやり取りに違和感を感じた鯉住君は、質問してみた。

 

 

「えと、夕張さん。古鷹さんのこと知ってるの?

建造されたばかりでも、そういうことってあるの?」

 

「あ、えっとですね、私達艦娘は艦の時の記憶があってですね。

姉妹艦の皆さんなんかは、生まれたてでもそういうのがわかるんです」

 

 

鯉住君の脳内に、神風型の皆さんや、初春型の皆さんが思い浮かぶ。

そういえば子日さんは、ひとりだけ大湊出身なのに、普通に姉さんって言われていた。

人間の感覚だとピンとこないけど、そういうものなのか。

やっぱり艦娘って不思議だ。

 

 

「……あれ?でも夕張さんと古鷹さんって別に姉妹艦じゃないでしょ?

艦だった時代に、どういう関係があったの?」

 

「それはですね、私達にとって親とも呼べる設計者が一緒だったんですよ」

 

 

今度は夕張さんの代わりに古鷹さんが説明してくれた。

 

 

「私達の設計者は平賀さんという方で、一言で言えば天才です。

世界的に見ても指折りの艦艇設計士でした」

 

「そうなんです!その平賀さんが設計した艦で、一番最初に有名になったのがこの私!夕張なんです!」

 

「へぇ、そんなにすごい人が設計者だったのか」

 

「それはもう!そして、私を設計した経験をベースにして、新たに設計されたのが、この古鷹ってわけです」

 

「はい。だから私は夕張さんとは姉妹艦ではありませんが、遠からぬ関係にあります。

人と同じ身を持った今の感覚だと、先輩後輩って感じなんですよね」

 

 

生みの親が一緒ならそれこそ姉妹ではないか、と思うが、そういうわけでもないらしい。

姉妹艦、というくくりがある以上、そっちに感覚が引っ張られるものなのかもしれないな。

 

 

「成程ねぇ。そういうことだったのか。

でもよかったじゃないか。2人とも。仲のいい相手が見つかって」

 

「「はい!」」

 

 

いやー、なんかいいな、こういうの。高校時代を思い出す。

親戚の下の子も今は高校生だし、会わせてやればいい友達になれるかもな。

今度ここまで招待してやろうかな?

 

 

「北上さーん!」

 

「大井っち、やーめーてーよー」

 

 

……いや、招くのは止そう。あっちの高校生が教育に悪すぎる。

 

 

「……それじゃ艤装を下ろしたら、俺は残りの2人を迎えに行ってくるよ。

古鷹さんは予定通り、2人に細かい事情説明をしてやってくれ」

 

「はい!お任せください!」

 

「頼んだよ」

 

 

艤装を下ろし、古鷹と夕張に後を任せ、港で待機している2人を迎えに行く鯉住君なのであった。

 

 




現在のラバウル第10基地戦力はこんな感じ。


重巡洋艦   古鷹改(Lv35

重雷装巡洋艦 大井改(Lv32

軽巡洋艦   夕張(Lv10 北上(Lv8 天竜改(Lv26 龍田改(Lv24 

駆逐艦    叢雲(Lv12


異動組は最前線から来たので、やっぱり実力があります。
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