艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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提督養成学校の卒業生は、能力の高さ故に天狗になりますが、能力が高いだけあって、非常に高いレベルですべての仕事をこなせます。
どの提督もそつなく艦娘指揮をこなし、事務仕事もこなします。オールラウンダー型ばかりと言ってもいいでしょう。

対して鼎大将組は、極めて尖った能力を持っている人材がそろっており、ある分野では並ぶ者無しでも、別の分野ではポンコツだったりします。
バックアップ面で尖りに尖っている鯉住君でさえ、他の3弟子の尖りっぷりには敵いません。あの人たち色々とすごいんです。


第28話

秋津洲着任から一晩明け、

ラバウル第1基地へ、事の顛末を報告することに決めた鯉住君。

胃の痛みを抑えるために生薬を水で流し込んでから、受話器をとる。

 

 

プルルルル……

 

ガチャッ

 

 

「もしもし……」

 

『もしもし、こちらラバウル第1基地……って、その声は……鯉住少佐?』

 

「はい……お久しぶりです……高雄さん……」

 

『一体どうしたというのですか……? そんな弱々しい声をして』

 

「すいません……すいません……! ほんの出来心だったんです……!

こんなことになるなんて、思ってなかったんです……!!」

 

『ホントにどうしたんですか!?

サスペンスドラマで懺悔する犯人みたいになってますよ!?』

 

「実はですね……」

 

 

・・・

 

 

説明中

 

 

・・・

 

 

『……』

 

「ただ俺は艦載機が欲しかっただけなんです……

それがまさか……新たな艦娘を建造してしまうなんて……」

 

『……』

 

「高雄さん……後生ですから、助けていただけないでしょうか……」

 

『……すいません。

おっしゃっていることは理解できるのですが、何を言っていいのか全く思いつかず……』

 

「……本当に、申し訳ありません……

それでも、頼りになるのはもう、高雄さんしかいないんです……

鼎大将も白蓮大将も多分アテにならないし、俺もウチの秘書艦ふたりも限界なんです……!

最早どうしていいのか、わからないんです……!」

 

 

普段は身内以外と接する時は、極力冷静にするよう努めている鯉住君。

対外の仕事でここまで取り乱すことは初めてだ。

それほど彼にとって、今回の件は追い詰められるものだったのだろう。

 

彼のあまりの狼狽えっぷりに、高雄は言葉を失っている。

しかし、鯉住君がそんな情けない状態になるのも仕方ない、という思いもある。

秘書艦歴が長い彼女でも、何と声をかければいいのか、どう対応したらよいのか、皆目見当がつかない。

 

 

『……大変申し訳ございません、鯉住少佐……

私にも今回の件は、どうすることもできません……』

 

「そ、そんな……!」

 

『その代わりと言っては何ですが、私よりも頼りになる方への直通連絡先をお伝えします。

私からも事のあらましを伝えておきますので、その方に直接連絡して指示を仰いでいただくよう、よろしくお願いします』

 

「高雄さんよりも頼りになる方……? そ、それは一体……」

 

 

一海域をまとめ上げるラバウル第1基地。

そこではラバウル基地に所属する、全ての鎮守府の事務を統括している。

そんな途方もない量の仕事を一手に担っているのが、他でもない、ラバウル第1基地・筆頭秘書艦の高雄である。

 

彼女ですら解決できない問題を、なんとかできる存在……

 

 

 

嫌な予感に生唾をごくりと飲む鯉住君。

 

 

 

 

 

『大本営所属、大和型1番艦 戦艦『大和』。

日本の名を冠した超弩級戦艦であり、日本海軍の象徴とも言っても過言ではない方。

海軍の運営に大きな裁量を持つ筆頭秘書艦にして、大本営の最高戦力でもあります。

……私は彼女に、秘書艦としての在り方を叩き込まれました』

 

 

 

 

 

「嘘やん……」

 

 

嫌な予感は大体当たるものだ。

望まぬ幸運を引き寄せる鯉住君ともなれば、尚更のこと。

 

艦娘のトップと言っても差し支えない、大本営の大和。その彼女へ直通連絡をとれる権利。

権力欲が少しでもあるような人間なら、誰もが喉から手が出るほど欲しいものだろう。

それを、鯉住君は図らずもゲットしてしまった。

 

当然ながら鯉住君は、そんな大層なもの欲しくなかった。

彼としてはほんの少し、ささやかな幸せがあれば十分だった。

こんな権力の中枢直行の、ごんぶとのパイプが欲しいわけではなかった。

 

 

 

 

 

「高雄さん……他に……他に何か方法はないんですか……!?

大本営の大和さんなんて、俺じゃ話をするのもおこがましいです!」

 

『鯉住少佐。貴方がラバウル第10基地に着任し、今まで2週間でやってきたことを思い出してください』

 

「……」

 

 

 

・日本で1年ぶりとなる艦娘建造という偉業を着任初日で達成。

 

・日本で3年ぶりとなる艦娘ドロップを確認。更なる偉業。

 

・妖精の謎技術の結晶である溶鉱炉を製造。艦隊運用に革命を起こす偉業。

 

・短期間で二度目の艦娘建造成功。しかも初邂逅という偉業。←NEW!!

 

 

 

『少佐の功績でおこがましいのなら、大和さんと話ができるほどの功績を持つ人間は居ないことになりますよ』

 

「……そんなつもりは……一切なかったんです……」

 

『とにかく、今回の件は、私ではどうにもなりません。

日本海軍全体への影響が大きすぎますから……

大本営のトップに近い方にしか、どうにもできないですよ……』

 

「うぅ……胃が痛い……

よりによって大本営なんて……もっと穏やかな生活がしたかった……」

 

『なんというか……かけて差し上げられる言葉がございませんが……

あえて一言だけ申し上げれば、すでに少佐の運営する鎮守府は、各方面から大いに期待されてしまっています。

この際割り切ってしまうのが一番ではないかと……』

 

「あぁ……ときが見える……」

 

『し、しっかりしてください!鯉住少佐!まだまだ燃え尽きるには早いです!』

 

 

鯉住君の心労は理解している高雄だが、彼がこのまま現状から逃れ続け、スローライフを送ることは難しいだろうとも感じている。

だからこその、このアドバイスだ。

 

いっそ諦めて楽になってしまえ、という身も蓋もない意見。

しかし、どうせ鯉住君はこれからも色々とやらかすであろう事を考えると、それしかないだろう。

 

意識が朦朧としている鯉住君には悪いと感じてはいるが、生真面目な高雄にとって、彼の現実逃避を見過ごすのは難しいことだった。

 

 

『とにかく、私から大和さんに、少佐の功績と連絡先を事細かに伝えておきます。

心の準備が出来ましたら、少佐からも連絡していただくようにお願いします』

 

「アッハイ……」

 

『それでは失礼します』

 

「……失礼します」

 

 

 

 

 

……ガチャン

 

 

 

ツーツーツー……

 

 

 

 

 

「……聞いたか、ふたりとも……」

 

「「……」」

 

「大本営の大和さん……この世に一隻しかいない戦艦の化身にして、大本営の顔……

彼女になんと我が鎮守府から、連絡を取らなければならないそうです……」

 

「……私は知らないわ……アンタに任せる……」

 

「おい叢雲。第1秘書艦だろ」

 

「私もパスしていいでしょうか……? お部屋に戻りたいです……うぅ……」

 

「コラ、ふるた……泣いてる……」

 

 

実は手っ取り早く情報共有するために、秘書艦のふたりにも同席してもらっていた。

 

高雄になんとか火消ししてもらえることを祈っていた3人だが、その期待は儚く露と消えてしまった。

3人の目からは例外なくハイライトが消えている。

 

 

「これホントにどうすんのよ……

大和なんて、大本営の中でも、話ができる人間の方が少ない艦娘なのよ……超VIPなのよ……」

 

「うん……知ってる……『とらのまき』にもそう書いてあった……」

 

「な、なんて伝えたらいいんでしょうか……? 私達、一体どうなってしまうんでしょうか……?」

 

「こうなったら仕方ないよ……

正直にあったことを話して、あちらさんの判断に身をゆだねるしかない……」

 

「ハハッ……まさにまな板の上の鯉ね……アンタにピッタリじゃない……」

 

「……」

 

「あぁ、提督……そんなに遠い目をして……お気を確かに……」

 

 

 

・・・

 

 

 

「えー……それでは、第10基地首脳会議を始めたいと思います」

 

 

このまま全員でうなだれていても埒が明かない。

3人は気を取り直して作戦を練ることにした。

 

 

「なんて言って報告したらいいのかしら? 古鷹も考えてよ。

いくら正直に話すったって、言い方ひとつでウチの印象は変わるんだから」

 

「そう言われましても……

私がここに異動してきたのって、たったの一週間前なんですよ?

最初からいるおふたりの方が事情に詳しいじゃないですか」

 

「そう変わらないわよ。古鷹は一週間前。私達は二週間前。だから似たようなものなの。

ひとりだけ逃げようったって、そうはいかないわよ」

 

「ひえぇ……」

 

「こら叢雲。そんなに古鷹を追い詰めるんじゃない。

というかまだ二週間しか経ってないのか……色々ありすぎだろ……」

 

「どの口がそんなこと言うのよ。原因の8割以上はアンタじゃないの」

 

「……まぁ、そう……なのか……?

……それよりもさっさと作戦考えるぞ。超VIPな大和さんを待たせてはいけない」

 

「ごまかしたわね……

まぁいいわ。アンタの言うことはもっともよ。さっさと考えましょ」

 

「とは言っても、なにから考えればいいのでしょうか……?

ただの事実確認なら、伝え方のバリエーションなんて無さそうなものですが……」

 

「そんなことはないさ、古鷹。

例えば建造に成功した件ひとつとっても、伝え方で大きく相手の印象は変わる。

淡々と「秋津洲の建造に成功しました」と、事実だけ述べるのと、

建造成功した条件、その時の建造炉の様子、妖精さん達の働きなど、成否に関係すると思われる事実、所感をまとめあげた後に説明するのとでは、随分と受け取られ方は変わるはずだ」

 

「確かに……その通りですね。

あちらから聞かれるような内容を、先取りして伝えることができれば、信頼を得られるということですね!」

 

「そうそう。飲み込みが早いね」

 

「お褒めの言葉、ありがとうございます!」

 

 

鯉住君が古鷹にレクチャーしていると、会話から離れていた叢雲が両手でパンパンと合図する。

 

 

「はいはい。当然のことを確認してる暇はないの。

わかったらさっさとまとめていくわよ。ひとつひとつ丁寧にね」

 

「あ、ハイ。わかりました」

 

「こういうのは苦手だけど、やるしかないね。

俺の豊かなスローライフのためにも、頼むよ、ふたりとも」

 

 

・・・

 

相談中

 

・・・

 

 

「……なかなか難しいな」

 

 

メモ帳を前にしてボールペンを回しながらつぶやく鯉住君。

正直荒唐無稽な要素が多すぎて、内容をまとめたくてもまとめきれずにいた。

 

 

「聞かれそうなことは考えてみたけど、大体に用意できる答えが「わかりません」なのよね……」

 

「このままでは私達、自分たちの管理もできない情けない鎮守府、そう思われてしまいます……」

 

「参ったなぁ……」

 

 

頭をひねっている3人の耳に、停滞した空気を壊す音が届く。

 

 

 

 

 

プルルルル……

 

 

 

 

 

「「「……」」」

 

 

仲よく身体をこわばらせる3人。

頭の中には奇しくも同じ考えが浮かんでいた。

 

 

「まさか……まさかね」

 

「そんなはずないですよ……たぶん……おそらく……」

 

「……イヤな予感しかしないわ。

この際わざと電話に出ないってのはどうかしら……」

 

「……そうしたいけど、それもできないだろう……

誰だかわからないけど、電話口で待たせてはいけない。

で、出るぞ……出るからな、ふたりとも……」

 

「「(ゴクリ……)」」

 

 

 

ガチャッ

 

 

 

「も、もしもし。こちらラバウル第10基地提督、鯉住です」

 

『もしもし。海軍大本営所属・秘書艦『大和』です』

 

「「「……」」」

 

 

予想以上に予想通りな展開となったラバウル第10基地首脳会議。

果たして彼らは無事、大本営筆頭秘書艦の追及を逃れられるのだろうか?

 

 

 

 




この世界には、艦娘大和は1隻しかいません。
これはなかなか珍しい例で、他の艦娘はいくら珍しくとも、3隻程度は確認されています。
やっぱりこの国にとって大和は特別なんですね。

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