艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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権力と自由はどうしても相容れないものです。
それは政府だろうが、軍だろうが、会社だろうが、ご近所づきあいだろうが、変わることはありません。

今回のお話では、そんな権力に縛られた大和と、その権力におびえる鯉住君の、初めてのコミュニケーションが展開されます。



第30話

何でだ……どうしてこうなった……!

 

確かに今回大変なことをやらかしたのは事実だけど、こちらから連絡を入れる予定だったはず……

それが何故……大本営の大和さんの方から連絡が……!!

 

 

「は、はじめまして……」

 

『はい。初めまして』

 

「その……大本営の大和さんの方から連絡だなんて……一体どうされたのでしょうか……?」

 

 

これはあれか……?

やっぱりウチのやらかしに対して、思うところがあったってこと……?

 

 

『ああ、そちらから連絡をいただける約束でしたものね。驚かせて申し訳ありません。

私としても鯉住少佐とお話してみたかったので、先に連絡してしまいました』

 

「わ、私とですか……!?」

 

『はい。今まで色々と高雄を通して聞いておりますので、気になっていたんです』

 

「今までのことを……!」

 

 

や、やっぱりそうだ!

俺たちが色々やらかしてることに対して、一言モノ申したくて電話してきたんだ!

 

 

となると、ここからの会話は、何が起こるかわからない地雷原だ……!

言葉を慎重に選べ……!相手の機嫌を損ねるな……!

下手をうつと、大本営権限で大変な無茶ぶりをされかねない!

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

実は大和は鯉住君に対して、彼が考えているような悪い印象など持ってはいない。

真実はむしろ逆で、彼に対しては非常にいいイメージを抱いている。

 

確かに今まで鯉住君がやらかしてきたことのおかげで、秘書艦としての大和の仕事はかなり増えた。

しかしそれは全て海軍、ひいては日本の未来に希望を与える内容であり、決して辛い仕事ではなかった。むしろやりがいを感じるものであった。

艦娘である大和としても、新たな仲間が増えるというのは、心から歓迎できる出来事だった。

 

日頃の大本営筆頭秘書艦としての仕事は、実にドロドロとした案件が多く、それに伴ってストレスも増える。

そんな中、希望ある仕事は本当に珍しいものだったのだ。

 

 

 

高雄からの連絡によると、鯉住君はこれらの偉業を狙っていたわけではない。偶然そうなった、という表現の方が正しいようだ。

しかも彼自身は後方支援を希望しているとあり、この偉業に対しても謙虚な姿勢を貫いている。

実に温和で誠実な性格。提督にはほとんどいないタイプと言っていい。

彼の話をする高雄の声色が非常に明るかったことからも、それが嘘ではないとわかる。

 

それに秘書艦である叢雲への聞き取り調査を高雄が行ったところ、彼の艦娘に対する扱いは非常に良く、所属艦娘からの好感度も軒並み高いということが判明した。

あんなに楽しそうに話す叢雲は初めてだった、というのは高雄の談である。

 

 

非常に穏やかな性格で、とんでもない功績をあげてもそれを誇らない。

海域開放も、着任2週間で3エリアと、かなり優秀な部類に入る進行度。

艦娘に対する態度も素晴らしく、部下の信頼と好意をしっかりと集めている。

 

 

こんな理想的な提督は滅多にいない。

大和の知る、他の鼎大将のお弟子さん達とは、厄介さで言えば正反対だ。

(もちろんこんなこと、恐ろしすぎて、本人たちには口が裂けても言えないが)

 

 

 

 

 

……それに大和は自身と鯉住君に似たものがあると感じている。

 

『できたら戦争などせず、穏やかに暮らしていたい』

 

立場上口に出すことはできないが、本心では大和はそう思っている。

必要だからやっているわけで、決して好き好んで戦っているわけではない。

高雄の報告を聞き、彼の人となりを知った大和は「それは鯉住少佐も同じなんだろうな」と、確信めいたものを感じている。

 

 

……もし大和が大本営内でそんな発言をすれば、

「大和たる艦娘がそんな軟弱な気持ちでどうする!」だとか、

「そんな腑抜けに大事を任すことなどできん!」だとか、好き勝手言われるだろう。

 

残念ながら、艦娘が秘書艦として大きな裁量を持っている現状に、納得しない派閥がある。

不用意な発言は、彼らにつけいる隙を与えてしまう。

 

それが分からない大和ではない。だから本心は普段心の底に隠している。

自分の気持ちに嘘をつくようで辛く感じることも多いが、それでもそうせざるを得ないのだ。

 

 

ちなみに、本当は厭戦的だが、普段はそれを隠している艦娘はたくさんいる。

彼女たちの多くは、戦争に勝つことでなく、日本の平和を目的としているのだから、それは当然と言えば当然だ。

しかし大和は知っている。

自分と同じ理由で、彼女たちがそれを口に出すのが難しいことを。

 

 

だから大和は、スマホでの艦娘専用掲示板を立ち上げた。

普段人前で出せない心の声を発散することで、ガス抜きしてもらうためだ。

 

 

……この試みは非常に好評なのだが、当の発足者の大和はこの掲示板を使えない。

これもまた、自身の発言がどこかから漏れる可能性を考慮してのことだ。

 

一番心の声を聴いて欲しい大和が、

痛いほど他の艦娘の気持ちが分かるからこそ、掲示板を立ち上げた大和が、

それを利用することができないのだ。

 

何とも皮肉な話である。

 

 

 

 

 

そんな現状なので、大和が本音で話し合える相手はいない。ひとりもいない。

 

自身の提督である元帥を筆頭に、信用できる人たちは大勢いる。

しかし弱い面を見せられるような相手となると、いなくなってしまう。

 

『大本営筆頭秘書艦』

 

この看板を大和が背負う限り、彼女に近しい者には、少しでも本音を見せることはできない。

要らぬ混乱を招く火種となるからだ。

だから信用する元帥にも、共に働く気のいい同僚にも、妹分である高雄にさえも、大和はその本当の気持ちを見せたことがない。

 

 

……しかし相手が、大本営から離れたラバウル基地、それも小規模で、権力から遠い鎮守府の提督だったとしたらどうか?

しかもその提督が、偽らない自分を受け入れてくれ、しかもそれを口外しない、器の大きさと誠実さを持つ人物だったとすれば?

もっと言えば、同じ相手(もちろん鼎大将組のこと)に振り回されてきた経歴を持ち、共通の話題で盛り上がることもできるとしたら?

 

 

本心での会話に、心の底から飢えている大和。

心を許したコミュニケーションが取れるかもしれない。そう考えただけで、心が躍ってしまうのも無理はない話だ。

 

 

だから大和は待ちきれず、自分から電話してしまった。

これから先、自分のことをわかってくれて、それを受け入れてもらえる可能性のある相手に……

 

 

 

 

 

……しかし悲しいかな、鯉住君の反応は彼女とは正反対である。

彼は大和が怒って電話してきていると思い違いしているのだから、無理もない。

 

その頭の中は、

 

『自分のせいで、部下たちに負担をかけてはいけない……!』

 

という焦りでいっぱいである。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

『鯉住少佐が着任2週間で、ここまで活躍されるとは思っていなかったですよ』

 

 

ひえっ……間違いない……

よくもやらかしたな、って思われてるぞコレ……

 

 

『私としても、少佐がどのような人間なのか、興味がありましたし』

 

 

お、俺に興味が……!?

つまりそれって、俺が提督として、まともに仕事できてるか疑われてるってこと!?

 

 

『それで待ちきれずに、私の方から連絡を入れさせていただいたというわけです』

 

 

こっちからの連絡が待ちきれないほど、腹に据えかねてるってことなの!?

アカン……ちょっちピンチすぎやぁ……!!

 

 

「そ、そんなに私達のやってきたことは、大本営としては見過ごせないことなのでしょうか……?」

 

『はい、もちろんです。

鯉住少佐のなさってきたことは、例外なくすべて、日本海軍全体へ影響のある一大事です。

その中でも今回の艦娘初邂逅なんて、きわめて異例なことですから』

 

 

あっ……やっぱりそうなのね……

俺たちがやらかしたことは全て、海軍にとっての一大事。

そんな一大事を反省もせず好き勝手やらかしまくる鎮守府なんて、野放しにしていいはずがないですよね……

 

今回の秋津洲建造で、ついに堪忍袋の緒が切れた、と。

大和さんは、直々にこちらに連絡を取るほど怒っていらっしゃる、と……!!

 

 

「そ、それで私は、どうすればいいでしょうか……?

一応今回の事の顛末について、秘書艦と話し合い、説明する準備を整えている途中だったのですが……」

 

『あら、そうだったのですか。

準備してくださっていたところ申し訳ありませんが、報告は必要ありません』

 

「へぇあっ!?」

 

 

ほ、報告が必要ない……!?

どゆこと……!? どういうことなの……!? 

 

 

『鯉住少佐には電話口でなく、直接大本営にお越しいただき、そこで事情聴取をしたいと考えています。

ですから情報を事前にまとめていただく必要もなければ、報告書の提出も必要ありません』

 

「おぇあっ……!? だだだ大本営に出頭ですか……!?」

 

 

大本営に出頭、そこからの事情聴取……!!

それすなわち、電話口では問題のある会話が繰り広げられるということ……!!

 

それは当然この鎮守府、ひいては俺の処遇に対することとしか考えられない!!

 

なんてこった……ウチの鎮守府が解体されるのだろうか……それとも提督解任させられるのだろうか……

 

い、いや、それだけで済まないかも……

最悪何らかの罪で投獄、いや、命すら危ういのでは……!?

 

あぁ……父さん、母さん……精一杯やってきたつもりだけど、俺、ここまでみたい……

 

 

『はい。確か定期連絡船は、ポポンデッタ港を3日後に出発だったはずですね。

その船に乗ってこちらまでいらして下さい。

今回の初邂逅となる秋津洲、そして秘書艦を同行していただくようお願いします』

 

 

あぁ、ゴメンよ、秋津洲、叢雲、古鷹……

キミたちに罪人搬送みたいなマネをさせることになってしまう……

優しいキミたちがトラウマを抱えることが無いよう、草葉の陰から祈ってるよ……

 

こんな別れ方をしてしまうなんて……俺は悲しい……

 

 

鯉住君は、全く必要のない覚悟を決め、大和に返事をする。

 

 

「……わかりました。しっかり心の準備をしておきます。

ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした……」

 

『ご迷惑……?

ああ、少佐たちのなさったことを考えれば、この程度なんでもありませんよ。

実を言うと、私はあなたにお会いできるのを、とても楽しみにしてるんです。

準備をしてお待ちしていますよ』

 

「……はい」

 

『それではまた。失礼いたします』

 

「……失礼します」

 

 

 

ガチャン

 

 

……ツーツーツー

 

 

 

ああ、やっぱりだ……

俺たちがやらかしたことを考えれば、俺を大本営まで連行して処刑するのなんて、なんでもない。そういうことか……

 

大和さんは俺たちが来るのを楽しみにしていると言っていた……

それはつまり、自らの手で大罪人を裁きたいという怒りの表れだろう……

そこまで怒髪天を衝いているというのか……大和さん……

 

準備をしておくとも言っていた……そんなに断罪には準備がいるのか……

俺はどんな処刑器具でこの世を去るんだろうな……? 痛くないのがいいなぁ……

 

 

 

・・・

 

 

 

自身が大本営の闇へと消える覚悟を決めさせられ、逆に穏やかな表情をしている鯉住君。

彼の顔を見ると、つつーっと頬を涙が流れている。

 

 

……しかし当然ながら鯉住君の考えは的外れである。

 

 

大和が「なんでもない」と言ったのは、定期連絡船の乗船チケットを、大本営側で手配することについてであり、断じて鯉住君を処刑することなどではない。

 

そして大和が鯉住君に会うのを楽しみにしていると言ったのは、その言葉本来の意味通りである。

 

彼女は鯉住君と話す中で、コミュニケーションが電話口だけではもったいないと感じたのだ。

実際に会って話をしたくなってしまったのだ。

そこで急遽、多少無理矢理ではあったが、彼に自分の元まで来てもらうことにした。

 

新規艦である秋津洲の性能テストをしなければならない、という理由もあるが、それだけなら秋津洲だけ招集すればいい話である。

だから今回鯉住君を大本営に招集することにしたのは、大和の私情という面が強い。

仕事に私情を挟まない大和からすれば、非常に珍しい意思決定だが、それだけ彼と話せるのを楽しみにしているのだろう。

 

 

 

そんなことは露とも知らない鯉住君たち。

思考回路が鯉住君と似ているせいか、スピーカー機能でやり取りを聞いていた秘書艦ふたりも、彼とほとんど同じ発想をしてしまった。

3人揃って電話を囲んで悲しみの涙を流している。

 

 

 

「……短い間だったが、世話になったな、叢雲、古鷹。

みんなには絶対迷惑が掛からないようにするから、安心してくれ……」

 

「な、何言ってるのよ……!ダメよ!何のために秘書艦がいると思ってるの!?

私が土下座してでも、靴を舐めてでも、アンタのことは必ず助けてみせるわ……!

だからお願いよ、諦めないでよぉ……!……グスッ……」

 

「そ、そうですよ、提督……!

私も絶対に提督を助けます……!! 私達の提督は貴方しかいないんです!

そのためなら私だって、何でもします……!!……うぅ……」

 

「ありがとうな、ふたりとも……!

キミたちのような強くて優しい子に出会えて、俺は幸せだったよ……」

 

「諦めるなって言ったでしょ!!私が……私が何とかしてみせるんだからっ!!」

 

「気持ちは嬉しいが、叢雲……大本営の決定なんだ、そう簡単には……」

 

「ダメです提督! 私達が、絶対、何とかしてみせますから!

この鎮守府が無くなっちゃうなんて、みんな望んでないんですからぁ!!」

 

「すまない……俺が不甲斐ないばかりに……!! ううっ……!」

 

 

 

号泣しながら抱き合う3人。

場面が場面ならば感動的なのだが、事情が事情である。

 

そんな葬式状態の執務室に、遠征が終わった艦娘が報告のため入ってきた。

 

 

 

 

 

「おいーっす。遠征終わったぜー。

今日も大成こ……うぉあああああっ!!!どうしたお前らぁあああっ!!??」

 

「て、天龍……! 今までありがとうな……!

キミの希望通り、あまり出撃させてやれなくて済まなかったっ!!この通りだ!!」

 

 

ガバッ!!

 

 

号泣しながら土下座する鯉住君。

それを見ながら溢れる涙もぬぐわず、泣き崩れる秘書艦ふたり。

 

 

「やめっ……! やめろぉッ!! 頼むから泣き止んでくれぇッ!!

何があったんだ!?どうしたらこうなるんだ!? 怖えぇよ!怖すぎんよぉ!!」

 

 

 

フラッ……

 

 

ガシィッ!!

 

 

 

涙目で訴える天龍に構わず、鯉住君は幽霊のようにチカラなく立ち上がり、彼女の両肩をチカラ強くつかむ。

 

 

「ヒイッ!?」

 

「天龍……! 俺の次に来る提督には、キミの良さをしっかり伝えておくからな!!

そして出撃では必ず声をかけるようにも伝えておく……!! 絶対だっ!」

 

「た……助けてっ……!!

龍田ッ!!たつたぁーーーーーーーーーーーッ!!

来てくれぇ!!助けてぇーーーーッ!!!! たぁつたぁーーーーーーーーーッ!!!」

 

 

 

……その後、天龍の悲鳴を聞き付けて30秒もかからずに駆け付けた龍田により、今回の騒動は沈静化することになった。

 

 

龍田がとった行動は実に鮮やかなものだった。

鯉住君と秘書艦ふたりには拳骨をお見舞いすることで正気に戻し、

あまりの怖さに、両手で顔を抑え女の子座りで泣いていた天龍を、背中をさすりながら「怖くない、怖くない」と言って優しく慰めた。

 

天龍が落ち着いた後に、3人から事情聴取した際には、「そんなわけないでしょ~」と一刀両断。

大和はそんなことをする艦娘ではない、とか、これだけ貢献しといてその処遇はあり得ない、とか、傍から見たら当然なことを3人に言い聞かせた。

 

おかげで3人もようやくまともな判断ができるようになり、「困ったら龍田」という認識が生まれることとなったのであった。

 

 

 




「かわいそうな天龍ちゃん……
きっと、初日に車の中で提督に木刀を突き付けた罰が当たっちゃったのね~」

龍田もなんだかんだ言って鯉住君のことは認めているようですね。

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