艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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鯉住君の女性に対する態度がおかしいのは、女性との交際経験が一度しかなく(中学時代。すぐフラれた)、色々とこじらせているのが原因です。

彼が赤城さんに助けられて使命に覚醒したのは、大学3年の後半ごろ。
それまで彼はパッとしない系草食系男子でした。

そもそも彼の高校は女子ゼロの男子校、大学は工学部ゆえ男女比9:1の超比率。
さらに、よその大学の女の子とお知り合いになれるようなバイトやサークルにも縁がなし。

モテる要素もモテる環境もなかったという感じです。
顔が少し良いくらいでは跳ね返せないくらいのディスアドバンテージがありました。

おかげで女性に対する知識は、高校の時に回し読みしていたグラビアや、いとこの妹分ふたりの扱い程度にとどまっているようです。
また、女性との交際については、小さいころ父と見た、渋めの洋画のイメージしかないため、女性とのお付き合い=大人の交際という認識です。

そんなわけで彼は、「お相手が20代中盤以降でないと交際相手として見られない」という残念仕様に仕上がってしまいました。
そして自分はそういうものと縁遠いと、ある程度諦めてしまっているため、「自分が誰かと交際する」というイメージも希薄なようです。




第32話

 

「うぅ……緊張するかも~……」

 

「大丈夫だよ秋津洲。いつも通りに行こう」

 

「そういう提督だって、私と同じで怖がってるの知ってるかも」

 

「だ、大丈夫だって……」

 

 

数日前に大和から大本営への招集命令を受けた、ラバウル第10基地の面々。

提督である鯉住君、秘書艦の叢雲、古鷹の両名、そして今回の主役である秋津洲。

以上の4名は現在、大本営の門前に歩いて向かっていた。

バス停から大本営までは多少距離があるので、その道中というわけである。

 

 

「今日はアンタの評価にも関わる晴れ舞台なんだから、もっとシャキッとしなさいよ」

 

「そうは言うけどな、叢雲。俺大本営に来るのなんて初めてなんだぞ……」

 

「提督なんだから堂々としなさい。秋津洲が安心できないでしょ」

 

「う……それを言われると痛いなぁ……」

 

「あはは……でも、提督のお気持ちは私達にもわかりますよ」

 

「甘いのよ古鷹は。お偉いさん方に情けない姿なんて見せられたら、たまったもんじゃないわ。私達まで馬鹿にされるかもしれないじゃない」

 

「キミだって大和さんからの電話の時、ひどく動揺してたじゃないか……」

 

「う、うるさいわね!あの時のことは忘れる約束だったでしょ!?」

 

「……」

 

「? どうしたんですか?秋津洲さん」

 

「なんだか提督と叢雲を見てたら、緊張してるのがバカらしくなっちゃったかも……」

 

「あ、あはは……」

 

 

ふたりの漫才を見て、呆れと安心を顔に滲ませる秋津洲。

 

色々大変なこともあるけれど、やっぱりここは居心地が良い。

 

改めてそんなことを思いつつ、秋津洲の緊張が和らいだのを見て、ホッとする古鷹である。

 

 

・・・

 

 

移動中……

 

 

・・・

 

 

4人が大本営の門前に到着すると、ひとりの女性が声をかけてきた。

非常に独特な紺色の制服を着ており、髪は金髪。

あのようなきわど過ぎる制服を着ているということは、きっと艦娘なのだろう。そう判断する鯉住君。相変わらず失礼な男である。

 

 

「いらっしゃ~い。私は愛宕。大本営で秘書艦のひとりをさせてもらってるわ。

あなたたちはラバウル第10基地の方々よね?」

 

「あ、はい。初めまして愛宕さん。

私はラバウル第10基地で提督をさせていただいております、鯉住と言います。

そしてこちらが秘書艦のふたり、叢雲と古鷹で、こちらが今回初邂逅となった秋津洲です」

 

「あら~。見慣れない子もいると思ったら、やっぱりそうだったのね。

はじめまして。よろしくね~」

 

「「「はい!よろしくお願いします!」」」

 

 

揃って敬礼する秘書艦ズと秋津洲。

やはりこういうところがしっかりしているのは、艦として激動の時代を見てきた経験からだろう。実に頼りになる。

 

ここは愛宕さん、ひいては大本営の皆さんに、自分たちの印象を少しでも良くしてもらえるよう、自分もフォーマルな態度をとるべきだろう。

そんなことを考えながら、彼女たちと同様に敬礼する鯉住君。

 

 

「あらあら。ご丁寧にどうも」

 

 

こちらの敬礼を受け、愛宕さんも答礼をしてくれた。

すると必然、姿勢を正すことにより胸が強調され……

 

 

(……でかい)

 

 

ギチッ

 

 

「……ツッ!!」

 

 

先ほど部下のフォーマルな態度に感心したのは何だったのだろうか。

鯉住君が非常に失礼な事を考えていると、叢雲に背中をつねられた。

 

どうやら視線だけで、彼の考えは正確に読まれてしまったらしい。

叢雲にチラリと横目を向けると、流し目で蔑むような視線を送ってきた。これは確実にバレている。

 

 

「うふふっ。そこは改装してないわ、自前よぅ~」

 

「提督……流石にもう少ししっかりしていただかないと……」

 

「目線が露骨すぎるかも……」

 

「……(蔑むような視線)」

 

 

どうやら叢雲だけでなく、全員に彼の考えは読まれてしまっていたらしい。

 

……事ここに至っては、印象アップなど考えている場合ではない。

速やかに謝罪するしかないだろう。

 

 

「……出会って早々、申し訳ありません……」

 

 

観念して頭を下げる鯉住君と、彼を取り囲み、ジト目を向ける部下の艦娘たち。

こんなに提督の立場が弱い鎮守府も珍しい。

 

 

「うふふっ。お聞きしてた通りね。面白い提督さん♪」

 

 

どうやら愛宕は鯉住君の視線についてはそこまで気にしていないようである。

ホッと一安心。胸をなでおろす鯉住君。

 

……しかし彼の耳には、気になるフレーズが。

 

 

「あの、お聞きしていた通り、とは……」

 

「あなたたちのことは、色々と姉の高雄から聞いているわ。とっても面白い提督さんが赴任してきた、ってね。

もちろん今までの功績も一通り把握してるわよ?」

 

「ああ……そう言えば、愛宕さんは高雄さんの妹さんでしたね。

お姉さんにはいつもお世話になっております。

……いや、本当に、お世話になっております……」

 

「あらあら……なんていうか、ホントに聞いていた通り、苦労されているようね……

ともかく仲良くやれているようで安心だわ」

 

「高雄さんがいなかったら、今頃私は胃潰瘍で入院してると思います……」

 

「ふふ。面白い冗談ね。

……それじゃいつまでも立ち話しているのもなんだし、中に案内するわ。大和も待っているしね。

それじゃ、ついてきて~」

 

「や、大和さんが……よ、よろしくお願いします」

 

 

大和というワードを聞いて、先日の醜態を思い出す3人。

本日の呼出しは懲罰的なものではないと頭ではわかっているが、それでも一抹の不安はあるのだ。

 

 

・・・

 

 

「なぁ秋津洲」

 

「……」

 

 

ギュッ

 

 

「歩きづらいから、あんまり引っ付かないでくれないか……?」

 

「……」

 

 

愛宕に案内されて大本営の応接間まで向かう道中、多くの提督と思しき人物とすれ違った。

大本営となれば、全ての鎮守府から諸々の用事で、日常的に提督の招集がある。常にどこかしらの提督が訪れているのは普通のことなのだろう。

 

だから応接室までの短い道中と言えど、多くの人数の提督と顔を合わせることになる。

その度にラバウル第10基地の面々は、好奇の視線を注がれていた。

 

 

「ごめんなさいね……皆さんあなた達に興味があるみたいで……」

 

「あ、いえ、愛宕さんが謝ってくださるようなことじゃありませんよ。

それよりもウチの秋津洲がスイマセン……こんなにおどおどしちゃって……」

 

「だってぇ……あの人たち秋津洲のこと見るとき、すごくじろじろ見てくるんだもん……

あんな気持ち悪い視線向けられて、いつも通りになんてできないかも……」

 

「あなたという艦娘は、まだ皆さんに知られていないから、その影響でしょうね……

あとは単純にかわいいからかしら……」

 

「うぅ……かわいいなんて言われても、こんな状況じゃ嬉しくないかも……」

 

「それに鯉住少佐自身も新任で顔を知られていないから、それで皆さん興味があるのかも……」

 

「ああ、それはあるかもしれませんね……」

 

 

実際それは本当で、鯉住君にも秋津洲と同じ程度には、好奇の目が向けられていた。

 

良くも悪くも有名な鼎大将組の新入りにして、技術工上がりという異色の経歴。

しかも内内で研修を終えたため、ほとんどの提督が彼の顔を知らない。

 

初邂逅艦の秋津洲と同じ程度には、彼も注目されていた。

 

 

「何よ、アンタのせいじゃないの。秋津洲に謝りなさいよ」

 

「叢雲ォ……それは濡れ衣なんじゃないですかねぇ……?」

 

「提督、叢雲さんは秋津洲さんの緊張を和らげようと思って、わざと……」

 

「ああもう!古鷹は余計なこと言わないの!そういうのじゃないから!」

 

 

顔を赤くして古鷹に反論する叢雲。

薄々鯉住君にもわかってはいたが、さっきのは彼女なりのフォローだったようだ。

 

 

「気遣ってくれるのは嬉しいけど、理不尽な批判はいじめにつながっちゃうよ。

クセになるとよくないから、そういうのはやめるようにね」

 

「う……わかったわよ……」

 

「キミは本当はすごく優しいんだから、もっと素直になればいいのに……」

 

「う、うるさいわね!大きなお世話よ!」

 

 

先ほど同様漫才を繰り広げるふたりを見て、愛宕はニコニコ微笑んでいる。

 

 

「うふふ。なんだか鯉住少佐、お父さんみたいね」

 

「わ、私がですか?」

 

「ええ。提督っぽくはないかしら」

 

「ええ……」

 

 

確かに今の状況を見ると、そのように見えなくもない。

少し落ち着いた古鷹が長女で、反抗期真っただ中と言った叢雲が次女、まだまだ提督に頼っている秋津洲が末っ子といったところか。

 

しかし鯉住君はまだ26歳。年頃の娘を持つような年齢ではない。

お父さんみたいと言われても少し複雑だ。

 

 

「秋津洲ちゃんもよかったわね。優しい提督さんで」

 

「他のところを知らないから何とも言えないけど、秋津洲は今の提督で良かったって思ってるかも。

少なくとも、さっき見てきたような人たちのところには行きたくないかも」

 

「あらら……」

 

 

秋津洲の返事を聞いて困り顔の愛宕。

それもそのはず、大概の提督の反応はあのようなものなのだ。鯉住君の艦娘の扱いが珍しいのである。

もし彼女が他の鎮守府に確認されたとしても、この様子ではうまくやっていけそうにない。

そのような事がいつ起こるかはわからないが、そうなったとしたら人事には気を遣わないといけなさそうだ。

 

 

「ともかく、応接室まではあと少しだから、もうちょっとだけ我慢してね。ごめんなさいね」

 

「そんなに気を遣っていただかなくても……」

 

「わざわざお呼びしたんですもの。少しくらい気を遣わせてちょうだい。

……あ、そうそう、忘れてたわ。道すがらこの後の予定をお伝えするわね」

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

 

恐らく愛宕さんは、話題を作ることでこちらの気を逸らしてくれるつもりなのだろう。

こういうところが秘書艦としての気遣いなのだろうと、感心する鯉住君。

 

 

「この後は一度皆さん全員を、筆頭秘書艦の大和にお任せするわ。

その後は大和の指示に従う形となるけど、大枠としては、秋津洲ちゃんは係の者に従って性能試験、秘書艦のふたりと鯉住少佐は新邂逅の件を含めて近況報告という形になるはずよ。

性能試験は大体長くて2時間くらいになるかしら」

 

「わかりました。……リラックスしていくんだよ、秋津洲」

 

「そんなこと言われても、緊張しちゃうかも……」

 

「まぁ、初めての場所で初めての体験だからねぇ……

そうだ。何をするのかわかれば不安も薄れるんじゃないかな?

愛宕さん、テストでは一体どういうことをするんですか?」

 

「そうねぇ、色々とあるのだけど……

基本的なところでは砲雷撃性能、対空砲火性能、耐久性能、これらのチェックが大部分かしら。

他にも対潜性能や回避性能、機動性能チェックなんかもあるけど、メインはその3つよ。

あとは水上機母艦って聞いてるから、先輩の千歳さんに付いてもらって、装備可能艤装チェックなんかもあるわね」

 

「なんだか色々ありすぎて、目が回っちゃうかも……」

 

「うふふ。大丈夫よ、心配しないで。

こちらが細かい記録をとるから、秋津洲ちゃんは言われた通りに動いてくれるだけでいいわ。

艦としての性能チェックであって、あなた自身を試すような真似はしないから、安心して頂戴」

 

「それでも心細いかも……提督に一緒についてきてもらっちゃダメ……?」

 

「お気持ちはわかりますけど、提督にもお仕事がありますから……」

 

「古鷹の言う通りよ、秋津洲。

私達も大和さんなんて大物とやり取りしなきゃいけないんだから、ひとりで頑張ってきなさい」

 

「うぅ~……」

 

 

軽く涙目になりながら、先ほどよりも強く鯉住君にしがみつく秋津洲。

どうやらなかなかに臆病な性格らしい。

 

 

「まぁまぁ……そうだ、ひとしきり済んだら、甘味処に寄っていこう。

秋津洲も頑張ることになるし、そのご褒美だね。どうかな?」

 

「か、甘味……! 秋津洲、頑張るかも!」

 

「うん。頑張っておいで」

 

 

やっぱり彼は父親のようだ、そう思いながら頬をほころばせる愛宕。

そのやりとりは、習い事の発表会に緊張する娘をあやす父親という他ない。

高雄から良い提督が赴任したという話を聞いて、どんな人なのか多少興味があったのだが、こういう人だったのか、と納得する。

 

愛宕にとっても彼の人柄は好ましいもの。

姉である高雄、先輩である大和が興味を示すのも納得といったところか。

 

 

「もちろん私達にもご褒美はあるのよね?」

 

「なに、叢雲。キミ甘味とか喜ぶタイプだったっけ?

意外とかわいらしいところもあるじゃないか」

 

「う、うるさいわね!そんなんじゃないわ!たまたま今日はそういう気分だっていうだけよ!

古鷹だって甘味食べたいでしょ!?」

 

「あはは……そうですね。

でも提督、いいんですか?私達までいただいてしまっても」

 

「いいよいいよ。たいした出費にはならないだろうしね」

 

「ありがとうございます」

 

 

そんなこんなで好奇の視線をものともせず、賑やかに応接室まで到着した一行。

それを見て、何事もなく済みそうだ、と胸をなでおろす愛宕なのであった。

 

 

 




釣りとか山登とかが楽しくて投稿が遅れてしまいました。申し訳ありません。
ちまちま書いていきますので、たまに箸休め程度に楽しんでいただければと思います。

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