艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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ラバウル第10基地から大本営までの道のりは、

定期連絡船→横須賀港→電車→バス→徒歩

となります。

上官になるとバス停まで迎えが来るようですが、佐官程度ではVIP待遇は受けられないようです。




第33話

 

 

「……以上となります」

 

「はい。よくわかりました。ありがとうございます」

 

 

今現在鯉住君は、大本営筆頭秘書艦である大和への近況報告を終えたところである。

 

愛宕に案内されて応接室に入室したラバウル第10基地の面々は、大和に実にフレンドリーに出迎えられた。

多少なりとも戦々恐々としていた3人にとって、その対応は肩透かしともいえるほどだった。

 

その後は係の者と名乗る職員が秋津洲を連れて行き、残された3人は着任してから今までの経緯を説明したのだが、この間も大和は非常に穏やかに、程よく相槌を打ちながら話を聞いていた。

これもまた3人にとっては肩透かしともいえる対応だった。色々やらかした手前、何かしらの叱責は覚悟していたからだ。

 

そんな塩梅で、無事に説明を終え、今に至る。

3人は心の中で安堵のため息をついていた。そして同時に龍田の言っていたことは正しかったんだなぁ、と実感していた。

3人の頭の中では龍田が微笑みながら「だから言ったでしょ~」とつぶやいていた。

 

 

「ええと……何か今の説明の中で、分からないことはあったでしょうか……?」

 

「いえ、問題ありません。

高雄から聞いていた通りの内容でしたし、妖精さんの挙動が説明できず、制御できないというのも周知の事実です。

とても分かりやすい説明でしたよ」

 

「そう言ってくださると、ありがたいです」

 

 

分かりやすいと言ってもらって、ホッと胸をなでおろす3人。

説明の多くの部分に「自分達でもわからない」という言葉を入れざるを得ず、後ろめたさを感じていたからだ。

相手に説明してくれと言われて、わかりません、では、話にならない。

3人が叱責を恐れていた理由のひとつである。

 

 

「それではこれでこちらが確認したいことは以上となります。

何かそちらが気になることなどはありますか?答えられる範囲でならお答えしますよ?」

 

「え……? そ、そうですね。それではひとつだけ……」

 

「はい。何でしょう?」

 

「何故私達には、何のお咎めもないのでしょうか?

着任してたったの2週間で、これだけ想定外の事態を引き起こしてしまったんです。

ラバウル第1基地の高雄さんには、大分迷惑をかけてしまいました。もしかしたら大和さんにも迷惑をかけてしまったんではないでしょうか……

自分で言うのも何ですが、私達は厄介に思われてはいないのでしょうか……?」

 

 

大和が穏やかな態度をとってくれているのを見て、日頃から気になっていることを尋ねることにした鯉住君。

両隣では秘書艦のふたりも真剣な表情をしていることからもわかる通り、彼女たちにとってもそれは共通の悩みだ。

 

ひとしきり発言し終え、息を呑んで大和の返答を待つ。

 

 

「ふふ。確かにあなた達の鎮守府関連のお仕事は、なかなかやり応えのあるものでした」

 

「や、やっぱりご迷惑を……!!」

 

「あ、いえ、勘違いしないでいただきたいのですが、私も高雄もあなた達に対して悪感情など持っていませんよ?

何か大きな出来事があれば仕事が増えるのは当然ですし、そういったものに対処するのは秘書艦の務めの内です。

そして何より、あなた達の行ってきたことは、どれもこれも海軍、ひいては日本の未来に光明を与える類のものです。決して迷惑などではありません。

あなた達の行いを賞賛こそすれ、厄介に思うはずもないですよ」

 

「そ、そうだったんですか……!!」

 

 

日頃から一番心配していたことが杞憂だとわかり、喜びを顔ににじませる鯉住君。

叢雲も、古鷹も、ホッとした表情をしている。

特に叢雲にとっては、この件での心配は鯉住君以上と言ってもよいほどだった。

それが解消された今、黙っていても喜びがにじみ出るくらいには、いい表情をしている。

 

 

「うふふ。変わった御方ですね。

普通の提督でしたら、自分の手柄の大きさを主張して、昇格願いでも出してくる程の偉業ですよ?」

 

「そ、そんなにすごいことなんでしょうか……?

私達としては、普通にやってきたつもりなんですが……」

 

「いえいえ、鯉住少佐は『普通の提督』の範疇には納まっていません」

 

「マニュアル通りやってきたはずなんですが……

なんだかお話を聞いていると、私の感覚はどうにも普通というところから離れているのでは、と思ってしまうんですが、どうなんでしょうか……?」

 

 

あまりにも想像の中の大和の態度と現実の大和の態度がかけ離れていることが気になり、よくわからないことを聞いてしまった鯉住君。

 

彼の中では、自身は一般的な常識人だ。ごく普通の一般市民とそんなに離れた感性をしているとは思っていない。

しかしやらかしたことを考えると、そして、大和の先ほどの言葉を踏まえると、ある不安が生まれてくる。

 

もしかして自分は、普通の提督と思われてはいないのではないか?

何か自分の知らないところで、おかしな奴、特別な奴、そういった扱いをされているのではないか?

 

これは彼にとって非常に重要な問題だ。

後方支援でひっそりと、縁の下のチカラ持ちとしてこっそりと、海軍の役に立とうと考えていた彼である。悪目立ちしてしまうのは避けたい。

 

提督という立場にあっても、穏やかな、平穏な、毎日が何事もなく過ぎていくような人生を送りたい彼にとって、色々と目を付けられるのだけは避けたいことであった。

 

 

「まぁ、それはその……否定しきれない部分があると言いますか……

やはり鼎大将のお弟子さんですので、私達としても納得していると言いますか……」

 

「えぇ……

もしかして私って、鼎大将や3弟子の皆さんと同じカテゴリに入れられてます……?」

 

「はい。それはもう、しっかりばっちりと」

 

「なんてこった……もうダメだぁ……おしまいだぁ……」

 

 

どうやら高雄も言っていた通り、彼の願いは永遠に叶わないものになってしまったらしい。

あの型破りな4人と自分が同じ穴の狢だと思われているというのだ。何ということであろうか。

そこそこの期間を共に過ごした鯉住君から見ても、あの4人はわけがわからない。

少なくとも、自分と同じような一般的な感覚を持っているとは思っていない。

 

まさか自分がその4人と同じような存在と思われているとは……

今後の身の振り方に多大な影響を及ぼすその情報に、鯉住君は大本営筆頭秘書艦の前ということも忘れ、頭を抱えてしまった。

 

 

「ちょ、ちょっとアンタ!しっかりしなさいよ!大和さんの前なんだから!」

 

「そうですよ提督!落ち着いてください!

ご自身の先輩と一緒にされるのが、何でそんなに嫌なんですか!?」

 

「あぁそうか……キミたちはあの人達がどれだけおかしいのか知らないんだよね……」

 

「自分に色々教えてくれた先輩に、なんてこと言うのよアンタは!?」

 

「あぁ、いや、もちろん感謝はしているよ……?

でもさ、それとこれとは別問題なんだよ……事前研修のことを思い出すだけで、頭が痛くなる……」

 

「えぇ……確か半年間の研修でしたよね?

どれだけすごい内容だったんですか……?」

 

「あっ……(察し」

 

 

鼎大将プロデュース、3弟子の皆さんが行う研修。

 

それだけの情報で、大和は察することができた。

その研修は、研修という名の皮をかぶった恐ろしい何かだということを。

そして鯉住君の達観したような表情が、その予想のこれ以上ない裏付けとなっていた。

 

彼はその得体のしれない何かを恐れる程度には、普通の感性を持っている。そのことを喜ぶ大和。

そして同時にこう思ったのだった。

『薮蛇になるかもしれないが、その研修の内容を聞いてみたい』と。

 

例の4人がどれだけ型破りな存在か、その身をもって知り尽くしている大和。

知りたいと思ってしまったのは、怖いもの見たさでもあり、同族意識の共有をしたいという仲間欲しさでもある。

 

 

「あの、鯉住少佐」

 

「あ……取り乱してしまって申し訳ありません、大和さん」

 

「いえ、それは別に構いません。

それよりも、その研修の内容、私にも教えていただけないでしょうか……?

もちろん嫌な思いをしてほしくはないので、できたら、で構いませんが……」

 

 

「できたら」といいつつも、彼女からは、「気になる」というオーラが溢れている。

それに気が付かない鯉住君ではない。情けない姿を見せてしまったお詫びも兼ねて、話すことにした。

 

 

「わかりました……お話しします。

しかし、その、正直言って、大本営筆頭秘書艦である大和さんにとっては、都合の悪い内容だと思いますよ?

それでも大丈夫ですか?」

 

「えぇ、まぁ、はい。ある程度予想はできています。

私も例の4名については、色々と存じておりますので……」

 

 

苦笑いしながら言葉を濁す大和。

その様子を見て何かシンパシーめいたものを感じる鯉住君。

 

これは多分あれだろう。大和さんになら一切合切話しても大丈夫ということだろう。

理屈では説明できないが、なぜかそう感じた。

海軍規範を軽々と超えるような違反だらけだが、それを話しても大丈夫に違いない。

というかむしろ、それを聞いたところで、あの人たちを処分することが不可能なことくらいは、大和さんはわかっているだろう。

 

 

「……大和さんになら、お話しても大丈夫とお見受けしました。

キミたちもせっかくだから聞いておくといい。あの人たちがどれだけ常識外れなのかわかるから……」

 

「な、なによ。アンタがそこまで言うなんて、珍しいじゃないの……」

 

「何でしょうか……イヤな予感がします……

聞きたいような、聞いたらいけないような……」

 

 

緊張で固くなる秘書艦ズを尻目に、話し始める鯉住君。

 

 

 

・・・

 

 

 

「私が最初に配属されたのは、佐世保第4鎮守府、加二倉さんのところでした……」

 

「いきなりそれは……ハードすぎるのでは……」

 

「はい。大和さんのリアクションの通りです。

当時はそれが当たり前だと思って必死で日々を凌いでいたのですが、今思えばあれは鼎大将の作戦でしたね……

私の中での色んな基準を引き上げるつもりだったのでしょう……」

 

「日々を凌ぐって……どんだけ厳しかったのよ?」

 

「そうだな……一番初めに取り組んだのが、実地訓練だったって言えば、わかりやすいか。

佐世保に到着したと思ったら、その1時間後、いきなり何も聞かされず小型船舶に乗せられたんだよ……そしてそのまま出撃……

それから最初の1週間は、毎日艦娘の皆さんと一緒に出撃してた……」

 

「え、ちょ、な、何してるんですか!?

人間が艦娘と一緒に出撃なんて危険すぎます!人間は深海棲艦から優先的に狙われるんですよ!?」

 

「だよねぇ、古鷹のその反応が普通だよねぇ。

でも当時はそれが普通だと思ってたから、『流石加二倉さんはスパルタだなぁ』くらいしか感じなかったんだよ」

 

「アンタよくそんな悠長にしていられたわね……

深海棲艦の放つ強烈な悪感情にさらされるっていうのに」

 

「まぁ、言う通り、出発前は怖かったんだけどさ……

艦隊の皆さんが楽しそうに敵を蹂躙してるのを見てたら、そんなことどうでもよくなっちゃって……」

 

「ええと……ち、ちなみにどのようなメンバーで、どんな海域に出撃していたのでしょうか……?」

 

 

想像以上にヤバかった内容に、ドン引きする大和。

しかしせっかくの貴重な情報だ。知りたくないし嫌な予感もするが、掘り下げて聞いていくことにした。

 

 

「そうですね……私の乗っていた船舶の護衛に、常に赤城さんがついていてくれた以外は、メンバーも海域も日替わりでしたよ?」

 

「そ、そうなんですか」

 

「あ、でも出撃したい方が優先で出撃させてもらえるルールがあったので、よく一緒になるメンバーは決まってました」

 

「何なんですかその制度は……海域に合わせてメンバーを変えなければ効率が悪いのでは……?」

 

「いや、なんていうかその……

私も同じことを聞いたんですが、『誰が出ても結果は一緒だ』とかいう話で……」

 

「うわぁ……」

 

「まぁ、その反応になるのはわかります……

それでバトルジャンキーな気がある方と一緒になることが多かったんですが、そのメンバーというのが、武蔵さん、龍驤さん、瑞穂さん、神通さんあたりですかね……」

 

「ヒッ……神通……!」

 

「瑞穂さんですってぇ!?」

 

「武蔵って……!!存在してたんですかっ!?」

 

 

鯉住君の発表する戦闘狂の面々に、三者三様の反応を見せる大和と秘書艦たち。

 

 

「瑞穂さんがバトルジャンキーなわけないでしょ!? あんた誰と間違えてんのよ!?」

 

「いやいや、合ってるって……

ていうか水上機母艦瑞穂って、みんなあんな感じなんじゃないの?

ほら、「困ってしまいます~」なんて言いながら、相手を笑顔で殲滅していくような……」

 

「バカ言ってんじゃないわよ!

瑞穂さんはもっとお淑やかで、大和撫子を絵に描いたような人なんだから!

私の憧れでもあるのよ!それをアンタ、よりによってバトルジャンキーだなんて!!」

 

「あ―……そうなのかぁ……やっぱり性格も違うんだなぁ……」

 

「何ひとりで納得してんのよ!」

 

「まあ、あまり気にしちゃいけない。あそこのメンバーは色々と常識外れだから」

 

「ちょ、ちょっといいですか!?」

 

 

叢雲と鯉住君のやり取りが収まらないうちではあるが、古鷹が話に割り込んできた。

礼儀正しい古鷹にしては珍しいことだが、よほど気になることがあるらしい。

 

 

「それも気になりますが、問題は武蔵さんです!艦娘として存在してたんですか!?」

 

「うん。居たよ。色々と尋常じゃなかった」

 

「や、大和さんはご存じだったんですか!?」

 

「神通怖い……川内型怖い……」

 

「や、大和さん……?」

 

 

虚ろな瞳で何かつぶやいている大和。

 

 

「……はっ! す、すいません、古鷹さん! 一体なんでしょうか?」

 

「えと、大丈夫ですか……?」

 

「はい……もう大丈夫です」

 

「ならいいんですが……

武蔵さんですが、艦娘として存在してるなんて、誰も知りませんよ!

ホントなんですか!?」

 

「ああ……これは秘匿情報なんですが、加二倉中佐のところに一隻だけ、存在が確認されています」

 

「秘匿情報って……」

 

「そうです。なので口外無用でお願いしますね。

小規模鎮守府に武蔵なんて超特級戦力が在籍していることが知られれば、あまりいい結果にはなりませんし……」

 

「そ、そんな状態で大丈夫なのでしょうか……?

いくら秘匿されているとはいえ、人の目にも触れる機会もあるでしょうし、隠し通せるとは到底思えないんですが……」

 

「まあ、そこは、公然の秘密、ということです。

なんとか交渉の末、武蔵の出撃は隠れて行っていただくよう、加二倉中佐には取り付けましたし、

もし誰かがそれを無視して公言しようものなら、その方は大変なことになるんですよ……」

 

「え、何ですかそれ……怖いんですが……」

 

「はい。怖いんです……

姉の私ですらあの子は手に負えないというのに、それと同等、もしくはそれ以上の戦力に襲撃されることとなります……」

 

「……」

 

「ですから、叢雲さんも古鷹さんも、公言しないようお願いします。

まあ鯉住少佐の部下ですから、問題はないんでしょうが……」

 

「い、いえ……絶対に他ではこのことは口にしないと誓います……」

 

 

知ってはいけない事実を知ってしまった古鷹は、涙目になっている。

 

 

「まあ、大丈夫だよ、古鷹。

あそこの面々は色々とぶっ飛んでるけど、基本的にはみんなすごく優しいし」

 

「今の話からその結論には至れないんですが……」

 

「ホントだからね?」

 

「アンタよく生きて帰ってこれたわね……」

 

「だからそんなひどいところじゃないって。

あそこの皆さんだって、立派な艦娘なんだし、日本の未来のために日々頑張ってくれてるんだ。

エッグい訓練の日々だったけど、ここまでして俺たちを守ってくれてるんだ、って思うと、手を抜くなんてできなかったよ」

 

「さっすが龍ちゃん、わかってるじゃん!」

 

「いや~、それほどで……も……」

 

 

 

 

 

 

 

「「「「 !!!??? 」」」」

 

 

 

 

 

 

 

応接室には先ほどまで大和、鯉住君、秘書艦ふたりの、合計4名がいたはずだ。

それが今はどうだろうか。誰の目にも5人いるようにしか見えない。

 

 

「キャアァッ!!だ、誰なんですかぁっ!?」

 

「え、なに!? ウソ!? いつから!?」

 

「やっほ~!龍ちゃん久しぶり!元気してた?」

 

「せせせ川内さんンッ!!?? 何してんですかぁッ!?」

 

「ヒイッ……! 川内型っ……!?」

 

 

 

 

 

 




何で大和回は大和がひどい目に遭ってしまうんやろか……

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