空母の面々は軒並み頭がいいです。
その理由には、彼女たちの戦闘スタイルが大きく関係しています。
空母勢は4スロット、もしくは3スロットに艦載機を積んで戦うのですが、
これは言い換えると4、もしくは3部隊を同時に指揮して戦うということでもあります。
例えば一ノ瀬中佐のところの飛龍改二(練度85)を見てみましょう。
彼女の艦載機搭載数は1スロットから順に、18・36・22・3です。
そこに順に流星改・彗星十二型甲・紫電改二・彩雲が積まれていた場合、どうなるかと言いますと、18機の流星改、36機の彗星十二型甲、22機の紫電改二、3機の彩雲の合計79機となる4部隊を同時に指揮することになるわけです。
これはゲームでいえばコントローラを同時に4つ操作するようなもので、人間にはちょっと不可能です。艦娘のハイスペックさがわかるよい例ですね。
だから空母は他の艦種よりも、練度が戦闘力に大きく影響します。
低練度のうちは、頭の負担を減らすために、全部隊を同時に動かしたり、艦載機を一種類に統一したり、部隊の個別運用は局地的なものにとどめたりします。これでも十分効果的ではあります。
しかしこれが高練度になると、全ての部隊をバラバラに動かせるようになるため、戦闘力は飛躍的に上昇します。空母の本領が発揮されるのはこうなってからですね。
例外として、化け物じみたヤベー奴らもいます。加二倉中佐のところの赤城改(練度???)や、龍驤改二(練度???)などです。
なんと彼女たちは、1部隊(1スロット)をいくつかの小隊に分割して運用しています。
だから彼女たちの操作する部隊数(スロット数)は実質20を超えてたりします。
この人外じみた艦載機運用方法は、ほかの同じ空母から見ても、意味不明とのことです。
「こうして晴れてアナタの部下になったわけだけど、これからの予定ってどうなってるの?
ていうか、今日って何しに来たの?」
半ば強引に異動してくることになった足柄が口を開く。
こちらが大本営に召集されたことは知っていたが、その目的、これからの予定については、何も知らないらしい。当たり前のことではあるが。
「ええと……ひとまず大本営にきた目的は、秋津洲の性能試験と大和さんへの近況報告です。だからそれが終わった今、用事はもうないんですが……」
「ですが?」
「大和さんとうちの秘書艦ふたりが、俺の研修について聞きたいということで……
秋津洲が戻るまでの時間つぶしがてら、ちょうど今、昔話をしていたんです」
「へぇ~。面白そうなことしてたのね」
「そしたら一ノ瀬さんのところでの研修の話をしているときに、当事者の足柄さんが現れたので、驚いちゃいましたよ……」
「タイミングはばっちりだったってわけね」
「それはもう……」
疲労困憊の鯉住君を見て、足柄はひとつ提案をする。
「そういうことだったら私も聞きたいわ。
アナタが他のところでやってきた研修、気になるもの」
「いいですよ……と言いたいところですが、今日は色々あっていっぱいいっぱいなんです……
大和さんもそうですよね……?」
「はい……私もう、泣きそうです……」
色のない表情をしている大和と、秘書艦たち。
鯉住君同様に彼女たちも疲労困憊なのは、火を見るよりも明らかである。
「えー、みんなだけずるいかも。私も提督の昔話、聞きたいかも」
「いや、しかしな、秋津洲……」
「まあそう言わないの。減るもんじゃないでしょう?
私が特別に、疲れの取れるハーブティーでも淹れてきてあげるから、続きを聞かせてちょうだい?」
「い、いや、それはぜひ、またの機会に……」
「それじゃ給湯室まで行ってくるわね。
あ、そうだ。秋津洲ちゃんも手伝ってくれるかしら?お姉さんが美味しいハーブティーの淹れ方、教えてあげるわよ?」
「わかったかも!秋津洲も一緒に行く!それじゃ、提督、みんな、行ってくるかも!」
「ちょ、ふたりとも……」
バタン!
そう言うと、ふたりは自身の提督の返事も聞かず、出て行ってしまった。
「「「「 …… 」」」」
ぐたぁっ……
ふたりが出て行ったのを見届けて、4人はほぼ同時に机に突っ伏した。
「アンタねぇ……提督なんだから……もっとビシッと断りなさいよ……」
「同感です……もう私、何も知りたくありません……」
「すまない……すまない……」
「いえ……皆さん、鯉住少佐を責めないであげてください……
私が研修について聞きたい、なんて言い出さなければ、こんなことにはならなかったんです……」
「や、大和さん……貴女が悪いわけでは……」
机に突っ伏したまま、不毛な会話を繰り広げる4人。
そんな中、大和が鯉住君に向かって話しかける。
「あ、そうだ、鯉住少佐……ひとつ私から提案なんですが……」
「なんでしょう、大和さん……?」
「私と鯉住少佐の連絡先を、交換していただけないでしょうか……?」
「連絡先……個人で持っているスマホのですか?」
「ええ。防諜の関係上、個人間回線にしようかと……」
大和からの申し出の意図がいまいち掴めない。
いったい何の連絡をするための連絡先交換なのだろうか?
「ええと……連絡を取るのでしたら、大本営からの個別回線でいいのでは……」
「いえ、公的でなく、私的に連絡を取りたいのです……
あの人たちの爆弾案件をひとりで抱えるのは、もう私の心が限界なんです……」
「あぁ……そういう……」
大和の意図がようやく理解できた。
目の前で机に突っ伏している彼女を見るに、随分と自分の先輩たちに振り回されてきたのだろう。
もし自分が「あの4人の申し出をひとりで処理しろ」なんて言われた日には、その場で辞表を出すに違いない。
それを今までやってきた大和には頭が下がる思いだ。
そしてその心労が限界というのも、非常によくわかる話だ。
「わかりました……こんな私でよければ……」
「ホントですか……ありがとうございます……」
ふたりはチカラなく、ずるりとポケットからスマホを取り出し、連絡先を交換した。
「また私が限界を迎えそうなときは、相談に乗ってくださると助かります……」
「そんなにギリギリになる前に、気軽に連絡してください……
あの人たちの案件は、早めに処理しないと大変でしょうから……
話すだけでも、楽になるでしょうし……私としても、色々とご迷惑かけてしまった大和さんには、恩を返したいですし……」
「お心遣い痛み入ります……私、とっても嬉しいです……」
妙齢の男女間での個別連絡先交換と書けば、実にロマンス溢れるシチュエーションである。
しかしゾンビのようにダラリとしながら行われたその行為には、そういったトキメキなど微塵も感じ取ることはできなかった。
もっとも、ツッコミ役である叢雲も、同じようにゾンビ状態で机に突っ伏しているので、誰もこのシチュエーションにモノ申す人はいなかったのだが……
「ただいまー。 秋津洲帰投したかも……って、みんな何で寝てるの?お昼寝?」
「あらぁ……これはまた、随分お疲れみたいね……」
給湯室から戻ってきたら、みんなして机に倒れこんでいた。
この光景を見て怪訝な顔をする秋津洲と、あまりのお疲れムードに苦笑いする足柄。
この謎空間には似合わないほど、ふたりが持ってきたハーブティーは、いい香りを振りまいていた。
・・・
「そろそろ落ち着いたかしら?」
「ええ……ありがとうございます。足柄さん」
「まったく、提督ともあろうものがあんな姿見せて……だらしないわよ?」
「誰のせいだと思ってるんですか……」
足柄と秋津洲が淹れてくれたハーブティーは、非常に美味しかった。
良い香りと程よい甘みで、本当に疲れが癒された。
間宮アイス程ではないが、なかなかの効果を感じる。
その証拠に、秘書艦たちと大和を見ると、先ほどよりも目に光が戻っているようだ。
このハーブティー、疲労度を一段階ほど回復させる効果があるのではないか?
さすが料理上手を自負する足柄である。
「それで、私の居た鎮守府……聡美ちゃんの鎮守府での研修の話までしたのよね?
それなら次は三鷹少佐の鎮守府での研修についてかしら?」
「そうなりますね……
と言っても、他のふたりの研修よりもインパクトに欠けると思いますが……」
「……アンタそれ、絶対ウソでしょ」
「提督の基準はもう信用できないです……」
「ふたりとも、ひどくない? 一応俺キミたちの上司なのよ?」
「だって……ねぇ?」
「ハイ……今までのお話には、なにひとつ普通の要素がなかったじゃないですか……
それよりはマイルドと言われても、なんの慰めにもなりません……
普通の私達にとっては、多分今からの話も普通じゃないと思います……」
「俺のこと変人みたいに言わないでね……? 普通に傷つくからね……?」
「「 …… 」」
「何とか言ってくれないですかねぇ……?」
コントをする程度の元気は出た3人。
しかしそんなコントよりも、提督の話を聞きたい秋津洲が口をはさむ。
「もー、提督、そんなにじゃれあってないで、早くお話ししてほしいかも」
「わかったわかった……今から話すからね……
あれは俺がトラック泊地に到着した日……」
……コンコンコン
鯉住君が話し始めようとした矢先、ノックの音が。
(お話し中すいません。愛宕です)
扉の向こうから、門前で出迎えてくれた愛宕の声がする。
どうやらなにか急な用事のようだ。
鯉住君は大和に目配せして、そちらを優先してもらうように言外で伝える。
その視線を受けた大和は、彼の言いたいことを察したようだ。
軽くうなづき、扉の向こうへと声をかける。
「どうぞ。かまいません。入ってください」
ガチャリ
「失礼します。お取込み中のところすいません」
「一体どうしたんですか? 何か緊急の要件ですか?」
「はい。大和さん。お客様がいらっしゃったので、お連れしようかと」
「お客様……? 鯉住少佐一行以外の来客予定は本日なかったはずですが……?」
「ええ。その通りなのですが……
そのお客様というのが、私達に対してではなくてですね……
鯉住少佐に対してのお客様のようで……」
「「「「 あっ……(察し 」」」」
ほとんど同時に、全く同じことを察した4人。
これは、まあ、あれだろう。流れ的に考えて十中八九、あれだろう。
そんな4人を見て首をかしげる、秋津洲、足柄、愛宕の3人。
「ええと……大和さん、なにか心当たりでもありましたか?」
「いえ、まあ、その……心当たりがないと言えばウソになります……
今そのお客様にはどうしてもらっていますか?」
「客間に待機してもらっています。すぐにお呼びしても大丈夫でしょうか?」
「……はい、お呼びしてください」
「わかりました。それでは、失礼します」
バタン
頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら退室する愛宕。
「……」
「どうしたのよ鯉住君。誰が来るかわかってるみたいじゃない」
「まあ、何と言いますか……察しはついていると言いますか……」
「なんか歯切れが悪いわねぇ……ま、来てみればわかるでしょ」
「違うといいなぁ……」
嫌な予感をひしひしと感じ、自分の予感が外れることを願う鯉住君。
それは秘書艦ふたりにしても、大和にしても、同様である。
……そんな謎の緊張の中、残りのハーブティーを飲みながら愛宕を待つ面々。
……コンコンコン
5分ほどしか経っていないのだが、どうやら愛宕は、そのお客様を連れてきてくれたようだ。
「……皆さん、心の準備はいいですか?」
大和からの問いかけに、
その問いの意味が分かる3人は、半ばあきらめた様子でうなづき、
その意味が分からないふたりはクエスチョンマークを浮かべる。
「では……どうぞ、入ってください」
大和の許可を受け、扉が開く。
その先には、愛宕に加え、紅白の和服を着た艦娘がひとり。
「失礼します。お客様をお連れしました。
トラック第5泊地所属、扶桑型2番艦・航空戦艦『山城』様です」
「フフフ……サプライズよ!
お久しぶりね、龍太さん!アナタに用事があってやってきたわ!
ねぇ、いきなり私が現れて、さぞ驚いたでしょう!?」
「「「「 …… 」」」」
「あ、あれ……?」
何とも言えない表情で山城を見つめる4人と、思っていたのと違う反応で困惑する山城。
「ああ……来たのは山城さんかぁ……暫くぶりです」
「ちょ、ちょっと、何で驚かないのよ!?
アナタが大本営に召集されたって聞いて、せっかくトラック泊地から、こっそりやって来たのよ!?
サプライズのつもりだったのよ!?もう少し驚きなさいよ!」
「ええと……なんというか、すいません……」
「龍太さんもそうだけど、アナタ達も受け入れるの早すぎでしょ!?
何でそんなに平然としてるのよ!?」
「だって……ねぇ?古鷹?」
「はい……なんと言っても、もう3度目ですから……」
「3度目ってどういうこと!?
私がアナタ達にサプライズしたのって、これが初めてでしょ!?」
「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ、山城さん……
このハーブティー、足柄さんが淹れてくれたんです。美味しいですよ?」
「私の18番のひとつよ!ぜひ味わってちょうだい!」
「提督~、秋津洲も頑張ったかも」
「そうだったね。秋津洲と足柄が淹れてくれた、だね」
「そうそう!そっちが正解かも!」
戦術的敗北を喫したことを悟り、苦虫を嚙み潰したような顔になっている山城。
「……大和さん……アポなしで来たのは謝るけど、一体どういうことなの……?
何故私の、ビックリドッキリサプライズ作戦は失敗したのかしら……?」
「何というか……お疲れ様です、山城さん……」
「うぅ……何なのよこれ……不幸だわ……」
やっぱりそういう流れだった。
三鷹少佐の治めるトラック第5泊地からの山城の来訪は、面々にすんなり受け入れられてしまったのだった。
最後のセリフが書きたくて山城さんに登場してもらいました。
山城ファンの皆さん、大変申し訳ありません。