前回の補足的なやつです。鼎大将組を怒らせるには、そして怒ったらどうなるのかをまとめました。
鼎大将
怒らせるには…部下をバカにする、身内に手を出す。
怒ったら…相手から何か仕掛けるように誘導し、返り討ちにする。
一ノ瀬中佐
怒らせるには…将棋グッズを目の前で壊す、部下をバカにする、身内に手を出す。
怒ったら…相手が提督なら演習でボコボコにする、それ以外なら連絡を絶つ。副次的にファンクラブ会員から目を付けられる。
加二倉中佐
怒らせるには…国益を損なう事をする、私利私欲で権力をふるう、身内に手を出す。
怒ったら…奇襲をかけ、二度と表舞台に出られないようにする。
三鷹少佐
怒らせるには…忠告を無視して絡み続ける、身内に手を出した上で勧告を無視する。
怒ったら…対象の周囲を巻き込んで、大打撃を与える。天災。MAP兵器。
一番怒らせやすいのは加二倉中佐、逆に怒らせにくいのは断トツで三鷹少佐。
怒ったら一番ヤバいのは、これも断トツで三鷹少佐、逆に被害が最も少ないのは鼎大将です。
例
Q・ある提督に、怒りを覚えるレベルでケンカを売られたとします。アナタならどうしますか?
A鼎大将・煽り返して逆上させ、相手から演習を仕掛けさせる。そしてボコボコにする。
A一ノ瀬中佐・大本営にその提督との演習願を出し、受理させ、ボコボコにする。
A加二倉中佐・当日夜に夜襲を仕掛け、鎮守府を壊滅させる。
A三鷹少佐・各方面にお手紙を書き、その提督の大事にしているものが全て無くなるように仕向ける。
前回鯉住君と山城のふたりが、あれだけ危険性を念押ししたのは、三鷹少佐は「決して怒らせてはいけない人」だということを伝えるためです。
「なんか……想像とは違って大和さん好意的だったけど……
想像以上に精神的なダメージを負ってしまったな……」
「そうね……大体アンタのせいだったけどね……」
「それは、まあ、その……」
「もう私疲れました……今日はもう自由行動にさせてください……
ゆっくり部屋で休みたいんです……」
「……なんというか、すまなかったな、古鷹……」
「いえ……この世界の触れてはいけないところをベタベタ触りまくるような話でしたが、提督は別に悪いことしてませんでしたし……」
「そう言ってもらえると助かる……」
椅子に腰かけながらぐったりする面々。現在彼らは大本営備え付けの宿舎に居る。
ラバウルまでの定期連絡船は2日後に出港だ。
入港した当日に出港では、わざわざ日本までやってきても用事を済ます時間的余裕がない。
そういうわけで、数日空けての出航という風にダイヤが組まれている。
そのため鯉住君一行は、本日含め3日間、本土で過ごす必要がある。2泊3日の旅ということだ。
一応出張扱いになるので、大本営、というか大和側で宿舎の空き部屋を用意してくれた。
艦娘先進国の日本、そこの海軍大本営ともなれば、世界中から訪問者も多い。
そのようなお客様、そして召集された提督たちの泊まる場所が併設されているのは、実に自然なことと言える。
そんな流れで愛宕に宿舎まで案内してもらったのだが、問題がひとつ。
「しかし、部屋割りはどうしようか……?」
そう。部屋数が足りないのである。
用意された部屋は4部屋。鯉住君一行は現在6名。
誰のせいかと言えば、明らかに足柄と山城のせいである。
足柄は当然、鯉住君一行に飛び入り参加する形となるので、部屋の予約をしてくれた大和としても想定外。
いったん横須賀第3鎮守府まで帰ってもらおうかとも考えたが、「別に相部屋でいいじゃない。これから一緒に暮らすんだし」という一言で、押し切られてしまった。
山城はちゃんと別で宿を予約していた。しかしその宿で、原因不明のボイラー施設爆発がタイミング悪く起こり、宿泊が急遽できなくなってしまった。
あまりにも不憫な話だったので、いたたまれなくなった鯉住君が、誰かとの相部屋宿泊を提案した。
そんなわけで、鯉住君と秘書艦のふたりは、ラバウル第10基地首脳会議を行っている。
今のうちにこの会議で、部屋割り決めと明日の行動の方針決めをしなければならない。
ちなみに残りのメンバーは隣室待機だ。
「部屋割りはもう普通に、私と古鷹、足柄と秋津洲、アンタと山城さんは個室でいいじゃない」
「ま、それがいいよねぇ。
秋津洲は足柄さんに懐いてるようだし、山城さんはゲスト扱いだし、俺も一人のほうが落ち着くし」
「そうですね。自然な部屋割りだと思います。
……しかし全室シングルなので、ベッドが足りないですね……ホントは部屋数を増やしてもらいたかったですが……」
「他は全室埋まっちゃってるんだから、仕方ないよ。
大和さんにも申し訳なさそうに謝られたけど、全面的に悪いのはこちら側だし……」
「そうねぇ……どうしたものかしら……」
「俺は別に毛布でもあれば床で寝てもいいから、ベッドを動かしちゃおうか?」
「いえ。流石にそれはできません。
借りているお部屋ですし、備え付けの家具を勝手に動かすのはやめた方がいいと思います。
何より、艦娘の私達がベッドに寝て、提督を床で寝させるなんて、あまりに失礼です」
「あー……俺のことはいいけど、さすがに家具を動かすのはよくないかぁ……
それじゃどうしようか……」
うーん、と頭をひねる彼を見て、叢雲がハッと何かを思いついた。
「あ、そうだ、さっきアンタ毛布って言ってたけど、大本営だったら布団くらい置いてあるんじゃない?
大和さんに聞いてみましょうよ。それで、あるんなら借りてきましょ」
「お、叢雲、ナイスアイデアだね。
それじゃ、さっきの今になっちゃうけど、もう一度大和さんのとこに顔を出してみるよ」
「あ、そういった雑用でしたら私が……」
「いいんだ、古鷹。
布団借りたい、って申請するついでに、大和さんのアフタフォローもしておきたいから。
……なんていうか、多分だけど、大和さん今燃え尽きているような気がして……」
「あー……」
「それは、まあ、ハイ……」
あんなに膨大な情報と、怒涛の精神攻撃を食らってしまったのだ。
さっきまではちゃんとした態度で対応してくれたし、余裕はまだあるように見えた。
しかしいったん区切りがついた今、緊張の糸が緩んで放心状態になっているんじゃないだろうか……?
なんとなくではあるが、そんな気がしている鯉住君。
この惨状を引き起こしてしまった原因は、少なからず自分にあると思っている手前、放っておくことはできない。そう彼は思っている。
「それじゃふたりには明日の行動について考えてもらおうかな。
基本自由だから、みんながやりたいことをできるようにしてくれればいい。
どこまで自由行動範囲にするか決まったら、俺に相談なく3人……あー……山城さんは別の鎮守府所属だし、彼女はいいか……
……秋津洲と足柄さんのふたりに、決定した内容を伝えて欲しい」
「わかったわ。こっちは任せなさい。
それじゃアンタ、色々迷惑かけちゃったんだから、しっかりフォローしてきなさいよ」
「そちらの方はよろしくお願いしますね。提督」
「ああ、行ってくる」
・・・
コンコンコン
「お忙しいところすみません。ラバウル第10基地の鯉住です」
しーん……
「……あれ? もう大和さん移動してしまったのか……?」
( あぁ……どうぞ……入ってください…… )
「……」
これはヤバい。
声にチカラがないとかいうレベルではない。掠れて消え入りそうだ。
ノックしてからの反応もやたらと遅かったし、彼女は非常に深刻なダメージを受けているような気がする。
……これは適当に対応していい状態ではないだろう。
自身も疲労困憊とはいえ、残ったチカラを振り絞って気を引き締める鯉住君。
「……失礼します」
ガチャリ
「……うっ」
彼の目の前には、両手を前に投げ出して、机に突っ伏している大和の姿があった。
一応の客人である自分が入室するというのに、この有様。
姿勢を正すほどの気力も残っていないというのは、火を見るより明らかだ。
「その……掛けさせていただきますね」
大和の対面に腰かける鯉住君。
本来の上下関係なら、彼は下座となる入り口側に腰かけねばならない。
しかし腹を割って話す必要があると判断した彼は、その位置取りを選んだ。
「鯉住少佐……一体どうしましたか……? また何かありましたか……?」
「いえ、安心してください。心にダメージを負うような話は、何もありませんから」
「それは……何よりです……それでは何をしに此処へ……?」
「えーですね……部屋数については全く問題ないんですが、ベッドが足りず……
布団や寝袋の類が置いてあるなら、貸していただけないかな、と」
「……あぁ、もう……そんなことわかりきってたはずなのに……
大変申し訳ございません、鯉住少佐……今すぐ……手配させますので……」
想像以上に大和は憔悴しているようだ。
普通に考えればすぐにわかる寝具の数の問題にも、今のコンディションでは気づかなかったらしい。
……微動だにせずぐったりとしたままやり取りをしている様子を見れば、彼女にエネルギーが一滴も残っていないことなど自明の理ではあるのだが。
「ええと……ありがとうございます。
あと今日は大変申し訳ありませんでした……私の半ば身内みたいな者たちが迷惑ばかりおかけして……」
「いえ……大丈夫……とは言えませんが、気にしないでください……
私は今日の色々は、必要経費だと思っていますので……」
「そう言っていただけるのはありがたいですが、やっぱり申し訳ないです……
さっきも言いましたが、私でよければ色々と相談に乗りますよ……?
ひとりで抱えるのには、あの人たちは型破りすぎますから……」
「……」
「や、大和さん……?」
押し黙ってしまった大和。何か考えているのだろうか?
「私、本当は、戦いなんてしたくないんです……」
「……え?」
大本営筆頭秘書艦である大和の口から、まったく立場にそぐわない言葉が出てきた。
「正直言って、鼎大将とお弟子さんたちには、ものすごく苦労させられています……
毎回私は、爆弾を処理するような気持ちで、事に当たっています……」
「あ、あぁ……やっぱりそうでしたか……すいません……」
「でも……あの人たちの目的は……いつでも……大事な人の安心、人類の平和、です……やり方はおかしいことが多いけど……
それは痛いほど伝わってくる……だから私も、大変ながらも……仕事を処理することができます……」
「……」
「でも……他の多くの案件は……そうじゃないものも多いんです……
汚職だったり……派閥争いだったり……みんな自分のことばかり……」
「私は……本当は、戦いたくない……
でも、いつか、平和な世の中で生きたいから……せっかくヒトの身を得たんだから、艦の時には見ることが叶わなかった……広くて美しい世界で生きたいから……今の仕事を頑張れているんです……」
「私は……どうしたらいいんでしょうか……?
このままでは……よくないことが起こるんじゃないかと……不安があるんです……
私達艦娘にも……人類を信じられなくなっている子が……増えている……
この不安は……いつか、手遅れな形で……湧き上がってしまう気が、するんです……
もしそうなったら……私は……どうしたらいいんでしょうか……?」
「……」
目を閉じてしっかりと大和のつぶやきを聞く鯉住君。
……どうやら自分は大和さんの事を誤解していたようだ。
世間的には、大本営の大和といったら、いわばカリスマ的存在だ。
戦力としてピカイチであり、大規模作戦の際には先陣を切ることもしばしば。
秘書艦として事務も高いレベルで請け負っており、日本でもトップクラスの能力。
そして抜群の美貌に、クールな性格。
多くの艦娘、多くの提督から羨望の目で見られている。
それは鯉住君も知っていたし、だからこそ、そんな大物に直接召集を受けた際には取り乱してしまった。
……しかし本当の姿はそうではなかったのだ。
彼女も超人なんかじゃなく、普通の優しい心を持った艦娘だった。
無茶ぶりオブ無茶ぶりばかりの鼎大将組について、表面上の型破りな内容ではなく、ちゃんともっと深いところを見てくれていた。
そして彼女はそれ以上のものを抱えていた。
日本、ひいては人類の平和。それには欠かすことができない要素である、人類と艦娘の信頼関係。
そこに亀裂が入っていくのを、黙って見ていることしかできない現状……
「……すいません。
話が大きすぎて、私には、大和さんがどうしたらいいか、なんて難しいことはわかりません」
「……」
「ただ、これだけはハッキリ言っておきます。
私は、何があっても、貴女の味方です。微力すぎる気はしますが、必ず有事の際には協力します」
「……」
「もちろん鼎大将や、一ノ瀬さん、加二倉さん、三鷹さんも、同じ気持ちのはずです。
あの人たちは本当に素晴らしい人たちだ。
ツッコミどころばかりだし、常識が通用しないことも多いけど、
いつだって、みんなが一番大切にしているもののために、全力を出せる人たちです」
「……そう、ですね……」
「だから大和さん、安心してください。
あの人たちが協力すれば、乗り越えられない状況なんてありませんから。
もちろん私も全力を尽くさせていただきます」
「……ありがとう、ございます……」
「だから戦いが終わって、大和さんが落ち着いて暮らせるようになるまで、一緒に頑張っていきましょう。
私にできることがあれば、いつでも頼ってください。
望む未来を掴むため、乗り越えていきましょう。みんなで、一緒に」
「う……うぅ……」
初めて他人に自分の抱える不安を吐露することができ、しかもそれを認めてもらえた。
嬉しさのあまり、泣き出してしまった大和。
普段なら人前で涙など見せないが、精神的に轟沈している今、それを我慢することなどできなかった。
「……ちょ……! も、もしかしなくても大和さん、泣いてます!?」
「ずびばせん……うぅ~……」
「ど、どうしよう……! だ、大丈夫ですか!?」
「だいじょうぶでず……ヒック……」
「えーと……えーと……」
圧倒的美人の女性を泣かせるという、人生で初の体験に戸惑う鯉住君。
どうしていいかわからずオロオロしている。
さっきまでキメ顔で「頼ってください」とか言ってた男がしていい行動ではない。
結局彼は大和が泣き止むまで、着席してハラハラしている事しかできなかった。
叢雲が居たら白い目で見られていたか、ローキックを食らっていたことだろう。あまりにもヘタレである。
・・・
「グスッ……すいません、お見苦しいところをお見せしました……」
「い、いえ……こちらこそ、何もしてあげられず、本当に申し訳ない……」
「そんなこと……アナタに会えて、本当に良かった……」
「や、やめて下さいよ……大げさすぎますって……!!」
「そ、そうだ、鯉住少佐、こんな醜態をさらした後で恐縮なのですが、ひとつお願いを聞いてはいただけないでしょうか……?」
「醜態だなんてとんでもないです……
その、お願いっていうのは何なんですか? さっきも言いましたが、できる限りは協力しますよ?」
「あの……その……」
もじもじしている大和。いったい何なんだろうか?
「私と、お、お友達になってくださいませんか?」
「……はへ?」
なんだか思っていたのと違う申し出だった。変な声が出てしまった鯉住君。
「や、やっぱり駄目でしょうか……?」
「え……? いや、その……よろしくお願いします……?」
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!!
なんて呼んだらいいですか!?お友達ですから「鯉住少佐」はおかしいですよね!?」
「え、ええと……何でもいいですよ……」
「それじゃ山城さんみたいに、「龍太さん」って呼びますね!
嬉しいわ!私お友達って初めて!」
エラいはしゃぎっぷりである。
さっきまで半死半生で机に突っ伏していた人と、同一人物だとは思えない。
若干引く鯉住君。
「その……私なんかじゃなくても、信頼できる人なんていっぱいいるんじゃないですか……?
例えばその、元帥とか……」
「もう!「私」じゃなくって、秘書艦のおふたりに対してのように「俺」でいいですよ!お友達なんですから!
元帥のことは心から信頼していますが、やっぱりそれはお友達という感覚とは、ちょっと違うんですよ!」
「そ、そうなんですか……?」
「あ、そうだ! 龍太さんがここに来たのは、お布団を用意してほしいからってことでしたよね!?
私ちょっとリネン担当に伝えてきますね!それでは!失礼します!」
「あ、ありがとうございます……」
ガチャン!
嵐のような勢いで部屋を後にする大和。
ひとりポツンと取り残された鯉住君は、あまりの大和の急変に対応しきれず、ポカンとしている。
「……まぁいっか……元気になってくれたみたいだし……」
なんだかおかしなところに着地した気もするが、布団の申請と、大和のフォローという、最低限の目的は果たすことができた。
思ってたのと違う結末に、何とも言えない表情をしている鯉住君なのであった。
このお話だと全然そんな感じではありませんが、世間一般が抱く大和のイメージは
「完璧超人」だったり、「クールビューティー」だったりします。
普段いかに大和が、立場を考えて無理しているかわかりますね。
本当の彼女は、優しくて結構面白い性格をしていると知っているのは、鼎大将組の極一部のみのようです。