艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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現在のラバウル第10基地戦力


重巡洋艦   古鷹改(Lv39 足柄改二(Lv88

重雷装巡洋艦 大井改(Lv36 北上改(Lv19

軽巡洋艦   夕張改(Lv25 天龍改(Lv32 龍田改(Lv28 

駆逐艦    叢雲改(Lv26

水上機母艦  秋津洲 (Lv2


秋津洲のレベルが未出撃なのに上がっているのは、大本営でちょっとだけ頑張ったからです。
事務や知識向上でも、ちょっとは経験値が入るものと思ってください。

少人数で毎日の遠征、近海哨戒、出撃を回しているので、練度の上がり方は比較的早いです。


また、この世界では、改、改二はポケモンの進化みたいなものです。
特定の練度あたりになると、勝手に服装と艤装が変わります。
Bボタンは無いので、U-511提督は血の涙を流さないようにお気を付けください。





第45話

 

 

 

 

 

「……私は横須賀に行こうと思います」

 

 

なんと、意外にも手を挙げたのは、普段主張しない大井だった。

 

 

「……ちなみに動機を聞いても?」

 

「はい。構いません」

 

「それじゃ、話してみて」

 

「提督が私達のことを甘く見てると分かったので、見返してやろうと思っています」

 

「……なんか、その……本当に申し訳ない……」

 

 

いつも通り事務的な対応だが、やっぱりまださっきのことを許してくれていないようだ。

辛い……

 

 

「いや、でも、自分の事を棚に上げて話すけど、本当にすごいハードなんだよ。あそこの研修。

俺の鼻を明かしてやりたい、程度の覚悟では、認められない」

 

 

天龍龍田姉妹のように、明確な動機があれば信じて送り出せる。

しかしそのような弱い動機では、到底乗り越えられないほどハードな研修なのだ。

 

 

彼は横須賀第3鎮守府で見た。

自身の研修中にも、艦娘研修は行われていた。そこで何が起こっていたのかを……

 

 

・研修プランは彼が知る限り5段階だったが、その中で一番易しいプランでも、あまりの辛さに廊下で倒れる艦娘が居た。

 

・彼が深夜目を覚ましてトイレに行った際に、艦娘研修が行われているのを発見した。さらに言うと、その艦娘はその前日もその翌日も、鯉住君が起きている間は常に研修を行っていた。

つまり研修中の彼女は、おそらくほぼ睡眠をとっていなかった。

 

・足元がおぼつかないほど疲労した研修中の艦娘が、教導艦に連れられ、演習場に向かうのとすれ違ったことがある。案の定彼女は口から煙を吐き、半ば死に体となってドックに運び込まれた。

 

・結局その艦娘は、研修期間満了まで耐えきれず、1か月でドロップアウトしてしまった。

 

 

……とまぁ、鯉住君が把握しているだけでも、十分にヤバい証拠がそろっている。

 

だからこそ、半端な覚悟の者は送り出すことはできない。

たとえ自分が非難されようとも、である。

 

 

「提督は、また私達のことをバカにするのですか……?」

 

「いやいや……そうじゃないよ。

俺もさっき叱られて反省したから、キミたちのことは、今までよりも深く信じることにした。

だけどね。そんな動機では、キミが研修に耐えられず、潰れるのは目に見えている。

潰れると分かり切っている者を送り出すことはできない。わかってくれ」

 

「……」

 

 

大井が不満そうな顔でこちらを睨んでくる。

美人ににらまれるとすごく怖い。

 

 

「……それじゃアタシがいこっかな~。横須賀」

 

 

会話が途絶えたところで、北上が立候補してきた。

これもまた予想外だ。北上は強くなることに、そんなに興味がないと思っていた。

 

 

「き、北上が……? 正直意外なんだが……」

 

「別にアタシは戦闘好きってワケじゃないけどさ、このままだと軽巡組の中で、私だけ置いてかれちゃうじゃん?

やっぱりそれは嫌なわけよ」

 

「……北上と大井は重雷装巡洋艦では」

 

「そういう細かいことは気にしな~い。気持ちの問題だよ。わかる?」

 

「うーん……まぁ、わかる気もするな……」

 

「それに提督だってさ、アタシたちが強い方が指揮しやすいでしょ?

なんだか思うんだけど、提督って戦闘中に指示出すとき、アタシたちに遠慮してる気がすんだよね~

そこんとこ、どうよ?」

 

 

話が少しずれ、北上から指揮についての指摘が入る。

 

 

 

・・・

 

 

 

……実は北上の指摘は正しい。

 

鯉住君は自身の研修を、佐世保、横須賀、トラックの順でこなしてきた。

これはわかりやすく言うと、所属艦娘の能力が高い順でもある。

 

各鎮守府の所属艦娘平均練度は以下の通り。

 

 

 

佐世保第4鎮守府 …… Lv255

 

横須賀第3鎮守府 …… Lv82

 

トラック第5泊地 …… Lv72

 

参考・大本営   …… Lv75

 

参考・一般的中規模鎮守府 …… Lv46

 

 

 

つまり彼の艦娘の能力基準は、最初にみっちり戦闘を叩きこまれた、佐世保第4鎮守府のものとなってしまったのだ。

 

だから彼の脳裏には常に、頭おかしい動きをする艦娘の姿が見えている。

その姿と現実とのギャップがうまく埋められず、指揮をうまく執ることができない、という現状がある。

 

もちろん鼎大将はこうなることを予想済みで、この順番で研修プランを組んだ。

どうせ将来的には強力な艦隊を指揮する機会があるだろうから、高いレベルに慣れさせる方が、後々有利になるという発想だろう。

 

 

 

・・・

 

 

 

「……いつから気づいてた?」

 

「たまに提督が指揮してるのを横から見てたじゃん?そんとき」

 

 

流石は北上。勘が非常に鋭い。

ここの北上はセンスで戦闘をするタイプで、かなり光るものを持っている。

 

 

「……すまなかったな、黙ってて」

 

「どうせアレでしょ?さっきみたいな理由でしょ?

『アタシたちが弱いせいで指揮がうまく取れない、なんて言えない』とか思ってたんでしょ」

 

「……いや、その……

俺がうまく指揮が取れないのは、そういうわけじゃ……

調整……そう、調整がうまく取れていない俺のせいだから……」

 

「はい言い訳無用~。図星~。

……だからそうやって、みんなの問題をひとりで抱えてると、解決できるものも解決できないじゃん?

そういう時はさ、はっきり相談してほしいんだよね。

ね~?大井っち?」

 

「……」

 

 

大井はぶすっとした顔で鯉住君を睨んでいる。

 

 

「そうか……大井も気づいて……」

 

「当たり前じゃんか。

この中で一番、提督の指揮で戦闘してきたのって、大井っちとフルちゃんだよ?

なんか変だって気づくのは普通っしょ」

 

「ふ、古鷹ももしかして……」

 

「あぁ、私はそこまではっきり気づいてませんでしたが……

何か違和感がある指揮だとは思っていました」

 

 

指揮がうまく取れない理由があまりにもなものであるため、こっそりと克服しようと考えていた。

しかし歴戦の艦でもある彼女らには、筒抜けだったようだ。

 

 

「そうか……情けなくなるな……」

 

「ま、着任一か月の提督にそこまで求めるのも酷ってもんじゃないの~?

アタシは他のとこ知らないから、よくわかんないけどね~。

研修中はどうだったの?足柄さん?」

 

「そうねぇ、私も結構不思議だったのよ。鯉住君の指揮が下手だって聞いて。

聡美ちゃんのところで行った演習では、問題ないように見えたから。

でも理由を聞いたら納得ね。艦娘の練度によって指揮も変わるから、そのギャップについていけてなかったのねぇ」

 

「全くその通りで……」

 

「だーかーらっ。アタシが提督のために一肌脱いでやろうじゃん、ってことなのさ。

今回の研修で実力つけて、楽させてあげよう、なんてね~。

こんなに優しい部下なんていないよね~。感動で泣いてもいいよ?」

 

 

北上が冗談交じりでハンカチを手渡してくる。

言っていることはかなり、本格的に、嬉しいことなのだが、いつもの北上節のため、なんとも微妙な空気である。

 

 

「すまないなぁ……頼りにさせてもらうよ……」

 

「なんだ。泣かないの? つまんない人だよ全く」

 

「そう言われましても……ん?」

 

 

ここで鯉住君にひとつの考えが浮かぶ。

 

大井が研修に志願してきた、いや、志願してくれた理由は、北上が今言ってくれたことと同じではないのだろうか?

大井も自分の指揮の欠点に気づいていたようだし、それをサポートするために、実力をつけてくれようとしたのでは……

 

いや、でも、常に一定の距離を置かれているイメージのある大井がそんなこと……

一体どうなんだろうか……

 

 

「その、大井、ちょっといいか?」

 

「……なんでしょうか?」

 

「もしかしてだけど、キミは、その……」

 

「違います。勘違いしないでください。

私は提督にバカにされるのが許せなかっただけです。

あと、北上さんが行くのなら、私も行きますから。いいですね?」

 

「あっはい……」

 

 

本人曰く、違うということらしい。だいぶ食い気味に否定されてしまった。

やっぱりそうだよなぁ、と、頭をかく鯉住君である。

 

 

「提督提督」

 

「……どうした北上? まだ何かあるのか?」

 

「加点1だよ」

 

「かてん……?」

 

「あ~、気づいてないか。やっぱ今のなし。

それよりもさ、横須賀行きはアタシ達でオッケーなの?」

 

「ああ。問題ない。

北上が話してくれた内容はホントにありがたいことだし、キミは一度決めたらやる子だしね。

大井も多分、何と言うか、大丈夫だと思う」

 

「わかったよ~」

 

「了解しました」

 

 

これで横須賀行きのふたりも決まった。

次は呉で研修をしたい子がいないか確認しよう。

そう思っていると、何か言いそびれていたのか、北上から話しかけられた。

 

 

「あっ、そうだ。ね~提督~?」

 

「……ん? どうした?」

 

「アタシたちってば、提督の言うメチャクチャ厳しい場所に行くわけじゃん?」

 

「まぁ、そうなるが……」

 

「だからさ、戻ってきたらご褒美ちょうだい」

 

「……う」

 

 

まさかのおねだりであった。

彼の脳裏に、以前北上と行った、プレゼント選びの記憶がよみがえる。

 

……すっごいダメ出しされたなぁ……

 

 

「……商品券とかでいいか?」

 

「は?」

 

「いや、何でもないよ……その時はまたプレゼント選ぶから……」

 

「それでいいんだよ、まったく……どうしてくれようかと思ったよ……」

 

 

呆れ顔で鯉住君に目を向ける北上。

返答を間違えたらどうなっていたのだろうか?考えたくもない。

 

その会話を見ていた各方面。ご褒美と聞いては黙っていられない。

 

 

「おい提督!ずりーぞ!北上達だけ!

俺にもなんか買ってくれよ!シルバーのアクセサリーとか、カッケー奴!」

 

「あら~。私も素敵なプレゼント、欲しいな~」

 

「わ、私だって!師匠からのプレゼント、もっと欲しいですもん!

楽しみにしてますからね!」

 

「みんなだけもらって秋津洲だけ無しなんて、ありえないかも!

また間宮に連れてって欲しいかもー!!」

 

「あ、私も連れてってね。古鷹も行く?」

 

「え、えと……提督が良いと言ってくださるなら……」

 

「そうねぇ、私は何がいいかしら?

最新の圧力鍋なんていいかもしれないわね。横須賀でいいの見つけたのよね~」

 

 

怒涛のおねだりラッシュに圧倒される鯉住君。

さっきも心底たじろいでいたが、今はまた別の意味でたじろいでいる。

 

 

「わ、わかった。わかったから。

確かにとても大変な2か月間になるだろうから、無事にやり遂げたら、みんなで町にでも出かけよう。

ポポンデッタ港の田舎町じゃなくて、そうだな……

俺が住んでた呉にでも、旅行に行こうか」

 

 

「「「 異議なし!!! 」」」

 

 

とても賑やかになった、ラバウル第10基地の会議。

やはりこういう賑やかな雰囲気が、この基地には合う。そう思う鯉住君であった。

 

 

 

 

 

……ちなみにこの後、残った枠を埋めるように人員配置が決まった。

 

結果はこのような感じ。

 

 

横須賀第3鎮守府(一ノ瀬中佐のとこ)…… 北上 大井

 

佐世保第4鎮守府(加二倉中佐のとこ)…… 天龍 龍田

 

ラバウル第10基地(ここ)     …… 夕張 秋津洲

 

呉第1鎮守府(鼎大将のとこ)    …… 叢雲 古鷹

 

残留(兼 秘書艦・戦闘要員)    …… 足柄

 

 

 

叢雲が秘書艦から離れることで少し悩んだが、足柄が説得した。

自身の実力をつけるのも大事、という話をしたのだ。

 

叢雲もそれには納得し、呉の研修参加に踏み切ることができた。

 

 

 

 

 




これにて第2章・完となります。

次回からは第3章。
一回りも二回りも成長したラバウル第10基地の面々がみられるかと思います。

彼ら、彼女らの事、応援していただければ嬉しく思います。

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