待っていてくださった方は、お待たせいたしました。
章が変わったとはいえ、何か雰囲気が変わるわけではありません。
あいかわらず、苦労するメンバーと自由にやるメンバーに分かれて、のびのび楽しんでもらう予定です。
気を楽にしてお読みいただければ幸いです(設定ガバは見逃してください)。
第46話
ここはパプアニューギニアにある、日本海軍のいち鎮守府、ラバウル第10基地。
そこには、その南国の気風には似合わぬ建物が一棟。
日本の田舎の豪農が住んでいそうなその建物。
まるでそうは見えないが、そこが鎮守府棟である。
その中の一室、居間にしか見えない執務室では、
提督の鯉住龍太(こいずみりゅうた)と、秘書艦の足柄がくつろいでいた。
すすっ……
「……ふぅ。
足柄さんが淹れてくれるハーブティーは、いつ飲んでも美味しいですね」
「うふふ。
提督は毎回そう言ってくれるから、私としても振る舞いがいがあるわね」
この基地は提督含め、総勢10名の小規模鎮守府。
あと4,5名も増えれば中規模と呼べる規模になるが、この人数ではまだ小規模と言ってよいだろう。
……そんな場所であるが、所属艦娘たちは足柄を除いて、2か月と少し前に個別研修という名の地獄の特訓に出向いた。
一部の艦娘はこの鎮守府に留まり、自身の提督から艤装メンテナンスの研修を受けていたため、厳密にいえば全員出向いたわけではない。
しかし皆、チームである鎮守府メンバーのために、自分のチカラを向上させたいという共通の想いで頑張ったのは同じだ。
新米提督である彼は知らないことだが、艦娘の方から「研修に参加したい」と言えるほど、風通しのいい鎮守府は稀である。
彼の鎮守府運営は、艦娘という存在と非常によく噛み合っているという、何よりの証拠だろう。
そこまでして支えてやりたいと、彼女たちから彼が慕われている事への証拠でもある。
……そしてつい先日、各メンバーから研修無事終了の知らせが届いた。
さらに言えば、本日は定期連絡船の寄港日。
この連絡船で、全員が揃って帰ってくるという知らせも受けた。
本当に久しぶりの再会である。提督である鯉住君の気分も高揚するというものだ。
「ついに今日、みんな帰ってきますね。
迎えに行くのはまだ何時間も先ですが、今から待ち遠しいですよ」
「そうね。たった2ケ月ちょっとだったけど、随分長い時間だったような感じもするわ。
みんなキャラが濃いから、たった2ケ月でも長く感じちゃうのかしら?」
「みんなキャラが濃いとか、アナタが言っていいセリフじゃないでしょう……
ともかく、みんな無事でよかったです。信じているとはいえ、不安もありましたから……」
「そういうこと本人たちの前で言っちゃだめよ?
相変わらず心配性なんだから……」
「わかってますよ。
そんなこと言ったら、また叱られちゃいますからね」
「ま、そんな心配も吹き飛んじゃうほど、全員頼もしくなってるはずよ」
無事に研修を終えられたと全員から連絡を受けた際、提督である鯉住君は大きな安堵のため息を漏らしたものだった。
それもそのはず。
研修先は日本、いや、おそらく世界的に見ても屈指の実力を持つ鎮守府だ。
彼が心配症ということを差し引いても、部下の安否を気遣うのは無理からぬこと。
ちなみにこれは後で知ったことだが、驚くことにいずれの鎮守府も、研修完遂率が50%を切っているらしい。
研修としてそれはどうなのかとも思うのだが、途中でドロップアウトした段階でも非常に大きな練度上昇がみられるため、その問題はあまり気にされていない模様。
北上大井姉妹は、横須賀第3鎮守府に(研修完遂率30%)。
疑いようもなく日本一の指揮能力を誇る一ノ瀬聡美(いちのせさとみ)中佐。
彼女が率いる猛者たちの中で、ふたりとも必死で腕を磨いたようだ。
送られてきた研修結果によると、大井を指導していた香取、北上を指導していた巻雲から見て、ふたりとも非常に結果は良好だったとのこと。
大きな練度の向上を成し遂げた。
天龍龍田姉妹は、佐世保第4鎮守府に(研修完遂率10%)。
常軌を逸した研鑽で、全員が一騎当千の実力を誇る化け物集団を率いるのは、加二倉剛史(かにくらつよし)中佐。
ふたりはここで、毎日ギリギリのところで生をつなぎとめていたようだ。
送られてきた研修結果によると、ふたりを指導していた神通から見て、及第点の評価だということだ。
彼女の言う及第点がどれほどのものか正確にはわからないが、たぶん想像以上に実力をつけていることだろう。
叢雲古鷹の秘書艦コンビは、呉第1鎮守府に(研修完遂率50%)。
5年前の本土大襲撃の際、西日本全域の全鎮守府の指揮を執り、被害を最小限にとどめた名将、鼎寛(かなえひろし)大将。
彼が運営するここは、非常に高いレベルでまとまった能力を持つ艦娘が数多く在籍している。
たったの2か月ではあったが、研修結果を見るに、多岐にわたる内容の訓練を受けたようだ。
ふたりはそれぞれ主導教官として五十鈴と熊野に師事し、高いレベルのジェネラリストとして大成したとのこと。
夕張秋津洲の弟子ふたりは、ここ、ラバウル第10基地で研修を行った。
艤装メンテナンス技師として、日本でも指折りの実力を持つ、自身の提督である鯉住龍太少佐が教導。
本気を出すと言っていた彼の全力指導により、ふたりとも一流の技術を身につけることに成功した。
チームとしての仕事以外の部分は、ベテラン整備士にも負けないレベルまでたどり着くことができた。
「報告書によると、みんなとても強くなったみたいだし、会うのが楽しみです」
「そうね。私も下手すれば追い越されちゃうかも。
……そういえばだけど、北上と大井の研修って、『飛車角』コースだったんでしょ?
ホントによく最後までやり切ったと思うわ」
「5段階難易度の中で、上から2番目の難易度ですよね?
やっぱり厳しいコースなんですか?」
「ええ。あのコースを完走できたのは、たったのふたりだけよ。
大本営の加賀さんと、木曾さんだけ」
「そ、そんなに厳しい研修なんですか……」
「ええ。やれって言われても、やりたくはないわね」
・・・
港に迎えに行くまでの時間を、雑談をして過ごすふたり。
そんなのんびりした空気の中、執務室のふすまにノックの音が。
とんとんとん
「……あら?誰かしら?」
「いったいなんでしょうか……どうぞー」
すぅーっ、とんっ
「失礼します。夕張、準備完了しました!」
「秋津洲も準備できたかもー!」
「あれ?もう来たの?早くない?」
今日は鎮守府メンバーのほとんどが帰ってくるため、残っているメンバー全員で迎えに行こう、ということになっていた。そのために中型バスも呼んである。
だから夕張と秋津洲には、迎えに行くまでに本日の業務を終わらせて来るように伝えていた。
まぁ業務と言っても研修後の片づけや、部屋の掃除程度の簡単なものだったのだが。
つまりふたりは、その少しだけあった業務を終え、執務室に連絡しに来たということだろう。
……そして彼女達のうしろには、見慣れた顔がいくつか。
(へーい!てーとくー!こうちゃのかおりがするねー!)
(ひええー いいかおりです!)
(すてきです! だいじょうぶです!)
(てぃーかっぷはよういしてあります! じゅんびよーし!)
「……キミたちも来たのか。
それじゃみんな、足柄さんが淹れてくれた紅茶、飲むかい?」
「いただきます!」
「飲みたいかも!」
(おふこーすねー!)
なんとこの2か月の間に、英国妖精さんの仲間が増えたのだ。
夕張と秋津洲を指導するにあたって、簡易製鉄所を起動させる機会は非常に多かった。
わざと艤装を破損させて、破損したパーツの交換や、どの程度の破損なら自力で修正するのかの見極めを練習するためだ。
その度に英国妖精さんに頑張ってもらっていたのだが、どうにも彼女、疲れてくると狙ったパーツを出せなくなるということが判明した。
簡易とはいえ、ひとりで製鉄所を動かすのである。それなりに骨が折れるらしい。
「もうげんかいでーす」なんて言いつつ、謎のペンギン人形や謎のスポンジお化け人形を量産する彼女を見て、申し訳なく思っていたものだった。
しかしある日、いつも通り工廠にやってくると、なんと製鉄所で働く妖精さんが増えていたのだ。
英国妖精さん曰く「まいしすたーずをしょうしゅうしたでーす!」とのこと。
どこから招集したのか、いつの間に召集したのか、妖精さんに姉妹関係なんてあるのか、疑問はいくつもある。
しかしいつも通りと言えばいつも通りの事なので、深く考えずに受け入れることにした。
おかげさまで製鉄所稼働率は、4人に増えただけあって、今までの4倍となった。
4人仲良く製鉄所を動かしているのを見ると、なんだかほっこりするというものだ。
どこぞの悪態をついてくる妖精3人とは違うというものである。
(きこえてましたよ)
(これまでのおんをわすれてそのいいぐさ)
(ぎるてぃです)
ひとの回想にまで割り込んでこないでいただきたい。
キミたちこそプライベート侵害で有罪ですよ。
・・・
……そんなこんなで賑やかになった執務室。
みんなでハーブティーを飲みながら、迎えの時間まで雑談を続けることにした。
鯉住君が英国妖精シスターズのミニサイズティーカップにハーブティを注いでいると、夕張が話しかけてきた。
「皆さんに会うの、久しぶりですね。
どれだけ強くなってるんだろう?古鷹も強くなってるのかな?」
「報告によると、古鷹もかなり練度を高めたみたいだったよ。
鼎大将のところで、一芸特化じゃなくて、どんな状況でも対応できるような研修を積んだみたい。
戦闘以外でも事務や諜報なんかも鍛えたんだって」
「はへ~……たったの2か月でよくそんなに詰め込めたものですね」
「叢雲もそうらしいけど、すごいやる気で頑張ってくれたんだってさ」
「みんなここの事はすごく気に入ってますからね。
何としても自分もチカラになりたい、って気持ちは私達も一緒です。
そうよね?秋津洲」
「当然かも!私も夕張も鎮守府のみんなのために頑張ったかも!」
「そう言ってもらえると助かるよ。ありがとね。
ふたりとも俺の想像よりも、遥かにチカラをつけたし、その言葉に偽り無しってところかな」
「ふっふ~ん。提督のおかげで私達も、すごく艤装メンテの腕をあげられたかも!
今ならどんな状況でも対応できる気がするかも!」
ドヤ顔で息巻く秋津洲を見て、足柄が気になったことを質問する。
「あら。アナタ達そんなにレベルアップしたの?
私は研修にほとんどノータッチだったから知らないんだけど、どのくらいの事ならできるようになったのかしら?」
「そうですね……まだ経験してないのでおそらく、なのですが、
師匠の言葉を借りるなら、『大本営主導の大規模作戦で、チームリーダーを任せることができる』程度の実力になったみたいです」
「……え? それってホントなの?提督?」
「ホントですよ。
ただチームで働く経験をしていないので、技術面に関しては、という条件付きですが」
本当は研修に応募してきたメンバー全員で、チームとしての動きも練習する予定だった。
しかし結局ここでの研修は、夕張と秋津洲のふたりだけで行うこととなったのだ。
鼎大将に一般公募しようと思っていることを伝えたら、やめておくよう言われたからだ。
彼はその界隈ではかなりの有名人となっており、研修受け入れなんかした日には、いたるところからメンテ技師が殺到する未来しか見えない。
本人には有名人だという自覚がないようだが、書籍まで発行しているので、よく考えなくても彼の知名度が高いのは当然である。
「大規模作戦時のチームリーダーって……ちょっとにわかには信じられないわね……
それくらい実力ある人材って、日本中探してもほとんどいないんじゃないの?」
「まぁ、そうかもしれません。
でも実際、ふたりともそれくらいには実力をつけましたよ。
厳しく指導したんですが、よくついてきてくれました」
「師匠の教え方が良かったおかげですよ!」
「すっごく大変だったけど、自分でわかるくらいスキルアップできたかも!」
事もなげにとんでもないことを言ってのける自身の提督を見て、足柄は感嘆のため息をつく。
「はぁー……普段を見てると頼りないからすっかり忘れてたけど、そういえばアナタってすごい人だったわね……
お姉さん驚いちゃったわ」
「足柄さん……嬉しくはありますが、相手が複雑な気分になる褒め方はどうかと思います……」
普段から自分がどう見られているか、予期せぬ知り方をしてしまった鯉住君。
しょぼんとしている彼を見ると、足柄の言葉にも納得せざるを得ないというものだ。
・・・
「それで提督、今日は私たち全員で港まで迎えに行くってことでしたけど、いつもみたいに提督が迎えに行くのじゃ駄目だったんですか?
帰ってくるのは6人なんだし、ちょっと狭いけど一回で乗ろうと思えば乗れたんじゃ……」
「まぁ、叢雲や古鷹辺り小柄なメンバーなら、一列に3人座ることはできただろうけど……
実は今日は新メンバーが呉からやってくることになってるからね。
7人じゃ一往復じゃ厳しいかと思って。窮屈な思いもさせたくないし」
「あぁ……あれですか……? 師匠の婚約者とかいう……」
新メンバーと聞いて、夕張が一気に不穏な気配を醸し出す。
「ち、違うから……
それは誤解で、そういう関係じゃないから……」
「へー、そうなんですかぁ。ふーん。
聞きましたよ? 送別会をした時に、すごい勢いで公衆の面前で口説いてたって……」
「そ、そうじゃないんだよ……
俺はただ、肌をさらすのは俺以外のところではやめるようにと……」
「なぁんで師匠の前では脱いでもいいんですかねぇ……?」
「ゆ、夕張、落ち着いて……
あれだよ、俺の目が届く範囲だったら、何かの間違いが起こることもないからで……」
必死の弁明も、動揺で目が泳いでいては効果薄である。
夕張の刺さるようなジト目は、緩む気配を見せない。
「師匠と何かの間違いが起こる可能性は、考えてなかったんですか……?」
「いや、ありえないから……初春さんって小学生くらいでしょ?
いくらなんでも小学生に対してそんな……ありえないって……
しかも彼女艦娘だし……ありえないって……」
「あら。駆逐艦とケッコンする提督もいるって話じゃない?
本人たちの同意の上でなら、何も問題ないじゃない。
ほら、私達って人間の法律適用されないし」
「足柄さぁん!変なフォロー入れるのやめて下さい!」
「提督って、おっぱい好きで、しかも小さい子が好きなの……?
とんだ変態かも……」
「ヤメテ!そんなんじゃないからぁ!!お願いだからそんな目で見ないで!」
いつも通りいじられまくる鯉住君。
提督が部下に好き放題いじられるという光景は、よその鎮守府では決してみることができない珍百景である。
「はぁ……はぁ……
と、とにかく、初春さんが異動して来るはずだから、みんなの出迎えも兼ねて、中型バスを手配したんだよ……
あと俺はおっぱい星人でもロリコンでもありません……もっとノーマルな嗜好をしています……多分……
強いて言えば、大人のお姉さんが好みだから……普通なはず……」
「提督ウソつきかも……絶対おっぱい大好きかも……
大本営で愛宕さんの胸を見てたの、よく覚えてるんだから」
「ち、違うんだって。
男なら何というか、視線が、こう、吸い寄せられることはあるんだよ!」
「そんなにおっぱい大きい子が好きなの!?
少しあるくらいがちょうどいいかも!提督は何にもわかってないかも!!」
「そうですよ師匠!あんな脂肪の塊の何がそんなにいいんですかっ!?
胸なんて無い方がいいに決まってます!生活が楽ですし!肩も軽いですしっ!!」
なんだか必死に主張を始める弟子ふたりに対して、余裕の表情の足柄が口を開く。
「あらあら。提督って、胸が大きくて、大人な女性が好みだったのね。
だったら私なんてピッタリじゃない?どうなのよ、ねえねぇ、お付き合いしちゃう?」
「や、やめて下さいよ。場が収まらなくなっちゃうじゃないですか……
そ、そんなに寄らないでください……」
「「 ギギギ…… 」」
大人の色気ムンムンで提督を誘惑する足柄と、やめろと言いつつ、まんざらでもなさそうな鯉住君。
持つ者と持たざる者の差を見せつけられた弟子たちは、すごい顔で歯噛みしている。
(ひええー ごちそうさまですっ!)
(おとなのろまんす…… すてきです!)
(けいさんによると、あしがらさんがいっぽりーどですね)
(おーぅ…… わたしもろまんすしたいでーす……)
そんな光景を見せつけられて、思い思いの感想を漏らす英国妖精さんたちなのであった。
このお話は色々と重い設定がありますが、それは基本本編には出さない方向でいこうかと思います。
出したとしても三鷹少佐が怒った時の話くらいを限度にしようかな、と。
ギャグ路線ですしね。物騒なタグを追加するのもあれですし。
というわけで、物騒な設定は、前書きあとがきで、ほんのさわりを少しだけ出していくことにします。
本編の雰囲気を楽しんでくださっているのなら、読まなくても問題ないですので、スルーしてくださいね。