そういった酔い方をします。
その結果、普段から艦娘に対して抱いている感謝の想いをばら撒くため、一種のテロ行為となります。
勘違いしてしまう子は、勘違いしてしまうことでしょう。
それが原因で呉で鳳翔さんに窘められて以来、彼は飲酒を控えているようですね。
「えー、それでは、ただいまから、
歓迎会兼お帰り会を始めたいと思います」
予期せぬ出来事の数々にも負けず、当初の予定通り宴会を始めることとした、ラバウル第10基地の面々。
宴会が始まる前に伝えたいこともあるので、一応の挨拶をする鯉住君。
旅館出現の報告については、めんどくさいので後日することにした。
着任当初から比べると、随分慣れてきたものである。
「ではまず、宴会の準備を全面的にしてくださった足柄さんに、感謝の意を示しましょう。皆さん、拍手をお願いします」
パチパチパチパチ!
「あら、そんなことしてくれなくてもいいのに。
でも嬉しいわ。みんな、ありがとね」
足柄の準備は、難癖のつけようもないほど完璧なものだった。
まるで旅館で出される夕食のような、豪華な食事。
揚げ物、海鮮、煮物、漬物、お吸い物……
豪華でありながらも、カラダに優しく栄養もあるラインナップだ。
たったひとりでこの量、この種類の食事を用意するには、人間ではなかなか難しいだろう。
なにせ厨房は民家のお勝手レベル。
どこをどうしたら、あそこでこの規模の料理を錬成することができるのだろうか?
しかもひとりで。
流石は艦娘といったところか……いや、普通の艦娘では不可能な芸当。
流石は足柄といったところか。
さらにこれから給仕係もやってくれるということなので、頭が上がらない。
「こちらこそありがとうございます。足柄さん。
……それでは皆さん、目の前のご馳走を我慢してもらうのも悪いので、最後にひとこと言って締めとさせていただきます」
「みんな、研修から良く無事に帰ってきてくれた。
そして、新しく来てくれたメンバーは、これから一緒に頑張っていこう。
今日は無礼講ということで、上司とか部下とか関係なく楽しんでほしい。
……ではグラスを持ってくれ」
ガチャガチャ
「生まれ変わったラバウル第10基地の、素晴らしいこれからを祈って……乾杯!!」
「「「 かんぱーい!! 」」」
・・・
わいわいがやがや……
思い思いに、周りに座る仲間たちと歓談する面々。
足柄の料理は絶品であり、みな会話を楽しみながらも箸が進んでいる。
普段は会議室(客間)として利用している部屋であるが、畳張り、長机の部屋なので、こういった宴会をするのにはうってつけだ。良い雰囲気である。
……ちなみにアルコールについては、全面解禁することとなった。
鯉住君は一部のメンバーについては、ノンアルコールを提案した。
しかし、いくつかの理由によって、その提案は却下されることとなった。
艦娘に人間の法律は適用されないこと。
そもそも艦娘は年月による成長がないので、アルコールによる成長への悪影響はないこと。
本人たちにはすでに飲酒経験があり、別段問題なかったこと。
せっかくのハレの舞台なので、少しくらい羽目を外したいこと。
私のこと子ども扱いしてんじゃないわよ!という反論があったこと。
何で重巡の私がダメで、軽巡の皆さんがOKなんですか!という反論があったこと。
アタシたちの制服はこんなだけど、学生じゃないからね?という反論があったこと。
このような理由である。
それらの主張はもっともであるし、彼が呉第1鎮守府に居た頃にも、艦娘は普通に全員飲酒していたことから、彼も折れることにした。
このようにアルコールは全員OKな宴会にしたが、鯉住君本人はノンアルコールで通すつもりらしい。
理由は単純で、例の呉第1鎮守府での送別会の時にやらかしたことから、お酒をひかえるようにしているからだ。
『同じ轍を踏むのは愚か者』という加二倉中佐の言葉は、彼の中にも根付いている。
・・・
……スッ
「アンタしっかり食べてる?
これ食べてみなさい。美味しいわよ」
「あぁ、ありがとう」
挨拶を終えて一息ついていると、叢雲が話しかけてきた。
きゅうりの漬物を勧めてくるあたり、見た目年齢に似合わない渋い好みをしているようだ。
……現在彼の両隣には、秘書艦の叢雲と古鷹が座っている。
席順に関して、初春を中心にひと悶着あったのは言うまでもないが、無難な組み合わせで落ち着くことになった。
こういう時にも秘書艦制度があると便利である。
「しかし叢雲……随分立派になったよな。
鼎大将のところでの研修は、どんな感じだったんだ?」
「ふふん。これからは戦闘で他の艦種に引けを取ることは無いわ。もちろんそれ以外でもね。
五十鈴さんにはそれだけ色々叩きこまれたから」
「あぁ、五十鈴さんに師事したんだったな。
古鷹は熊野さんだっけか?」
「あ、はい。熊野さんにはとてもお世話になりました!」
反対に座る古鷹に話を振る。
同じ場所で研修してきたふたりなので、色々と聞けるだろう。
今回の宴会での彼の一番の目的は、みんなをねぎらうことだが、できたらどんな研修だったか知りたいとも思っている。
これからの役割分担の際に、考える材料が増えるに越したことはない。
「私達の研修はかなりハードだったわよ?
朝は日の出前から、夜は消灯時間まで、毎日みっちり指導を受けたんだから」
「そうですね。しかも一日のうちに、最低でも5項目の研修を受けたんです。
ベーシックな座学から、艦隊の動きを体に染みこませる紅白演習、自分たちの実力より少し上と判断された海域への出撃、第一秘書艦の千歳さんの秘書業務補佐、給糧艦である間宮さんによる調理実習と、諜報訓練、そこにいらっしゃる明石さんによる艤装の取り扱い訓練などなど……
本来一日に受ける研修は1項目か2項目らしいんですが、私達のやる気を見て、特別コースを組んでくれたんです!」
「おお、すごいじゃないか!
確かに物事を覚えるにあたって、一番効率よい方法は『毎日やる』だからね。
毎日多数の項目を反復練習したってことか」
「はい、提督の言う通りです!
熊野さん曰く『人間工学、脳機能研究に基づいたスマートな研修は、今どきのレディの嗜みですわ』とのことです!」
「そ、そうか。
レディの嗜み云々はよくわからないけど、よくそれだけ詰め込んでパンクしなかったな」
「私達艦娘の能力は、人間の能力よりも高いもの。その程度、どうってことないわ。
……というか、それくらいは当然だと叩き込まれたわ」
「それは……ご苦労だった。
それでふたりとも、そんなに頼もしく成長したんだな。これからにとても期待してるよ」
「はい!なんでも頼ってください!提督のために頑張ります!」
「ふふ。アンタの期待くらい易々超えてやるから、覚悟なさい」
ふたりとも誇らしげな表情をしている。
やはり自身の提督に頼りにされて、嬉しいのだろう。
頑張って努力した成果を、信頼する人に認めてもらえた時ほど、嬉しいものはない。
・・・
「ふ~ん。ムラッチもフルちゃんも、なかなか頑張ったんだね~」
「なかなかなんてもんじゃないわ。
特に最初の1か月は、私も古鷹も毎日限界を超えながら過ごしてたのよ?
自分たちの常識がいかに甘いものだったのか、思い知らされたわ」
鯉住君の目の前に座る北上から、感想が飛んできた。
彼女たちも一ノ瀬中佐の異次元鎮守府に研修に行っていたわけだし、他のところの研修内容が気になるのだろう。
「というか北上さん、横須賀第3鎮守府での研修はどんなものだったんですか?
定期連絡船で聞こうと思っていたのに、ふたりともずっと寝ていたので聞けませんでしたし……教えてくれませんか?」
「え? なに、北上に大井、キミたちずっと寝てたの?
定期連絡船って2日も航行するのに?」
「あー……まぁ、そうねぇ……すんごい研修だったからねぇ……
だよね?大井っち」
「はい……正直思い出したくないですね……」
「あっ……(察し」
ふたりして死んだ魚のような眼をしながら話す姿を見て、何かを察する鯉住君。
いつも通りにふるまうふたりを見て、すっかり忘れていた。
彼女たちが出向いたのは、将棋の実力こそがすべてである修羅の国だということを。
彼女たちの様子を見るに、鯉住君の想定していた研修のヤバさ具合は、的外れではなかった模様。
「その、なんだ……
できたらどんな研修だったか教えてもらいたいんだけど、大丈夫?
もし厳しいなら無理にとは言わないけど……」
「いいよ別に……いつか話さなきゃいけないんだし、覚えてるうちに話すよ……」
「う、うん。 まぁ、簡単にでいいぞ……」
「寝てない」
「……ん?」
「アタシ達、寝てない」
「いや、さっき連絡船の中でずっと寝てたって……」
「研修が始まってから、研修が終わるまで、一睡もしなかったのさ」
「……」
北上の表現が間違っているか、自分の頭がおかしくなったか、どちらかであって欲しいと願う鯉住君。
言ってることがちょっとおかしすぎる。拷問でもそんなひどいものはないのでは……
しかし秘書艦ふたりの反応が、彼と同じものだったことを確認し、彼女の発言が事実だと認めることにした。せざるをえなかった。
「その……なんでまた、そんな拷問じみた……」
「香取教官は『2か月を1年に延ばしましょう。艦娘である私達ならば当然できますよね?』と、おっしゃっていました……」
「香取さん……なんちゅう無茶な……」
「最初の1か月は文字通り、不眠不休で将棋の訓練をしました……
そして残りの1か月は、それに加えて戦闘演習をこなしました……」
「あはは……必死でやれば、そんなこともできちゃうんだね、艦娘って……
ムラっちも言ってたけど、アタシの常識は全然正しくなかったって、思い知らされたよ……
おかげさまで、マキちゃん(巻雲)の戦闘感覚を掴めるくらいにはなったんだけどさ~」
「私も近代戦闘から古代の戦術まで幅広く叩き込まれ、実戦で活用することができるレベルまで到達しました……
香取教官に褒めてもらえる程度には……」
「さっき常識が塗り替わったって言った手前、言いづらいけど……
北上たちの研修は、まったく常識的じゃないと思うわ……」
おそらくであるが、彼女たちの受けた研修は、鯉住君の受けた研修よりも数段激しいものだったのだろう。
常に頭を酷使し、何度も鼻血を出してきた彼だからこそわかるというものだ。
その地獄の2か月を乗り越えた今のふたりの経験値は、ちょっと想像できないレベルになっているのは間違いない。
「なんていうか……その……本当にお疲れだった……」
「アタシさ、提督に謝らなきゃならないよ……
研修に行く前さ、提督が研修の話を断ったって聞いて怒っちゃったけど、アタシたちの認識が甘かったんだな、って……
あんなとこに部下を送り出すのなんて、そりゃ戸惑うよ……ごめんね……」
「北上さんの言う通りです……
あれは研修という名の人体実験でした……艦娘が壊れるギリギリを狙うという感じの……
そうと知っていれば、私が提督の立場であれば同じ行動をとったと思います……
本当にすみませんでした……」
シュンとして、自分たちが怒ってしまったことを素直に謝るふたり。
研修ではなく地獄巡りだと知っていれば、あのような態度はとらなかっただろう、ということである。
「い、いや、いいんだよ、ふたりとも。その話はもういいんだ。
俺の君たちへの態度がよくなかったから、怒られたのは当然なんだ。気にしないでくれ。
……それよりも、よく無事で帰ってきてくれたね。
話を聞いていると、カラダか心かのどちらかが壊れてしまっても、おかしくない研修だった。
それを乗り越えて、実力をつけ、五体満足で帰ってきたんだから、俺に謝る事なんてひとつもないよ。もっと自分たちの成果を誇ってくれ」
「……お気遣い、ありがとうございます」
「……なんか照れちゃうね。どうにも」
「これからは海域開放も積極的に進めようと思っている。
キミたちふたりの戦力は、本当に頼りにしてるんだ。期待してるよ」
「承知しました」
「まっかせて~」
・・・
「……なんか私達の研修って、たいしたことなかったんじゃないか、って思えてきたわ……」
「いや、そんなこと全然ないって……叢雲……
キミたちがやってきたことも、研修と呼べるのか怪しいレベルでハードだよ。
一ノ瀬さんのところが頭おかしいってだけだから……
だからもっと自信持ってくれ」
「本当でしょうか……?」
「本当だとも。
第一キミたちと北上大井じゃ、研修の方向性が違うじゃないか。
鼎大将からジェネラリストとして大成したって連絡は受けてるし、キミたちの能力の高さは折り紙付きなんだよ」
「だといいんだけど」
「カレーとラーメンどっちが美味しいか、っていうような話だから、気にしちゃだめだよ。
その質問されたら、俺はどっちも好きだって答えるから」
「なんなのよその例えは……」
自分たちの研修よりも頭おかしい研修の話を聞き、若干ガッカリしているふたりをフォローしていると、天龍と龍田がやってきた。
「おっす提督!呑んでるか~?」
「うふふ~ お酌しにきちゃった~」
「お、天龍に龍田。
わざわざ君たちの方から来てくれたのか。ありがとうな」
「気にすんなよ!俺たちの提督なんだから、もっとドーンと構えてろって!」
「提督は何を呑んでるの~?」
「ん? あぁ、俺は今日はオレンジジュースだよ」
「提督って、お酒呑めないのかな~?」
「いや、そんなことはないんだけど、ちょっとな」
「? そ~ぉ? しょうがないなぁ」
龍田にお酌してもらうなんて珍しいチャンスを棒に振りつつ、鯉住君は気になっていることを聞くことにした。
「ふたりとも、随分見た目も実力も変わったと思うんだけど、研修はどんな内容だったんだ?
神通さんが指導したって聞いてるけど……」
「「 神通教官…… 」」
彼の発した「神通」というワードを境に、彼女たちの動きがピタと止まる。
そして天龍はドヤ顔、龍田は微笑み顔を維持したまま、
どんどん顔面は蒼白となり、プルプルと小刻みに震え始めた。
そして……
「うわぁーーーっ! すまねぇ教官!頼むから雷撃処分だけは勘弁してくれえっ!!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!」
ふたりの顔は一気に歪み、この世の終わりのような顔に。
そして何を思い出したのか、正気を失い、頭を抱えながら錯乱し始めた。
「うおわっ!? お、落ち着いてふたりとも!!
悪かった!俺が悪かったから!正気に戻ってぇ!!」
「艦載機は全部落とすから!全機、弾一発で落とすから!
だからそのポン刀を納めてくれよぉ!!」
「すみません……ソナーなんてものには頼りませんから……!
潜水艦は全艦1分以内に沈めますからぁ!!」
「「「 …… 」」」
錯乱しながら、もの凄いことを言い出したふたりに、ドン引きする面々。
艦娘であればよくわかる。彼女たちの言葉が、どれだけ無茶なものかということが。
そして全員がこう思ったのだった。
『佐世保にだけはいかなくてよかった』と……
「天龍!龍田! 深呼吸!深呼吸しろ!
ほら、吸って~……吐いて~……」
「「 スゥー……ハァー…… 」」
「よーし、いいぞ……次は落ち着く光景を思い浮かべて……
穏やかな街……緑一杯の大草原……里山で生活する人たち……」
「「 …… 」」
「いいぞ……それじゃまた呼吸を整えて……
吸って~……吐いて~……」
「「 スゥー……ハァー…… 」」
鯉住君は、ふたりの背中をさすりながら、落ち着かせることに努めている。
「……どうだ? 落ち着いたか?」
「ふぅー……すまねぇ提督……取り乱した……」
「ごめんなさぁい……」
「あぁ、よかった……
もうこの話はやめよう。キミたちにPTSD的な症状がまた出かねない……
みんなもこの話はやめるように、もしくは本人たちに確認を取ってからするように。いいね?」
「「「 ハイ…… 」」」
提督の言葉と今の光景に、うなづくことしかできない面々。
しかし、当事者である天龍から、反対の意見が。
「……いや、ちゃんと話すぜ……ちょっと色々フラシュバックしちまって、取り乱したけど、今はもう大丈夫だ。
……むしろそんな状態になってるって、教官に知られた時の方が、何万倍も怖えぇ……」
「そうね……この程度で取り乱しているなんて知られたら……
考えたくもないわ……」
「お、おう……そうか……
別に無理しなくていいんだぞ……?」
「やるべきことくらいしっかりやるって。大丈夫。おれは しょうきに もどった」
「……まぁ、キミたちがそう言うならいいけど……」
「提督は優しいけど~ 私達がそれに甘えちゃいけないの~……」
「そ、そうか……そこまで言うならお願いしようかな……
キミたちの研修は、どんな感じだったんだい?」
「「「 (ゴクリ……) 」」」
とんでもない話が展開される予感に、生つばを飲み込む面々。
それを気に留めず、天龍は話し始める。
・・・
説明中
・・・
「「「 ……(絶句) 」」」
「つーわけよ……なかなかのもんだろ……?」
「もういい……! 天龍……!もう休めっ……!」
「へへ……すまねぇな、提督……俺はここまでみたいだ……」
「天龍ちゃん……立派だったわ……」
「天龍……!龍田……!
本当によくやってくれた……!ゆっくりと休むんだ……!」
研修の話をしただけなのに、
戦場から戻ってきた瀕死の兵士を看取るような、感動的なシーンが展開されている。
実際佐世保第4鎮守府は魔窟なので、戦場帰りという表現はそう遠くはないのだが。
……龍田に肩を借りて退散する天龍の後姿を見て、誰もが敬礼することになるのであった。
・・・
「……やっぱり私達の研修って、だいぶ甘かったんじゃないかしら……?
ちょっと自信がなくなってきちゃったわ……」
「ハイ……私達、頑張ったと思ってたんですけど、まだまだだったんですね……」
「そんなことないから!
比べちゃいけない相手ってのは、絶対いるものだから!
俺から見たら、キミたちふたりも本当に頼もしいから!」
「ホントにそう思ってます……?」
「ホントだよ!お願いだから自信取り戻して!」
「ハァ……浮かれてた私達がバカみたいじゃないの……」
天龍の話を聞いて、一気に自信が無くなってしまった様子のふたり。
彼女たちも十二分に頑張ったのは確かなんだから、自分の頑張りをそのように否定してほしくはない。
なんとかうまくフォローしないと、と焦る鯉住君。
「そ、そうだ。
俺が夕張と秋津洲に教導した内容を聞けば、もっと普通の感覚に戻れるんじゃないか?
今からふたりを呼んで、研修内容を話してもらうようにするから、それを聞いてみるんだ。
キミたちの頑張りは素晴らしいものだったって、気づけるはずだから!」
「それならいいんですが……」
「まぁ、聞くだけ聞いてみるわ……」
「よし、それじゃ夕張と秋津洲には悪いけど、こちらに来て話してもらおう」
・・・
召集中
・・・
「どうしたんですか? 師匠?」
「秋津洲たちに何の用なの?」
「いや、それがな……かくかくしかじかで……」
「まるまるうまうま、と……まぁ、気持ちはわかります」
「もし私達よりすごい技術研修した子が居たら、私もふたりと同じ気持ちになってたかも」
「気持ちがわかるんだったら、俺たちの研修がどんなだったか話してやってくれ。頼むよ」
「了解です。毛色が違うので、参考になるかはわかりませんが」
「わかったかも。私達に任せるかも」
かなり身勝手なお願いだというのに、ふたりとも快諾してくれた。
なにせ自分たちの頑張りを物差しにさせるような話なのだ。正直申し訳ない。
お詫びにふたりには、今度何かご褒美を用意することにしよう。有給とか甘味とか。
「それでは叢雲さん、古鷹さん、私達がやってきた研修についてお話しますので、気を楽にして聞いてください」
「悪いわね、夕張」
「わざわざすみません、先輩」
「いいのよ、ふたりの為になるならそのくらい。
師匠のお願いだしね」
「私達にはそこまで技術関係の知識はないんですが……
お話を理解できるでしょうか?」
「そこで楽しそうに笑ってる明石さんから、艤装の効率的な稼働方法を教わったくらいだものね」
「なるほど。それくらいなら分かっているということですね。
それでは、その前提でお話しします」
「私達のやってきた研修は、拷問とか処刑みたいなものじゃないかも。
でも提督が言ってくれたように、とっても高い実力を身につけられたかも」
「秋津洲の言う通り、私達は一般常識の範囲内で研修していました。
それでもかなり厳しかったとは思いますが……
例えば、一日のうちに研修時間に充てていたのは、10時間です」
「……え?それだけ? 短くないかしら……?」
「毎日10時間って、全然短くないかも。
叢雲は判断基準がおかしくなっちゃってるかも」
「そ、そうかしら」
「はい。もっと言うと、お昼休憩も1時間取ってましたし、3時間ごとに10分の休憩も取ってました」
「ええ!?研修中のお昼って、戦闘糧食で済ませるものじゃないんですか!?」
「古鷹……あなた、苦労したのね……」
やっぱり呉帰りのふたりも、他の4人と同じように、感覚がおかしくなっていた。
自分たちの研修は甘いものだと錯覚してしまったようだが、呉での研修内容も大概だったことがよくわかる。
「肝心の研修内容ですが、私達が学んだことは、主に艤装メンテですね。
その他には、艦娘からのスムーズな艤装取り外し、安全性と合理性を兼ね備えた部品整理術、破損した艤装の部品修復、交換などです」
「一番頑張ったのはメンテをいかに素早く、正確にできるようになるか、ってところかも。
夕張は主砲とか魚雷とか、砲雷撃戦に使う艤装のメンテが得意で、
私は艦載機系と、電探とかの補助兵装のメンテが得意かも!」
「英国妖精さんとも協力して、部品製造から交換までの一通りの流れを経験したりもして……
とにかく技術面に特化して鍛えていただきました」
「ふたりとも頑張ったよな。
出発前にも言ったけど、技術面に関して、ふたりの実力は日本でも指折りなくらいになったからね。俺も鼻が高いよ」
「ありがとうございます!師匠!」
「ご褒美期待してるかも!」
そう。
別に命の危険があるほど自分を追い込まなくとも、真剣に向上心を持って取り組めば、そのレベルに到達することはできるのだ。
秘書艦のふたりにもそれを分かってほしくて、弟子たちに話してもらったのだが、果たして……
「ふ~ん……そう。
そのくらいと言っちゃ悪いけど、身の危険を感じるほど自分を追い込まなくても、そこまでなれるのね」
「なんていうか、安心しました。
私達の研修でも、十分以上なものだったんですね」
どうやら自信を取り戻してくれたようだ。よかった。
あとは実戦でそれを実感させてやれば大丈夫だろう。ほっと一安心である。
「そうやって言ってるだろ?期待してるともね。
ま、せっかくの宴会だ。そんなに真面目な話ばかりしてないで、飲んで食べて楽しもうじゃないか」
「そうね。せっかく足柄が用意してくれたんだものね」
「はい!今日はお言葉に甘えて、楽しまさせていただきます!」
気を取り直して、宴会を楽しむ面々。
久しぶりに鎮守府のメンバーが全員揃ったことに、喜びを感じる鯉住君。
そのように気を抜いた状態で、この後に待ち構える大惨事を、予想することなどできなかったのだった……
物騒なタグが量産されるので、佐世保研修の様子はカットされることになりました。
悲しいなぁ……
一応色々断片的に書いときますね
・佐世保第4鎮守府の面々は『葉隠』を実践している
・応急修理妖精さんは、この世界では使い捨てではなく、そこではフル稼働している
・神通さんは、自分にできることを全部ふたりにやらせた
・赤城さんの艦載機全部落とすまで寝れまテン
・レ級とのふれあい(応急修理妖精さんを装備して)
・高射装置、ソナーは甘え
まぁ、一部書き出すとこんな感じです。
神通さんの研修を完走できたのは彼女たちが初となります。
他の神通さん担当の研修生がどうなったかは、ご想像にお任せします。
ふたりとも、無事で何よりでしたね。