艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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この鎮守府では、お酒を飲んで冷静でいられるメンバーは、少数派のようです。


第50話

「……」

 

 

軽くではあるが、提督への研修報告を終えた面々は、歓迎会も兼ねた宴会を存分に楽しんでいる。

せっかくのいい日なので、鯉住君も存分に料理を楽しもうと思っていた。

 

……いたのだが……

 

 

「わらわのほうが『ある』と言っておろうに!負けを認めよ!」

 

「うるさいわね!私の方が『ある』に決まってるわ!

第二次改装を終えて、私のカラダは一気に大人になったのよ!」

 

「フン!世迷いごとを!

わらわとて、鯉住殿に無様な姿を見せぬよう、改二に至ったのじゃ!

お主程度に敗北するようなスタイルはしておらん!」

 

「なによっ!」

 

「なにうぉー!?」

 

 

あの……男性の目の前でそういう話をしないでいただきたい……

 

 

「はい、北上さん。あ~ん」

 

「あ~ん……もぐもぐ……

う~ん、足柄さんの料理はホントに美味しいね~」

 

「そうですねっ!北上さぁん!」

 

「大井っちちょっと離れて~。あついー」

 

 

イチャイチャしておられる……仲がよろしいようで、何よりです……

 

 

「……そこでなぁ、俺は主砲をぶっ放してやったわけよ!

フフ!どうだ!?怖えぇかっ!?」

 

「……!……!……!!」

 

 

天龍……キミが話しかけているのは一升瓶だぞ……?

龍田……声にならない笑いをあげて苦しそうだけど、そろそろお酒をストップした方がよくないか……?

 

 

控えめに言って大惨事である。

みんなお酒は大丈夫と言っていたのは、何だったのか……?

 

 

「へー!ここではそんなことがあったんだねっ!

鯉住さんすごいねっ!!」

 

「ふふ。色々と大変なことも多いですが、提督にはとっても良くしてもらっていますよ。

この間もお買い物に付き合ってもらいましたし」

 

「いいなぁ。子日もお買い物に行きたいなぁ」

 

「提督にお願いしたら、きっと連れて行ってくれますよ」

 

 

あぁ……癒される……やっぱり古鷹は天使なんやなって……

さりげなく新入りの子日さんに、ここの説明をしてくれている。非常にありがたい。

 

そうそう……こういうのでいいんだよ、こういうので……

みんなで穏やかに食事を楽しんでおしまい。そういうのでいいんだよ。

 

このまま古鷹だけ見てれば、今日の混沌を乗り越えられるのでは……?

 

 

「やっほー!鯉住くん、飲んでるぅ?」

 

 

そんなこと考えてたらこの有様だよ!

 

一番来たらいけない奴が来やがった!このピンク!

くそっ!せっかく穏やかな心を取り戻したってのに!酒臭ぇんだよォ!

 

 

「今日は俺はノンアルコールなんだよ!さっき言っただろうが!

さっさと席に戻れ!この酔っ払い!」

 

「私の歓迎会なんでしょ~?もっと構って~」

 

「お前は歓迎してねぇよ!勝手に異動してきやがって!」

 

「え~?そんなこと言っちゃう?」

 

「言っちゃうわ!お前酒飲むと距離感近くなるんだから、早急に離れろ!」

 

 

こっちに寄ってくる明石を食い止めていると、背後から話しかけられる。

 

 

「師匠?一番弟子である私を放っておいて、何をしているんですか……?」

 

「ゆ、夕張!いいところに!

頼む!このピンクを追っ払うのを手伝ってくれ!!」

 

「へ~ そんなに仲良くしてるんだから、そんな必要ないんじゃないですかぁ?」

 

「な、何言ってるんだ!?

どう見ても仲良くないじゃないか!見てわかるだろう!?」

 

「どう見ても仲良しに見えます。

そんなに明石さんが好きなんですか?私よりもですか?」

 

「別に好きじゃないって!ただの元同僚だから!腐れ縁ってだけだから!」

 

「へ~、ふ~ん? 明石さんはそうは思ってないようですけど?」

 

「な、なんか怖いぞ、夕張……?」

 

「私は鯉住くんのこと好きだよ~」

 

「うるせぇ!心にもないこと言ってからかってるだけだろ!?

いい加減に元の席に戻れぇ!」

 

「師匠はもう少し女心を勉強してください!それでは!」

 

「あ、ま、待って!夕張!」

 

 

夕張は怒って去っていってしまった……

そしてそれと入れ替わるように、別の乱入者が。

 

 

「ちょっとアンタ!なにイチャイチャしてんのよ!?

酔った勢いで自分の部下に手を出すなんて、恥ずかしくないの!?」

 

「ぬおーっ!!この淫乱め!早速正体を現したな!?

わらわが成敗してやる!覚悟せいっ!!」

 

「ち、違うんだ叢雲!俺からセクハラしたわけじゃない!

むしろ俺はセクハラの被害者で……!」

 

「問答無用っ!!」

 

 

ドゴォッ!!

 

 

「グフゥッ!」

 

 

叢雲のタイキックが、背中に炸裂する。背骨にダメージが入る。

 

 

「おぉぉ……効く……!」

 

「秘書艦である私の目が黒いうちは、みんなに手は出させないわ!」

 

「だ、だから違うのに……」

 

「さっすが叢雲ちゃん!鯉住くんのこと、しっかり尻に敷いてるみたいね。

頼もしい秘書艦で良かったね。キミにはもったいないくらいよ?」

 

「お、お前、なに他人事みたいに……!」

 

「それじゃ私は夕張ちゃんのフォローしてくるから、あとは任せたよ?

それじゃっ!」

 

 

明石は元気よく鯉住くんに手を振り、その場を去って行った。

 

 

「明石テメェーーーッ!!

火種を蒔きまくって、自主退場しやがってーーーっ!!」

 

「アンタにはしっかり説教してやらないといけないようね……!」

 

「お前様と恋仲なのはわらわだけで十分じゃ!

それをしっかりわからせてやらんとのう……!!」

 

「たっ、タスケテ……!!」

 

 

その後叢雲と初春によるお話は20分に及んだ。

鯉住君のメンタルが猛烈にすり減ったのは言うまでもない。

 

 

 

・・・

 

 

 

「……ひどい目にあった……」

 

 

ようやく例のふたりから解放され、お手洗いに逃げ込んだ鯉住君。

気を取り直す意味で、顔を洗い、宴会場に戻る決意を固める。

 

 

「ふぅ……今度は誰にも絡まれないよう、部屋の隅でこっそり料理を楽しもう……

……おっと」

 

「にゃっ……! って、提督じゃない。お手洗い?」

 

「えぇ。ちょっと色々ありまして……」

 

 

廊下に出たところで、料理を運んでいる足柄と鉢合わせした。

よく見ると、彼女の後ろに、もうひとりいるようだ。

 

 

「あれ? 見ないと思ったら、足柄さんの手伝いしてたのか、秋津洲」

 

「そうかも。みんなが帰ってきてくれて嬉しいから、私も役に立つかも!」

 

「おぉ……秋津洲はいい子だなぁ……」

 

「ふふ。そうね。自分から手伝いたいって言って来てくれたのよ?

ホントにいい子よね」

 

「私が得意なのは、艤装メンテと料理かも。だからこういう時に活躍するのが当然かも!」

 

「そうかそうか。そう思って行動できるのは、とても偉いことだよ。

そういう行動がとれる部下を持てて、俺も嬉しいよ」

 

「ふっふ~ん。秋津洲に任せるかも!」

 

 

秋津洲は研修期間にも、しばしば足柄の料理の手伝いをしていた。

そのおかげで、今では彼女はなかなかの料理上手となったのだ。

 

 

「ちょっと見てきたんだけど、新しくできた艦娘寮は旅館と同じ造りになってて、厨房も広かったわ。

そこで練習すれば腕前の上達も早いかもね」

 

「そんなところもしっかり作りこんでたとは……妖精さんは妙なところで抜け目ないんだよなぁ……」

 

「秋津洲も一緒に見に行ったけど、すごかったかも!

あそこで料理の練習するの、今から楽しみかも!」

 

「ふふ。それはいいね。

足柄さん、秋津洲のこと、見てもらってもいいでしょうか?」

 

「ふふ。いまさらな話よ。当然じゃない」

 

「よろしくお願いしますね」

 

 

 

・・・

 

 

一方そのころ

 

 

・・・

 

 

 

「まったく……もう少しアイツは提督としての自覚を持ってくれないものかしら……!」

 

「おつかれムラっち~。相変わらず提督と仲いいよね~」

 

「あはは……内容はどうあれ、提督にあそこまで強く言えるのは、叢雲さんくらいですよね」

 

 

鯉住君に色々説教した叢雲は、一息ついていた。

近くにいた北上、古鷹と、お酒を呑みながら話している。

 

ちなみに叢雲のした説教は、かなり理不尽なものだった模様。

北上も古鷹も苦笑いを浮かべている。

 

 

「だいたいアイツは私達の事、やましい目で見過ぎなのよ!

ちょっといいカラダしてるくらいで、すぐ鼻の下伸ばすんだから……!」

 

「ま~なんていうか、男の人だったら、みんなそんなもんなんじゃないの?」

 

「そういうものかもしれませんね。

まぁ、私もちょっぴり、気になることはありますけど……」

 

「そうよね、古鷹!

せっかくアイツのために頑張ってるっていうのに、なんなのよあの態度は!」

 

「あ~……もしかしてムラっち、ボンキュッボンに憧れてるとか?」

 

「な、なに言ってんのよ!?別にそんなんじゃないわよ!

私の理想は瑞穂さんのような、おしとやかな艦娘なの!」

 

「瑞穂ちゃんも相当なボンキュッボンなんだけど、それは……」

 

「う、うるさいわね!そんなつもりじゃないんだから!」

 

 

思ってることが隠せないクセに照れ隠ししている叢雲を見て、大和撫子を目指すのは無理があるんじゃないかなぁ……なんて思っている北上。

 

 

「でも私も、提督にひとこと言いたくなる叢雲さんの気持ちもわかりますよ。

提督はいつも私の事を、小さい子扱いするんですから!私は重巡のお姉さんなのに!」

 

「えぇ……?

アタシには、提督のフルちゃんの扱いは普通に見えるんだけど……」

 

「そんなことありません!

今日だって天龍さんたちの飲酒にはOK出したくせに、私はNGにしようとしましたし!

大本営に行った時だって、私の事を妹扱いしましたし!」

 

「……んん? 妹扱い?」

 

「はい!

お店で買い物をした時に、『カップルみたい』って言われて、妹みたいなものだって返したんです!ひどくないですか!?

恋人だといわれるのならともかく!」

 

「あ~、そういう……ていうかフルちゃん、恋人扱いならオッケーなの?」

 

「? それなら別にいいですよ?

年頃の男女ですし、一緒に居たらそういう目で見られるのはわかります」

 

「い、いやいや、そういうことじゃなくてね……

フルちゃんとしては恋人扱いされて恥ずかしくないの?」

 

「別に恥ずかしくありませんよ? 提督の事は信頼していますし。

そんなにおかしいことですか?」

 

「あぁ……いや、うん、まぁ……そうねぇ……なんでもないよ……」

 

「私を幼い子扱いすることと、たまに無神経なところさえなければ、提督は私の理想像そのものなんですよ。

ホントにもう、そこだけなんとか直してくれないものでしょうか……」

 

「……」

 

 

それは最早、信頼を通り越して愛情なのでは……

そう思うも、まったくそれに気づいていない古鷹を前に、言葉が出ない北上。

 

 

「ホントよね!アイツはとにかく無神経なのよ!

せっかくアイツのためにと思って、改二になるまで必死で研修してきたのに、全然そのことに触れないし、見向きもしないんだから!」

 

「そうですよ!

こんなに前より大人っぽくなったのに、全然褒めてくれないんですから!」

 

「いや、ちゃんと『ふたりとも立派になった』って褒めてたじゃん。

アタシの目の前でやり取りしてたから、覚えてるよ?」

 

「そんなんじゃ全然足りないってのよ!

どれだけ私達が、アイツのために頑張ったと思ってるのよ!?」

 

 

なんだかよくわからない怒り方をしているふたりに、若干引く北上。

 

 

「えぇ……なに言ってんの……

ムラっちさぁ……提督のこと大好きすぎない? もう付き合っちゃえば?」

 

「アイツと付き合う?私が?」

 

「お似合いだと思うけど。ムラっちもまんざらでもないでしょ?」

 

「お断りよ!誰があんな奴!

私はただ秘書艦として、ずっと隣で、どんなに苦しい時も、支えて続けてやろうと決めてるだけなんだから!

勘違いしないでよね!」

 

「さすがです、叢雲さん! 秘書艦の鑑ですね!」

 

「……」

 

 

それは最早、秘書艦としての心構えを通り越して、永遠の愛の誓い的な何かなのでは……

そしてそれに全く気付かず、盛り上がるふたりを前に、言葉が出ない北上。

 

 

「……どうしよう……

提督がぽんこつだってのはわかってたけど、秘書艦たちもぽんこつだったよ……

トップ3が全員ぽんこつって……この鎮守府、大丈夫なのかねぇ……」

 

 

 

・・・

 

 

 

「……(こそこそ)」

 

 

トイレから戻ってきた鯉住君は、恐る恐る宴会場に入場した。

 

また質の悪い酔い方をしている部下に絡まれてはかなわない。

そう思って、スニーキングしながら部屋の隅を目指して進み、腰かけることに成功した。

 

このままおとなしく、空気のように、宴会終わりまで過ごそう……

 

 

「……おっ!!

おい!提督!どこ行ってたんだよ!探したぜぇ!」

 

「……」

 

 

ダメだった。

よりにもよって、一番酔いが進んでいるであろう天龍に絡まれてしまった。

 

そもそもここに居る全員が、提督である彼と同じ時を過ごしたいと思っている。

ひっそりと落ち着いてやり過ごしたいという願いなど、叶うはずもなかったのだ。

 

 

「て、天龍……キミ、呑み過ぎてない?大丈夫?」

 

「大丈夫だって!酔ってない、酔ってないって!ヒック!」

 

 

酔ってる人間ほど酔ってないと連呼するが、彼女がまさにその症状を発症している。

 

顔は赤く、手には一升瓶。足取りもふらふらと千鳥足で、しまいにはネクタイを外して頭に巻いている。

今どき見ないほど、典型的な酔っ払いである。

 

 

「いやいや、どう見ても酔ってるじゃないか……

なんていうか、その……服装も乱れてるから、ちゃんと整えなさい……」

 

 

そう、主に胸元が乱れている。

鯉住君には特効がある光景なので、彼としては、一刻も早く何とかしてもらいたいところ。

 

 

「え~? めんどくせぇー。提督が直してくれよー。ほれ」

 

 

ぺたんっ

 

 

「ちょ……! やめ……!」

 

 

天龍はそう言うと、女の子座りでしゃがみ込み、提督に胸を突き出す。

 

これ以上はマズい……!何がとは言わないが元気になる……!

 

 

「やめなさい天龍!それ以上近づくんじゃない!」

 

「つれねえこと言うなって!ほれほれ!」

 

 

ぐいっ

 

 

むにっ

 

 

「ヴェアアァァアーーーッ!!」

 

 

何と天龍はよろよろ立ち上がり、上から肩を組んできた!

当然彼の顔には天龍ちゃんの天龍ちゃんが密着する。

あまりの精神的衝撃と物理的衝撃吸収素材に、奇声を発してしまう鯉住君。

 

 

 

だ、ダメだ、このままでは……!色々とマズい!

部下の視線的にも、俺の昂ぶり的にも、これはよくないです!

さっきも叢雲と初春さんに叱られたばかりじゃないか!冷静になれ!

 

 

(あー……ついにこのおとこ、ちょくせつ……)

 

(いっせんをこえてしまったのですね……)

 

(あなたのことはわすれません……)

 

 

おいぃ!やめろぉ!

俺がそのまましょっぴかれるみたいな発言をするんじゃない!

見てわかるだろう!?被害者は俺なの!最近はやりの逆セクハラってやつなの!

 

というか、そんなツッコミを入れている場合じゃない……!

このままでは俺の社会的信用が……!なんとかせねば!

 

 

こんな状況にもかかわらず、いつもの癖で妖精さんと漫才していると、誰かが近づいてきた。

 

 

「あら~ 変な声が聞こえたから何かと思えば……

仲がよさそうね~」

 

「た、龍田……!!」

 

 

おお……!地獄に仏とはこのこと……!

龍田ならこの状況を見て、天龍を引きはがしてくれるだろう!

 

いつも「お触りは禁止されています~」なんて言っているし、おさわり全開なこの光景に、何もしないということはないはずだ!

 

この際、俺がおさわりの罰として、多少の制裁を受けるのは大目に見る!

だから助けてぇ!!

 

 

「お、お願いだ、龍田……!!

天龍を……天龍を引き離してくれ……!!」

 

「いいな~天龍ちゃん。私も提督とくっつきたいな~」

 

「ファッ!?」

 

「ハハハ!今はここは俺の席だぜ~!な、提督!」

 

「は、はなれてぇ……」

 

「ホントに仲が……ププッ……良さそ……良さそう……ブフウッ!!」

 

 

龍田ァ!この状況を止めるどころか、面白がってやがる!

笑いがこらえきれてないじゃないか!どんだけゲラなんだキミはぁ!!

 

 

 

……しかしマズいぞ……!

俺の理性もそろそろ限界に近い……!!

 

すっごいいい香りするし、あったかいし、めちゃくちゃ柔らかいし……

あれ……?そういえば、何でこんなに柔らかいの?

もしかして天龍、キミ、下着をつけていな……

 

……駄目だ!それ以上考えるな!大変マズいことになる!

 

 

 

……そうだ、こういう時は素数を数えて落ち着くんだ……!

偉い人もそう言ってた気がするし、それでいこう……!

 

ふぅーっ……

いいか……素数は自分と1でしか割り切れない孤独な数字なんだ……

俺に勇気を与えてくれる……はずだ。

 

 

「3……5……7……11……13……」

 

 

(2……4……6……8……10……12……)

 

(0……1……1……2……3……5……)

 

(6……28……496……8125……)

 

 

「うおおいッ!!お前ら邪魔すんなぁ!!

それは偶数とフィボナッチ数列と完全数だろうがぁ!」

 

「ブフウッ!!」

 

「??? 提督、ひとりで何言ってんだ……?」

 

 

くそっ! 思ってることが、つい口に出てしまった!

どんだけ余裕ないんだよ!俺!

 

胸に密着する体験なんて、赤ん坊の時以来だから、仕方ないけども!

なんでこんなに柔らか……

 

 

 

……駄目だ駄目だ!正気に戻れ!

何とかして昂ぶりを鎮めるんだ……!

 

そうだ、もっと大きな現象を思い浮かべるんだ!

こんな煩悩なんてちっぽけだと思えるくらいのものを!

 

 

「冬を越すヒグマ……イワシの大回遊……サケの産卵……生命の神秘……!」

 

「あぁ?急に何言いだすんだ?」

 

「ブフッ……ッ!!……ハァッ……!!ヒィ……ヒィ……!!」

 

「カゲロウの大量ハッチング……18年ゼミの生存戦略……人とは、宇宙とは、何か……!!」

 

「オイオイ、大丈夫かぁ、提督?呑み過ぎたんじゃねぇの?

ウチには陽炎は着任してねぇだろうがよ」

 

「……!!……!!!……!!!!」

 

バンッバンッ!!

 

 

必死に現状打破を試みる鯉住君は、無表情で謎のワード群を口にし、

それがツボにクリティカルヒットした龍田は、机をバンバン叩きながら声にならない笑いをあげ、呼吸困難に陥り、

なにがなんだかよくわからない天龍は、頭にクエスチョンマークを浮かべている。

 

 

 

・・・

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「ヒィ……ヒィ……」

 

「おいおい、ふたりとも、しっかりしろよなー。

おかげで酔いが冷めちまったぜ」

 

 

自身が醜態をさらすことにより、心配した天龍はついに離れてくれた。

ついに性欲という恐ろしい悪魔から、逃げ切ることに成功したのだ。

その過程で龍田が尊い犠牲となったのは、コラテラルダメージといったところだろう。

 

 

「あぁ……すまなかったな、天龍……

おれは しょうきに もどった」

 

「ならいいんだけどよ。

ところで提督、研修に出発する前にした約束、覚えてるか?」

 

「約束……?」

 

「おいおい、忘れちまったのか?

無事に研修をやり切ったら、なんかご褒美くれるって言ってたじゃねぇか」

 

「あぁ、もちろん覚えている、けど、天龍が自分からねだるなんて珍しいな。

何か欲しいものでもあるのかい?」

 

「おう。ひとつ欲しいのができたんだよ。それくれねぇか?」

 

「調達できるもので、無理のないものなら、何でもいいよ。

キミたちふたりは、あの地獄から無事帰ってきてくれたし、これからも活躍してもらおうと思っている。

プレゼントのひとつやふたつあげないと、こっちとしても申し訳ないからね」

 

「へへっ!やっぱ提督は優しいな!」

 

「そんなことないよ。普通だよ、普通。

それで何が欲しいんだい?何でも言ってごらん?」

 

 

天龍が欲しいもの……

また木刀だろうか?それともシルバーのドラゴンをかたどったキーホルダーとか?

あ、もしかしたらカッコよくて怖そうに見える入れ墨シールとか?

 

 

……鯉住君がクッソ失礼なことを考えていると、天龍がその答えを口にする。

 

 

「指輪くれねぇか?」

 

「指輪……?

あぁ、悪魔のデザインとかドラゴンのデザインとかの強そうなやつ?」

 

「ちげぇよ。もっとシンプルなやつ」

 

「シンプルなやつ……?」

 

「おう。あれだよ。ケッコン指輪」

 

「……」

 

「……ブフウッ!!……ヒィ……ヒィ!!」

 

 

あまりにも予想外な申し出にフリーズする鯉住君を見て、大爆笑する龍田であった。

 

 

 

 




あまり出番がないので設定だけ出しちゃう、って人たち


・赤平 礼介(あかひら れいすけ)

呉第1鎮守府所属、艤装メンテ班・現班長。鯉住君の慕う先輩。
呉の明石や鯉住君ほどではないが、彼も非常に高い能力を持つ。鯉住君と明石の穴を埋めるため、今日も後進育成と自らの業務に精を出す。
一児の父であり、娘は現在3歳。死ぬほどかわいがっている。


・寺戸 寧音(てらと ねおん)

鯉住君の親戚であり、妹分。果実菜の妹。
現在高校3年生であり、受験生。学力は高い。
実家は神道のお寺であり、儀礼や行事の際には巫女服を着てお手伝いしている。
それを見るためだけに同級生が集まるくらいには美人。


・寺戸 果実菜(てらと かじな)

鯉住君の親戚であり、妹分。寧音の姉。
現在大学2年生。実家の影響もあり、神学を専攻している。
実家は神道のお寺であり、儀礼や行事の際には巫女服を着てお手伝いしている。
それを見るためだけに近隣の大学生が集まるくらいには美人。


・寺戸 英政(てらと えいせい)

鯉住君の親戚。神道の神主。果実菜、寧音の父。
思慮深い性格で、鯉住君がまだ将来に迷っていたとき、何度か相談相手になっていた。
彼の教えは、今の鯉住君の性格にも結構影響を与えている。
 

・オリーヴィア・シラス

イタリアの女性提督。チェスのグランドマスターを父に持つ。一ノ瀬中佐のマブダチ。
彼女のチェスのレーティングは2000を少し超える程度(イタリアでベスト100に入るくらい)。
美人であり、実力もあるので、当然ファンも多い。
今日もマイペースなイタリア艦娘と一緒に、頑張って国防している。



・アブラーモ・シラス

オリーヴィア・シラスの父親。チェスのグランドマスター。レーティングは2800越えで、人類最強クラス。

娘を溺愛しているため、シチリアンマフィアとコンタクトを取り、娘のボディガード(裏)としている。
当然リスクコントロールもしてあるので、マフィア側に主導権を絶対に握られない体制をとっている。
結局シチリアンマフィアの面々も彼女のファンになってしまい、逆効果になってしまったのが悩みの種。

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