一隻しかいない大和や武蔵はいいんですが、それ以外の艦娘はいっぱい同じ姿の子がいます。
さらにこのお話では異動も自由なため、ただの艦名で呼んでいては、個体認識ができなくなります。
ということで、書類上では建造年月日を一緒に記すこととなっています。
(例:吹雪 20130423)
でもそれは結局書類上の話なので、見た目が変わるわけではありません。
だから同一の艦は同じ鎮守府には在籍しないのが基本となってます。指揮を執る時にもややこしいですしね。
また、他所の子と見分けるために、トレードマークをつけさせている提督もいます。
ピンバッジとか腕章とか。
(なんとついに、こいずみさんにもはるがきました!)
(いわえいわえー!)
(おしあわせにー!)
やめろォ!!祝うんじゃねぇ!この松茸体型ども!
これは何かの間違いだ!そうに決まっている!
別にそんなに天龍から好かれることなんて、できてないからな!?
むしろ出撃させてやれなくて、いつも謝ってるくらいなんだぞ!?
そんな俺にいきなり求婚とか……!あるわけねぇだろ!
第一彼女は艦娘なんだ!俺じゃつり合いが取れねぇ!
そういう勘違いをしたらロクなことにならないんだ!俺は詳しいんだ!
ここはしっかりと本人にだな、真意を尋ねるべきそうすべき!
……鯉住君は現在テンパっているせいで、まったく気づいていないが、
天龍とのやり取りは、部屋にいる部下全員から注目されている。
誰もが五感を全開にし、獲物を狙う肉食獣のような雰囲気で視線を送っている。
それでも横やりを入れないのは、彼の指輪に対する考えを聞けるチャンスだからだろう。
ケッコン制度は誰にでも関わる問題だ。
ことは慎重に運ぶべきであるという共通認識が、暗黙の了解となって『様子見』という選択を取らせていた。
「て、てて、天龍ちゃん……キミ、自分が何言ってるかわかってるの……?
結婚指輪って、そんなに簡単にねだっていいものじゃないんだよ……?」
「あん?わかってるって。当然だろ?
いいじゃねぇかよ。別にそんなに高額なもんでもないだろ?ケッコン指輪」
「そういうことじゃないんだって!」
「それじゃどういうことなんだよ?
ああ、もしかしてあれか?申請手続きが大変だとか?
面倒かもしれねぇけど、それくらいやってくれたっていいじゃねぇか。
俺達頑張ったんだぜ?」
「そーーーいうことでもないんだってぇ!!」
「……!……!!……ヴェホッ、ゲホッ!!!」
龍田ァ!笑い過ぎてむせこんでるじゃないかキミィ!
女の子が出しちゃいけない類の声が出てるよ!?
こういう時、天龍の暴走を止めるのがキミの役割だろ!?
しっかり役割果たして!そして俺のことを助けて!
「た、龍田……キミからも何とか言ってやってくれ……!」
「ウェホッ……エホッ……」
「ああ、と、スマン……
そんな状態じゃしゃべれないか……ほら、落ち着いて」
さすさす
笑い過ぎて、勢い的には大破寄りの中破になっている龍田。
このままではらちが明かないと思った鯉住君は、背中をさすって介抱する。
一刻も早く立ち直って、天龍ちゃんを止めてもらいたいところだ。
「あ゛りがどう……提督……エホッ……」
「ちょっと呑み過ぎだって……笑い上戸にもほどがあるでしょ……」
「ごめんなさぁい……」
「龍田は普段こんな酔い方しないんだけどなー。
やっぱ俺と同じで、久しぶりに戻ってこれて、嬉しかったんだな」
「そ、そうなのか……?
龍田、もうさすってなくて大丈夫か?手を離していいか?」
「うん……」
なんだか龍田の新しい一面を見てしまったが……
今はそんなことどうだっていい!重要なことじゃない!
もっとも重要なことは、龍田のチカラを借りて、この場をやり過ごすことだ!
「……よし!それじゃ龍田!
立ち直ってすぐのところ申し訳ないが、天龍の誤解を解いてやってくれ!
結婚指輪はそんな簡単にやり取りしていいものじゃないって、教えてやってくれ!」
「提督~……」
「……ん?どうした?」
「私も結婚指輪、欲しいな~」
「……」
……ん?
「……ゴメン。なんかあり得ないセリフが聞こえてきた。
俺の聴覚が一時的におかしくなったみたいだよ。ははは。疲れてるのかな?
……さて、改めてもう一度お願いするよ。
天龍がよくわからないこと言ってるから、たしなめてやってくれ!龍田さん!」
「私も結婚指輪、欲しいな~」
「タツタサァーーーン!!」
あ゛ぁーーーっ!!
聞き間違いだと期待したのにぃーーー!!
天龍を止めてもらおうと思ったのに、龍田もアッチ側だったよ!
味方だと思ってたのに、とんだ裏切りを受けた!
……ていうかどういうことだ!?
龍田にだって、俺、好意を抱いてもらえるようなこと、全然してないぞ!?
なんで姉妹揃って結婚指輪なんて欲しがるんだよぉ!?
(はー、よくいう。このたらし)
(おんなのこがよろこぶぷれぜんとおくったの、おぼえてないですか?)
(なんどもなんども、ふたりにやさしいことばをかけてたの、だれですか?)
そんなことしてねぇよ!
確かにプレゼントは贈ったことあるけど、あれは謝罪の意味を込めてのものだろ!?
それに優しい言葉を何度もかけるって、そんなキザったらしい真似してないから!
(これだからてんねんは……)
(おんなごころが、ここまでわかってないとは……)
(これはもはや、ゆうざいはんけつですね……)
・・・
鯉住君は別に大したことしてない、くらいの気持ちでいるのだが、
実は彼、研修に出向いた6人には、週1くらいのペースでメールを送っていた。
地獄と知って送り出してしまった後ろめたさも手伝って、かなりチカラの入った文章を毎度送っていた。
その内容は、彼の感謝の気持ちを綴ったものであり、研修で心身ともに限界の身であった彼女たちには、非常によく染みわたるものであった。
こういった些細な言葉が、たまにある大きな出来事よりも重要だったりするのだ。
彼女たちがここまで頑張ってこれたのは、そのメールのウエイトが結構大きい。
その証拠に彼女たちは全員、彼からのメールを『重要なメール』ボックスに全通仕舞っている。
そのおかげで、ひとり残らず彼への好感度が爆上がりしているのだが、本人はそんなこと知る由もない。
本人的には『部下をねぎらうのは上司の務め』程度の認識なのだから、それは仕方ないといえば仕方ないことなのだが。
・・・
((( くいあらためて? )))
なんでそうなるんだよ!?おかしいやろ!
と、とにかく、天龍と龍田には、結婚指輪がどういった意味を持つものなのか、教えてやらねば……!!
なんかこう、もっと彼女たちにピッタリな相手はいるだろ!
俺なんぞに求婚してくるなんてやめた方がいいです!やめて下さい!助けてください!
「て、天龍に龍田……よく聞くんだ……!
キミたちは何か勘違いしている……!
結婚というのは、神聖なものであってだな、もっとお互いの事を知った相手でなければよろしくないものでだな……!!」
「??? おいおい、提督の方こそ勘違いしてんじゃねぇか?」
「……え?」
「俺が欲しいって言ったのは、『ケッコンカッコカリ制度』の指輪の事だよ。
上限解放できるやつ。
あれがあればもっと強くなれるって教官に聞いてんだ!
それなら用意してもらわねぇ手はねぇだろ!!」
「……あー、そういうこと……」
「うふふ~ 提督はぁ、どういうつもりだったのかな~?」
龍田がすっごいいい笑顔をしながら尋ねてきた。
龍田、キミってやつは……!
今までのやり取りを、全部分かったうえであんなこと言ったのか……!!
ホントにいい性格してやがる!チクショウメェ!
「い、いや、俺もわかってたぞ?
ケッコンカッコカリの指輪の事だよな!それしかありえないよな!」
「そ~ぉ? ふ~ん?」
「ま、俺は提督が良いって言うなら、ガチの結婚してもいいけどなー」
「ヴェェアァッ!?」
ちょ、おま……!!
「あら~ そしたら私も一緒にお嫁さんにしてもらわないと寂しいな~」
「タツタサァン!?」
タツタサァン!?
「ま、それは置いといてよ。
俺たちの実力ってのは、艦娘だけで辿り着けるところまでしか身についてないんだよ。
実際はそれ以上のチカラを出せるはずなのに、なんつーの?
思ってる動きとカラダの動きが噛み合ってない感じなんだよ」
「そうね~
教官が言うには、私達と提督との絆が、壁を破るカギになってるってことなの~
だからケッコン指輪欲しいっていうのは、そういう意味だよ~?」
「へーぇ……そう……そうなんだぁ……」
あんな爆弾発言を『それは置いといて』で片づけちゃうとか、天龍ちゃんマジ天龍ちゃん……
龍田もさらっと流しちゃうし、本気なんだか、からかってるだけなんだか、俺には分んねぇよ……!
こんなアラサーお兄さん捕まえて、からかって、何が面白いんですか……!
これ以上私に、どうしろと言うのですか……!
目の前でいきなり、とんでもない美人(しかもふたり)から求婚されたんだ。衝撃を受けるのは当然だ!完全に不意打ちだったんだからな。
しかし男気溢れる豪快な他の提督ならッ!
美人で優しく気立てもいい相手の「求婚」を、決して断ったりしねえッ!
たとえここが、他の部下がいて、ムードもへったくれもない宴会会場だったとしてもなッ!
そういう頼もしい漢に、私はなりたい……
いや、艦娘とガチの結婚とか、俺にはできないけども……
これはあれだ、うん、天龍はそんなに良く結婚というものがわかってないだけ。
龍田は俺をからかって楽しんでるだけ。
そうに違いない。そうであってくれ……
俺のキャパは使用率100%。もういっぱいでち……
「そうか……いや、しかし、仮とはいえ、そんな簡単に指輪を渡すなんて……」
「あー、やっぱそうなるんだな」
「教官のおっしゃってた通りね~」
「え、なに? 俺の反応が読まれてたってこと!?」
「おう。まぁこれ読んでみろよ。多分だけど、そしたらよくわかるぜ?」
そう言うと、天龍はどこからか取り出した手紙を鯉住君に渡す。
差出人のところには『佐世保第4鎮守府所属 軽巡洋艦 神通』と書かれている。
「なんか準備が良すぎて怖いんだけど……」
「いいから読んで~」
「お、おう……」
あのバトルジャンキー筆頭の神通さんから手紙……!?
一体どんなヤバい内容が書いてあるのだろうか?
言うこと聞かないと鎮守府壊滅させるとか?
……いやいや、いくらなんでもそんなことは……
彼女は非常に非情で、容赦なく怖いけど、それでも平和を想う艦娘だ。
大丈夫なはず……!
南無三……!
バッ!
意を決して勢いよく手紙を開く鯉住君。
・・・
拝啓
佐世保では、いつのまにか日中は汗ばむような季節となりましたが、お元気でお過ごしでしょうか?
そちらは一年を通して暑さと雨が続くと聞いております。お体に気を付けて過ごされていることを願うばかりです。
この度は、私達の鎮守府における研修制度を活用していただいた事について、感謝を申し上げたく、筆を取ることにいたしました。
私達の鎮守府は中規模であり、目に見える実績は多いとは言えませんが、ひとりひとりの実力はどこの艦娘にも負けるものではないと、僭越ながら自負しております。
それを見込んで大切な部下を預けていただいたこと、誠に恐悦至極であり、感謝の極みです。
その研修生として預かった部下である、天龍と龍田について、差し出がましいようですが、ひとつ申し上げたいことが御座います。
報告書でもお伝えした通り、彼女たちは艦娘として、どこに出ても恥ずかしくない程度の実力をつけるほどには成長しました。
多少なりとも厳しく接してきたのですが、貴方との約束を胸に、よく喰らいついてきたと、しみじみ思う次第です。
しかし私が力添えできるのはここまで。
ここから先は、貴方と彼女たちとの信頼が、壁を突破することに大きな役割を果たすことになります。
何の因果か、戦士と女性の心を相合わせ持つ、私達艦娘。
提督との信頼関係を、目に見える形で確かめられるものがあるだけで、ひとりでは出すことのできない本当の力を発揮することができるのです。
彼女たちに指輪を贈り、戦士の本懐を果たさせてやっていただきたいと、僭越ながら申し立てさせていただきます。
貴方がお変わりないのなら、決してそれを善しとはしないでしょう。
愛なき指輪など真実ではない、と。
しかし貴方が彼女たちを信頼してやっているのであれば、迷うことなく、指輪を贈ってやってください。
私が愚考するに、人間にとっての愛と、私達にとっての愛は、少し形が違うのです。
だから信頼があるのなら、彼女たちの活躍を願うなら、指輪を贈ってやって欲しいのです。
最後に、私達佐世保第4鎮守府の面々は、貴方の来訪をいつでも楽しみにしております。
特に武蔵は、貴方の整備する艤装で出撃できる日を今か今かと待っています。
もちろん私自身も、また龍太さんに会い、穏やかな気持ちで一緒に過ごせる日を、心から待ち望んでおります。
お伝えしたいことばかりでしたが、冗長に感じてしまったら申し訳ありません。
風薫る新緑の中、貴方のますますのご健勝をお祈りいたします。
敬具
佐世保第4鎮守府所属 川内型 2番艦 軽巡洋艦 『神通 20150615』
ラバウル第10基地所属 鯉住龍太 少佐
・・・
達筆ぅ……
「……神通さん、あなたこんな丁寧な文章書くんですね……
申し訳ないですけど、意外です……」
「ひとの手紙勝手に読むなんてしねぇから、何が書いてあったかはわからないんだけどよぉ。
教官が指輪を申請するタイミングで渡せって言ってたんだ。
それに関係した内容なんだろ?」
「ああ……なんていうか、その……
いや、しかし、いくら神通さんの頼みだとしても、指輪を渡すなんて……!!」
「提督~ 男らしく指輪ちょうだい?
私達ぃ、それでま~た強くなっちゃうからぁ」
「それはそうだし、キミたちに活躍してもらいたい気持ちもあるけど……!
しかし……なんといっても……結婚指輪……!!」
仮とはいえ、結婚だぞ……!?
彼女いない歴ほぼイコール年齢の俺に、いきなりそんな決断下せるものだろうか?
いや、下せない……
まだ俺はのんびり人生を楽しみたいんだ……!
特定の誰かを守っていく覚悟なんて、まだできていません!
俺が背負えるのなんて、手の届く範囲の、部下の未来だけなんだよ!
(ぶかぜんいんにせきにんとるってことですか?へたれのくせに)
(へたれのくせにいいますねぇ。へたれのくせに)
(このへたれ)
うるせぇ!へたれへたれ言うんじゃねぇよ!
俺には上司としての責任くらいしか、取れる気がしねぇんだよ!
ホント世の中って世知辛いんだからね!
相変わらず脳内漫才を繰り広げる鯉住君たち。
そんな中、天龍龍田姉妹のガチ求婚宣言を境に、非常に物騒な雰囲気となった観衆の中から、ひとりが近づいてきた。
「フフフ……お困りのようですね!」
「お前は……明石!」
「ここはひとつ私に任せて……」
「うるせぇ!カエレ!
どうせロクなことしねえだろ!?お前はぁ!!」
「あ、ひっど~い。せっかく助け舟を出しに来たのに」
「……ぐっ!
もしそうならとても助かるが……ほ、ホントだろうな……?」
「私が今までウソついたことある?」
「そのセリフを言う奴は、大抵ウソついたことあるんだよ……」
「まま、細かいことは気にしない気にしない!
というわけで、あちらをご覧ください!」
じゃーん!とでも言いたげなジェスチャーとともに、明石は部屋の隅の段ボール箱に腕を向ける。
……ん? なんだ? あの段ボール?
俺、あんな荷物なんて知らないんだけど……
「こんなこともあろうかと!鼎大将から預かってきました!
えーと……近くにいる古鷹ちゃん!開けてみてください!」
「えっ!? は、はいっ!!」
ガサゴソ……
なんだろう……すんごい嫌な予感がする……!!
「こ、これはっ!!!」
古鷹がわなわなしながら取り出したのは、大量の書類に、大量の小箱……
俺、アレ、どっかで見たことあるぞ……!?
「はい!『ケッコンカッコカリ書類』一式を人数分用意してあります!
もちろん指輪もねっ!」
「お゛えあぁぁあーーーっ!?一体なにしてくれてんのおッ!?」
「木を隠すなら森の中!人を隠すなら人の中!
結婚相手を隠すなら、結婚相手の中だよねっ!」
ドヤ顔でとんでもないことをやらかした明石。
右手人差し指を上げ、ウインクしながらてへぺろしている。
「明石テメェーーーッ!!」
やっぱり明石は鯉住君の天敵なんやなって……