艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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不気味の谷現象(ぶきみのたにげんしょう)

美学・芸術・心理学・生態学・ロボット工学その他多くの分野で主張される、美と心と創作に関わる心理現象である。
外見的写実に主眼を置いて描写された人間の像(立体像、平面像、電影の像などで、動作も対象とする)を、実際の人間(ヒト)が目にする時に、写実の精度が高まってゆく先のかなり高度なある一点において、好感とは正反対の違和感・恐怖感・嫌悪感・薄気味悪さ (uncanny) といった負の要素が観察者の感情に強く唐突に現れるというもので、共感度の理論上の放物線が断崖のように急降下する一点を谷に喩えて不気味の谷 (uncanny valley) という。

wikipediaより


ざっくりいうと、
「人間は自分と見分けがつかないほど似ているものに、強烈な拒否反応を示す」
という現象です。

個人的にはクロマニヨン人がホモサピエンスによって全滅させられたことや、人種差別なども、この現象だと思っています。

では艦娘に対してはどうか?

ほとんど人と同じ容姿。そうだと言われなければ区別できない。

しかし、超人的な身体能力を持ち、髪の色はカラフル、理想的なボディスタイル、違和感を覚えるほどにポジティブな思考回路、謎の生命体である妖精さんと協力し、これまた謎の生命体である、深海棲艦を倒すことができる。
人と同じように感情を持つが、不老不死(おそらく)であり、人間と子をもうけることはできない(実例がない)。

まあ、どれだけ甘く見積もっても、この現象は避けられません。


艦娘兵器派や民衆の心の奥底にあるのは、「恐怖」の感情です。




第54話

 

 

「くっ……なんとか撒けましたか……?」

 

「ええ……でも、照月ちゃんが、敵艦載機を落とす時に無理して……!」

 

「い、いいんですよ、飛鷹さん……皆さんが無事なら、それで……ケホッ……」

 

「話しちゃ駄目よ!照月!

アナタ、艤装のバリアが破れて、肉体部分にダメージが及んでるじゃない!

さっきウチの鎮守府と近隣鎮守府に救難要請をしたから、何とかなるわよ!絶対!」

 

「能代……そうは言うけどさ、やっぱりちょっと厳しいかもねぇ……

私たちの何人かは帰れないかも……まったく、やんなっちゃうよ」

 

「希望を捨ててはいけません!

この程度、5年前の襲撃と比べれば、なんということもありません!」

 

「あぁ、榛名は経験者だっけか……

すまないね、弱気になっちゃって……」

 

「そうよ、隼鷹。

こんなところで沈むわけにはいきません。私たちにはまだまだ、やるべきことがあります」

 

「高雄……」

 

 

ラバウルのソロモン海。

そこにはいくつかの諸島があるのだが、その中のある島に、現在ある艦隊が避難している。

 

まったく予想していない深海棲艦の強襲に遭い、大打撃を受けてしまった面々。

満身創痍という言葉がふさわしい。

 

彼女たちの所属はラバウル第1基地。所属艦隊は第2艦隊。

いち海域を束ねる第1基地の、実力No2集団である。

 

メンバーは、以下の通り。

 

 

旗艦 

重巡洋艦『高雄』

 

旗下

戦艦『榛名』・軽巡洋艦『能代』・駆逐艦『照月』・軽空母『飛鷹』・軽空母『隼鷹』

 

 

第2艦隊にして戦艦・空母を計3隻も抱える強力なメンバー。

他の鎮守府の第1艦隊に、勝るとも劣らない実力を持った艦隊だ。

 

 

……そんな実力者集団である彼女たちが、何故ここまで追い込まれているのか。

 

 

「でもさ、なんであんな強力な敵がいるのかね……

つい先日、第1艦隊が掃討したばかりだっていうのに……

榛名なら、なにか心当たり、あったりするかい……?」

 

「……それは私にもわかりません。

今まで通りなら、縄張りを陣取るボス艦隊を撃破すれば、少なくとも一か月は強力な敵は現れませんでした……

なにかが起こっているのかも……私達には知る由もない、何かが……」

 

「高雄さん……そ、それって……もしかして、また、5年前みたいな……!!」

 

「わからないわ、能代。

それも気になるけど、今はこの危機を乗り越えることに集中しましょう」

 

「は、はい……」

 

 

彼女たちはこの海域、6-5海域を、解放しに来たわけではない。

海域解放はすでに、ラバウル第1基地・第1艦隊によって達成されている。

彼女たちの目的はあくまで哨戒任務。はぐれ深海棲艦を掃討するために出撃してきたのだ。

 

だというのに、彼女たちはとても強力な空襲に遭遇した。

少なくとも、実力者である彼女たちですら、危機に追い込まれてしまうほどの攻撃に。

 

 

……現在彼女たちの被害状況は以下の通り。

 

高雄・小破

榛名・中破

能代・小破

照月・大破

飛鷹・中破

隼鷹・中破

 

特に被害が大きいのは照月。

彼女の制服艤装はバリアとしての機能を失い、肉体部分に損傷が及んでいる。

他のメンバーについては肉体的損傷はないものの、艤装の損傷は大きく、普段の半分の火力も出すことができない。

かろうじて普段に近いチカラで戦えるのは、小破のふたりだけだ。

軽空母のふたりについては、カタパルト代わりの巻物が破損し、艦載機発着が不可能な状態。

 

これ以上の継戦は不可能といってよい。

 

 

「油断したわけじゃないんだけどねぇ……

ゴメンよ、みんな。艦載機の処理は、私達の役目だっていうのに……」

 

「ええ……言い訳するわけじゃないけど、隼鷹の言う通り、油断も慢心もなかったの……

でも、ごめんなさい……私達のせいで、頑張って艦載機撃墜をしてくれた照月ちゃんが……」

 

「わかっていますよ。おふたりとも。ご自分を責めないで下さい。

あの量の艦載機が飛んできては、今の装備では、どうすることもできません。

おそらく、敵艦隊には鬼級……いえ、姫級が複数いるとみていいでしょう」

 

「榛名の見立ては正しいでしょうね。

はぐれ深海棲艦掃討用に、ふたりは艦攻・艦爆を中心に艦載機を積んできているのだから、航空戦の結果を責めるつもりなんてないわ。

当面の問題は、何故姫級が、しかも航空戦だけでここまでの打撃を与えてくるような、上級の姫級がいるのか。

そしてそれ以上に、その姫級からどうやって逃げ切ることができるのか」

 

「私も姫級とは何度か戦ったことあるけどさ、今回の感覚は、そのどれよりもヤバいよ。

多分だけど敵は、艦上偵察機も積んでる気がする。

このまま島から出て逃げようとしても、見つかって追いつかれるんじゃないかな……」

 

「私も隼鷹と同意見。今動くのは危険だわ。

ここでやり過ごすしかないと思う……」

 

 

罪悪感を感じながらも、冷静な判断を下す、飛鷹隼鷹姉妹。

 

これだけの被害状況であるにもかかわらず、彼女たちは敵艦隊の姿を見ていない。

艦隊の姿が確認できないほど距離が離れている状況で、航空戦が行われ、それのみでここまで被害を出してしまったからだ。

いくら航空戦が、砲撃が届かないほどの距離で行われると言っても、ここまでの超長距離で補足されるのは予想外だ。

それだけ広範囲の索敵能力を持ち、視界が届かないほど離れた距離にある艦載機を、自由自在に操る。

相手の実力の高さが否応なしに伺えるというものだ。

 

 

「おふたりがそう言うなら間違いないんでしょうけど……

でも、このままじゃ照月が……!」

 

「い、いいんです……能代……さん……私の事は気にせず……」

 

「弱気になっちゃだめよ、照月!

私達をカラダを張って守ってくれたアナタに何かあったら、お姉さんの秋月に、私、あわせる顔がないわ!」

 

「あ……秋月姉ぇ……」

 

「そうです、照月さん!

アナタの帰りを待っているお姉さんのためにも、諦めないで下さい!」

 

「は、榛名さん……ありがとう……ございます……」

 

「希望を捨ててはいけないわ。

先ほど能代が言ったとおり、私達の現状を、予想される敵艦隊の規模も含め、救難要請で送ってあります。

連合艦隊を組んで救援を出してくれれば、迅速な救助の可能性はある。

最後の最後まで、諦めることは許しません」

 

「……はい」

 

 

 

……緊急時に冷静でいるのは、旗艦に求められる重要な能力のひとつだ。

筆頭秘書艦でもある高雄は、あくまで冷静に、落ち着いた物腰でメンバーに接する。

 

しかし彼女も内心では、非常に焦っていた。

現状かなり危機的状況にあることは間違いない。

 

 

 

……救援要請は出したけど、この位置で通信が届くのは、第6と第8、そして第10基地でしょう。

 

しかしその3基地はどこも、この強敵に対抗できるほどの航空戦力は有していない……

さらに言えば、どこも規模の小さい鎮守府なので、連合艦隊を組めるほどの戦力も期待できない……

 

……どうしたって、早急な助けは期待できないわ。

やっぱり私達だけで血路を開くか、ウチの第1艦隊の到着を待つ他無さそうね……

 

 

 

危険な状態にある照月を励ますために、希望的なことを言ったものの、彼女にはわかっていた。

自分たちが取れる選択肢は、ふたつしかないことを。

 

 

多大な犠牲を払い、現在のメンバーだけで撤退するか、

かなり時間がかかるが、第1艦隊の到着を待つか。

 

 

前者を選べば、敵に捕捉された場合、この中の半数以上は生きて帰れないだろう。

殿を誰かが務めれば、全滅は避けられるだろうが。

 

後者を選べば、10時間近く敵の捕捉圏内に留まることになり、見つかった場合全滅は必至だろう。

そもそもその場合、照月の体力が持つかどうかという問題があるが。

 

 

「……」

 

 

判断ミスは許されない。

最善手を打てたとしても、犠牲無しで切り抜けられるかも怪しい。

 

犠牲を出して、少人数の生き残りを選ぶか、全員生存か全滅かの、イチかバチかを選ぶか……

 

心の中の激しい葛藤をメンバーに悟られないよう、務めて無表情に決断を下す高雄。

 

 

「……満足に動く事ができる者が少ない以上、撤退を選ぶことはできません。

この島に留まり、救援を待つことにしましょう」

 

 

高雄も榛名、能代と同じく、5年前の本土大襲撃の経験者。

激しい戦闘で仲間が沈む経験は何度もした。

ここぞという時に仲間の命までも計算に入れ、国を護る覚悟はできていた。

 

……しかしここ数年の平穏は、彼女のその覚悟を薄めてしまっていた。

自分の命を捨てることはできても、仲間の命を捨てる決断は、彼女には出来なくなっていた。

5年という平穏な日常は、冷酷で苛烈な決断を下すには、あまりにも長すぎたのだ……

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

「叢雲も、お茶飲む?」

 

 

救援要請を受けて出撃した、ラバウル第10基地の研修組。

彼女たちと鯉住君は、小型艇の中でくつろいでいた。

 

 

「いただくわ」

 

「いやー、龍田が護衛してくれてるおかげで、安心していられるねぇ」

 

「そうですね。龍田さんには感謝ですね」

 

「龍田ったら、『なんとなく』で片っ端から潜水艦沈めるんだもの。

正直ありえないわ。

どんだけ強くなってんのよ、あんたら……モグモグ」

 

 

設置しておいた給湯器からお湯を出し、お茶を飲む面々。

備え付けの和菓子をもしゃつきながら、叢雲が天龍に視線を向ける。

 

 

「フフ、俺たちの実力はこの程度じゃねぇぜ?

ていうか、あんなに気配が消しきれてない潜水艦なんて、狙ってくれっていってるようなもんだろ?

対潜が得意な龍田だけじゃなくて、俺だってあの程度の相手なら問題なく沈められるって」

 

「ったく……ソナーも使ってないってのに、よくやるわ」

 

 

褒めているんだか、呆れているんだか、よくわからない反応をしている叢雲。

彼女たちの会話を聞いて、北上大井姉妹もそこに参加する。

 

 

「ズズッ……っぷはー。お茶うまー。

アタシもあれくらいならできるよ~。なんとなく敵の気配ってのは感じられるよね~」

 

「流石です!北上さん!」

 

「ムシャムシャ……饅頭うまいわー。

大井っちだって敵の位置くらい分かるっしょ?アタシとは違って計算だけどさ」

 

「まぁ、敵の配置されていそうな地点の予測くらいなら、簡単ですね」

 

 

緊張感のかけらもない船内である。

これから危機に陥った艦隊を救助しに行くとはまるで思えない。

 

 

「ズズーッ……ゴクン……ふぅ。

ねえアンタ、そろそろ私、龍田と護衛交代してくるわ」

 

「お、すまないな、叢雲。

龍田にはお茶とお茶請けを用意してあるって伝えといてくれ」

 

「わかったわ。

あと10分くらいで着くと思うし、ここからは最後まで私が護衛するわね。

救助対象が見えてきたら知らせるから、そっちでも救助信号は拾っといてよ」

 

「わかりました!それは私がやっておきますね!

ホントは私も護衛のお手伝いをしたかったんですが……」

 

「そこは気にしないでいいよ、古鷹。

キミは重巡だから潜水艦に対抗手段がないからね。そこは艦種の違いだから」

 

「わかってはいるんですが、皆さんにばかり働いてもらって、申し訳なくて……」

 

「大丈夫だっていってるでしょ?

だいたい古鷹はしっかり通信関係をやってくれてるんだから、ちゃんと仕事してるわよ。

そこのお茶くみよりマシよ」

 

「叢雲さんや。そのお茶くみってのは俺の事なのかい?」

 

「アンタ以外に誰がいるのよ」

 

「辛辣ぅ……」

 

「だ、大丈夫ですよ提督!

提督の今日一番の仕事は、救助対象の艦隊とのやり取りなんですから!

道中は私達に任せてくださいね!」

 

「あぁ……やっぱり古鷹は優しい……

心が洗われていく……」

 

「そ、そんな……当然のことを言ったまでです」

 

「……シッ!!」

 

 

ボゴオッ!

 

 

「ツアァッ!!」

 

 

いつものタイキック。

 

 

「だからアンタは古鷹に色目使うんじゃないわよ!

行ってくるわ!フン!」

 

 

ガチャン!!

 

 

「いたひ……」

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 

勢いよく退出する叢雲。

ケツを抑えてうずくまる提督。

それを心配してあたふたする古鷹。

それを面白がって見る北上。

提督に冷たい視線を送る大井。

細かいことを気にせずお茶請けをほおばる天龍。

 

 

いつも通りの光景である。

 

 

「やっぱり提督とフルちゃんって仲いいよね~

ウチで一番仲いいのって、ふたりなんじゃないの~?」

 

「「 そ、そんなことない(です)って…… 」」

 

「ね?言ったとおりっしょ? 大井っちもそう思うよね~?」

 

「……さぁ? どうでしょうか……」

 

 

冷たい目で鯉住君を見据える大井。

それを横目で見る北上は、明らかに楽しんでいる。

 

 

「おぅ……大井、その、なんかゴメン……」

 

 

いつもの調子ながらも、最大船速で目的地に向かう一行。

彼女たちは、待ち受ける強敵にどう立ち向かうのだろうか?

 

 

 




シリアスな内容書くと疲れますね……
まあ、言うほどシリアスじゃないですけども。

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