艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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解放済み海域について


このお話では、ゲームとは違って、一旦解放した海域では敵艦隊は明らかに弱体化します。
哨戒任務が遠征扱いなのは、こういった理由からです。
大した敵がいなくなるので、ガチ装備でなくとも問題なしというわけです。

わざわざ哨戒する理由は単純で、そうしていないといつの間にかボスが復活するからです。
そうなると未解放海域に逆戻りしてしまい、苦労が水の泡。
それだけは避けたいというのが共通認識です。

しかし哨戒任務といえど、6-5は6-5なので、弱体化後の海域でも、

戦艦タ級フラッグシップ
軽空母ヌ級エリート
軽巡ヘ級エリート
駆逐イ級後期型エリート×3

みたいな艦隊には普通に遭遇します。
はぐれ艦隊や潜水艦も多いため、哨戒といえど、かなりの戦力を投入せざるをえません。

第2艦隊がわざわざ出張ったのも、そういった理由からですね。





第55話

 

 

 

時は少し遡り、第10基地の面々が出撃した少し後。

諸島に避難した第1基地の第2艦隊の面々は、緊迫した濃密な時間を過ごしていた。

 

そんなギリギリの状況の中、ひとつの転機が発生した。

 

 

「……!! こちらからの通信に反応アリ!」

 

「!? ホントですか!?」

 

「ど、どこからだい!? 能代!」

 

 

通信機器を使って救援要請信号を送っていた能代が、突然大きな声を出す。

皆半ば諦めていた救援が来るというのだ。喜びよりも、戸惑いを隠せない。

 

 

「待ってください!暗号解読します!!」

 

 

……

 

 

「……わかりました! ラバウル第10基地から、『こちらに小型艇で向かう』とのことです!」

 

「だ、第10基地……!?

能代、それは間違いではないのね……?」

 

「ええ、間違いありません!」

 

「そんな……どういうこと……?」

 

 

能代からの暗号解読結果を受け、驚きとともに疑いの言葉を発する高雄。

 

それは無理からぬこと。

ラバウル第10基地は、設立してから半年ほどしか経っていない、小規模な鎮守府だ。

 

 

最初に気になった点は、あそこには空母が1隻も在籍していないということ。

 

こちらからの救援要請に添えた戦況報告には、『超特大級の航空戦力を有する深海棲艦により、艦隊半壊』という情報を入れてあった。

 

あの真面目な鯉住少佐が、そんな重大な情報を見過ごすはずがない。

そしてそれがわかっていて、制空権を喪失した状態で戦わざるを得ないと知っていて、義侠心に駆られて出撃指示するほど無謀でもないはず。

 

 

……さらに言えば、第10基地のメンバーは高雄も知る艦娘ばかりだ。

 

初期艦として着任した叢雲は、ラバウル第1基地で建造された艦娘だし、

古鷹、大井、天龍、龍田の4名は、鎮守府設立当初に、第1基地から異動した面々。

 

彼女たちの実力では、とてもではないが、目の前の未知の強敵には叶わない。

大規模作戦の度に声がかかる、自分たち第2艦隊のメンバーですら、この有様なのだ。

どこをどう考えても、勝機があるとは思えない。

 

 

だからこそ高雄には全く分からなかった。

何故、不可能だと分かって救援に来ると言うのか?

しかも提督自ら小型艇に乗って、この危険な海に……

 

 

「……申し出はありがたいですが、第10基地の艦隊の実力では、死にに来るようなものです。

能代。再度現状を添えて、連絡を入れなさい。来てはいけない、と」

 

「……はい。承知しました」

 

 

落胆が隠せない能代に申し訳なさを感じながらも、高雄は冷静に指示を下す。

 

こちらの都合で、新たな被害を出すなど以ての外だ。

高雄には鯉住少佐の意図は読めなかったが、自身の知る情報を踏まえて、彼らの救援は失敗に終わると判断した。

 

照月の容態を考えると、藁にもすがりたい状況であるのはよくわかる。

しかしそのような感情で、作戦の成否判断を曇らせてはいけない。

電文を送る能代の後姿を見ながら、これでよかったんだ、と自身を納得させる高雄。

 

 

……

 

 

「……!? た、高雄さん! 第10基地から返答がありました!!」

 

「……内容はどのようなものですか?」

 

「『極力戦闘は避けて向かうので、燃料弾薬については心配ない。位置把握のために継続的な通信を要請する』だそうです……」

 

「な、何を言っているの……!?

そういう問題ではないことくらい、分かるでしょう……!?」

 

「私もそう思うんですが……

噂の鯉住少佐というのは、どういった方なんですか……?大丈夫なんですか……?」

 

「ストレス耐性が高いとは言えないけど、信頼できる人物よ……

だからこそ、この連絡は理解できないわ……

第10基地には航空戦力は配備されていないというのに……」

 

 

冷静であるように務めていた高雄であるが、この返答による動揺は隠せなかった。

それも当然。こちらの意図は伝わっているはずなのに、見当外れな物資の報告である。

 

まるで『戦いになっても問題はない』と言っているように取れる反応。

どう考えても、そんなはずはないのに。

 

 

「ねぇ高雄。私思うんだけど、何か作戦があるんじゃない……?

いくらなんでも6-5に、航空戦力も無しで無策で突入なんて、信じられないわ……」

 

「私も飛鷹と同意見だよ。

そこまで自信ありげに連絡してきたんだし、何かあるはずじゃないかい……?

当たり前だけど、命欲しさに言ってるんじゃないよ……」

 

「わかっているわ。けど……

航空戦力も無し、実力も不足、それに加えて提督自ら出撃……

この状況で、一体どんな秘策があると言うの……?わからない……!」

 

 

引き返すように改めて現状を伝えるも、見当はずれな返答。

どうやら多大な自信がある様子だ。

 

軽空母のふたりが言うように、何か秘策があるというのだろうか……?

非常に頭脳明晰な高雄だが、今回の件に関しては、どう考えても納得いく答えが出ない。

 

 

 

……高雄は気持ちを切り替え、これ以上彼らの意図について考えるのを止めた。

考えてもわからないものはどうしようもないし、そもそも相手に引き返す気がない。

 

そこで思考の方向性を変更し、これから起こりうる結果についての対策を考えることにしたのだ。

 

 

まず最悪のケース。

それは、第10基地の面々が道中で深海棲艦に敗れ、全滅すること。

これはもうどうしようもない。そうならないように祈るのみだ。

 

そして最善のケース。

それは、無事にここまで第10基地の面々が到着し、姫級に捕捉されず、全員でつつがなく撤退できること。

これについても考えることはない。そうなってほしいものだ。

 

最後に一番ありそうなケース。

それは、ここまで第10基地の面々が辿り着くも、敵の姫級に捕捉され、再度猛攻を受けること。これは絶対に避けなければならない。

 

 

そのためには、小型艇の接近を敵に気づかれないようにする必要がある。

予想できる、様々な要素を考えてみる。

 

 

姫級に捕捉されないためには、今いる島を盾にして、姫級がいる方向の反対方向から接近してもらうべきだ。

そのために自分たちは、島内を移動しなければならない。

 

そして、通信も最低限にした方がいいだろう。

深海棲艦に通信傍受機能が備わっているのは、5年前の本土大襲撃の際に発覚している。

過剰な通信はこちらの位置を捕捉される原因となりかねない。

あちらからの連絡は控えてもらい、こちらからの連絡も、姫級に捕捉された時などの緊急時に絞った方がよいだろう。

 

そして、シンプルであるが、モーター音。

深海棲艦にも五感は当然存在するはず。音は自分の位置を相手に伝えてしまう、大きな要因だ。

ここにたどり着くしばらく前には、船速を落としてもらうべきだろう。

 

さらに、まだ考えられる要因はある。それは敵の哨戒にかち合うことだ。

この海域では常に海底に潜水艦が蠢いていて、その全てに対処するのは、歴戦の艦でも不可能に近い。

その潜水艦に見つかってしまったら、戦闘が発生する。

そしてその気配は、当然姫級も察知するところとなるだろう。

それを避けるには、ソナーによる索敵を厳とし、敵潜水艦の察知範囲に入らないことが必要だ。

第10基地の面々がソナーを装備してきていればよいのだが……

 

 

 

「……能代。第10基地の皆さんに、電文を送ってちょうだい」

 

「は、はい。内容はどのようなものに……?」

 

「それはね……」

 

 

事態の悪化を避けるため、先ほどまでに考えていた内容を伝える高雄。

それを受け、能代は、注意喚起の電文を送る。

 

 

「……それでは今から私達は、姫級のいる方角から見て、島の反対に移動します。

鯉住少佐が何を考えているかはわかりませんが、私達にできることは限られています。

人事を尽くして天命を待ちましょう」

 

「はい!わかりました!

照月ちゃん、大丈夫? 苦しいと思うけど、頑張りましょう!」

 

「は、はい……ありがとうございます……榛名さん……」

 

 

榛名は安静にしている照月に肩を貸し、移動を始める。

他の者もそれに続き、歩き始めた。

現状が全くつかめない不安はあるが、できることをするしかないのだ……

 

 

 

・・・

 

 

 

そこから不安な時間が数時間流れた。

第10基地の面々との通信は暫く前に禁止とし、自分たちのいる島内の細かい位置は伝達済み。

 

暫く前まで問題なく通信できていたことから、

幸いなことに、最悪のケースである『道中で全滅』の危険は回避できたようだ。

ひとまずは安心といったところ。

 

……やれることはやった。

もしも姫級に補足された際に、殿となって命を張る覚悟もできている。

あとは救援を待つのみである。

 

 

 

・・・

 

 

 

そして……

 

 

 

・・・

 

 

 

複雑な心持ちでいる面々の視線の先、水平線の彼方から、ついに小型艇が現れた!

 

 

「あぁ……本当に、来てくれたんですね……!

榛名、感激です……!」

 

「信じられないよ……!

小規模鎮守府だってのに、よくあの潜水艦の巣を超えてこれたもんだねぇ……!」

 

「照月!見える!?私達、助かるかもしれないわ!」

 

「あぁ……これでまた……秋月姉ぇに……会えるの?」

 

「みんな、気を緩めるのは早いわ。むしろここからが正念場よ。

大きな動きをする以上、敵に捕捉される確率も跳ね上がるわ。

事は慎重に運ぶように」

 

「わ、わかったわ。高雄の言う通りね……」

 

 

誰かが犠牲になることを覚悟していたところに、まさかの救援。

歴戦のメンバーでも、どうしても喜びは抑えられない。

 

そんな中でも高雄は冷静であり、警戒を怠ってはいなかった。

先刻も考えていたように、今から訪れる瞬間が一番危険なのだ。気を抜けるはずもない。

 

 

 

 

 

……そんな状態で第10基地の面々を迎えたのだが……

 

 

 

 

 

「おお!久しぶりだなぁ!お前ら! 元気してたか~?」

 

「あらあらぁ。 知ってる顔がいっぱ~い」

 

「随分派手にやられたわねぇ。

栄光のラバウル第1基地・第2艦隊の名が泣くわよ?」

 

「コラ、叢雲。ケガ人に対していつもの調子で接するのはやめなさい。

……いつもお世話になっております。高雄さん。

怪我を負っている方もいるようですので、古鷹に手当てしてもらってください。

それじゃ応急処置を頼んだよ。古鷹」

 

「任せてください!提督!

それじゃ照月ちゃん。こっちに来てください!」

 

 

「「「 …… 」」」

 

 

あれ……?なんなのこれ……?

ここって難関海域で、提督が出張るほどの緊急事態なのよね……?

なに? この……なに……???

 

 

あまりのテンションのギャップに、フリーズする第2艦隊の面々。

 

 

「あ~あ。 皆さん固まっちゃってるよ。

よっぽどピンチだったみたいだし、アタシたちが来て、喜んでくれると思ったんだけどね~」

 

「そうですね、北上さん。お礼のひとつもないのはどうかと思いますね」

 

「あれ?この人たちって大井っちの元同僚でしょ?

なんか感慨深いとか、そういうの無いの?」

 

「元同僚といっても、それ以上の関係ではありませんでしたので、特には」

 

「ひゅ~。クールだねぇ」

 

 

「「「 …… 」」」

 

 

ツッコミどころが多すぎて、言葉が出てこない高雄とその他メンバー。

言葉は出なくとも、根が真面目で几帳面な高雄は、心の中で怒涛のツッコミを入れる。

 

 

 

半年前に送り出した時の姿から、全員様変わりしているじゃない……

 

大井と古鷹はわかるわ。ふたりとも改二になったのよね……?

いや、半年前は全然そこまで練度が高くなかったのに、なんで改二になってるの?っていう話だけど……

 

問題は、天龍と龍田、そして叢雲……アナタ達よ……

アナタ達のその格好、もしかしなくても改二よね……?

私、アナタ達に改二があるなんて知らないんだけど……世界初なんじゃないの……?

ていうか叢雲……アナタ、半年前は新兵だったじゃないの……

なんでしれっと改二になってるの……?

 

そして大井の隣のアナタは北上よね……?

鯉住少佐が着任してすぐにドロップしたっていう……

なんでもう改二になってるの……?おかしいじゃない……

 

そしてなんでそんなに全員余裕なの……?

緊張感をどこかに忘れてきてしまったの……?

近所の商店に行くときみたいな感じじゃない……ここって6-5なのよ……?

 

なんなの……?

救援に来てくれたのは嬉しいけど、どうしたらいいの……?

よくわからない……わからないわ……!

私には鯉住少佐がよくわからない……!!

 

 

 

高雄が混乱して、おめめグルグルになっているのを見て、鯉住君が声をかける。

 

 

「まぁまぁ、皆さん大変だったでしょうから、ひとまずくつろぎましょうか。

中にお茶とお茶請けを用意してあるので、一服して気持ちを落ち着かせた方がいいですよね。

……と、すみません。皆さん制服がボロボロでしたね。

北上と大井は皆さんに浴衣を用意してあげて。天龍と龍田は引き続き見張りお願い。

叢雲は皆さんと一緒に、敵についての情報共有しよう」

 

「おっけ~」

 

「承知しました」

 

「おう。バッチリ見張るぜ!」

 

「わかったよ~」

 

「任せなさい」

 

 

お茶……? 浴衣……?

 

 

「さぁさぁ、皆さん。どうぞ遠慮なさらず入ってください。

私は着替え終わるまで、外で待機してますので」

 

 

「「「 はい…… 」」」

 

 

人間よくわからないものに出会うと、考えることやめてしまうものである。

それは艦娘についても同様なようだ。

 

あまりにも理解できず、飲み込めない状況を前に、

言われるがままにするしかない第2艦隊のメンバーなのであった。

 

 

 

 




キリがつくまでは、さささっと投稿したいですねー。
勢いは大事。

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