艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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スプラトゥーン2が面白すぎて投稿遅れました。
許していただきたい……


第61話

 

「……」

 

「どうした?何を黙っている?

この姿なら問題ないだろう?」

 

「ええと……」

 

 

突然の出来事に言葉が出ない鯉住君。

彼は同様のケースについて知識はあったのだが、実際唐突に目にすると、対応できないものらしい。

 

 

「この姿なら、人類への憎悪を感じることはないわ。

これで問題解決ね。さ、行きましょう」

 

「ちょちょ、ちょっと待ってください!

それ、本当なんですか!?」

 

 

提督同様に驚きを隠せない古鷹が、口を開く。

提督の邪魔をしてはいけないと思って押し黙っていたのだが、さすがにツッコミを入れたくなったようだ。

 

 

「いきなり艦娘の姿になったのにも驚きましたけど……

性格まで変わってしまうんですか!?」

 

「なんなの?アナタ?

いきなり自己紹介もなく不躾じゃない?

礼儀をわきまえない者と交わす言葉などないわ」

 

「あぁ、その、すみません。あまりにも驚いてしまったもので……

私は重巡洋艦の古鷹といいます。提督の秘書艦をさせてもらっています」

 

「重巡洋艦……Heavy cruiserね。

それにしてはアナタ、随分と華奢なようだけど……本当なの?

そんな子供で、Admiralの秘書艦が務まるのかしら?」

 

「こ、こど……!!

ほ、ほっといてくださいっ!本当ですっ!!重巡洋艦ですっ!!

アナタの方こそ、開口一番に人の外見のこと言って、失礼じゃないですか!?」

 

「アラ、その様子だと、体格のことはinferiority complex(劣等意識)だったのね?それは失礼したわ」

 

「うぐぐ……そんなハッキリ言わなくても……!!

と言いますか、アナタこそ初対面の人にそんなこと言って不躾ですよ!?

せめて名乗ってからにして下さい!」

 

 

名乗れば言ってもいいのか……

古鷹の若干的外れな指摘に、心の中でツッコミを入れる鯉住君。

 

 

「いいでしょう。それでは名乗らせていただくわ。

私の『こちらの』姿は、Arc Royal(アークロイヤル)。

イギリス生まれのAircraft carrier(正規空母)よ。これで満足?」

 

「あ、はい、よろしくお願いします……じゃなくて!

アナタさっきまで深海棲艦だったじゃないですか!

本当に人類にとって害のない存在になったんですか!?

それが確認できないと、同行は許しませんよっ!」

 

「へぇ。ちゃんと秘書艦らしい仕事ができているようね。感心だわ。

危険かどうかという話だけど、大丈夫よ、問題ないわ」

 

「そ、それを証明できるんですかっ!?」

 

「できるわけないじゃない。

ねぇAdmiral、この子本当に大丈夫?

こんな的外れな指摘なんてしてるようで、秘書艦としてやっていけているの?」

 

「あぁ、その……混乱しているだけですので、大目に見てやってください……」

 

「ぐぬぬ……!!」

 

 

マイペースかつロイヤルな振る舞いを前に、空回りしっぱなしの古鷹。

古鷹でこれなのだから、叢雲とは絡ませられないなぁ……そんなことを考える鯉住君。

 

なんだかんだ、古鷹が空回りしていたのを横目で見てたおかげで、多少冷静さを取り戻すことができた。

彼らはお互い似たような性格なので、逆にこういう時には、片方は冷静でいられることが多い。やはりいいパートナーである。

ふたりして混乱することも多いので、やっていけるのか?という、彼女の指摘ももっともであるのだが。

 

 

「古鷹も言ってましたが、なんでこっちの姿になると、人類への敵対心が無くなるんですか?

証明ができないのは仕方ないですが、理由くらいは聞いておきたいです」

 

「そうね……なんていうのかしら。

『あちらの』姿だと、人類はまぁ、いわゆる地球の害虫って感覚ね。

部屋にCockroach(ゴキちゃん)を見つけたら、なんとしても退治するでしょう?それと同じよ」

 

「そ、そうなんですか」

 

「でも『こちらの』姿だと、人類は守ってやらなきゃいけない弱者って感覚ね」

 

「あ、ああ。そうなんですか……」

 

 

人類に対しての認識は、姿によって大きく変わるらしい。

どうやら人類への敵対心は、深海棲艦特有のもののようだ。

 

……ん? 姿によって?

 

 

「……もしかして、アークロイヤルさん……

深海棲艦に戻れちゃったりします?」

 

「? 当然じゃない」

 

「マジすか……」

 

「『あちらの』姿になれないと、ドレスを汚さず海に潜れないわ。

魚類を側面から観察するには海中から眺めないといけないのだから、どちらの姿にもなれないと困るじゃない」

 

「あぁ……そういう理由……

やっぱり一番重要なのは、魚類関連なんですね……」

 

「???

貴方ならわかるでしょう?そんなこと当たり前じゃない」

 

「そ、そうですね……」

 

 

なんかとんでもない情報が飛び出した。

深海棲艦姿と艦娘姿は気軽にコンバート可能らしい。

どんだけ自由なんだ、この人。

 

 

「なぁ古鷹……多分だけど大丈夫だよ……

今の話聞いて、キミもそう思っただろう……?」

 

「はい……嘘はつかない性格の方みたいですし、お魚以外は興味ないようですし、信用してもよさそうかと……

しかしなんていうか……世界の闇を見てしまった気分です……」

 

「だよねぇ……」

 

「提督といると、そんなことばかりですよねぇ……」

 

「古鷹、そのジト目やめて……

俺だって、こんな出来事、遭遇したくてしてるわけじゃないんだよ……」

 

 

悲しい表情で静かに嘆く鯉住君。

心労が倍プッシュになる出来事ばかりなので、付き合わされる古鷹がむくれるのも仕方ない。

 

しかし彼女は研修を通して、以前よりもこういった事には強くなった。

アークロイヤルの言葉から、確認すべき項目を思いついたので、気を取り直してそれを尋ねる。

 

 

「というか、ええと、アークロイヤルさん。ひとつ聞きたいんですが……

もし人類で魚類をないがしろにしている人を見つけたら、どうするんですか?

どちらも護るべき対象なのでしょう?」

 

「そんなの決まってるじゃない。その人間には消えてもらうわ。

魚類ヘの敬意がない人間など、存在価値は皆無よ。護る価値などありはしない」

 

「あぁ、やっぱりそうなるんですね……

提督、頑張ってください……」

 

「キミも頑張るんだよ!?さりげなく責任放り投げないで!」

 

 

人類への敵対心は消えても、その性格の厄介さは据え置きな模様。

それを確認した古鷹は、遠くの空を眺めながら、現実逃避している。

提督のツッコミを受け流せるほどには、彼女も成長したようだ。

 

 

「そういやよぉ。お前……アークロイヤル、って呼べばいいのか?

お前提督のことAdmiralって呼んでるけどよ。ウチの艦娘になったってことでいいのか?」

 

「えぇ、構わないわ。テンリュウ。

『こちらの』姿では、Admiralが必要みたいだし、彼が主人で問題ないわ。

というか、彼以外をAdmiralと呼ぶ気などさらさらないわ」

 

「あぁ、そりゃ正解だぜ!ウチの提督は世界一だからな!」

 

「わかっているわ。

魚類に対するただならぬ敬意、私のマンタを喜ばせることができる腕前、そのどちらも尊敬に値する。

もし彼以外の下にいくことになるくらいなら、『あちらの』姿で人類殲滅をする仕事に戻るわ」

 

「あー、そりゃ困るな。

ま、提督なら何とかしてくれるだろ。なんたって俺の提督だからな!」

 

「そうね。

彼でなければマンタたちを喜ばせられないのだし、頑張ってもらうことにしましょう」

 

 

どうやら彼女は鯉住君の指揮下に入る模様。

提督の意思とは関係なく部下が増えるのはいつものことだが、本当にそれでいいのだろうか?

 

何故か天龍はドヤ顔してるし、アークロイヤルはマンタを呼び出して、愛おしそうに撫でまわしている。

 

というかキミ、なんでその姿でマンタ出せるの?

それって深海棲艦の艤装だよね?自由過ぎない?愛のなせる業なの?

 

 

「良かったですね、提督……航空戦力が増えるみたいですよ……」

 

「古鷹のそういうポジティブなところ、嫌いじゃないよ……」

 

 

 

・・・

 

 

 

「それでアークロイヤルさんは、ウチに来ることになったんだけど……

こちらのお方はどうしたらいいのか……」

 

「zzz……」

 

 

ドレスの深海棲艦は、アークロイヤルの姿となって傘下に入ることになった。

ではこちらの、ビキニの深海棲艦はどうするのだろうか?

 

……正直言うと、もうほっといて帰りたいというのが本音だ。

 

しかしそこは真面目な鯉住君。

ラバウル第1基地の第2艦隊という強豪を、ここまで追い詰めた相手。

野放しにすることはできない。

 

しかしそこは非情になれない鯉住君。

部下と一緒に帰ってきた彼女を、雷撃処分的な結末にするのはためらわれる。

 

なんとか穏便に話を済ませて、お帰りいただくのが上策か……

 

 

「その、なんだ……

お休みのところ悪いけど、彼女を起こしてくれないか?北上」

 

「ん~?わかったよ~」

 

 

一番相性がよさそうな北上に、彼女の目覚まし役を任せる。

 

ビキニの深海棲艦のカラダをゆさゆさ揺する北上。

熟睡していた彼女だが、その甲斐もあり、ゆっくりと目を覚まして目をこする。

 

 

「ンー……何ヨ……」

 

「お休みのところすいません。

あー……ええと……北上、彼女の名前は?」

 

「ん~?知らないよ?別に気にならなかったし~」

 

「キミたちはそういうところ、そういう感じだよねぇ……まぁ、いいけど……

……えー、あちらの方との話し合いが済みましたので、貴女がどうしてこちらにいらっしゃったのか聞きたいな、と思いまして……」

 

「何……?ドウイウコト……?

……アラ、アナタ、艦娘ノ姿ニナッテルジャナイ……ドウイウ風ノ吹キ回シ……?」

 

「彼は人類で最も優れた男だ。魚類に対する姿勢がそれを物語っている。

お前も自分の艤装を彼に預けてみろ。そうすれば私の言う意味も分かるはずだ」

 

「人間ギライノ貴女ガソコマデ言ウナンテ、初メテジャナイ……?

イイワ、ソコマデ言ウナラ、試シテミマショウ……」

 

 

 

……ブワアアァッッ!!!

 

 

 

「「「 !!??? 」」」

 

 

ビキニの深海棲艦が横たわる超巨大な艤装。

そこから視界が覆われるほどの鳥型艦載機が発艦する!

 

 

「うへぇっ!?何この数!?

さっきアタシらが全部撃ち落したじゃんか!?」

 

「アレハ一部ヨ……控エマデ合ワセルト、500クライカシラ……フワァ……」

 

 

さも当然だと言う雰囲気で、欠伸しながらすごいことを言い放つ、ビキニの深海棲艦。

 

彼女が一度に運用できるのは150機前後だが、それはあくまで『繊細な操作が可能』な機数。

これだけでも信じられない破格の性能だが、本当に怖いのは、実はそこではない。

 

彼女の真の実力は、その大規模戦闘を何度も行える継戦能力である。

その巨大な艤装に保管されているのは、実に500機に及ぶ艦載機。

彼女が全力でこれをフル回転させれば、どんな強敵であろうと、三日三晩は戦力マックスで戦えることだろう。

墜ちた艦載機の自動修復機能も備わっているので、鬼に金棒状態である。

 

……しかし彼女の性格上、そんなめんどくさいことするなら海中に逃げるだろう。

それはそれで決着をつけられないということなので、厄介なことこの上ない。

そしてそもそも、そこまで彼女を追いつめられるのは、一ノ瀬中佐のマブダチでもあるイタリアのオリーヴィア提督くらいである。

 

 

「うええぇ……マジで……?

ヤバいわー……姫級ヤバいわー……」

 

「フワァ……他ノ奴ラガドコマデデキルノカ、私ハ知ラナイケドネ……

興味モナイシ……」

 

 

とんでもない数の鳥型艦載機に動揺する面々。

彼女もドレスの深海棲艦と同様、圧倒的な実力を持つ化け物のようだ。

 

いくら研修を受けたとはいえ、これだけの規格外を相手できるわけがない。

部下が勝てたのはラッキーだったことを察する鯉住君。

 

しかし驚いてばかりでもいられない。

別に今回は敵意からの艦載機発艦ではなく、自分のメンテを受けさせるための発艦だ。危険を感じるより先にやることがある。

 

彼女の機嫌を損ねて大変なことにならぬよう、この数のメンテは不可能な事を伝えないといけない。

まずはそこからだ。

 

 

「ちょ、ちょっとっ!!

流石のこの数のメンテは無理です!!せめて2,3機にしてください!!」

 

「ナニ……?早ク言ッテヨ……

仕舞ウノ面倒クサイジャナイ……」

 

「私の意見なんて聞かずに、いきなり出したんじゃないですか!?」

 

「ハイハイ……ソレジャ仕舞ウワヨー……戻リナサイ、オ前タチ」

 

 

シュゴゴオオッ!!

 

 

すごい勢いで超巨大艤装に戻っていく鳥型艦載機。

まるでマジックでも見ているかのような光景だ。

 

 

 

 

 

……全ての艦載機が艤装に戻ったのを確認したビキニの深海棲艦は、発艦口に手を突っ込み、改めて一機引っ張り出す。

 

その鳥型艦載機は、先ほどのマンタと同様に、生き物であるかのように羽をパタパタさせている。

 

 

「ハイ。ソレジャ人間……何スルノカ知ラナイケド、預ケルワ……」

 

「ああ、と……

今からするのは艤装のメンテナンスというものなんですけど……

説明聞かなくて大丈夫です?」

 

「イイワヨ……面倒クサイモノ……

アイツガヤレッテ言ウンダカラ、大丈夫デショ……」

 

「はぁ……何というか、信頼してるんですね……」

 

「ソンナンジャナイワ……10年来ノ、腐レ縁ッテダケヨ……ムニャ……

ソレジャ、終ワッタラ起コシテ……zzz……」

 

「もう寝た……」

 

 

会話中に就寝するという離れ業を見せつけられ、多少面食らったものの、やることは決まっている。

 

鳥型艦載機のメンテ。

普通のメンテ技師なら、これは不可能だろう。

なにせほとんど生体部分なので、何をしたら良いか本格的にわからないのだ。

 

しかしレ級の艤装メンテ経験がここでも活きる。

加二倉中佐の言っていた「どうせなら多種多様な艤装を積んでる奴を捕まえてこい」という乱暴にとれる意見が、効果を発揮する機会が来るとは……

 

 

「彼女が深い眠りに入る前に終わらせないとなぁ……」

 

 

不気味なのか愛嬌があるのかきわどいラインの艦載機を相手に、ため息交じりにメンテを始める鯉住君である。

 

 

 

・・・

 

 

メンテ中

 

 

・・・

 

 

 

パタパタッ!!

 

 

「……」

 

「へぇ。流石はAdmiral。

マンタだけじゃなく、鳥にも懐かれるのね」

 

「……そのようで」

 

 

やっぱり懐かれた。

ブサカワイイ系の鳥型艦載機は、鯉住君の周りを嬉しそうに、クルクル飛び回っている。

 

なんなんだろうか?そんなに深海棲艦の艤装たちは、メンテに飢えているんだろうか?

 

鯉住君が困惑していると、ビキニの深海棲艦が目を覚ます。

 

 

「フワァ……ドウヤラ終ワッタヨウネ……

アラ……?何デアナタ、私ノ艦載機ニ懐カレテルノ……?」

 

「いや、その、なんていうか……」

 

「どうだ?驚いただろう?

Admiralはなんとな、私達の艤装の心を掴むことができるのだ!」

 

「そうなんですか!?」

 

 

アークロイヤルの謎解説にツッコミを入れる鯉住君。

マンタにしても、鳥型艦載機にしても、心を掴んだ覚えはないんだけど……

 

 

「フゥン……貴女ノ言ウ通リ、コノ人間ハ特別ミタイネ……

イイワ。私モ艦娘ノ姿ニナッテ、着イテイク事ニシマショウ……」

 

「え、ちょ……!

別に着いてこなくてもいいんですよっ!?」

 

 

 

ピカーーーッ!!

 

 

 

鯉住君の必死の説得に耳を貸さず、ビキニの深海棲艦も、艤装ごと光り輝く。

 

 

そして光が収まり、一行の前に現れたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_(:3」∠)_

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_(:3」∠)_ <あまぎです……よろしく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  .,,..,,,,_

/ ,' 3  `ヽーっ

l   ⊃ ⌒_つ   <スヤァ……

`'ー---‐'''''"  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「  ……  」」」

 

 

 

 

寝た……

 

 

 

こうして無事(?)、高雄達の救助作戦は成功し、彼の鎮守府には新たな仲間が増えることになったのであった。

 

 

 




ちなみに帰路では、第2艦隊のメンバーは高雄含め船内待機、叢雲も操縦のため船内待機、その他のメンバーは甲板待機もしくは護衛という布陣を敷いていました。

高雄は泣きそうになっていたので、色々と事後処理は帰ってからの後回しにしたようです。

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