艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

65 / 185
個別面談その2

彼女の扱いは若干悩みましたが、まぁいっか、となりました。
大目に見ていただければと思います。




第65話

すたすた……

 

 

アークロイヤルの待機部屋を後にし、天城の待機部屋に向かう鯉住君と叢雲。

だいぶ気疲れしてしまったが、本番はこれからなのだ。

気を抜くわけにはいかない。

 

なにせ天城については、極端な怠け者だということぐらいしか、情報がないのだ。

まずはなにが彼女を刺激するのか、確かめないといけない。

 

彼女もアークロイヤル同様、恐ろしい実力の持ち主。

機嫌を損ねてしまっては、取り返しがつかなくなる。

 

 

「……さぁ、着いたぞ。それじゃ心の準備はいいかい?叢雲」

 

「大丈夫よ。それじゃ、入りましょ」

 

 

叢雲の準備ができていることを確認し、ふすまをノックする。

 

 

……とんとんとん

 

 

しーん……

 

 

返事がない。

タイミング悪く、出歩いているのだろうか?

 

 

「あ、あれ?……もう一度……」

 

 

 

……とんとんとん

 

 

 

 

 

(……留守です……)

 

 

 

 

「「 …… 」」

 

 

いるじゃないか……

 

 

「ええと……すいません、提督の鯉住です。

ちょっとお聞きしたいことがありましてお邪魔したんですが……

都合悪いでしょうか?」

 

 

(提督……うーん……)

 

 

何か悩んでいる模様。

 

 

(……よし。……大丈夫です……どうぞ……)

 

 

なんだろうか?

なにかの準備をしていたのだろうか?

 

よくわからないが、入室許可をもらったので、お言葉に甘えてお邪魔させてもらうことにした。

 

 

「……失礼します」

 

 

すぅーっ……とんっ

 

 

入室すると、長机の隣には、どーんと敷かれた布団が。

もちろんその中には天城が納まっており、首だけ出して、寝ぼけ眼でこちらを見ていた。

 

とてもではないが部屋に誰かを招くような体勢ではない。

こんな有様だというのに、さっきは一体何の準備をしていたのだろうか……?

 

 

「お、お休み中?失礼します」

 

「わ、私も一緒よ。失礼するわ」

 

「提督に、叢雲さん……いったい何の用事でしょうか……?……ふわぁ……」

 

「えーですね……

今日は天城さんに、この鎮守府でやりたいこととか、何か欲しいものとか、そういったものがないか、聞きとり調査しにきました。

昨日の今日であるし、貴女のことを何も知らないので、必要かと思いまして……

正直言って、何故貴女が私に着いてきてくれたかすらわからないですし……」

 

「あら……提督ってマメなんですね……

わざわざそんなことのために、いらっしゃったなんて……」

 

「大事なことですよ。

それで、なにか希望はあります?」

 

「そうですね……特には無いですが……強いて言うなら……」

 

「強いて言うなら?」

 

「働きたくないです。面倒くさいので」

 

「えぇ……?」

 

 

どうしようもない事を、きっぱりと言い切った天城。

 

しかしいくらなんでも、鎮守府に所属してもらう以上、何らかの仕事はしてもらわないといけない。

機嫌を損ねてはいけないが、それはそれ。できれば最低限は働いて欲しいと思う。

ひとりだけ特別扱いして、他のメンバーと溝ができては、お互いのためにならないからだ。

 

 

「流石に何も仕事をしないというワケには……

鎮守府に所属する以上は、なにかしら貢献してもらわないといけません。

出来る限り融通は利かせますので……何かできることはないでしょうか?」

 

「あら……提督なんですから、ただ命令すればいいのに……律儀ですねぇ……

できること……うーん……そうですねぇ……むにゃ」

 

 

軽く目をつぶり、考え始める天城。

あれだけ強力な深海棲艦だったのだから、何かしら強みはありそうなものだが……

 

 

「……」

 

 

「……どうですか?思い当たらないですか?」

 

 

 

 

 

「……zzz」

 

 

 

「……ちょっと!?起きてください!!」

 

 

……ホントに自由だな、この人は!

 

やっぱり彼女は、会話中と言えど、隙あらば寝ようとするようだ。

その辺は『あちらの』姿と変わらない模様。

 

 

「……あら……失礼しました……むにゃ」

 

「せめて会話中くらいは起きていてください……」

 

「気を抜くと意識がとんじゃうんですよ……ごめんなさいね……

……そうですね、それじゃ、近海偵察なんてどうでしょうか……?」

 

「偵察任務……?」

 

 

彼女の提案に怪訝な顔をするふたり。

 

それもそのはず。

普通、偵察任務と言えば、近海哨戒のことである。

最も回数が多く、最も忙しい任務だ。

 

隙あれば寝ようとするほど怠け者の彼女が、志願するはずのない仕事と言える。

 

 

「偵察任務と言えば、近隣哨戒ですよね……?

一番忙しい任務のひとつですよ?

天城さんがやりたがるような内容だとは、到底思えないんですが……」

 

「近隣哨戒には出ませんよ……?」

 

「「 ??? 」」

 

 

近隣哨戒に出ずに、どうやって敵の動向を把握しようというのか……?

彼女の発言に首をかしげるふたり。

 

 

「うーん……そうですね……

叢雲さん……この鎮守府の担当海域って、どのくらいの広さなんですか……?」

 

「た、担当海域の広さ……?

そうね……この鎮守府から北に広がる海、ソロモン海の沿岸だから……

一番遠くて、半径約200㎞圏内ってところかしら」

 

「200㎞……ちなみにその中で、近隣哨戒によく出る範囲はどれくらいでしょうか……?」

 

「そうねぇ……近隣って言うくらいだし、半径30㎞くらいかしら。

それ以上の範囲は警戒するメリットが薄いわ」

 

「あぁ、だったら大丈夫ですね……

私、半径50㎞程度なら、深海棲艦の気配を感じ取れますので……

この部屋にいても任務できますね……

流石にその距離では『いるかいないか』程度の精度ですが、問題ないですよね……?」

 

「「 !!!?? 」」

 

 

なんかこの眠り姫、とんでもないこと言いだした。

驚いて目を見張るふたり。

 

50㎞と言えば、東京ー成田間、京都ー神戸間と同じくらいの距離である。

しかも彼女が言う感知範囲は、半径の話。範囲内に小さめの県がすっぽり収まる広さだ。

近隣哨戒で遠征に出向く範囲くらいなら、余裕でカバーできる。

 

 

「そ、それってホントなんですか!?

いくらなんでも、広すぎじゃないですか……!?」

 

「そう言われましても……わかるものはわかりますし……」

 

「はぁー……とんでもない話ですね……」

 

「だから私、動かないで任務できます……

提督がどうしてもとおっしゃるなら、出撃もしますけど……」

 

「あ、出撃もしてくれるんですね。

てっきり『めんどくさいから嫌だ』とおっしゃるかと思いました」

 

「一応私、今は艦娘ですので……

提督のご指示には、従いますよ……面倒くさいですけど……

……あ、でも、ひとつ条件を付けさせてもらってもよろしいですか……?」

 

「じょ、条件ですか?」

 

「はい……心の準備をしたいので、前日までには出撃があると教えてください……

動く気にならないと、まったく動けないので……」

 

「それは構いませんが……

動けない、というと、動く事に、なにかデメリットがあるんですか?」

 

 

どうやら彼女は、怠けたくて怠けているようではないらしい。

 

先ほどの索敵範囲の話から推測するに、彼女は強力過ぎるチカラを持っているせいで、恐ろしく燃費が悪いのだろう。

ただ動くだけでも、常人を遥かに超えるエネルギー消費があるに違いない。

 

そう考えると、こうしてずっと怠けているのも納得だ。

 

そのようなことを考えていると、その答えを彼女が口にする。

 

 

「いえ……別にデメリットとかはありません……

単純に、働く前には気持ちを切り替えたいだけです……

さっき提督が入ってくる前に心の準備してたのも、同じ理由です……」

 

「あっ……そうですか……」

 

 

思っていたよりも俗っぽい話だった。

連休最終日の夕方に、仕事のことを考え始めるようなものだろうか……

 

さっきノックした時にちょっとだけ待たされたのも、同じ理由とのこと。

気持ちは切り替えても、態度は切り替えなかったのが彼女らしい。

 

 

「提督だって、遊んでいる時と仕事の時は、気持ちを切り替えるでしょう……?」

 

「ま、まぁ、その通りですが……」

 

「そういうことで……事前に教えてください……

そうしていただければ、出撃もしますから……ふわぁ……」

 

「はぁ……わかりました……」

 

 

 

・・・

 

 

 

なんだか彼女の知られざる秘密が明らかになってしまった。

どんなレーダーでも敵わない索敵範囲とは、とんでもない性能だ。

 

しかしそれはあくまで性能面の話だ。

ここで彼女の嗜好や、此処に来る気になった理由をはっきりさせておく必要はある。

あの性能の艦が機嫌を損ね、元通り姫級となって敵に回るというのは、考えたくないものだ。

 

 

「条件付きとはいえ、作戦に協力していただけるということで、ありがとうございます。

……それで、何かここでやりたいこととかあります?

せっかく協力してくださるんですから、ある程度なら融通利かせますよ?」

 

「そうですね……ではひとつだけ……」

 

「はい。なんでしょう?」

 

「美味しいご飯をたくさん食べたいです」

 

「……ご飯……ですか?」

 

「はい……私がここに来たのって、北上さんに聞いた『サケの塩焼き』っていうの、食べてみたかったからですし……」

 

「……えっ!?

そ、そんな理由で深海棲艦やめちゃったんですか!?」

 

「もちろんそれだけじゃないです……

屋根がある建物なら、日差しを気にせず寝られるからとか……

腐れ縁のあの人が、着いてくって言ったからとか……

提督の技術や心意気が、人間にしては面白いと思ったからとか……

色々と考えているんですよ……?」

 

「そ、そうですか……」

 

 

色々と考えているとは言うが、明かしてくれた艦娘化の理由は、どれもこれもとっても些細なものだった。

 

こんなんで進路決めちゃうとか、彼女の将来が若干心配だなぁ……

 

 

「だからご飯が美味しければ、ずっと此処に居ます……

実際昨日食べた『サバの味噌煮』は、涙が出るくらい美味しかったし……」

 

「涙が出るほど!?サバの味噌煮ですよね!?」

 

「それはもう……いつも食べてた生魚と比べると、天と地ほどでした……

北上さんと大井さんが言ってた、味覚があるなら調理した方がいい、と言っていた意味、よくわかりました……」

 

「あぁ……そう言えばあのふたり、そんな話してたわよねぇ……

ていうか、あなた、生魚と料理比べるのは、流石にどうかと思うわよ?」

 

 

彼女と初めて接敵した際に、一連の会話を聞いていたらしき叢雲が、ツッコミを入れる。

あまりにも何とも言えない話の展開に、黙っていれられなくなったようだ。

 

確かに生魚と足柄さんの料理を比べること自体が、失礼なことだ。

いつも絶品の料理を提供してくれる彼女には、聞かせられない話である。

 

 

「しょうがないじゃないですか……

今まで食事と言えば、海水味の海産物だけだったんですから……

何よりもだらけるのが好きな私が、それと同じくらい気に入る趣味ができるなんて、思いませんでした……むにゃ……」

 

「そ、そうなんですか。

……まぁ、食事ということなら、足柄さんの腕前は一流です。

毎食楽しみにしていてくださいね」

 

「はい……それがある限り、裏切りません……ご安心を……」

 

「……忘れないようにします」

 

 

それがある限り、ということは、食事提供が無くなったら知らないよ、ということだろうか……

そんなこと起こらないだろうから、気にしなくてもいいだろうけど……

 

やっぱり彼女もアークロイヤルと同じで、深海棲艦側と人類側、どちらの立場でも構わない模様。

周りよりも自分の基準を優先するのはわかりやすいし、正しいと思う。

そんな素直な彼女たちは、しっかり手綱を握っていれば心配ないだろう。

 

……その手綱を握ってるのが自分じゃなかったら、安心できるんだけどなぁ……

 

 

「……それでは天城さんには、頻繁でない出撃任務と恒常的な索敵をお願いすることになると思います。

ご飯はちゃんと足柄さんが作ってくれますので、食堂で毎食食べていただいて構いません。

……こんなところでよろしいでしょうか?」

 

「ええ……問題ないです……

……あ、食事を部屋に運んでもらうというのは……」

 

「さすがにそれは足柄さんに申し訳ないので、ダメです。

それに、食事の時は食堂で、しっかりした体勢で食べてください。作ってくれた人に悪いですから」

 

「むー……それは……その通りですね……」

 

「魚料理を敬意をもって食べないと、アークロイヤルさんに怒られちゃいますよ?」

 

「あー……あの人、お魚大好きですもんね……

あ、そうだ……あとひとつ……私、結構量を食べますから、それを考慮してくださると、助かります……」

 

「あぁ、確かに正規空母の皆さんは、よく食べますもんね」

 

 

彼の脳裏に、今まで関わってきた空母の面々が思い浮かぶ。

 

 

普通サイズのお茶碗で、10回以上お替りしていた佐世保の赤城。

ラーメンどんぶりに、これでもかというほど大盛りによそっていた横須賀の二航戦。

みんなと同じ量だけ食べ、あとでこっそりおかわりしていたトラックの翔鶴。

 

 

どの正規空母も例外なく大食漢だった。

戦艦もスゴイが、正規空母もスゴイ。これが彼の持っている印象である。

 

 

……しかしそんな彼の予想を覆す一言が、彼女の口から漏れる。

 

 

「? 何言ってるんですか……?

今の私は巡洋戦艦ですよ……?」

 

「……ん?」

 

「天城型1番艦 巡洋戦艦『天城』ですよ……?」

 

「え……?」

 

 

彼女の口から飛び出した言葉は、ふたりを硬直させるのには十分なものだった。

 

 

 

 

 

 




実は一航戦の青い方に収まるのは、彼女の予定だったようです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。