艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

69 / 185
提督の暴走その2


前回の続き。
この鎮守府は一体どこへ向かってしまうんでしょうか?




第69話

(へーい!てーとくー!

わたしたちのこと、みにきてくれたのー!?)

 

 

「おお、そうだぞ!現場視察は重要な仕事だからな!

それにしても、随分と早い仕事じゃないか!」

 

 

(てーとくのきたいにこたえるために、みんなでがんばったよー!)

 

(ひええー! さすがおねーさまですっ!!

すばらしいりーだーしっぷをはっきしてましたー!)

 

(わたしもがんばりました!だいじょうぶですっ!)

 

(けいさんいじょうのはたらきをしました!)

 

 

「ハハハッ!ありがとうな!

お前たちが来てくれて本当に良かったよ!俺は幸せ者だッ!!」

 

 

なでなで……

 

 

(あぁ^~……だめになりま-す……)

 

(ひ、ひえぇー!! おねーさまがいちげきでっ!)

 

(わたしも!わたしもなでてくださいっ!)

 

(こ、ここはぜんいんなでていただくのが、じょうさくかと!)

 

 

「もちろんだぞ、お前たち!全員で頑張ったんだもんなっ!

よーしよしよし!かわいい奴らめっ!!」

 

 

なでなで……

 

 

((( あぁ^~…… )))

 

 

 

 

 

「「「 …… 」」」

 

 

……現在鎮守府一行は、生け簀と農地を後にし、艦娘寮(旅館)までやってきていた。

近いうちに自分たちの住まいになる建物なのだが、今朝見た時から結構な変化がみられる。

 

 

 

まず旅館の隣に土倉ができている。

随分と古風な装いのその土倉は、先ほど提督が説明していた『発酵小屋』なのだろう。

畑で栽培した大豆と、浄水器から出てくる海水塩で、味噌を作るつもりのようだ。

 

開いている扉から中を覗くと、地面よりも下に階段が伸びている。

どうやら半分地下の建物のようだ。

 

その中では妖精さんたちが、せっせと配管を魔法のように伸ばしている。

まるでゴムを引っ張るかのように配管を引っ張ると、配管はその分だけ伸びる。

そして妖精さんが壁に、伸びた配管をぺたっと張り付けると、元の塩ビパイプに戻るといった具合。

うにょ~ん、ぺたっ、と言った効果音が出ていそうな作業だ。

 

質量保存の法則なんてどこ吹く風な光景だが、自身たちも質量保存の法則をガン無視した生まれ方をしている手前、強くは口に出せない一行である。

 

 

 

さらに最上階の部分が、心なしか上に伸びている。

これは先ほど言っていた、養蚕部屋とかいうのを造った関係だろう。

提督はこちらに向かいながら『天井裏に養蚕部屋は基本』とか話していたので、間違いないはずだ。

 

提督はここで採れた生糸を使って色々企んでいるようだが、一体どうするつもりなのだろうか?

生糸を取る時に出てくる、カイコ本体のサナギは、養殖予定の渓流魚の餌とするつもりのようだが。

 

 

 

そして最後に目を引いたのはプール。

旅館と海の間に、見事な楕円ドーナツ状のプールが、ほぼ完成している。

 

水深はほどほどで、駆逐艦が遊ぶのにギリギリと言ったところ。

艦娘の身体能力でどうにかなることはないだろうし、ここに居る駆逐艦3名は皆そこそこ身長があるので、心配は杞憂なのだろうが。

 

プールの中央、ドーナツの穴にあたる部分では、妖精さんたちがヤシの木を植樹(トトロ式)したり、どっかから持ってきたビーチパラソルやビーチチェアをセッティングしたりしている。

 

 

 

……妖精さんが散って行ってからまだ1時間も経っていないというのに、仕事早すぎではないだろうか……

 

 

「うむ!素晴らしい仕事だ!

4人には現場リーダー報酬として、マシュマロとは別にチョコレートもあげるからな!ティータイムのお茶うけにでもしてくれ!」

 

 

(ありがとうございまーす!てーとくー!)

 

 

「よいよい……が、時に英国妖精さん。

あのプールの原水は、旅館の上水から引っ張ってくるものにしてあるんだよな?」

 

 

(いっえーす!ざっつらいとねー!)

 

 

「そしたら流量はあまりないよな……よし!決めたぞ!

あのプールはただのプールではなく、『流れるプール』としよう!

流量変化モーターを増設したいんだが、できるか!?」

 

 

(さすがてーとくねー!おふこーすよー!

ほとんどしごともおわってたし、ちょうどいいねー!!)

 

 

「そちらこそ流石だな!ありがとうな!

……そうだ!い~いことを思いついたぞッ!!」

 

 

((( ??? )))

 

 

「キミたちには日ごろからお世話になりっぱなしだし、ひとつプレゼントをしようじゃないか!

整地中の畑に、茶畑も造ってしまおう!

桑畑の隣に若干スペースがあったし、冷水を漏水チューブで送り出せば、この高温の土地でも問題なく育成させられるはずだッ!!

鎮守府特製茶葉を使った「緑茶」!「烏龍茶」!「紅茶」!!

これも作ろうじゃないかぁっ!!」

 

 

((( !!! )))

 

 

「増設してもらった養蚕部屋で茶葉発酵は出来るだろうし、全部作るぞ!

そうと決まれば増養殖・農耕班のみんなに連絡だ!!」

 

 

ピピピッ……ツー、ポピッ(トランシーバーの連絡音)

 

 

「……あ~、もしもし……?

そちらは順調か?……順調?いよしっ!

それでひとつやってもらいたいことが……かくかくしかじかで……

ホントか!ありがとう!……フム、では何かあったら気軽にかけてくるんだぞ?

……ではな!」

 

 

ポピッ

 

 

「喜べお前たち!茶畑の増設は問題ないそうだ!

これで自分たちで育てた茶葉でティータイムという、ステキ体験ができるぞッ!」

 

 

(てーとくー!いっしょうついていきまーすっ!!

もうはなさないよー!!)

 

(ひええぇーーー!!

わたしたちのためにそこまで……かんどうしましたっ!)

 

(こんなにしていただいちゃって、わたしはもう、だいじょうぶじゃないですっ……!

あいしてますー!!)

 

(あなたにつくっていただいたちゃばたけ……ぜったいにまもりぬきますっ!

さすがはしれい!けいさんいじょうのかたですねっ!!)

 

 

ガシイッ!!

 

 

「ハハハ!よせよせお前ら!動けないだろう!?ハハハ!」

 

 

なでなで……

 

 

喜びのあまり、笑顔120%で提督に抱き着く英国妖精シスターズ。

それを笑いながら撫で繰り回している提督。

 

 

鎮守府に造られたプールの前で、妖精さんと戯れる提督、という奇妙な絵面。

 

それを見ている真面目な面々は、自分でもどう反応していいのか、よくわからなくなっちゃっている。

 

 

「スゴイよ大井っち!まるで南国リゾートみたいじゃん!?

テンション上がるわ~!」

 

「完成したら一緒にあのビーチチェアで、トロピカルドリンク飲みましょうねっ!北上さぁん!!」

 

「ねぇねぇ!ここが水でいっぱいになって泳げるの!?

しかも流れるプールってどんな感じだろう!?ワクワクするかも~!!」

 

「おい龍田!お前が通販で買ってた水着、役に立つんじゃねぇか?

給料の使い道ないし、南の島だから使うかも、って買ってたやつ!」

 

「うふふ~ そうね~。

ここが完成したら一緒に着ようね~、天龍ちゃん」

 

「フフフ……!これはチャンスじゃ!

鯉住殿と、ひと夏のアバンチュールを満喫するのじゃ!

楽しみじゃのう!」

 

「ここは年中暑いみたいだから、ひと夏ってのは変だけど、子日も楽しみだよっ!

また鯉住さんと遊べると思うと、ワクワクするねっ!」

 

「聞いた!?飛鷹!!流れるプールだってさ!

プールサイドで呑む酒ってのも、オツなもんじゃないかい!?

私まで楽しみになってきたよ!今度遊びに来たいね~!!」

 

「隼鷹……アンタってやつは……

この目の前の異次元空間を見ても、そんな感想が出てくるって……」

 

 

真面目組に対して、マイペース組はいつも通りな模様。

 

 

「なんていうか……高雄さん……

鯉住少佐に撫でられてとろけた顔をしている、あの妖精さんを見ていると、榛名、恥ずかしくなっちゃいます……」

 

「あ、あぁ……そうね……

あの子、榛名にそっくりの格好しているものね……」

 

「比叡お姉さまや霧島にそっくりな妖精さん達もいるし……

ちょっと羨ましいです……」

 

「なんて言っていいかわからないけど……

あの子たちは幸せそうだし、見守ってあげればいいんじゃないかしら……」

 

「はい……」

 

 

 

・・・

 

 

 

「さぁ、次は水族館だ!

と言っても、あまりに大規模にすると食料確保が困難になるため、小規模なものとするようにした!

まぁ、大きめの熱帯魚ショップのような感覚だな!

淡水魚限定にしようと思っているし、その表現は間違いじゃないだろう!」

 

「ねぇ提督、ひとつ聞きたいんだけど、いいかしら?」

 

「ん? どうしたんだ?足柄さん」

 

 

何か聞きたいことがあるらしく、足柄が手を挙げる。

 

 

「なんで淡水魚限定なのかしら?

海水魚もいれば、鯛とかブリとか、食用魚の生け簀としても使えると思ったのに」

 

「あぁ、それはその通りだな。期待に応えられなくてすまん。

今言ったように、餌の関係で淡水か海水のどちらかしか選べなかったんだ。

本当はどちらも揃えたものを造りたかったんだが、あまり飼料の購入はしたくなかったからな」

 

「それはさっき、生け簀を案内してくれた時に言ってたわよね。

それじゃどうして淡水魚にしたの?」

 

「理由はふたつあってな。

ひとつは、せっかく温度の低い淡水が利用できるんなら、利用しない手はないと思ったからだ。

普通にここで魚を飼おうと思ったら、海水直引きか、水道水を真水に変換して利用するしかない。

それで飼育できるのは、水温の関係で、淡水海水関わらず熱帯魚のみだ」

 

「まぁ、それはそうよね」

 

「……しかし今回は冷水が利用できるときた。しかも淡水。

ならば多種多様な温度帯の魚種の展示を行える、淡水魚を選ぶしかないと思ったわけだ」

 

「うん。そう言われれば、その通りね。

元々食用魚のための施設じゃないみたいだし、理にかなってるわ」

 

「わかってくれてありがとう、足柄さん」

 

「それで、もう一つの理由って何なのかしら?」

 

「ああ、それはアークロイヤルのためだ。

彼女が今までに見たことのない魚を、その生態含めて見せてやりたい。

海水魚はかなり見て回ったようだけど、反面、淡水魚のことはよく知らなかったから」

 

「Admiralッ……!!

貴方は……貴方という人はッッッ……!!!」

 

「安心しろよ、アークロイヤル。

キミが大好きな魚を、その生態まで見られるようなレイアウトにする。

もちろん自家繁殖も狙っていけるような環境だ。

世界中から、美しく、たくましく、惚れてしまうような魚を集める。

魚が好きなのは、キミひとりじゃない!絶対に満足させてやるからなっ!」

 

「……ッッッ!!……う、うぅっ……!!」

 

 

感動のあまり泣き出すアークロイヤル。

提督どころか総員の前だというのに、プライドの高い彼女は膝を地に着き、顔に両手をかぶせて泣いている。

 

このように誰かが、自身の心を理解し、多大な労力をかけてまで尽くしてくれたのは、彼女にとって生まれて初めての体験だった。

 

人類や艦娘との戦いに明け暮れ、部下とは上下関係しかなく、常に孤高。

たったひとりの友人である空母棲姫(現天城)は、そのような心遣いとは無縁な存在。

 

自身のプライドと同じくらい大事なものに触れ、感情が抑えられなくなってしまったのだ。

実に感動的な瞬間である。

 

 

「提督アナタ……夕張ちゃんや初春ちゃん、叢雲ちゃんの前でそんな……」

 

 

一方呆れ顔の足柄である。

 

彼女が口に出した面々は、それぞれの理由で心ここにあらず状態である。

彼にとっては不幸中の幸いだろう。

 

 

「あー……提督は、女泣かせな方なんですねぇ……むにゃ……

この人とは長い付き合いですが……プライドの高い彼女がこんなになるの、初めて見ました……ふわぁ……」

 

「あ、あの……天城さん……彼女、大丈夫なんでしょうか……

なんだかすごく取り乱しちゃってますけど……」

 

「……? あぁ……昨日お話を聞いてた方……ええと、お名前は……?」

 

「あ、失礼いたしました……高雄と言います」

 

「高雄さんですね……ふわぁ……

貴女が聞きたいのは……私達がまた、人類の敵になるかどうか……ですよね?」

 

「えっ!? な、なんでそれが分かったのですか!?」

 

「なんとなく、ですよ……そういった心の気配を掴むのは、苦手じゃないですし……むにゃ……」

 

「で、では……」

 

「安心してください……彼女も私も、提督の元でなら、満足した生活が送れると分かっていますから……

彼が私達を見放さない限り、そのようなことにはなりませんよ……ふわぁ……

人の良い提督が、私達を見捨てるなど、ないでしょうし……むにゃ……」

 

「そ、そうですか……それは、何よりです……」

 

 

高雄は確信した。

 

このふたりは鯉住少佐に預けているウチは極めて安全だが、その状態が強制終了された時、何かひどいことが起こるのだろうということを。

 

もし彼女たちの希少性ゆえに、大本営や諸外国あたりが藪をつついたら、蛇どころではない、もっとおぞましいものが出てくることになるだろうということを。

 

やっぱり彼女たちは、此処に置いておく以外に方法は無いのね……

鯉住少佐には申し訳ないけど、頑張ってもらうしかないわ……

 

遠い目をして、現実を受け入れる高雄である。

 

 

「泣くな泣くな。嬉しいのはわかるけどな。

妖精さん達には、水温帯と生息域によって、飼育環境を細分化するように言ってあるんだ。

細かい手入れや世話は、魚に詳しい俺たちにしかできない。

キミのこと、頼りにしているんだ。ここからが本番だぞ!」

 

「そう……そうね……!

わかったわ!Admiral!!貴方の信頼に120%応えて見せるわっ!!

そのためなら、貴方のためになら……!!私はこの命までも捧げましょう!」

 

「そんなこと言うもんじゃない!

キミが無事でいてくれれば、それ以上はなにも望まないさ!」

 

「Admiralッ……!!」

 

 

ガシイッ!!

 

 

熱い抱擁を交わすふたり。

そしてそれをジト目で見る一同。

 

なんで「一緒に魚の世話しようね」というだけの話で、こんな大袈裟なことにならなければならないのだろうか……?

 

 

「ね~、大井っち。リミッターが吹っ飛んだ提督、ヤバくない?」

 

「そうですね、北上さん。非常に不愉快です」

 

「だよね~。

ケッコン相手の私達の目の前で、昨日加入したばっかの相手とイチャイチャするなんてね~。

大井っち的には罪状は?」

 

「終身刑です」

 

「ノータイムでそれかぁ……激おこってレベルじゃないね、こりゃ……」

 

 

大井の後ろからはヤバいオーラが見えている。

普段は提督にそっけない態度の彼女だが、思うところはあるようだ。

 

 

「なんということじゃ……!!

鯉住殿が異国の女にたぶらかされるとは……!!」

 

「まぁまぁ、初春ちゃん。

そっとしておいてあげてください。今の彼は普通じゃないですから」

 

「……明石、お主、随分と落ち着いておるのう……

一体何を知っておるのじゃ!?」

 

「呉第1のメンテ班のみんなは知ってるんですけどね。

鯉住くんの今の状態は『修羅場モード』です」

 

 

 

「「「 『修羅場モード』……??? 」」」

 

 

何か知っているであろう明石の言葉を聞き、思うところがある面々は、ふたりの会話に参加する。

 

 

「はい。といっても、メンテ班のみんながそう呼んでるだけですが。

大規模作戦でウチ……呉第1鎮守府が本拠地に選ばれる時がありまして、

その時は、ものすっっっっごく、仕事が大変になるんです。

呉鎮守府は第1から第10まであるんですが、そこに所属しているすべての作戦参加艦娘が、ウチにメンテ依頼をだしてくるんですよ?

いくら応援が来るとはいえ、そりゃもう修羅場も修羅場ですよ。

で、そんな中、理性を抑えるエネルギーすらもったいない!全力で仕事しないと間に合わない!ってなった時、鯉住くんはあのモードになります。

よく言う、『火事場の馬鹿力』ですね!」

 

「まぁ、大規模作戦の大変さは知っとるが……

技術班はそんなに大変じゃったのか。

わらわたちは後方支援が主じゃったから、あまりそちらには詳しくなくてのう」

 

「まぁ、そこは分業ですので、致し方ないかと。

……で、ですね。

鯉住くんと私で、トップ2を担わせていただいていたので、期待の高さに比例して、負担もそれなりに多かったんですよ。

例えば戦艦艦娘の中破艤装を、一晩で直したりとか」

 

「な……ひ、一晩!?

榛名たちの鎮守府では、戦艦の艤装が中破したら、3日ほどは修復に時間がかかりますよ!?」

 

 

・・・

 

 

実は艦娘の艤装は、大破よりも中破の方が修復に時間がかかる。

何故かと言えば、大破した艤装はパーツの修復が不可能なため、総交換という扱いになり、そこまで修復に時間がかからないからだ。

むしろ中途半端にパーツの修復が可能な中破の方が、メンテ技師としては重労働だといえる。

ギリギリ使える壊れ具合のパーツを、ひとつひとつ修復しなければならないからだ。

 

ちなみに当然、制服艤装(バリア)の修復と、大破艦娘の肉体部分の修復は、被害が大きい方が時間がかかる。

これには高速修復材(バケツ)が使えるため、大破艦娘のあまりの入渠時間の長さと、肉体損傷の一刻も早い回復の観点から、バケツ使用が推奨されている。

今回の照月のように、肉体損傷は命にかかわるため、入渠を極力早く済ませるためだ。

 

そのため艦娘が入渠を終えても、艤装はまだ直っていないという状況は、ざらにあることだ。

そうなればもちろん出撃はできない。

ラバウル第1基地の主力である戦艦『長門』は、この待っている時間が一番苦手だったりする。

 

さらに捕捉として、この世界では大破まで至る状況には、ほとんど遭遇しない。

大破=バリア部分の機能消失のため、大破した状態で次に何か攻撃を喰らえば、高確率で絶命してしまう。

そのような状況にならないための羅針盤であり、そのような状況になった時点で、轟沈はすぐ目の前だ。

つまり羅針盤に従っている以上、大破にまで追い込まれることはほぼ皆無なうえ、もし大破しても、何とか勝利、帰投できる状況以上にはならないということが言える。

 

 

・・・

 

 

「ホントですよ、榛名さん。

彼はホントの本気になれば、妖精さんたちと連携して、恐ろしい速さで仕事をすることができます。

それこそ、工作艦である私と同じくらいにはね」

 

「嘘……人間が工作艦と同じくらいだなんて……そんな……」

 

「まぁ普通は信じられませんよね。

だって工作艦って、艦の機能ひとつ分の仕事ができますからね。

だから鯉住くんの本気……『修羅場モード』は、艦ひとつ分くらいの能力があるといえます」

 

「鯉住少佐はメンテが得意って聞いてましたが、そこまで……!!」

 

「ふふっ!本気の私とタッグ組めるのは彼だけですからねっ!!

私、自分で言うのもなんですが、明石の中でもかなり高い能力がありまして、結構な孤独感があったんですよね~。

ほら、強者の孤独ってやつですかね?

そんな中、まさか人間である鯉住くんから、ライバル宣言されるとは思わなくってぇ!

一緒に切磋琢磨してたら、いつの間にか好きになっちゃってましてぇ!

うふふっ!」

 

 

「「「 …… 」」」

 

 

いつの間にか惚気話になっていた明石の説明を聞き、顔をしかめる面々。

 

 

「あ、そうそう!

それで彼、ストレスがかかり過ぎたり、忙しくなりすぎたりすると、修羅場モードになるんですよ!

そうなるともう、ご覧の有様ですね!

普段から私達、艦娘のことを大切に想ってくれてるのが、ダダ洩れになりますので、ところかまわず無自覚に口説きまくるナンパマシーンと化します!!

一時期それで伊勢さんが、大変なことになってましたから!」

 

「あー……そういえば伊勢殿が、なんだかおかしくなっとった時期があったのう」

 

「子日も覚えてるなぁ。なんだかいつもそわそわしてたよねっ」

 

 

「「「 …… 」」」

 

 

ギルティ……

 

 

「そういうワケなので皆さん!

今の鯉住くんのことは、大目に見てあげてください。

何が原因であんなになったのかはよくわかりませんが、放っておけば勝手に元に戻りますから」

 

 

「「「 はぁ…… 」」」

 

 

そう言われてもなぁ……

 

どうしていいのやらわからず、そんなことを考える面々であった。

 

 

 

・・・

 

 

 

提督による鎮守府大改造ツアーを終え、元の波止場まで戻ってきた一同。

 

製塩小屋については、さらっと見て終えることになった。

目の前で噴水を造っている浄水器から、ベルトが伸びていることくらいしか、特出すべき事柄は無いからだ。

基本的には小さな作業小屋で、ベルトで送られてきた塩を一時保管する容器と、それを詰めるビニール袋入れくらいしかなかった。

 

ちなみに、案内している間に提督のトランシーバーには何度か連絡があり、彼はそこで相談された案件を見事に解決しているようだった。

普段の指揮とは比べ物にならないほどの即断即決であり、みなぎる自信が強い説得力をもたらしていた。

普段からこれならなぁ……と思うメンバーがちらほらいたくらいだ。

 

 

「おしっ!それじゃみんな!

これで説明は終了っ!!何か質問がある者はいるかー!?」

 

「は~い。提督ー」

 

「ハイ北上!」

 

「あのさ、なんかすんごい勢いで色々造ってるけど、完成はどのくらいを目安にしてるの?」

 

「完成の目安? 当然今日中だろ!鉄は熱いうちに打て、ってな!」

 

「あ~……やっぱりそうなんだあ……

そのくらいのペースだと思ったよ……」

 

「北上はプールを見て楽しそうにしてたよな?

明日から多分入れるようになるぞ!よかったな!」

 

「まあね。でも残念だけど水着がないんだよね~

提督に水着姿を見せて、悩殺してやろうと思ってたのにな~。残念だわ~」

 

「そうか。俺も北上の水着見るの、楽しみにしてたんだけどな。

それなら仕方ないな!ハハハッ!」

 

「えっ……ふ、ふ~ん?そ~お?」

 

 

からかおうとしてニヤニヤしていた北上だったが、よくわからないカウンターを喰らって、逆にドッキリさせられてしまった。

 

 

「提督。北上さんにセクハラとか最低ですよ」

 

「あぁ、すまんな大井、キミが大事に思ってる北上だもんな。

でも俺はっ!キミと一緒にプール入るのも楽しみだぞっ!

北上も一緒なら、普段ほとんど見られない、キミの眩しい笑顔が見られるからな!

俺ひとりじゃ引き出せない美人の笑顔だ!それだけで1か月は頑張れるってもんだよ!!ハハハッ!」

 

「ちょ……何言って……!!誰が美人……!!

や、やめなさいよっ!こんな大勢の前でっ!!」

 

「大井ほどの美人、どこ探したって早々いないぞ!

ホントのことさっ!!ハハハッ!」

 

「~~~~~ッッ!!」

 

 

「「「 …… 」」」

 

 

明石が言ってたナンパマシーンという言葉が、一斉に頭によぎる面々。

 

そんな部下とゲストたちを全く意に介さず、話を続ける鯉住くん。

 

 

「そうだ!妖精さんにあげる報酬を用意せねば!!

ではそういうことで俺は本部を離れるから、キミたちも解散していいぞ!

手伝ってくれると言っていたみんなは、そうだな……」

 

「天龍龍田姉妹は、これから必要になるだろうトラクターやスプレッダー、コンバインの運転ができるよう、練習してみてくれ!

機械はもう妖精さんが造ってくれたはずだ!

操縦なんて初めての経験だろうから、動かすことを楽しんでくれればいい!

ただしケガだけは絶対しないように!」

 

「初春と子日は旅館の土倉と天井裏のレイアウトを頼む!

細かい指示は妖精さんに出してあるから、大枠は問題ないが、配置のセンスなどが必要だからな!

実際に働いてもらうこともあるかもしれないし、現場になれておくのは必要だろう!」

 

「アークロイヤルは言わずもがな、水族館で水槽レイアウトを頼む!

まだ淡水魚についてはよくわからないだろうから、俺がプレゼントした図鑑で勉強しながらでいい!

とにかく空気に慣れてくれればいいからな!」

 

「……こんなところだろう!

各班には手伝いの連絡を入れておくから、手伝い組は班長のジェスチャーに従うようにっ!!

それでは!解散ッ!!」

 

 

「「「 はい…… 」」」

 

「「「 ハッ!! 」」」

 

 

げんなりしている組とやる気満々組に分かれて返事する一行。

その反応を背に、食堂までお菓子を取りに行く鯉住君。

 

こうして鎮守府大改造・弾丸ツアーは幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

余談

 

 

 

結局あれから5時間後、本当に全ての施設が工事完了した。

 

魚は揃えられなかったが、何故か妖精さんパワーにより、作物は畑に生い茂ることになった。

(トトロ式。両手を合わせてグーンと背伸びすると、芽が出てくるやつ)

 

天龍龍田は謎の要領の良さを発揮し、農業用機械の運転が一通りできるようになった。

 

初春子日姉妹により、養蚕部屋と土倉は使い勝手の良いレイアウトに仕上がった。

 

アークロイヤルは次の日の朝までぶっ続けで水族館を隅々まで把握し、貰った図鑑で勉強を進め、実に機能的な水槽レイアウトを実現させた。

 

肝心の提督である鯉住君は、工事が完了したあと、妖精さんのMVPを各班ごとに決め、報酬の金平糖、マシュマロ、特別報酬のチョコレートを配布し終えた瞬間、糸が切れた人形のように倒れこんだ。

 

その後は妖精さんたちがキャタピラのようになり、バケツリレー方式で自室のベッドまで運ばれることとなったそうな。

 

 

 

 

 




彼は『止まるんじゃねぇぞ……』みたいなポーズで倒れこんだようです。

エネルギーがすっからかんになったんだね。仕方ないね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。