艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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この世界では世界中に艦娘がいる設定です。
今までに活躍した船なら、みんな艦娘として顕現している、
と思っていただければ間違いありません。

だからイギリス、フランス、アメリカ、ドイツなどなど、海戦を行っていた先進国は、
軒並み強力な武力を有しているということになります。

まあそれでも対深海棲艦でしか基本的に艦娘は動いてくれないので、
帝国主義の食うか食われるかみたいな時代に戻ったりはしないんですけどね。

この世界はゲーム世界とは結構違うとこがありますので、
「ここではそうなんだふーん」くらいの気持ちで読んでくださるとうれしいです。


第7話

人生ゲームをひとしきり楽しんだところで、

俺への質問タイムということになった。

ま、大したことは話せないけど、楽しんでもらえるよう頑張りましょうかね。

 

初霜「はい!鯉住さん!」

 

シュッ!

 

初霜さんが元気よく手を上げる。学級会かな?

 

鯉住「はい、初霜さん」

 

初霜「なんで妖精さんと話せるようになったんですか?」

 

おおう、いきなりか。

俺にもよくわかんないんだよなぁ……

 

鯉住「う~ん、そうだねえ。実は自分でもよくわかんないんだよ。

最初にこいつらが現れた時には、もう普通に話せてたから……

むしろ初霜さんたちは、話すことができないの?やってみたりした?」

 

初霜「はい。何度か話してみたんですけど、

妖精さんの声は聞こえないのよ……」

 

子日「艦娘はみんなそうだよ!

なんとなくジェスチャーで言いたいことはわかるんだけど……」

 

初春「それでも行動に支障がないから、みんなそこまで意識してないのう」

 

鯉住「そうなんですね……それじゃ試しに聞いてみますか?

なんでこいつらが艦娘と話さないか」

 

若葉「……それは興味深いな」

 

鯉住「ですよね。

なあ、何でお前ら艦娘の皆さんと話さないの?」

 

(はなしかけてはいます)

 

(でもつうじない)

 

(とてもふべん)

 

鯉住「ああ、そうなんだ」

 

初霜「なになに!?なんて言ってたの!?」

 

鯉住「こいつらも艦娘の皆さんに話しかけてるみたい。

だけど通じないんだってさ。不便だって言ってるよ」

 

初春「は~。そうじゃったのか。

わらわはてっきり、やりたいように自由にやっておると思っておったぞ」

 

初霜「私もよ」

 

若葉「……何とかしたいな」

 

鯉住「だよねえ。お互い不便だってことだし。

なぁ、どうにかならないか?」

 

(できるならやってる)

 

(なんとかして)

 

(やくめでしょ?)

 

鯉住「相変わらず口悪いな!いつから俺が何とかすることになったんだよ!」

 

初春「まあ、どうしていいかわからんものは仕方ない。

先ほど貴様の方から言ってくれたことだが、

妖精さんの方から言伝があるようなら、教えて欲しい。

頼りにしておるぞ?」

 

鯉住「え、ええ。それくらいならお任せください」

 

初春「ふふっ。あ、そうじゃ。わらわも聞きたいことがある」

 

鯉住「ん?なんでしょう?」

 

初春「なんで貴様は、艦娘の艤装を直す仕事を選んだのじゃ?

鎮守府はある意味前線基地にあたるから、普通に働くよりも危険じゃろうに」

 

この仕事を選んだ理由か。そりゃもちろん……

 

子日「子日は鯉住さんに艤装見てもらえて嬉しいよぉ!

前の鎮守府にいた時より、艤装の調子がいいの!」

 

答えようとしたら子日さんに割り込まれてしまった。

まあ小学生だしね。そんなこともあろう。

でもそれをやりすぎると、嫌われちゃうからね。後でやんわり注意しておこう。

 

初霜「ああ、そう言えば、子日姉さんは異動してきたんだっけ」

 

子日「うん。そうだよ。前にいたところは大湊だよ!」

 

鯉住「大湊って言うと……青森か。

ずいぶん遠くから来たんだねぇ」

 

子日「あっちはすごい寒かったから、呉の天気はとっても過ごしやすいよ!」

 

鯉住「そうだねぇ。こっちはいい天気の日が多いし、雪もそんなにないから……」

 

若葉「……というか子日姉さん。艤装の調子がいいというのは本当か?」

 

子日「え?うん。全然違うかなぁ。

鯉住さんのメンテしてくれた艤装を担ぐと、すごく滑らかに動かせるから。

あっちでもメンテはしっかりやってくれてたんだけど、

鯉住さんが見てくれてる今よりも、全然動かしづらかったよ?」

 

初春「ふむ。それは興味深いの。

子日以外は皆呉生まれじゃから、比べるものがないのじゃ」

 

若葉「……もしやこの鎮守府の遠征成功率が高いのは、そのおかげなのか?」

 

初霜「それが本当ならすごいことよ!

鯉住さんは私達の艤装をメンテナンスする才能があるんじゃないかしら?」

 

鯉住「いやあ、そんな才能なんてないと思いますよ……?

ただメンテ自体は、いくら疲れてても真剣にやるようにしてます。

鎮守府で一番頑張ってる駆逐艦の皆さんが、無事に帰れるように、って思いながら」

 

4人「……え?」

 

あ、あれ?なんかみんなキョトンとした顔でこっち見てるぞ?

俺変なこと言ったか!?言ってないよな?

そこんとこどうなのさ?妖精さん!

 

グッ

 

3人揃ってドヤ顔でサムズアップしてんじゃないよ!

それだけじゃ俺にはなんも伝わらんの!

肝心な時に喋らないのな!お前ら!

 

若葉「……そうか……ありがとう」

 

鯉住「え……?い、いや、お礼を言うのはこちらの方ですよ」

 

子日「駆逐艦の私達にそんなこと言ってくれるの、鯉住さんくらいだよぉ」

 

鯉住「え゛っ!?そ、そうなの!?なんで!?」

 

初霜「えっとね。その、鯉住さん。

ここ以外の鎮守府って行ったことある?もしくは話を聞いたこと」

 

鯉住「えっ?……そういえばないなぁ。

研修もここで受けたし、異動もしたことないし」

 

初霜「だったら知らないと思うけど、

私達駆逐艦はね、他の艦種より下に見られることが多いの」

 

鯉住「い、いやいや、それこそわからないんだけど……

駆逐艦の皆さんがいなかったら、遠征任務うまくいかないじゃない。

立派なお仕事だと思うんだけど……」

 

初春「その遠征任務自体が問題でな。

遠征で、わらわたちがどんなことをしているか、知っておるか?」

 

鯉住「ええと、半日くらいで終わるっていうことくらいしか知らないですね」

 

初春「うむ。まあそのくらいでこなす任務が多いな。

近海の哨戒、警備、船団護衛などを中心に行っておる」

 

鯉住「護衛……ああ、それで艤装が傷ついてくることが多いんですね」

 

初春「そう。そうなんじゃ。それが大きな問題なんじゃよ」

 

鯉住「?」

 

初春「駆逐艦が遠征任務に適しておるのは、燃費がいいからじゃ。

しかし、遠征のたびに傷ついていては、修理にかかる時間と資材を消費してしまう。

それはわらわたち自身のカラダもそうじゃし、艤装についてもそうじゃ。

 

だから護衛中に強敵が現れて、いい勝負になってしまった時なんかは、

遠征で得られる資材と消費する資材で、トントンになってしまうこともあるんじゃよ。

最悪戦闘から撤退して、獲得資材無し、遠征失敗。そうなると赤字じゃな」

 

鯉住「あー、そりゃそうか……いつも本当に大変なんですね」

 

子日「うん。だからここ以外の鎮守府では、駆逐艦は鎮守府周りの哨戒ばかりで、

それ以外の遠征は軽巡以上の艦種がやるのが普通なの。

子日も駆逐艦が余ってるってことで、こっちに異動になったんだよぉ」

 

若葉「……駆逐艦は数が多く、戦艦などと比べられれば、とても戦闘向きとは言えない。

だから立場としては、他の艦種よりも弱くなってしまうのだ」

 

鯉住「……うーん、言ってることはわかるんだけど、複雑な気分……

やっぱり駆逐艦の皆さん担当としては、それは納得できないなぁ……

あ、でもあれでしょ?駆逐艦の皆さんが活躍できる場所だってあるんでしょ?」

 

初春「うーむ、実のところな。

ひっっじょーに限られた海域では、駆逐艦でないと攻略できないような場所もある。

海流と岩礁が激しすぎて、小回りの利く駆逐艦でないと、敵が少ないルートを通れないのじゃ」

 

若葉「……しかしそれはあくまで特例。

他の海域では、駆逐艦以外で艦隊を揃えたほうが、当然勝率は上がる」

 

うむむ……どうにも聞いていて辛いぞ……

いくら他の艦種よりも戦闘向きじゃないし、遠征も厳しいし、って言っても、

毎日頑張って深海棲艦と戦ってるのは事実なんだ。

それに対する評価が、いてもいなくてもいい、みたいなものじゃ、あんまりだろ。

俺だったらそんな職場3日でやめる自信がある。

 

なにか彼女たちの良さが活かせるところはないか……なにか……

 

鯉住「……あっ!ほ、ほら、でもさ。駆逐艦の皆さんは数が多いんでしょ?

それなら安全圏の鎮守府にたくさん配備することができれば、

より近海は安全になるんじゃないの?

いくらなんでもそんな近場に、強力な深海棲艦は出ないでしょ!」

 

初春「それはその通りじゃし、実際現状はそのような配備になっておる。

しかしそれはつまり、駆逐艦が他の艦種に勝る部分は数のみ、ということになる。

前線基地で駆逐艦が不要、という認識は変えられまい」

 

鯉住「あ―……そうなるか……

それじゃダメなんだよなぁ……もっといいところ……活躍できる場所……」

 

誰かの劣化なんて思って生きてるんじゃダメだ……

そんなの生きてて辛いだけじゃないか。

俺達を守ってくれてる彼女たちには、もっと輝いていてもらいたい。

何かないかなぁ……あぁ、考えようにも材料が足りない……

何かいい知恵ないすか?妖精さん?

 

(ていとくになればいい)

 

(じょうほうたっぷり)

 

(みんなまってるよ)

 

うわぁ。すっごいにこやかな笑顔。

お前らこんないい笑顔するの、悪巧みするときくらいじゃないか。

もしかして今なんか企んでます?

 

ガッ!ガッ!ガッ!

 

痛い!みんなして蹴るんじゃありません!

疑ったのは悪かったから!ヤメテ!

 

初霜「……ふふっ。鯉住さん、提督になればいいのに」

 

鯉住「……へ?提督?俺が?……なんで?」

 

大将からは、ねちっこいくらい誘われてるけど、艦娘の皆さんに言われたのは初めてだ。

というか今の会話で提督らしいことなんて言ってないよ。

自分の案なんて無い知恵絞ってひねり出したものだし。

その案も大したことないもんだったし。

 

初春「昼にもそう言ったのにのう……聞こうとしないのじゃ……」

 

鯉住「ええ……あれって冗談じゃなかったんですか……?」

 

初春「ムゥ。失敬な。そんな大事なことを茶化して言ったりせん」

 

プンスカしている。かわいい。

……じゃなくて、あの提督候補とか言ってたの、マジだったんかい。

突拍子もなさ過ぎて聞き流してましたよ。

 

鯉住「いやぁ、提督なんて俺には荷が勝ってますよ。

とてもじゃないですが、できる気はしません。今の立場が精一杯ですよ」

 

若葉「……鯉住さん、謙遜も度が過ぎれば相手の心証を悪くするぞ」

 

子日「何でそんな卑屈になるの?子日心配だよぉ……」

 

鯉住「ええ!?全く、これっぽっちも、謙遜したり卑屈になったりしてないよ!?」

 

初春「な?この調子なんじゃよ。困ったもんじゃろ?」

 

初霜「うーん……鯉住さんには、ちゃんとわかっていてもらいたいわ……」

 

鯉住「ええ……何を……?」

 

うへぇ……

なんかみんなして、やれやれ、みたいな反応してらっしゃる……

俺の何をそんなに買ってくれてるかわかんないけど、

たぶん見込み違いだと思うよ……

 

初霜「ねぇ、鯉住さん。

あなたは私達艦娘にとっての理想の提督像にとっても近いんです。

私達、とっても大事にされてるんだなって感じられて、とても嬉しいの。

だから、自分が大したことないなんてこと、絶対言わないで下さい。

そんなこと言われたら、私たち、悲しくなっちゃうわ……」

 

ああ!いかん!しょんぼりしてる!泣きそう!

これ今日の昼頃にも食堂で見たぞ!

春風さんのアレ、演技じゃなくて本気だったんか!

ちょっと疑っちゃったよ!ゴメン!

 

鯉住「ご、ごめんよ……でも俺のどこが提督に向いてるか、さっぱりわからないんだよ」

 

子日「そんなの簡単だよ!鯉住さんは私達の事、ちゃんと見てくれてるもの!」

 

若葉「……ああ。子日姉さんの言う通りだ。

そして現状の問題を認識し、変える努力も見せてくれた。

これ以上私達が望むことなどないさ」

 

鯉住「ええと……そんなの当たり前でしょ?

誰かのために頑張ってる人を大事に思うのも、

今よくないところをはっきりさせて、それを直していこうとするのも」

 

どんなことをするにしても、それは当たり前だと思うんだけど……

 

……ん?なんだろう。初春さんがしょんぼりしながら服をクイクイしてくる。

かわいい……じゃなかった。

いつも元気な初春さんらしくないな。どうしたんだろ?

 

鯉住「……初春さん?どうしたんですか?」

 

初春「……のう、鯉住殿。

わらわたちを、その、だ、大事に思ってくれているのは、何故なんじゃ?

提督はさておき、他の衆はみなそこまで思っておらん。

税金を払ってるから戦うのは当然、だの

兵器として存在しているんだから深海棲艦を倒すのが役割、だの

そんなことを言う輩も多いのじゃ……」

 

鯉住「そんなこと言う人なんてほっとけばいいんです。

そういう人間に限って、口だけで動かないんだから。

……そっか。そういった声も、艦娘の皆さんの負担になっているんですね……」

 

初春「う……む。負担でないと言えば……嘘になるのう……」

 

うーん……これはいけない。

人間はいい面も悪い面も持っているし、

悪い面は自分と関係ないものに対して残酷なほど向けられる。

人間同士でもそうなんだから、立場が曖昧な艦娘の皆さんに対しては考えるまでもない。

 

それに艦娘の皆さんはとても善良な心を持っている。

そういった悪意に晒されるのは、俺が思う以上に負担なのかもしれないな。

 

こんな空気に、こんな話題に、もっていってしまった責任をとって、

なんとか前向きな考えをしてもらえる話をせねば。

 

そしたら……少し重いけど、あの話でもしようかな……

 

鯉住「俺はね。昔、ある艦娘の方に命を救われたんですよ」

 

初春「命を……」

 

鯉住「はい。皆さんももしかしたら参加したんでしょうか?

あの5年前の本土大襲撃……」

 

若葉「……ああ。若葉達は援護だったがな。ひどい戦いだった……」

 

鯉住「そう。大勢亡くなりました。俺の知り合いも何人かは……

 

……その時はまだ俺は大学生でした。

なんとなく入った機械科で、なんとなく船舶コースを選んだ、よくいる大学生でした」

 

子日「船舶……もしかして」

 

鯉住「はい。内湾で危険は少ないと言え、ちょうどその日は海で実習をしていたんです。

通常時なら全く問題はなかったんですが、運悪くその日は本土大襲撃が起こりました」

 

・・・

 

その時俺たちは初めて間近で深海棲艦を見ました。

目が合った瞬間、カラダは金縛りにあったみたいに動かなくなりましたよ。

あいつらの目からは、確かに怒りとか、憎しみみたいなものを感じました。

何としてもお前は許さない、ここで殺してやる、って。

 

俺は情けないですけど、その目を見て一歩も動けなくなりました。

あんなに強烈な感情をぶつけられたのは初めてだったんです。

 

体を動かそうにも動かせないでいると、

その大きな口から魚雷のようなものを、こちらに吐き出したんです。

その瞬間わかりました。ああ、ここまでだ、って。

 

……でもその魚雷は、俺たちの乗っていた船に到達する途中で、爆発しました。

魚雷が走っていた場所に、大きな水柱が上がったんです。

呆気に取られていると、声が聞こえました。

その声の先には、弓道の道着のような衣装をまとった女性が1人。

 

 

「私が来たからには、あなた達には指一本触れさせません。安心して」

 

 

その声を聴いて、その姿を見て、

石のように固くなっていたカラダが動くようになったんです。

心の底から安心できる何かが彼女にはありました。

周りを見ると、他の同期たちも同じ感情を持ったようでした。

 

そこからは本当にすごかった。

彼女は弓矢を無数の航空機に変え、空に飛ばしました。

魚雷を撃ってきたそいつだけじゃなく、

次々現れる深海棲艦を、たった一人で殲滅していったんです。

 

まるでモグラ叩き。

彼女は攻撃を加えようとした相手を、次から次へと爆散させました。

全く戦闘のことなど知らない俺でもわかるくらい、

航空機を指揮する姿は常識はずれなものでした。

その10本しかない両指で、何機の航空機を操っていたんでしょうか?

記憶が確かなら、航空機は70~80は飛んでいたと思います。

 

とんでもなく強烈な殺気を放つ、赤い目や黄色い目をした深海棲艦たちも、

彼女の前では全く歯が立たず、海の底に消えていきました。

今思い返しても信じられないんですが、

彼女はたった1人で、数十体の深海棲艦を殲滅したんです。

しかも俺たちの乗った船をかばいながら。

 

そして深海棲艦がいなくなった後、

怯える俺たちに向かってこう言ったんです。

 

 

「大丈夫ですよ。敵はもう居ません。安心してね」

 

 

その言葉と共に向けられた微笑みは、

5年経った今でも、まぶたを閉じればすぐそこに浮かんできます。

 

・・・

 

鯉住「その時に思ったんです。

俺たちはとても大きな憎しみから、

とても大きな優しさで守られているんだって。

 

だから決めました。

俺たちを守ってくれる艦娘の皆さんのために、

なんの目標もなく生きていたこの命を救ってくれた、あの人のために、

俺の人生を使おうって。

 

大学の残りの期間、必死で勉強して艤装メンテを身につけたのは、

そんなことがあったからです」

 

4人「……」

 

鯉住「だから皆さん、自分が誰かの劣化だなんて、絶対に思わないで下さい。

俺にとっては初春さんも、子日さんも、若葉さんも、初霜さんも、みんな同じなんです。

みんな尊敬できる素晴らしい人たちなんです。

 

誰が上で誰が下とかそういうことじゃないんです。

深海棲艦と戦うってことがどれほど怖いことか、俺にはわかります。

それを毎日やってくれているんだから、もっと自信を持ってください」

 

鯉住「……」

 

……だ、大丈夫かな?

結構重い話しちゃったぞ。これ。

小学生な皆さんにはヘビィ過ぎただろうか……?

いや、でも、自信つけてもらわないと、いたたまれなかったし……

妖精さん!そこんとこどうでしたか!?

 

グッ!

 

(((いいしごとした)))

 

サムズアップ!ありがとう!いい笑顔!

なんかすっげぇ久しぶりに、

キミたちに話ふってよかったって思えたよ!

 

初春「……うん。そうじゃのう。

駆逐艦といえど、いや、駆逐艦だからこそできることがある。

それを探さないといけないんじゃな」

 

鯉住「そうですよ!

皆さんが自信持ってくれないと、俺も艤装メンテし甲斐がないですからね!

一緒に頑張りましょう!」

 

若葉「……人に歴史あり、だな。すまなかった。恐怖の記憶を思い出させてしまって」

 

鯉住「全然気にしてないんで大丈夫大丈夫!

こんな話で皆さんに自信持ってもらえれば、安いものです!」

 

初霜「……ふふ。やっぱり鯉住さんは提督になるべきよ」

 

子日「そうだよぉ!子日も応援するから!がんばろ!」

 

鯉住「い、いやぁ……それは大丈夫かな、って……」

 

ガッ!ガッ!ガッ!

 

痛い!何で蹴るの!?キミたち!

さっきまでのいい笑顔はどこにいったんですか!?

 

初春「心配せずともよい。貴様が提督になったら、わらわもついていくから」

 

鯉住「……?」

 

ん……?この人今なんて言ったのかな?聞き間違い?

 

初春「何が心配か知らんが、わらわがついててやれば問題なかろう?」

 

鯉住「……ええと」

 

この子は一体何を言っているんでしょうか?

ここは呉第一鎮守府。呉の数ある鎮守府の中でも、トップに位置する大規模鎮守府。

そこにおわすはエリート艦娘ばかりのはずでは。

そのうちの1人、しかもネームシップが、

そんな簡単に口にしていいセリフではないような気がいたしますで候。

私の認識は間違っているのでしょうか?教えて偉い人。

 

(まちがってます)

 

(おとこのせきにんをとるのです)

 

(かくごきめてほらほら)

 

俺は偉い人に聞いたんだよぉ!競馬場のおっさんの意見は聞いてない!

 

鯉住「ま、まずいですよ。初春さん……ここの主力のひとりなんでしょう?」

 

初春「おや?一緒に頑張ろうと言ってくれたのは嘘だったのかのう?

あの提督ならそれくらい融通利かせてくれるじゃろうし、大丈夫じゃ」

 

鯉住「そ、それは技術屋としての台詞であって……」

 

初春「おお……一緒になろうというのは、口から出まかせだったのかの……?

わらわは弄ばれたということか……よよよ……」

 

初春さんは意味深なセリフと共に、しなしなと床に倒れ込む。

よく時代劇で見るあれだ。あの暴力夫に殴られて悲しむ奥さんがよくやるやつ。

袖で顔を隠すところを、センスで代用している。芸コマかよ。

メチャクチャ似合ってるけど、

私のSAN値がゴリゴリ削れるような物言いはどうにかしていただきたい。

 

(ていとくになったらふたりでしんてんちに)

 

(これが……かけおち)

 

(ひゅーっ!)

 

脳の容量がもう一杯なんで、突っ込みは入れませんよ。

頭のデータ整理しないと……なんとかこの場をしのぐ言葉を……

 

鯉住「えーと……あー……うー……」

 

ダメだ!アウトプット機関がイカれてやがる!

言葉が出てこねぇ!なんも言えねぇ!

 

子日「心配しなくていいよぉ!子日たちからも提督に言っとくから!」

 

若葉「……そうだな。鯉住さんなら初春姉さんを預けても安心だ」

 

初霜「鯉住さんのメンテが無くなっちゃうのは寂しいけど……お幸せに!」

 

鯉住「ヤメテ!外堀を埋めないで!門出を祝わないで!

まだ提督やるって決めたわけじゃないからぁ!!」

 

初春「まあそう恥ずかしがるでない。これから頑張っていこうぞ」

 

鯉住「お願いだから話を聞いて!」

 

 

軽い気持ちで臨んだ質疑応答タイムだったが、

無残にも提督への道をがっつり補強されてしまった鯉住くん!

彼の明日はどっちだ!




しがない技術屋としてささやかな幸せを享受していた鯉住の前に、
彼を提督にしようとたくらむ有象無象が待ち受ける!

果たして強烈な数々のアプローチを前にして、正気を保てるのか!?

次回「神風型には勝てなかったよ……」!

お楽しみに!

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